進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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115話 最初で最後の喧嘩の結末

真実を知っている王政府は、人類に対して3つの弾圧を継続して行ってきた。

まずは、現体制に不満を持つ者の粛清である。

特権を得た貴族が下級民族を支配するのは当然の権利だと体制を揺るがす人物を排除した。

 

2つ目は、歴史を探求する考古学者や好奇心旺盛な馬鹿を始末する事である。

王政府が示した歴史と常識、そして法に従わない者は例外なく排除した。

 

最後は巨人を容易く葬れたり工業化に発展する新技術の開発の抑制である。

あくまで壁の内側だけが楽園と思わせたいので巨人に有効な兵器の開発はさせなかった。

そして蒸気機関や空を飛ぶ発明など技術革新に繋がる技術を抑圧してきた。

そうやって、王政府は100年以上に渡って真実を隠蔽すると同時に停滞した世界を造り出した。

 

 

『でも、隠しているだけじゃもったいないとわたくしは思うの!』

 

 

その3つの地雷を全力で踏み抜いた挙句、逆に王政府を脅迫して操り人形にしたやべぇ奴が居た。

両親の仇である鎧の巨人を討伐する為ならどんな手も使ったフローラ・エリクシアである。

行政トップと全ての兵団のトップをさくっと脅迫した彼女は隠された技術に触れる事になった。

そして目を輝かしてその技術を取り入れようとした。

 

 

『で?なんで俺らの装備強化に夢中になっているんだ?』

『だってわたくしの装備は限界まで発展してしまったのですよ!』

 

 

フローラは巨人と戦闘していく内にこのままでは勝てないと理解した。

なので必死に装備を強化したら逆に身体が付いていけない事態に直面した。

しかも、装備を強化し過ぎるとそのせいで逆に壊れると判明し、装備開発に支障が出た。

なので別系統の技術である対人立体機動の装備開発に携わってヒントを得ようとしたのだ。

 

 

『全部、鎧の巨人をぶち殺す為に開発しますわ!』

『いや、そこまでやる気はねぇんだが…』

 

 

当初、対人立体機動部隊の装備は、専用の立体機動装置と散弾銃のみであった。

ところがフローラが開発に口出した結果、整合性など知るかと言わんばかりに兵器が誕生した。

対巨人狙撃銃、携帯大砲、自動小銃など明らかに開発から完成までに間に合わないはずの兵器群。

いくらなんでも装備の発展と開発が早過ぎて当事者であるケニーたちが首を傾げるくらいだった。

 

 

『というか、こんな別系統の装備なんてどうやって作った?このスピードはあり得んだろ!?』

『中央商会連盟をこっそり掌握して傘下の商会に装備の部品を作らせてましたわ』

『俺らに漏らすならこっそりじゃなくならねぇか?』

『そうでした!会長をぶん殴って無理やり作らせた『何やってんだお前?』…別に良いでしょ』

 

 

普通に爆弾発言をするフローラだが、ケニーは慣れたものだ。

全ての勢力から問題児と称された彼女の裏の顔は誰も全ては知り得ない。

言っている事は本音だし、やってる事も理解できる。

だが、どうしてそこに行きついたのかという過程が一切不明な彼女など気にしては負けだ。

そう感じさせるほどには、アホみたいに大量の兵器を開発していたのだ。

 

 

『わたくしの自信作はこれです!!』

『なんだこれ?』

 

 

ドヤァ顔でフローラは新型装備を披露するが対人立体機動部隊の兵士はその異質さに驚いた。

銃身を環状に巻いた様な多砲身が縦に2つ存在しており、その間に操作装置がある。

2つの多砲身と対となる多砲身の間には立体機動装置が組み込まれていた。

要するに片手で双砲、両手で最大4つの多砲身を向ける事ができるようであった。

 

 

『王政から存在を抹消されてしまった技能を多く費やして作った新兵器ですわ』

 

 

回転式弾倉と給弾機構、そして高度なライフリングが施された砲は全て王政に規制されていた。

ところが、規制するサンプルとして文献が残っており、フローラは偶然にもそれを入手!

