進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
王都に向かうエルヴィン団長とリヴァイ兵長に代わってハンジ・ゾエがリーダーとなった。
ついに団長代行にならずに済んで喜ぶディルク副長は置いておいて他にやるべき事がある。
「さて、ついに兵士の犠牲を出さずに資源も消費しない兵器のお披露目だよ!!」
現時点で巨人を討伐する方法は、大きく2つに分けられる。
「巨人と白兵戦を仕掛ける必要もなく!」
まずは、兵士が白兵戦を仕掛けて巨人のうなじを削いで討伐する方法だ。
巨人との戦闘で危険が伴うが、現状はこれでしか効率的に巨人を討伐できなかった。
「アホみたいに砲撃しなくても済むんだ!」
もう1つは、集中砲撃をして巨人のうなじを損傷させる方法だ。
兵士が巨人との戦闘で命を落とす事はないのが一番の利点と言えよう。
しかし、巨人が動き回る以上、命中精度が低い大砲では有効打になりにくかった。
なので50mの壁を触れる巨人を壁上固定砲で砲撃して仕留めるのが一番効率的とされる。
「ふふふふ!!明日が楽しみだよ!!」
ハンジ・ゾエはついに新型の装置が完成したと知ってワクワクしていた。
本来ならもっと早く完成していたのだが、落下させる丸太の強度問題が露見したのが大きい。
「丸太は持ったな!行くぞォ!」と馬鹿な事を言ってたらそれが落下の衝撃で耐え切れなかった。
なので再びエレンに硬質化で丸太に似た物体を作ってもらい、装置に取り付けたのだ。
そして翌日、記者やトロスト区の代表を集めて新兵器のお披露目会を開始した。
「なんでクジ引きなんだろ」
給与係と班長を兼任しているハロルドは、クジ引きで巨人の囮役となった。
黒髪の女班長は、1体の巨人を惹き付けてトロスト区の正門跡地に向かって進撃をしていた。
そこには50mまで伸びる大きな板が2つ存在しており、僅かな隙間の奥に1名の兵士が居た。
「ほへ?もう来たの?」
観客に見られない事を良い事に飲酒をしていたマレーネは慌てて奥に向かって酒瓶を蹴った。
女班長たちが連携し、新型兵器のお披露目をしようとしていた舞台の裏側なんてこんなもんだ。
「マレーネ!!邪魔だ!!」
「うわ!!そのまま進まないでよ!!」
馬で爆走していたハロルドは、金髪の女班長を罵倒しつつ板挟みされた隙間の中に進撃した。
追いかけて来た巨人は、隙間を覗き込んで必死に手を伸ばそうして人間を食べようとしていた!
「おい、まさか飲酒していたんじゃないだろうね!?」
「別に良いでしょ。ちゃんと仕事をしてるんだからさ」
「じゃあ、次の囮役はお前な」
「仕方ない。もう1瓶空けとくか」
巨人に掴まれて捕食される可能性があるのに女班長たちは安全地帯で雑談をしていた。
理由は単純明快だ。
「任務中にションベン行きたくなっても知らんぞ」
「黙れハロルド、私は束の間の平和を満喫してやるんだ」
どうせ50m上の兵士や記者には聴こえないので2人は雑談して気を紛らわせていた。
巨人に囲まれている中で暢気に昼寝をしていたフローラと違って恐怖はあるのだから。
一方、壁上では隙間に頭を突っ込み始めた巨人を目撃した兵士たちが歓喜した!
「よし!!これでいけるぞ!!牽引開始!!」
硬質化で作られた巨大な板同士の隙間は、巨人の胴体が入らない様に対策をしている。
つまり奇行種ではない限り、巨人は腕や頭を隙間に突っ込んで奥に居る人間を捕食しようとする。
その頭上に巨大な棒が降って来るとは知らずに…。
ハンジ・ゾエの号令でトロスト区の正門前では、
「鎖を固定しろ!!」
そして牽引固定具から鎖を外して馬やロバを連れた兵士たちは避難を開始する。
その次に行われるのは、責任者による確認作業である。
「固定具ヨシ!」「固定具ヨシ!」
「避難ヨシ!」「避難ヨシ!」
「巻き込み危険ナシ!」「巻き込み危険ナシ!」
「指差し確認ヨシ!」「指差し確認ヨシ!」
「チェックリスト終了ヨシ!」「チェックリスト終了ヨシ!」
指差し確認と復唱を繰り返した駐屯兵団の連隊長は、赤色の信煙弾を撃ち上げた!
