進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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104話 切り裂きケニー

いくら絶大な権力を持つ王政府といえど民衆の眼前で騒動を起こすわけがない。

彼らは民衆から兵士と税と物資を調達しなければ存続できないからだ。

なので調査兵団が次の舞台に選んだのは、トロスト区の北に位置する城塞都市エルミハ区。

貴族が多数暮らしているこの街で中央憲兵の捕縛作戦を実行しようとしていた。

 

 

「本当は悪天候の隙を突きたかったんですけどね」

「仕方ねぇさ、それだけはお天道様の気分次第だからな」

 

 

一番有効なのは、悪天候で悪路を馬車で走らせて崖から転落させる方法。

常人ならそのまま傍観するしかないが、立体機動ができる兵士ならこっそり拉致する事が可能だ。

しかし、その悪天候がやって来ないのであえて大きな街で活動を行う事にした。

 

 

「いいか、指定された場所に停車する馬車だけ監視すれば良い」

「中々止まりませんね、そろそろ日が暮れますよ」

「それが狙い目だ。完全に夜間だと逆に民衆に騒動を勘付かれると考えて避けるはずだ」

 

 

ペトラ・ラルとリヴァイ兵長は、大通りにやって来る馬車を監視している。

リーブス商会はエレンとクリスタを確保し、エルミハ区に所有する屋敷に閉じ込めたと報告した。

なので王都に護送する為に憲兵団か役人の馬車が必ず指定場所にやって来るはずであった。

 

 

「あいつら、ちゃんと掃除しているだろうな?」

「監視するのを優先しているのでやりきれてはいないかと…」

 

 

なお、監視している調査兵たちは屋根を掃除する清掃員に化けている。

帽子を被り口元を隠す為の三角巾を巻いて手袋とブーツを身に着ける清掃員は汚れを見逃さない。

監視と並行して清掃に手を抜いていないかチェックをしていた。

 

 

「それに煙突掃除ができませんので結局、どこか妥協しなければなりません」

 

 

ペトラは兵長の綺麗好きを肯定しているが、さすがにそこまでする必要が無いと思っている。

清掃活動に力を入れすぎて監視対象を見逃したとなればそれこそ本末転倒である。

 

 

「あいつら、デッキブラシの使い方がなってねぇ…」

 

 

リヴァイは、新しく配属した新兵の動きを見て清掃活動の特訓の必要性を理解する。

それを横で聴いてアハハ…とペトラは苦笑いするしかなかった。

 

 

「まあ、2時間も監視していれば気が緩んでもしょうがねぇか」

 

 

そもそも清掃員に化けているのは屋根の上で活動する建前である。

人間というのは、自分の知識と価値感で異常と判断する存在は断固孤絶する。

武装した兵士が屋根の上で潜伏していれば何事かと憲兵に通報してしまうだろう。

だが、清掃員が屋根の上で掃除をしていれば事前告知が無くても民衆は彼らを放置する。

常識の範囲内であれば、多少無茶をしてもいちいち関与しようとしないのだ。

 

 

「交代制で休憩時間の導入をするべきでした」

「そうだな、次回の活動から考慮しよう」

 

 

ペトラの意見に賛同したリヴァイは再び瓦を磨きながら大通りを見つめた。

 

 

『これで布陣は問題ないと思うが、一回再確認してみるか』

 

 

不本意ながらも清掃に手を抜く羽目になったリヴァイは気を紛らわせようと作戦内容を確認する。

 

 

『中央憲兵の捕縛はエルミハ区から出た後に実行する予定だったな』

 

 

まず、リーブス会長の案内の元、本物のエレンとヒストリアを役人か憲兵に回収させる。

次に王都に向かう奴らを追う為に嗜好品と物資を載せた荷馬車を出発させる。

王国は不思議なもので納期と納品には厳しいが、早期に過剰で納品しても文句は言われない。

それどころか、わざわざ憲兵や門衛がそれを促している節がある。

なのでその荷馬車には武装した調査兵団の兵士を潜ませて内地へと侵入!

