進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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114話 異形の巨人“ロッド・レイス”

ロッド・レイスは、初代レイス王の思想と“力”を継いだ者を“神”と称した。

あれだけ世界を変えようとした弟や娘は、結局先人たちと同じ末路を辿った。

だから神の御意思には逆らえないと考えていた。

 

 

『それでいいのか?』

 

 

このままでは、“力”を継ぐ予定のヒストリアが、初代レイス王の思想に上書きされてしまう。

では、自分が継げばいい話だが、それだと簡単に奴隷という名の子供をいくらでも作れてしまう。

しかもそれだとヒストリアが用済みになってしまうので力を継ぐわけにはいかなかった。

 

 

『いいや、賭けてみるか』

 

 

偉大なるご先祖様は、始祖ユミルから別れた9体の巨人だけでは満足できなかった。

更に能力者同士の脊髄液を混入し、研究した結果、とんでもない化け物を生み出した。

巨人の弱点であるはずの【うなじ】の機能を複数にする事で強力な巨人を生み出したのだ。

だが、始祖に近づいた故に【始祖の巨人の力】に反逆する巨人は“王”ですら制御できなかった。

 

 

『異形の巨人に!』

 

 

王の奴隷となる巨人ではなく自分の為に反抗する化け物を【異形の巨人】と人々は称した。

偽りの王族と“力”に反抗する巨人は、まさに希望となるヒストリアにぴったりであった。

もしかすると、“力”すら継がない可能性があるが、逆にその方が良い。

ロッド・レイスは、禁忌となる異形の巨人の脊髄液を生み出して彼女に注入しようと試みた。

 

 

『騾イ縺ソ縺ェ縺輔>縲よアコ縺励※蠕後m繧呈険繧願ソ斐i縺壹↓騾イ縺ソ縺ェ縺輔>』

 

 

既に意識が無い化け物は、ただひたすらに多くの光がある場所を目指して前に進む。

視界が真っ暗になろうが、無数の光が辺り一面に輝いており、一際多くの光がある場所がある。

まるで陽光を浴びようとする若葉のようにそこに向かって巨人は進んでいた。

 

 

『蟶梧悍縺ョ蜈峨′隕九∴縺溘i縺昴%縺檎オら捩轤ケ』

 

 

巨体による自重に耐え切れず鼻が地面に削れてもなお、進み続ける。

擦り減った鼻の代わりに頬も削れるがまだ終わらない。

眼球が削れても巨人の動きを止める術にはならない。

 

 

『謌代r逾晉ヲ上@縲∫屁螟ァ縺ェ蝟晞㊦縺帙h縲ょ・エ髫キ縺ョ蟄舌h』

 

 

巨人は睡眠と性欲が存在しないと同時に生きる必要が無い。

だが、人体に模して作られているので捕食するし、呼吸もする。

この巨人もまた外気を取り込もうとするが、口や鼻から入って来るのは土砂ばかり。

どんどん胃や肺の中が土砂で蓄積されてしまい肉体が放出しようとするが不可能に近い。

だって入り口は塞がったままのだから。

 

 

『荳也阜縺檎オゅo繧九∪縺ァ騾イ縺ソ邯壹¢縺ェ縺輔>』

 

 

肉体で生まれる熱量は体積に比例する為、ロッド・レイスの巨体内部は高熱となっている。

更に肉体が大きいほど放熱より誕生する熱量が上回ってしまうので灼熱地獄と化していた。

本来なら生物ではありえないほどのエネルギーを所持するどころか賄えてしまう巨体は…。

桁違いな体積、膨れ上がる質量と圧迫する空間と空気、膨大な熱量により背中が弾けた!

 

 

『諢帙r謐ィ縺ヲ蜻ス莉、繧堤┌隕悶@縺ヲ蜈峨r螂ェ縺」縺ヲ騾イ縺ソ縺ェ縺輔>』

 

 

それは火山の大噴火を彷彿させるほどの大爆発であった。

大量の蒸気が溜まった空気と土砂と共に放出されて上昇気流を生み出した。

その影響で更に巨人は土砂を吸い込んで体外へと放出していく。

 

 

『邇九↓閭後¥縺薙◎謌代i縺ョ鬘倥>』

 

 

