進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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122話 雷槍よりも大きな爆弾

只今、調査兵団は、駐屯兵団や憲兵団の志願者を加えてトロスト区の壁外に出ている。

既に先行した調査兵と壁上固定砲によって周囲の巨人が一掃されていた。

しかし、安全地帯といえないので全員が厳戒態勢で待機している。

だが、いつ死んでもおかしくない環境に適応できてしまった者は違う様だ。

 

 

「ふふふふ!!ようやくだ!!ようやくお披露目ができるぞぉ!!」

 

 

新型兵器の設計と開発に携わったハンジ・ゾエはワクワクしている。

隠蔽された技術を元に技術班と共に考えて設計し、先輩に開発を主導してもらった。

そして今日、ついに考案した兵器が表舞台に出て脚光を浴びるのだ!

まるで超新星の推しの子を初ステージに立たせるプロデューサー気分である。

 

 

「一部の機能を削除されたのは残念だけど仕方ないね!」

 

 

しかし、当初予定した試作品は事故が多発し、一部の設計を変更せざるを得なかった。

ハンジは聴かされてがっかりしたが、実用化する為に設計変更を受け入れた。

こうして想像と妄想を形にした兵器を触るのはいつだって興奮するものだ。

エルティアナにそう告げると同意してくれたのでハンジはいつになく暴走している。

 

 

「諸君、こいつみたいに余所見をしながら考え事をしない様にせよ。ましてや壁外では尚更だ」

 

 

訓練兵団の先輩であるエルティアナの話も自分の事を示しているとは気付けない。

一応、ここは巨人の領域であるが、ハンジにとっては、ここは庭みたいなものであった。

 

 

「一体何が始まるんだ?おいアルミン、お前は何か知っているか?」

「ごめん分からないよ…」

 

 

自分が作った硬質化とは一切関係ないせいでエレンは新型兵器と聴いてもピンと来なかった。

なのでアルミンに質問したが、彼も何も知らない様だ。

 

 

「先輩、始めても良い!?というか始めちゃうよ!!」

「もう勝手にしろ…」

 

 

金属製の棒を持ったハンジは先輩の許可をもらって試験をする事にした。

まあ、許可をもらわなくてもやるつもりであったが…。

 

 

「はいドーン!!」

「このアホ!!」

 

 

ハンジは、見物人に確認を取る前に槍を樹木に打ち込んで起爆用ワイヤーを引っ張って起爆した!

爆発する瞬間、盾を構えていた先輩の後ろにしれっと隠れる様にハンジは動いた。

そのせいでエルティアナは大慌てで盾で爆風を防ぐ羽目になってしまいハンジの蛮行を批判した。

 

 

「せめて合図くらい出せ!!」

「私の部下なら言わなくてもできたけどな…」

「いつから私は貴様の部下になった!?」

「先輩は部下じゃなくて先輩でしょ?何言ってんの?」

 

 

ハンジの両肩を掴んで向き合ったエルティアナは抗議をするが、更にコントは加速する。

 

 

「ほら、見てごらん!!すごい威力でしょ!?まるで雷が落ちたようだ!」

「感想だけ述べるな、まず説明しろ」

「だからこの新兵器は、【雷槍】って呼んでいる!エルティアナ先輩、あとの説明宜しく!」

「こいつ!!」

 

 

ハンジは新兵器の威力を兵士たちに披露するが、詳しい説明は先輩に任せた。

そのせいでエルティアナはハンジの胸ぐらを掴もうとしたが、諦めた。

50mの壁の上から民衆や記者が見下ろしているせいで変な真似ができなかったのだ。

むしろ、狙ってハンジがやっているのかと思うほどだった。

 

 

「…諸君、見ての通り、携帯する爆弾の一種と考えてくれていい。これの利点は、専門的な知識や特殊の訓練をせずとも巨人に重火力を叩き込む事ができるのだ」

 

 

事前に用意してあった箱から雷槍を取り出したエルティアナは兵士たちに簡潔な説明をする。

金属製の槍のような兵器を見せながらも彼女は、ハンジを殴り倒したくてしょうがない。

事前の打ち合わせでは、この説明をトロスト区でやる予定だったのだ。

ところが、ハンジは実戦で運用したいのか、相談も無しに壁外に飛び出したせいでこうなった。

やはりモブリットの死が大きいのだな…と考えつつエルティアナは専用の器具に雷槍を装備した。

 