城塞都市から離れた場所で奴らを確保する作戦である。

 

 

『わざわざこんな回りくどい作戦をする必要があるんですか?』

『良い質問だアルミン、まずは奴らにリーブス商会を信用させる必要がある』

 

 

本来なら内地に調査兵を派遣できればいいのだが、完全に信用されていないので無理であった。

しかも、兵士であっても内地に行くには通行許可証が必要である。

最近では、更に監視が厳しくなって自分の管轄外の場所に行くにも通行許可証が必要となった。

なので隣人の家に行くノリで1日に何度もカラネス区から飛び出すフローラは異常だった。

あまりにも城塞都市の出入りが多いので門衛が顔パスで手続きを黙認しているほどだ。

 

 

『つまりだ、信用している人物ならどんなに用心深い奴でも手を抜くってワケだ』

 

 

前日、リヴァイ兵長は作戦を疑問に思う兵士たちに説明をした。

城門前で荷馬車や手荷物のチェックは、信用度合いで大きく変化すると。

リーブス商会の規模になれば1日に何度も馬車を通行させるので手続きが簡略化される訳だ。

面白い事にフローラで例えると大体皆が納得するので彼女は反面教師と例題には最適であった。

 

 

『だが、それでも調査兵を警戒するのがあいつらだ。だから手を打たせてもらった』

 

 

エルミハ区で監視をする為に清掃員に化けて活動する計画は、王政府に提出している。

もちろん、憲兵を監視するのではなく民間人に化けた調査兵を警戒するという建前である。

事前に王都に滞在するエルヴィン団長に書簡を届ける名目で調査兵をこの街を通過させていた。

その影響で王政府は調査兵団が街に潜伏していると警戒し、商会の案を吞ませる事に成功した。

 

 

『もちろん、掃除は手を抜くなよ?事が終わったらカラネス区でもやるからな』

 

 

作戦を説明したリヴァイであったが、余計な一言でハンジを含む全員からブーイングが来た。

それはさておき、アドリブが利くハンジの部下を数名借りている。

彼らは武装しており、万が一に護衛や憲兵に気づかれた際に始末する役割がある。

清掃役になったエレンの同期には、1発の弾丸を装填した拳銃を全員に持たせた。

もっとも、自身の危機に迫った事態以外では発砲を禁じており、上官に頼れと通告済みである。

あくまで()()()()()()()()を相手にするのは、清掃員の上司の仕事だ。

 

 

『荷馬車には第一分隊の連中を載せてある。問題ないと思うが…』

 

 

なお、中央憲兵を確保するのは荷馬車の荷物に潜伏する調査兵団第一分隊である。

清掃員で活動する部隊は、彼らに報告をする事と文字通りに屋根の掃除をするのが仕事だ。

あくまでも新兵に荒仕事をさせる気はないリヴァイの配慮に彼らは納得してくれた。

それに感謝しつつも、捕縛作戦に失敗したら彼らを見捨てる以外の選択肢は無かった。

 

 

『オルオとニファが居れば新兵たちは大丈夫だろう。多分な』

 

 

104期南方訓練兵団出身者たちをまとめているのはオルオ・ボザドだ。

口は悪いし、老けて見えるのが欠点だが、誰よりも強くてリヴァイが背中を預ける存在である。

ニファは細かいフォローが上手いので突発的なトラブルの対処は彼女に任せた。

 

 

「ペトラ」

「兵長、何か異常がありましたか?」

「リーブス会長の確保が難しいと判断したら必ず作戦を中断しろ。良いな?」

「承知しております」

「ならいい」

 

 

リヴァイの傍に居るペトラ・ラルには重要な使命が課せられている。

それは、口封じの為に始末されるであろうリーブス会長を確保する事である。

 

 

「もう一度言うが、会長を確保するのはまず無理だろう」

「それでもやる価値はあります」

「本当はミケにやらせるべきだが……負傷兵を無理やり徴兵する訳にはいかねぇしな…」

 

 

その作戦で最適の人材であるミケ分隊長、百歩譲ってエルド・ジンはカラネス区で療養中だ。

そしてオルオは真面目過ぎて退き際を見抜けないと判断し、消去法で彼女に一任した。

それでもブルーノさんから大切な娘を預かっている以上、無茶な事はさせたくなかった。

 

 

「私などいつでも切り捨てても構いませんから」

「そうもいかねぇ。お前が死んだら誰がお前の父ちゃんに謝罪すると思ってるんだ?」

「申し訳ございません」

 

 

