進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
憎悪を駆り立てるのは必ず生者の仕業だ。
そして憎しみを焚きつける方法は、生贄の犠牲が最も効率が良い。
ニファとミタビ班長の犠牲によって血で血を洗う惨劇が幕を開ける。
何故こうなったのか説明できる者はこの場に存在しない。
ただ1つ言えるとするならば、どちらかが全滅するまで惨劇が止まらないという事だ。
「よくもミタビ班長を!!」
「反乱因子を殲滅しろ!!」
王政の掌で踊っている事に気付かない精鋭部隊は調査兵団の兵士に向けて銃撃を開始した。
直前まで気を抜いていたせいで命中精度が悪くて誰も弾丸に被弾しなかった。
しかし、説得不可能に陥ったのは調査兵の誰もが理解した。
「こんなはずじゃ!!どうして!?」
アルミン・アルレルトは未だに交渉が決裂したのが信じられなかった。
フローラの手筈で駐屯兵団第一師団精鋭部隊はエレンを奪還してくれる味方になるはずだった。
ところが、何者かの銃撃によって完全に敵対してしまい混乱に陥っていた。
「馬鹿野郎!!突っ立てるな!!ここは戦場だぞ!?」
そんなアルミンの腕を引っ張ってダイムラーは近くの民家に身を潜めた。
「いいか!!お前は敵兵と出会ったら両手を挙げて投降しろ」
「でも…」
「新兵なら許してくれるはずだ!!いいから黙って隠れてろ!!」
呆然とする新兵を叱責したダイムラーは敵兵を殺す為に外へと飛び出した。
アルミンは、銃弾が装填された拳銃を取り出して自分が何をするべきか考えた。
「他に新兵は…」
ダイムラーは新兵を安全な場所に誘導しようと試みる。
土地勘はあるので同僚が交戦している隙に新兵を離脱させようとしていた。
「む!?」
金属音が落下する音が聴こえて双剣を構えて壁の角から少しだけ顔を出した。
そこには、誰もおらず鋼貨がコロコロ地面に転がっているだけであった。
「ぐぼっ!?」
背後から迫ってきた精鋭兵に首を掻っ切られて彼は苦しみながら地面に伏せる。
それでも足掻こうとするが後頭部を銃撃されて意識が薄れた。
「…ホークマン、相手を苦しませるな!」
「フローラを無駄死にさせたこいつらに慈悲を与えるべきではないと判断しました」
「今の問題発言は黙認してやる。だが、次はないぞ」
「承知しました」
調査兵の返り血を意気揚々と浴びるホークマンは上官の命を受けて殺人をした。
しかし、相手を苦しませて殺せとは命じていない上官から叱責の言葉を受けた。
口では反省しているようだが、彼は調査兵が苦しんで死ぬのを心より望んでいる。
それこそがフローラの死に報いれると本気で信じるほどに心が壊れていたのだ。
「きついなァ!!」
一瞬で抜剣し、死角となる民家の柱の影に隠れたリヴァイは自分の迂闊さを後悔した。
目的が達成する瞬間は絶対に警戒しろというケニーの教えを疎かにした結果こうなった。
やるべき事は精鋭部隊を殲滅するしか仲間や部下を守る方法が無い。
幸いにも補給拠点の前なので敵を全滅させても装備が枯渇する心配はない。
『打って出る…!?』
いざ出撃しようと壁から顔を出すとあり得ない光景を目撃してしまった。
「ハンジ!!逃げろ!!」
「ええっ!?」
隣の柱に隠れていたハンジに警告し、一目散に立体機動に移る!
何事かとハンジが柱から飛び出した瞬間、散弾の嵐が柱を粉砕し、屋根が崩落した!
「何がどうなってる!?」
リコ班長率いる精鋭部隊が対人立体機動装置を装備して散弾銃の銃口をこちらに向けていたのだ。
幸いにもケニーの装備していた散弾銃と違って旧式なので速度も精度も威力も控えめであった。
だが何故、精鋭部隊が対人装備をしているのかさっぱり分からない。
「いいか!リヴァイには接近戦を仕掛けるな!フォーマンセルでお互いをカバーしろ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
操作装置を外して新品の銃身と交換したリコ班長は班員たちに作戦を伝令する。
フローラから提供された対人立体機動装置の経験が浅い以上、深追いを避けたのだ。
「野郎!!うぇあ!?」
1人の調査兵がニファの仇を取ろうと精鋭兵の背後から飛び掛かった!