巻き上げられた土砂は、空気の摩擦によって更に高熱を帯びて蒸気と共にある。

遥か高度に打ち上げられた火山弾は、灼熱の溶岩を身に纏い地上に向けて落下していく。

循環するエネルギーは無限である以上、巨人が死ぬまで同じサイクルを続ける。

壁の内側に引き籠った人類は、火山という存在を知らないので…。

もし、その光景を目撃したら地獄の蓋が外れてこの世の終わりが迫っていると感じただろう。

 

 

『謌ヲ縺茨シ∵姶縺茨シ∝キア縺ョ轤コ縺ォ』

 

 

かつてロッド・レイスと呼ばれた異形の巨人はうめき声を呟く。

意識などほとんど無いのに植え付けられた本能と使命によって前へと進んでいく。

本能に支配されて王に背くという致命的な欠陥を抱えた化け物がオルブド区に向かっていた。

 

 

「全ての砲兵部隊に命じる!!砲撃開始!!」

「お待ちください!まだ射程範囲外です!!」

「飛来する物体を少しでも撃ち落せ!!」

 

 

砲兵隊長の命令を聴いて焦る副官には理由があった。

巨人に向けて使用する砲弾は、大きく分けて2種類に分類される。

巨人の足止めを狙う【ぶどう弾】と当たり所が良ければ巨人を討伐できる【榴弾】だ。

だが、どちらも精度が悪い上に従来の砲弾と比較しても射程距離が短すぎるのだ。

なので「無駄撃ちになる」と提言したが、そもそも飛来物を少しでも撃ち落すのが目的だった。

 

 

「撃て!撃てェ!!」

 

 

巨人に向けて使用する大砲は、後装式を採用している。

最大の利点は、目標に照準を合わせたまま砲弾を装填できるというものだ。

問題なのは、ただでさえ照準精度が低いのに巨人が動き回るせいで照準を勘でやるしかなかった。

なにより積乱雲かと思わせる蒸気のせいで飛来物も巨人もどこに存在するのか不明だった。

 

 

「ダメです!!飛来物を砲撃で落とせません」

 

 

そもそも飛来物を狙ったのは壁の内側にある街を守る為だ。

街に被害を出す飛来物は、最低でも50mの壁を乗り越える必要がある。

しかし、50mの壁に設置された壁上固定砲は上空の敵を想定しておらず仰角10度が限界だった。

つまり、街に被害を与える飛来物の高度まで砲弾が飛ばないので撃ち落せる訳がなかったのだ。

 

 

「怯むな!!ここで仕留めろ!!」

 

 

唯一有効打になりそうなのは、地上に配備している大砲だ。

壁上固定砲に比べれば、射程距離もあり上空に向けて砲撃できる!

壁に触れようとする巨人が壁上固定砲の有効射程であると考えればまだ可能性はあった。

 

 

「無理だぁあああ!!」

 

 

ただでさえ大地が揺れてまともに狙えないのに目の前に火山弾がいくらでも飛んでくるのだ。

砲手の戦意を削ぐと共に不安や絶望を煽る戦況は、このままでは勝ち目が無いと思わせた。

50mの壁に向かって飛んできた飛来物は壁に阻まれて落下したが、その先は砲兵が展開している。

 

 

「退避!退避!!」

 

 

直径1m以上の溶岩なのか肉片か分からない物体は激突と共に砕け散った。

灼熱の粘液をばら撒きながら破片が大砲や砲兵を襲う。

 

 

「助けて!!だずげでぇええ!!」

「こっち来るなァ!!」

 

 

即死できた者はおらず、火達磨になって助けを求めて隣に居た兵士にしがみ付く者。

自分の肉体が溶けていくのを実感して恐慌状態に陥り、無駄に足掻いて被害を拡大する者。

衝撃で大砲の下敷きになって助けを求めるが、誰も来ずに生きたまま焼かれる者。

とにかく地獄絵図が地上で広がっており、悪化を防ぐには無視をして砲撃するしかなかった。

 

 

「だから砲を抑えろ!誤爆するぞ!!」

 

 

どんどん揺れが強くなっているのに一斉砲撃をするせいで更に揺れが悪化する有様だ。

砲弾の装填に失敗して砲弾がゴロゴロとあらぬ方向に転がる班が続出した。

 

 

「当たりました!」

 

 

偶然にも飛来物を1つ砲撃で撃ち落としたもののその100倍の数が目の前に飛んでくる。

蒸気のせいでどこから飛んでくるか分からないのに目視した時点では手遅れという有様だ。

着弾と同時に大地が揺れてその度に砲の照準がズレて調整する羽目になる。

何度も砲撃するが、どこから飛んでくるか分からない飛来物に何度も当たる訳が無い。

それどころか無駄撃ちした影響で目の前の草原が燃え上がり、火の手が壁まで迫っていた。

 

