進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
エレン・イェーガーは、皆から愛されていた。
それは鬼教官を演じたキース・シャーディスですら否定できなかった。
キースからすれば、あのまま壁の外に興味を持たずにエレンが成長して欲しかった。
だが、よっぽどグリシャとカルラを捕食した巨人が残した影響が大きいのだろう。
『なんで…お前がここに居るんだ!?』
ウォール・マリアが陥落してから2年の月日が経過した。
新人だったシャーディス教官も地獄を知っているせいで他の教官を差し置いて鬼と怖がられた。
というか、その目つきと長身から溢れ出る雰囲気で教官すら恐れる存在になっていた。
ただ、彼はそうでいいと思っている。
その程度で怯える新兵モドキなど必要はなかったのだ。
しかし、キースは出会ってしまった。
『エレン・イェーガー!!』
彼の目つきは忘れる事は無い。
だってカルラ・イェーガーの目つきを受け継がれているのだから。
『まずい!このままだと繰り返される!!』
通過儀礼を行なって新兵モドキの集団を解散させたキースは、エレンを恐喝しなかった。
既に地獄を知っているので個を捨てさせる必要が無かった。
むしろ、カルラを喰った巨人への復讐心を捨てて欲しかった。
『あの目つきはダメだ!!』
エレンやフローラが見せた瞳はキース自身が良く知っている。
巨人に肉親を殺されて復讐をしようと志願する次世代の調査兵そのものだった。
だから無能な自分は、彼らの夢を叶えようとして無駄死にさせてしまった。
『あの子は、父親が願ったように自らの命を燃やし、壁の外で力尽きるだろう』
だから訓練兵になる前の試験で強制的に失格にさせようとした。
そうすれば、強制的に兵士の道を諦めてくれるはずだから。
『母親が残した想いを知らずに…』
訓練兵団の教官として傍観者であるはずなのに彼は犯罪をした。
兵士としての適性を知る為に使用するベルトの金具に細工をしたのだ。
両側の腰にロープを繋いで専用器具からぶら下げる訓練で落第させる為に!
『カルラの愛した子を死なせるわけにはいかない』
ここで大切なのは、エレン・イェーガー本人の意志で兵士を辞退してもらわないと困る。
そうしないと調査兵団の荷馬車に隠れて壁の外に出てしまうかもしれないから…。
かの英雄、キュクロ・イノセンシオの再来みたいな出現は御免であった。
『なあ、エルティアナ?お前もそう思っているはずだ…地獄を知る者ならな…』
キース・シャーディスは、ウォール・マリアの陥落した日まで地獄を見続けた。
だが、傍観者であったはずのエルティアナはずっと地獄の日々を生き抜いていた。
ウォール・マリア陥落の日から13日が経過した頃だろうか。
「生き残りが居たぞ!!」
久しぶりにシガンシナ区の生存者がトロスト区の正門に到来したのだ。
その報を聞いて真っ先にキースとエルヴィン新団長は駆けつけた。
そこで目撃したのは、壁の外を知っている彼らすら目を背けたくなる惨状だった。
「あれは…人間なのか?」
まず彼らが疑ったのは、馬に乗る生物が人間かどうかという現状だった。
ラナイ・マクロンという男爵家の令嬢出身の女兵士以外、人間と識別できなかったのだ。
僅か7名の騎兵なのに…その内の6名が生きながら死んでいた。
「おい!調査兵団!!あれはお前らの仲間か!?」
「違う!!あんな化け物じゃない!!」
駐屯兵に質問されたキースは即答するほど彼らを仲間だと認識したくなかった。
巨人に仲間が喰われたり死にかけたりする調査兵ですら目の前の生物を拒絶したのだ!
「こぉ、このぉ子…を…助けてぇ…れぇっ」
その化け物の中で唯一、口が利けた化け物は背後に居た少女を近づいて来た駐屯兵に託した。
「大丈夫か!」
「あぁぁ…」
「しっかりしろ!!」
その化け物集団から駐屯兵に保護された黒髪の女の子は4歳ほどに見えた。
よっぽど環境が悪かったのか、大切にされたはずなのに餓死寸前に感じた。
もう1人の化け物が赤子を渡そうとするが、既にその子は息絶えていた。
「何があった報告……死んでる」
さきほどまで喋っていた化け物は両目を開いたまま死んでいた。
最後の力を振り絞って少女を保護させる事ができて現世に満足したのか力尽きていた。
乗馬したまま死ぬとは思わなかった駐屯兵が愕然として死体を眺めていた。
「早く救護してください!!傷が化膿しているんです!!」
ラナイ・マクロンは近づいて来た駐屯兵の胸ぐらを掴んで治療を急かした!
