進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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129話 850年 シガンシナ区奪還戦 - 待ち伏せ-

エレン・イェーガーは敵対者の目を欺くために外套のフードを被って任務に従事している。

周りや後方に居る兵士もフードを被っており、声で誰なのか判断するしかない。

それでも、夜明け前に壁上に来たという安心感は大きい。

巨人は夜間ではそれほど活動しないし、なにより壁上には巨人が居ないからだ。

 

 

『本当に帰って来たんだな…』

 

 

誰もが真剣に任務を遂行している中、エレンだけは昔の事を思い出していた。

見覚えがある光景を見下ろすという感覚は未だに慣れないし、そもそもほとんど暗闇で見えない。

それどころか、廃墟の中に人が隠れているのではないかと思うほど静かではあるが不気味だった。

そう、ここが自分たちの墓地に思えて仕方が無かった、

 

 

「止まるな!外門を目指せ!」

「りょ、了解!」

 

 

リヴァイ兵長の警告を聞いてエレンは慌てて壁上を走りながら先行していた兵に親指を立てる。

既に壁上には駐屯兵団出身の兵士たちが展開しており、外の異変を警戒していた。

エレンにできる事は、超大型巨人に破壊された外門を目指す事だけだった。

 

 

『ああ、あそこにオレの家があるはずだ…』

 

 

記憶が正しければ、超大型巨人が門を破壊した際に飛んだ瓦礫で自宅が倒壊した。

そのせいで母親が瓦礫に挟まってしまい、救出する暇もなく巨人に掴まれて喰われてしまった。

長く続くと思われた平和な日常は、あの日を境に終わってしまい、そのままになっている。

闇に包まれた廃墟群は、久々に到来した人間を歓迎していない様にすら思える。

 

 

『いや、オレは…大丈夫だ。絶対に取り返してやる!』

 

 

誰かに頼る事しかできなかった5年前と違う!

いろんな事を犠牲にしてでも力を得た人類はきっとシガンシナ区を取り返す事ができる!

 

 

『何故ならオレたちは、生まれた時から自由で!特別だからだ!!』

 

 

誰もがこの世に生まれてきた事が奇跡なのだ!

誰かが生き方を強要したとしても実際に行動するのは当人のみ。

例え、限られた人生だとしても恐れを捨てて行動する行為に勝るものはない。

この日の為に生きて来たと実感したエレンは、何も恐れなかった!!

 

 

「ここだ!」

 

 

ようやく夜明けとなった頃、エレンは破壊された外門に辿り着いた。

街中を立体機動で移動しても良かったが、ガスの節約をする為にやらなかった。

それに白骨死体がそのまま野晒しになっているのでそれをできるだけ見ない意図もあった。

 

 

「……ここを塞げば二度とウォール・マリアに巨人は侵入して来ない…か」

 

 

本来なら外界と人類の領域を分けるはずの門は無残に破壊されていた。

そしてこれからエレンは、調査兵団どころか5年間、誰もが思い浮かべた夢を実現させる!

シガンシナ区と外界を繋ぐ穴を塞ぐという行為を実行するのだ!

 

 

「…やっていいのか?」

 

 

周りを見渡すと緑色の信煙弾が撃ち上がっていた。

つまり、作戦を続行して良いという合図だ。

 

 

『行くぞ!!』

 

 

合図を確認したエレンは右手を噛みついて巨人化をした!

そして自分を縛る何かを体外に放出する様にゆっくりと力んだ!

その瞬間、巨人体の表皮が硬質化し、どんどん膨れ上がる様に広がっていく!

門に空いた穴がエレンの巨人体の結晶で塞ぐ事に成功した!