リヴァイにとって顔を知らない父親どころか一緒に居たはずの母親ですら碌な思い出がない。

その影響か、実際に家族に愛されている光景を見るのは、少しだけ興味深くて安心をする。

ああ、こいつは俺みたいに糞みたいな人生を送らなくて済むんだ…と思ってしまうのだ。

 

 

「なあ、“切り裂きケニー”を知っているか?」

「都で大暴れした憲兵殺しだと聴いた事があります」

「俺はそいつから生きていく術と戦術を学んだ…と言ったら信じるか?」

 

 

彼女の父親であるブルーノ・ラルの顔を思い浮かべたリヴァイは、懐かしい男を思い出す。

糞みたいな環境で餓死しそうだった自分を育て上げた癖にいつの間にか居なくなっていた男。

唯一肉親と思えた存在を考えてしまった彼は、部下にケニーとの関係を話した。

 

 

「信じますよ。彼のおかげで今の私たちが居るんですから」

「そう言ってくれるとありがたい」

「この戦術も彼の影響があるんですか?」

「そうだ、思えば奴の思考の影響が大きい。情けねぇ事だがまだ俺は奴を超えられてねぇ…」

 

 

ケニーによって仕組まれた短剣術と戦術はリヴァイにしっかりと受け継がれている。

そのおかげで地下街を生き抜く事ができたが…それでも彼を超えたとは思っていない。

 

 

「兵長、馬車が停車して乗組員が屋敷に侵入しました」

「リーブスの旦那は傍に居るか?」

「奥に停車した馬車に居ました」

「そうか、奴らが出発したら俺に代わって偵察を頼む」

 

 

感慨に浸っていたリヴァイは、ペトラの報告を聞いて目的を忘れていた事に恥じた。

戦場であったら気を取られたせいで戦死しかねない隙を見せたと実感している。

故にリーブス会長を救うのは自分ではなく別の人材がやるべきだと判断していたのだ。

 

 

『クソ、奴の事を考えちまうな…』

 

 

エレンとヒストリアが入った棺桶を馬車に詰め込む男たちの動きに無駄は無い。

腐り切った憲兵とは違う動きを見て奴の叩き込まれた戦術を思い出す。

目標を集団で尾けた時は…両斜め後方と見晴らしの良い高台を確保する。

そして目的が達成する瞬間は油断しがちなので絶対に周囲を見て警戒する事。

そう、こんな時こそ油断してはならない。

 

 

『ああ、こういう時こそ初心に帰るべきだ』

 

 

教え通りに振り向くと指定した屋根にケイジとアーベルが清掃員に化けて警戒している。

それを見て異常があれば彼らが気付くだろうと考えてしまった。

 

 

「ペトラ!避けろ!!」

 

 

が、後方で物音がした瞬間、リヴァイは叫んで近くにあった煙突の影に伏せた!

直後、銃声と共に煙突の先端が大きく破損し、破片の一部がリヴァイの顔を掠める。

 

 

「くっ!」

 

 

リヴァイとの連携で即座に声で反応できるペトラは間一髪に伏せる事で弾丸を回避する。

が、さすがに兵長より回避が遅れてせいで左肩に跳弾した散弾の破片が刺さった!

 

 

「何事…グボァ!?」

「…きゃあああああああああああああああああ!!」

 

 

銃声を聞いたハンジの部下たちは何事かと動き出す前に襲来した敵兵に撃たれた!

側頭部を撃たれたケイジ・ランドルフは頭が跡形もなく粉砕されてその勢いで路地裏に落下!

右胸部を撃たれたアーベル・オッペンハイマーは右上半身を消失し、大通りに落下した。

地面に転がったアーベルの死体を発見した主婦が金切り声で周囲に惨状を知らせる!

予めに王政府に居場所を伝えていたのが仇になった形となった。

 

 

「よぉリヴァイ!」

 

 

何より屋根下から最もこのタイミングで聴きたくなかった男の声が聴こえる。

ウエスタンハットを被った大男がさきほど発砲して用済みとなった銃身を捨てた。

ガン!と音を立ててリヴァイがせっせと磨いた屋根の上を転がって地面と落下する。

薬莢が地面に激突したと同時に大腿部に装着したカットリッジから銃身を交換、装填した。

 

 

「かわい子ちゃん侍らして羨ましい限りだぜ!」

「ケニー!!」

 

 

ケニー・アッカーマンは自分とは違って順応で可愛い子を侍らせているリヴァイに軽口を叩く。

がリヴァイからすれば、育て親に裏切られたどころか殺害しなければならない存在となった。

過去に例がないほど激高した彼は、操作装置を弄って刃のロックを外してに向かって投擲した!

