進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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128話 エレン・イェーガーの本質

いざ、目的を達成できる段階まで来るとどこか躊躇ってしまう。

過ぎてしまった後に振り返れば、何であそこまで緊張していたのかと悩む事が多いだろう。

しかし、当時は必死であり、心に余裕がないせいで最悪の事態を想像してしまうのだ。

エレン・イェーガーは現在、自分の力が上手く行くのか悩んでいた。

 

 

「どうしたのエレン?何だか震えているように見えるよ?」

 

 

アルミン・アルレルトは、エレンの手が震えているのに気付いた。

オルブド区の壁上の時と違って物理的に地面が揺れている訳でない。

めちゃくちゃ緊張していると分かったからこそ声をかけた。

 

 

「はぁ!?震えてないし!」

「えぇ?手が震えてるじゃないか」

「ああ、そうさ。寒くて手が震えているんだ。決して怖いからじゃねぇ…」

 

 

どうやら部隊の前で先行していた先遣隊に何か問題が発生した様だ。

その影響なのか、本隊は真夜中の森で待機させられていた。

いつ巨人が襲って来るか分からない状況で待機するのは辛かった。

はっきり言ってエレンが本音を話してくれたおかげで救われた人も多いだろう。

 

 

「エレンは、巨人が怖いって思った事はある?」

「あるさ、オレは普通だからな。あいつらに喰われそうになる度にビビってた…」

 

 

アルミンの素朴な質問をエレンは即答した。

実際、巨人に喰われて胃液に浸かっていた時は本当に絶望したものだ。

前にジャンが言った通り、巨人の力が無ければあそこで終わっていたのは間違いない。

しかし、自分は生き残り、勇気があった故に頑張り過ぎた同期たちはガス切れで巨人に喰われた。

ある意味、恐怖で動けなくなる臆病者は、生き残るに適しているかもしれない。

 

 

「みんな、巨人を初めて見た時、誰もが恐怖したはずだよ」

「ああ、フローラくらいじゃないか?恐怖を感じてなかった奴は…」

 

 

エレンとアルミン、それどころか104期南方訓練兵団出身者は知っている。

フローラ・エリクシアという女は、恐怖という感情が欠如した化け物という事に…。

だからどれだけ負傷をしようが、死にかけようが、巨人に包囲されようが関係なかった。

一切、動きが鈍らずに行動できた彼女は、本当に特別な人間だった。

 

 

「オレたちはフローラから何を学んだんだっけ?」

 

 

フローラの存在を思い出したエレンは、アルミンに彼女の影響について訊いてみた。

何でか分からないが、彼女の強みを意識すれば、恐怖に負けずに頑張れる気がしたのだ。

 

 

「何かを成し遂げようとする為にどんな事でもしようとする執着心じゃないかな…」

 

 

鎧の巨人を討伐するなら何でもする。

文字通り何でもしていたと知ったのはいつだったか。

未だに彼女がやっていた事を把握するのは難しく失った物は多い。

だが、これだけは言える。

 

 

「あいつみたいに後悔せずに生きてみたいもんだ」

 

 

エレンはフローラの生き方が羨ましかった。

自分は特別な人間では無かったが、あいつは本当に特別だった。

ウジウジ悩まずに即断即決して行動しつつも、他者のフォローをして生き抜いた人生を…。

――ここまでエレンは過去を振り返って思い出した事がある。

 

 

「アルミン、やっと思い出したよ」

「え?」

 

 

突然、エレンが何か思い出したようでアルミンは困惑した。

でも、彼の顔を見て憑き物が落ちたような気がした。

 

 

「トロスト区防衛戦でさ、足を喰われて意識を失いそうだった時、昔の事を思い出したんだ」

「それって走馬灯なのかな?」

「そうかもな」

 

 

トロスト区防衛戦でトーマスが巨人に喰われた瞬間、エレンは激高して突っ込んだ。

その結果、建物の死角に居た巨人に足を喰われて彼は屋根に転がった。

そして班員たちは壊滅し、その光景を呆然と見ていたアルミンは巨人に喰われかけた。

 

 

「何を思い出したの?」

「なんでだろうな……お前がオレに本を見せてくれた時の事を思い出したんだ」

 

 