 

 

「エレン!穴は塞がった!早く出て来て!」

 

 

ミカサが呼びかけると巨人のうなじ付近が大きく膨らんだ。

うなじ付近の結晶がポロポロと崩れてエレンの上半身が飛び出してきた。

 

 

「ぐっ……ホントか」

「えぇ…ちゃんと塞がった」

 

 

ミカサに救出されたエレンはようやく反撃の一歩を踏み出したのを実感した。

 

 

「チッ!音響弾がうるせぇな…」

 

 

敵に知らせる為に連鎖的に音響弾が発射されてシガンシナ区は爆音が鳴り響いている。

そのせいでリヴァイは不機嫌そうに眉を潜めて【信煙弾だけで充分だろ!?』と思っていた。

音響弾が鳴り終わった後、外門の上に居た兵士が黄色の信煙弾を上空に向かって撃ち上げる。

これで当初の【壁の穴を塞ぐ作戦】は成功したと全員が認識した。

 

 

「赤色の信煙弾を確認!内門方面で敵襲です!」

 

 

ところが、内門の壁上から赤色の信煙弾が撃ち上がった!

それを見たリヴァイは近くに居たオルオ・ボザドの顔を見る。

 

 

「オルオ、お前が班の指揮をしてハンジ分隊と共にここに待機せよ」

「ハッ!」

「残りの調査兵は俺と来い!!内門方面に至急援軍に向かうぞ」

「「「ハッ!」」」

 

 

調査兵団特別作戦班、リヴァイ班はこの瞬間、オルオ班として活動していく事になる。

直属の部下や他の兵士たちの自信あふれる即答を聴いて微笑んだ彼は立体機動で移動を始めた。

 

 

「……相変わらず兵長の笑みに違和感があるな」

「でも、それだけ私たちが信頼されたって事じゃない?」

 

 

厳しい幼少期を過ごしたリヴァイの顔は世界一顔つきが怖いと言われても納得するほどだ。

そんな彼は、ヒストリア女王即位の時から笑う様になっており、未だにオルオは慣れなかった。

それでもペトラの言う通り、ようやく本音や笑ってくれる彼に憧れ以上に安心感があった。

ああ、ようやく背中を預ける事以外で貢献できているのだと…。

 

 

「あれ?ハンネスさんの部隊も残るんですか?」

 

 

ミカサから外套を受け取ったエレンは、ハンネスの部隊が残っている事に疑問が残った。

駐屯兵団から転属したハンネスも調査兵であるので兵長に付いて行くと思ったのだ。

 

 

「いや、俺もそう思ったんだが、お前らの班長に残って欲しいと懇願されてな」

「え?なんで?」

「シガンシナ区に詳しい奴にエレンを守って欲しいと考えたのかもな」

 

 

当初は予定通りに動こうとしたハンネスだが、リヴァイの懇願で留まらざるを得なかった。

シガンシナ区出身のハンネスは、エレン以上にシガンシナ区に詳しい。

その影響でここに待機させられたのかと思ったが、あくまでハンネスの推測でしかない。

 

 

「ふむ、予想以上に敵は早起きの様だな。徹夜しかできない我々も見習なくてはならないな」

 

 

場所は変わって裏門の上で待機しているエルティアナ連隊長は眼前の先に居る巨人を見て笑った。

毛むくじゃらの腕が長い巨人は、フローラが報告した巨人と姿と特徴が一致している。

つまり、あいつを殺すか、巨人化能力を強奪しない限り、悲劇は繰り返されるという事だ。

思わず彼女なりに場を落ち着かせるジョークを告げるが、誰もちゃんと聞いていなかった。

 

 

「さて、エルティアナ連隊長、君ならどう兵を動かす」

「待機だ、どうせ奴の事だ。巨人を唆して我々を襲撃してくるのだろう」

 

 

すかさずエルティアナに作戦を訪ねたエルヴィンは、彼女の返答を聴いて頷いた。

ウォール・ローゼ側に当たる裏門の下には旧市街地が広がっている。

平原で打って出るよりは、この障害物を駆使して巨人と戦闘するべきである。

 

 

「巨人に包囲される可能性がありますが?」

「むしろ、人間が巨人になる事を警戒しているくらいだ。答え合わせが無い限り、兵を動かせん」

 