多砲身を回転させるという謎の発想に至り、試作した多砲身の立体機動装置だった。

 

 

『お前、何やってんだよ…今度こそ王政に消されるぞ』

『えぇ、当然バレまして大量の刺客を差し向けられました』

『その割にはピンピンしてんな…』

 

 

当然の事ながら王政にバレてフローラは刺客を差し向けられたと自供した。

だが、明らかに楽しそうにしているところからそれが失敗したのは明白だった。

 

 

『その刺客たちと仲良くなりまして一緒にお礼参りに行きましたわ』

『はい?』

『ついでに大臣と大総統と商会のトップの家族を唆して彼らを半殺しにしてきました』

『うん!?』

『今度、わたくしに干渉したら次は無いと告げてきましたので多分大丈夫でしょう』

『ええ!?』

『それと、わたくしと接点が無いローデリヒ枢機卿を誅殺する事にしましたのでご報告致します』

 

 

フローラは事の顛末を簡潔に伝えたが、ケニーたちからすれば意味が分からない。

何がどうなればそうなるのか。

というか、いつの間にか王政の真の支配者の家族すら動かせる化け物っぷりに驚くしかない。

しかも、勝手に共犯者にしてくる有様で計画をばらす時点で既に手遅れなのが良く分かる。

 

 

『さすが問題児、やる事が違い過ぎる』

『えぇ、わたくしも反省していますわ』

『ホントか?』

『大総統が溺愛する10歳の娘を唆して刃物で襲撃させたのは、さすがに倫理的にまずかったわ』

『そこかよ!?』

 

 

フローラ・エリクシアはさすがに10歳の女の子に刃物を持たせて殺す術を教えたのを後悔した。

しかし、反省する点がズレておりケニーに更なるツッコミを入れさせた。

確かにケニーも少年期のリヴァイに刃物の使い方と残酷な世界を生き抜く術を教えた。

だが、悪意をもって肉親を殺害を唆すなんてしなかった。

 

 

『…それで、この装備は何だ?』

『そうですわね、鎧の巨人を蜂の巣にする為に作った連発砲とでも言えば良いでしょうか』

 

 

フローラは何としても鎧の巨人を討伐する事を決意していた。

鎧の装甲を貫通する刃を開発していながら弾丸でも装甲をぶち抜く為に開発をしていた。

対巨人狙撃銃も携帯大砲、自動小銃などあくまでその副産物で生まれたものである。

その中でも10mm口径弾を採用し、1分で100発以上ぶち込める連発砲は彼女の自信作だ。

 

 

『これでクロルバ区壁外に居る巨人を掃討してやるわ!!』

『信じられるか?こいつ、5日前に同期の正体が鎧の巨人だと発覚して衝撃を受けていたんだぜ』

 

 

クロルバ区の壁外にいる巨人を掃討したいからとフローラに助力を求めたのはケニーである。

だが、彼女が新兵器を山ほど持ってきて実戦テストするなど想定外にもほどがある。

同期に赤ちゃんプレイされるからってパジャマ姿で歩き回る馬鹿女と同一人物にとても見えない。

白い目どころか呆れられているのに気付かないフローラは、意気揚々と実戦テストをした。

そして死にかけた。

 

 

『生身で10mm口径弾の連射なんてこりごりよ!!』

 

 

ただでさえ片手で15kgになってしまった2つの二連発砲を装備しているのだ。

両腕で30kgを支えながら双方の二連発砲の連射するなど気が狂っていた。

むしろ、なんで負傷しなかったのかフローラ本人が驚いたくらいだ。

 

 

『だからガトリング砲を実戦投入するなんて無謀って言っただろ?』

『仕方ありません…今度は7.7mm口径弾を採用し、銃架と駐鋤(ちゅうじょ)*1を付けて再テストします!』

『話を聞いていたか!?』

『そうでした。排莢から身を護るバリケードも欲しかったですわね』

「違う、そうじゃない!」

 

 

なお、フローラは鎧の巨人を蜂の巣にする事は諦めていなかった。

10mm口径弾の発砲時による反動で血反吐を吐きながら次の装備改良の事を考えていた。

それを見てどうしてここまでアホなんだとケニーは思ったが…。

 

 

『やけに詳しいじゃないか?』

『こう見えても弾道学と砲撃実技は主席でしたのよ』

『お前が?』

『じゃなかったら飛び道具の開発を主導できるわけがありません』

 

 

意外かもしれないが、フローラは立体機動術や剣術は上手い方では無かった。

むしろ、壁上固定砲で砲撃して弾丸を目標に当てるのが一番上手かったまであった。

じゃあ、なんで砲兵科を目指さなかったといえば…。

双剣でうなじを削いだ方が巨人を早く討伐できるからだ。

 

 

『クション!』

『何だ?風邪を引いたのか?』

『まさか!こんな時に布団を被って寝てられませんわ!』

『なら良いんだがな』

 

 

