進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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119話 戴冠式

エレン・イェーガーはさきほど起こった出来事を話した。

自分の父親がレイス卿以外の家族を殺害し、巨人の力を奪って逃げた事。

そして自分に注射して巨人にさせて自らを喰わせて力を継承させた事。

 

 

「私からも父から聞いた事を話します」

 

 

ヒストリア・レイスも父親から教わった事を全て話した。

それを聴いていた調査兵団の団員たちは黙り込んでいた。

 

 

「えーっと、情報を整理させてもらおうか」

 

 

最初に発言したのは、ハンジ・ゾエである。

 

 

「まずは、エレンの中に父親の力とレイス家が引き継いできた力の2つがあるって事だね?」

「はい、そうです」

「次に巨人の力を継承するには、巨人になって能力者を捕食しないといけないであってるよね?」

「確かに父が言ってました」

 

 

ハンジは情報を分かりやすく整理して皆に伝えるつもりだ。

巨人の力の継承方法とエレンには2つの力が眠っているというのを2人の発言で裏付けた。

 

 

「次にレイス家が代々継いできたのを【始祖の巨人の力】だとしよう。その力はレイス家でないと本領を発揮できない。つまりエレンには使いこなせないって事だね?」

「えぇ、だから父はエレンを私に捕食させようとしました」

「でもさ、レイス家の人間が“力”を得ても【初代レイス王の意志】に無理やり支配されるわけだ。つまり、壁の外に人類を出さないどころか、人類が巨人に支配される世界を望まされるって事か」

「私が父に反逆したのは、それが原因ですから…」

 

 

ヒストリア・レイスは途中まで本気でエレンを捕食しようとしていた。

でも、腹違いの姉が時折、豹変するのを見て彼女はこんなのになりたくないと思った。

なら父が継いで“希望”とやらになれと思って行動を起こしたと白状した。

 

 

「初代レイス王も面白い事を考えるじゃないか、これが真の平和だなんてね」

 

 

とハンジは発言したが、実際はそうかもしれないと思った。

壁内に籠っている人類は巨人の脅威のおかげで団結しているに過ぎない。

むしろ、巨人が居なくなれば今度こそ隣人たちが殺し合う未来となるだろう。

調査兵団がさきほど殺してきた駐屯兵たちの末路を見れば尚更そう感じた。

 

 

「つまり、まだ選択肢は残ってます。例えば…「オイ小僧!」え?」

 

 

エレンがそれを聴いて自分の意見を述べようとするとオルオ先輩に阻止された。

 

 

「まさか、あの巨人に自分を喰わせてロッド・レイスを人間に戻そうと考えてないだろうな?」

「オルオさん…」

「オルオ先輩だァ!お前が『さん』付けするなんて10年早いっつの!」

 

 

オルオ・ボザドは口は悪いが意外と気遣いできる男である。

エレンが何を言おうか見抜いた彼は、釘を刺して馬鹿な真似はやめろと警告した。

 

 

「そうよエレン、レイス家は100年以上も現状を維持したって事は相応の理由があるはずよ」

 

 

ペトラ・ラルもオルオの意見に賛同した。

可愛い後輩を犠牲にするなんて選択肢など彼らは絶対に選ぼうとしない!

 

 

「エレン、まさか巨人に喰われる気だったの!?」

「すまん、ミカサ。さっきまでオレはそのつもりだった…」

「2度とそんな事を考えないで!」

 

 

慌てたミカサ・アッカーマンは、エレンと並走して馬を走らせた。

その姿は、夫を犠牲にさせまいと袖を引っ張って戦場に向かわせまいとする伴侶の姿であった。

それを見てジャン・キルシュタインは、エレンが羨まし過ぎてプルプル震えていた。

 

 

「それにエレンが思想に汚染されている様子が無いのもヒントだと思うの!」

 

 

【始祖の巨人の力】は初代レイス王の思想までくっついてくるそうだ。

だが、ヒストリアの話を聞く限り、エレンがフリーダのような奇行を起こす事はなかった。

 

 

「つまり、どういう事ですか!?」

「あなたのお父さんは何かを考えてレイス家から“力”を取り上げたんじゃないかしら!?」

「ああ、エレンが糞みたいな思想に支配されてないのがその証拠だろう!!」

 

 

オルオとペトラは、エレンに気を遣って言葉を選んでいた。

もちろん、家族を殺されたヒストリアに思うところがあったが、後輩の方が大切だった。

 

 

「お前の親父さんは死に際に何か言ってなかったか!?」

「きっとそこに答えがあるはずよ!」

 

 

10歳まで立派に育てた父親ならきっと事情があったのだと独断し、勝手に考察した。

リヴァイ兵長も何か言いたかったが、負傷している身なので素直に黙って聞いていた。

 

 

「親父は…泣きながら言ってました」

 

 

エレンは語る。

自分に注射を打とうとした父親が泣いていた事を…。

 

 

『この【力】は必ず役に立つはずだ』

『ミカサやアルミン、みんなを守るためには、この力を支配しなければならない』

 

 

今でも一言一句間違えずに言えるほど印象的だった。

グリシャの遺言を聞いたオルオはエレンの傍に寄って口を開く!