 

この戦術は、ユトピア区防衛戦でも行なった。

その結果、何故か城塞都市の内部と旧市街地に待機していた兵が巨人化して周囲を襲い出した。

そのせいで旧市街地にあった防衛線は崩壊し、獣の巨人の投石攻撃で前線部隊は打撃を受けた。

 

 

「投石してきた場合はどうしますか?」

「……貴公は質問しかできないのか?少しは旅団長としての意見も述べたらどうだ?」

 

 

ウォール・マリア奪還作戦の責任が分散しているおかげでいつになくエルヴィンの質問が多い。

そう考えた彼女は、逆にエルヴィンの意見を聞く為に質問を返した。

 

 

「おそらく投石攻撃には対処しようがないと推測します」

「それはそうだ。投石は単純だが質量攻撃である以上、回避するのも一苦労だな」

 

 

何か策があると期待している調査兵たちだが、実際は旅団長は何も考えていなかった。

音速以上で飛んでくる岩の破片を物理的に防ぎようがないせいで先手を打つしかない。

しかし、獣の巨人が平原に居る以上、籠城して敵の動きを見る事しかできなかった。

 

 

〈ウォオオオオオオオオオオオオオオオ!!〉

 

 

獣の巨人が咆哮をした!

それが何を意味をするのかユトピア区防衛戦で皆が知っている。

咆哮と同時に閃光と共に爆発音が発生し、ウォール・ローゼ側で巨人が6体出現した!

更にシガンシナ区にも4体の巨人が出現し、城塞都市に籠城した兵士たちを挟撃する形となった。

 

 

「なるほど、今回は兵士たちは巨人化しなかったようだな」

 

 

既にローゼ側に居た不審者を始末してきたとはいえ嗅覚だけでは不十分だった。

そのせいで6体の巨人が出現してしまったが、あの程度なら調査兵団でも苦戦しない。

もしも、出現した巨人が全て変異種であったら別であるが、ただの巨人なら対処法は変わらない。

 

 

「さて、今度は私から質問させてもらおう。エルヴィン、これからどうする気だ?」

 

 

お手並み拝見と言わんばかりにエルティアナは、エルヴィンに話題を振った。

その振り方は、育成しようとしているアルミンに手本を見せろという意図が見え隠れしていた。

 

 

「ディルク分隊長の指揮の下!マレーネ班及びクラース班は馬を死守せよ!」

 

 

真っ先に馬を狙われていると理解したエルヴィンは、部下に馬を死守する様に命じた。

更に迫って来る巨人の群れに対して攻勢の命令を下そうとしたが…。

 

 

「よろしい、ローゼ側から迫って来る巨人は我々が排除しよう」

「なっ……よろしいのでしょうか?」

「そんなに巨人と交戦している時に投石攻撃を浴びたいなら代わってやっても良いが?」

 

 

調査兵団が弱体化しているのを知っているエルティアナによって調査兵の攻勢は阻止された。

調査兵たちは彼女に抗議したいようだったが、投石の話題を聴いた瞬間、誰もが異議を諦めた。

こうしてローゼ側に出現した巨人は、彼女が連れて来た部隊が迎撃する事となった。

 

 

「だが、シガンシナ区に出現した巨人は諸君らが掃討せよ。突破されたら巨人の餌になると思え」

「承知しました」

 

 

リヴァイ兵長と同じくらいに冗談のセンスが酷過ぎてエルヴィンは苦笑いするしかなかった。

それでもミケ副団長やエルティアナ連隊長がこの場に居る事は彼に精神的な余裕を作らせた。

 

 

「なにより、鎧の巨人と超大型巨人はまだ姿を現していないしな、見張りは多いほど良いだろう」

 

 

彼女が打って出たのは、鎧の巨人と超大型巨人の姿が見えないのが大きい。

下手に部隊を動かして敵に奇襲されるくらいなら新兵と同じく待機して欲しかったのだ。

 

