進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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10章 恐怖と死の螺旋を乗り越える者に血と絶望を残す時代
117話 革命の代償


ここは、人類が暮らす領土の中でもっとも安全な場所。

少なくともここが荒れるのは人類が滅亡する瀬戸際であると確信できる。

…はずだった玉座の間は、悲惨の一言に尽きる。

さきほどまで生きていた肉塊が辺り一面に散らばり壇上には兵士だった骸が転がっていた。

 

 

「ナイル!!しっかりしろ!!」

「お、お前がここまで感情的に…なるとはな」

 

 

エルヴィン・スミスは必死に同期だった憲兵団師団長の傷を左手で抑えていた。

後方から奇襲された際にナイルが足払いしてエルヴィンは転倒、散弾を回避する事となった。

代わりにナイルが負傷してしまい、今に至る。

 

 

「調査兵らしく見捨てろ。お前らしくない」

「下手に動けないんだよ…それより左腕以外に負傷したか?」

「他は大丈夫そうだが、今どうなってる?」

「敵兵と兵士が交戦している。音が減ったら移動するぞ」

 

 

散弾がぶっ放された後、何者かによって信煙弾が放たれて玉座の間は煙に包まれた。

その中で剣戟と連発する発砲音、うめき声と悲鳴と断末魔の叫び。

何が起こっているのか分からないが、下手に動くくらいなら止血した方が良い。

そう、判断したエルヴィンは、必死に同期の傷を止血する事しかできなかった。

 

 

「グボアッ!?」

 

 

誰かが殺されたようだ。

 

 

「ぎゃあああ!?」

 

 

窓ガラスが激しく割れる音と共に誰かの悲鳴が聞こえた。

その影響からか、室内に残っていた煙が急速に減っていった。

 

 

「参った!投降する」

「……ああ、そうか。それが賢明だ」

 

 

穂先を突き付けられて短剣型立体機動装置を装備した兵士が投降をしたようだ。

柱に背を付けながら両手を挙げていた。

 

 

「知り合いを殺すのは、いい気分にはなれない。君は良い選択をしたよ…」

 

 

返り血を浴びたエルティアナ女史も何か思うところがあったのだろう。

構えた穂先を相手の首元から遠ざけて払うように構え直した。

そして後ろを振り返った瞬間、敵兵が殺意剥き出して飛び掛かった!

 

 

「ああ、そうだ。いつだってそうだ」

 

 

が、エルティアナは身を翻して構えた槍を薙ぎ払った。

武器のリーチ差によって薙ぎ倒された敵兵は何とか立ち上がろうとするが!

 

 

「ぶほっ!?」

 

 

首を槍で貫かれてしまい必死に首元を抑えようとする!

 

 

「人はいつも選択を間違える!!こうやってな!!」

 

 

エルティアナは、そのまま押し倒して穂先を更に奥に刺してグリッと一捻りして止めを刺した。

完全に喉を潰されて呼吸困難になった兵士は、そのまま意識を失って二度と動く事は無かった。

文字通り息の根を止めた女憲兵は苛立ちを隠せないようで穂先に付いた血を激しく払う。

 

 

「さすが、憲兵団最強の化け物…」

 

 

誰かがこう評したが間違ってはいない。

シガンシナ区防衛戦と1年後のウォール・マリア奪還作戦を生き抜いたベテラン憲兵なのだから。

顔面に巻いた包帯に隠された傷は、勲章と屈辱の証である。

色々経験したエルヴィンも一度だけ彼女の素顔を目撃したが、思わず顔を背けたくなったほどだ。

 

 

「閣下、抵抗する武装集団の鎮圧を完了しました。お1人で立てますか?」

「…あぁ、なんとか」

 

 

足払いされて無理やり地面に伏せられたザックレー総統はその元凶に返答をする。

 

 

「うわあああああ!?ああっ!!?あああああああああああああああああ!!」

「誰が逃げていいと言った」

 

 

ローデリヒ枢機卿が奇声を出して逃亡を図るが投擲された槍が左肩に刺さって転倒した。

総統局の監査副長は、些細な問題どころか監査外の人物にも厳しいようだ。

あのフローラをビビらせて1万の兵力を指揮した女は伊達じゃなかった。

 

 

「クソッ!起きろ老いぼれ!!」

 

 

追い詰められたアウリール大臣はお飾りの玉座に蹴りを入れた。

 

 

「ほっ!?なんじゃ…!?飯か!?」

「この役立たずが!!」

 

 