彼女たちは、巨人と戦闘しながら退却してきた敗残兵で傷が悪化して死にかけていた。
不衛生の環境で大怪我を放置しながら戦闘を続けたらどうなるかを示していたのだ。
「まさか…あれは!」
キース・シャーディスは、唯一外套だったボロキレを羽織っている化け物を見て駆け出した。
憲兵の紋章がある兵服の上に緑色の外套を羽織っている奴なんて1人しか心当たりがなかった。
「エルティアナ!?お前、生きていたのか!?」
駆け寄って分かるその地獄を生き抜いた証を…。
まず顔面が潰れた後に傷が化膿したせいで顔の原型が無かった。
胴体には何故か槍の柄や岩の破片がいくつも刺さっており、直視できなかった。
ならばと下を見れば、排泄物は垂れ流しの様でズボンから良く分からない粘液が溢れ続けている。
比較的にまともに見える肌も青白く死体にしか見えず、ところどころ傷が腐敗していた。
「…生きているよな?」
そしてなにより鼻が曲がりそうな異臭が彼女が死んでいると偽装していた。
馬の動き以外に彼女らしき物体が小刻みに動いているので生きていると判断するしかなかった。
「エルティアナ支部長代行!!」
続いてハンネスが泣きながら駆けつけて来た。
彼は、シガンシナ区防衛戦の最中、グリシャの家の近くでやつれた黒髪の少年を保護した。
そして巨人の群れと交戦している彼女の許可をもらってトロスト区に少年を届けたのだ。
「必ず戻ってきます」と言い残しながら、待機命令でトロスト区から動けなかったハンネスは…。
目の前に居る女将校だった化け物を馬から降ろそうと試みた!
「何をしている!ただちに救護をせんか!!」
駆けつけて来たキッツ・ヴェールマンの怒声によってようやく負傷兵の治療が行われた。
しかし、その日の晩で更に3名の兵士が死んでしまい、その内の1名に至っては
既に治療に耐えきれる体力が残っておらず、ベッドに寝かせた衝撃で死んでしまったのだ。
それで地獄から生還した彼らが兵士を引退できれば良かったかもしれない。
だが、王政府は許さなかった。
「エルティアナ…お前、行くのか…」
「ああ、今度はお前が傍観者になる番だ。しっかり挑戦者の末路を見届けてくれ」
1年に及ぶ治療とリハビリの後に待ち受けていたのは、理不尽な命令だった。
未だに身体が思う様に動かない負傷兵はウォール・マリア奪還作戦を指揮しろと命令を受けた。
顔面を包帯で覆って治療痕を隠すエルティアナは、喜んで志願し、総指揮官として君臨した。
以前と違って見守る事しかできないキースは、地獄を生き抜くと決意した女に敬礼を捧げた!
『そうだ、エレン。お前はあそこに行ってはいけないんだ』
キース・シャーディスは、エレンが姿勢維持に失敗したのを目撃した。
ところが、彼の心は折れていなかったので翌日も訓練させる事にさせた。
負傷しても何かを達成しようとする心意気に胸が打たれたのかもしれない。
他にもできていない人物も居たので建前に使わせてもらった。
『本当の自分に従って生きろ!それがお前の物語だ!!』
翌日、再試の為にキースはエレンの吊り上がり訓練に立ち会った。
「いいか、立体機動を操る事は兵士の最低条件だ。それができなければ開拓地に行ってもらう」
「はい」
「始めろ」
キースの指示でエレンは吊り上がり訓練を開始した。
『そうだったな、私はただの傍観者に過ぎなかったのだ…』
エレン・イェーガーは壊れた器具を纏っているのに気合で一瞬だけ姿勢を保った。
自分でさえ成し得ない姿勢制御を達成したのだ。
やはり、グリシャ・イェーガーの息子は特別だったのだ。
「ああ!?」
すぐに姿勢が崩れて後頭部を地面に打ったが、まだエレンはやる気のようだ。
「ま、まだ…!」
「降ろせ」
「まだ、オレは!」
「早く降ろせ」
必死に再度の挑戦を要求するエレンを無視して装置を操作するトーマス・ワグナーに命じた。
彼が釣り上げたロープを下ろしている間は、誰もが失格なのだな…と思った事だろう。
エレンは泣きそうな顔をしているが、キースから見れば立派な男に見えた。
「ワグナー」
「ハッ!」
「イェーガーとベルトの装備を交換しろ」
「ハッ!!」
そしてトーマスにエレンのベルトを交換させた。
周囲の見物人は驚いているようだが、ミカサ・アッカーマンだけは気付いたようだ。
最初からこの装備が壊れている事に…。
「で、できた!?…でも何で急に!?」
「装備の欠陥だ。貴様の使用したベルトの金具が壊れていたのだ」
姿勢が保てない他の者は地面に頭を打っていない時点でおかしいと判断されるはずだ。
エレンが無事に姿勢を維持できたのを目撃したキースは、故障したと述べるしかない。
「正常なら腰まで浮いた状態で反転しても頭を打つ訳がないからな」
「え?では…適性判断は!?」
「問題はない。修練に励め」
シャーディス教官から兵士適正試験に合格したと知ってエレンは喜んだ。
それを見てキースは、1つだけ分かった事がある。
『私には何も変える事ができない』