 

「地上の砲を放棄しろ!!」

 

 

まだ地上の大砲ですら射程範囲外なのに迫り来る炎のせいで大砲を放棄する羽目になった。

これにより、街に降り注ぐ飛来物を1つでも落とせる可能性は限りなく低くなった。

 

 

「エルヴィン団長、民間人の脱出を命じた方がよろしいのでは?」

「いや、まだだ。せめて壁に寄るまで待機させろ」

 

 

飛来物が壁を乗り越えて住民に襲い掛かる可能性がある以上、避難させるべきだ。

ペトラ・ラルの提言を聴いてエルヴィンはそれを否定した。

これほど厄介な奇行種ならば、それこそ城塞都市で迎えなければならない。

現に地上に配備された兵士が壁上に避難しているところを見れば、尚更そう感じる。

 

 

「なんだよこれ…」

 

 

エレン・イェーガーは当初の予定と全然違う結果を見て戦慄していた。

まず住民を囮に近づいて来た巨人に砲撃を与えるのが最初の目標だった。

顔面を擦りながら仰向けに這って移動しているので…うなじにダメージを与える事も可能だった。

蓋を開ければ、砲撃を当てるどころか巨人が砲撃の有効射程に入る前に砲兵が逃亡していた。

そのせいで砲撃で巨人を仕留める案は頓挫した。

 

 

「壁上固定砲の砲撃だけじゃ飛来物を落とせない…」

「なあ、アルミン。上空を移動する敵を砲撃する訓練をしたか?」

「してるわけないだろ」

「だからこうなった。全くなんでオレらは強敵ばかり当たるんだか。自分の不運を恨むぜ…」

 

 

アルミンは更にこの戦況に絶望したが、ジャンは的確にその結果になった原因を告げた。

50mの壁より遥か上空の飛来物を落とせなど無理難題できるわけがないと…。

 

 

「こりゃあ近づく前にお陀仏だな」

「え?コニー、お陀仏という単語を知ってたんですか?馬鹿なのに?」

「サシャてめぇ!!こんな時にふざけんな!!」

 

 

もし、砲撃で倒せないなら壁に触れた巨人を特製爆弾で吹き飛ばして転倒させ!

巨人化したエレンが大量の爆薬を擦り減った巨人の顔面にぶつける予定だった。

なのにそれができないとコニーが呟いたが、それよりサシャはコニーの言葉選びに驚いた。

空気を読まないツッコミを受けて振動しながら2人は大声で叫び合う。

 

 

「ヒストリア、君は後退しろ」

「何故ですか?」

「君にはこの世界を治める女王になってもらう。だから最前線に居られると困るんだ」

「勝手な話ですね、私の意志など考慮しないんですか?」

「すまないと思っているが、君に死なれては困る」

 

 

予想通りにエルヴィン団長から撤退指示を出されたヒストリアは笑った。

結局、自分は「希望の存在でいて欲しい」と遠回しの言い方に聴こえたのだ。

誰かを見捨ててでも自分に生きろという現実は、またしても彼女にそれを選択させようとする。

 

 

「私には疑問です」

「何がだ?」

「民衆とは、御託を並べて民衆を見捨てる名ばかりの王になびくものでしょうか」

「……あり得ないな」

 

 

急に王が偽者で好き放題していたから本物の王が民衆を統治するという話があっても…。

誰がそれを信用し、誰がそんな突拍子もない話を真に受けるのだろうか。

真の王家の血筋と証明できるものもなく名声も民衆からの支持も無い。

 

 

「その事で私に考えがあります。自分の果たすべき使命を見つけたのです」

 

 

もし、あるとすれば、あの巨人を討伐したという実績だ。

その実績をなければ人類を守る王様として民衆の上に君臨できないと彼女は暗に告げる。

 

 

「その為に私はここに居ます」

 

 

実の父親をこの手で殺して実績と名声を勝ち取ってみせると…。

 

 

「それは結構だが、勝機があるまで下がってもらうぞ。いいな?」

「……はい」

 

 

それはそれとして現実は打つ手がない。

特攻したところで無駄死にしかないので団長の指示にヒストリアは従った。

 

 

「まだ巨人を目視できません!!蒸気の層が厚すぎて何がなんだか!」

 

 

オルブド区守備隊員である観測手の話を聴いてエルヴィンは…。

 

 

『まずい…!!』

 

 

あの蒸気に触れれば即死だと気付いてしまった。

文字通りあそこは積乱雲となっているが、普通の暴風雨とは訳が違う!