 

 

「なるほど、分かったぞ!!」

「オルオ先輩!?」

「お前の親父さんはなァ!!糞みたいな思想に取りつかれた【力】を支配しりゅうう!?」

 

 

格好良く決め台詞を言おうとしたオルオは馬が跳んだ衝撃で舌を噛んだ。

思わずペトラは落馬しそうになるくらいにズッコケそうになったが…彼の代わりに言葉を紡いだ。

 

 

「おそらくだけど、破滅的な思想から【始祖の巨人の力】を取り上げて支配してるんじゃない?」

「え?」

「だって、エレンは『人類が巨人に支配されればいい』なんて考えた事ないでしょ?」

「そうですけど…」

「きっと、そうよ。もしかしたらもう1つの力が影響しているかもしれない」

 

 

エレン・イェーガーはリヴァイ班の紅一点だったペトラの話を聞いて横に居たヒストリアを見た。

彼女は、先輩たちの話を聞いて納得し、エレンに向かって首を縦に振って前方を見る。

 

 

「うん、もしお父さんを人間に戻しても、糞みたいな思想に汚染されたせいで記憶を操作されたら元も子もありません。今の状態こそが人類にとって千載一遇の好機だと思います」

「だったらフリーダさんだけ殺せば良かったんだ…家族まで殺す必要はなかったはずなのに」

「エレン、これ以上ウジウジ言ったら、殴り倒しちゃうよ」

「えっ…」

 

 

ヒストリアの言葉を聞いて驚いたエレンだったが、彼女は本気だった。

 

 

「私はあなたのお父さんの選択を信じるのに…あんたはまだ信じない訳?ホント信じられない!」

「お前…」

「レイス家の幼子まで殺したのは、理由がある!そう考えられないの!?」

 

 

ヒストリアだって優しかったお姉さんが殺されたのは今でも許していない。

なんならエレンを犠牲に姉を生き返らせる事ができるなら平気でやるつもりだ。

でも、自由に生きろって言ってくれた恩人や友達がそれを望むわけがない。

 

 

「あなたのお父さんの選択に理由があった!それだけ!だからもうこの話はお終い!!」

 

 

だから、自分の為に生きようとするヒストリアはエレンの背中を押した。

彼女の発言の意図を察した同期たちも口を開く。

 

 

「そうだよ!あのイェーガー先生が何の考えも無しにそんな事をする訳がないよ!」

 

 

真っ先に反応したのはエレンの父親と仲良しであったアルミンだった。

 

 

「そう!レイス家の血が無くても、きっと人類を救う手立てがある!」

 

 

ミカサも彼の…いやお義父さんが選択した事を信じた。

 

 

「だからエレンに地下室の鍵を託した!」

 

 

エレンの首には、実家の地下室に繋がる扉を開封する鍵がぶら下がっている。

エルヴィン・スミスの夢の実現である手段とエレンの目的が重なった。

 

 

「ウォール・マリアを奪還して私たちは地下室で真相を見ないといけない!」

 

 

すなわち調査兵団の目的であるウォール・マリアを奪還を達成しなければならない事!

今まではシガンシナ区に空いた穴を塞ぐ手段がないせいで壁外に補給拠点を作るしかなかった。

だが、エレンが硬質化をして穴を塞ぐ事ができる現状、奪還作戦の現実味を帯びてきた!