ガトリング砲で巨人を掃討できなかったフローラは別の作戦を開始した。

巨人の群れを引き連れて巨大樹の森で待機している新装備の試験をやるつもりだ。

ああ、せっかく設計したのにそれを装備できないのは口惜しい。

何としてもこのクロルバ区の巨人掃討作戦で成果を得ようと彼女は必死だった。

 

 

「そう、必死だった」

 

 

フローラが設計したガトリング砲を装備するトラウテ・カーフェンは、朧げの記憶を思い出した。

現在、対人立体機動部隊が装備する散弾銃以外の兵器は全てフローラが設計したものである。

だからこの兵器もまた彼女が築き上げた努力の結晶であり、最後に生み出した兵器でもあった。

 

 

「準備は良い!?」

「「「「イエス・マム!」」」」

 

 

フローラが隠していた最終兵器は、過去に例を見ないとんでも兵器と化していた。

操作装置を操作して銃身の左右の向きを調整し、引き金を引いて銃撃を繰り出す銃手。

銃架に付いた複数のハンドルを回してガトリング砲の俯角と位置を微調整する操作手2名。

目標までの距離から仰角を計算し、操作手に角度を知らせる観測手2名。

駐鋤(ちゅうじょ)を地面に設置し、弾倉を装填したり砲を手動で回す装填手の2名。

合計7名で運用する重火器は、目撃者を驚愕させるほどの存在感をアピールしている。

 

 

「駐鋤を設置しました!」

「銃架設置完了!」

「観測手総員、準備よろし!」

「弾倉を装填しました!」

 

 

地面が大きく揺れる中、不動に見える多砲身は、壁の上を向けて鎮座している!

目標は、巨人ではない!

街や住民を破壊しようとする飛来物だ!

 

 

「飛来物を確認!!こちらに向かってきます」

「撃ち落せる!?」

「当然です!」

 

 

右舷砲身担当の観測手の話を聴いてカーフェンは飛来物に向けて左右に銃身を動かす。

縦方向は勝手に調整してくれるので後は、位置を間違えなければ…上手くいくはずだ。

操作手の心強い即答を信じて彼女は全力を尽くすまでだ!

 

 

「撃てェ!!」

 

 

観測手の命令を受けてカーフェンは引き金を引いた。

二重の多砲身が回転して7.7mm口径弾が上空に向かって飛んでいく。

 

 

「クソ、上に逸れて外れた!!」

「これでどうですか!?」

「…当たった」

 

 

遥か上空に居た飛来物には当たらなかったが、操作手の気転で命中した。

すると大爆発を起こしてあっという間に四散して地面へと落ちていった。

 

 

「絶対、おかしいでしょ!?なんでこんなの生み出せたの!?」

 

 

操作しているカーフェン自身がガトリング砲の異常さに驚愕している。

鎧の巨人を蜂の巣にするというコンセプトはまだ忘れられていなかったらしい。

明らかに対巨人狙撃銃で使用する20mm口径弾より威力が上であった。

なので短期間でオーバーテクノロジーを生み出したフローラはマジで頭がおかしかった。

 

 

「しかも、排莢による事故も想定済みか」

 

 

フローラがガトリング砲を使用して一番怖がったのが排莢が予期せぬ方向に飛んでいく事だ。

その教訓なのか、付属するバリケードに排莢が弾かれて砲の内側に居る操作手たちを守っている。

そしてこのガトリング砲の最大の特徴は、素人でも使えるようになっていた。

 

 

「憲兵!!まだ終わってない!!早く観測しろ!!」

「わ、分かった!!」

 

 

目標までの距離を見て俯角を計算する観測手は現場で徴用したオルブド区の憲兵たちであった。

彼らは、銃身の後ろに飛び出した突起物と複数の治具を組み合わせて俯角を導き出していた。

つまり、飛来物の位置と治具で判明した結果を操作手に伝えるだけのお仕事となっていた。

俯角によってズレる弾道ですら治具で補正されているので彼らも安心して発言ができていた。

 

 

「はあ、なんで気付かなかったのか…」

 

 

ようやくカーフェンは兵器の設計に携わったフローラのやばさを再認識した。

良く考えれば、分かる事だ。

20mm口径弾を狙撃銃に採用して敵に発砲したのに反動でぶっ飛ぶくらいしかなかった。

その程度で済ませるほど装備の材質や反動の機能を考慮していたという事だ。

つまり、それを導き出せる知識や材料力学、ツテ、財力、開発監督の技能があったのだ。

 

 

「頑張れ!!」

「頑張って!!」

 

 