今でこそ【頭進撃】と評価されるエレンだが、幼少期は空か雲を見て過ごしていた。

何の変哲もない空を眺めて8歳か9歳まで時間を過ごす事に疑問に思わなかった。

言い方を変えれば、凡人であり街に馴染めない少年だったと言えよう。

そんな何の変哲もない日常を過ごしていた時、アルミンが本を抱えてやって来た。

 

 

「お前がオレと初めて出会った時の事を覚えているか?」

「苛めっ子に本を奪われたくなくて、いつも違う道に逃げていたらエレンと遭遇したんだっけ…」

「いや、そこまでは覚えてないけど、少なくともオレの前に本を持って走って来た」

 

 

エレンとアルミンは街の子供たちと馴染めない異端同士だった。

ただの凡人ならいい、あの時までは指を差されて馬鹿にされる存在だった。

 

 

「たったそれだけ、オレたちの関係なんて最初はそんなもんだったんだ」

 

 

そんなアルミンが本の内容を読み聞かせている時、エレンは気付いた。

 

 

「だけどよ、アルミン。お前が本の内容を聴かせてくれたおかげで気付いたんだ」

「え?」

「お前の目を見てさ、楽しそうな夢を見ているのにオレは…特に何も無かったんだ」

 

 

あの日まで誰もが願望や夢があった。

憲兵になって楽をしたいやら、商人に弟子入りして金を稼ぎたい。

兵士は兵士で、仕事終わりに酒を飲んでダラダラして平和を満喫したいなどの夢があった。

だが、エレンは自分が愛されている事に気付かずに日常が窮屈でつまらないものだと感じた。

 

 

「そこで初めて知ったんだ。オレは不自由なんだって…」

 

 

実際は、シガンシナ区で堕落していた生活をしていた時点で人生の勝ち組だった。

父親が成果を出してくれたおかげで日常で喰う物に困らずに勉学にそこまで励まなくて済んだ。

せいぜい宿題と薪の持ち運びくらいしかなかったが、繰り返される日常に少年は飽きていた。

 

 

「アルミンが見せてくれた本の内容を知って、オレは鳥籠の中で暮らしている事に気付いたんだ。広い世界にはいろんなもんがあるのによく分からない奴らからそれを見る自由を奪われている」

 

 

よく考えれば、生まれた時からエレンは壁の中で暮らして満足していた。

それだけではない。

街のみんなも壁の中で生まれて壁の外を知らずに死んでいく事に疑問に思わない。

そんな現実を知ってエレンは許せないと思った!

 

 

「炎の水、砂の雪原、氷の大地、大きな塩の湖があると知ってさ。見てみたいと思った」

 

 

それと同時にエレンは本に書かれていた景色を見たくなった。

 

 

「巨人を駆逐して自由になった世界でお前と一緒に冒険してさ。景色を見つけたいと思ったんだ」

 

 

アルミンと一緒に本に書かれた景色を見て周りたかった。

母親が巨人に喰われて一匹残らず駆逐してやるという想いに上書きされたがエレンの本質は…。

自分の興味本位を満たす為に未知なる光景を求めて冒険したいと願う少年だった。

 

 

「だからあの時、お前を巨人の口から助けたのは…まだ死んで欲しくなかったんだ」

「エレン…」

 

 

アルミンが巨人に掴まれて口の中に入れた時、エレンは覚醒し、彼が喉の中に落ちない様にした。

一緒に景色を見て周りたいのに巨人の胃の中で満足してもらっては困る。

今考えても、可笑しい事ではあるが、エレンはその時は必死だった。

 

 

「だからなのかな、オレはその自由を取り返す為なら…力が湧いてくるんだ」

 

 

外の景色を見るなら何でもしてやる。

当時は壁の外に出撃する調査兵団を見てエレンは彼らの雄姿に憧れを抱いていた。

その度に母親から叱責されたが、彼女も調査兵と仲が良かった故に本気で自分を心配してくれたと知ったが、それでもエレンは壁の外に行きたいと願い、今はその為の準備に過ぎない。

ようやく角灯を持つ手に震えが収まったのを見て彼は笑う。

 

 

「アルミン、話しかけてくれてありがとうな…。もう大丈夫だ、もう迷ったりしねぇ…!」

 

 

フローラが最後まで夢に向かって突き進んだ様にエレンもまた自分の道を進むつもりだ。

そしてその未来が叶う日は近い。

 