だが、横から飛んできた巨人捕獲網に絡まって煉瓦の壁に激突した。
「えぇ!?」
すぐさまハンジは第一分隊の隊員の救出する為に走り出す。
精鋭部隊が巨人捕獲銃と捕獲網を所持している理由など考えている暇が無かった。
別の兵士も窮地に気付いてハンジの前を走っていたが突然足を抱えて転倒した!
「いっ!?」
何事かと再び民家の壁に寄って転倒した調査兵の付近を確認した原因を特定した。
「撒きビシか!!」
逃走経路を予想し、事前に精鋭部隊が尖った金属片を地面に散布していたのだ。
おそらくユトピア区壁外でばら撒かれた結晶の破片を見て思いついたのだろう。
立体機動でガスを消費させた上で伏兵が散弾をぶっ放して叩き落す二段構えだったと判断。
地面に転がる調査兵に飛んでくる複数の火炎瓶を見なかった事にしてハンジは逃げ出した。
「撃てぇ!?」
「ぐえ」
「ごっぷ」
が、退路には既にライフル銃を構えた3名の兵士が居た。
出会い頭の不意打ちを喰らってハンジは回避できなかったが、銃弾は飛んでこなかった。
リヴァイ兵長が1人残らず切り伏せて窮地を救ったのだ。
「策は!?」
「あるわけないだろ!」
そもそも駐屯兵団第一師団精鋭部隊と交戦するはずではなかった。
あと少しで強力な味方になるはずがこうやって殺し合いになってしまった。
ならば、それを起こした元凶を捕らえない限り、何度でも悲劇は繰り返す。
「お前は、変装していた中央憲兵を追え!」
「リヴァイは!?」
「殲滅するに決まってるだろ!」
至る所で銃撃と剣戟の音が発生しており、近隣の住民たちが悲鳴をあげている。
補給拠点には何名かの調査兵が立て籠もったらしくすぐに救援に向かわないといけなかった。
なので暗躍する中央憲兵に関しては、ハンジに任せるしかなかった。
「ぎゃ!」
「あ!?」
会話を繰り広げるリヴァイたちを襲撃した兵士たちはペトラとオルオに討伐された。
憔悴しきった表情から殺人をしたのは初めてではないだろう。
「兵長、駐屯兵団の増援を確認しました!少なくとも3個分隊規模です」
「作戦撤回、精鋭部隊の兵士を数名討伐したら散開しろ!このままじゃ包囲される」
敵増援が到着したところでこの乱戦で敵味方を区別するのは難しい。
なので精鋭兵をある程度に撃破したら退避するしか道が無かった。
既にハンジを逃がしたが、その分相手をしないといけない相手が増える!
「お前らは対人立体機動班を討伐しろ」
「「ハッ!」」
せっかくの地の利も制空権を確保している対人機動部隊が居ては身動きが取れない。
リヴァイが囮になっている内にペトラとオルオが掃討するしかなかった。
「…にしても」
さきほどから殺した兵士は短剣型の立体機動装置を身に着けていた。
この型には見覚えがある。
第57回壁外調査でフローラが持ち込んだ装備そのものだった。
巨大樹の森の中で女型の巨人の肉体を短剣で切り取っていた光景は忘れられない。
ライフル銃の弾をしまうホルダーなど微妙な差があるが同一品と言っても過言ではない。
なんで巨人が相手ではないのにこの装備をしているのか…。
「ぐあ!」
「…やられた」
調査兵団はフローラを除いて短剣型の立体機動装置を実戦で身に着けた事が無い。
なのでこの場に居るノーマル装備の兵士は全員が調査兵という事になる。
増援のフリをして退却しようとした調査兵が射殺されたのを見てリヴァイは理解してしまった。
「奴だ!リヴァイが居たぞ!!」
「エルヴィンの子飼が!!」
「反逆者を仕留めろ!!」
駐屯兵団第一師団精鋭部隊隷下第12分隊、総勢24名の騎兵がリヴァイに向かって抜剣し、突撃!