それを見たハンジ・ゾエは号令を下す!!
「今だ!!戦鎚を落とせ!!」
3人がかりでハンドルを回して固定具から解除された鎖は、落下する戦鎚に引っ張られた。
金属同士が激しくぶつかり合う音と共に高速で鎖は流れていく。
そして上から落ちて来る戦鎚は、巨人の後頭部を潰してそのままうなじまで損傷した。
「やった!うなじに命中したぞ!」
「これならいけるか?」
「いや、待て!動向を見守ろう」
果たしてどうなるか、俯瞰する一同は巨人の損傷の経過を見守った。
すぐに巨人の肌が荒れ始めて黒ずんでいき蒸気を噴き出し始めた!
「やったぞ!!12m級、撃破だぜぇ!!」
ハンジ・ゾエは歓喜のあまり、飛び上がるどころか装備を身に着けたままバク転をした。
兵士たちや記者や代表者たちも歓声に湧いて喜びを分かち合った。
ついに人類は、資源も兵士も犠牲を出さずに巨人を討伐できたのだ。
いや、信煙弾は消費したが、あくまでパフォーマンスに使用しただけである。
「思った通りだ!!これなら日中フル稼働で巨人を伐採しまくりの地獄の処刑人の誕生だ!」
ハンジ・ゾエは、巨人を討伐する事に当たってうなじを攻撃しなくても良いという発想を抱いた。
そのヒントになったのは、巨人の首を刎ねていたフローラの存在が大きい。
うなじを削がなくても別に首全体に損傷があれば巨人が討伐できると知った。
ならばと、エレンの硬質化で本来なら製作に1年は掛かる舞台装置を構築したのだ。
「もう大砲の砲弾の消費や兵士の犠牲なんて必要はない!!新時代の開幕だァ!!」
結果は成功!大成功!!
戦鎚で押し潰されるだけで巨人が討伐できた!
もちろん欠点はある。
目の前の人間ではなく大勢の人々を狙う奇行種には効果が無いという事だ。
それでもこの事実を一刻でも早く民衆に情報を伝達したいハンジは叫びまくる!
「さぁ!新聞屋さん方!!号外だよ!!またまた人類に朗報だ!!飛ばせ!ぶっ飛ばせ!!」
ハンジの叫び声を無視して記者たちは既に号外の記事を考えていた。
その中には、トロスト区の守備兵による内戦を阻止したベルク社の2人も居た。
「ククク、さすがだな!!お前らに支援した甲斐があったってもんだ!」
「そうだぞ。これで借金も返せそうで安心したよ」
朗報を間近に目撃したリーブス会長とそのご子息のフレーゲルも笑っていた。
誰もが笑っていた。
この装置の作成に欠かせなかったエレンとその護衛集団もだ。
「マジかよ、これじゃあ、俺の活躍の場が無くなっちまうなー」
「あー残念だぜぇ」
わざとらしくジャンとコニーがエレンを笑いながら煽っていた。
「へへへ、どうだ!これがオレの!!いや、みんなの力だ!!」
エレン・イェーガーは久しぶりに笑った。
父親の記憶や残酷な事実を知ってから初めて心の底から笑った気がする。
「これで攫われるヒロイン役と言われなくて済むねエレン!!」
「うるせえ!偽クリスタ!!」
「偽クリスタ!?」
アルミンもわざとらしくエレンを煽ると反撃を喰らって衝撃を受けた!