 

 

「ごもっともな意見だが、その前にあの巨人を散歩させるわけにもいかないだろう?」

 

 

しかし、巨人化したロッド・レイスがオルブド区に向かうのを阻止しなければならない。

先にやるべき事を告げたリヴァイ兵士長に…。

 

 

「え?兵長、その御怪我で喋れるんですか!?」

「すごいですね!何を喰ったらそこまで丈夫になれるんですか!?」

「サシャ、本音を言うな!」

 

 

ジャンとサシャとコニーがそれぞれめっちゃ驚いたような反応を示した。

そのせいで皆から足手纏いだと思われていると知ったリヴァイはショックを受けた。

 

 

「なあ、ヒストリア!ちょっといいか!?」

「はい、ハンジ分隊長!お呼びですか!!」

 

 

第四分隊で最後の構成員になってしまったハンジはヒストリアを呼びつけた。

返事をしたヒストリアは、ハンジの元に向かって話を聞こうと試みる。

 

 

「あそこまで大きいと君のお父さんを殺さないといけないんだが、それでいいか?」

 

 

残酷な事実を突きつけられたヒストリアは、()()()()()()を見る。

自分が反抗したせいで父親を殺さないといけなくなったのだ。

 

 

「……ごめんなさいエレン」

「え?」

「私は巨人になってあんたを殺そうとしたの。お父さんに嫌われたくなかったからね…」

 

 

今まで孤独だったヒストリアは父親に抱き寄せられた時、初めて愛情を感じる事ができた。

フローラやユミルが言った通り、自分を愛してくれる人が居ると証明された瞬間だった。

だから父の為なら何でもしようと考えていた。

 

 

「でも、もういいの!お父さんが暴れてみんなに迷惑をかけるなら私は殺してでも止める!」

 

 

自分が仕掛けた親子喧嘩は、これで最後にする事にした。

フローラやみんなの想いを悪用して踏み躙ったクソ野郎を殺すと決めた!

 

 

『あれ…?』

 

 

しかし、ミカサ・アッカーマンは何か引っ掛かた。

エレンとヒストリアの話によると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と知った。

でも、確かにエレンはグリシャの発言通りに力を支配して行使した事があった事と思い出した。

 

 

「ねぇエレン!1回だけ巨人を支配した事なかった?」

「え?」

「ほら、エレンのお義母さんの仇の巨人とハンネスさんが戦っていた時に!やったでしょ!?」

 

 

エレンとミカサは、エレンのお義母さん(カルラ・イェーガー)を見捨てて死なせたことを今でも後悔している。

だから口角を釣り上げた金髪の15m級の巨人の事を忘れる事は無かった。

その巨人と再度、対決したが、追い詰められてしまった時があった。

死を覚悟してミカサが泣いたのを見てエレンは雄叫びをあげながらそいつの手を殴打した!

すると他の巨人たちが母の仇である巨人に襲い掛かったのだ。

 

 

「みんなも見たよね!?巨人の群れが巨人を襲っている所を見たのは!」

 

 

この場に居る104期調査兵の全員は、確かにそれを目撃した。

というか、そのおかげでエレンとミカサは窮地から脱出できた。

 

 

「ああ、確かに…」

「俺たち、その隙に逃げたんだよな!」

「一時的だったけどエレンが巨人を支配したんだ」

 

 

鎧の巨人が巨人を投げまくったせいで陣形が崩れて全滅するところだった。

しかし、エレンの叫びのおかげで巨人の群れが鎧の巨人を襲い出したので全員退却できたのだ。

いや、鎧の巨人絶対ぶっ殺す娘が戦場に残って22体の巨人を殲滅したというのは例外としてだ!

 

 

「なんだ、だったら話は早いじゃないか!エレン、次の目標は分かるよね!?」

「オレが叫んであの巨人を操るって事ですか!」

「もちろんさ、幸いにも他に巨人は居ない!安心して何度でもテストできるじゃないか!」

 

 

硬質化に成功したエレン・イェーガーに新たな目標ができた!

硬質化と違って前例があるので叫ぶコツさえ掴めれば、巨人を支配できるかもしれない!

ハンジの発言の意図を察したエレンは、必死に巨人に向かって叫びまくった!!

 

 

「おい!!オレを喰うんじゃないのか!!」

「こっち向け!!聞いてるのか!!」

 

 

エレンは何度も叫ぶが、巨人は反応を示さずにうつ伏せになりながら地面を進んでいた。

そのせいでどんどん口が悪くなった!

 

 

「この腰抜け!!オレが怖いのか!!オイ止まれ!!てめぇに言ってるんだよ!!」

 

 

それでも止まらないせいでエレンは悪口も言うようになった!