すると玉座に座っていたフリッツ王は、自らただのボケ老人だと証明した。

さきほど目の前で殺陣(たて)どころか殺し合いが勃発していた事すら気付かなかったようだ。

身を挺して守っていた近衛兵すら震えていたのに豪胆がある王だな…思ったが何のことはない。

そもそも威厳あるその姿も支配者たる貴族たちに徹底的に指導された者の末路であった。

 

 

「何をしている!!中央憲兵と大罪人を取り押さえろ!!」

「は、はい!!お前ら急げ!!」

 

 

呆然としていた兵士たちであったが女将校に叱責されて大慌てで身柄を取り押さえる事となった。

エルヴィンを連行しようとした近衛兵たちは戦意を喪失しており、抵抗の意志はない。

あっさりと人類に仇なす者たちを取り押さえたが、まだ問題点が山積みである。

 

 

「被害現状を報告せよ」

「死者16名、負傷者14名、ジークフリート司令が戦死し、ナイル師団長が左肩を負傷しました。またピクシス司令がジークフリート司令に庇われた際に「負傷者の手当てを急げ!」ハッ!!」

 

 

ザックレー総統が率いた兵士の大半は上官を庇ったせいで散弾で砕け散った。

そのおかげで前方に居た憲兵や駐屯兵団のお偉いさんは負傷のみで済んだ。

しかし、この痛手は大きい。

総統に従う兵士を多く失ったばかりか、後方に居た部隊も救援の為に突撃し、犠牲者が出た。

更に王政府に反抗した高官らが大怪我を負ってしまったので今後の政権運用に支障が出る。

 

 

『少なくとも憲兵団は貴族派閥が上に立つか、ああ、面倒…』

 

 

ナイル・ドーク師団長の傷を見てエルティアナは、療養する為に彼は左遷されると感じた。

そして次の憲兵団のトップの後釜は、ローグ・カルテンブルンナー副師団長となる。

調査兵団の廃止を強く掲げ、多くの貴族と交流がある保守派でも貴族派閥に属する存在だ。

つまり、調査兵団は更に存続が危うくなる上に兵団政権も彼の派閥ばかりになるのが予想される。

経験から今後の政権運用を一瞬で予想できてしまったエルティアナは溜息を吐く。

 

 

「閣下、ここはまだ危険が潜む伏魔殿です。すぐさま安全なご自宅に護送させて頂きます」

「ああ、分かった。そうしよう」

 

 

とはいえ、まだ伏兵が潜んでいる可能性がある。

なにせ中央第一憲兵団の主力の大半がどこかに出払っているのだから。

全てが終わるまで彼には安全な場所で待機させる必要があった。

 

 

「エルティアナ監査副長!」

 

 

しかし、更に問題を抱えてファルケンハイン班長が駆けつけて来た。

 

 

「駐屯兵団第二師団に不穏な動きがありと報告がありました!」

「は?それだけじゃ分からない。詳細を報告しろ」

 

 

結論から述べられても意味が分からないエルティアナは説明を求めた。

そしてファルケンハイン班長の説明を聞いて拳を握り締めた。

 

 

「ちょっと耳を貸せ」

 

 

そこでエルティアナは彼に何点かのお願いをした。

あくまで保険ではあるのだが、やらなくて大惨事になるよりマシだと考えた。

彼女の話を聞いたファルケンハインは頷いて自分の使命を果たそうとする。

 

 

「エルヴィン・スミス、君は総統をご自宅まで護送するまで馬車を同乗してもらう」

「さっきまで罪人だった私が警護しろと?」

「それもあるが、残念ながら調査兵団に課せられた罪を撤回するのは私でも難しいのだ」

「そうですか…」

「調査兵団と駐屯兵団が交戦したのは事実だからな。何か手を打つ必要がある」

 

 

つまり、エルティアナはエルヴィン団長がそのままだと危険だと判断。

むしろ、ザックレー総統に守ってもらう形で伏魔殿を出ろと言っていた。

 

 

「そうそう、その後は、そのまま馬車に乗ってもらいオルブド区に向かってもらう」

「オルブド区に?」

「レイス辺境伯の領地に指揮系統が不明な部隊が複数、展開されていると情報があってな」

「つまり私に先行して調査しろと?」

「こういうのは得意であろう?壁の外に出て何かを証明したい君ならば…」

 

 

エルヴィン・スミスとエルティアナは旧知の仲だ。

いわば、エルヴィンの目的を知っている数少ない人物だからこそ彼女は煽る。

調査兵団が人類にとって有益の存在だとここで示せと…。

 

