進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
明らかに駐屯兵が正規の命令で動いておらず、調査兵と交戦しようとしている。
それを知った憲兵団のストヘス区支部に勤務しているマルロ二等兵はすぐさま呼びかけた。
「憲兵団だ!お前たち!どこの指令で動いている!?速やかに報告しろ!」
「憲兵に化けた調査兵に返答をする必要はない!!」
「憲兵団ストヘス区支部のヒッチよ!すぐさま交戦を停止しなさい!!」
「調査兵団及び憲兵に化ける調査兵を殲滅せよ!!」
ヒッチも呼びかけたが、彼らの回答は煌めく刃と銃口だった。
これでようやく彼らは調査兵団が駐屯兵団と交戦した理由が分かった。
そもそも相手が調査兵団と穏便に交渉する気がなかったのだ。
「ひゃっほい!!」
「この…!!うお!?」
ケニーが放つ斬撃をリヴァイはスナップブレイドで受け止めるが、紙細工の様に粉砕された!
直前に頭を横に倒さなかったら致命傷を負う所であった。
すぐさまアンカーを地面に刺して急速に落下するが、ケニーはすかさず追撃をしてきた!
「オイ!俺とのデートを無視してどこに行く気だ!?」
「お前と付き合っているつもりはねぇよ!」
「奇遇だな!!俺様もだよ!」
一般兵が装備している鞘と比較して2倍のガス量と、3倍のガス圧!
アンカー巻き取り速度は2.5倍、アンカー強度に至っては3倍の立体機動装置!
まさにケニー・アッカーマンにとって相性が抜群の短剣型立体機動装置がリヴァイを翻弄する!
「オラよっと!!おっ!?」
あえて結晶の柱を背にしてリヴァイはギリギリまでケニーを惹き付けた!
そして接近するケニーが視界の半分を覆うくらいになった時にアンカーを外して落下する。
すると見事に人体ほどの太さがある結晶の柱をケニーに攻撃させる事に成功した!
『おい、話が違うじゃねぇか!!なにが煉瓦の壁が斬れただ!!』
ところがケニーの斬撃は、結晶の柱を切り裂いて見事に倒壊させた。
巨人が生成する結晶体で構成されたと思われる人工物の柱が斬れたのを見てリヴァイは…。
この装備を開発した馬鹿女に呆れ半分、殺意半分の感情に支配された。
『…鎧の巨人の装甲を貫通するなら当然か!』
それと同時に鎧の巨人の装甲を貫通する刃だと納得する事ができた。
フローラ・エリクシアの最終目標は、鎧の巨人討伐であるのでこうなるのは必然だった。
「リヴァイを殺せ!!」
「あいつが虐殺の首謀者だ!」
「同胞の仇を取れ!!」
退却する先に双剣を構えた駐屯兵3名がリヴァイに殺意を向けて突撃してきた。
リヴァイは歯を噛み締めて斬撃を回避するついでに!敵兵の首!額!胸部を切り裂いた!
致命傷を負った兵士たちは、操作装置を操作できずにそのまま硬い結晶の地面に激突する。
「よくも!!」
「この反逆者が!!」
骨に激突した影響で2つの刃が折れたが、それを替える前に2名の駐屯兵が迫ってくる!
それを見たリヴァイは操作装置で刃の結合を外して投げつけた!
1つは首を掠めてもう1つは命中しなかったが敵の動きを鈍らせた!
その隙に2つの刃を空中換装し、アンカーを近くに射出して敵兵を切り裂こうとした!
「いっ!?」
ところがケニーの回転斬りで哀れな駐屯兵たちは背後から胴体を両断され!
攻撃に移ろうと立体移動中だったリヴァイの頬を切り裂いた!
『見えなかった…それにまだ刃毀れすらしねぇのか!?』
常人の動体視力で追い付かない兵士の移動を凌駕するリヴァイですらケニーの動きは見切れない。
それと同時に柱と人体をぶった斬っても刃毀れ1つしない謎技術に驚愕する有様だった。
「あいつを最優先に殺せ!!」
「我々の邪魔をするな!!」
「あいつがエレンを狙う刺客だ!!生かして帰すな!!」
ようやくケニーが敵だと気付いた兵士たちが殺意剥き出して追って来る!
それを柱にぶら下がっていた見ていたケニーは思い浮かんだ事を実行してみる事にした!