 

 

「今すぐ止まれ!!ロッド・レイス!!お前だよ!!このチビオヤジ」

 

 

ここでエレンは失言してしまったと気付いてしまった。

しかし、ここで言葉を止めたせいでリヴァイが自分がそう思われたと知った。

 

 

『いや、別にいいが…気を遣われても困る…』

 

 

それどころか部下にすら気を遣われたと知って彼は少しだけ落ち込んだ。

そこは『堂々と言ってくれた方が良い』と言いたかったが黙る事にした。

 

 

「うーん…反応無いか。叫ぶ以外に何かしてなかったかい?」

「あの時は…そうだ!怒り狂って殴りました!」

「もしかしたら身体の動きで発動するかもしれない。巨人化のトリガーも外部要因と考えればね」

「はい、やります!!」

 

 

特に気にしてなかったハンジは、他に何かやったのかとエレンに尋ねた。

丁度、微妙になってしまった空気を変えようと彼は、巨人に殴った事を報告した。

こうしてエレンは何度もジャブを仕掛けたり、腕を振りながら叫んでいた!

 

 

「オラァ!!図体がでかくなったからって調子に乗るんじゃねぇチビオヤジ!!…あっ!」

 

 

またしても失言したと勘違いしたエレンは、顔を引きつってリヴァイ兵長を見た。

 

 

『だからこっちを見るなよ…続けろ…』

 

 

大怪我をしたせいで気を遣うな…と言えないリヴァイは悲しい気持ちで一杯だ。

その表情を見て更にエレンや周囲が勘違いする悪循環に陥った。

 

 

「…どうした?続けろ?」

「いえ、すみません!」

「続けろと言ったはずだが?」

「すみませんでした!」

 

 

埒が明かないと考えたリヴァイであったが、そのおかげで名案を思い付いた。

さきほど人殺しをしてショックを受ける後輩や父親殺しを受け入れたヒストリア。

このままでは目的を達成しても、彼らは死ぬまで引き摺り続けてしまうだろう。

だから彼らの負の感情を断ち切る為に彼は悪役を演じる事を決意した!

 

 

「おいヒストリア!」

「は、はい!!」

「どうやら俺はチビオヤジとして認識されているらしいな?」

 

 

八つ当たり気味にリヴァイはヒストリアを指名した。

さすがに予想していなかった彼女は怯える様に返事をする。

 

 

「そ…そう、みたいですね」

「命令だ、お前が女王になったらこいつらの顔が腫れるまでしばき倒せ」

「で、できません…」

 

 

無茶な命令を受けたヒストリアは断固として拒絶するしかできなかった。

それを察したからこそリヴァイは更に追撃をする。

 

 

「お前は、これから女王になるんだ。だったら可能だろう?」

「で、できません」

「何故だ?」

「彼らはそこまで罰を受けるほど罪を犯していないと判断したからです…」

 

 

ヒストリアにとってリヴァイ兵長は目つきが悪いゴロツキに見えている。

それどころか、自分が脅迫されていると勘違いしてパニックになりつつあった。

 

 

「ほう、じゃあ、こいつらの罰は俺が与える事にしよう。それでいいな?」

「ダメです!」

「今度は、俺とこいつらの関係だ。無関係のお前に口出しされても困るんだが?」

 

 

リヴァイ自身は、自分の身長ネタで弄った後輩たちを恨んではいない。

むしろ、ヒストリアに自分の上に立つ存在になると認識させる為に仕掛けていた。

そんな事情を知らない104期兵はガタガタと震えていた。

 

 

「オイオイ、エレンさんよ!兵長が怒っちまったじゃないか?どうしてくれるんだ?」

 

 

舌だけ巨人部位と称されるオルオは、痛みから復帰して他人事のようにエレンを煽った。

 

 

「オルオ、ペトラ、お前らにも罰を受けてもらうからな」

「「えぇ!?」」

「当然だろ?部下の失態は上官の責任だ、104期兵と違って手加減はしねぇから覚悟しろ」

「「えぇーーーっ!!?」」

 

 

まさかの飛び火に2人は悲鳴を出しながら片目になったリヴァイ兵長を見た。

 

 

「女王命令です!!そんな蛮行は禁止させてもらいます!」

 

 

それを聴いてヒストリアは兵長に牽制した!

 

 

「まだ女王じゃないのに大きく出たな?」

「これ以上、誰かが傷つくのは見たくありません、従ってください」

「却下だ、俺のやりたいようにさせてもらう」

 

 

リヴァイは更にヒストリアを挑発した!