 

 

「うぉ!あぶねぇな!!なんつって!!バンバン!!」

 

 

投擲された刃を銃で弾き返したケニーは嬉しそうに叫びながら双銃を同時に発砲した!!

その前にリヴァイたちは反対側の屋根に転がって銃弾を回避し、立体機動に移る!

敵の視界を少しでも遮る為に脱ぎ捨てた2つの外套と三角巾は風に乗ってどこかへ飛んでいった。

その様子をケニーは無言で見下ろすと思い出したかのように彼らの後を追う!

 

 

『クソ!!してやられた!!よりによって奴が何故!!』

 

 

いろんな感情がごちゃ混ぜになったリヴァイだが、まずやるべき事は負傷した部下の援護である。

 

 

「ペトラ、あいつらの射程範囲から逃げるぞ!!ついてこい!!」

「はい!!」

 

 

民間人に被害が出るとかそんな事を考えている暇はない。

むしろ、彼らの生活を破壊するどころか盾にして逃げ回る必要があった。

幸いにも散弾なので距離を取れば脅威ではないはずだった。

 

 

『なんだありゃ!?』

 

 

ところが、スコープ付き青白い狙撃銃を構えた敵を目撃したリヴァイは急いで路地裏に入る!

ペトラも入った瞬間、大きな衝撃と共に目の前の壁に大穴が空いて隣家の壁まで弾丸が貫通した!

 

 

「無事か!?」

「なんとか…」

「……明らかに対人用じゃねぇ!?なんだこの威力は…!!」

 

 

対巨人用の狙撃銃として開発されたRF-11 イェーガーは20mm口径弾を採用している。

その威力は民家の壁を複数貫通し、着弾から1mの範囲に居れば死傷すると思うくらいであった。

当然、調査兵団を仮想敵にする割には過剰な威力なのですぐさまリヴァイは違和感を覚えた。

 

 

「オイ!ドチビのネズミさんよ!【袋のネズミ】って言葉を俺は教えたつもりなんだがな!」

「【窮鼠猫を嚙む】って言葉も覚えたつもりなんだが?」

「一本取られたぜ!ちょこっと成長したその面、見せろよ」

「ふざけんじゃねえ!てめぇさっきから俺らに向かって散弾をぶっ放してきたじゃねぇか!」

 

 

だが、未知なる勢力に包囲されている以上、余計な思考をしている暇はない。

ただでさえ散弾が厄介なのに障害物に隠れても貫通する弾丸まで飛んでくるのだ。

ケニーが上官らしいので周囲を警戒しつつ会話で時間を稼ぐしかなかった。

 

 

「まぁな、今日はお前の脳みその色でも見てやろうかと来てやったぜ!」

「まだ生きているとは思わなかったが、あんたが憲兵になっているとは…」

「ガキには大人の事情なんか分かんねぇもんさ。遺言はそれで終わりか?」

 

 

大声で会話している間にリヴァイはペトラに合図をする。

幸いにも他に銃声はしていないのでエレンの同期たちは無事の様だ。

ならば、やるべき事はできるだけこいつら相手に時間を稼いで友軍の到着を待つ事。

この街には調査兵団の第一分隊が潜伏しているので数分間、耐えれば戦況が変わるだろう。

 

 

「今だ!」

 

 

リヴァイは路地裏にあったゴミ箱を大通りに向かって放り投げた!

すぐさまゴミ箱が粉砕されたと同時に彼は駆けた!

ゴミ箱の破裂具合からどこから発砲されたか見抜いた彼は敵に肉薄で接近戦を仕掛けたのだ。

 

 

「いねぇ…!!しまった!!」

 

 

ところがいざ、飛び出してみればどこにも包囲している敵兵が居なかった。

その意図を見抜いたリヴァイは立体機動で再び路地裏に侵入したと同時に!

爆炎と共に大爆発が大通りに響いた!

