進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
エレンが大岩を担いでトロスト門に空いた穴に向かって進んでいる。
彼が無事に大岩で穴を塞げば人類は勝利するのだ。
「やったよミカサ!エレンを援護すれば僕たちの勝ちだ!」
全員が理解していた。
例え自分たちが全滅してでも彼を守り通さねばならないと!
「死守しろ!何があろうともエレンだけは死守しろ!!」
「ミタビ班!?どこに行った!?」
「あそこだ!地面に降りて何やってんだあいつら!?」
イアンの号令で気を引き締める精鋭班と訓練兵たち。
しかし、何故かミタビ班は地面に降りて巨人たちを挑発していた。
「こっち向けや!この頭豚野郎!」
「きたねぇケツに刃ぶち込んで殺すぞこの野郎!」
「やーい!お前のかあちゃん出べそ!!」
当初は、エレンを狙っていたがさすがに複数で騒がれるとそちらに注目したのか。
巨人たちはミタビ班を狙い始めた。
「来やがったぞ!」
「とにかくここから離すんだ!走れ走れ!」
「そんな…自殺行為だ!平地で囮になるなんて戦えない!」
「いや、やるしかない」
調査兵団の死因がやたらと高いのは、平地における戦闘が多いせいだとアルミンは理解していた。
立体機動装置は、障害物がある場合のみに巨人と交戦できるステージに人類を立たせるだけだ。
成人男性の全力疾走より6m級の歩みの方が遥かに早いのだ。
エレンの為に囮になんて自殺行為に他ならない。
すぐに追いつかれるのは明白だったが、イアン班もミタビ班に続いた。
「いいか、お前たち2人は、エレンを援護しろ!」
「でも…」
「これは命令だ!」
呆然としていたミカサとアルミンにイアンは、囮にならないようにエレンの援護に向かわせた。
新兵を囮にさせるつもりがない彼は、彼女たちを死地から遠ざけようとしたのだ。
「足首を斬り落として時間を稼ぐぞ!」
「うおおおおおお!!」
グリード班のバレットは巨人の足首にアンカを突き刺してガスを噴出して突っ込んでいた。
だが、たまたま通りかかった巨人の脚にワイヤーが引っ掛かり彼は民家の壁に頭から激突して2度と動かなくなった。
「この屑野郎!よくもバレットを!」
「よせグリード!!」
戦友の死で頭に血が上ったグリード班長は、ワイヤーにぶつかった巨人の左手首にアンカーを射出した。
しかし、巨人の動きで大回りに軌道を描いたせいでGに耐え切れずに意識を失った。
左手首に違和感を覚えた巨人が左腕を下に振るとグリードは地面に激突して肉塊となった。
「あああああ!ごふっ!!」
ミタビ班の新米が巨人から逃げきれずに左手で押し潰された。
彼の死によって発生した隙を見逃さずにミタビはその巨人のうなじを斬って討伐した。
今なら馬鹿にしていた調査兵団の気持ちを理解した気がした。
死が目の前に迫っているのにミタビは呑気にそんな事を考えてしまった。
「無理だああああ!なにやっているんだ俺はあああああ!?」
「ホークマン!落ち着くんだ!!」
「どこに落ち着ける要素があるんだよおおお!?言ってみろ!」
「くっ!だからって…おいどこに行くんだ!」
1人は狂気に呑まれて先輩の制止を振り切って突撃して巨人に掴まれて口元に持っていかれた。
「離せ離せ!!ここでえええええ!」
その隙にフローラはうなじを斬ってホークマンを救出した。
落下したホークマンが近くの民家にアンカーを撃ちこみ辛うじて激突を回避できた。
そんな彼が見た光景とは!?