父親殺しという残酷な事実を受け入れた彼女に怒りを向ける先を作ったのだ。

昔から彼は、周囲のヘイトを稼いで損な役割を受け入れようとする。

本来なら手を血で汚すのも自分だけの予定だったが…エレンとヒストリア以外は手遅れになった。

 

 

「どうしたお前ら?嫌だったら力づくでも俺を止めてみろ。怪我をしている今がチャンスだ」

 

 

オルオとペトラは、リヴァイの戦闘力を知っているからこそ青ざめて頭を振った。

 

 

「なんだ、あれだけ人殺しをしたのに怪我人の暴走すら止められないのか?」

 

 

104期兵たちも頭を何度も振ってリヴァイの挑発に乗らなかった。

 

 

「私が殴ったら止めてくれるんですか?」

「話し合いが決裂したら、暴力で決めるのが一番手っ取り早いと思わねぇか?」

「それが兵長の考えなんですね?」

「そうだ、俺はそうやって暴力で勝ち上がって来たクズ野郎だ、止められるもんなら止めてみろ」

 

 

ヒストリア・レイスだけがリヴァイ兵長の挑発に乗った。

ブルブルと震えながらもしっかりと見つめる眼差しは、彼の心を動かした。

 

 

「そうだな、お前が女王になったらこいつらを殴りに行く。その前に止めてみろ」

「させません!」

「せいぜい頑張れよ、お前の働きでこいつらの顔が成形しなくて済むんだからな」

 

 

演技とはいえ、もしもヒストリアが怖気づいて仕掛けて来なかったら…。

リヴァイは、真っ先に騒動の元凶を作ったエレンをぶん殴りに行くつもりだ。

巨人化能力者は、致命傷であっても傷が修復するのでサンドバックには最適であった。

 

 

『ヒストリア!!オルオ先輩!!ペトラ先輩!!みんな!!ごめん!!ごめんなさいー!!』

 

 

兵長が自分をチラ見したのを知ったエレンは心の中で皆に謝った。

そうこうしている内に目の前から先行した駐屯兵団の集団が見えた。

彼らの反応から事前に打ち合わせをしてくれたと分かった彼らはそのままオルブド区に入った。

そうしないと正体がバレた瞬間、オルブド区守備隊と殺し合いをしないといけないからだ。

 

 

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とうとうヒストリア・レイスが女王に即位する日がやって来てしまった。

ガタガタとヒストリアが震えているのは緊張でも武者震いでもない。

この式典が終わったら急いでリヴァイ兵長を殴打して蛮行を止めないといけないという恐怖だ。

最高級の絹で編まれた真っ白のドレスはとっても歩き辛い事もあってゆっくりと歩くしかない。

 

 

「あっ…」

 

 

だが、こんな姿は同期に見せられない。

自分が頑張らないといけないから!

104期調査兵の集団を目撃したヒストリアは堂々と通路の真ん中を優雅に歩いた。

 

 

「よ、よお、クリスタ!」

「エレン、名前を間違えてるし、呼び捨てなんて失礼どころじゃないよ!?」

「だってよアルミン、未だにヒストリアと呼ぶ事すら慣れてねぇんだぞ!?」

「僕だって同じだよ!!」

 

 

エレンは癖でクリスタと呼んでしまいアルミンに突っ込まれてしまった。

それを見てヒストリアは、自分が彼らにとって遠い存在になると改めて自覚した。

 

 

「す、すまねぇヒストリア、オレのせいでリヴァイ兵長を…」

「大丈夫、ちゃんと殴って止めてみせるから」

 

 

口ではそう言っているが緊張しているヒストリアは、どうやって殴ろうかと考えていた。

 

 

「おお!なんとか間に合ったな、フレーゲル!急げ!!」

「ま、待ってくれよ親父!!」

 

 

そこにリーブス商会の会長とそのご子息がやってきた。

 

 

「なんで即位前に挨拶をするんだよ…」

「馬鹿野郎!!女王様になったら気軽に媚びを売れなくなるじゃないか!!」

「でも知り合いなんだから後で交渉すればいいだろう!?」

「アホ!!商人たる者、挨拶が肝心だ!!五体満足で生まれた以上、最大限活かせよ!!」

 

 

どうやら力関係は相変わらず変わっていない様だが、ヒストリアからすれば羨ましかった。

こうやって父親から叱責されるのを見て昔読んだ本は正しかったと再認識したのだ。

 

 

「ヒストリア殿下、ご機嫌麗しゅう!本日は雲が1つない快晴となりまして、殿下の即位を蒼天が望んでいると民たちが申しあげております。この度は、新時代の幕開けとなる戴冠式の来賓(らいひん)としてご招待して頂いた事を御礼申し上げます」

「私は王家の血筋とはいえ先日まで兵士だった身、頭を上げて姿勢を楽にしてください」

 

 