何も知らない民衆たちは、対人立体機動部隊を応援していた。

それどころか、避難誘導を忘れてオルブド区の駐屯兵たちまでもが彼らを声援を送っていた。

砲兵も兵士も役立たずの今、彼らの銃撃だけが飛来物を守る盾となったからだ。

 

 

「ヒストリア・レイスの名に懸けてここを守り抜け!!」

「「「ハッ!!」」」

 

 

口にしていて恥ずかしい事を何度も叫ばないといけないカーフェンは…。

さっさとケニーがあの巨人を討伐しないかと今か今かと待っていた。

4個班で運用される16門のガトリング砲ですら時間稼ぎにしかならないのだから…。

 

 

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「というわけよ!」

 

 

ケニー・アッカーマンは包み隠さず調査兵団に報告した。

自分たちが運用する飛び道具は散弾銃以外フローラが設計したものだと。

そしてガトリング砲と対巨人狙撃銃で飛来物を撃ち落としていると…。

 

 

「え?」

「何言ってんだ…」

 

 

104期南方訓練兵団出身の同期たちはフローラがそんな事をしていたなんて想像だにしなかった。

鎧の巨人をぶっ殺すと言いながら各地でトラブルを起こす問題児としか思っていなかった。

今まで猛威を振るっていた飛び道具がフローラ特製だと知って現実味がなかった。

だってあいつは、双剣で巨人を討伐しまくるベテラン兵士としか思っていなかったから…。

 

 

「嘘だろう…そんな事があり得るわけが…」

 

 

ハンジ・ゾエは、フローラが独自の立体機動装置を装備していたのに気付いた。

最初は疑問に思ったが、あの時は超新星の新兵だと思って素直に喜んだ。

 

 

『いや、確かにおかしいと思ったけど…』

 

 

すぐにその短剣型立体機動装置が憲兵を中心に配備されたのを見て…。

『あっ、試験テストをしてたんだな』…と考えて疑う事は無かった。

実際、短剣型立体機動装置はフローラが生み出した物ではない。

だからこそ新兵器の違和感に気付かなかったのだ。

 

 

「……やはり、死ぬなと復唱させるべきだったか」

 

 

第57回壁外調査を開始する前にフローラに死ぬなと命じたエルヴィンは…。

彼女が絶対に死なないと復唱させなかったのを後悔した。

 

 

「どんだけ隠していたんだあいつは…」

 

 

ここ数日でフローラが隠していた存在を大量に知らされたリヴァイは頭が痛くなった。

ケニーが身に付けている装備どころか、その部下もフローラが関与した兵器を使用していたのだ。

 

 

「エレン…」

 

 

真実を知ったミカサはエレンの顔を見た。

 

 

「あいつ…なんで……オレなんかの為に…」

 

 

エレンは、今まで自分の事で精一杯で誰かを気にする余裕が無かった。

だからこそ、フローラは自分に手帳を託したのだと理解した。

例えどんな時でも独りではないと…。

傍には自分が居るからエレンは独りぼっちではないと…。

意志を託した以上、フローラは自分と共にあるという意志表示でもあったのだ。

 

 

「そろそろ壁からベイビーが見えて来るぜ!!さあどうする?逃げるか戦うか?」

「戦うに決まってるだろ!!」

「良い返事だぜ」

 

 

ケニーはエレンを挑発して見事にエレンはそれに乗った!

絶対にロッド・レイス巨人を討伐してみせるという覚悟を見たケニーは嬉しがった。

 

 

「作戦はこうだ!」

 

 

エルヴィン団長から本来の作戦を聴かされたケニーは計画を見直した。

まず、蒸気で狙えない巨人に向かってヘビーカノン隊が砲撃をする。

そこで巨人を討伐できなければ巨人化したエレンが大量の爆薬を巨人に投げつける。

そこでも巨人を討伐できなければ、ヘビーカノン部隊が砲撃をする。

単純な話であった。

 

 

「な?これで巨人が討伐できるってもんよ」

「本当なのか?」

「ロッド・レイスの居場所は特定できるならやれるって!」

 

 

あくまでもケニーは自分が戦うつもりはないと告げていた。

だが、リヴァイは知っている。

奴が嘘を付こうとする時は、右踵をトントンと地面を叩く仕草をする事を!