 

「多分だが、来年の今頃、オレたちは海を見ているよ」

「そうだね」

 

 

壁の外には、自分たちが済んでいる土地よりも大きい塩の湖があるとされる。

ならば、壁の外に…キース元団長が諦めた場所より先に進めば、海とやらがあるはずだ。

 

 

「取り返せるだけ取り返してやるぞ」

 

 

エレンの決意を聴いてさきほどまで無言で聴いていたミカサも笑う事ができた。

ようやく振り出しに戻って来たのだ。

 

 

「よぉ!ガキンチョ共、私語をし過ぎるのも良くないぞ」

「ハンネスさん!」

 

 

幼馴染3人組と親しいハンネス・ルドマンも角灯で地面を照らしながらやって来た。

 

 

「なるほど、エレンが外の景色を見たくなったのはアルミンが原因かー」

 

 

以前からエレンを見守って来たハンネスは、ある日を境にエレンは変わった事に気付いた。

酒を飲んで皆と笑っていたら、エレンが怒鳴り込んできて現状に抗議しに来たのだ。

その豹変っぷりに誰もが困惑したものだ。

 

 

「道理で俺らに叱責して『巨人と戦え』とか言って来た訳だ」

 

 

ハンネスの指摘を受けてエレンは頬を掻いた。

自分は無力の癖に他者に考えを押し付ける黒歴史を思い出したのだ。

 

 

「いや、あの…その…」

「良いんだ、誰もが同調して同じ事を言っている様じゃこの世はお終いだからな」

 

 

世間では、早くウォール・マリアを奪還しろとか巨人を殲滅しろとか言って来る。

厄介な事にその民衆に支えられている兵士どころか貴族すらも彼らに従うしかない。

支援者が居なければ、自分たちは成り立たないと知っているから兵士をこき使うのだ。

 

 

「戦え!とか殺せ!とか兵団万歳!とか誰もが言っている世の中って嫌なもんだ」

 

 

もしも、思想も目標も願望も違う人類が、共通の敵になった巨人を殲滅すればどうなるか。

つい最近、発生した内戦が物語っている。

巨人が居なくなれば、今度は人類同士で争う事になると…。

なのに民衆は、巨人を殺せと誰もが叫び、それをしない兵士たちを叱責するのだ。

現実を知らなかった少年期のエレンの様に…。

 

 

「だからよぉ……俺はこの作戦が成功したら兵士を辞めようと思ってる」

 

 

ハンネスは夢があった。

いや、夢は叶えたが、もう二度とその夢を見る事ができない。

 

 

「どうしてですか…?」

「ぶふっ!」

 

 

エレンが寂しそうに質問するのを見てハンネスは思わず吹き出してしまった。

あれだけ戦え!戦え!できないなら駐屯兵団から【壁工事団】に改名しろって言った奴がだ。

 

 

「なんで笑うんですか!?」

 

 

エレンからすればハンネスを心配したのに笑われた事にご立腹だった。

 

 

「いや、すまんすまん。昔の事を思い出してつい笑っちまったよ」

 

 

ハンネスは謝るが、不満げなエレンはまだ何か言いたいようだ。

さきほどと空気が変わったせいか、104期兵たちも何事かとこっそり覗きに来ていた。

 

 

「いいか、エレン。俺はな、昔から変な言い訳をして昼間から酒を飲んで堕落していた駐屯兵だ。世界を救うとかどうでもいいんだ。【タダ飯喰らいの役立たず】って言われて喜んでいたしな」

 

 

5年前、シガンシナ区が巨人に襲撃される日、エレンはハンネスに喧嘩を売っていた。

もちろん、シガンシナ区中央の門衛として暇だからと酒を飲む兵士の方が悪かったが。

 

 

「まあ、寄る年波には勝てないっていうのが本音だ。馬上の立体機動訓練も腰に来るしな…」

「ハンネスさん……」

「それに5年前に俺にぴったりな転職先を紹介してくれたじゃないか。お前には感謝してるぞ」

「え?」

 

 

嬉しそうに告げて来るハンネスの一言にエレンは意味が分からなかった。

確かに堕落していたハンネスさんとその一派に怒っていたが転職先など教えていなかった。

 

 