 

「そういう訳だ。血気盛んな部隊を率いるミケ副団長には悪いが、我々が掃討させてもらう」

「了解した」

 

 

独特な香水の匂いがする女将校の言葉をミケ副団長は受け入れた。

 

 

「巨人化の爆風で戦力の大半を喪失するという無様な失態だけはやめてくれよ」

「ああ、絶対にさせない」

 

 

暗に「お前の鼻で巨人化能力者を逃すなよ」と告げる彼女の言葉は大きい。

さすが4年前にウォール・マリア奪還作戦を指揮した事はある。

彼女の自信あふれた発言は、不安になっていた兵たちが元気になれるほどの気迫があった。

 

 

「それとエルヴィン」

「はい」

「アルミン・アルレルトに調査兵団の指揮をさせたいなら相応の役職を就けさせておけ」

「本作戦が終了次第、その成果で出世させておきます」

「ああ、たかが一等兵に中隊規模の部隊を動かすという馬鹿な真似だけをやめてくれればいい」

 

 

なお、総統局の監査部のNO.2である監査副長という役職に就いていた女将校は告げた。

緊急時なのは分かるが、班長ですらないアルミンに中隊を指揮させるのは無謀だと。

苦労を知る者であるからこそ、馬鹿な真似をしようとする旅団長に釘を刺した。

 

 

「君たちは壁上で待機だ。時が来たら活躍してもらうぞ」

「「「ハッ!!」」」

 

 

ヘルメットと盾を装備し、黒色の外套を身に纏う駐屯兵たちに命令したエルティアナは立体機動で壁から降りて待機してあった白馬に乗って自分の部下を集めに行った。

 

 

「ん?」

 

 

エルヴィン・スミスは、謎の部隊の構成員たちが耳栓をするのを見て疑問に思った。

何故、聴覚を守る必要があるのかと…。

その意図をすぐに知る事となる。

 

 

〈おかしいな……。なんでこんなに巨人が少ないんだ?〉

 

 

巨人をけしかけた獣の巨人は、咆哮で出現させた巨人の数が少ないのに首を傾げた。

事前に無関係となる巨人を掃討した彼は、自身の脊髄液を摂取させた被検体たちを設置した。

城塞都市を包囲する様に配備したのに出現した巨人が少ないのは明らかにおかしかった。

 

 

〈もしかして殺人したのか。ホント、悪魔の末裔の事はある〉

 

 

巨人に襲撃されたのではないのであれば、敵兵に殺された以外に無い。

確かに巨人が居る領域に生存者が居るのは異常とはいえ殺人を辞さない奴らに戦慄した。

だから彼は……ここで負の連鎖を終わらせようとした!

 

 

〈おい、うんこ漏らし!話と違うじゃないですか!〉

〈ピークちゃん、ごめんよ。どうもあいつらが被検体を殺人しまくったみたいだ〉

〈どうせ、『悪魔の末裔が』とか言って設置する時に脱糞しながら握り潰したんでしょ?〉

〈ぐわあああ!酷いよピークちゃん!〉

 

 

【車力の巨人】の巨人化能力者であるピーク・フィンガーは戦士長に恨み節に呟いた。

以前、彼女は全裸のジークに抱き着かれた挙句、小便と大便に汚された経験と記憶があるからだ。

そのせいで上官に対して敬意どころか忠誠心の欠片も無かったのだ。

 

 

〈次の作戦だ!準備しておいて〉

〈これで失敗したら戦士候補生に能力を譲渡してもらいますからね〉

〈分かってるさ、世界最強の戦力を投入する以上、そんなヘマはしないさ〉

 

 

既に二連敗しているジーク・イェーガーは、天敵の女に警戒していた!