 

「このように前腕に固定具があり、できるだけ立体機動に支障がでないようにしてある」

 

 

装備関連の話をすると、操作装置に増設された専用の器具が付けられている。

その部位と前腕部の輪っかを通す事で雷槍を装備できる。

そのせいで、すぐに雷槍を配備する事はできないが、拡張パーツさえあれば装備が可能となる。

また、操作装置の底と前腕部だけで雷槍を支える関係で、立体機動の動きにはさほど問題はない。

なにより、増設された器具はどちらも雷槍を支えるものであり、複雑な構造をしていなかった。

 

 

「欠点としては、雷槍と同時には刃を装備できない事と、なにより射程距離がかなり短いのだが…まあ、実戦で見てもらった方が早いな」

 

 

雷槍の撃ち方!

1.刀身の固定を解除する第一補助スイッチをONする!

2.第一トリガーを引くとアンカーを射出する代わりに雷槍がぶっ放される。

つまり、雷槍装備時には刃を装備できないのが一番の欠点と言える。

なにより接近して撃たないといけない為、下手に爆発させると巻き添えに遭うという事だ。

 

 

『ハンジ、実戦で新兵器の効果を披露する!準備しろ!」

「了解、でも1つだけ言わせて欲しい。雷槍って呼んでくれないかな?」

「今それを言う事か!?」

「もう雷槍って名前に決めたの!!先輩も統一してくれないと分かりにくいでしょ!?」

 

 

…と説明しても、すぐには理解できないだろうし、何度も言う様に座学で伝えるべきである。

そう考えたエルティアナは、ハンジが提案した実戦をやる事にした。

ただし、勝手に名称をつけて打ち合わせも無しに合わせろという横暴の態度は…。

トロスト区に戻ったら一度、本気でハンジをぶん殴ってやろうと思わせるほどだ。

 

 

「ファルケンハイン!信煙弾を撃ち上げろ!!」

「了解しました!」

 

 

だからといって私情で動くわけにもいかず、事前の打ち合わせ通りに行動するしかない。

指示をされたファルケンハインは、上空に向かって黄色の信煙弾を撃ち上げた!

そして雷槍を装備したハンジがエルティアナの前にニヤニヤしながらやってきた。

 

 

「いやー楽しみだねー!」

 

 

既にハンジ・ゾエは、自分の気持ちをぶつけられる相手が先輩しか残っていないと思っている。

なので割と甘えており、なんだかんだで優しい先輩と一緒なら実戦披露ができると踏んだのだ。

巨人討伐実績が憲兵で珍しく二桁超えるベテラン兵でもあるので安心して背中を任せられた。

その様子を見てリヴァイは疑問に思う。

 

 

「なんでハンジには、甘いんだ?もっとしばき倒せばいいんじゃねぇか?」

「どうやら腐れ縁という物らしい。その点は私にも理解できないさ」

 

 

その疑問に答えたエルヴィンだったが、エルティアナが以前より優しくなったと感じる。

やはり、知り合いを粛清したりして気が病んでいるのかと感じたが…。

どうやら杞憂の様でハンジに振り回される程度で済ませるのはさすがというべきか。

 

 

「や、やっと合図が出たあああ!!」

「うるさいですね、もっと黙っててください」

「あれだけ巨人に追われてその返答って絶対に人間じゃないわね!?あんたの血は何色!?」

「赤ですよ、何言ってるんですか」

 

 

信煙弾を見たラナイ副長は愚痴を告げるが、馬で並走するカーフェンに辛辣な言葉を告げられた。

ラナイは口で反撃を試みるも、ケニーですら対処に困る女は平常心で返答する。

彼女たちの後ろには、誘導されている3体の巨人が迫っていた。

ハンジとエルティアナは、その3体の巨人を雷槍だけで討伐する気である。

 

 

「…何をしているんだ?」

 

 

エルティアナは呆れていた。

 

 

「馬に乗れません…!先輩、やり方を教えてください!!」

 

 

ハンジ・ゾエは意気揚々と雷槍を装備したのは良いが、そのせいで馬に乗れなかった。

肘より後ろに雷槍が大きく飛び出しているせいで馬にぶつけそうだったのだ。

ならばと、別の乗り方をしようとすると手より飛び出した雷槍が馬に刺さる可能性があった。

そのせいで先輩に助けを求める事しかできなかった。

 