 

 

「クソッタレ!!あいつらを狙いにいきやがった!!すぐさま援護に向かうぞ!!」

 

 

リヴァイは新兵を敵が狙いに行ったと勘違いしたが、実際は違う。

ケニーも会話でリヴァイを釘付けにしている間に部下たちの退却を急がせていた。

そもそもユトピア区防衛戦でこっそりリヴァイと共闘した彼は真面目に戦闘をする気はなかった。

下手に相手にすると部下を失うと分かっていたのでケニーもまた時間を稼いでいたのだ。

 

 

「いいか、裏切ったリーブスの旦那と目的の2人が回収できればそれでいい」

「いいんですか?このまま放置すれば調査兵団が我々の前に立ち塞がりますよ?」

「大丈夫だ、自分の置かれた状況を理解してないネズミ共は()()()()が片付けてくれるさぁ!」

 

 

副長のカーフェンの疑問に対してケニーは調査兵団を相手をするつもりはないと明言する。

王政府を転覆させようと試みる反乱勢力になった奴らならどの勢力とでも敵対するのだ。

わざわざ殺し合いして貴重な部下を死なせる必要などなかった。

 

 

「ペトラ!あいつらを逃がすな!」

「ここで仕留めます」

 

 

そんな事情など知らないリヴァイとペトラは必死に敵を捜索する!

左肩を負傷しつつも痛みに耐えるペトラは敵対する人物を殺害する気満々であった。

そうしないと可愛い後輩たちが始末される以上、そうするしかない!

リヴァイも同意見だが、何故か自分たちを追撃してこない敵に疑問を抱えていた。

 

 

『なんだ?騒動を起こした割りには詰めが甘ぇな?なんかあるのか…?』

 

 

このエルミハ区で王政府が大きな行動を取らないであろうと作戦を立てた結果、失敗した。

まさか新型装備を民衆にお披露目して調査兵を射殺してくるとは想像できるわけがなかった。

だが、極秘に創設された特殊部隊をこんなお粗末な動き方をさせる意図も分からない。

 

 

「居た!!」

 

 

小型銃らしき物を両手で装備している敵が煙突に隠れるように待機していた。

ペトラの発言と共にリヴァイは加速して敵の喉笛を掻き斬ろうと試みる!

 

 

「兵長!」

「チッ!」

 

 

だが、ペトラの声を聴いて彼は機動を修正したすぐ後に何かが勢いよく飛んできた。

それは民家の壁に激突して大きく広がったまま地面に落下した。

 

 

『あれはハンジの巨人捕獲網!?なんでこいつらが持ってる!?』

 

 

飛んできたのは、巨人捕獲用に開発された頑丈で大きな網であった。

樽の様な専用の捕獲銃から凄い勢いで網が飛んでくるのだが、敵が持っている理由が分からない。

それでもアンカーを高速で操作し、当初とは7秒ズレる形で敵の首を狙った!

 

 

「!?」

 

 

いざ、双剣でぶった切ろうとすると敵が自分に向かって棒らしき物体を投擲してきた。

火炎瓶か、手投げ爆弾と判断したリヴァイは攻撃を中断し、射線の死角へと落下した。

その直後、音響弾に匹敵する爆音が空気を振るわせてエルミハ区全体に響かせる!

爆音の直撃を喰らったリヴァイは一時的に動けなくなったが状況は悪化していた。

 

 

「撃て!!」

「「ハッ!!」」

 

 

予め別の場所に忍ばせたヘビーカノンを装備していた砲撃班が敵の居場所に照準を合わせていた。

スキンヘッドがトレードマークのグランツの号令により青色の砲から砲弾を撃ち込む!

砲弾の中に仕込んである巨人の結晶体の破片が着弾による大爆発で周囲に高速で飛散した!

 

 

「土管がドッカンってな!!」

「馬鹿言ってないで退却しますよ」

「冗談はツルツル頭だけにしろよ」

「…一応、渾身のギャグのつもりだったんだがな…」

 

 

グランツがヘビーカノンの砲塔が土管にそっくりなので渾身のギャグを放つが…。

あまりにも寒い親父ギャグのせいで砲兵たちに馬鹿にされるだけで終わった。

少しだけしょんぼりしたグランツはリヴァイの遺体を確認する事も無く全力で戦線を離脱した。

 

 

「兵長、ご無事ですか!?」

「ああ、敵戦力を侮り過ぎた…」

 

 