「ぐほっ!?」
試しに一番近くで走って来る駐屯兵の首にアンカーを射出し、突き刺したと同時に巻き取った!
重量をものともせず3倍の速度で眼前まで巻き取る!
その際にアンカー射出角度を調整して再度、目的地に向かってアンカーを射出した!
そこは、立体機動に移行した2名の兵士が居る方向だ。
「え?」
「はっ!?」
するとあっという間に迫って来る2名の兵士の背後まで致命傷を負った兵士が飛んでいった。
それと同時にケニーは両手でワイヤーを掴んで兵士目掛けて力強く薙ぎ払った!
兵士の重みを載せた鞭は、敵兵たちをあっさりと叩き落してすごい勢いで飛んでいった!
そのままアンカーを外すと死にかけた兵士が別の兵士に激突してそのまま2人仲良く散っていく。
「ふむふむ、さすがあいつが作ったグローブだぜ」
フローラ・エリクシアはベルトルトの戦闘で彼のワイヤーを触ったら摩擦熱で火傷した。
なので特製のグローブを作っており、お世話になったお礼としてケニーに献呈していた。
当時は意味が分からなかったが、ようやくその意味を理解した彼は敵に塩を送った女に感謝した。
「って事は、アレもできるわけか!」
試しにケニーはさきほどの兵士たちが打ち出したワイヤーを切り裂くと…。
髪の毛1本を包丁で切る感覚であっさりと切断する事ができた。
「おおっ!!」
ヘイトを稼ぎ過ぎたケニーには、6名の兵士がアンカーを射出して立体機動で迫って来る。
なので1本残らずワイヤーを切断すると全員が悲鳴をあげて落下して激突の衝撃で肉塊になった。
「うおっと!!」
そしたら柱の死角から飛び出してきた兵士の斬撃をケニーは間一髪短剣で受け止めた!
そして操作装置に設置されたボタンを押すとヤークトメッサーから予め仕込まれた煙が噴出する!
視界が煙で覆われて動きが鈍った隙を見逃さずにケニーは刃ごと頭蓋骨をぶった斬る!!
“切り裂きケニー”にどんどん殺人経験を積ませる駐屯兵はただのカモでしかなかったのだ。
『ダメだ、とても接近できねぇ!!』
その様子を遠くから目撃していたリヴァイは、ケニーに接近戦を挑むのを諦めた。
速すぎて動きどころか姿が見えないのにワイヤーや刃を破壊してくるのだから正攻法で勝てない。
せいぜい敵対する駐屯兵の攻撃に混ざって挑むしか方法が無いが成功率が低すぎた。
「アッカーマン隊長!」
「お前らは指定通り、ここから撤退しろ!!」
「しかし…」
調査兵団を牽制していた対人立体機動部隊は隊長が狙われていると知って援護に向かった。
しかし、カーフェン副長に向かって彼は撤退を命じた。
そもそもある程度時間を稼いだら部下を撤退させる予定だったのだ。
だが、部下たちは隊長を心配して撤退できなかった。
「大丈夫だ!まだガスは3割しか使ってねぇ!!まだ戦える!」
「ですが…」
このフローラの専用装備には、試験的に様々な装置がオプションで付いていた。
ガスボンベと鞘のガス圧でガスの残量を示すメーターが操作装置に付いているのもその影響だ。
『いつのまにかガス欠で戦えなくなるなんて…あってはいけませんわ!』
『だがな、そんな装置なんか作っても本領を発揮する前に兵士が死んじまうんだが…』
『あなたたちは、ガス圧を研究して鞘にガスを貯める技術を作ったでしょ!?』
『ああ、そうだが…』
『だったらガス圧でガスの残量が分かるでしょ!!わたくしのだけでも付けなさい!』
フローラは、トロスト区防衛戦でガス欠のせいで巨人に喰われた同期の犠牲を忘れなかった。
なのでガスの残量が分かる装置を技術4班に念入りに要求していたのだ。
もちろん付けてもいいが、兵士の死傷率を考えると無駄に終わるとグリズリー班長は告げるが…。
彼女は抵抗して専用装備の鞘であるヤークトシャイダーにガス残量計測機器を付けさせた。
『全く…あいつはお人好し過ぎるんだよ…』
だからこそクロルバ区壁外でガス欠に苦しむケニーたちの気持ちをフローラは理解していた。
この専用装備で試験して効果を確認できたら対人立体機動装置に組み込む予定だったのだ。
通常装備のガスボンベと違って大量生産されていないからこそ優先すると告げていた。
だからケニーは操作装置に付いているメーターが何を意味するのか知っていた。
「お前らにはまだやるべき事が残ってるし、まだ介護される気はねぇぞ!!」
これ以上の死者を出さない様にケニーは部下に撤退を命令する!