確かにヒストリアの囮になる時に女装したら美少女と評価されたが今言われるとは思わなかった。
「そうですよ、女装したら美少女になれるってすごい特技と思います」
「私も同感」
「待ってよ!!ちょっと待ってよ!!なんで僕を煽る流れになるんだ!?」
サシャやミカサは、女装が似合っていたアルミンを煽る。
確かにヒストリアの服装を着たアルミンは美少女だったのだ。
彼は顔を真っ赤にして反論するが、更に同期たちを笑わせる事となった。
「平和だなー」
「平和が一番よ」
オルオとペトラも腰掛けて後輩たちの騒ぐ姿を慎ましく見守っていた。
「なあ、ウォール・マリアを奪還したらさ…」
「オルオ!それは死亡フラグ!!」
「す、すまない…」
告白しようとしていたオルオはペトラに咎められてシュンとした。
確かに死亡フラグではあるが、想いを伝えられずに死ぬよりマシだと思っていた。
調査兵である以上、いつ死んでもおかしくないからこそ想いをはっきり伝えたかった。
「私も思っていたんだ。あんたをそのまま放置していると勝手に死にそうだってね」
「ああ、俺は兵長にはなれない。憧れは理解から遠い感情だと分かっても強くなりたかったんだ」
トロスト区の出身のオルオは、巨人を討伐し続けたのは家族を守る為だ。
わざわざカラネス区に引っ越しさせたのも巨人の脅威を少しでも減らす為であった。
そして目の前の可愛くて芯のある女兵士を守りたくて必死に努力してきた。
「なら兵長の真似をやめて」
「やめねぇよ、兵長から学べる事を全て吸収しない限りな」
昔から兵長のモノマネをするオルオが嫌いだった。
自分を偽って強気になろうとする彼の姿が痛々しくてペトラは苦手だったのだ。
周囲の歓声が止んでいる事に気付かないペトラは、未成年には見えないオルオの顔を眺めた。
「ねぇ?」
「なんだ?」
「私があんたに告白したら兵長のモノマネをやめてくれる?」
「なっ…!」
一世一代の決心をしたペトラ・ラルは、エレンに匹敵する死に急ぎ野郎に告白をした。
一瞬、オルオは世界が壊れたのかと錯覚するほど幻聴だと感じてしまい、黙り込んでしまった。
しかし、すぐに事実だと分かって頬を掻いて恥ずかしがった。
「なんだよ、俺から告白しようと……クソ、こんな俺でもいいのか?」
「別に嫌なら断ってくれても良いのよ?」
「嫌なワケないだろ!?」
オルオはリヴァイ兵長の強さ以外にも憧れがある。
誰かを導く求心力や実行力や決断力!
それ以上に『この人に背中を預けたい』という信頼できるこの気持ちになれる男になりたい!
そう考えて彼は、兵長のモノマネをしながら信念や行動を理解しようとしたのだ。
だが、ペトラの素の自分が好きと告白されれば、受け入れるしかなかった。
「分かった。これからは無理をしない。約束する」
「絶対に?」
「ああ、絶対だ。ペトラ、こんな俺を愛してくれてありがとう…」
オルオは涙ぐんで愛するペトラの顔が歪んで見えた。
嬉しくて嬉しくて泣いてしまうほどの情熱的な男であったのだ。
「「ん!?」」
何かを書く音がしてペトラとオルオが聴こえてきた方向を見ると…。
「号外だ!!調査兵団に新しいカップルが誕生したよ!!」
相変わらずハンジ・ゾエが叫びまくってペトラの告白を公開処刑の現場に変えてしまった。
記者たちは、巨人討伐機の情報よりも熱心に恋愛の話を知りたがっていたのか。
新兵器お披露目の時よりもメモに記す速度が速かった。
「お二方の調査兵のお名前を伺わせてください!!」
「新居はいつ買うんですか?紹介しますよ!?」
「挙式はいつされる予定で?」
記者たちに囲まれてしまい、顔を真っ赤にした新生カップルは慌てて対応を始めた。
それを見てジャンは羨ましそうに呟いた。
「俺にも告白してくれる女の子が居るのかねー」
もちろん、居ない事は分かっている。
「は?馬面のお前に求愛してくるのは、雌馬だけだろ?」
だが、エレンに煽られて黙って居られるほどの男では無かった。
「なんだと!?ミカサが居るからって恋愛の先輩面してるんじゃねぇよ!!」
「何が恋愛の先輩だ!!オレとミカサの関係はそんなもんじゃねぇよ!!」
ミカサが大好きなジャンは、エレンの待遇に羨ましいと思いつつ反撃を開始した。
デートどころか、告白すらしていないエレンは、図星を突かれたのか口論する!
その光景を目撃したハンジは、2人の反応を見る為に冗談を告げた!