運命というのは、偶然の様で必然の様であった。
自分が調査兵を引退するのもエルティアナが死地を求めて生きているのも…。
壁の外から来たグリシャの息子が壁の外に行こうとしているのも…。
全てが1つの未来に向かって進む大河の流れに乗っているせいなのかも知れない。
『グリシャ…今日、お前の息子が兵士になったぞ』
だからキース・シャーディスという男は傍観者に戻った。
それが自分に与えられた使命だと自覚して…。
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キース・シャーディスは、姿勢維持の試験で不正をしたと白状した。
当事者であるエレンは黙って話を聴いていたが、すぐに口を開いた。
「確かに不正がありましたが、そのおかげでオレはここまで成長できたと思っています」
「……まるでグリシャみたいだな、やはり血は絶えんか」
「オレだけじゃありません、同期も教官の指導があったから生き抜く事ができました」
エレンは真っ先にシャーディス教官にお礼を言った。
その言葉で彼は大分救われただろう。
しかし、エレンは1つだけ否定した。
「オレは確かに教官の言う通り特別ではありません。父親が特別だっただけです」
エレン・イェーガーは、レイス家の陰謀に巻き込まれた時、自分が凡人だと知った。
宿った力は、父親から授けられただけで周りに助けてもらわないと生きていけないと分かった。
「オレが巨人の力に託された理由は、父親が特別だったから…それが分かっただけで収穫です」
この場にエレンが居るのも、教官が失恋したのも父親が特別だったから。
偉大な父の後ろ姿しかしらない彼は、自分がどれだけ思い上がった馬鹿だったか理解できた。
「シャーディス教官、オレの父親を救ってくれてありがとうございました」
そして昔話を話してくれた教官に感謝した。
それを聴いたキース・シャーディスは、エレンが現実を知って卑屈になっていると気付いた。
「エレン・イェーガー、お前はまだ勘違いしているぞ」
「え?」
「お前の母さんは私の暴言を受け入れた上でこう言ったんだ…」
キースは、かつて暴言を吐いたカルラの反応をよく覚えていた。
自分に失望するのではなくむしろそれを受け入れて彼女は切り返したのだ。
「特別じゃなきゃいけないんですか?絶対に人から認められないといけないんですか?」
それは、子供を授かって更なる愛を知った母親の言葉だった。
「私はそう思っていませんよ、だってこの子は偉大にならなくて良いと思ってますから」
調査兵団に所属して【死】を目撃し続けたキースは、【生】という神秘を始めて目撃した。
もちろんエレンの出産に立ち会っていないが、それでも生きるという偉業を知った。
「人より優れてなくたってこの子は、こんなに可愛いんですから」
カルラが可愛がる息子は、何も知らずにキースに向かって手を伸ばす。
だが、母に頬擦りされて受け入れているのを見て良かったと思えるほど神秘な光景だった。
「だからこの子は、もう偉いんです。この世界に生まれて来てくれたんですから」
母親に愛されないどころか、排除する者がいる中でエレン・イェーガーは幸せだった。
陣痛に耐えて元気に生まれて来た子を見た時、彼女は感動し、二度と離さないと誓ったであろう。
目つきにカルラの面影があるエレンは、キースから見ても…とっても大切な宝物に見えた。
後にそれを自分にも当てはめなかった事が悲劇に繋がったと理解した。
「だからイェーガー、お前は自分を誇れ!確かにお前は両親から愛されたのだからな」
「はい、ありがとうございます」
母親の愛を知らずに死ぬなどあってはならない。
兵士としてエレンが死ぬ可能性があるとしてもキースは止める事はない。
だが、生きている事が奇跡であり、それを容易に投げ出すなと警告した!
「そうそう、以前、ここを訪ねて来たフローラから預かっている物がある」
フローラの名が出た瞬間、心温まっていた調査兵団の皆々は警戒した。
彼女がとんでもない物を隠していたせいで酷い目に遭ったのだ。
きっと碌でもない遺産が託されたのかと思い込んでしまった。
「トロスト区からシガンシナ区までの範囲を示した地図だ。なんでこれを私に託したのだろうな」
キースが机の上に置いたのは、ウォール・マリア奪還作戦に役立つ地図であった。
その地図は調査兵団に支給される地図より繊細な地理が載っていた。
なにより、この地図には調査兵団が所有している地図と違って秘密が書かれていた。
「…これは、私がフローラに渡した地図ではないか」
それは、エルティアナが4年前に行なったウォール・マリア奪還作戦で使用した地図だった。
食料を賄えきれないので人減らしに実行したが、補給拠点を作るなど長期的な作戦でもあった。
地図には、エルティアナの指示で作った補給拠点の場所が示されている。
しかも、フローラが調べて書いたのか、調査兵団が今まで設置した補給拠点まで追記されていた。