ヒストリア殿下が立ち止まったのを確認したリーブス会長は跪いて頭を垂らし、祝辞を述べた。

本来ならマナー違反ではあるのだが、媚びを売るのを優先した彼は図太かった。

 

 

「親父、なんでそこまでするんだ?」

「馬鹿野郎!!お前も殿下に顔をしっかり覚えてもらえ!!」

「いや、だって…もう知り合いじゃん…」

「だから媚びを売るんだよ!他の連中と同列で終わったらダメなんだって言ってるだろう!!」

 

 

フレーゲル・リーブスは父親の行動が未だに無駄だと思っているが、そのせいで叱責された。

商人たる者、覚えてもらわないと失格!交渉どころか席に着く事すら許されない現実を…。

教えようかと思ったが、さすがにヒストリア殿下の眼前で喧騒するのはまずいと判断した。

 

 

「失礼致しました。この度に戴冠式で使用される花々とご提供させて頂きましたリーブス商会のディモ・リーブスと申します。殿下が望まれるのであれば、お好みになられているお花を…」

「もういいだろ?エレンたちに笑われてるし、普通に会話しても…」

「だからここで顔を売ってまたの機会でも取引できるように駆け引きするって言っただろうが!」

 

 

またしても、息子に邪魔をされて会長は、彼の胸ぐらを掴んで叱責をした。

 

 

「ふふふ、仲が良くて羨ましいですわ」

「あ?いや!その…大変申し訳ございません…」

「いえ、これからの来客の御対応の参考にさせて頂きましたので、むしろ感謝いたしますわ」

 

 

目の前のコントを見て笑ったヒストリアはフローラが使うお嬢様言葉を駆使して礼を告げた。

 

 

「…やっぱ無理、この場は普通に会話をお願いしてもらっていい!?私、疲れちゃった…」

 

 

しかし、慣れないお嬢様言葉で発言するのが面倒になった彼女は普通の対応を求めた。

なお、同期たちはニヤニヤしており、まるで慣れない王女っぷりを笑っている様だった。

 

 

「ああ、そうだな。…ところで即位したらリヴァイの旦那に殴りに行くそうだな?」

「うん、あいつを殴って止めないとみんなに被害が出るから!」

 

 

商人の仮面を外したリーブス会長の質問にヒストリアは当然と答える。

 

 

「旦那は目つきが悪いが、ああ見えてもスジを通す男だ、まぁ嬢ちゃんを勇気づける配慮かもな」

「なんでそう思ったの?」

「商人としての勘よ!でも、俺から見ると旦那は本気で殴らないと逆に困るタイプだ」

「そんな事を言われても…」

 

 

確かにリヴァイ兵長がみんなをボコボコにするとは思えない。

ただ、彼が納得するほど殴れるほどヒストリアは強くなかった。

 

 

「俺がブッ飛ばしてもいいか?女王様の拳を痛めたくない」

「馬鹿だなお前、兵士だった嬢ちゃんに意見するほど強くないだろう」

「なんだよ親父!!俺だってやる時はやるんだぞ!?」

「ハハハ!そうだな、俺が居ない間に街のボスをやれたのは驚いたさ」

 

 

そして知り合いとはいえ親子の絆を見せつけられたヒストリアは嫉妬した。

まるでラブラブカップルが公共の場でイチャイチャする光景を見せつけられた感じだ。

ユミルだったら毒舌で罵倒し、フローラだったら仲間を呼んで守ってくれると錯覚してしまう。

 

 

『でも、私はもう独りじゃない!』

 

 

それでも、この道を選んだのは自分である。

そして女王の業務の大半を兵団政府に押し付けたのも自分だ。

だからお飾りの王だとしても、やれる事はやろうと決意した。

 

 

「どうすればいいか迷う嬢ちゃんに1つアドバイスだ!」

「何かあるの?」

「殴り返してみろ…って言ってやれ!そうすれば奴は何もできなくなる!」

 

 

女王が殴打して「殴り返してみろ」と命令されればリヴァイは困ってしまうだろう。

殴り返す訳にもいかないし、だからといって無視をする事も出来ない。

 

 

「ははは、そりゃあいいな!」

「やっちまえヒストリア!」

「私も応援します!」

 

 

エレンを筆頭にジャンやサシャも笑って応援した。

声援を受けたヒストリアはガッツポーズをして準備運動にジャブを繰り出した!

 

 

「殿下、お時間です!ご準備をお願いします」

 

 

しかし、楽しい時間も終わってしまった。

レッドカーペットの上で敬礼する憲兵によってヒストリアは現実に戻された。

 

 

「みんな、私の雄姿を見守っていてね!」

 

 

後ろを振り返れば敬礼をする同期たちの姿が!