「そうだよね、ジャンとエレンは赤い糸で結ばれてるもんね」
「「違います!!」」
「「…真似すんな!!」」
「おーお、息ぴったりな事で」
ハンジ・ゾエのチョッカイに2人は反撃するが、大したダメージになってない様だ。
こうして新型兵器のお披露目が完了し、無事に物事が済むと思われた。
「ハンジ分隊長!!褐色の肌の巨人がこちらに向かって来ています!」
「……ん?あれは変異種か!」
駐屯兵からの報告を受けてハンジは、該当する巨人を発見した。
四足歩行をする変異種がゆっくりと壁に向かって突き進んでいた。
「しかも動きから奇行種じゃん、装置では討伐できないな!」
「いかがなさいますか!?」
「壁上固定砲!いつでも砲撃できる様に準備をしておいて!」
「「ハッ!!」」
10門の壁上固定砲が稼働し、目標の巨人に向かって砲撃準備を開始した。
以前にも変異種が壁に接触したが、壁上固定砲の集中砲撃で討伐できた例がいくつかあった。
だからこそ、壁を登ってストヘス区に侵入してきた5体の変異種は異常だったのだ。
今回は、動きがトロそうなので脅威にならないと判断した。
「んー!尻尾が生えてる!?
そしたら15m級の巨人に尻尾が生えているのを発見した。
別に巨人の肉体に余計な部位が付いている時は、ごくまれだが存在する。
手足が細くて動けない巨人…コニーの母親も居るのだから尻尾がある巨人が居ても可笑しくない。
『あれ?どっかで見たな…あの巨人』
ところが見覚えがあるので必死に思い出していたハンジは、ある事に気付いた。
「あっ!ユトピア区で出現した尻尾が生えた変異種の亜種か!」
ユトピア区に出現した変異種は、超大型巨人を凌駕する存在だった。
その巨人の姿は、3つ首の生えた巨人であり、尻尾が生えていたのを思い出した。
超大型巨人どころか、オルブド区を襲撃したロッド・レイス巨人に匹敵する化け物だった。
ただ、それに比べれば弱そうな蜥蜴型巨人に見える。
「ホラホラ!おいで!!」
だからといって対応は変わらない。
白兵戦で倒すのが面倒ならブドウ弾と榴弾で仕留めればいいのだ。
ハンジ・ゾエは、変異種を煽る様に踊り出した。
「おいー!おい!早く来なよ!!こっちは歓迎の準備ができてるんだけどな!」
大きく頭を左右に振りながらゆっくりと歩いてくる4足歩行の変異種を煽りまくった。
やはり奇行種なのか、一番近いハロルドではなくそのまま直進して壁にぶつかりそうだった。
砲兵たちは慣れた手つきで観測手の指示に従って壁上固定砲の照準の調整を行なっていた。
「巨人ちゃんこっちだよ!ハイハイ上手だね!ハイ!ハイ!ハイ!」
ついに痺れを切らしたのかハンジは手拍子をしながら声掛けをしている有様だった。
もしも、この場にリヴァイが居たら恥ずかしくて鉄拳が飛んでくるほどの状態だ。
「え?」
しかし、ある程度、壁に近づいた蜥蜴型の巨人は踏ん張って動かなくなった。
次の瞬間、飛び出してそのまま壁に張り付いて動き出した。
まるでゴキブリが壁に張り付くようにカサカサと動いてそのまま壁上に登ってしまった。
「ちょっと待て!!」
壁から飛び降りてトロスト区の内部に侵入した巨人を追ってハンジは立体機動で追いかけた。
奇行種はより多くの人間を狙いに行く為、ここで止めないと大惨事になるからだ。
「待ちやがれ!!」
既に先行していた駐屯兵が立体機動で巨人の背後を取った!
そのまま勢いをつけて双剣でうなじを削ごうと試みる!
「なっ!?」
ところが、変異種の肌は硬質化しており、あっさりと刃を弾き返してしまった。
それどころかようやく人間に気付いた変異種は反転した際にそのまま横転した!
「ぐはわああ!?」
巨体とアンカーが繋がっていたせいで地面に叩きつけられた兵士は激痛に震えて痙攣していた。
「させない!」
目の前に落下した兵士を捕食しようとする巨人の行動を阻止しようと女兵士が飛び掛かる!