死体を確認せずに撤退するのは特殊部隊として最低だが、今回は最適の行動であった。

お陰様でリヴァイは全てを先読みされていると勘違いして敵を深追いする事ができなかった。

 

 

「なんじゃありゃ!?」

 

 

屋根から落ちた汚れをモップで集めていたコニー・スプリンガーは異様な光景を目撃した。

明らかに対人用の装備をした人物たちが立体機動で裏門に向かっていった。

さきほどの連発した銃声といい、作戦に支障が出たのは明白である。

 

 

「何をしている!!早く民家に身を隠せ!!」

 

 

呆けている彼をベテラン兵士が無理やり路地へと連れて行く。

既に商会の末端や同期たちが不安そうにジャンを、いや道路を見つめていた。

 

 

「作戦は失敗した!退却する準備をしておけ!」

「急げダイムラー!兵長たちが敵に包囲される前にな!!」

「了解!」

 

 

調査兵団第一分隊の兵士たちは肉汁や果汁を滴らして大急ぎで騒動の渦中に向かっていく。

本来なら新兵や兵長たちを見捨てるべきであったが、彼らは救援を優先した。

残された新兵たちは外套の懐から拳銃を取り出して安全装置を外す羽目になった。

先輩たちが居なくなった以上、自分の身は自分で守るしかできないのだ。

 

 

「なあ、何があったんだ!?」

「オレだって聴きてェよ!先輩たちから発砲許可が下りたが殺人する気は俺はねぇぞ!」

 

 

コニーの疑問に返答したのは銃を震わせているジャン・キルシュタインである。

彼は巨人と闘う事は決意したが、唐突に殺人をする機会が訪れたという事で混乱していた。

 

 

「静かに…」

「ミカサの言う通りだよ。まず清掃員の服装を脱ごうよ」

 

 

エレンを助ける為なら何でもできるミカサはまたしてもエレンが攫われたのを理解している。

本当は助けに行きたいが、独断で動いたせいで自分を庇って兵長を負傷させた負い目がある。

アルミンは彼女の意図を察して同期たちに攻撃目標と化したコスプレを脱ぐべきだと提言した。

 

 

「話が違うぞ!あいつらは街で騒動を起こさないんじゃなかったのか!?」

「王政府も本気って事だろ」

「静かにしてください。いつここが見つかってもおかしくありませんよ」

 

 

ジャンだって作戦とは違う結果に困惑して誰かに八つ当たりしたかった。

その様子を見たコニーは逆に冷静になって理由を自分なりに考えた。

しかし、狩人の本能で耳を傾けていたサシャからすると会話は邪魔でしかない。

珍しく彼らを叱責し、先輩からもらったライフル銃の銃口に銃弾を押し込んでいた。

 

 

「よし、お前ら!これから移動するが問題は無いか?」

「「「「ありません」」」」

 

 

そんな調査兵団の新兵たちを指揮するのはオルオである。

ニファが居るとはいえ新兵を動かす事ができるのは彼だけだった。

 

 

「俺らが達成するべき目的は1つ!壁の外に脱出して全員が生還する事だ!」

 

 

さすがにこのタイミングで舌を噛みたくないオルオは目的を一言で表した。

既に調査兵団の存続が厳しくなった以上、内地に向けて移動するしかなかったのだ。

それは危険を伴うが、兵長に任された仕事である以上、必ずやり遂げるつもりである。

 

 

-----

 

 

「うわあああああ!?」

「どうしたんですか隊長?ついに死んだんですか?」

 

 

調査兵団が対人立体機動部隊と接敵し、震撼している頃、突然ケニーが叫び出した。

なのでついに隊長がくたばったのかとカーフェンは彼に向かって冗談を言う。

 

 

「馬鹿野郎!死人がどうやって返事をするってんだよ」

「間抜けみたいな悲鳴をあげてたので調査兵に狙撃されたのかと思いまして…」

「ひでぇ!なんで俺様の部下はこんなに薄情なんだ!」

「馬鹿言ってないで何があったか簡潔に報告して頂けませんか?」

 

 

鉄仮面という異名をもつカーフェンは隊長の愚痴など気にしていない。

それより悲鳴をあげた原因を知りたかった故に更に冷酷に発言した。

 

 