「驚いたな…。フローラは我々の活動内容をここまで知っていたのか」
ウォール・マリアが陥落してから調査兵団は、再度ウォール・マリア奪還作戦をする為に布石を打っており、シガンシナ区に大部隊を派遣できる様に点在した村や街に補給物資を設置していた。
巨人が襲来したトロスト区に訪れた調査兵団は、その任務の帰りであったのだ。
地図を見て自分たちの活動内容が記されているのを見てエルヴィン団長は素直に驚いた。
「団……シャーディス教官、もしやフローラにも昔話をしなかったか?」
「ああ、したさ」
「なるほど、おそらく俺らがここに来ることを見越して残してやがったな!」
リヴァイ・アッカーマンは、フローラが傍観者になったキースに託した意図に気付いた。
教官が再起不能になっているのにこれを託すほどあいつは馬鹿ではない。
フローラも秘密が知っている事実から調査兵団がここに来ると分かっていたのだ。
『なるほど、確かにこれは役に立つ』
最初は必要ないと思っていたエルヴィンだが、その重要性に気付いた。
そもそも、4年間に渡って行なってきた調査兵団の活動は、水泡に帰していた。
理由は、トロスト区の騒動で入り口が岩で塞がれて大部隊が移動できなくなったからだ。
だから104期訓練兵団を卒業した新兵たちを調査兵団に勧誘する時に断言したのだ。
『もちろん我々は当初からウォール・マリア奪還を目標にしてきた!』
『しかし、トロスト区が使えなくなった以上、東のカラネス区から遠回りになった』
『諸君らも察した通り…我々が4年間で築きあげてきたものが全て無駄になった』
この補給拠点が使えなくなった以上、更に犠牲者が出るとも発言した。
『その4年間で調査兵団の兵士が9割死んだ!』
『少なくともウォール・マリアに大部隊を送るには、その数倍の犠牲者が…』
『いや、正直に言おう!最低でも5倍の犠牲者と20年の月日が必要になる!!』
本来ならカラネス区から再度活動を行うならそこまでの犠牲が必要だった。
しかし、エレンが硬質化を使えるようになった以上、そこまで物資も人材も必要ない。
せいぜい過剰気味な往復分の食料と予備の馬と兵器さえあれば達成が可能だ。
『もしも、巨人の群れに退路が断たれても、これを複製すれば、各班が補給できる』
エルヴィンが一番恐れているのは、巨人に退路を断たれて帰還できなくなる事だ。
いくら巨人の侵入口を塞いだとしても、まだウォール・マリアには巨人の大群が居る。
作戦を達成しても、巨人の戦闘で物資が枯渇し、全滅しては元も子もない。
だが、この地図さえあれば、散開した班が補給しながら帰還する事ができる。
なにより手元以外にも物資があるという安心感は、進軍に不安な兵士の士気向上に繋がる。
「よし、この地図を複製して各班に配布せよ」
念には念を入れるべきだ。
巨人は人類の予想を遥かに上回る強敵なのだから…。
そう判断したエルヴィンの動きは早かった。
エルティアナも彼らを支援する為にこの面会を終わらせようとすると…。
「姉さま!!お姉さま!!」
ラナイ・マクロンの必死な叫び声で彼女はズッコケそうになった。
キースに何か告げようと考えていたら空気を読まない部下に呼ばれたのだから。
「ラナイ、少しは空気を読め!」
「だって!上が緊急召集してきたんです!!」
しかし、ラナイが持参した書簡を手に取って読んだエルティアナは目つきが変わった。
「エルヴィン団長、リヴァイ兵士長。例の件で上層部が君らを緊急召集してるぞ」
エルティアナの報告を聞いたエルヴィンとリヴァイは向き合って目を合わせた。
「行くか」
「ああ」
一同は、傍観者を務める教官にお辞儀をしてその場を去った。
リヴァイとエルヴィンは、乗馬して待機し、それ以外はトロスト区に帰還した。
「残念だが、緊急召集を受けてな。貴公が作成したカリキュラムは後日に読ませてもらう」
「承知しました」
「クロルバ区の兵団司令部に書簡を送れ。私宛で今日から一週間以内に届くようにせよ。以上だ」
急いで駆けつけたクロード・デュヴァリエ教官は、彼女の温情に感謝し、頭を下げて見送った。
そして4名の騎兵は、北上してエルミハ区を通過し、王都ミットラスに向かった。
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かつての総統局の本部は、兵団政権の拠点になっていた。
厳重な警備を越えると、豪華な装飾品の数々が壁に沿って鎮座し、足元に赤色の絨毯が出迎える。
その絨毯に沿って進むと階段があり、2階に上がってすぐ横に大きな会議室が存在する。
そこで、第二回ウォール・マリア奪還作戦について話し合いが行われた。
「さて、諸君。本日は吉報があるという。是非、聴かせてくれないだろうか」
会議の進行役を務めるのは、兵団政権のトップとなったダリス・ザックレー総統である。
その横には、憲兵団の師団長に就任したローグ・カルテンブルンナーが居る。
そして更に隣には、憲兵団のNO.4であった恰幅の良い男が口角を釣り上げて着席していた。