 

「承知した」

「君の働き次第によって人類がどうなるか決まる。良い方向に転がる事を期待しているよ」

「このような大任に命じて頂き感謝いたします」

「ならば、速やかにザックレー総統を護送しろ!ファルケンハイン、お前もだ!」

「「ハッ!」」

 

 

エルティアナから通行許可証と書簡をもらったエルヴィンはザックレー総統に同行した。

 

 

「どうだ?怖かったか?」

「彼女の事ですか?それともさきほどの茶番劇の方でしょうか?」

「君はどっちが怖いと思った?」

「エルティアナ監査副長の方が怖いですよ。さすが地獄を生き抜いた事はある」

 

 

馬車に同乗して扉を閉めたザックレー総統の問いにエルヴィンは本音を告げた。

彼女の本心は、自分に期待しているようだが、失敗したらあっさりと切り捨てる。

そんな感じがして、レイス辺境伯の領地で発生している問題を調査しなければならない。

そう思わせるほどの覇気が感じられた。

以前、その目線を見てた存在が居たのだが、誰だったか。

 

 

「…閣下、私には分からないのです」

「何がだ?」

「人類を思えば、元の王政に全てを託すべきだと考えが消えないのです」

「あれほどの大惨事は予想できなかったからな、無理もない」

 

 

いくら腐敗しきった王政とはいえ今まで人類をここまで存続させてきた。

いや、中央第一憲兵団などの暗部によって延命できたといえる。

破綻しないシステムなど存在しないし、それほど人類は限界だったという証明にもなる。

例え人類を半数犠牲にしても、人類が生き残る事ができるならその方が良い。

 

 

「人類が尊いなら…自分の命と責任を放棄するべきだったと思うのです」

 

 

エルヴィン・スミスという男は博打しかできない人間だ。

同期や先輩を見捨てたどころか、大切な物をたくさん捨てて今日を生きる人間である。

彼には明日が見えない以上、先見の明がある人物に憧れを抱いている。

 

 

「君の使命は相変わらず辛いな、死んだ方が遥かにマシに見える」

 

 

ザックレーには、彼は不治の病に侵されながら足掻く為に必死に延命している様にも見える。

寝たきりにも関わらず明日を生きたいから無理やり生かされるのを生きていると言えるのか。

自分の夢の為に偽って他者を犠牲にし続ける悪魔を演じているのが疲れたようであった。

 

 

「…総統、何故こちらの険しい道を選んだのですか?」

「…ふむ、私にも考えがあったが…逆に何故、君はピクシス司令に助言をしたのだ?」

 

 

自ら抱える矛盾に苦しんでいると予想したザックレーは、彼の質問を返した。

 

 

「エレンを王政に託して現状から退きたいならピクシスに入れ知恵などしなければ良かったのだ」

「それは…」

「君の部下にも勝手な真似をしなければ済んだ話だろう?まあ、君の気持ちも分かる」

「…えぇ、私は結局、自分の夢を追い求める為に犠牲を出すしか結果を示せない男です」

 

 

人は追い込まれると何かを犠牲にしてでも生き残ろうとするものだ。

足を引っ張ったり、秘密を暴露したりと何かしら爪痕を残そうとするのは人の心理だ。

悪魔と自嘲していたエルヴィンですら人間であると分かってザックレーはほくそ笑んだ。

 

 

「なるほど、エルティアナが君に辛辣な発言をした理由が分かった」

「え?」

「つまり、君に生きてもらう為に建前と使命を与えたのだよ」

 

 

そしてエルティアナが無理難題をエルヴィンに押し付けた理由が分かった。

卑屈になっている彼に対して粋な計らいを示したのだ。

 

 

「そうでもなければ、内戦を引き起こしたとされる男に内戦の危機を調査しろと命じないはずだ」

「ははは、そうかもしれませんね」

「君はまだ良い方だぞ。彼女は武力でストヘス区の連中を叩き潰す気だ」

「ああ、確かに…そう考えればかなり気を遣ってくれました」

 

 

レイス辺境伯の領地には、ストヘス区を通った方が速く現場に辿り着ける。

それにも関わらず、わざわざ遠回りにオルブド区に通れた命じたのは理由がある。

エルティアナは、カラネス区に戦争を仕掛けようとするストヘス区を黙らせにいったのだ。

 

 

「また血が流れますか」

「そうだな」

 

 