 

「なるほど、それも欠点か。本当は訓練で出すべき課題だな」

「先輩!!どうやって装備したまま乗ったんですか!?いやマジで!」

 

 

口ではそう言いながらも、エルティアナは事前にハンジには乗り方を教えていた。

だから雷槍を装備したまま馬に乗ろうとするのを咎めなかった。

単純に何も考えてないと判明して彼女は溜息をつく。

 

 

「分かった。私の乗り方を見ろ。一度しか見せん。それで乗れなかったら後退しろ」

「り、了解です!!」

 

 

明らかに敵に向ける視線になった先輩にさすがのハンジも焦った。

如何せん、甘え過ぎるせいで割と叱責より睨まれる事が多い。

ただ、先輩が分かりやすいように乗馬したおかげでハンジも習って乗馬できた。

 

 

「おお!!すげぇ!!これならいけるぅ!!」

「どこに行くんだ?」

「分からん」

「せめて巨人に向かえ!兵士を巨人に喰わせる気か!?」

「了解です先輩!」

 

 

相変わらず2人がコントを繰り広げているのを見てエレンは思った事がある。

 

 

『そういや、訓練兵団の先輩と接点がなかったな…』

 

 

南方訓練兵団の103期兵と102期兵との接点がほとんどない事に気付いた。

だからどうしたと言えるが故に訓練兵団における先輩と後輩の上下関係が珍しく感じた。

 

 

「じゃ、雷槍の効果検証を始めようか!初の実戦投入、楽しみだな…ふ、ふふふ!」

「ああ、嫌な予感しかしない…」

 

 

馬を走らせて巨人に向かっていく2人は久しぶりに並走したのに息はぴったりであった。

 

 

「先輩ー!準備は良い!?」

「できてなくてもやるつもりだろ?」

「あははは、バレたか。やりますよ!!」

 

 

一応、使用許可をもらったハンジだが、承認されるのは分かっていた。

むしろ、先輩が自分に付いて来れるのに驚いていたりする。

それでもこうやって素直に話せる相手は貴重なので彼女には感謝していた。

 

 

「どの部位に突き刺すのか効果的か…その見極めが重要だろうね。先輩は分かりますか?」

「うなじに撃ち込むのが定石だが、動きを止めるなら関節を狙うのも手かもな」

「確かに支援でも役立つのは間違いない!さすが先輩!やっぱ、すごいっすよぉ!」

「喧嘩を売りたいのか、媚びを売りたいのか、どっちかにしろ…」

 

 

2人共、やるべき事が分かっているのに無駄話の様に会話するのには意味がある。

さきほど盛り上がっていたハンジのテンションを下げる為にやっていた。

エルティアナのツッコミもハンジの暴走していい範囲を示していたのだ。

 

 

「先に私が手本を見せる。それでいいな?」

「はーい!!派手に見せてやってください!!」

 

 

今度はエルティアナがハンジの同意を求めた。

さすがに巨人と戦闘する以上、チームワークが重要になるからだ。

そしてエルティアナは馬上から巨人にアンカーを射出して立体機動に移った。

 

 

「ほう?」

 

 

それを見てリヴァイは珍しそうに彼女の動きを観察した。

 

 

「憲兵が馬上で立体機動をするなんて初めて見たぞ」

「そりゃあ、そうだ。だって俺が教えてやったんだからな」

「ん?」

 

 

感想を述べると何故かエルヴィンが反応したのでリヴァイは彼を見た。

そこには、何故か腕を組んで後方彼氏面をしているエルヴィンの姿が!

最近、知り合いが狂っているのかと思う時はあるが…突っ込むのは野暮であろう。

ましてや最近、思い詰めて悩んでいる姿が多い彼がここまで穏やかになるなら悪くはない。

そう考えたリヴァイは、別の話題を振る事にした。

 

 

「さすが4年前のウォール・マリア奪還作戦を前線で指揮した事はある」

「ああ、その影響で彼女に懇願されてな、できるようになるまで付き合ったからな。当然だ」

 

 

やはり、エルヴィンの様子がおかしい。

彼女に恋をしている様には見えないが、明らかに他の連中に向ける顔ではない。

というか、ここまで会話が微妙に噛み合っていないのは初めてだった。

 

 

「……なるほど、接近して撃ち込まないといけないのか」

 

 

てっきりすぐに雷槍を撃ち込むと思ったが、どうやら射程距離は短いらしい。

かなりギリギリのところでエルティアナは、射出した槍を巨人のうなじにぶち込んだ。

そして後方に立体機動をし、起爆用のワイヤーを引っ張って爆発させた!