他にも憲兵団や駐屯兵団の高官が座っており、机の反対側には、調査兵団の代表者が座っていた。
『やっぱり空気が悪いな…』
エルヴィン・スミスは、調査兵団の団長として今まで政治ごっこをする羽目になった。
キース・シャーディス元団長の苦労を知った彼は当初、呼び戻そうと考えたくらいだった。
しかも、知略に優れると知れ渡っているせいで余計に兵団上層部に目を付けられている有様だ。
今でも出席したくないと思うほどでエルヴィンは、兵団上層部と接触したくなかった。
『まあ、今回はエルティアナ女史が味方で助かる。俺らじゃどうしようもないぞこれは…』
だが、今回は隣に心強い味方が居るので少しだけ楽観的になれた。
エルヴィンの隣に座るエルティアナ・ヴェルダンディは、かつての憲兵団のNO.3であった。
なので憲兵団のローグ師団長と新たな副師団長と仲が悪いのが、ヒシヒシと伝わって来る。
だから自分より彼女がヘイトを稼いでくれると分かってホッとしていたのだ。
「エルティアナ監査副長及び元旅団長、この度は、独立愚連隊の就任に心より祝福を申し上げる」
「ありがたい祝辞に感謝致しますドーソン・ロックウェル副師団長殿」
会議が始まった瞬間、憲兵団の副師団長になった元NO.4とNo.3だった女が笑顔で雑談していた。
「君の活躍は、前線から離れた私の耳にも入って来るぞ。人類の勝利の為に精進してくれたまえ」
「ロックウェル副師団長殿こそローグ師団長の後任に急遽就任したのは大変ではありませんか?」
「はははは、私を支えてくれる部下が優秀でね。なんとかやっていけているのが本音だ」
「それは良かった。閣下のお手を煩わせない部下を選別して残した甲斐がありました」
普通の会話に感じるが、エルヴィン・スミスには違って聴こえる。
『お前は格下の連隊長がお似合いだ!それとさっさと死ねエルティアナ』と罵倒する副師団長。
そして『何も仕事をしていない無能が偉そうな口を利くな』とツッコミを入れるエルティアナ。
まさに混沌とする憲兵団の権力闘争を生き抜いてきた猛者同士がドンパチしていたのだ。
『その調子で俺に飛び火しなければどうでもいいな…』
不毛な会話の応酬をしているのが分かるエルヴィン・スミスは他人事だった。
だってそのおかげで自分に飛び火する事はないのだから。
ザックレー総統も対応に困っているのか、特に雑談を止める気が無かった。
新たに副総統になった人物に至っては笑っており、2人の罵倒合戦を楽しんでいるくらいだ。
「さて、早速ですが、第二回ウォール・マリア奪還作戦をご説明させて頂きます」
さすがにエルティアナも重要な会議で足を引っ張る気が無いのか、さっさと本題に移った。
古巣の連中から遠回しに罵倒されても、気にしていないのか。
淡々と分かりやすい説明をし、質疑をされても的確に応えてみせた。
エルヴィンにも話題を振られたので、彼は無難な返答をし、ヘイトを稼ぐ女の支援を試みた。
「ふむ、ウォール・マリア奪還作戦が現実味を増してきたな」
「総統閣下の仰る通りだ、わしもこの作戦は成功すると確信しておる」
ザックレー総統としては、さっさと会議を終わらせたかった。
ピクシス司令も総統の意見を支持するほどこれ以上の憲兵団の権力闘争を見たくなかったのだ。
「思いの外、早いな。しかし失敗は許されんぞ」
調査兵団を廃止すると断言していたロックウェル副師団長は余計な発言をする事となった。
「なにせ我々が反逆疑惑が残っている調査兵団を支援や投資したのは、全ては失われた領土奪還が前提なのだからな。それをしくじれば全てはご破算となる事をお忘れなく…」
要するにこいつは、調査兵団が作戦を失敗すると思って馬鹿にしていた。
王政派閥とグルになって調査兵団を虐げていた彼は、未だに選民思想が消えていない。
それどころか、選ばれし人間だと過信し、隙を見せれば調査兵団を解体するとまで断言した。
「ん?」
さすがにそこまで馬鹿にすればリヴァイは黙っていなかった。
一瞬だけ殺意を感じた副師団長は、人類最強の男の顔を見た。
「兵士長殿、何かご進言でも?」
「…いえ、何も。仰る通りかと」
死んでいった者たちまで罵倒したら容赦しないとリヴァイは暗に告げていた。
さすがに人類最強の殺意でビビり散らかした彼は、これ以上言葉を発する事は無かった。
これで終わるなら良いのだが、絶対に報復が来ると確信したエルヴィンは発言をする。
「全ては、ウォール・マリア奪還の大義の元、我々は壁の外でも壁の中でも血を流し合いました」
まずはロックウェル副師団長の言い分も分かると示して彼を有利にする事。
また、犠牲を出した事を否定しない事であえて追及する余地を残して対策しやすくした。
「我々は、その為に失われた兵士の魂が報われるように死力を尽くし挑む所存です」
もちろん、ウォール・マリア奪還が成功させるのは人類総意の意志だ。
それだけは否定させないようにエルヴィンは断言する!