飛んでくる飛来物ですら灼熱なのだからあそこはもっと高熱だと理解してしまった。

 

 

「ハンジ」

「どうしたんだいエルヴィン?ションベンを漏らしそうな顔をして…」

「せっかく作った2つの樽爆弾だが、壁外に放棄しろ」

「…だと思ったよ」

 

 

立体機動装置を組み込んだ樽爆弾は用済みになってしまった。

本来は壁に到達して登ろうとする巨人に打ち込んで姿勢を崩す意図がある爆弾だった。

だが、近づく前に熱で爆散四散すると分かった以上、無意味な産物となった。

それを簡潔に告げられたハンジは拳を握り締める。

 

 

「で?エレンがプレゼントする予定のブツも放棄するかい?」

「いや、希望は残しておくべきだ。まだ捨てないでくれ」

「良かったよ、これまで放棄したら私の存在意義がなくなるからね」

 

 

巨人捕獲網に大量の爆薬と火薬、そして真心込めて作った存在はハンジにとって…。

失った部下たちの遺志を継いだ希望の光そのものだったから。

 

 

「ヒストリア、君は蒸気が触れないように壁下にある見張り塔に待機せよ」

「ですが…」

「もし、出番があれば伝える。それまで負傷しないでくれ」

 

 

結局、前線から遠ざけられたヒストリアは、エレンたちを見た。

不安そうな自分を勇気づけようと必死に気丈に振舞う姿はなんとも滑稽だった。

後退する自分が羨ましいのにそれを諦めるどころか嘘を付かないといけない現実に…。

 

 

「ここまで来れば目を瞑っても当たるはずだ!!全力で砲撃しろ!!」

 

 

砲兵隊長の命令で全ての壁上固定砲は砲撃を続けていた。

蒸気の中には巨人が居るのは分かっている。

本来なら当たらない固定砲でもあれだけでかければ当たるはずだ!

無駄撃ちになろうとも、誰もが必死に砲撃して状況が好転する事を祈っていた。

それを嘲笑うかのように現実は非情だった。

 

 

「ん?何の音だ?」

 

 

バキッと大きな音が聴こえたような気がした砲兵は辺りを見渡す。

大地と砲撃の振動で視界が揺れているせいで何が壊れたのかも分からなかった。

 

 

「ぎゃっ!?」

 

 

突如として固定していた金具が外れて壁上固定砲を載せた車輪は振動でレールを移動した。

そして隣接していた観測手を固定砲同士で挟み込んで圧殺をする結果で終わった。

 

 

「馬鹿!!何をやっている!!」

「砲耳が振動と反動で破損しました!!砲撃不可能です!!

「砲架が砲撃で折れました!!」」

 

 

更にこの短期間の砲撃で壁上固定砲が抱えた欠点が更に発覚した。

壁上固定砲は伏角90度、真下に砲撃できるように設計されている。

だが、それは砲を無理やり支える構造となるので砲耳に多大な負担がかかる。

そのせいで砲を支える砲耳や砲架の破損が相次いだ。

 

 

「ぎゃあああああああ!!?」

 

 

一番の問題は、車輪を固定する金具が長期間の砲撃に耐え切れないほど脆過ぎた。

今度は砲撃した衝撃で壁上固定砲が滑ってしまい、兵士を巻き込んで壁内へと落下した。

別の砲では急いで装填したのか砲身内の清掃を忘れたせいで砲内で砲弾が詰まって爆散していた。

 

 

「……まだ射程範囲外だよな?」

「多分、そうだが?」

「勝手に自滅するのは想定外なんだが…」

「奇遇だな、俺もそう思った」

 

 

振動でハンマーや掃除棒を落として別の隊員から借りようともせずに大騒ぎをする兵士たち。

それを叱責しようとした班長が振動で転倒し、壁の外へと落下して焼かれる有様だ。

リヴァイとエルヴィンは住民を避難させて街まで巨人を引き込もうかとまで考えてしまった。

 

 

「だが、これは責められないだろう」

 

 

エルヴィン・スミスは、内地を警備している駐屯兵団第二師団の練度には期待してなかった。

…というよりは、既に立てる状態じゃないのでリヴァイと一緒にレールを掴んでいる有様だった。

むしろ、よく砲撃できているな…と感心するくらいだ。

 

 

「で?策は?」

「あると思うか?」

「せめてエレンには期待しろよ、あそこで出番をまだかまだかと待ってるぞ」

 

 

はっきり言ってエルヴィンにはお手上げだった。

誰だよ、こんな積乱雲のような蒸気を噴き出す巨人を生み出した奴は…!