何か隠していると分かっているからこそ追及できなかった。

 

 

「おいケニー!!」

「ああん?振動と爆音で聴こえねぇな!」

「お前…」

「聴こえねぇな!!」

 

 

リヴァイの呼びかけを無視したケニーは部下を2つの班に分けて展開させた。

その後は、鼻歌を歌いながらヤークトメッサーを回して気分転換をしていた。

壁に寄り掛かって振動を感じながら懐かしい記憶を思い出して笑っていた。

 

 

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「来たぞ!!」

 

 

50mの壁に阻まれた暴風が反射し、巨体から出ている蒸気を巨体の内側に向けて吹き飛ばす。

一時的に積乱雲と化した蒸気が後方に向かって流れたおかげで巨人はその姿を現した。

壁に触れようとしていた褐色の巨人は、確かに異形だった。

 

 

「予想通りだな」

「あぁ、俺の予想通り、顔面が削れていたか」

 

 

胴体が壁を乗り上げてようやく壁を掴めた異形の巨人の顔は抉れていた。

それどころか、50mの壁から飛び出した高熱の内臓を垂らしていく。

これ自体は、エルヴィンが予想した通りではあるが、それだけでしかない。

空気に当たって急激に冷えたせいかまたしても弾ける音と共に蒸気で巨体を隠した。

 

 

「野郎共!!撃ちまくれ!!」

 

 

ケニーは音響弾を空に向かって撃ったと同時に砲撃が始まった!

鎧の巨人の装甲を真正面からぶち抜ける榴弾が巨人の両手に向かって飛んでいくいった!

最初の一斉砲撃は蒸気に邪魔されたが、散弾と化した硬質化で生まれた結晶は更に進撃する!

脆くなっていた両手を大きく破損させて巨人は前めりにバランスを崩す事となった。

 

 

「今だ!!」

 

 

雷が50mの壁の上に落ちたような光と爆音と共にエレンは巨人化した。

そして壁上に置いてあったプレゼントを抱えてロッド・レイスの顔面に向かって走り出す。

巨人という肉鎧があっても、異形の巨人が発する蒸気は短期間しか耐え切れない。

 

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

 

だからこそ絶叫を出しながらエレンは全速力で走る!

揺れで避難できない民衆は、50mの壁を走る巨人を目撃した。

説明口調で状況を解説する中央憲兵たちを無視して…ただひたすらにエレンを見つめていた。

 

 

『当たりだ!!』

 

 

一斉砲撃の爆風で一時的に蒸気が晴れたおかげで化け物の顔が見える。

灼熱の溶岩の影に隠れながら脳髄や口腔の一部が露見していた。

団長の賭けの通り、エレンは担いでいた爆薬セットを投げ込んで急いで撤退した。

灼熱の環境に放り投げられた爆薬はすぐさま着火し、大爆発を起こした。

いくら表皮が頑丈でも内部から大爆発をすれば、有効打を与えられる。

それを証明する様に巨人の頭は木っ端微塵になって上空に向かって飛んでいった。

 

 

「これで終わりだ!!全弾撃ち尽くせ!!」

 

 

カーフェンの号令により、ガトリング砲を運用する班と狙撃班が一斉に銃撃を繰り出す!

街の中へと飛んでいく肉片をガトリング砲の銃弾の雨が撃ち落していった!

 

 

「どうだ!?」

「ダメです!!まだうなじが巨体に残ってます!!」

 

 

エルヴィンの質問に父親が残した指に触れているヒストリアは返答した。

さきほどの大爆発はあくまで頭を吹っ飛ばしただけで有効打にはならないと!

そしてうなじを破壊できなければ巨人は再生してしまい攻撃が無意味になると!

 

 

「クソ!!揺れが!!」

 

 

未だに巨人の背中では大噴火が起こっており、肉片が後方に向かって飛んでいく。

今のところは壁内に飛んでこないが、地面に激突する際の振動でついに建物に限界が来た。

 

 

「ぎゃあああああああ!?」

「助けてェ!!」

 

 

オルブド区にあった建物が音を立てて崩壊を開始したのだ。

病院に設置された大砲も崩壊に巻き込まれて兵士ごと瓦礫の山に埋もれた。

 

 

「退避しろ!!はや…!」

 

 

街の半数がドミノ倒しのように一斉に崩壊して展開していた兵士たちの命を奪っていく。

エレンは50mの壁上から街が崩壊する光景を目撃する羽目になった。

 

 

『あそこにどれだけの人が居たんだ!?』

 

 

巨大な化け物を倒したつもりでいたエレンは建物の崩壊を見て絶望した。

これほど大規模な倒壊だと民間人が巻き込まれたと思ったからだ。

 

 

「エレン!!まだ終わってない!!」

 

 

前方から立体機動で飛び出してきたアルミンの言葉を聴いてエレンは止まった。

すぐに後ろを振り向くと…なんと頭を再生しようとしている異形の巨人の姿が!!