その爆風は10m級の巨人をぶっ飛ばすほどであり、携帯できる火器としては最強に見える。

 

 

「中々の威力だ。上手く使えば、倒せるかもしれねぇな」

 

 

リヴァイは口でそう言いながらも、瞬時に雷槍の欠点を見抜いた。

斬撃の様に巨人に直接アンカーを撃ち込めば兵士も爆発に巻き込まれる。

したがって雷槍で攻撃できる条件は、目標の周囲に充分な立体物がある時に限られると分かった。

 

 

「…やけに戦いなれてるな?」

 

 

開発を主導したから威力を把握しているのは分かる。

だが、女憲兵はミケ以上に経験豊富なのか、巨人の肉体を盾にして舞うように爆風を回避した。

それがどれだけ異常のことか、ハンジの動きが示している。

同じ様に攻撃しようとしたハンジは、巨人にアンカーを刺したままで雷槍を瞬時に撃てていない。

立体機動を手足のように扱うフローラより明らかに洗練されており、リヴァイには異常に見えた。

 

 

「先輩、どうやったんですか!?これじゃあ爆風に巻き込まれちゃう!!」

「なにやってんだこのアホ!!できないならやるな!!」

 

 

先輩がいとも簡単に巨人を爆破したので真似してやろうとしたのが間違いだった。

すぐにこの状態では雷槍を発射できないと分かってハンジは先輩に助けを求めた!

 

 

「樹木を利用して雷槍を射出しろ!!」

「り、了解!!援護をお願いしますぅ!!」

 

 

エルティアナの指示でハンジは、周囲を見回すと雷槍が撃てそうな樹木を発見した。

そして立体機動に移ろうとすると目の前に巨人の姿が!!

…と思ったらエルティアナに雷槍で左脚をぶっ飛ばされて巨体は、遥か上空を飛んでいった。

 

 

「さすが先輩!」

「手間を…かけさせるな!!」

 

 

ぶっ飛んでいく巨人のうなじを削いだエルティアナはハンジに向かって立体機動した!

その意図を察したハンジは、樹木に飛び込んで巨人の様子を伺う。

 

 

「久しぶりに見たんだけどやっぱ、先輩は強いねー」

「早くやれ!!」

 

 

先輩が自ら囮になっているおかげでハンジは巨人に狙われなかった。

立体機動だけで巨人の動きを制限する先輩の姿は感心すら抱く。

だが、さすがにこれ以上は観察できないと思ったハンジは雷槍を撃ち込む!

それを見たエルティアナが戦線離脱したのを見届けて紐を引いた。

 

 

「うっほー!すんごい威力だぁ!!想定通りだけど実際に見ると感動するね!」

 

 

派手に巨人がぶっ飛んだのを樹木から確認したハンジは大喜びした。

更に巨人で実験しようとしたが、先手を打ったエルティアナが信煙弾を撃った!

黄色の信煙弾は上空に向かって飛んでいったが、ある程度の高さで落下を開始する。

その頃には、見物人や兵士たちに作戦終了という情報を知らせた。

 

 

「作戦終了!総員、門へ帰投せよ!」

「「「「了解!!」」」」

 

 

ようやく壁の中に戻れると知った兵士たちは一目散に撤退を始めた。

指示を出した指揮官ですら上官を待たずに撤退しているのだからここがどれだけ魔境か分かる。

しかし、ハンジはまだやる気のようだ。

 

 

「…援護しろって正気か?」

「いやー!あそこに巨人が居るからね。討伐しておいた方が良いと思うんだ!」

「もうじき兵士の犠牲を出さずに巨人を討伐できる兵器が完成するのに?」

「でも、討伐できるなら越したことはないだろ?」

 

 

ハンジがエルティアナに甘える理由の1つが、彼女なら自作した合図が通じる為だ。

訓練兵団時代に生み出した合図が今でも先輩に通じてしまうのはそれだけで嬉しいものである。

第四分隊が自分を除いて全滅した以上、もはや2人だけの合図になってしまったのも大きい。

 

 

「確かにこっちに来るなら討伐しておくか」

「へへへへ、じゃあ、やっちゃおうか!!」

 

 

合図と目配せで何をするべきか見抜いたエルティアナは双剣を構えて待機していた。

そして自分に向かって突撃してくる巨人に向かってアンカーを射出し、立体機動に移る!