その背後には、同じく精鋭部隊の配下である第9分隊に所属する16名が銃口を構えていた。
知る由もないが、よりによってフローラと巨人掃討で共闘した部隊が兵長と交戦する事となる。
本来であれば味方であるが敵になった以上、やるべき事は1つだ。
「死にたい奴だけがかかって来い!!」
こんな兵力を見逃せるはずもなく有名人であるリヴァイ兵長は彼らの相手をするしかない!
ただでさえユトピア区防衛戦で2千人以上の戦死者が出たのに更に犠牲者を増やす羽目になった。
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「ああ…」
ジャン・キルシュタインは必死に両手で両耳を抑えていた。
銃撃と剣戟の音が近づく度にブルブルと震えて縮こまっていた。
「うぁああああああっ!?」
誰かが死んだ!
調査兵なのか同期なのか駐屯兵なのか分からない。
ただひたすらにこの悪夢が終わって欲しいと願っていた。
「うっ!?」
バンとドアを蹴り飛ばす音がした!
バタバタと床を走り回り何かを空ける音がする!
何かを探している様で何かが割れたり引っぺがす音が鳴り響く!
「オレは新兵だ!!撃たないでくれ!!」
ジャンが隠れていたクロゼットの戸が開けられた瞬間、彼は命乞いをした。
戸を開けた駐屯兵は、少しだけ驚いた顔をしたがすぐさま拳銃を構えた!
「反逆者に加担する者は同罪だ!死んで詫びろ!!」
「うわああああああ!?」
しかし、命乞いは無駄に終わり女兵士の罵倒と共に発砲音がした!
その瞬間、ジャンは瞼を閉じて悲鳴を出す事しかできなかった。
「…?」
いつまで経っても痛みが来ずに瞼を空けると女兵士が倒れていた。
後頭部が銃撃されたようで傷口から脳髄と血が噴出していた。
そして更に視線を上に上げていくと…。
過呼吸になりながらも両手で拳銃を構えたアルミンが居た。
「ハァハァハァハァ…!」
「ア、アルミン、撃ったのか…?」
「撃っちゃった…」
アルミンは偶然にもジャンが隠れた民家に女兵士が入る瞬間を目撃した。
少しだけチビるほど怖かったが、同期を守る為に拳銃を構えて彼女を追ったのだ。
本当は後ろから銃口を突き付ける予定だったが、切迫する状況を見て引き金を引いた。
数秒遅れていれば撃たれたのはジャンの方だったからその選択は正しいはずだ。
「クソ…なんでぇ」
ガタガタと震えるアルミンを見てジャンはジャケットの懐から拳銃を取り出した。
生き残るなら撃つしかないという現状に震えながらも新手に備えるしかなかった。
「アルミン」
「ミカサ!」
「主力が兵長に向かった。今なら西に逃げれば脱出できる」
補給拠点の民家の前では籠城した調査兵と精鋭兵が激戦を繰り広げている。
そして顔が割れている兵長に主力の大半が割かれたようで退路を発見した。
サシャとコニーを連れたミカサはアルミンたちに一緒に逃げようと呼びかけた。
『本当に?』
精鋭部隊が退路を作るほど包囲を疎かにするだろうか。
だけど、このまま時間が経てば今度こそ大軍に囲まれてしまう。
判断に迷ったアルミンだが、戦力を集中するべきと判断して彼女の案に乗った。
「アルミン、ジャン!馬に乗れ!」
「どっから引っ張ってきたの?」
「先輩たちが命懸けで敵兵の馬を連れてきた」
コニーに疑問をぶつけたアルミンは、手綱とタテガミを掴んで鐙に足を乗せる。
そのまま鞍の後橋を掴んで鞘とガスボンベが馬に当たらない様に騎乗するが…。
「俺が援護する。お前らは先に行くんだ!」
「「「はい!」」」
視界の先で民家の裏から飛び出した兵士を見て一同に衝撃が奔る。
が、先輩だったので全員が騎乗したのを確認して馬を走らせた。
『どうすればよかったんだ…』
アルミンは建物同士の隙間を駆けながら必死にこうなった原因を考えていた。
何か致命的なミスをして精鋭部隊と交戦する事になってしまった。
トロスト区の水門でも似た様な事があったが、あの時は難を逃れたのに…。
『ピクシス司令が居なかったから?それともフローラが居ないせい?』
あの時は小鹿と称された隊長をピクシス司令が止めてくたおかげで助かったのか。
それでも砲撃は受けたので誰かが駐屯兵を殺害したのがまずかったのか。
調査兵団と精鋭部隊を繋げてくれたフローラを見捨てたせいでこうなったのか。
どんなに考えても答えが出る事が無かった。
「動くな!!」
だが、その答えを考える必要が無くなった。
キッツ隊長率いる部隊が自分たちに向けて銃口を向けていたのだ。
「この…!!」
先輩は立体機動で敵を翻弄とするが、同じく立体起動した精鋭に撃ち落された!