このままでは5分も経たないうちに元通りになると思うほどの再生力を見せていた!

 

 

「おいそこの!!お前だよ!!黒髪の憤怒の巨人!!」

 

 

次に声をした方を見落とすとケニーが居た。

何故か自分に向かって叫んでおり、一瞬、八つ当たりなのかとエレンが考えてしまった。

 

 

「いいか!?もう一回砲撃をする!!これが最後のチャンスだ!!」

 

 

ヘビーカノンの砲身の在庫が尽きかけていると自覚しているケニーは最後に賭ける事にした。

それはうなじに向かって一斉砲撃をして巨人を仕留めようというものだ。

さっきは強大な頭のせいでうなじを狙えなかったが、今なら狙えた。

 

 

「ヒストリア、ちゃんとうなじの様子を見守ってくれよ!!」

「は、はい!」

 

 

そしてケニーはそれでも巨人を倒せないと考えた。

やはり、肉を斬らないと相手を仕留めた感覚が掴めないケニーは…。

この手でロッド・レイスの巨人を討伐してやろうと最初から考えていた。

 

 

『これはリベンジだ!!』

 

 

かつてケニーは、巨人の力に屈してしまった。

だから今でも巨人に対して恐怖を感じている。

むしろ、なんで調査兵団は恐怖に負けず理想を追い求めるのか全く理解できなかった。

だが、今回でそれにケリをつけてやろうとしたのだ!

 

 

「エレン!お前は待機しろ!!」

 

 

更に命令を受けたエレンは困惑した。

今度こそ自分が突っ込んで巨人を討伐するべきではないかと考えていたのだ。

 

 

「お前の出番はすぐにある!!待ってろ!!」

 

 

ケニーは、走馬灯のように今までの記憶が思い出せる。

死がこうして近づくとどうしても、逃げたくなってしまう。

それでも必死に耐えた彼は、何食わぬ顔でエレンを指示した。

 

 

「よし!!世界で一番大きな赤ちゃんの誕生祝いに祝砲をしてやれ!!」

 

 

再度、音響弾を撃ったケニーの合図でヘビーカノン班がうなじに向かって一斉砲撃をする!

何発かは蒸気に邪魔されて誤爆したが、それでも大半は蒸気の中に飛び込んだ!

巨人の体内で発生した大爆発に誘爆されたのか、さきほどよりデカい爆発が発生した。

 

 

「ヒストリア!!うなじは!?」

「上空に居ます!!」

「どこだ!?指を差せ!!」

「あそこです!!」

「どこだ!?」

「あの三角っぽい赤い物体です。ピクピク動いてます」

「あれか!」

 

 

ケニーはヒストリアに散らばる肉片にうなじはあるかと尋ねた。

何度かの会話の応酬により狩るべき肉片を発見した。

薄目で方向を確認したケニーは巨人化したエレンの顔を見る。

 

 

「おい!!巨人野郎!!」

 

 

ケニーはエレンに命じる!!

 

 

「俺様を今指出した場所に向かって全力で投げろ!!」

 

 

遥か上空に飛び散る肉片に向かって投げつけろというのだ。

 

 

『え?』

 

 

聞き間違えたかと思ったエレンは一瞬だけ動きが止まった。

 

 

「この装備は耐火装備になってる!!そう簡単には発火しねぇ!!」

「え?なんで?」

「しらねぇよ!!フローラが立体機動で火達磨になったとか言ってたが詳細は知らん!」

 

 

アルミンに質問されたケニーにだって理由など分かる訳が無かった。

着火した刃のせいで火達磨になったなど予想するのが無理だった。

 

 

『グリズリー班長!お願いがありますわ!』

 

 

フローラは最高傑作となった短剣型立体機動装置に様々な試作を施した。

特に無駄そうだったのは、装備全体を耐熱コーティングをするというものだ。

最初にそれを聴いた時に技術班は全力で否定したがフローラは何故か耐火装備を求めていた。

 

 

『どうせなら燃える刃も装填できるようにしたいの!!』

 

 

その原因は炎を帯びる刃を治める鞘を増設しようとしていたのだ。

 

 

『あっ、ダメだわ…バランスが崩れて立体機動がうまくいかないわ』

 

 

ところが鎧の巨人の装甲を貫通する刃と炎を帯びる刃を収める鞘を増設できなかった。

短剣を収める鞘に遥かに長い鞘を後付けできる訳がなかったのだ。

 