「巨人と戦う勇気がねぇんなら駐屯兵団を名乗らずに壁工事団って名乗れって言ったじゃないか」

「そうでしたっけ?」

「そうだとも!だから俺は壁工事団の団長になってやる!誰にも文句は言わせねぇ!」

 

 

このご時世では、もはや休日に酒を飲む事すら許されない。

兵士として巨人と戦い、それが終わったと思ったら人類か未知なる脅威と戦う羽目になる。

堕落して平和な生活を見ながら酒を飲んで楽しんでいたハンネスには耐えられない生活だ。

 

 

「いくら巨人が居なくなっても今まで人類を守って来た壁の存在は大きい。そうだろ?」

 

 

内戦が発生し、更なる火種が拡大したが、ある程度になると鳴りを潜めた。

いくらトロスト区とストヘス区の兵士が奇襲しようとしてもカラネス区の守りは鉄壁だった。

それほど50mの壁というのは、巨人だけではなく敵対する人類すら効力を発揮していたのだ。

 

 

「だからよ、奪還したウォール・マリアの補修工事をしたいんだ…それが次の目標だ」

 

 

5年間放置されたウォール・マリアはさぞかし傷んでいる事だろう。

それこそ一生の時間を使っても、直しきれないほどに…。

 

 

「前にもお前らに言ったかもしれないが、俺はまやかしの平和が大好きだ。今でもそう思ってる。だが、兵士でいる以上、それが叶わないならせめて壁を工事する日常に戻りたいんだ」

 

 

堕落していたハンネスだが、兵士としての誇りは残っていた。

建築してから100年以上が経過した50mの壁はところどころ傷んでいたのだ。

兵士になるまでハンネスは壁の現状に気付いておらず、それを知って愕然したものだ。

だから壁の補修工事をして立派にお役目を果たせるようにする仕事にやりがいがあった。

工事をやり終えた日の酒は特に美味くて酔い潰れるまで飲んだほどだった。

 

 

「お前らは未知なる世界に行くんだろ?」

「そうですけど…」

 

 

ハンネスの質問にアルミンは良く分からないままに応えた。

 

 

「俺はな、そんなお前らを壁工事しながら見送りたいと思ってる!それで充分だろ?」

「え?」

 

 

鈍感で定評があるエレンはまだハンネスのやりたい事に気付いていなかった。

 

 

「エレンさんよぉ!俺がお前の夢を否定した事はあったか?」

 

 

だが、ハンネスの言葉を聴いてようやく彼は理解した。

 

 

「ハンネスさん…!」

「ああ、俺はお前らの夢を応援している!たくさんの冒険話を聴かせてくれよ!」

 

 

親指を立てて笑うハンネスを見てエレンも笑った。

きっとアルミンや自分の体験談を酒を飲みながら笑うハンネスさんの姿が想像できた。

それどころか、壁工事の過酷さや辛さを愚痴として呟いて来る未来すら見える。

 

 

「「はい!」」

 

 

アルミンとエレンは、堕落した壁工事職人の提案を快諾した。

 

 

「そうそう、お前ら2人じゃ心配だ。ミカサも付いて行って馬鹿な事をしない様に見張ってくれ」

「分かりました!」

 

 

寂しそうにしていたミカサを気にかけてハンネスは彼女の男共の友情の中に入れてあげた。

それに対して2人は子供の御守りじゃないんだからと抗議の声を出すが、誰も聞き入れなかった。

 

 

「そうさ、ミカサが居ないと勝手に死んじまうからなこいつは…」

「ジャン!」

「昔から冒険ごっこが好きだったもんな、お前らは」

「コニーまで!」

 

 

ようやく煽りにいけるタイミングを掴んだ104期兵たちはここぞとばかりに存在をアピールした。

犬猿の仲というより一方的にエレンに嫉妬しているジャンは特にミカサの名を出して煽る!

それに対して負けじとエレンが反論しようとするが、同期たちが集まって来たせいで黙り込んだ。

 

 

「もしも、壁の外にご馳走があったら私に届けてくださいね」

「いや、鮮度とか考えれば、現地で食べた方がいいんじゃないか?」

「そうでした!私も冒険に行けば食べたい放題になるんですね!」

「食べたい放題になるかは知らんが……というか顔が近いなこいつ」

 

 

サシャも未知なる食材を思い浮かべていたが、マルロのツッコミを受けて気付いた。

自分も冒険してたくさん未知なる食品を食べればいいのだと!