もう二度と彼らと親しく接する機会が無くなるかもしれないが、それでもヒストリアは前に進む。

総統局から選抜された近衛兵を携えて出口に出ると大勢の観客が出迎えた。

 

 

「いいのか?」

「何がだ?」

「女王陛下の口から調査兵団の活躍を告げさせなくても?」

「ああ、彼女は調査兵団と接点が無いと勘違いされる方が都合が良い」

 

 

旧政権の刺客に警戒して銃を構えるエルティアナの質問にエルヴィンは答えた。

民衆の希望である女王様は、血で汚れた調査兵団とは関わりが無い方が利点が大きいと…。

 

 

「君こそしっかり女王様を守ってくれ。またしても狙撃されたら一大事だからな」

「言われなくても分かってるよスミス、()()()()()()()()

 

 

自分の失態のせいで内戦を防げなかったと自嘲するエルティアナは挑発に乗った。

今度こそ内戦のきっかけとなる弾丸を阻止しようと民衆を見渡して異変を警戒した。

女王様が民衆に姿を見せると大きな歓声と共に喜びを分かち合うかのように手を振った。

それを受けてヒストリアも手を振って指定された席に座った。

そして豪華な式典は、古来から続くしきたりに基づいて執り行われていく。

 

 

『お父さん、結局、私はみんなの希望になるしかなかったね…』

 

 

希望なんてクソ喰らえって言っておきながら、ヒストリアは民衆の希望になる事になった。

だけど、彼女はそれだけで収まる気はなかった。

 

 

『私はお飾りの女王になるけどね、それでも自分の為だけに生きようと思うの』

 

 

ザックレー総統が王冠を自分の元に持ってきて何か分からない事を告げていた。

そういう行事というのは、頭の中で理解しているが、面倒くさい気持ちで一杯だった。

それでも兵士であったおかげで次にやるべき事は身体が覚えている。

 

 

『跪いて、両手を合わせて、瞼を閉じて、戴冠されるまで動かない…』

 

 

ザックレー総統によって戴冠を受けたヒストリアは、総統の指示を受けて立ち上がった。

エルヴィン・スミスの公開処刑用に作られた場所で女王が民衆を見下ろすのは皮肉でしかない。

それでも彼女は、何をやるべきか知っている。

 

 

『お父さん、私はご先祖ができなかった事をやり遂げてみせるよ。だから見守っていてね…』

 

 

民衆に向けて敬礼をしたヒストリアを見た観客から歓声が聴こえてくる!

 

 

「ヒストリア女王、万歳!!」

「救世主様!!救世主様だ!!間違いない!!」

「我々を見守ってください!」

 

 

新たな女王誕生に喜ぶ民衆や兵士たち、誰もが久しぶりの明るいニュースに喜んでいた。

だが、エルティアナは舌打ちをして部下に指示を下す。

 

 

「あれでは良い的だ、すぐさま女王と総統を建物に後退させろ」

「…え?まだ式典の行事が残っておりますが」

「そうか、君は惨劇の可能性を望むというのか」

 

 

部下のファルケンハインは明らかに上官の様子がおかしいと気付いて指示を下す。

 

 

「少し早いがこれで戴冠式は終了だ、地上に居る兵と役人に伝えろ」

「「「ハッ!」」」

 

 

バタバタと走り出した兵士たちを目撃したエルヴィンは、知り合いの憲兵に質問する。

 

 

「何か見たのか?」

「さあな、ただ嫌な予感がしただけだ」

「その割には、歩き出したじゃないか?」

「私はせっかちでな、何事も無い事を祈って前に進む事しかできないさ」

 

 

口ではそう言っているが、目が一切笑っていない。

玉座の間で中央第一憲兵団の伏兵を殺害していた時と同じ瞳であった。

まだ壇上にヒストリア女王が居るのに任務を放棄して立ち去るという事は…そういう事だろう。

 

 

「民衆に存在がバレる前に君も下がったらどうだ?」

「そうさせてもらうよ」

 

 

どこかへ立ち去っていく冷酷な女騎士(エルティアナ)の意見に賛同したエルヴィンは建物へと戻った。

 

 

-----

 

 

何も事情を知らないヒストリアは、予め指定した場所に向かって歩いていた。

リヴァイ班のみんなとリーブス商会の会長とご子息を取り巻きにしながら…。

 

 