「嘘だろう…」
巨人たちを利用して大空を駆けまわり笑いながら、うなじを刈る自由な女訓練兵が居た。
気流すら無視して空中を駆けまわるその姿は、鳥よりも自由に見える。
「ぶっ倒してさしあげますわ!」
精鋭班はおろか、調査兵団のベテラン兵ですら巨人の肉体を使って飛びまわるのは片手で数えられる。
それだけ動く障害物というのは脅威なのだ。
考えてみてほしい。
ただでさえ空間把握能力と筋力、バランス感覚、耐G能力、ガスの残量の把握が必要である。
更に巨人の動きやワイヤーの衝突まで考慮するなんてとてもではないが、現実的ではない。
「おっほっほっほ!わたくしの敵ではなくてよ!」
一方、頭進撃娘にはそんな事など気にしてなかった。
巨人の左腕にアンカー撃ちこんだ瞬間、腕を振り回されてあらぬ方向に飛ばされたフローラ。
飛ばされた先に巨人が居ると分かるとそこにアンカーを撃ちこみ小回りでうなじを刈り取った。
そしてお礼と言わんばかりにさきほどの巨人にアンカーを射出してうなじを切り裂いた。
「あの女に巨人を狩ってもらうぞ!」
「やっぱ無駄死には辞めだ!とにかくあいつを利用して全力で生き残れ!!」
ミタビ班とイアン班は、フローラに全力で頼り始めた。
ほとんどの班員が50mの壁を登れるほどのガスの残量がなくて身動きが取れなかった。。
ところが、フローラは予備のガスボンベを装着した為、多少の余裕があったのだ。
心臓を捧げる覚悟を決めた兵士も、生存できる道があると判明したらそこに行くのは当然である。
『なんで地上にミカサとアルミンが居るんだ!?』
エレンは、巨人の体重の30倍以上ありそうな大岩で身体が潰れそうだった。
だが、彼は大岩を持ち上げてゆっくりと前進していく。
巨人が彼の目の前に立ち塞がってもリコ班が必死に喰らい付き、ミカサが援護した。
『オレたちは!皆、生まれた時から自由だ!』
『外の世界を見た者は、この世界でもっとも自由な奴だ!』
『その為なら命なんて惜しくない!戦え!戦え!』
『どれだけ世界が残酷でも構わない!戦え!戦え!』
エレンは、とにかく自由を思い浮かべて奮い立たせた!
一歩進む度に自由に近づいていると信じて突き進んでいく。
それでも、穴までまだ1/3の距離を進んでいないのだ。
このままでは、エレンが大岩で穴を塞ぐまえに味方が全滅してしまうだろう。
「ハァハァ…もう巨人はうんざりですわ!」
「なら、俺はどうだ?むさ苦しいと自覚してるが巨人よりマシだろう?」
「ハァハァ…検討しておきますわ」
「あーあー振られちまったなミタビ、まあ尻に敷く女房になるのは目に見えるがな」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだイアン!」
「痛い所を突くな!」
なんとか付近の巨人を殲滅して精鋭班の犠牲者を3名までに抑えた。
しかし、お人好しであったグリード班は、ミタビ班とイアン班を庇って全滅してしまった。
「やめなさい!訓練兵に何をしてるの!」
「リコ、もう俺たちは抜け殻なんだ…若い女の子に励まされないと元気になれないくらいにな…」
「それって私に魅力がないってこと!?」
「よし!俺たちが悪かった!分かったからそのブレードを巨人に向けてくれぇ!」
「よっ!精鋭班の眼鏡アイドル!リコ班長!」
「あんたたちのそういうところが嫌いよ!」
1名を除いて、恐怖と責任の重圧に押し潰されそうだった一同。
ただ、汗だくで喘いでいるフローラを見た男共は興奮していった。
男の悲しい性というか、闘争心に基づいた嗜虐心がくすぐったのだろうか。
軽くセクハラされていたが、フローラからすればどうでもいいものであった。
なんなら士気が上がるなら上半身を裸にしてもいいぐらいの感覚である。
「このまま…戦うのは…」
【巨人の吸引力が変わらないただ1つの穴】に内心キレていたフローラであったが疲労と共に別の感情を抱いた。
大岩を持ち上げているエレンの移動が遅すぎるのだ。
人間で例えると自身の体重の何十倍も重量がある大岩を持ち上げているものだからしょうがない。
なんて言うと思ったか、いくら何でも遅すぎるエレンに彼女は苛立ちの感情を抱いていた。
だって、穴までまだ半分どころかほとんど進んでいないのだから。
「おいなんか音がしたぞ?」
「あああっ!?僕の鋼貨!待ってーーー!」
「命よりも金が大事とはたいしたもんだな!」
「待って~!僕の鋼貸ー!!」
金属音がし、転がっていく鋼貨の音に気付いたミタビ班が持ち主のホークマンの焦った姿を見て笑っていた。
もちろん、鋼貨1枚で1日における4人家族が消費する小麦を買えるほどの価値があるものだ。
開拓地の連中など、豆だけのスープで我慢して常時腹を空かしているのを知っていれば無視できないものである。
ここが、戦場でなければ。
「ああ、鋼貨の音でしたのね…えっ?」
鋼貨は、スナップブレードの元である【超硬化スチール】の精錬工程で生み出された副産物だ。
削るのも溶かすのも容易ではない、ただ硬いだけの質の悪い鋼に刻印を押したものである。
その為、大きさも厚みも形もばらつきがあるのだが、そこは問題ではなかった。
「エレンが担ぎ上げている大岩ってあんなに丸いのね」
「大変だ!また巨人の群れが前方から来たぞ!!」
「まだ3分も休んでないぞ!」
「もうダメだ!お終いだ!これ以上は守り切れんぞ!!」
フローラは1つの案を思い浮かべた。
これをアルミンに話すべきか迷ったが直接、エレンに話した方が早いだろう。
そう判断した彼女の動きは早かった。
「エレン!一体何をやってるの!!」
フローラの問いかけに対して呆れたようにエレンは彼女に顔を向けた。
見れば分かるだろう!大岩を担いで運んでいるんだよ!