「必ずしや、吉報を持ち帰ってみせます。それまでどうか今しばらくご辛抱をお願い致します」
この作戦を成功させるまで人類の領域に戻って来ない事を宣言した。
明らかに言質を取らせる発言であった為、兵団上層部は騒ぎ出したが、彼は気にしなかった。
「あぁ…君もそろそろ報われていいはずだ」
その隙にザックレー総統は小言でエルヴィンの苦労を労った。
「シガンシナ区の地下室に君が望む宝が眠っているのを祈ってるよ」
この一言でエルヴィンは今までの苦労が救われた気がした。
それと同時にリヴァイは、目の前の男が夢を達成したらどうなるか気になった。
もしも、夢を叶えたらそのまま廃人になってしまうのではないかと思い始めた。
「これにて第二回ウォール・マリア奪還作戦における緊急会合を終了とする」
こうしてザックレー総統の締めの言葉で会合が終わって兵団政権の高官たちは退席をした。
所詮、人類の希望より自分の席が大事な者たちはこの会議の本質に気付いていない。
ピクシス司令はお手洗いに向かった後、二次会に参加する為に防音室に向かった。
「…全員揃っているようだな」
ノックを3回して入室すると真の目的に集った者たちが待機していた。
「さて、ザックレー。例の注射器は誰に委ねる予定だ?わしに託すだけは勘弁しろよ」
レイス領の礼拝堂の地下で入手した巨人化できる液体が入った瓶とその注射器をどうするか。
本来ならヒストリア女王に使用するべき物を誰に託すか決める為に集ったのだ。
「個人的な意見としては、所有をするべきなのは調査兵団と認識している」
「それは何故だ?」
「まず入手したのは、調査兵団だ。それに我々以外にこの存在を気付かれる訳にはいかんのだよ」
ザックレーとしては、調査兵団が秘密裏に保管してくれた方が助かった。
こっそり液体の分析をしようとしたが、明らかに高度な代物過ぎて解明できなかった。
しかも、これを憲兵団の保守派や革新派に情報が洩れると女王の身に危険が及ぶ可能性があった。
今はお飾りの女王として君臨しているのに物理的に利用できると判明すれば…どうなるか。
それは、歴史が証明していた。
「…ならば、下手に扱うより当初の目的に使用するべきでしょうな」
「ああ、文字通り起死回生の手段としてな」
ピクシス司令の発言にエルティアナは賛同をした。
女王に使用するのではなく敵対する巨人化能力者から能力を奪う手段として使用する。
そうしなければ、いつまで経ってもレイス家が犠牲になってしまうから。
「すると誰に委ねる?やはりエルヴィン、君に託すべきか?」
現場に託すしかないザックレーはエルヴィンに託すつもりだったがそれも可笑しく感じた。
片腕を失った手負いの彼には荷が重すぎたと分かっていたからだ。
「いえ、私は兵士として手負いの身です。この箱は、当初通りにリヴァイに全てを委ねます」
最初にリヴァイ兵長が入手したので彼に託す事にした。
一番生存率が高い彼なら所持するのは間違っていないと誰もが思っていた。
「リヴァイ、引き受けてくれるか?」
当の本人であるリヴァイ以外は…。
「任務なら命令すれば良い。なんでそんな事をわざわざ聴く?」
彼が問題視したのは、
つまり、注射器を使用する権限まで付与されたのはおかしいと反論した!
あくまでも兵士は、上の命令で従う以上、兵士が独断で使用する異常さを指摘したのだ。
さすがに騙されなかったとエルヴィンも思ったのか、根拠を述べる事となった。
「…これを使用する際は、どんな状況下になるか私にも分からない。つまり、現場の判断も含めて君に託すのが最善だと判断した。それだけさ」
「選択を間違え続けた俺に託すというのか?失敗続きの俺には向いていないと思うが?」
「言っただろ。最前線で生き抜く可能性が高いリヴァイだからこそ判断して欲しいんだ」
リヴァイ・アッカーマンは、今まで自分の選択は失敗続きだと思っている。
もちろん、
ここぞとばかりに重要な選択だけを間違えてしまうのだ。
だから緊急時以外は、エルヴィンが判断してもいいだろうと甘えすらあった。
「1つ聞いて良いか?」
「ああ」
「お前の夢ってのが叶ったら…その後はどうする気だ?」
一番の判断ミスになりそうなのは、エルヴィンを死なせる事だ。
特に夢がある癖にそれを達成した後の方針が聴かされていないリヴァイは彼を疑った。
鎧の巨人を討伐するのを夢見て失敗してそのまま戦死した前例を知っているからだ。
夢を叶えたらどうする気なのか、さぞかし素晴らしい未来を聴かせて欲しかった。
「それは、分からない。叶えてみない事には…グリシャが残した物も分からないしな」
「そうか…」
リヴァイは、今までエルヴィンの命令に従って全て達成してきた。
今回の命令も達成するためにしぶしぶ受け入れる事にした。
「分かった、了解だ」
「ありがとう」
エルヴィンとリヴァイには独自の絆があった。
腐女子になったサンドラ・ホルムが妄想していた関係以上に深い絆だ。
お互いを信用しているからこそ言葉足らずでも通じる事ができた。
すなわち、リヴァイはどんな時でも自分で決断して注射器を使用する事となったのだ。
「よし、決まりだな」
ザックレー総統は、両手を叩いて決定を後押しをした。
兵団政権のトップの承認をもってリヴァイは注射器が入った箱を掴んだ。
「さて、君らには案内したいところがある。付いて来てくれるか?」
どうやらザックレー総統は、更に秘密を共有したいのか隠し扉を開いた。
本来尋問用の空間であったこの防音室は、中央第一憲兵団が管理していた。
「問題ありません」
「ああ、こっちも問題ない」
つまり、隠し扉の先は、この世から秘匿された物が保管されている空間に違いなかった。
ザックレーの微笑む意味が分からないエルヴィンとリヴァイは素直に従った。
額を手で抑えているピクシス司令と総統の秘密を共有したエルティアナの仕草に気付かずに…。
「あーあ、可哀そうに」
唯一部屋に残ったラナイ・マクロンは隠し扉を閉めて椅子に座って待機していた。
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総統局の本部は、巨人の襲来にも耐えられる様に例を見ないほど頑丈なコンクリートで作られた。
しかも、外装を二重にして頑丈な花崗岩で覆った為、建物の規模の割には、使える空間が少ない。
だからこそ、こうやって内壁と外壁の間に細長い空間があっても気付かれなかった。
そしてそこは、地下への入り口と繋がっており、各重要施設に通じる地下道と地下空間があった。
「ここだ」
ザックレー総統は、古びた扉の前にやって来た。
そして取っ手を解錠し、扉を開いた!