万が一に砲弾が巨人に向かっても着弾する前に蒸気に阻まれるに決まってる。

 

 

「あぁ、最後まで残って戦うと明言するべきではなかったな…」

「せめて有効打はないのか?」

「あの蒸気を突破しろと?無理に決まってる」

 

 

そして触れたら即死の蒸気となれば白兵戦など不可能、撤退するしかない。

だが、勝つまで撤退しないと明言したせいで下手に後退もできなかった。

 

 

「……一瞬だけだが、巨人の肉体に砲撃を喰らって皮膚が削げる所が見えた」

「なるほど、運良くうなじを砲撃できれば勝てる可能性があるか」

 

 

一瞬だけだったが、リヴァイは砲撃を喰らった巨人の姿が見えた。

確かに砲撃自体は有効のようだが、あまりにも距離があり過ぎて良く見えなかった。

それでも砲撃で巨人を討伐できるならこれに賭けるしかない。

 

 

「…まあ無いな」

 

 

巨人が近づいた影響で壁上を越える飛来物は、遥か上空を飛んでくる物体だけではなくなった。

少しずつ壁に激突する飛来物と灼熱の体液が増えており、壁を突破するのも時間の問題だ。

 

 

「うわああああ!?」

 

 

壁に飛来物が激突する度に兵士や砲、道具が地上へと落下していく。

砲やレールにしがみ付くのが精一杯なのだろう。

もはや大半の砲は巨人が壁に迫って来るのを待っている有様だった。

そんな彼らに背中を押したのは、意外な集団であった。

 

 

「撃て撃て!!」

 

 

次々と壁の中に火山弾が突っ込んでくるのを見て壁内の守備隊が動いた。

病院や兵舎、見張り塔に設置された大砲や壁上固定砲が砲撃を開始したのだ。

同じく目的は、飛来物を砲撃で撃墜することである。

 

 

「馬鹿、砲撃をやめさせろ!!」

 

 

街に配備されている砲は全て【ぶどう弾】を採用していた。

これはユトピア区に続いてオルブド区が巨人に侵入されたのを想定していた。

あくまでも巨人の侵攻を少しでも抑えようとその砲弾が配備された。

着弾すれば、無数の鉄球が飛び出す砲弾を上空に撃ちまくればどうなるか。

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 

飛来物に当てるどころか、民家や壁に激突して無数の鉄球が飛び出す事となる。

そのせいで弾薬を届ける荷馬車や別の砲兵部隊に被害が出てしまった。

 

 

「すぐ砲撃を止めさせろ!!退路が無くなるぞ!!」

 

 

壁上で指揮をしていた砲兵隊長が命令を下すが時遅し。

恐怖で指揮系統がむちゃくちゃになった砲手たちは無駄に民家を破壊していた。

信煙弾を出そうが、パニック状態の彼らには何も届かないだろう。

 

 

「……なんでエルティアナ総指揮官を引っ張って来なかった?」

「彼女も忙しそうでな…」

 

 

ユトピア区防衛戦の総指揮官だったエルティアナが砲撃を主力にしなかった理由が良く分かる。

故にわざわざこんな糞みたいな大砲の配置も巨人に突破される前提だったに違いない。

そう考えたリヴァイは、エルヴィンが彼女を連れて来なかったのを本気で呆れた。

エルヴィンも後悔しているのか、苦笑いしながらブレードで頭を守っていた。

 

 

「……まだ、住民が壁外に脱出をしてないようだが?」

「参ったな…」

 

 

しかも、未だに裏門を封鎖しており、民衆が街に留まっている有様だった。

誰が避難指示をするのか定めてなかったせいで誰も身動きが取れなかったのだ。

 

 

「これは避難訓練です!落ち着いてください!!」

「そんなわけないだろ!!」

 

 