トロスト区でフローラとミカサに立体機動で翻弄されて取り逃した過去により彼らは訓練をした。
敵対する巨人化能力者が兵士に化けて立体機動した事実も踏まえて弱点を無くそうとしたのだ。
そして1個班ではあるが、立体起動しながら偏差射撃で兵士を撃ち殺す技能を獲得していた。
「キッツ隊長…」
アルミンたちは落下する調査兵が地面と激突し、痙攣する姿を見届けるしかなかった。
少しでも動こうとすれば発砲されるだろうし、そもそも本来なら撃たれているはずだ。
「貴様らには反逆者には相応の罰を与えなければならない!だが…」
キッツ隊長は部下の提言を受けて調査兵団の新兵にチャンスを与える事にした。
「新兵は調査兵団に無理やり徴用されたとし、ここで投降すれば事が過ぎるまで保護してやろう」
それはアルミンたちにとって悪魔が耳元で囁いてくる魅力的な提案であった。
「ミカサ!俺を覚えているか?トロスト区で共闘したイアン・ディートリッヒだ!」
「はい、覚えています」
彼らの助命嘆願をしたのは、精鋭部隊の班長、イアン・ディートリッヒである。
「ミカサ、君ほどの逸材がここで死ぬのは惜しい…。それに君たちもここで死ぬべきではない」
トロスト区の門に空いた穴を塞ぐのにエレンが巨人化して岩で塞ぐ案を妄信的に信じた男だ。
精鋭班よりも俊敏な動きをした訓練兵団の主席だったミカサを死なせるのは惜しいと判断した。
それにアルミンも生き残れば、きっと人類の役に立つ人材になると信じている。
「無理です…私はエレンを助ける為にここで足止めされる気はありません」
「エレンを守りたいのは俺たちも同じだ。ここは俺らを信じてくれないか?」
「2日前にエレンが攫われた!早く助けないといけない!!」
「ああ、そうだな。気持ちは分かるよ」
調査兵団の幹部はどう足掻いても銃殺刑は免れないが、新兵ならまだ助かる。
いや、助けてみせると彼はミカサの瞳を見て優しく諭すように話しかけていた。
「では、何故撃ったんです!僕たちは話し合いをしようとしたのに!」
それに納得できないのはアルミンである。
明らかに敵に嵌められたと分かっているのに攻撃してきた精鋭部隊に納得ができなかった。
「なるほど、君らの言いたい事は分かる。では何故、我々にそれを相談しなかった!?」
「え?」
「エレンが攫われたと我々に相談してくれれば、すぐに捜索隊を出した!」
「それは結果論です!!僕たちは王政府から狙われているんですよ!!」
駐屯兵団第一師団精鋭部隊も調査兵団の行動に納得していない。
まず、調査兵団がエレンを誘拐されたと王政府や駐屯兵団に報告するべきであったのだ。
少なくともトロスト区に拠点を置く精鋭部隊はそれを無視することは無かった。
それに…。
「王政からの指名手配は今日からだ!すぐに我々に報告すれば邪険に扱うわけないだろう!」
「でも…」
「何故相談しなかった!!エレンと共闘した俺たちがそんなに信じられなかったのか!?」
王政府が敵だと認識していた調査兵団は、自分たちだけで事態の解決を図った。
そのせいで何も事情を知らない駐屯兵団は、王政府の通達を真面目に受け取った。
調査兵団が全方位に攻撃を受けているのは、自業自得であったのだ。
「隊長、報告申し上げます。補給拠点の制圧が完了しました」
「報告御苦労、…聴いたか?お前たちは詰んでいるのだ!」
その会話の最中に補給拠点で立て籠もっていた調査兵団の部隊が全滅したと報が入る。
わざわざそれをキッツ隊長がアルミンたちに聴かせたという事は…。
「10秒以内に武装解除し、投降せよ!!さもなければ大罪人としてここで処刑する!!」
「お願いだ!!我々を信じてくれ!!ここで死んだら君たちの同期の犠牲は何だったんだ!?」
トロスト区奪還作戦は、巨人化したエレンが岩で穴を塞ぐものであった。
その為に精鋭部隊を筆頭とする駐屯兵、104期南方訓練兵の犠牲があって達成した。
当事者同士だからこそイアンは、アルミンたちだけでも助命できないかと提言したのだ。