王政に革命を仕掛けて政権交代させたという前例を作った罪は大きい。

これから政敵や反乱因子が自分たちに革命をしてくる可能性がある。

よって武力で物理的に黙らせる必要があり、彼女はそれを披露しに行くと理解してしまった。

 

 

「さて、君の質問に答えようか…私が何故、王に銃を向けたのか…それは」

 

 

ザックレー総統は、エルヴィン・スミスに自分の本音を聴かせる事にした。

 

 

「昔っから王政(ヤツら)が気に喰わなかったからだ」

「…はっ?」

 

 

てっきり賢明な理由かと思ったエルヴィンは、自分が聴き間違いをしたのかと勘違いした。

 

 

「ムカつくのだよ。偉そうな奴と偉くないのに偉い奴が…イヤ…もう、むしろ好きだな」

 

 

ザックレーという男は、復讐に生きる人物だった。

エルヴィンと同じように他者を偽り、自分さえも偽り続けた。

 

 

「思えば、ずっとこの日を夢見ていたのだ。人生を捧げて奴らの忠実な狗に徹したのも…」

 

 

全ては偉そうな奴らをギャフンと言わせたいが為にずっと我慢してきた。

 

 

「クーデタの準備こそが生涯の趣味だと言えるだろう」

 

 

全ては、あの一瞬の出来事を見たいが故にザックレーは自分を欺き続けた。

 

 

「君も見たかっただろう?奴らの吠え面を!偽善者の末路を!!」

 

 

横で聴いていたエルヴィンは何て発言するべきか迷った。

賢明で博識な人物かと思われた総統が生き生きとして自分に感想を聴いてくる。

おそらく彼が率いていた兵士どころか副官のエルティアナですら正体に気付かなかっただろう。

さもなくば、彼女は捕縛した高官の1人くらいこの馬車にぶち込んだと思うから。

 

 

「私もフローラみたいに彼らを揺すりたくてな。色々手を打たせたもらった」

「今、何と仰られました?」

 

 

聞き捨てならない発言を聞いて思わずエルヴィンは素で突っ込んでしまった。

 

 

「ん?フローラが奴らを脅迫して枢機卿の暗殺を謀ったと知らされていないのか?」

「いえ、初耳です」

「なるほど、レイス辺境伯に唆されたフローラが暗躍していた事も知らんのか」

 

 

エルヴィン・スミスという男は、何かしら圧力をかけて来る王政府が天敵である。

しかし、頭痛の種は今期入団したフローラ・エリクシアという女による行動の要因が多かった。

彼女を調べれば調べるほど…とんでもない情報が眠っており、考えるだけで頭が痛くなってきた。

 

 

「我々、調査兵団は何も知らされていません」

「あの子が中央憲兵に信用される訳だ。ここまで情報を隠しておったとはな…」

「そこまで我々が信じられなかったのでしょうか…」

「むしろ、皆のお願いをしっかり聞き入れたからこうなったと私は思うがね」

 

 

ザックレーからしてもさすがにエルヴィン団長には話は通したと思っていた。

誰もがフローラの目的は知っているのに断片的にしか彼女の素性を理解していない。

それは凄まじい事であり、未だに全容を悟らせない彼女は確かに王政の暗部からも信用される。

こうやって高官が情報交換をしないと彼女が隠した情報の断片すらたどり着けないのだから。

 

 

「まぁいろいろあったが、期待以上のパフォーマンスだった。あれだけ下等と見下してゴミの様に扱ってきた彼らが本気の殺し合いを目撃して失禁するとはな!」

 

 

伏兵を潜ませて反乱勢力を掃討してもらうつもりが、返り討ちに遭うとは思わなかったらしい。

その証拠に王政の真の支配者たちは玉座の後ろに隠れてガタガタと震える事しかできなかった。

おまけに「団結」をいつも口にする枢機卿が真っ先に同僚を見捨てて槍に刺さるとは滑稽だった。

あの時に笑いを堪えるのが必死だったザックレーは本音を話したせいで口が止まらなくなった。

 

 

「だが、本番はこれからだ。なにせ何十年もの間、奴らに屈辱を与える方法を考えたからな!」

 

 

ザックレーの人生の集大成がすぐそこまで迫っている。

副官が煩いのでしぶしぶ自宅に戻るが、すぐに奴らに自分の感情をぶつけるつもりだ。

そう考えた彼は、さすがに一人で盛り上がり過ぎたと感じて少しだけ反省した。

 

 