裏門では兵士500人が必死にオルブド区の住民の暴走を抑えていた。

これほど街が揺れていて正門付近では蒸気が見える。

そして壁上固定砲が落下したり爆発しているのを見れば訓練では無いのは一目瞭然であった。

それなのに「訓練」と言い張る女兵士に怒り狂う民衆が罵声を浴びせていた。

 

 

「もう避難させてもいいだろう!?」

「じゃあ、お前が責任とれよ」

「憲兵がやるべきだ」

「裏門の封鎖を支持したのは駐屯兵団だろうが!」

 

 

誰が責任を取るのか。

たったそれだけで裏門を未だに解放できずに住民を街に留まらせていた。

 

 

「もうダメだ!!開門しろ!!」

 

 

それでも開門する事になった。

巨人が壁に近づいた事により、街中まで大量の飛来物が到来したからだ。

急いで逃げようとする民衆だが、揺れで立てずに匍匐前進をして移動する事になった。

そのせいで更に避難が遅れてしまい、更に壁上に居た部隊が後退できなかった。

 

 

「怯むな!!ここで賭ける!!」

 

 

最前線で指揮をする砲兵隊長は、未だに巨人の討伐を諦めていなかった。

自分が生まれ育った街を守る為に彼は最後まで戦い抜く所存である。

蒸気が目の前まで迫っているのを目撃して巨人が近いと判断した!

 

 

「砲撃再開!!この一斉砲撃で仕留めろ!!」

 

 

稼働できる全ての砲が蒸気に向かって砲弾をぶっ放す!

爆発音や肉が弾ける音からして手ごたえを感じる。

仰向けで巨人が進んでいると分かっているので、この砲撃に賭けるしかなかった。

 

 

「壁内に飛び降りろ!!」

 

 

一方、エルヴィンは勇敢な砲兵部隊を見捨てた。

壁に迫って来る蒸気の正体を知っている以上、長居するつもりはなかった。

団長の指示を受けて調査兵団は、さっさと壁内へと脱出した。

 

 

「隊長、何も見えません!!」

「構うな、ほうげきを…」

 

 

砲兵隊長が最期に目撃したのは、真っ赤に染まる空間であった。

灼熱の砂利が彼らの肉片を削いで何が起こったか分からぬまま即死したがまだ運が良い。

 

 

「やだぁあ゙あ゙!!」

「ぐるじいいい!!」

 

 

大砲や木箱に隠れていた兵士は無駄に死ぬのに時間がかかった。

中には窒息で苦しみながらこの世を呪って死んでいく。

生物も無機物も、まるで大根おろしをされたように粉々になった物体は宙を舞う!

ズタズタに裂かれた壁上固定砲も暴風で巻き上げられる!

そして…。

 

 

「これは地獄か…?」

 

 

住民たちが目撃したのは、壁の上で連鎖する大爆発であった。

200門はあったはずの固定砲の大半は今の連鎖爆発で消失し、塵と金属片となった。

さきほどまで動いていたはずの肉片は、ただひたすらに地上へとばら撒かれる。

 

 

「撃て撃て!!」

 

 

壁内に残った砲兵は、巨人が壁で隠れているにも関わらずに砲撃を繰り返す!

奇跡的に蒸気に巻き込まれなかった壁上固定砲も蒸気に向かって砲撃をする!

例え無意味であったとしても、やるしかなかった。

 

 

「もう終わりだ…俺たちの街が…家族も……」

 

 

壁にぶらさがったオルブド区駐屯兵団団長カルステンは無残な街の光景を見て泣いていた。

下手に動けば、上空で散らばる灼熱の粘液の餌食になる以上、傍観するしかできない。

同じ様に壁内に飛び込んで壁にぶら下がる調査兵たちも傍観する…事さえできなかった。

 

 

「…痛い!!痛いい!!」

「サシャ!!降りるぞ!!このままじゃ干し肉になっちまう」

 

 

揺れは収まるどころか、何度も壁に叩きつけられる有様だ。

コニーに諭されたサシャは涙目になりながら必死に壁から降りて地上に脱出した。

 

 

「まだ壁から身を乗り出さないのか!?」

 

 

壁上は積乱雲と化した蒸気に覆われて近づく事ができない。

しかも、地上から見上げる形になっているのでどこに巨人が居るか判別できないのだ。

せめて巨人の居場所だけでも…と誰もが考えていた。

…が、無情にも巨人の大爆発で飛び散った肉片の何個が壁を越えていく!