「意外と早く終わったな」

「ヒストリアがボロを出す前に切り上げたんじゃない?」

「お前、女王に失礼だろう?」

「コニーこそ女王より前を歩くなんて失礼じゃないか!?」

「あっ、やべぇ!」

 

 

女王の近衛隊は、あまりにも仲良くし過ぎてただの104期訓練兵団時代の雰囲気を漂わせていた。

それほど楽観視しており、少しでも女王のプレッシャーを緩和しようとしているようだ。

 

 

「で?本気(マジ)でやるのか?」

「こうでもしないと女王なんて務まらないよ」

 

 

さすがにエレンは、ヒストリアが他者を殴打するという重大性に気付て怖気付いた。

しかし、彼女はやる気のようで堅苦しい正装を着替えて普段着のローブに着替えた。

つまり他者からみれば、どこからか紛れ込んだ少女がリヴァイ兵長を殴る絵面にしたという訳だ。

ヒストリア女王がリヴァイ兵長を殴打するなどほとんどの人物が知らないからだ。

 

 

「いいぞヒストリア!その調子だ!」

 

 

やる気満々になったヒストリアにジャンは煽り立てて自分の保身を図った。

どうせ殴らなければ、絶対に兵長に殴打される被害者になるのは目に見えているから。

 

 

「女王になって最初の公務がリヴァイ兵長を殴打する事か、中々面白い事になりそうだね」

「全くだ、私もどうなるか予想もつかない」

 

 

ついでにハンジ・ゾエとエルヴィン団長も同行していた。

調査兵団を好ましく思わない兵士も多い為、散らばって動く事ができなかったのだ。

 

 

「よし、嬢ちゃん!女王パワーで殴ってやれ!」

「もし、ダメだったら俺も助太刀するぞ!」

 

 

ディモ・リーブスは、もしもの時に備えて兵長の好物とされる紅茶パックを持参してきた。

息子に至っては、実力差を理解できない馬鹿なので指示があればリヴァイをぶん殴るつもりだ。

あまりにも頼りになりそうと見せかけてそうでもない助っ人にヒストリアは笑うしかなかった。

 

 

「すまんな、俺らの分もよろしく頼む」

「私たちは応援するしかできないけど…頑張ってね」

 

 

オルオとペトラもヒストリアの行動に賭ける事しかできかった。

そして指定場所には、既にリヴァイ兵長が待機している。

 

 

「遅かったじゃねぇか」

 

 

窓際に立っていたリヴァイは待ってましたといわんばかりに女王の前に立ち塞がった。

エレンたちと同じ様にロングコートを羽織っているが、そのせいでいつもより強敵に見える。

 

 

「うっ…」

 

 

ヒストリアは、最初で最後の戦いを挑もうと腹を括った!

 

 

「…っぁあ!ああああああ!!

 

 

人生で一番大きいと思える雄叫びを出して!

 

 

「あぁ!!」

 

 

人類最強の男の左腕を思いっきり殴った!

…つもりだが、思ったよりダメージを与える事はできなかった。

それもそのはずでヒストリアは当初は、彼の腹を殴打しようとした。

ところが、動きを察したリヴァイがしれっと身体の向きを変えて左腕を殴らせたのだから…。

 

 

「「「「うおおおおおおおおおおお!?」」」」

 

 

それでも女王が本気で兵長を殴ったのを目撃した観衆は感嘆とし、彼女の功績を讃えた!

 

 

「ハハハハハ!どうだー私は女王様だぞ!すっごく偉いんだぞー!文句があれば――!?」

 

 

そしてヒストリアはリヴァイ兵長に挑発しようとするが…彼の顔を見て愕然とした。

104期兵どころか、エルヴィン団長を含む全員が人類最強の男の表情を見て驚愕した。

 

 

「ふふ…」

 

 

右瞼の大きな傷を隠すために眼帯を装備したリヴァイ兵長は…。

 

 

「お前ら、ありがとうな」

 

 

心の奥底からみんなに感謝していた。

彼もまた、ケニー・アッカーマンの死を引き摺っていたが…。

それと同時に自分の指示通りに誰も奴に手を出さなかったのを感謝していた。

そして死に際の彼に感謝の言葉を伝える機会を作ったこの場に居る全員に感謝の言葉を告げた。

 

 

「それと今後もよろしく頼む」

 

 

手を振って後ろを振り向いたリヴァイは、そのままどこかへと立ち去った。

本人は大満足であったが、残された者たちは呆然と彼を見送る事になった。

リヴァイ兵長が素直に感謝する異常事態など世界の終わりが近いのかと感じてしまったのだ。

 

 

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