キッツ隊長も思うところがあったのか、殺気立つ部下を宥めて最大限の譲歩をした。
そしてそれを選択するのは、調査兵団の新兵たちである。
「なあ…」
「ああ…」
「えぇ、そうですね」
ジャン・キルシュタインは横に居るコニー・スプリンガーと向き合って声をかけた。
いくらミカサやコニーが納得できなくても、命が惜しい者たちが説得すれば話は変わる。
サシャも頷いて弓を握る力を強めた。
「最終通告をする!貴様らはどうする?投降するか殺し合いをするのか!?」
「僕たちは…」
キッツ隊長の問いに対してアルミンは返答をする。
「僕たちは調査兵団を攻撃した精鋭部隊を信じられません!!投降はしません」
それと同時に104期調査兵たちは周囲の民家に向かって走り出した。
ミカサだけは抜剣し、飛び交う銃弾の雨を潜り抜けてキッツ隊長に突撃した!
煌めく刃を受け止めたのは、イアン・ディートリッヒである。
「残念だ!せめてトロスト区の恩人として綺麗なまま死んでくれ!」
短剣で切り上げて刃を弾き返したイアンはそのままミカサの首を狙う!
それをバックステップで回避したミカサは再び双剣を彼の顔に叩きつけようと試みる!
が、背後から短剣が飛んできて彼女の背中を掠めて動きが一瞬、鈍ってしまった!
その隙に足払いをして転倒させてイアンは立ち上がろうとする彼女の額に刃を向けた!
「じゃあな!?」
少しだけ躊躇ったせいで弓矢が右肩を貫いて彼は後退りをした。
すぐさまミカサが双剣を切り上げるが、左手で持った刃1本で受け流して首を狙う!
イアン班長を慕う班員たちは矢を飛ばしてきたサシャに狙いを付ける!
「ジャン、コニー!援護してください!」
「え…え?」
「早く!!」
殺し合いが始まってからかなり時間が経過したのにジャンは引き金を引けなかった。
サシャから急かされても、想いの人が殺されそうになっても殺人ができなかった。
「ジャン!!」
コニーの叫び声と共にジャンの背後で刃同士が激突する音が鳴り響いた!
双剣で彼の後頭部を叩き斬ろうとした兵士は、コニーの双剣の刃に阻まれた形だ。
だが、その兵士の後ろには同じく殺意剥き出しの兵士が迫ってきている。
そして更に後方には、ライフル銃を構えた兵士たちがコニーたちに銃口を向けていた。
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「ハンジ!!」
リコ班長の怒声と共に散弾があらゆる物を壊していく!
精鋭部隊が運用する対人機動班は、調査兵団の頭脳を狙って行動していた。
「ああ、なんで追って来るんだい!?」
「お前のせいでどんだけ死人が出てるって思ってる!!」
「なんの話!?」
ハンジからすればリコに恨みを買われる心当たりが無い為、必死に真意を知ろうとしていた。
「死ねよ!!」
「うわあ!?」
6人で交互で散弾をぶっ放して来るという殺意に満ちた布陣にハンジは既に限界だった。
中央憲兵を追跡するどころか部下を殺した対人装備を身に着けた部隊に追撃される羽目になった。
「なんで私なんだ!?」
確かに目立つことはやってきたし、変人と思われる行動もたくさんしてきた!
だが、精鋭部隊にここまで恨まれる事をした覚えはない。
「ハンジ分隊長!!」
「そこを退きなさい!」
対人立体機動部隊を殲滅しようとするペトラとオルオは別の部隊から妨害を受けている。
必死に逃げ回るハンジを追う為に攻撃もできずにいたずらにガスと体力を消費していた。
「ミタビ班長を殺した貴様らはっ!?」
「邪魔だって言ってるだろうが!!」
罵倒をしようとした兵士の首を切りつけて落下させたオルオの手は血で汚れていた。
ペトラも既に2名の兵士を殺害したが、更に増援が来てしまい8人と交戦する事になった。
「うぎゃあ!?」
弾丸が無くなり投擲された銃身が壁に衝突した衝撃で弾き返ってハンジの足に激突した。
その衝撃で態勢を崩して落下してしまい、アンカーを外して逃げようとするが…。
追撃の散弾がハンジを襲う!!