ガス噴出で急加速し、アンカーを外して巨人の死角である背後に飛び出して身体を捻る。

すぐさま膝裏にアンカーを撃ち直して回転斬りで両膝裏を削いだ。

 

 

「ひゃっほい!」

 

 

前屈みに倒れた巨人の隙を見逃さずにハンジは雷槍を撃ち込んで紐を引っ張った!

あっという間に巨人のうなじが爆発で砕け散って蒸気を噴き出しながら塵となって飛散していく。

 

 

「巨人の掃討完了、速やかに帰投せよ」

「ああ、有意義な検証となりました。先輩、ありがとうございます」

 

 

事前に両膝裏を削いでくれと指示を下したハンジは結果に満足し、お礼を言って乗馬した。

この戦闘で判明した事は、平地で雷槍は運用が難しいという事。

そしてなにより、未だに先輩に合図が通用する事が判明したくらいだった。

 

 

「ところで雷槍の量産って可能になります?すぐにでも大量に欲しいんだけど?」

「必死に量産しているところさ、訓練用の試作品が20個あるから当分は、それで練習させておけ」

「さすが先輩!相変わらず頼りになる!なら別の…「これ以上はやらんぞ?」えぇ…!?」

 

 

なお、更にハンジの注文を見越してエルティアナは先手を打った。

ただでさえ頭痛の種を増やされたくなかったのだ。

不満そうにハンジは馬を走らせて正門を潜り抜け…られるわけがなかった。

だってトロスト区の正門に空いた穴は、巨人化したエレンが置いた大岩で塞がっているのだから。

 

 

「昇降機は向こうだが、どこに行こうとした?」

「むー!!やっぱり正門が塞がっていると違和感あるな…」

「そんなに感慨深いならずっとそこに居ろ。私は帰らせてもらう」

「うわー!?待って!!さすがに独りぼっちで居るのはやだー!!」

 

 

いつ死んでもおかしくない環境でいつも通りの会話ができる2人はある意味で狂っていた。

それほど壁外という環境に慣れ過ぎたせいで常人の感性が失われていたのだ。

昇降機に乗った後も暢気に雑談し、壁を降りると調査兵団の高官が勢揃いで出迎えてくれた。

 

 

「ハンジ、すぐに行けそうか?」

「タンマ!トイレに行きたい!30分後に出発する!…でよろしいでしょうか?」

「構わん」

 

 

エルヴィン団長の顔を見てハンジは焦った。

調査兵団と事前に打ち合わせるのを忘れていたハンジはエルティアナに確認を取る。

さすがに民衆の目の前で叱責する気はないのか、特に問題なく受け入れられた。

大慌てでトイレに行こうとすると…。

 

 

「ハンジ分隊長!待ってください!!」

 

 

エレンに呼びかけられて仕方なく馬を制止させた。

 

 

「どうしたんだい?まさか鬼教官が怖くて行きたくないの?」

「いえ、ミカサやアルミンも連れて行って良いでしょうか?」

 

 

この後、南方訓練兵団の駐屯地に向かってエレンの父について尋ねる予定だった。

なのでエレンは調査兵団の高官と共にそこへ向かう予定だったが、更にリクエストがあるらしい。

しかし、独断で決める訳にもいかずにハンジは、エルティアナの顔を見た。

 

 

「……なんだ?大事な事なら発言しろ。五体満足で生まれた貴様の口は何の為にある?」

「この子たちも連れて行っていいかな…ってね?」

「君はどうなんだ?」

「連れて行きたいですぅ!」

「なら良いだろう。ただし、人数分の馬は確保しておけよ」

 

 

白馬を乗りこなす女憲兵は要求を聞き入れてどこへと去って行った。

堅物の様で案外話が通じるおかげでハンジは安心してトイレに向かう事ができた。

 

 

「ふぅー……昔より気を遣ってくれて助かった…」

 

 

部下が全滅したのを知っているせいなのか先輩はいつもより優しかった。

だが、何か違和感がある。

過去の経験から自分に対して何かしらの代償と要求をしてくると分かっている。

ウォール・マリア奪還作戦を絶対に成功させろという意志表示なのだろうか。

ならば、尚更失敗できないという重圧を感じたハンジは鏡を見て油だらけの髪を整えた!