「つまりだ、君らが動かなくても私はくたばる前に反旗を翻すつもりだったのだよ」

「閣下のおかげで何とか生き延びる事ができました」

「例には及ばんよ、王政から反撃を喰らって玉砕するのは覚悟していたからな」

 

 

さすがに奇襲された時は彼も驚愕したが、革命が成功しない未来も予想していた。

なのでフローラ経由で入手した情報を部下たちにばら撒く手筈もしていたのだ。

しかし、革命が成功してしまった以上、ザックレーは自分の夢を追い求める事にした。

 

 

「私はこの革命が人類にとって良いか悪いかなど考えてはおらぬ、どうだ?大した悪党だろう?」

 

 

部下たちには建前は伝えたが、結局それが本音であった。

馬車を運転するファルケンハイン班長にも声が届いていたが、彼は何も聴かなかった事にした。

これが民衆や各兵団の長に知られてはまずいと理解しているからだ。

 

 

「夢を追い続けた私には君も同じ悪党に感じるがどうかね?」

「…えぇ、その通りです」

「私と同じ様に人類の命運よりも個人を優先させるほど何かがある」

「ご明察通りです」

「君と仲が良いエルティアナの発言からすると“夢”があるようだな?それもとびっきりの…」

 

 

エルティアナが何かを察しているのはザックレーも気付いていた。

しかし、当人たちがそれが何なのか教えてくれなかったが、さっきのやり取りで判明した。

 

 

『壁の外に出て何かを証明したい…か、君にも長年抱えて来た夢があるのだな』

 

 

調査兵団は壁の外にある未知なる領域を知りたいという願望が強い。

巨人から人類を守る観念で王政府がわざわざ壁外に興味を持つのを禁止しているのも関わらず…。

だが、わざわざ証明しなくてもいいはずだ。

こういうのがありましたと報告するだけでいい。

つまり、この証明という単語がエルヴィンの夢に直結しているとザックレーは考察したのだ。

 

 

「……自分は、とんだ思い上がりをしています。子供の頃からの夢です」

「私の夢は聴かせてあげただろう?君の夢も聴かせて欲しい」

 

 

ザックレーの要求にエルヴィンは答えた。

父親は教師で自分が幼少期の時、人類の歴史はおかしいとこっそり教えてくれた事を…。

何故、こっそり教えたのか分かっていなかった自分のせいで父が王政に消されたと…。

その時から自分は、壁の向こうに何があるのか、そして父の疑問を証明したいと考えた。

それでも王政によって王都に召集されるまで彼らに希望を持っていた。

 

 

「私には、彼らが守りたかったのは人類ではなく自分の家と地位だと分かりました」

 

 

父親が殺されたのは、壁外に人類を滅ぼそうとする元凶が居たせいではない。

王政の保身によって消されたのだと理解したエルヴィンは彼らに反抗しようと考えたのだ。

…既にフローラがその元凶たちをボコボコにしていたのは想定外だったが。

いや、だからこそ無駄に偉そうだったのかもしれない。

 

 

「彼らなりの正義が無く父の犠牲に正当性が無いと分かった私は再び夢を目指します」

 

 

エルヴィン・スミスは、エレンの実家に地下室に秘密があると知ってしまった。

少しずつ巨人に関する情報が明らかになっていくうえでエレンの父親には謎が多い。

なんでエレンに巨人化能力があるのか、彼はどこから来たのか。

浮かぶ疑問に対してエルヴィンは、とにかく知りたいと思った。

 

 

「私は、エレンを引き連れて彼の実家にある地下室に向かいます」

「それが君の夢か?……違うな、夢を成就させる為の手段か」

「はい、私は父が抱いた疑問を私が自ら知って証明したいのです」

 

 

これが今までエルヴィンが大切な物を捨ててまで前へと進んだ本音だ。

人類を守る気が無い王政を批判したエルヴィンもまた自分の事しか考えていない悪党と白状した。

それを聴いたザックレー総統は髭を触りながら彼の本音を聞いていた。

 

 

 

「私のわがままで人類は、より険しい道を歩まざるを得なくなりました」

「安心しろ、私は君を支援するつもりだ。どうせ民衆も壁外について知りたがっているしな」

 

 

どこか悲観的になっているエルヴィンだったが、ザックレーからみればどうでもよかった。

彼もまた、エルヴィンの件を利用して反乱を企てた大罪人。

武力革命が成功したから勝者になった大罪人だと自覚している。

 

 