「やばぁ…」
幸いにも距離があったので直接命中することは無かったが、それも数秒後には終わりだろう。
「させない!!」
「ば、馬鹿!!」
それを見たペトラは、オルオの制止を振り切ってハンジを庇うように射線に飛び出す!
「よせぇえええ!!」
両腕を広げた女兵士、その背中を見守るハンジ、驚愕する精鋭兵、悲痛な悲鳴を出すオルオ!
複数の銃声!体内に撃ち込まれる弾丸!ゆっくりと流れる時間!残される者たち!無情な世界!
「がっ!?」
「ぐっ!?」
精鋭部隊は引き金を引く前に何者かによって銃撃されて翼を捥がれた鳥の様に落下する!
辛うじて命が救われたペトラはオルオにハンジは新手の調査兵に路地裏に引き込まれた。
「っ!?」
すぐさまリコ班長は、死角から飛び出した兵士による斬撃を散弾銃で防ぐ!!
辛うじて刃を防ぐことができたが、部下の援護無しでは窮地を脱する事ができない。
「ハンジ無事か!?」
「マレーネ!?」
ペトラ・ラルとハンジ・ゾエを救ったのは調査兵団第三分隊のマレーネ班である。
それだけではない。
「おい、リヴァイ!俺らに内緒で何やってんだ!?」
「おめぇらこそ遅すぎるんだよ!」
駐屯兵を11名殺害したものの立体機動の疲労で不意打ちを許したリヴァイにはディルク副長が!
「アルミン!助けに来たぞ!!」
駐屯兵に挟撃されたと見せかけて実は駐屯兵の外套を羽織ったクラース班だったりと!
カラネス区に待機していた調査兵団の本隊が各個撃破寸前の調査兵たちを救いに来た!
「この…!反逆者共が!!死んで詫びろぉ!!」
「うわ!?ハンジ、リコになにやらかしたんだ!?」
「ハロルド、後ろだ!!」
リコ班長に斬り掛かったハロルド班長はあまりにも人が変わったリコ班長に…。
ハンジが馬鹿な真似をして激怒させたのかと勘違いするほどだった。
だが、彼女の背後には同じく怒りで正常心を失った復讐鬼が銃口を向けていた。
「馬鹿やめろ!!」
「なにやってるんだよ!?」
そんな彼を取り押さえたのは、同じ駐屯兵団に所属する兵士。
いや、カラネス区を守備している駐屯兵団第三師団の兵士たちが必死に取り押さえていた。
「わりぃなリヴァイ、ツテで仲間を集めてたら集合に遅れちまった!」
調査兵団第三分隊の副長ディルクは、この2日間必死に仲間を集めてきた。
幸いにもカラネス区の守備隊や引退していた兵士を加える事が出来たのだ。
そして補給の話を聴いてカラネス区を出発し、ストヘス区を通過してここまで辿り着いたのだ。
「第三師団、何故調査兵団に協力する!?貴様らも反乱を起こす気か!?」
「いい加減にしろ!明らかに何者かによって扇動されてるぞ!!少しは考えろ!!」
第三師団の駐屯兵たちは必死に暴走する第一師団を咎めようとするが逆効果であった。
「反逆者に協力する者も反逆者だ!!こいつらも殲滅せよ!」
「了解!!撃て!!撃てぇ!!」
よりによってキッツ隊長は、第三師団すら敵対勢力と判断!
身体を張って止めようとする兵士たちに向かって第一師団の兵士たちは銃撃を繰り出した!
これによって調査兵団と駐屯兵団第三師団は駐屯兵団第一師団と交戦する事になった。
「調査兵団が居たぞ!!」
しかし、更に状況が悪化した。
あっさりディルク率いる調査兵団本隊がストヘス区を通過できたのは半壊していたからである。
その原因になったのは、調査兵団が女型の巨人能力者を極秘に捕縛しようしたのが発端だ。
よってストヘス区を警備している駐屯兵団第二師団は彼らに恨みを募らせていた。
当然、そんな彼らは調査兵団を断罪できる機会を見逃すはずもない。
「俺の家族の痛みを思い知れ!!」
「馬鹿!!こっちは味方だ!!」
「問答無用!!調査兵団の悪事に加担するのは敵だ!!」
ストヘス区を通過した第三師団と調査兵団を追うのは楽だったのだろう。
農具で武装した民間人などが混じった第二師団は手当たり次第に兵士を襲い出した。
「ぐああああ!?」
ハンジを狙っていた精鋭兵も牧草のロールに突き刺すはずのフォークで腹部を突き刺された!