彼の覚悟を見た対人立体機動部隊は踵を返して撤退を開始した。
「分かりました。まだ生きていたらお逢いしましょう」
「…ケッ!最後まで可愛げがない奴だぜ」
唇を噛み締めて撤退する女に悪態を付いたケニーは再び双剣を構えた!
可愛い部下たちを守る為に駐屯兵の注意を惹くつもりだ!
そのおかげでエレンを刺客から守りに来た駐屯兵団の部隊は彼の討伐を優先していた。
「構え!!撃てェ!!」
接近戦では勝ち目が無いと判断した駐屯兵団の1個班はマスケット銃を構えた!
合計8個の銃口がケニーに狙いを定めるが、彼は大人しく受けるつもりは無い。
発砲許可を聴く前に動いたケニーは卓越した立体機動で銃弾の雨を全て回避!
「おれ様のぉ!!野望を邪魔するなァ!!」
刹那で8名の首を刎ねたケニーは近くに居た駐屯兵を盾にして弾丸を回避!
アンカーショットで発砲してきた駐屯兵の首を貫きワイヤーを力強く引っ張った!
そのまま横に居た駐屯兵を薙ぎ倒してアンカーを外して背後から襲ってきた駐屯兵の首を刎ねる!
ここでようやく自分が死んだ事に気付いた8名の胴体は、鮮血を噴き出しながら地面に伏せた。
最後に立ち上がろうとした兵士の首を切り裂いて2本のヤークトメッサーは役目を終えた。
「リヴァイ居るんだろ!?さっさと来いよ!!そうしねぇと可愛い部下達を血祭りにあげるぞ!」
大きく地団駄を踏んで自分の居場所をアピールしたケニーは気配を感じて立体機動に移る。
空中刃換装をするついでに折れた刃を投擲し、追手の駐屯兵を落としてリヴァイを捜索した。
一方、柱に隠れていたリヴァイは頬の痛みで視界が揺らいでいた。
「そこだ!!」
「死ね!!」
当然、数に勝る駐屯兵に気付かれて双剣を構えて突撃してきた!
「ぎゃっ!?」
「がっつ!?」
それぞれオルオとペトラが敵兵を討伐し、リヴァイ兵長に目配せした。
スリーマンセルであいつを倒すと提案したが…。
「あいつは俺が倒す!お前らは104期兵の援護をしろ」
リヴァイはわざわざ口頭で命令するほど「ケニーに挑むな」とオルオたちを牽制する!
少しでもケニーのガスを消費させる事しかリヴァイすら手がなかった。
が、いつだったかフローラは短剣型立体機動装置に通常のガスボンベを使用していた。
なので当然、そこら辺に転がっている駐屯兵のガスボンベにも互換があるだろう。
どうやってあいつを倒すか悩んでいるが、現実は待ってくれない。
「おい何事だ!?」
「こちら駐屯兵団第一師団第8分隊!報告を求む!!」
「調査兵団が駐屯兵を多く殺している!!すぐさま加勢を頼む!!」
「…了解!!お前らいくぞ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
礼拝堂に繋がる入り口から新手の部隊が到着した。
彼らはウォール・ローゼの領土で発生した巨人を見て恐怖で逃走した部隊である。
しかし、それは家族を守りたいという気持ちが大きかった。
なので味方を殺しまくる集団を見て怒り心頭になった彼らは戦闘に参加した。
「15、18、25か!!きついぞこれは…!!」
更に地下空間に駐屯兵総勢25名が参戦してきた事実に調査兵団の団員たちは焦る。
このまま入り口を放置していれば、フローラの命で動く駐屯兵団の援軍が限りなくやってくる。
敵の増援を数えたリヴァイは愚痴を吐く事しかできなかった。
「兵長!」
「俺が増援を止めます!」
「正気か?」
「マルロ、やめてよ!!絶対に殺されちゃうよ!?」
その光景を目撃したマルロ・フロイデンベルクは一大決心をした!