 

 

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かつてそこで学んでいた寺子屋に帰る時ってこんな感じなのだろうか。

少なくとも懐かしいというよりは、本当に卒業したという達成感が先にある。

エレンとミカサとアルミンは、見慣れた門を見て真っ先にそう思った。

 

 

「やっぱりグリシャさんは壁の外から来たのかな…」

 

 

アルミンの疑問はこれしかない。

他にも考えないといけないのだが、明かされた事実が多すぎて頭の整理が追い付いていなかった。

 

 

「それより見ろよ。あの鬼教官たちが必死に頭を下げて対応しているなんて初めてみたぞ」

 

 

エレンはどちらかというと恐怖の対象でもあった教官たちの行動を見て笑っていた。

こいつらには血も涙も無いな…と思っていた連中が必死に頭を下げる姿には心地よさすらある。

 

 

「エレンもいつかあそこまで偉くなると思う」

「ミカサ、オレはさすがにそこまで出世しないと思う」

「ダメ!デュヴァリエ教官を土下座させなきゃ今まで苦労した甲斐が報われない」

「いや、苦労したからこそ、今のオレたちがあるんだ。そこまでする気はないぞ」

 

 

なお、ミカサ・アッカーマンは彼らがエレンにやった所業を忘れていない様だ。

特にクロード・デュヴァリエ教官に対しては、何か仕返しをしたくてしょうがないらしい。

頬を掻きながらエレンは好戦的になった幼馴染を宥めていた。

 

 

「ククク、ミカサはあいつに仕返ししたいって?」

「そう、絶対にギャフンと言わせたい」

 

 

するとオルオ・ボザドがやってきて会話に参加してきたが、何か様子がおかしい。

 

 

「分かるさ、一人前の兵士にさせる為に存在を罵倒してきたあいつを絶対に許せねぇって事はな」

 

 

クロード・デュヴァリエ教官は全ての訓練兵に憎まれていると言っても過言ではない。

個を捨てさせて連携を重視する鬼教官は、懲罰と体罰が大好きな加害者と評される。

その所業は、強面のスキンヘッドが印象的なキース・シャーディス教官が天使に見えるほどだ。

 

 

「私はここの出身地じゃないけど、彼の噂はよく聞いたわ」

 

 

ペトラ・ラルも東方訓練兵団に所属している時に悪評を聞いた事がある。

理不尽な訓練をさせて弱音を吐いた訓練兵を利用し班員に連帯責任を取らせるという悪魔の所業。

いくら訓練兵の個を捨てさせる為とはいえ、不可能な事をやらせる所業には誰もが畏怖する。

訓練兵であったペトラは、自分の訓練兵団ではそんな理不尽な教官が居なくて安堵したくらいだ。

それほど別の訓練兵団まで悪評が広がるほどの理不尽さがあったのだ。

 

 

「オレもなんか仕返しをやろうと思ったけどよ。必要ないみたいだぜ」

 

 

オルオは老けた顔のせいで目を付けられて散々な目に遭ったせいで復讐したいと思っていた。

だが、鬼教官であっても遥か格上であるエルティアナ元監査副長には勝てない様だ。

案の定、達成が不可能な訓練内容を突っ込まれて懲罰として教官自ら訓練をやらせるらしい。

 

 

「うわ……すげぇな」

 

 

自分の背に別の教官を座らせて腕立て伏せをしながら人類憲章の全文を叫ばされていた。

しかも、それを5回繰り返すまで腕立て伏せが終わらないというおまけ付きだ。

いくらベテランといえど第10条ある人類憲章の全文を5回も繰り返すのは不可能だった。

3周目前で力尽きたデュヴァリエ教官を見てエレンは率直な感想を述べて眺める事しかできない。

 

 