「なっ!」
エルヴィンとリヴァイは、兵団政権でも限られた人物しか知らない秘密を知る事となる。
「ダハハハハ!!驚いただろう!?ここが私のアトリエだ!!」
ここには、フローラが寄こした怪しげなツボや絵画やオブジェが置いてあった。
これは、総統が芸術だと思う物を持参してきて欲しいという無理難題をやった結果である。
特に目立つところには、『指を指して大笑いをする爺さんの絵』が飾れていた。
「ここの空間は、フローラが私にプレゼントしてくれた物や描いてくれた絵が保管してある」
「は、はあ…」
総統が嬉しそうに解説をするが、エルヴィンはとても理解できなかった。
どれもゴミに見えるし、大事に飾られている絵画が不気味だった。
「この肖像画は、君が紹介したフローラが描いたものだ」
「えぇ…確かに私も覚えています」
指差して大笑いするザックレー総統の肖像画を見たエルヴィンは思い出した!
以前、総統から絵の依頼があって絵の腕が確かなフローラを紹介したのだ。
『余計な着色は不要だ。君が見たままの私を描いてくれたまえ』
その時、ザックレー総統は、フローラに自分の肖像画をその場で描かせた。
そしたら何故か、指を差して大笑いするザックレーの絵になってしまいエルヴィンは困惑した。
『滑稽な爺さんだな!ああ、確かにこんな顔をしていたな!』
『えぇ、以前ツボを持参した時に大笑いをされていましたのでそのシーンを描きましたわ』
肖像画を見て喜ぶ総統とこれを選択した理由を述べるフローラに本気で戸惑ったものだ。
『あ、ああ。なんで気付かなかったんだ…』
よく考えれば、自分が紹介する前にフローラと総統が面識がある時点で変だと気付くべきだった。
今になって彼は、目の前に大きなヒントがあったのに見逃した事に後悔している。
「特にこれはフローラが残した最高傑作と言っても過言ではない!」
自信満々でフローラの作品を紹介する総統は生き生きとしていた。
しかし、彼が推す作品は、明らかに異端であり世間に受ける様に見えなかった。
「トロスト区壁外で巨人に捕食された兵士を助けようとした兵士も別の巨人に捕食されたのだが、なんと、その新手の巨人を討伐する兵士の葛藤と臨場感溢れる1シーンまで描いた作品なのだ!」
以前、ハンネスと同期のダズと共にトロスト区の壁に寄って来た巨人をフローラは討伐していた。
その際に目撃した光景を記録として残した物を元に描いて依頼主の総統に届けた絵画である。
これを目撃したミーナ曰く『もっと明るい絵を描かないの…?』と称された絵は…!
余計な着色を好まないザックレーに高評価されてこの場で大切に保管されていた!
「は、はい。そうですね」
興奮しているザックレーの気迫に圧されたエルヴィンはお世辞を言う事しかできなかった。
だが、彼はそれがまだマシであった事を知る。
「次は私の芸術作品を紹介しよう!」
更に一同を奥に案内したザックレーは奥にある扉を開いた!
そこには、赤いカーテンがあり、何かを隠しているようであった。
紐を引っ張ってカーテンを開くとその先には、ザックレーの芸術作品が置いてある。
いや、総統が芸術作品と自称するとんでもない物が見えた。
それを目撃したエルヴィンとリヴァイは目を丸くして絶句した。
「やはり前代未聞の芸術作品を見て絶句してしまうか。では、私自ら解説しよう!」
それを見てザックレーは、目の前の芸術作品の解説を行なった。
「まずは、偉くない奴が椅子に座るのが気に喰わなかったから文字通り反転してもらったのだ」
表向きには死刑になったアウリール大臣は靴下と靴以外は脱がされて全裸になっていた。
そして逆さまに椅子に座らせられており、手足は拘束されていた。
これをザックレーは、権力の反転と示した!