負の連鎖を生む援軍を止めて見せると兵長に告げたのだ。
一緒に駆け付けたヒッチはおろかリヴァイですら彼の正気を疑ったほどである。
「俺は憲兵です!入口に立っていれば正規の命令ではない部隊を止められるはずです」
そもそもこの場にやってきている駐屯兵団の部隊は正規の命令で動いていない。
フローラのお願いによってヒストリアを王政の刺客から守る為に派遣している戦力だった。
虐殺事件の記事が出たせいで敵が調査兵団だと勘違いして殺し合いが発生しているだけである。
なので憲兵が正規の命令かどうか問えば、殺戮現場を目撃していない部隊は止められるはずだ。
そう考えたマルロの瞳には迷いは無かった。
「私も行きます!こいつだけじゃ話が通じなさそうだし!」
「総員、マルロとヒッチを全力で援護しろ!」
マルロだけでは心配のヒッチも付いていく事にした。
その覚悟を見たリヴァイは命令を下す。
どんな犠牲を払っても彼らを地上に繋がる階段の入り口に向かわせろと…!
「クソ!!これ以上殺し合いをさせてたまるか!!」
マルロは革のジャケットを脱いで憲兵団の紋章をアピールしながら走った。
少しでも敵が動揺するように仕向けたのだ。
それともう1つ意図がある。
「馬鹿!!良い的じゃない!!」
「調査兵団に俺たちの居場所を知らせるならこうするしかないんだ!」
同士討ちほど無駄なことは無い。
間違って調査兵団に殺されない様に彼はこうして走るしかできなかったのだ。
ヒッチも咎めるのを諦めてジャケットを掲げて一緒に走り出した。
「なんだあいつら?」
「憲兵団?」
さきほど到着した増援である第8分隊は憲兵団の兵士の存在を知らない。
なので困惑して彼らを見送った。
「何をしている!!あいつらは憲兵に変装した調査兵だ!!追え!!」
「は、はい!!」
ユトピア区の守備兵から檄を飛ばされた第8分隊は臨戦状態に移行した。
「させない!」
ミカサは彼らの意図を察して真っ先に動いた。
一緒に共闘した事があるユトピア区の守備兵の頸動脈を斬って無理やり黙らせた。
そのせいでヘイトを稼いだ彼女は立体機動で敵の視線を移動させる。
「ぎゃっ!?」
ミカサを見ていた兵士の1人に風を切って飛んできた矢が首に刺さった!
泣きながら弓を構えたサシャは、動物を狩る技能を殺人に活かしていた。
「あいつを狙え!!」
視線が3つに分かれた駐屯兵団の頭上からコニーとジャンが襲撃する!
双剣を振り回して無防備の首を斬り付けた。
斬られて自分の方を見てきた兵士の顔を2度と忘れないだろう。
すぐに隣に居た兵士に斬り掛かってできるだけ多く殺害する他なかった。
「やろ…あっ!?」
コニーを殺そうとした駐屯兵の首に矢が刺さる!
ジャンを殺そうとした駐屯兵の頭を背後から叩き割ったハンジは更に血を手に染めていく。
その惨劇を音で知りながらもマルロとヒッチは必死に入り口に向かって走っていく。
「お、おま!?ぎゃ!」
いくら敵を憎んでもすぐに殺人を割り切れる事は出来ない。
殺そうとしてもすぐに動けない駐屯兵の隙を狙って調査兵たちは次々と殺人をする!
ここに来る時に腹を括った調査兵団はもはや殺人に慣れ過ぎて動きに迷いはなかった。
「待て!!」
それでも取り逃がしてしまう。
4名の兵士が立体機動でマルロたちに先回りをしようとしていた。
「邪魔しないで」
その集団を次々とミカサが殺害していく!
それを見たオルブト区の守備兵が彼女に向かって立体機動で突撃する!
「遅い!」
だが、あっさりと背後に回り込んだミカサは敵兵のうなじを削いだ。
骨と激突する衝撃で折れた二本の刃の音は、無言で落ちる兵士の悲鳴に聴こえた。
無防備になった彼女を目撃した兵士は双剣を構えて突撃しようとした!
「こっち見ろよ!」
ところがコニーの挑発を聴いて足を止めてしまった。
「今だァ!!」
その隙を見逃さなかったジャンは兵士の背中を叩き斬った!