いきなり自己完結した女の迫力に圧されたマルロは、少しだけ後ろに下がった。

 

 

「お前らまた騒ぎを起こす気か、やるならせめてトロスト区でやれよ」

「オルオの言う通りよ、ここからは激戦が予想されるわ!気を引き締めていきましょう」

 

 

オルオとペトラも彼らの夢は否定していない。

しかし、その夢が叶うのは、ウォール・マリアを奪還する前提の話だ。

後輩の夢は否定しないが、ここぞというばかりは先輩としてしっかり締めようとしていた。

 

 

「ああ、全く…お前らがしっかりしているせいでこっちまでしっかりしないといけねぇな…」

 

 

髪をポリポリ掻いているハンネスは、しっかりした先輩に囲まれて羨ましく感じる。

ああ、エレンや同期たちは先輩のおかげで楽しくやれているんだな…と。

 

 

「お前らが活躍する度に自分が歳を取ったと感じるな……まあ、俺は嬉しいけどな!」

 

 

何もできないガキの連中がいつの間にか自分を追い越しているという現実。

もしも、子供が居たらこんな感覚なのかと思ってしまう。

 

 

「旧時代のおっさんだが、あとちょっとまでよろしく頼む!」

 

 

それでも大人という意地を見せてやらなければならない!

いつかグリシャに再会したら土産話を山ほど持って行く為に…!

縁起でもない考えだが、どうしてもおっさんというのは現実を見てしまう。

 

 

「……なんだあいつら?」

 

 

こうして話が盛り上がっていた時、オルオは不審な集団を発見した。

バイザー付きヘルメットを装備して真っ黒の外套を纏っているという不自然な格好。

しかも、等身大の盾を持っているという明らかに巨人と戦う気がない異様さだった。

引き連れている馬もどこか変な装備を背負っているせいで何がしたいのか分からない。

 

 

「ハンネスさん、あの集団は何ですか?」

 

 

アルミンも黒ずくめの集団が気になって事情を知ってそうなハンネスに質問をした。

 

 

「どうも、クロルバ区出身の砲兵部隊らしいんだがな……俺にもよくわからん」

 

 

変だと思ったハンネスも、上官に質問したが大した返答はなかった。

上官の反応からして彼らも良く知らされていないようであった。

つまり、あの集団はエルティアナ連隊長が引き連れて来た部隊になる。

現に右腕に白色の腕章を付けており、彼女の配下という証明となっていた。

 

 

「あれが砲兵部隊?」

 

 

ヘルメットをするならまだしも盾を全員が装備している理由が分からない。

この場に居るリヴァイ班どころか他の部隊からも疑いの眼差しを受けていたが…。

 

 

「まあ、エルティアナ連隊長の考えだ。きっと意味があるはずだ」

 

 

昔から彼女を信頼しているハンネスは疑う気はなかった。

むしろ、大砲をバラして携行できるほどの技術があるのかと期待している。

盾に見せかけて実は大砲の部品なのかもしれない。

 

 

「それもそうだな」

「彼らの活躍を見守りましょう」

 

 

オルオとペトラも違和感を覚えながらも、彼らの存在はひとまず忘れる事にした。

 

 

「おい、コニー……あの馬、見た事無いか?」

「赤い馬だろ?やっぱそうだよな…」

 

 

だが、ジャンとコニーはまだ気になった事がある。

あの不審な集団を誘導しているのは黒髪の女駐屯兵だが、その乗っている馬が気になった。

 

 

「あれ、フローラの馬じゃないか?」

「確かに…言われてみればそうだね」

 

 

ジャンの指摘を受けてアルミンは遠くにいる赤い馬を見つめた。

確かにフローラの愛馬にそっくりな感じがした。

 

 

「でも、あんなに大人しくしてるなら別の馬じゃないの?乗っている人も違うし…」

 

 

しかし、あの馬はフローラ相手ですら噛みついたり大暴れをするやべぇ奴だった。

あそこに居る様に黒髪の小柄な女駐屯兵を乗せてのんびりしている姿は似合わなかった。

 

 