 

 

「エルヴィン団長!!あれは直撃コースです!!」

「ぐっ…」

 

 

オルオ・ポサドの報告を受けてエルヴィンは住民に犠牲が出ると覚悟した。

幸いにも1個は、ぶどう弾で軌道を変えたが、残りの2つは裏門に向かって落ちていく。

大渋滞になった裏門付近は、逃げる場所が無く人々はひたすら神に祈るしかできなかった。

 

 

「なさけねぇな」

 

 

誰かがそう発言したと思った瞬間、2つの飛来物は『何か』に撃墜された。

 

 

「進め!!」

 

 

呆然とする兵士や民衆は未知なる兵器を所持する集団を黙って見ていた。

 

 

「狙撃班及び砲撃班は速やかに指定の配置に付け!」

「「「「了解!!」」」」

 

 

トラウテ・カーフェン副長率いる対人立体機動部隊は飛来物を撃墜に成功した。

RF-11イェーガー狙撃銃を装備した兵士が飛来物に向かって狙撃をして見事に命中させたのだ。

 

 

「マジで当たるとは思わなかった…」

「改良した甲斐があったな」

 

 

実はユトピア区防衛戦でも旧式装備ではあるが、実戦投入はされていた。

ところが、そこに居た異形の巨人の装甲には一切通用しなかった。

それを受けて2km圏外から鎧の巨人を狙撃する為に開発された20mm口径弾を採用!

エルミハ区で実戦投入し、得た教訓を活かし飛来物を狙撃したら命中したというのが真相だった。

 

 

「リヴァイ!!ここで諦めるなんておめぇらしくねぇな!!」

「ケニー!?」

 

 

ケニー・アッカーマンはヘビーカノンを装備した兵士を引き連れてリヴァイを煽る。

彼からすれば、あっさりと敗北を受け入れた甥っ子に喝を入れて来たような感覚だった。

 

 

「なんのつもりだ?」

「ちょっくら人類を救いたくなってなァ!巨人の討伐を手伝ってやるぜェ!」

 

 

ロッド・レイスが巨人化して世界を滅ぼすのをケニーは黙って見てられなかった。

幸いにも生き残った部下は全員脱出できたのでフローラが隠していた秘密兵器を回収!

急いで現場に駆け付ければ、項垂れたリヴァイを見てズッコケそうになった。

 

 

「ホント、ワイルドな顔になった代わりに身長どころか心までちっさくなって…誰に似たんだか」

 

 

なのでここぞとばかりにケニーは煽る。

リヴァイからすれば、自分の生まれを知っている彼がこう煽るならば…!

 

 

「あぁ、ちょっと気力を回復させていただけだ」

 

 

双剣を構えてケニーの挑発に応えた。

 

 

「威勢が良いのは結構だが、どうやって巨人を討伐する気だ?巨人の居場所も掴めないのだが?」

 

 

だが、エルヴィンは彼の自信を見て逆に違和感を覚えた。

まるであの巨人の討伐方法を知っているように見えたのだ。

 

 

「いた!ヒストリア!!これを触ってみろ!!」

「ええ?」

「いいから触れよ!!さきっちょだけで良いからさ!!」

 

 

しかし、ケニーはエルヴィンを無視してヒストリアに逢いに行った。

困惑する彼女に指の様な物を見せて触れと叫ぶ。

仕方なく指示通りに触ったヒストリアは…。

 

 

「え?」

「おっと、立派になった親父さんの居場所が分かっちまったか!?」

「う、うん…でもどうして?」

 

 

壁と蒸気で遮られているはずなのに巨人を肉眼で確認できた。

それどころか、父親の姿がうつ伏せ状態の巨人のうなじに居るのも見えた。

さすがにどうしてこうなったか分からない彼女は親切なおじさんに質問をする。

 

 

「実はな、憂さ晴らしにおめぇの親父さんの指一本を切り取ったんだが…なんか視えちまってな」

 

 

儀式の間から逃げようとしたケニーだったが、ただでは逃げたくはなかった。

なのでブンブンと振り回す背骨を回避して巨人化するロッド・レイスの右手の小指を切り取った。

あくまで自己満足のはずだったが…所持していると何か違和感を覚えた。

 

 

「何かと思ったらロッド・レイスのおっちゃんの居場所を知らせる便利グッズだったのさ!」

 

 

違和感が分からないまま、地上に脱出したケニーは、蒸気の中に巨人が居るのが見えた。

しかし、部下にそれを告げても蒸気のせいで見えないという。

なので部下に渡すと確かに巨人が見えなくなった。

ここでケニーは確信した。

これさえあれば、ロッド・レイス本体を発見できると!