「見ろ!俺様の操作装置が壊れちまった!!」

「何をやらかしたんです?」

「飛んできた刃を銃で弾き返してやっただけだ」

「馬鹿ですね」

「ひでぇ言われようだ!!」

 

 

対人立体機動装置の操作装置が壊れたという事なので原因を訊いた。

すると当たり前の様に雑に使って壊したという自業自得の返答を受けて本音を告げた。

グサッと彼女の発した言葉がケニーの胸部に突き刺さって彼は苦し紛れに泣くふりをした。

 

 

「最新鋭の『二式機構・改』をさっそくぶっ壊すなんて馬鹿以外に何があるんです?」

「まさかそんな簡単に壊れると思っていなかったんだよ!!」

「予備の在庫はありませんのでそのまま死ぬまで装備しててください」

 

 

中央第一憲兵団対人立体機動部隊は、装備の更新をしたばかりで予備品が存在しない。

厳密に言うと王都に保管しているのだが、取りに行く暇などなかった。

緊急出撃した以上、限られた物資と弾薬で事が済むまで調査兵団を相手にしないといけないのだ。

 

 

「おいそこのでぶっち!この俺様が身に着けていた装備を交換してやるからこっちに来い!」

 

 

だからといってリヴァイと対等に戦えるのは自分だけだと自負している。

なのでおちょこちょいの部下を指名して装備の交換を促した。

なお、指名された部下は勘弁してくれと言わんばかりに手を振って拒絶している。

 

 

「というか、旧式装備すらないっていつから俺達はこんな貧乏になっちまったんだ?」

()()()()()()()()を遵守した結果なのは隊長が一番理解しているでしょうに…」

 

 

初めて対人立体機動部隊が運用されたのは、第58回壁外調査の作戦後であった。

あの時は、一式銃、一式弾帯、一式機構という装備で統一されておりフローラ暗殺で使用した。

結果は失敗したものの射撃に関する欠点やガス欠、運用の問題が露見した。

それにより装備の更新と運用を変更したが、旧式装備でも充分対人では活躍できるはずだった。

しかし、現時点で彼らは旧式装備を所有していない。

 

 

「やっぱりあの嬢ちゃんのやり取りはまずかったか?」

「それでもないみたいですね。少なくとも我々に死者が出ていないのは彼女のおかげです」

「まあな、ぶっつけ本番で運用していたら犠牲者多数だっただろう」

 

 

リヴァイですら散弾をぶっ放したら憤慨していたのにフローラはめっちゃ嬉しがる有様だった。

というか、わざわざ装備の性能を見る為に巨人の住処に連れて行くほどヤバい奴であった。

フローラ暗殺未遂に関与したケニーとカーフェンとグランツは良く生き残ったものだと…。

今でも考えてしまうほど彼女は、自分が襲撃されるより新型装備を知ろうとしていた。

 

 

「以前の隊長の指揮だったらそうなってたと思います」

「歯に衣着せぬ正論を吐くのはいいが、もうちょっと隊長に敬意を払えよ!」

「フローラか隊長か、どっちの指揮に入るかと訊かれたらフローラを選択しますね」

「いくらあいつの貢献がデカいからってそりゃあねぇよ!?」

 

 

今回の作戦もフローラが提供した情報と技術が活用されている。

彼女が残した置き土産が調査兵団に猛威を振るう事になったのは皮肉でしかないが。

 

 

「これからどうしましょうか?」

「レイス領に向かってロッドの旦那におべっかでもするか」

()()彼らに従うおつもりですか?」

「時が来たら呼んでやるから待ってろ」

 

 

ケニー・アッカーマンは王政府の意図に反して自分の夢があった。

対人立体機動部隊は彼の夢に賛同した同志たち。

絶対に自分の夢を見せてやるまで彼らを利用するつもりだ。

 

 

「それにリヴァイと決着をつけなくちゃな」

 

 

リヴァイを中途半端に育てた者としてケジメを付ける事が必要になってしまった。

合間見る事を予想するケニーは今度こそ育てたガキを切り捨てようと考えた。

脳裏に浮かぶのは、ガリガリにやせて腹部が膨れつつあった生意気な餓死未遂のクソガキ。

勝手に育てておきながら利己的に殺そうとする自分は人の親になれないと自覚する。

酒でも飲んでなきゃやってられないこの残酷な世界は、まだ犠牲者を欲しているのだ。

 

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