「馬の種類によっては体毛が違ったりするそうだよ。例えばエルヴィン団長の馬は白だったりね」

 

 

雑学に秀でているアルミンの一言でとりあえず一同は納得した。

調査兵団の馬は、基本的に高価だが、エルヴィン団長が所有する白馬は更に高額となる。

なんという品種かは知らないが、用途によって馬が分けられるのは誰もが知っている。

おそらくあの赤い馬の品種は、飼い慣らせば多くの荷物を載せられるのだろう。

そんな感じで納得するしかなかった。

 

 

「だが、あの女兵士もどっかで見た事あるんだよな…」

 

 

コニーは座学などの記憶力が悪いが、身体で覚えた事は忘れずに勘が鋭い。

フローラの馬らしき品種に乗っている黒髪の女兵士に見覚えがあった。

 

 

「忘れたの?オルブド区からカラネス区に誘導した女将校じゃない」

 

 

その疑問に答えたのは、お世話になった人の顔を覚えていたミカサだ。

彼女曰くオルブド区からカラネス区までの護衛と誘導をした女将校だと告げた。

 

 

「ああ、確かに……どうしたお前ら?」

 

 

オルオもしっかり覚えてはいたが、後輩たちの顔は暗い。

世話になった人を思い出した表情では無かったので彼は訊く事にした。

 

 

「なんか…なあ?」

「うん、それ以外でもどこかで見た気がするんですよ」

 

 

特にジャンとアルミンは、彼女に見覚えがあった。

だが、どこで出会ったか思い出せずに悩んでいると事態は動いた、

 

 

「ハンネス分隊長!本隊から進軍の許可が出ています」

「特別作戦班に対しては何か指令が出ているか?」

「追って知らせるとの事です。既に先遣隊が裏門に向かって進軍しております」

 

 

ハンネスの部下であるフィル班長によって奪還作戦が始まったと実感する。

ハンネスは手を振ってエレンたちと別れて部隊と合流する為に走り出す。

エレンたちも気を引き締めてリヴァイ班長の指示を待った。

そんな中、少しだけ離れた場所で外套を纏った女憲兵が104期兵の集団を見守っていた。

 

 

「何やってんの?そんなに心配なら声をかければ良いじゃない?」

 

 

砲兵部隊を指揮していたラナイ・マクロンは、そんな彼女に声をかけた。

しかし、またしても横に首を振って指定された場所に向かう姿はどこか寂しげに見える。

上官の言った通り、未だに自分の気持ちに素直になれないようだ。

 

 

「ホント、変な意地ね……まあ、私たちにも言える事だけど」

 

 

あそこに居る104期兵と同期である女憲兵を見てラナイは、彼女らしくない振る舞いに呆れた。

それと同時に自分たちも他人事ではないと思うのであった。

 

 

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もうじき夜が明ける時、進軍の命令が下された。

ミケ副団長の嗅覚がシガンシナ区に巨人の匂いがしないと知らせたからだ!

「そんな馬鹿な」という訳で先遣班が確認しに行ったが、確かに巨人の姿は無かった。

脅威が無い以上、待機する必要もないので調査兵団はシガンシナ区の裏門を制圧した。

 

 

「さて、エルヴィン。ここは私の管轄していた場所…と言いたいのだが、君の意見はあるか?」

 

 

わざとらしくエルティアナはエルヴィン団長に策があるかと訊いた。

それに対して彼は…。

 

 

「あると言いたいのだが、まずこの新兵も話に参加させていいか?」

「構わん、有効な策であるなら幼児が立案した作戦にも賛同してやるさ」

「ははは、ありがたい」

 

 

緊張しているアルミン・アルレルトをここぞとばかりに自分の前に出した。

明らかに自分のヘイトを彼に押し付ける…訳でもなく参謀候補として連れて来たのだろう。

エルヴィンの様子からそう判断したエルティアナは特に異論は告げなかった。

 

 

「1つだけ言っておこう。壁上ではできるだけ腹に力を入れて発言すると聴こえやすいとな」

 

 

アドバイスを告げたエルティアナは、調査兵団の作戦を聴く事にした。

 

 

「まず敵は我々の目的を知っています。私が調査兵団に志願する能力者に告げましたので…」

「ああ、104期訓練兵団を募集する時だな」

 

 

エルヴィン・スミスは、104期調査兵に志願する巨人化能力者の2名に説明をしていた。

調査兵団は、シガンシナ区にあるエレンの実家の地下室にある秘密を求めていると…。

 

 

「まあ、ここに来るまでにある程度の作戦を練った。問題なのはここからどう変更していくかだ」

 

 

ただし、作戦もやりたい事も敵の目的もエルティアナどころか末端の兵士まで知っている。

彼女が聴きたいのは、その次!