「どうした?まだ終わってないぞ?」

「も、申し訳ございません」

「ああ、回数を勘違いしたのか、私は優しいからな。もう1回チャンスをあげよう」

 

 

優しそうにみえるエルティアナの発言を意訳すると「最初からやれ」という命令だった。

理不尽な罵倒も体罰も連帯責任もない代わりに地獄を終わらせないという鬼畜さが見える。

デュヴァリエ教官もさすがに元とはいえ監査副長の命令に背けず、再度訓練を繰り返した。

しかし、過労に加えて歳には勝てずに今度は一通りの腕立て伏せすらできずに終わってしまった。

 

 

「なるほど、最初から達成できる訳がない特訓を訓練兵にやらせていたのか」

「ぜぇぜぇ……はい…そ、そうです」

「君の言い分も分かる。先のトロスト区では個を捨てられぬ兵士から死んでいったからな」

 

 

デュヴァリエ教官も以前はここまで厳しくはなかった。

しかし、不可能な訓練をさせる意図はエルティアナも痛いほど理解している。

なにより彼の性格を知っているからこそ提言に抑えた。

 

 

「君の役目は何だ?訓練兵を一人前の兵士にする為に心を鬼にして必要に応じて罵倒や体罰を行うことだ。だが君は体罰や罵倒をするのが目的になっているように見える」

「ハァハァ…も、もうしわけございません」

「訓練兵に対する理不尽な体罰や罵倒は、もはや虐待だ。手段であったはずの行為が達成するべき目的にすり替わってしまうのは、よくある事だ。まずきちんと自分が達成できる計画を立てろ」

「ハァハァ…承知しました」

 

 

4年前のウォール・マリア奪還作戦を指揮した女将校だからこそ言葉が重い。

現にデュヴァリエ教官の教育方針自体は批判できないほど必要なものだと分かっていた。

むしろ、人類憲章を新兵に覚えさせる為に各訓練兵団に取り入れて良いものだとすら考えていた。

あくまでも彼女が指摘したのは、「失敗をさせる為に訓練をさせるな」と言っているだけである。

 

 

「これは訓練兵団の団長の怠慢だな。君は、訓練が達成できるカリキュラムを作っておけ」

「は、はい…」

「ここから出る際に一通り内容を拝見させてもらうからな。急いで作っておけよ」

 

 

総統局の現場で動く役職ではトップであった女将校には鬼教官も勝てなかったよ…。

しかも難題の宿題まで与えられたのでデュヴァリエ教官は全速力で宿舎に向かった!

一方、エルティアナは硬直する訓練兵団の団長に笑いながら向き合っていた。

 

 

「あっ、死んだな…」

 

 

エレンは後頭部だけが印象的な訓練兵団の団長に向かって合掌し、祈りを捧げた。

それを見たミカサとアルミンとオルオとペトラも合掌をし、無言で祈った。

まあ、やる必要はないし、自業自得とはいえその後の光景を予見した彼らはあえて祈った。

そうしないと、自分たちにも不運が降りかかって来るのではないと考えたのだ。

 

 

「隊長、シャーディス教官がお待ちです!急ぎませんか?」

 

 

女将校の部下であるラナイ・マクロンの発言は、この場に居る全員を救ってくれた事だろう。

 

 

「そうだな、今日は監査しにきたわけでもない。続きは書簡でお伝えさせてもらおう」

 

 

さすがに訓練兵団の団長は見逃されなかったが、同僚の教官は罰せられる様ではなさそうだった。

エルティアナ元監査副長が建物に入った瞬間、教官たちはその場に座り込んだ。

駐屯兵団の連隊長未満の階級なら処刑できる権限をもつ女将校によっぽど緊張していたのか。

普段だったら【鬼の手下】に見えていた教官たちは巨人の恐怖に負けたように疲弊していた。

 

 

「なるほど、君たちはそういう態度と気持ちで私と接していたのか」

 

 

意外とお茶目なのか、エルティアナはしれっと建物から出て来て感想を述べた。

彼女の言葉を聴いた教官たちは一糸乱れずに立ち上がって敬礼をする。

それに満足したのか今度こそ建物に入った女憲兵は、不意打ちを仕掛ける事はなかった。

 

 

「珍しいものを見たな」

 

 

エルヴィン・スミスは満足げに頷きながら建物に入っていく。

 