「そうだ、君にも私の集大成である“芸術品”を見せてやろう」

「芸術品?」

「ああ、だから死ぬなよ。同志であったフローラに見せられなかった以上、君が目撃するのだ」

「は、はい。分かりました」

 

 

芸術という単語にエルヴィンは首を傾げたが、やる事は変わらない。

自分の存在意義を示せとエルティアナに命じられた通り、オルブド区に向かうだけだ。

もうじき、総統のご自宅に到着する以上、気を引き締めないといけない。

そう、自分の為に建前を作る準備をしないと…。

 

 

「エルヴィン!!」

 

 

ハンジの呼ぶ声を聴いてエルヴィン・スミスは目を覚ました。

時計を見ると午後2時半を差しており、どうやら疲労により寝落ちしてしまったようだ。

 

 

「ああ…そうか、寝てしまったか」

「最近寝てないみたいだね。私に協力できる事があったら何でも言ってくれよ」

「ありがとう、ようやく一息つけた影響か、身体が休みたいようでな」

 

 

椅子に座ったまま背伸びをしたエルヴィンは、再び机と向き合った。

そこにあったのは始末書と計画書、そして今朝の新聞である。

 

 

「今週の活動計画作成は私が代わりにやってあげるよ」

「ああ、頼んだよハンジ」

 

 

よっぽど疲れていると思われたのか計画書を持っていかれたエルヴィンは新聞を見直す。

一面には、【調査兵団の対処は保留、未だ審議が続く】という見出しがあった。

 

 

『被害を受けた駐屯兵団を中心に調査兵団を糾弾しろと多く署名が寄せられたか…きついな』

 

 

調査兵団は駐屯兵団の部隊と交戦するしか生き残る道が無かった。

そのせいでエルヴィンは、駐屯兵389名を殺害した事を明言し、謝罪する事しかできなかった。

当然、その人殺し兵団が未だに裁かれないのは、犠牲者の家族を中心に納得できていない。

 

 

『だが、希望もある』

 

 

逆に何で調査兵団の高官や実行犯が裁かれていないかというと正当性があるせいだ。

同時に公表されたのが駐屯兵団同士で戦争をしようとしていた記事である。

エルティアナは苦心して調査兵団はそれを防ぐ為に奔走していたという建前を作ってくれた様だ。

実際、ベルク新聞社の取材では王政府が調査兵団を過剰に敵視する様に仕向けたと書かれている。

 

 

『なによりディモ・リーブス会長が生きているのが大きい』

 

 

当初、死んだと思われたリーブス商会の会長だったが、オルブド区近郊で監禁されていた。

そのせいで王政が主張したリーブス会長関連に信憑性が欠けてしまい、正当性が失われたのだ。

 

 

『これは王政というよりは実行犯の独断に近いかもしれない』

 

 

リーブス会長が死亡したと判断したのは、服装と持ち物、そして部下の歯型が根拠である。

それほど水死体というのは、発見された時点で身元の判別が難しくなるほど遺体の損傷が激しい。

だからこそ歯の治療痕で部下の死体が本物だったのでまんまと騙されてしまった。

 

 

「にしても、よく生かされていたね…」

「おそらく、事が済んだらフローラの素性でも吐かせる気だったのだろう」

 

 

何度も言うが、フローラ・エリクシアは目的が判明しているのに過程が一切不明というのが多い。

そして一人一人に彼女から機密の断片を託されているせいで更に全容を把握するのが難しい。

つまり、会長が生かされたのは、フローラの事を聴き出す為だとエルヴィンは考察をした。

 

 

「こちらとしては、抵抗の正当性が得られたというのは大きいね」

「ああ、エレンとリーブス会長がトロスト区の民衆を説得したのも大きい」

 

 

現在、エレンとその護衛部隊は、調査兵団の威厳が地に堕ちたトロスト区に居る。

必死に説明をした甲斐があったのか、少しずつ名誉を回復していると伝聞で知った。

だからといって未だに予断を許さない状況下だ。

民衆というのは、あっさりと扇動に乗って手の平を返すのが特徴である。

 

 

「民衆といえば、面白いアンケート結果が無かったかい?」

「……これだ」

 

 

ハンジの言いたい事を理解したエルヴィンは新聞を開いて該当するページを見た。

そこには、各社がアンケートした結果の速報が書かれていた。

5つの質問を2択で答えるという簡潔な物である。

 

 

『これを見る限りは……兵団政権は安泰に見える』

 

 