すなわち、この場に居ない敵をどうやって察知し、撃退してシガンシナ区を奪還するかという事。

その方針が無ければ、永遠にシガンシナ区に留まらないといけなくなってしまう。

 

 

「この場には敵が居ない。つまりこの街に罠があるか、それか既にここを放棄する理由があるか。私には分からないが、君たちはどうやって敵を感知する?ミケ副団長の鼻は機能してない現状で」

「手厳しいな、まさかここまで巨人が居ないと想定しておりませんでした」

 

 

彼女に言いたい事を理解しているエルヴィン団長は頭を掻いた。

何事もなく奪還作戦が終了する訳ではないと理解しているが、敵の動きはまだ掴めていない。

 

 

「そう、巨人は居ない。だが、不審者たちはシガンシナ区を包囲する様に立っていたそうだ」

「えぇ…ミケ副団長から報告を受けています」

「報告によると、不審者共は意思疎通が不可能に思えるほど意識が朦朧として座っていたと聴く。つまり、明らかに人為的に設置された…いわば巨人の出現装置と言えるだろう」

 

 

ただし、敵対勢力が自分たちを包囲していたのは分かっている。

理屈は不明だが、ユトピア区に居た兵士や病人を巨人に変える術があると判明している。

なので巨人がこの場に居ないのは、そいつらが喰われない様にする為という意図は理解できる。

 

 

「そして最低でも任意で巨人化できる能力者が3名、いや、もっといるかもな」

 

 

判明している巨人化能力者の中で行方不明になっているのは4名。

特に鎧の巨人と超大型巨人、獣の巨人は人類に敵対しているという根拠がある。

奴らを討伐するか、能力を強奪しない限り、人類の脅威になり続けるのは分かっていた。

 

 

「幸いにも今はまだ闇だ。上手くやれば敵の裏を掻く事ができるぞ?」

 

 

奇襲の鉄則は、予想外の奇策と迅速な行動、そして闇に紛れる隠密が重要になる。

わざわざ街道跡を馬で駆け抜けて来た彼らは、夜のおかげで居場所が感知しづらくなっている。

巨人を出現させたところで日光が無ければまともに動かないのも分かっている。

だからこそ彼女は、緊張している若き調査兵に疑問を呈する。

 

 

「では、君はここからどうするべきか提言して欲しい。時間切れになる前にな」

 

 

これは時間との戦いだ。

だから「考えを伝えて欲しい」と告げられたアルミンは、自分の考えを述べる事にした。

 

 

「少し早いですが、作戦を実行するべきだと思います」

「何故だ?部隊を散開させてたり、民家に潜ませる事だって可能ではないか?」

「指定された作戦外の事を行なえば兵たちに混乱を招きます」

「ふむ、一理あるな」

 

 

アルミンは指定通りの作戦を実行するべきだと告げた。

作戦を急に変更する事で指揮系統の混乱、また兵士の動揺を避けるために。

自分が出した案を否定する根拠をを聴いたエルティアナは笑って応える。

 

 

「確かに夜間に独断で兵を動かすのは無理がある。だが、巨人も同じではないか?」

「いえ、あえて自分たちの居場所を教えておびき寄せて短期決戦で挑む所存です」

 

 

せっかく闇に紛れてシガンシナ区に来たというのに奇襲の優位性を捨てるというのだ。

明らかに罠に誘い込まれたというのに敵をおびき出す為にあえて尻尾を出す。

横でアルミンの話を聴いていた調査兵たちは動揺するが、エルヴィン団長は眉1つ動かさなかった。

 

 

「…エルヴィン・スミス、新兵だけに喋らせるな。貴公も何か発言しろ」

「敵対勢力の狙いはエレンです。ならば彼を存分に利用するべきです」

「そうか、勝手にしろ。ただし、硬質化が成功させたら各隊は音響弾で知らせて欲しい」

 