 

『仕方ないわ…別の鞘を改造しましょう』

 

 

獣の巨人を焼く刃と鎧の巨人の鎧を裂いた刃は別の改造した鞘に移された。

 

 

『グリズリー班長、またの機会に使用するのでそれまで預かっていてください』

 

 

新型の刃に興味があったフローラは専用に改造された鞘を選択した。

なので装備を開発した技術班に短剣型立体機動装置を預けてユトピア区に向かった。

そして彼女は戻って来ずにせっかく耐熱仕様にしたヤークトシリーズは倉庫に眠るかと思われた。

 

 

『カタログスペックでは分からん事があるだろ?俺が試してやるよ。嬢ちゃんの代わりにな!!』

 

 

試験運用と実戦テストをしてくれると豪語するケニー・アッカーマンと再会するまでは…。

 

 

「何を躊躇っている?俺様だって世界を救う救世主になりてぇんだよ!さっさとやれ!!」

 

 

そのケニーは、彼女の言葉を信じて前に進もうとしていた。

最後の障害は、ケニーを投げる手筈になっているエレンの行動次第だった。

 

 

「おい!!早くしろ!!フローラちゃんの装備を信じられないのか!?」

 

 

フローラの名前を出されたエレンは急いでケニーを拾った。

そして思いっきり指定された大空に向かって投げた!

 

 

「ケニー!!やっぱお前!!」

「あーばよ!!ガキンチョ!!」

 

 

 

ここでリヴァイが止めようとするが後の祭り!

ケニーは憤慨するリヴァイを見て笑いながら大空に向かって飛んでいく!!

 

 

『うおおおおおおおおお!!』

 

 

動体視力ですら追い付かない速度にケニーは歓喜する!

ようやく肥溜めみたいな場所から抜け出して自由を謳歌する事に!!

 

 

『なんてな!!』

 

 

すぐに自分の使命を思い出したケニーは目標を探す!

大量の肉片を上空から見下ろすと……何故か少しずつ大きくなっている肉片を発見した!

 

 

『行くぞ!!ロッドのとっちゃんよ!!』

 

 

ヤークトハーケンと呼ばれる立体機動装置から悲鳴が聴こえる!

既にフローラが想定した限界を当に超える動きをしてきたのだ。

このまま立体機動をすれば、「破損するぞ」と警告している様であった。

 

 

『いくんだよぉ!!』

 

 

だが、ケニーは止まらない!

巨人に勝てなかった過去の出来事を上塗りするように突っ込んだ!

近くにあった肉片にアンカーを突き刺して高速で巻き取る!

すぐにアンカーを外してもう片方のアンカーを別の肉塊に突き差す!!

 

 

『ぎゃははははは!!』

 

 

リヴァイに撃たれた左脇腹が立体機動に耐え切れずに傷を広げていく。

背中ではバキッと嫌な音がした。

そして操作装置に取り付けてあるメーターはガスの残量が尽きかけていると知らせる。

…が、ケニーからすれば知っちゃこっちゃなかった!

 

 

「すげええええええ!!」

 

 

落下する速度と高速で行なう立体機動が組み合わさって一瞬だけ音速を越えた。

あっという間に彼は、巨人の心臓といえる肉片に近づいた!

ぶくぶくと膨れ上がっている肉片は、人間の頃のロッド・レイスの体型を思い起こす。

 

 

「じゃあな!不自由な奴隷さんよ!!」

 

 

ケニーはアンカーを肉片に突き刺して回転斬りを行なった!

とんでもない速度でワイヤーを巻き取る立体機動装置は自分が壊れているのに気付かないらしい。

皆の想いを乗せてケニーは思いっきりヤークトメッサーで肉片を切り裂いた!

 

 

『繝偵せ繝医Μ繧「縲∝菅縺ッ閾ェ逕ア縺ォ逕溘″縺ヲ縺上l縲ゅ◎縺励※蟶梧悍縺ッ蠢倥l縺壹↓縺ェ』

 

 

ケニーは肉を斬り裂いた時に何かが聴こえた。

だが、彼には理解する事は出来なかった。

肉片が発した蒸気が右半身を掠めて大火傷負ってしまいそれどころではなかったのだ。

 

 

『父さん…』

 

 

ケニーが残した父親の指を触れていたヒストリアだけが聴き取れた。

「ヒストリア、君は自由に生きてくれ。そして希望は忘れずにな」…と。

他に何かを呟いていたみたいだが、彼女はこれ以上聴き取れなかった。

最初で最後の親子喧嘩は、最期に正気に戻った父親の声をもってして終わりを迎えた。

 