「きゃああああああ!?ぐがっ!?」
しかし、ワイヤーを巨人に引っ張られて立体機動が崩れた女兵士はそのまま巨人に噛まれた!
むしゃむしゃと咀嚼されてじっくり巨人にその味と感触を届けて彼女は絶命した。
「喰らえ!!」
その無防備の姿を見逃さなかったハンジは、躊躇いも無く雷槍をぶっ放す!
そしてうなじに刺さったのを確認して紐を引っ張って信管を作動させた。
巨人が女兵士の残骸を吞み込んだと同時に起爆して頭ごとぶっ飛んだ!
「ハァハァ……全く!だから変異種は嫌いなんだよ!!」
うなじが損傷したのを目撃したハンジはようやく一息付ける事ができた。
やはり、民衆の懸念通りに巨人を掃討しない限り、平和にならない。
改めて巨人を一匹残らず掃討する事を誓ったハンジは愚痴を漏らしながら額に掻いた汗を手で拭いた。
「ハンジさん!大丈夫ですか!」
「お?もしかして私が大好きでしょうがないの?もう…エッチ!」
「なんでそうなるんですか!?」
だが、エレン・イェーガーに情けない所を見せたくないハンジはいつも通りに接した。
真っ先に駆け付けたエレンは、ハンジの言葉に困惑して反論するが、これも平和になった証だ。
現に巨人は蒸気を噴き出しており、ピクリとも動いていなかった。
「ハンジさん!!」
「オルオもペトラも遅いよ!!もう終わったよ!!」
次に駆けつけて来たオルオとペトラを軽く叱責したハンジは、次の目標を考えていた。
シガンシナ区の穴を塞いだら絶対、変異種を一匹残らず駆逐してやると誓ったのだ。
「ふぅ……どうなる事かと思ったぜ」
「ジャン、フラグを立てるなよ」
「コニー、俺が死ぬとでも?」
「いや、思いっきりフラグに感じてさ」
ジャンも思わず心境のままに本音を告げるとコニーに突っ込まれた。
その台詞を吐くと巨人が死んでいないフラグだと告げられたのだ。
仕方がないのでジャンは頭どころか首まで吹っ飛んだ変異種を見る。
「見ろよ!蒸気を噴き出して肉体が消えようと…」
うなじに損傷を受けた巨人の肉体は黒ずんで蒸気を噴き出すのが常識である。
なので褐色の肌の巨人が蒸気を噴き出しているのを見て問題ないと最初はジャンも思った。
「…してねぇ!?ハンジさん!!こいつまだ生きてます!!」
「えぇ!?」
ところが肉筋が飛び出して失った部位を生成しているのに気付いた!
ハンジはジャンの言葉を受けて振り返った!
首を生成し終えた巨人が頭蓋骨を生成している状態を目撃した。
「そんな馬鹿な!!なんでまだ動くんだ!?」
本日、お披露目したのは、巨人のうなじを攻撃して巨人を殺す装置である。
なのにうなじを損傷しても動かれると全ての根本が狂ってしまう!
ハンジの疑問を嘲笑う様に巨人は、思うがままに横に転がって民家に激突した!
「エレンは下がれ!!」
「何故ですか!?」
「ここで硬質化をさせたくないんだ!みんなに任せて後退してくれ!」
真っ先にハンジは、エレンに後退の指示を下した!
彼は納得できなかったが、上官の命令で仕方なく下がった。
『エレンの巨人化や硬質化は限界があるかもしれない…私たちがやるしかないんだ…』
当初、エレンの硬質化で2枚の壁を作ってもらったハンジは喜んでいた。
しかし、リヴァイの指摘でエレンを見ると鼻血を出しており、小刻みに身体が震えていた。
『こいつが生み出す岩に限界があると思わない方が良い。こいつの身も含めてな』
白いハンカチをエレンに手渡したリヴァイの言葉は、ハンジの脳裏に刻み込まれた。
人類の反撃にとって必要不可欠故に必要以上にエレンを酷使してはいけないという事に。
「リヴァイ班!こいつを討伐するぞ!!」
「「「了解!!」」」
変異種が討伐されたと勘違いした駐屯兵団の部隊は後退してしまった。
なのでこの場に居るリヴァイ班とハンジだけでこいつを討伐しなければならない。
眼球が復活して獲物をじっくりと見ている変異種を!!