激痛で転がる兵士に向けて彼は双剣を振り下ろした。
「ぐっ!こいつ!?おっ!?くっ…!!」
…がマスケット銃を構えて突撃してきた兵士にジャンは押し倒された。
銃口を突き付けようとする敵兵に対してジャンは銃身を掴んで必死に逸らそうとする。
「させるか!」
すぐさま救援に向かったアルミンは敵兵の頭を双剣で叩きつけた。
それでも甘かったのか彼は銃口をジャンの額に付けて引き金を引こうとした。
「この!!」
咄嗟にアルミンは敵兵に抱き着いてグルグルと転がる。
その衝撃でどこかに銃弾が発射されるが、それでも彼は敵兵を離さなかった。
「アルミン!!」
すぐさま立ち上がったジャンは、自分を殺そうとした兵士の顔を刃で叩き斬った!
それでも彼は腹を!腕を!右足を!!無駄に叩きつけて刃をへし折った。
「ジャン!もう死んでるよ!?」
「ハァハァ!!」
アルミンに止められてジャンは死体を見ると目を背けたくなる光景が広がっていた。
腹からぐちゃぐちゃになった贓物が飛び出してズボンの股間からは失禁した跡が残っている。
その光景を見たジャンは両手で頭を引っ掻いて嗚咽した。
「よくも!!」
だが、泣いている暇はない。
親友を殺されて激高した兵士が2人に迫っていた。
「泣くなら後にしろ!!戦え!!」
その兵士を切り伏せたオルオ・ポサドは泣いている2人に檄を飛ばした。
ペトラも黙々と敵兵を殺害して返り血を浴びるが、動きは一切に鈍らない。
殺人をする為にここに来たつもりではなかった第8分隊の隊員たちは次々と命を落としていた。
「あとちょっとだ!急げヒッチ!」
ヒッチに気にかけながら階段を登って入り口のドアに近づいたマルロ。
あと8歩進んだら入り口に突入できるというところで双剣を構えた駐屯兵と鉢合わせした。
「お、お前!?「退けェ!!」うぉっ!?」
マルロは躊躇いなく双剣で目の前の兵士を薙ぎ倒して階段の外に落とした。
その光景をヒッチは忘れる事は無いだろう。
そのまま彼の頼もしい背中を見ながら入り口を通過し地上に出る階段を登っていった。
「敵兵を逃がすな!!」
それを逃がすまじとユトピア区を守るはずの兵士たちが散弾銃を構えて階段を駆け上がる!
だが、彼らの目的は果たされる事は無くなった。
「すまねぇな…ここで死んでくれ」
リヴァイはユトピア区防衛戦で共闘した兵士たちを殺害したくはなかった。
ただ、ここで殺さないと更に兵士を殺さないといけないので切り伏せた。
せめてもの手向けに謝罪したが、これは無駄な自己満足だと分かっている。
「よぉ!リヴァイ!!お前の部下たちも中々凶悪な面構えになったじゃないか」
「ケニー…」
返り血を浴びまくったケニー・アッカーマンは調査兵団の奮闘を素直に讃えた。
生き残る為なら殺すという手段は確かに自分からリヴァイ、その部下に引き継がれたのだ。
拍手喝采で笑いながら評価したが、扉を閉めて睨めつけるリヴァイの顔を見てやめた。
「決着をつけようじゃねぇか」
「そうだな、手足を斬り落として2度と俺から逃げられないようにしてやる」
「言うようになったじゃねぇか小僧が!」
激しい剣戟によって発生する金属音、銃声、悲鳴とうめき声。
悪魔が全員の耳元で「殺せ!殺せ!」と煽っているように感情が昂っている。
お世話になった恩人とこんな形で逢いたくなかったし、奴も同じだと理解している。
「ここは通さねぇぞ!」
「ご立派な事で!せいぜい守ってみせろよ」
ただ、リヴァイは、この入り口からケニーを逃がす気はなかった。
自分たちを信じて背中を預けた若き2名の憲兵の命を落とさせはしないと誓った!
ポケットからフローラの香水を取り出し、残った手は落ちていた散弾銃を拾った!
見据えるのは、ケニー1人だけ!!
部下を信じて一騎打ちを仕掛けた!!
「ひゃっほい!!」
高速で突っ込んでくるケニーに向けてリヴァイは香水を投擲して散弾銃で発砲した!