内容は以下の5つだ。

・前政権であった王政府は考古学や言論、思想に検問があったか否か

・現在の政権は信用できるか否か

・新たに即位するヒストリア・レイスを真の王家と支持するか否か

・調査兵団の存続を支持するか否か

・方針として多大な犠牲を払ってウォール・マリアを奪還するか、更に防衛を固めるか

 

結論から言うと、ヒストリア・レイスは意外と民衆に受け入れられた。

オルブド区の活躍が伝聞で広まって民衆にとっての英雄となったおかげである。

しかも、弾圧しかしてこない王政に見切りをつけた民衆が新政権を支持したのであった。

 

 

『…しかし、政権の未来は危うい』

 

 

だが、民衆は反動で前政権を貶める為に兵団政権を支持しているに過ぎない。

現に新政権の方針にウォール・マリア奪還を選択したのが8割以上である。

ただでさえ駐屯兵団は5千以上の兵力を失い、同数以上の兵が退役もしくは後方送りになった。

巨人1体を倒すのに兵士30名が犠牲になるというのがこの世界の常識である。

では、誰がウォール・マリア奪還作戦をやるのか。

 

人類から恨みを買いまくった3個班の規模になった調査兵団か。

3割以上の兵力を失って壊滅した挙句にアホみたいに内戦を引き起こそうとした駐屯兵団か。

腐り切ったせいで民衆から一切信用されてない憲兵団か。

 

兵団政権が民衆に示した答えは…。

4年前のウォール・マリア奪還作戦の指揮をしたエルティアナ女史に全て押し付けた!

しかも、半年以内にウォール・マリアを奪還するとか勝手に断言してしまったのだ!

 

 

『これはダメかもしれん…』

 

 

とにかく民衆のご機嫌取りを優先した兵団政権はアホみたいな公約を掲げた。

ウォール・マリアを奪還した半年後には巨人を掃討できると断言!

おそらく王都ではエルティアナが兵団司令部に怒鳴り込んでいる頃合いだろう。

傍から見れば笑い事であったが、調査兵団としては他人ごとでは無かった。

 

 

『なによりこれでは調査兵団の立場が無い』

 

 

仮に彼女が相応の組織を作ったら調査兵団はお役御免になってしまう。

元から税金と物資の無駄使いと評される調査兵団だ、すぐさま廃止されてしまうだろう。

だからといって調査兵団は存続を許されただけで革命前から財政は火の車になっている。

僅かな兵力なのにリーブス商会の全面支援が無ければ明日の飯すら用意できなくなっていた。

 

 

『だからこそエレンに賭けてみたのだが…』

 

 

多数派になった民衆の意見を兵団政権が優先する以上、アピールするしかなかった。

だが、兵団政権もそれ以上に民衆にアピールしているせいで効果が実感しにくいのだ。

 

 

『どうしたものか』

 

 

大言壮語で理想を語ったり、燃料要らずの光る結晶を提供してお茶を濁す政権に勝てる訳がない。

では、どうすればいいのか。

それを考えていたエルヴィンは睡魔に負けて過去を振り返る羽目になったというのが現状だ。

 

 

「考え過ぎなんだよ、何か1つでも民衆にアピールできる成果があればいいんじゃないの?」

「そうかもな」

 

 

ハンジのアドバイスからエルヴィンは何をするべきか考えた。

まずは、民衆を説得できる成果がないといけない。

 

 

「エレンの硬質化に賭けるか」

「うん、私もそう思っていた。丁度、それで巨人を倒すアイディアを思いついたんだ」

「そうか、その方面は君に任せても良いか?」

「資金も?」

「頼む」

 

 

幸いにもこの惨状で唯一の戦果になったのは、エレンが硬質化できる様になったという点だ。

シガンシナ区にある2つの穴を瞬時に塞ぐ事ができるのは、かなりの有利である。

しかも、ハンジには秘策があるので彼は任せる事にした。

 

 

「あとは敵対する巨人化能力者を捕縛できるのなら良いのだがな…」

 

 

人類を破滅の道へと導いた超大型巨人か鎧の巨人の能力者を捕らえられれば大きく時代が変わる。

欠点なのは、それが難しいという事。

 

 

「夜間に進軍するのはどうだい?」

「それを運用する資金と物資がない」

 

 

調査兵団が所有する兵器の大半は、今年に入ってからほとんど消失してしまった。

いくら夜間に動けても運用する物資が無ければ何もできなかった。

 

 

『いや、まてよ』

 

 

そこまで悩んだエルヴィンは気付いた。

つい最近までその超大型巨人と鎧の巨人の能力者と仲良くしていた事に…。

 