巨人でありながらそんな事を考えている顔をしていた。
「エレン!!わたくしの話を聴きなさい!!」
「えっフローラなにやってんの!?」
「ちょっと黙って!」
「ええっ!?」
いきなりエレンの進行ルートを妨害するかのようの現れたフローラにシガンシナ幼馴染組は唐突さにビビった。
思わず咎めたアルミンを一言で蹴散らしたフローラは、エレンに向けて衝撃的な一言を放った。
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「大変です!エレン・イェーガーが大岩を地面に降ろしました!」
「なんじゃと!?」
注視していた女参謀のアンカ・ラインベルガーの一言によりその場が凍り付いた。
頭が真っ白になったピクシス司令は思わず立ち上がった。
無理もないだろう。
囮で巨人の注意を惹き付けているのも時間の問題であった。
その為、再度、囮作戦を決行しようとしていた時にトラブルが発生したのだ。
「また暴走したのか…?」
「やはり、作戦を中止した方が…」
「信煙弾は上がっていないようなので、休憩しただけでは?」
「お前!休憩している暇なんてないぞ!」
「俺に向かって叫ぶな!俺のせいじゃねーぞ!」
最初、エレン・イェーガーが大岩を持ち上げた時、歓声があがったがすぐに静まることになった。
何故なら移動速度が遅すぎたのだ。
これで日が落ちる前に穴を岩で防ぐことはできない。
夜間になれば巨人の動きは鈍くなるが、それまで精鋭班が防衛できるはずもない。
「ピクシス司令!」
「どうした!?」
望遠鏡で注視しているアンカの言葉を全員が固唾を呑んで待った。
「エレン・イェーガーが大岩を転がし始めました!」
「凄い速さです!もう穴まで1/3を切りました!!」
思わずピクシス司令は、手を打って感心した。
「ああそうか、その手があったか!じゃないでしょうが!あんた何やってるんですか!」
「グスタフ、一応わし、司令官なのだが…」
「何故、指摘しなかったんですか!あのままだったら兵を無駄死にさせる所だったんですよ!」
「だって現場に判断を委任したもん!わしは悪くない!」
良く考えて見れば、岩を持ち上げるより転がした方が早いのは誰にも分かる。
なんの為に車輪が開発されたか思い出してみればすぐに分かる事である。
参謀のグスタフは、ピクシス司令の【大岩を持ち上げる】という指示に囚われていた精鋭班を心情を思い同情した。
「大変です!」
「今度は何だ!?」
「大岩が民家に直撃しました!あそこは確か美術館が…」
震える女参謀の右肩に手を当てて笑うピクシス。
「司令、セクハラで訴えますよ!?」と返答する余裕がないアンカ。
人類の財産の消失を受けて愕然とする彼女を勇気づける為に彼は発言した。
「良い事を教えてやろう!こういう人類にとって都合が悪い事はな…」
「全部、巨人のせいにすればよい!」
「全部、巨人のせいにしておきなさい!」
ピクシス司令とフローラは同時刻、ハモった。
「フローラああああ!美術館をぶっ壊しちゃった!!どうしよう!?」
「コラテラル・ダメージ!仕方なかったって奴よ!」
「でも…」
「人命と財産、どっちが大事かアルミンなら分かるでしょ!エレンも早く動きなさい!」
フローラは大岩を転がすようにエレンに指示した。
戸惑うエレンたちであったが、下手すると彼女が一番怖い為、素直に岩を転がした。
すると、前方で迫ってくる巨人共を薙ぎ払って都合が良いうえに素早く岩を動かすことができた。
調子に乗ったエレンは張り手で押しまくった結果、岩が大通りから逸れて美術館に激突した。
人類の財産であり過去の遺産である貴重な展示物を破壊してしまったのだ。
その結果、混乱したやりとりが上記である。
「こんな所で止まっている場合じゃないでしょ!早く押しなさい!」
「ぐおおおおおおおおおおお!!」
「いけぇえええ!エレン!!」
「やっちまえ!エレン!!」
「塞いじまえええエレン!!」
「頑張れエレン!」
【巨人の吸引力が変わらないただ1つの穴】を塞ぐためなら何でも犠牲にする。