 

「いやーこわ!私も怒らせない様にしないとね!」

 

 

そんな怖い女将校を何度も激怒させたハンジには、自分の所業には気付いていない。

自分を見つめる教官たちの視線の意図に気付く事も無くスキップしながら進んで行った。

 

 

「どうしたエレン?まだなんかあるのか?」

「いえ、あそこまで怖い将校だと思いませんでした…」

 

 

眼帯をしたリヴァイに急かされたエレンは、率直な感想を述べた。

昨晩の行動がどれだけ非常識なのか教官たちの反応から思い知ったのだ。

 

 

「奇遇だな、俺もあそこまで怖がられる存在だとは思っていなかった」

「あははは、そうですね」

「まさか、俺にも怖がっていないだろうな?」

「め、滅相も無い!!絶対にそんな事はありません」

 

 

リヴァイとしてはギャグのつもりに言ったのにエレンの反応を見て…。

必死に否定する姿から未だに自分が恐れられていると知ってショックを受けた。

確かに特別兵法会議の時には何度も蹴りを入れたとしてもあの場はしょうがないとしか言えない。

普通に交流したいリヴァイは、どうやってエレンと仲良くなるか考えながら建物に入った。

 

 

「オレたちも行こうか!」

「うん、そうだね」

 

 

先輩方の後に続いてエレンとアルミンは歩き出して、すぐ後にミカサが続いた。

 

 

「全くエルティアナお姉さまをなんだと思っているですか!」

 

 

ラナイは自分が置いて行かれているのに気付かずに教官にお説教をしていた。

 

 

「…あれ!?みんなは!?まさか置いて行かれた!?お姉さまああああ!!」

 

 

しかし、ポツンと残されたのを知って涙目になったラナイは走り出した。

そして応接室の扉に辿り着いたが、満員のせいで扉の前で待機する羽目になった。

 

 

「ねぇ!姉さま!!お姉さま!!私だけ除け者にするなんてひどいです!!」

「ファルケンハイン、ちょっとラナイを黙らせてきなさい」

「了解しました」

 

 

あまりにもうるさいのでエルティアナは部下に黙らせろと命じた。

そして彼が退室をすると何かが引き摺られる音がしたが、それから物音はしなくなった。

 

 

「さて、急な来訪ですまないな、キース・シャーディス教官」

「あぁ、想像以上に大所帯で来たな」

 

 

キースからすると懐かしいメンバーが勢揃いしており、反応に困る。

既に話は聞いているのでエレン・イェーガーが来るのは予想していた。

何故かハンネスまで居るのか理解できない彼は、かつての裏門の責任者を見た。

 

 

「グリシャの過去を聴きに来たというより私の過去でも探りに来たのか?」

「君がそう考えるならそうかもしれないな」

 

 

エレンとその同期を除けば、自分の正体を知っている古株しか居ない。

ましてや共闘したりして弱みすら握られている状態だ。

果たしてどこまで話せば良いのかキースは悩んでいる。

エルティアナ女史の返答のせいでどう転ぶか分からないので更に悩む有様だった。

 

 

「じゃあ、私が話題を振ろう」

「「やめてくれ」」

 

 

それを察したエルティアナが助け舟を出そうとするが、ハンネスとキースに止められた。

さすがに2人同時に発言を阻止されると思っていなかった彼女は、何かを言いたそうだ。

 

 

「……即答するという事は、私が貴公らの発言の邪魔をするとでも思ったのか?」

「いや、あんたは昔から真面目だからな。割とシャレにならない事まで言いそうだと思ってな」

「ハンネス、私がそこまで信用できないか?憲兵団の腐敗を見て見ぬフリをした女だというのに」

「だから怖いんだよあんたは…」

 

 

ハンネス目線で見るとエルティアナがヤバい事を言いそうな気がしてならない。

キース視点では、エレンの母親に恋をしていたとバラされそうな気がしてしょうがない。

つまり2人共、意外と似た者同士であると結論付けられるが、彼女は納得できていないようだ。

それでも埒が明かないので結果的に譲歩する事となった。

 

 

「なるほど、ならば黙って聴いてやろう」

「ああ、助かる」

 

 

キース・シャーディスは、知り合いの女の配慮に感謝しながらグリシャの事について話し始めた。

 

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