「オルオ!」
「分かってる!!」
真っ先に仕掛けたのは、ペトラ・ラルとオルオ・オルオ・ボザドだ!
双剣を構えて息がぴったりな2人は、住宅街を立体機動で駆け抜けていく!
「え?」
「い!?」
ところが、巨人の身体が光り出したのを目撃したカップルは大慌てで民家に身を隠した!
そしてその5秒に閃光が見えたと同時に窓を揺らすほどの爆音がトロスト区に響き渡った!
「ふ、ふざけんなァ!!雷を纏いやがった!!」
「嘘でしょ!?」
なんと!この変異種は放電と帯電ができるようで電気を身体に纏って動き出した!
それに気づかずに騒動に気付いた駐屯兵が接近していた!
「よせ!!攻撃するな!!」
ハンジが放った制止の叫びは、爆音のせいなのか間に合わなかった。
何も知らずに兵士がアンカーを巨人に刺した瞬間、感電してしまい丸焦げになった。
ついでに遺体が地面に落下した事で放電できたのか、巨人は【雷の鎧】を解除した。
それを目撃したハンジは思わず本音を漏らした。
「え?こんなのどうやって倒せばいいんだ!?」
街中に砲撃するのは無理がある。
だからといって新兵器の雷槍も撃ち込む必要があるので感電してしまう。
つまり、できる事と言えば囮で壁に近づいた変異種を集中砲撃するしかない。
だが、巨人は民間人の群れを襲撃したいのか兵士たちを無視して大広間に向かって進撃した!
「とにかくあいつを行かせるな!!」
念の為に正門付近の住民を避難させたのは功を奏した。
そのおかげで巨人はすぐに民間人を捕食できないのだから。
ハンジの叫び声を聞く前からリヴァイ班は急いで追跡を開始した!
「殺す!!」
フローラから変異種の弱点を教えられていたミカサ・アッカーマンが動いた。
巨人の目の前に出現して民家を巧妙に利用して立体起動して腹の下を潜り抜けた!
「見えた」
変異種の弱点部位は腹筋辺りに存在しているのを確認した。
やるべき事は、そこに雷槍をぶち込んで次にうなじに雷槍をぶち込めばいい。
「ミカサ!危ない!!」
そう考えていたミカサだったが、アルミンの叫び声に反応して民家の屋根から飛び降りた!
その直後、振り回された尻尾が民家の屋根に激突した!
ただの尻尾を振り回す攻撃なのにワイヤーを伸ばす兵士にとって致命的な攻撃と化していた。
「この…!?」
仕方がないのでミカサは攻撃しようとしたら再び巨人が【雷の鎧】を纏った!
これでは絶対に勝ち目がないので少しでも巨人の注意を惹く為に動く事しかできなかった。
「ど、どうすればいい…どうすればあいつを倒せる…!?」
ハンジ・ゾエは、雷を纏っている巨人の討伐方法について必死に悩んでいた。
こうなってしまっては、元対人立体機動部隊に遠距離から攻撃する以外に対処法が無い。
だが、彼らはクロルバ区に待機しているので呼びに行く暇すらなかった。
「……何で雷の鎧ができているんだ!?」
よく考えれば、落雷というのは、一瞬光って地面に落ちるのが定説だ。
なのにずっと巨人が雷を纏っているとなると…なにかトリックがあるはずだ。
必死にハンジは、褐色の四足歩行の巨人を注視していた。
「なるほど、手足は雷を通さないのか!!」
電気というのは、流れやすい物体に向かって進んでいく。
例えば、冬場の乾燥した時にドアノブに触れるとビリっと感じる現象。
あれは、乾燥によって静電気が発生しやすい環境下のせいで放電している状態だ。
つまり、あの巨人の放電を無効化するのは、どこかで放電させる必要があった!
「さっきの兵士はうなじにアンカーを差して感電していた…だから手足は放電していない」
どうすればいいか、それはまたしても兵士が感電して落下し、電気の逃げる場所を確保する。
もしくは、放電しない巨人の手足をぶっ飛ばして胴体や頭を直接地面に付けさせる方法しかない!