人命も含んでいたが、まさか人類の遺産まで犠牲にするとは誰にも思わなかっただろう。
やけくそになったエレンは大岩を一度持ち上げて、設置し直して大岩を転がしていった。
穴を塞ぐのが自分の使命と理解している彼は、フローラ流ごり押し戦術で突っ込んでいった。
とにかく派手に転倒した巨人は精鋭班の餌食となり、後方から来る巨人は、フローラとミカサが葬っていた。
「ぐおおおおおおおおお!!!」
そしてエレンが門に近づいた時、咆哮をあげて大岩を持ち上げて穴を塞ぐように強く押し込んだ。
その衝撃は壁に更なるヒビを増やすほどであった。
「終わったのか?」
「ああ作戦完了だ」
穴を塞ぐ様子の一部始終を、ミタビとイアンは見届けた。
「どうする?もうガスがないぞ」
「どうするって?どうしようもないさ」
「おいおいイアン、作戦が成功した後の事は考えてなかったのか?」
「巨人に喰われる前にみんなが助けてくれるさ!」
もう自分たちはお役御免と言わんばかりに座り込んで向かい合って笑った。
人類の未来をあらゆる犠牲を払って、守って見せた漢たちに悔いは無い。
囮になって犠牲になった訓練兵と駐屯兵団の兵士たち。
精鋭班では、犠牲者4名、重傷者2名、軽傷者5名。
精鋭班を援護して全滅したグリード・ホルツマン班長が率いたグリード班の4名。
大勢の心臓を捧げて人類は勝利したのだ。
「皆…死んだ甲斐があったな…今日、人類が…初めて巨人に勝利したよ」
穴が塞がった事を確認したリコ・ブレツェンスカは、泣きながら黄色の信煙弾を打ち上げた。
黄色の煙には2つの意味がある。
作戦遂行が不可能になった。
もしくは作戦が成功した場合だ。
「黄色の煙を確認!作戦が…成功しました!」
「ただちに援軍を送れ!精鋭班を救出せよ!」
「ハッ!」
アンカは、ただ自身の役目を全うした。
作戦成功の報を聴き歓声を上げる暇もなく慌ただしく兵たちが部隊を編成していく。
まるで英雄たちを絶対に死なせない覚悟を全員が共有したような動きであった。
その様子を見届けたピクシス司令は、ようやく部下から受け取った酒を飲む事ができた。
「やはり仕事をやり切った後の酒は旨い」
彼は安心して肩の力を抜いて酔いに溺れていった。
何故なら、頼もしい援軍が壁内へと攻め込んでいったからだ。
「ミカサ!エレンの様子はどう!?」
「すごく熱い!アルミンも手伝って!」
「うん分かった!」
大岩で穴を塞いだ瞬間、エレンの巨人は力尽きた。
以前と同じように、うなじから現れたエレンを幼馴染たちが必死に救出しようとした。
「ダメだ!身体の一部が同化してて取れない!」
「もう斬るしかない!」
「そんな…」
巨人と同化したエレンの脚をリコ班長が躊躇なく斬り落とした。
思わず彼を抱き締めながら立体起動をこなして着地したミカサ。
「ミカサ、逃げろ!巨人が!!」
作戦の成功で気が緩んでいたのだろう。
2体の巨人を取り逃がしており、ミカサの目の前に居た。
フローラはミカサたちに迫った巨人たちを追っていたが距離があり過ぎた。
そして精鋭班の班員たちもガス欠で身動きが取れなかった。
要するに積みである。
もうダメかと思ったその時、閃光が迸り高速で回転する何かが2体の巨人に襲い掛かった。
高速回転で巨人のうなじを抉り取り自分の死を知る暇もない哀れな巨人たちは倒れ込んだ。
誰もが目を疑う光景である。
色々とバグった動きをするフローラですら何が起こったのか判断できなかった。
「一体何が…」
「あれはー」
倒れこんだ巨人の屍に緑のフード付きマントを羽織った黒髪の男が舞い降りた。
そのマントに描かれていた紋章は、重なり合った2枚の翼。
通称、【自由の翼】と呼ばれている紋章。
巨人の脅威に立ち向かいマリア・ウォールを奪還を目指す兵団。
調査兵団の紋章である。
エレンは意識が朦朧でありながらも必死にその頼もしい後ろ姿を見つめていた。
「おいガキ共…これは一体どういう状況だ!?」
人類最強の男、リヴァイ兵長が振り向いて訓練兵たちに、この惨状の説明を求めた。