パンと音を立て筒が割れて漏れ出した香水が少しだけ発火しただけで終わった。
「死ねェ!!」
煙幕を張ると思ったケニーは首を傾げながらもそのまま突っ込む!
「なっ!?」
リヴァイはフローラの香水で煙幕を張るつもりはなかった。
一瞬だけでも視線を逸らしたかっただけだ。
その隙にジャケットの懐から取り出した拳銃でケニーが向かって来ると思われる場所に発砲した!
「いっ!?ば、馬鹿野郎……いてぇじゃねぇか…」
まさかの2段構えの発砲で不意を突かれたケニーは左脇腹に弾丸が命中した。
致命傷にはほど遠いが、このままリヴァイと相手をするのは無理だと即座に判断!
すぐさま近くにあった柱にアンカーを撃って撤退を開始する。
「グッ…!」
片手で操作装置を使用し、立体機動で回避行動をしたリヴァイだったが、それでも負傷した。
右瞼から唇まで大きく裂かれた彼は痛みの影響と負傷状態を確認する為に動けなかった。
『ま、待て…』
それでもケニーに山ほど尋ねたい事があるリヴァイは彼を追おうとした。
『クソッタレ!!まだ死に足りないのか!?』
だが、こっちに向かって来る駐屯兵の部隊を見て踏み止まった。
既にケニーは自分が相手をすると告げた以上、誰も追跡しないだろう。
ならば、やるべき事は1つだ。
「お前らは断罪される!!」
「死をもって償え!!」
「我々の痛みを思い知れ!!」
これだけ殺しても士気が落ちない駐屯兵を1人残らず現世から駆逐する事だ。
「フローラの遺志を踏み躙らせるか!!」
『それはこっちの台詞だ、大馬鹿野郎!!』
フローラの遺志と託した道を踏み躙り勘違いし続ける大馬鹿共を殺す羽目になった。
「やれやれ人間の討伐実績なんて欲しくねぇんだけどな」
「こういう時こそ舌噛みなさいよ!この不謹慎野郎!!」
バディアクションでリヴァイに気を取られた敵兵たちを切り裂いたオルオとペトラは軽口を叩く。
普段通りの会話をしないと気が狂いそうになるからだ。
「兵長!今手当をします」
「ここは俺たちも守ります!!休んでください!!」
なにより尊敬している兵長に動揺する姿を見せたくなかった。
ペトラがハンカチで止血すると同時に兵長に代わってオルオが扉の番人となった。
「ひ、ひいいいぃ…」
「援軍を要請しろ!!急げ!!」
さすがにここまで死人が出まくると逃げ出す兵士たちが出て来る。
ただ、この戦場で背を向けるのは死を意味する。
「死ねよ!!死んじまえよ!!」
「もうやだなんだよ!!てめぇらの悲鳴を聴くのは!!」
コニー、ジャンは無防備になった兵士を虐殺して殺人の実績を重ねていく。
既に巨人討伐実績を上回っているが彼らは気付かない。
「ごめん!!ごめん!!」
「アルミン、まだ終わってない!立って!」
背中を見せて走る兵士の後頭部を銃撃したアルミンは必死に謝っていた。
その背後をミカサが警戒し、ハンジは少しでも新兵に負担をかけまいと敵兵を殺していく。
矢を放って敵兵を射殺していくサシャの瞳は濁っていた。
「ガスが無くなった!」
「死体から拾え!!」
「刃はどれを…」
「いいからとっと拾えよ!!」
ガスが無くなればそこら辺に転がっているガスボンベを強奪し!
刃が不足すれば落ちている刃を取り付けて戦い続ける!
「すまねぇな…お前ら」
最後の一兵が死ぬまで入り口から動けないリヴァイ兵長は最後まで惨劇を見届けた。
マルロとヒッチの行動が功を奏したのか。
二度と駐屯部隊の増援はやってこなかったが、代わりにヒッチを除く全員が殺人を経験した。
これで惨劇が終わるならやった甲斐があるが、まだ終わっていない。
この先には、負傷したケニーとその配下である対人立体機動部隊が居るはずなのだ。
そして時間をかけるほどエレンの生存率が低下していく。
自分を守る為に殺人をしていたはずなのに…エレンを救う為に積極的に殺人をするその有様は…。
まさに調査兵団による虐殺現場の他ならなかった。