そしてそこに向けて砲撃すれば巨人を討伐できると踏んだ!

 

 

「てめぇらは馬鹿みたいに巨人に白兵戦を挑むが、今回は無理だろ?だから代わってやる」

「…はっ?」

「歳で耳が遠くなっちまったかエルヴィン?さっさと住民と一緒に尻尾振って逃げちまえよ」

 

 

ケニーは豪語する!

自分たちがあの巨人を討伐してみせると!

だからてめぇらは、せいぜい指を咥えながら民衆に避難をさせろと!

 

 

「私も協力します」

「そりゃあ、ありがてぇ!全員、手が塞がっちまってるからな」

 

 

ヒストリアもようやく自分が役に立つと告げるとケニーは快く受け入れた。

というか、彼女ともう1人は戦ってもらわないと困るのだ。

 

 

「おい、そこの!!黒髪でウジウジ泣いていた半巨人野郎!」

「オレ!?」

 

 

ついでに指名されたエレンは仰天したが、ケニーにとっては反応が予想通りだったのだろう。

 

 

「てめぇ以外に誰が居る!?生きているのが辛いんだー早く喰ってくれとか抜かした癖に…」

「よしいくぞ!!うぎゃあ!?」

 

 

ミカサが居る前で恥の上塗りをしたくないエレンは必死に大声で誤魔化した。

年頃の少年は、幼馴染の女の子に格好良いところを見せようと必死なのだろうか。

すぐに立とうとするが、揺れのせいで転倒して顔面をぶつけて鼻血を出してしまった。

 

 

「オイオイ、英雄の片割れがこれじゃあ、先が思いやられるぜ…」

「英雄?」

「そうだ、ヒストリア女王様と巨人化したエレンが街を守る物語を作ってやらねぇとな」

 

 

街に潜伏していたケニーたちは、王都でクーデタが発生したのを知った。

多数の犠牲者が出たようだが、ザックレー総統率いる反乱兵によって制圧されたと理解した。

そのせいで自分たちが用済みになったと知った彼らは考えた。

ヒストリアのシンデレラストーリーに付き合う事で処刑を免れようとしたのだ。

 

 

「我々は真の王、ヒストリア・レイスの命により速やかに巨人の討伐を開始します!」

 

 

わざとらしく民衆に向かって対人立体機動部隊や中央憲兵がヒストリアの名前を口に出す。

お膳立てをするなら民衆からという事でこの危機を利用して彼らは暗躍していたのだ。

誰もが必死に生き残ろうとして行動をしていた。

 

 

「……てめぇ、何をする気だ?」

 

 

だが、リヴァイだけは見抜いていた。

ケニー・アッカーマンだけはこの戦場で死ぬ気だと。

 

 

「言ったろ?ちょっくら英雄に憧れてよぉ!だから「そんなわけないだろ」…チッ!」

 

 

甥っ子に格好良いところを見せようとしたケニーは、勘の良いガキを見て思わず舌打ちをした。

妹譲りの勘の良さは、相変わらず健在のようだと笑いつつも半ば呆れてもある。

 

 

「フローラみたいな生きざまに惚れちまっただけだ」

 

 

誰もは夢を見るが、それを叶える前に諦める。

もしくは、別の道を選ぶのが大半だ。

暴力だけが全てだという価値観があったケニーも、とある男によって思想が粉砕された。

だから最期まで「鎧の巨人絶対ぶっ殺す」を貫いたフローラの生きざまに彼は惚れた。

そして最後くらいは、誰かの役に立とうとしたのだ。

 

 

「つーか縁起でもない事を言うな!このケニー様があんな赤子にやられるとでも!!ぶぎゃ!?」

 

 

…といっても部下が居る手前、そんな事を素直に白状できる訳が無い。

いつも通りにケニーは大袈裟に強がったが、振動でバランスを崩して転倒した。

「ハハハ」と部下に笑われるケニーは悔しがったが、瞳はどこか寂し気であった。

 

 

「オラァ!!みんなで協力しておっきな赤子を討伐してやろうぜ!!」

 

 

調査兵団、憲兵団、駐屯兵団、中央第一憲兵団…誰もがさきほどまで殺し合っていた。

しかし、巨人という強大な敵を前にして彼らは一致団結して共闘をしたのだ。

 

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