「更にこの椅子として機能していない状態を上級貴族の不要さを示しております」
正常な座り方ではないので椅子と機能しない事を不要な物。
つまり、この上級貴族様はこの世に要らない物だという事を示していた。
「また、着用できる衣服は膝より下のものとします。そもそも不要なので虚飾と言えるでしょう」
椅子に逆さまで固定されたおっさんが茶色の靴とフリルの女物の靴下を履く必要はない。
地面を歩く事は二度と無いのにお洒落をするのは、虚飾としか言いようがない。
そう、派手な格好で威張り散らかしてきた大貴族様にぴったりな虚飾を示していたのだ。
「余談だが、
なにより股間には特製のパンツに繋がったホースが椅子の後方にあるタンクと接続されている。
そのタンクの底にはまたしてもホースが存在しており、飲尿させる為の排出口があった。
それを拒まない様に
命を狙ってきた政敵のあんまりな末路を見てエルヴィンは黙って聴く事しかできなかった。
「これは、食事の常識を覆すものであり、食事の手間と金銭の浪費を示したと言えよう」
股間が上になっている関係上、尿が頭より上から口に向かって垂れるという意味不明さ。
しかも、そのまま飲ませればいいのにわざわざタンクに貯めるという無駄な手順。
貴族の象徴でもある浪費をザックレーは排泄物で再現したものである。
「…美しい、これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう」
いつ見ても自身の人生の集大成となった芸術作品を見てザックレーは涙ぐんでしまう。
さすがに異常だと感じたリヴァイは副官だった女将校を見た。
「どうした?何か問題でも?」
「お、お前!なんで総統の暴走を看過してやがる!!これを止めるのはお前の仕事だろ!?」
「閣下の夢を…いや挑戦を妨げる無様な真似などしないさ」
エルティアナは、ザックレー総統の暴走を見守っていた。
それどころか、彼の夢を叶えるために積極的に手伝っていた。
既に芸術作品は13個存在しており、
「本当は
当てつけの様に発言するザックレー総統を賛同する様にエルティアナは笑って応えた。
「もうじき芸術作品を一部の関係者にお披露目できます。せめてそれまで長持ちさせましょう」
とんでもない爆脱発言をしたのを聴いてピクシス司令は慌てて暴走を止めようと試みる!
「待て!!まだ諦めてなかったか!?」
「ああ、芸術作品が認知されないほど悲しい物はないからな」
「
「そうじゃったらわしは戦う!!これを民衆に見せるわけにはいかん!!」
ピクシス司令は、南側領土最高責任者として狂った計画を阻止しようとした。
「芸術を分からん奴め」
「兵団への信頼が地の底に叩きつけられるぞ!?」
「エルティアナ、ピクシス司令の暴走を止められるか」
「既にいくつか持ち出したものを中央憲兵だった者が管理しております。妨害は不可能かと」
「そうか、なら良かった」
既に芸術作品が持ち出されたと知ったピクシスは絶望した。
生来の変人と評された彼ですら常識人にならざるを得ないほどの事態が裏で進行していた。
リヴァイやエルヴィンも彼らの暴走を止める為にピクシス司令の味方に付いたほどだ。
「それにご安心を。
敵対する兵士たちを目撃したエルティアナは語る。
素晴らしい芸術作品を披露するのは、現在進行形で反乱を企てている貴族だけだと。
そして披露した瞬間に罪状を示して逮捕し、更なる芸術作品を作る為の材料に過ぎないと…。
更に芸術作品を作ろうとする総統に同調したエルティアナは貴族たちを騙していたのだ。
彼女は、兵団政権に不満を持つという自分の振る舞いに騙された支援者を差し出す為に…。
「さっさとこれを破棄しろ!!これは存在してはならないはずだ!!」
それでもリヴァイは狂った計画を止めようとした。
だが、エルティアナは、よりによってカルラ・イェーガーの言葉を引用して反論した!
「だからこの世界に生まれて来てくれた全ての物は否定できない!カルラが言っていたであろう」
生まれて来た子に感謝する母親の言葉をエルティアナは改変した。
「生まれてきたのが偉いのであれば、生まれて来た子は罪にならないという意味でもあるのだ」
「だからこの子は、もう偉いんです。この世界に生まれて来てくれたんですから」というならば!
生まれてきた事は何人たりとも否定できないと!
「閣下が作り上げた芸術作品は、我々が管理する限り、決して存在する事を罪にはさせん」
既に
「調査兵団が異端となる壁の外を目指して挑戦する事と閣下の芸術作りの挑戦と何の違いがある?双方とも本来は死罪となる異端であり、断罪されるはずが我々は黙認してやったではないか」
エルヴィンとリヴァイは気付くべきだった。
マッドサイエンティスト染みたハンジ・ゾエの先輩が探求者ではないのはあり得ない事に…。
この数日後、ザックレー総統の挑戦を容認した彼女は、喜んで反乱を指示してきた貴族を捧げた。
男女含めて新たに18名が芸術作品になり、ピクシス司令の頑張りで歴史の闇に葬られる事となる。
そして、これを機に芸術作品が作られなくなった事は言うまでもないだろう。