 

予定が変わらないのであれば、エレン・イェーガーは外門を硬質化で塞ぐ。

彼と同じく外套のフードを被った兵士100名が外門を目指して動いている。

誰がエレンか判別できないようにする意図と索敵を兼ねた2個小隊である。

 

 

「何故ですか?」

「民家や施設に潜んでいるはずの敵対勢力に異常を瞬時に特定させない為だ」

 

 

もしも、エレンが巨人化すればそれだけで居場所を特定されてしまう。

だが、音響弾で作戦達成を知らせて行けば、すぐには音で特定できなくなる。

そうとなれば、ミケ副団長の嗅覚に感知してでも、街中を動き出すという予想だ。

 

 

「それと複数人を跨ぐ伝言ほど不確かな物に頼りたくないのでな」

 

 

エルティアナの承認を得て調査兵団は2つの部隊に分けた。

エレン及びリヴァイ班、そして護衛の2個小隊。

もう1つは、エルヴィン・スミスをトップとする1個中隊だ。

それはともかくエルティアナは作戦自体の興味がないのか、どこかへと去って行った。

 

 

「よく頑張ったなアルミン」

「め、滅茶苦茶、緊張しました…」

 

 

彼女の後ろ姿が見えなくなった瞬間、アルミンは壁上に座り込んだ。

エルヴィン団長から褒められたが、それどころではない。

本来なら対等に話せない女将校の意見と対立するという重圧は計り知れなかった。

 

 

「エルヴィン団長も思い切った事をする。明らかに喧嘩を売り過ぎじゃないか?」

 

 

ディルク分隊長は、団長とアルミンがとんでもない事をしているのに気付いた。

喧嘩を売り過ぎてエルティアナ連隊長がキレてどこかに行った様にしか見えなかった。

なのでその元凶を咎めるが…。

 

 

「なあ、ディルク?」

「なんだ?」

「エルティアナ女史の率いてきた戦力って3個分隊規模だよな?」

「ああ、提出された書類にはそう書いてあったが……」

 

 

急に変な質問をされたディルクは返答するが、それでもエルヴィンの顔は冴えない。

 

 

「明らかに1個分隊が追加されてるんだが…妙な事にクロルバ区の駐屯兵団の部隊らしい」

「ん?既にクロルバ区の砲兵部隊が居たはずでは?」

 

 

エルティアナ独立愚連隊長が率いて来た3個分隊の内訳が以下の通りだ。

中央第一憲兵団の対人立体機動部隊出身の1個分隊

駐屯兵団第三師団クロルバ区支部第3砲兵分隊

エルティアナ直属の1個分隊

そこに1個分隊が追加されようが特に問題はないはずであった。

書面には無い部隊がこっそり追加される事実が無ければの話だが…

 

 

「何故、ミケ副団長は気付かない?」

「おそらく他の分隊と同じ様に香水を使っているせいだと思うが…」

 

 

さすがに調査兵団の相談なしに1個分隊追加すれば何事かと疑われると予想できないはずがない。

なのに彼女は、まるで調査兵団に不意打ちをしたいのかと言わんばかりに夜を意識していた。

 

 

「俺たちに秘密にする意味って何だ?」

「それは私が聴きたい。だが、彼女は何か企んでいるのは確かだ」

 

 

蚊帳の外に置かれているアルミンを無視してエルヴィンとディルクの口は動く。

ようやく地平線から日が登りつつある状況で何も進展は見られない。

もしかするとエルティアナ連隊長は…。

 

 

「なるほど、君らは裏でコソコソ、私の陰口を言う人物だったのか」

 

 

あまりにも優し過ぎて裏があると考えたエルヴィンはディルクと一緒に悩んでいた。

…が、当の本人がやってきたどころか聞かれてしまった為、言い訳するしかなかった。

こんな事を考えている暇は無いはずだが、知り合いの彼女を激怒させる訳にはいかなかった。

 

 

「えっーと…」

「その…」

 

 

慌てて言い訳をしようとする2人だったが、最初にシガンシナ区の外門付近が光った。

そして音響弾が連鎖して鳴り響いた後に…ウォール・ローゼが存在する方角で何かが光った。

それは、双方が悲惨な結果で終わるシガンシナ区奪還戦の開始を意味した。

 

 

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