 

「まだだ!!まだ終わってない!!」

「ヒストリア!?」

 

 

そして最後にやるべき事を理解したヒストリアは、同期の制止を振り切って立体機動に移った。

 

 

「うおっ…やべぇ」

 

 

見事に異形の巨人を討伐したケニーだったが、まだ終わる気はない。

このまま地面に激突してぺちゃんこになるなんて末路など認められなかった。

なにより消滅しつつある肉片とはいえまだ物理的な干渉が存在する。

 

 

「まだか!!」

 

 

可愛い部下達が運用するガトリング砲が自分の居る場所に砲口を向けていたのだ。

地上からようやく目視できる高度まで落下した肉片に向かって銃撃が開始された!

 

 

「全く……きついな……おい…」

 

 

火傷と酸素が欠乏して意識が朦朧とするケニーは何とかして上へと向かっていく。

まだ無事な肉片にアンカーを突き刺して無理やり上体お越しをして少しでも速度を落としていく。

その際にアンカーは外したが、ワイヤーは巻き取れなくなった。

 

 

「マジかよ…」

 

 

グルグルと視界が回りながらケニーは最後まで足掻いた。

地上まで残り30mという所で残ったガスを噴出し、落下速度を抑えた。

それでも即死するほどの速度で地面に叩きつけられる…はずだった。

 

 

「させない!!」

「……良い香りだぜェ」

 

 

横から飛び出してきたヒストリアにぶつかったケニーはそのまま滑空する。

彼女の私服は特製の香水が漂っており、少しだけ彼の苦痛を和らげた。

そのまま2人は裏門付近にあった天幕に向かって落下した。

 

 

「あっ!?」

「ぐえ!?」

 

 

その下には大量の布団が置かれた荷台があった。

運良くそこに落下した彼らは避難した民衆の目前で動きを止めた。

 

 

「アッカーマン隊長!?」

 

 

対人立体機動部隊が何事かと確認したら隊長の姿が見えた。

急いで駆けつけるが、どう見ても致命傷にしか見えなかった。

 

 

「馬鹿ですか!?なんで死にかけてるんですか!?」

「……なんだよ、鉄仮面の…お前も…そ、顔……のか」

 

 

泣きながら抱き締めるカーフェン副長を見たケニーは笑った。

表情を一切変えない事に定評あった女が初めて見せた涙に笑って答えた。

 

 

「ケニー」

「……ああ、懐かしい顔だな。少しは成長したか?」

 

 

リヴァイもまたケニーを必死に追いかけて来た。

礼拝堂の地下道では殺し合った仲だが彼にとってケニーは偉大な人物だった。

だからこそ訊きたい事が山ほどあるのだ。

 

 

「リヴァイ、待て」

「何を?」

「ヒストリア、後は頼んだ」

 

 

だが、ケニーはその前にやる事があると告げる。

ヒストリアはその意図を察して立ち上がって民衆を目視した。

 

 

「誰だ?」

「怪我をしているのか?」

「所属は?」

 

 

巨人が討伐されたと直感で理解した民衆は目の前の男女が気になってしょうがない。

誰もが地上に落下してきた人物に注目していた。

 

 

「ヒストリア・レイスです。この壁の真の王です。さきほど巨人を討伐いたしました」

 

 

だから彼女は自分の正体を告げる。

 

 

「ヒストリア様ー!」

「ヒストリア様だ!!ご無事でなによりですー」

 

 

対人立体機動部隊の隊員たちは棒読みで彼女を讃えた。

すると民衆たちは、自分たちを救ってくれた恩人が目の前に居ると理解した。

 

 

「隊長、移動しましょう。ここでは人目に付きすぎる」

「同感だ、さっさと移動しよう」

 

 

カーフェンの意見に賛同したリヴァイは、ケニーを抱えてその場を去った。

涙ぐんだ民衆から胴上げされるヒストリア王を見送る事も無く…。

 

 

「なんだよ…せっかく英雄に慣れると…思ったのに…」

「自分勝手な奴は、誰にも評価されませんよ」

「特に人殺しなんてな、バレる前にずらかるに限る」

 

 

ケニーの軽口をあしらった彼らは前へと進んでいく。

あれほど揺れていたオルブド区も今となっては歓声が鳴り響く絶叫ポイントとなっていた。

ケニーの遺言を聴きたい彼らは、少しでも静かな場所に向かっていたのだ。

 

 

*1
発砲時に砲を安定させる為に地面に食い込ませる装置

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