 

『あれは、サウナ調査兵団の時であったな』

 

 

アニ・レオンハートが女型の巨人の正体と疑いがあり、策謀と作戦を考えていたエルヴィンは…。

エレンを含む同期とリヴァイ兵長を連れて歩くフローラ・エリクシアに腹が立った。

 

 

『ちょっと待ってくれ!調査兵団の団長を無視してどこに行く気だ?』

 

 

こいつのせいで何度も頭を痛めたので仕返しにと彼女に絡みに行ったのだ。

 

 

『王都で流行している蒸気風呂を調査する為に【サウナ調査兵団】はお店に向かっています!』

 

 

ところが、彼女の発言を聞いてエルヴィンは久々に羨ましいと思った。

前団長の想いと部下の信頼を背負った彼の両肩には多大な重圧があった。

なので、あっさりと彼はサウナ調査兵団に加わってフローラ団長の元、サウナの施設に向かった。

その時に出会ったライナーとベルトルトとか言った人物が目的の巨人化能力者であった。

 

 

『なにやってたんだろうな…』

 

 

人類の仇と一緒にフローラと自分は蒸し部屋で汗を搔いていた。

まさか敵が一緒にサウナを楽しんでいたなどエルヴィンの頭脳ですら導き出せない答えである。

 

 

『だが、楽しかったな…』

 

 

久しぶりに未知なる世界に向かって引率されて団員として知らない刺激を味わうのは楽しかった。

あの時だけはエルヴィンは流されるまま、サウナを堪能したのを覚えている。

きっと彼らもあの時だけは楽しんでいたと分かってしまう。

 

 

『ああ、そうか』

 

 

遂にエルヴィン・スミスは悟りらしきものを開いた。

いろんな理不尽な事があっても彼は絶対に思考は一切止めなかった。

だが、生物が不老不死になれない様に問題解決が不可能だったり、答えが出ない時もある。

今までのエルヴィンだったらそれでも死ぬまで何かを導き出そうとしただろう。

 

 

「……なんか気分でも悪いの?」

「いや、むしろ楽しくなっているところだ」

「そんな風に笑うのは初めて見たんだけど…」

 

 

リヴァイもそうだったが、どうやら自分は本性を見せながら笑うと違和感があるらしい。

そう考えたエルヴィンは、ハンジに自分が導き出した答えを口にする。

 

 

「面倒事はエルティアナに押し付ける事にした」

「え?」

 

 

遂にハンジは、目の前に居る団長が狂ったのかと思った。

それほど突拍子も無い発言に聴こえたのだ。

 

 

 

「考えてみろ。この少ない情報で悩んでもしょうがないじゃないか」

「でも、私たちは問題解決を図らなきゃ誰がそれをやるつもりなんだい?」

「逆に教えて欲しい。資金も兵力も物資も兵器も信用すらない我々に一体何ができる?」

 

 

フローラ関連で頭がパンクするのが日常だったエルヴィンは遂に開き直った。

現状でやれることは少ない。

ならば、やるべき事は1つだ。

 

 

「エルティアナ女史にツテでなんとかしてもらおう」

「大丈夫?もう一回寝た方が良いんじゃない?」

「はははは、冗談が上手くなったなハンジ」

 

 

兵団政権が全て彼女に押し付けた様にエルヴィンも同じ事をする事にした。

するとあれほど王都に行きたくなかったのに今すぐそこに向かいたくなった。

 

 

「新たな兵団を作る彼女なら物資や情報を分けて貰えるかもしれん!」

「そういうものかな~?」

「ハンジが希望している新兵器の材料調達と承認も得られるかも知れんぞ」

「なるほど、確かにそうだ!」

 

 

調査兵団は大幅に活動を制限されたままである。

エルヴィンもハンジも限られたリソースで必死になって考えてきたが…。

そもそも、それで答えが出る訳が無かったのだ。

だったら頼りになりそうな人物に案件を投げるという選択を選ぶ事ができた。

すぐさま利点を聴かせてハンジを味方にしたエルヴィンは王都に向かう準備をした。

 

 

「幸いにもここにエルティアナ女史の通行許可証がある。邪険に扱われる事はないだろう」

 

 

総統局の通行許可証をそのまま借りパクしたエルヴィンに迷いはない。

乗馬に失敗して派手にコケたハンジを無視してカラネス区の裏門に向かう。

その姿は、調査兵団に入団したばかりの新兵のような希望溢れる背中であった。

 

 

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