それでも仲間を守る為に散弾でおっさんの頭を吹っ飛ばすが、それが命取りとなった。
激怒した仲間たちがシャベルや狩猟銃で瀕死の彼に追撃し、それを第三師団の兵士が発砲をする!
かくして調査兵団と駐屯兵団に所属する3つの師団と民衆たちが乱戦で血を流していく事になる。
「…何故?」
あまりにも狂気染みた民衆や兵士の蛮行にリコ・ブレツェンスカは正気に戻るが遅すぎた…。
さきほどの殺意のせいで隙ありと言わんばかりにハロルド班長によって頭部を刃で叩き割られた。
『あの子に…なんて伝えれば…』
最後にフローラとの約束を思い出したリコは手を伸ばすが誰かに足を踏まれてそのまま息絶えた。
既にトロスト区防衛戦や東防衛戦で欠員だらけだった精鋭部隊はこの戦場で悉く無意味に散った。
残ったキッツ隊長とイアン班長率いる精鋭たちも数で圧されて戦力を減らしていく。
「ミカサ!!お前だけでも逃げろ!!逃げて逃げて生き延びて必ずエレンを救え!!」
避難誘導したはずの民衆にすら攻撃されたと知ったイアン班長は敗北を悟った。
故にエレンが誘拐されたという調査兵団の言い分を信じて彼らに賭けるしかなかった。
そしてミカサ・アッカーマンが必ずエレンを助け出すと信じて彼女を送り出した。
「ミカサ急いで!!」
「……また逢いましょう」
「ああ、今度は仲良くしような」
騎乗した調査兵団の新兵たちをイアンは見送らなかった。
何故なら敵同士であるし、それに…。
「お前らだけでも逃げろ!!」
「しかし…」
「これを王政に報告しろ!!内戦が拡大する前に対策を打つんだ!!」
キッツ隊長は、この戦場に出てきた女児を救おうとしたが、その少女に心臓を短剣で刺された。
誰よりも小物であり、物事に敏感であった彼が民間人を救おうとして裏切られたのだ。
少女もまたこの騒動で母親を誤射で殺されており、兵士を憎んでいた。
そんな事情を知らない怒り狂った精鋭兵たちは少女を虐殺するが、憎しみは更に連鎖する。
もはや、どこにも正義など存在しておらず、最後まで誰もが足掻く為に人を殺める!
暴徒と兵士の一部は略奪者になりつつあり、狂気が他の街に向けて連鎖しかけていた。
「来いよ!このイアン・ディートリッヒ!誰一人通さんぞ!!」
「私も残ります!!班長を残して逃走できません!!」
一握りの部下と未来がある新兵たちの為に殿になったイアンは暴徒の群れに突っ込んだ!
顔を知らない兵士同士がありもしない狂言と行動に惑わされて殺人に手を染めていく。
住居と暮らしを脅かされた住民たちは団結して侵略者たちに攻撃し、死んでいく。
ストヘス区で家族が女型の巨人で殺された兵士は調査兵を憎みながら他所の地を荒らしまわる!