「巨人の手足を狙え!!あそこは感電しないぞ!!」
「「「了解!!」」」
だからといって尻尾を振り回してくる変異種に接近するのは困難を極める。
それでもハンジの発言を聴いた駐屯兵が立体機動で接近した!
「え?」
変異種は大きく口を開いて20m先に居た兵士に向かって舌を出して巻き込んだ!
その瞬間、またしても兵士は黒焦げになってそのまま舌に巻かれて口の中に消えていった。
またしても人間を咀嚼する巨人は、新たな獲物を探しに動き出した!
「無理だこれ!?」
尻尾どころか舌まで伸ばしてくるせいで接近する事すら困難を極めた!
そのせいで駐屯兵たちは道中で引き返して援軍を呼びに行く有様だった。
一部の残った兵士たちが巨人の注意を惹き付けているが、長くはもたないだろう。
「……おい待てよ」
ところが、ジャン・キルシュタインは交戦する気満々だった。
「あの先には、実家があるんだ……俺は行くぞ」
ジャンの実家はトロスト区に存在し、奇跡的に両親は巨人に捕食されなかった。
しかし、またしても両親に危機が迫っていると知ってジャンは傍観するほど間抜けでは無かった。
「お前らも力を貸してくれ」
アルミンは、彼の覚悟に見覚えがある。
第57回壁外調査で女型の巨人に足止めをしようと率先して提案した状況にそっくりだった。
「へっ!お前だけ恰好付けさせる訳にはいかねぇな!」
「コニー…お前って奴は」
「僕も行くよ」
「アルミンまで…」
コニーやアルミンが共闘してくれると知ってジャンは笑った。
「待て!お前らじゃ分が悪い!俺が討伐するから囮と足止めを頼む!」
「あなたたちは、巨人の注意を惹き付けるだけでいいわ!先輩にも見せ場を寄こしなさい」
雷槍を装備したオルオとペトラ、そして弓と矢を持参していたサシャが合流した。
「で?あれってどうやって討伐すればいいんですか!?」
空気が読めないサシャの発言だが、ここを明確化する事はかなり重要だった。
なにせうなじを攻撃しても復活する以上、何か種があるはずだった。
「腹に弱点部位がありました。あそこも潰す必要がある」
黙り込んだ兵士たちに代わって返答したのはミカサだ。
彼女の発言により、やるべき事は決まった!
「よし、作戦を言おう!」
ここでハンジは、リヴァイ班に作戦を伝達した。
「まずは、あの巨人を放電させる必要がある。立体機動が上手なジャンとコニーは巨人の胴体か、顔を地面に触れるように仕向けて欲しい。放電したらミカサが腹の肉を削ぐ!」
訓練兵団でも立体機動が上手いジャンとコニーが囮になって変異種の興味を惹き付ける。
おそらく顔や胴体を地面か、民家に触れれば放電できると踏んでいた。
しかし、民家に住民が居る事を踏まえて地面に巨人の顔がぶつかる様に仕向けるしかなかった。
その隙に一番強いミカサは、放電して隙だらけになって腹の肉を削いで硬質化を無力化!
「あとは、先輩たちの出番だ!雷槍であの蜥蜴野郎に止めを刺せ!」
「「了解!」」
最後は、オルオとペトラが巨人に止めを刺す!
それだけだ。
アルミンとサシャは何か言いたそうだったが、ハンジは無視をした。
「オルオ先輩、先行してもいいですか?」
「絶対に生還すると誓うなら行っても良い」
「絶対に生還します!」
オルオの問いに即答したジャンは、真っ先に先陣を切った!
立体機動で民家の隙間を進んで巨人の死角に回っていく!
「……へへ、おっかねぇな!」
先行した駐屯兵が阿鼻叫喚になりながら巨人から逃げまわっていた。
そして爆音が鳴り響いている変異種がそこに居た。
「だが、おせぇ!!」
確かに変異種は脅威ではあったが、さきほど見せた通りノロかった。
無駄に頭を振っているせいで四足歩行に支障が出ている様であった。
だからジャンとコニーはあっという間に巨人の横を回り込む事ができた。
「来るぞ!!走れ!!」
当然、尻尾による攻撃も来るがジャンとコニーはあえて巨人に向かって走った。
尻尾の根元と尻付近は、尻尾で攻撃しようがない。
なのでギリギリまで近づいた2人は、そこに向かって走った。
そして手足のアンカーを刺して立体機動に移る予定だった。
「うっ!?」
しかし、尻尾を振り回した衝撃で方向転換した変異種とジャンの視線が合った。
「ジャン、コニー!!後退して民家で立体機動に移れ!!」
アルミンの叫び声を聞いて2人は、急いで方向転換して民家に向かって走り出した!