その狂気を思う存分味わいながら彼は最後まで戦って共に残った部下の誤射で命を落とした。
「リヴァイ!ここは俺たちに任せてお前らは先に行け!!」
「正気か!?」
ディルク副長の話を聴いてリヴァイは耳を疑った。
いくら調査兵団の本隊と第三師団が居るとはいえこの乱戦で無傷で居られないからだ。
「残念ながら俺らはヘイトを稼ぎ過ぎた。誰かが支払わないとな!」
「分かった、後は頼んだ」
「その代わり、絶対にエレンを救い出して来いよ!!」
「ああ、顔を逢わせるまで死んじゃねぇぞ!!」
元はと言えば、この大混乱に陥った元凶は調査兵団の指名手配と行動である。
なのでリヴァイとエレン救出班がこの戦場を離脱するのは囮が居る。
彼らの意志を正面から受け止めたリヴァイは副長と軽口を叩いてその場を後にした。
「なあ、ご褒美に酒瓶を追加してくれてもいいんだよ?」
「マレーネ!墓前で酒をかけて欲しくなかったら口より身体を動かせ!!」
「偉くなったもんだね」
「そりゃあ、またしても調査兵団の団長代行様だ!」
またしてもエルヴィン団長の後を継がされたディルクはマレーネと雑談しながら戦場に残る。
誰かが放った放火によって街が燃えていく様を見ながら敵と見られる人物と交戦を続けた。
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もう、日は沈むというのに街には光が灯っている。
憎しみによる怒りという猛火はそう簡単に消えない様に街もまた燃えていた。
兵士や民衆、逃げ遅れた住民の死体を平等に炭にして顔の表情を隠蔽する。
死こそが平等であり、それを示すように微かに残った生存者に火傷を負わせる。
「なあ、どうしてこうなったんだ?」
「馬鹿野郎、俺に訊くな」
調査兵団と駐屯兵団第一師団精鋭部隊を殺し合わせた中央憲兵たちは呆然と街を見つめていた。
せいぜい数人が犠牲になればいいと軽い気持ちでやったのに結果は大惨事となった。
あの戦場から生き延びた者は惨劇と憎しみを吹聴し、さらに火種を広げていくのが予想できる。
惨劇のきっかけを作ったサネスとラルフは自分たちの行ないがまずかったと自覚しつつある。
「内戦が起きちまった!このままじゃ多くの人が死ぬ!!」
「落ち着け!調査兵団が精鋭部隊の指示を無視した結果だ!!俺らのせいじゃねぇ!!」
ラルフは、壁の中で暮らす人類が不便ながらも人生を全うしてもらう為に手を汚した。
間違っても人類が殺し合いをする未来など望んでいなかった。
相棒に泣きつくように両手で肩を揺するがサネスも納得ができる返答ができなかった。
「俺たちは王に忠誠を誓ったが!それ以上にみんなが平和に暮らしてもらいたかったんだ」
「んな事、分かってる!!」
「じゃあ、なんだあれは!?」
「知るか!!」
事の顛末を知る為に街の郊外にある丘に潜伏していたのが運の尽き。
自分たちが火蓋を切った戦闘が連鎖爆発して内戦へと発展するのを目撃する羽目になった。
先人たちから引き継いできた人類の平和はたった今、崩れた!!
彼らの存在理由すら否定する出来事を目撃してしまい夢や行動理念が崩壊してしまった。
「みぃーつけたー!」
だが、彼らの行動はいくらか報われる事になるだろう。
血眼で彼らを探していたハンジは標的が揃っているのを見て大きく笑った。
口裂け女の如くにっこりと大きく笑ってラルフの顔面を殴り倒す!!
「この…ぎゃああ!?」
「いっ!?てぇえええええええええ!!」
「分隊長、ワイルド過ぎます!!」
拳銃を取り出したサネスを撃たせる前にこん棒で殴り倒すモブリット!
拳から血を流して痛がる上官を見て本音を告げた。
「な、なんで…」
「あなた方の事ですから最後まで事件を見届けると思いましてね、探してましたよ」
ゴロゴロと地面に転がるハンジの代わりにモブリットが中央憲兵の問いに返答をした。
情報が無さ過ぎたせいで様々な物を犠牲にした調査兵団はようやく手がかりを手に入れた。
これで真相に辿り付ける事が出来れば、心臓を捧げた兵士の死に意味がある。
『……と考えてはいけないんだが、どうしてもな…』
死を美化するのは、いつ死んでもおかしくないこの時代だからこそ発生する。
トロスト区防衛戦やユトピア区防衛戦で死んだ兵士たちも同様である。
だからこそキッツ隊長の「フローラの行動を美化するな!!」という言葉は…。
今なお、モブリット副長の頭の中に残り続けていた。
「これは!手の骨が折れた!!助けてくれぇ!!ぐおおおおおおお!!」
「分隊長、手当しますので動かないでください!!」
そんな気持ちなど知っちゃこっちゃないと言わんばかりにハンジが面白おかしく叫んでいた。
それを見て少しだけ気持ちが楽になったモブリットは上官の手当てを試みた。