それを見逃さないと変異種が飛び掛かろうとすると矢が右目に刺さった!
基本的に脊髄反射をしない巨人ではあるが、さすがに眼球に異物が刺されば動きが鈍る。
「そこぅどいち!!」
その隙に脱出した2人は、弓を構え直したサシャを目撃する!
なお、本人も結構パニックに陥っているのか方言が飛び出していた!
「今だ!」
アルミンの号令で放った矢が残った眼球に突き刺さり変異種はたまらずに両手を地面から放した!
そのせいでバランスを崩して前屈みに転倒してしまい、顔面を地面に激突した。
その衝撃で地面に放電をした巨人を守る物は何もない!
「そこ!!」
すかさずミカサが腹にあった弱点部位を回転斬りで削いで離脱した!
これで皮膚の硬質化が解かれてうなじに致命傷を与える事ができる事が可能になった!
「行くよオルオ!」
「任せておけ!」
待ってましたと言わんばかりにオルオとペトラが突撃を開始!
ミカサが安全地帯まで後退し、ジャンとコニーに危険が及ばないと確認した2人は目配せをする!
寝っ転がる巨人の動きに合わせて民家を利用して左右に別れて立体機動を続行!
巨人の膝裏にそれぞれ雷槍を射出し、爆破して二度と地面から立ち上がれなくした!
「まるで結婚式の披露宴みたいだね」
「え?」
その様子を見守っていたハンジの言葉に思わずエレンが聞き返した。
「ホラ、巨人というケーキに2人が共同で入刀しようとしてるじゃないか」
「え?でも刺したのは雷槍ですし、そもそも巨人はケーキじゃないですよ!?」
「全く……冗談が通じないな…」
告白してカップルになったオルオとペトラの共同作業を見てハンジは笑っていた。
なんで笑うのか理解できないエレンは、またしてもハンジを理解しようとする事を諦めた。
「2人の結婚式の余興……にしては悪趣味だね。誰が仕込んだのやら」
オルオとペトラがうなじに雷槍を射出し、爆破したのを見届けたハンジは呟いた。
まるで
「なんて、馬鹿な事を考えてしまうのも私の悪い癖さ」
今度こそ変異種は死亡し、蒸気を噴き出して肉体が粉々に飛散する様子を見たハンジは自嘲した。
巨人も人間の最後は骨となり、そして塵となって生まれて来た世界に還元させられるのは同じだ。
新たなカップル誕生に異様に興奮しているのも、今を必死に生きようとするハンジなりの信念だ。
「エレン、私は決めたよ」
「え?」
そして自分が生きている間に更なる世界を見届ける為にもハンジは決断した!
いきなり真面目な顔になって決断する気になっているハンジを見て本気でエレンは困惑した。
『相変わらずハンジさんの対応は面倒だな…』と思われている状態ですらあった。
「今日から10日後に第二回ウォール・マリア奪還作戦をやる!エレンはそれでいいかい?」
「分かりました!」
「今日、暴れられなかった分、期待してるよ。派手に暴れてやろうじゃないか!」
「任せてください!」
守っているばかりで巨人が壁内に侵攻してきてしまう。
ハンジ・ゾエは、ウォール・マリアの侵入口となっているシガンシナ区の穴を塞ぐと決意した!
どんな犠牲を払おうとも、二度と民間人が巨人によって犠牲にならない様に!
エルヴィンとリヴァイがザックレー総統の芸術を目撃したその日、調査兵団は宣言した!
ウォール・マリア奪還作戦を始動し、必ずしやシガンシナ区を巨人から奪還してみせると!
『でも…』
ハンジ・ゾエは1つだけ気がかりがあった。
『変異種が山ほど待ち構えていたらどうしよう』
たった1体でここまで大騒ぎになる変異種が、もしも大量に出現したらどうするべきか。
最悪の事態を考えがちなハンジの頭脳に横切った悪夢の光景は、現実の物となる。