あの栗色の髪をした女兵士に瞬殺されてその度に拷問された彼は本気で敵を滅ぼす気だった。

マーレ以外の国家が総動員した兵士と兵器群に対抗できる存在たちを持ってきたのだ。

 

 

〈じゃあ、設置してくれよ〉

〈全く巨人使いが荒い糞野郎さん、後で覚えておいてください〉

〈うわ……やっぱり戦線投入したくねぇな〉

 

 

ピークが新たな被検体を設置しているのを見てジークの戦意は下がる一方だ。

いくら自分の脊髄液の影響が大きいとはいえ()()を制御できるか未知数だったのだ。

 

 

『まあ、やるしかないか』

 

 

今度も敵が少数で奇襲してくる可能性がある以上、彼は決して油断していない。

小国の国家予算を容易に超える新型の巨人をありったけ持ってきたのだ。

これで負ける様であれば、エルディアの悪魔に喧嘩を売ったのが間違いだったと思うしかない。

 

 

〈あのうんこ漏らし、いくらなんでもここまでする必要があるの……?〉

 

 

車力の巨人は自身が背負っている荷台から巨人化する被検体を一人一人慎重に取り出していた。

まるで等間隔に苗木を荒れ地に植林するように被検体を設置しながら愚痴を呟いていた。

 

 

『たかが女兵士一人にあそこまで戦士長がやられるってあるの?』

 

 

ピークからすると戦士長の心を粉砕した女兵士の存在が気になった。

どれだけ強いか分からないが、【驚異の子】と国内外に畏怖される存在が発狂する悪魔らしい。

 

 

『実際に遭ったけど強いだけで悪魔とは思わなかったんだけど…』

 

 

確かにその存在らしきに襲撃されたが、確かに強いが容易に逃亡できたので脅威ではない。

なのでここまで世界を滅ぼせる戦力を大量に配備する必要性が全く理解できなかった。

 

 

〈この作戦が終わったらマガト隊長に戦士長の交代を強く宣言しておきましょう…それが一番よ〉

 

 

二回も瞬殺されたせいで戦士長の精神が狂っているとピークは判断した。

しかし、彼女はその脅威がどれだけヤバいか身をもって知る事となる。

世界は残酷で平等に襲い掛かって来る。

それは、無垢の巨人を調査兵団にけしかけた戦士隊も同様であった。

 

 

〈え!?マジかよ!?〉

 

 

ジークは、進軍を命じた巨人6体があっさりと瞬殺されたのを目撃した。

しかも、巨人のやられ具合から砲撃どころか、狙撃でうなじごと頭をぶち抜かれたと知った。

 

 

〈なんだよ!壁に籠られたら投石できないじゃないか!!〉

 

 

当初は、巨人と生身で交戦している兵士に投石を仕掛けようと画策したのに失敗で終わったのだ。

そのせいでジークは投石をするのをやめてピークが被検体を全て設置するまで待つつもりだ。

ついでに投石用の岩を集めに向かった。

 

 

〈おっ!向こうでも始まったな〉

 

 

ある程度、岩を集めて定位置に戻って来た瞬間、ジークは事態が進展する事を知った。

50mの壁の向こうから閃光が見えたと思ったら爆発音が鳴り響いたのだ!

この世の絶望の声を打ち消す様な爆音と共に水分が蒸発し、遥か上空にキノコ雲を生成する。

どうやらベルトルトが巨人化して壁内に展開していた敵部隊を爆発でぶっ飛ばしたようだ。

 

 

〈さて、こっちは問題ないが、ライナーとベルトルトが心配だな…〉

 

 

ジークは、鎧の巨人と超大型巨人が生身で戦う兵士に負けると思っていない。

騎兵だけでここまでわざわざやって来たという事は持ち込める物資は限られる。

さきほどの対巨人ライフル銃らしき物しかないなら有効打は無いはずだ。

むしろ、今から巨人化させる被検体から彼らが逃げられるのか本気で心配していた。

 

 

〈うんこ漏らし、被検体の設置が終わりました〉

〈そうか、念のために荷台は外させてもらうぞ〉

〈早くしてください。私はさっさとここから撤退しなければなりませんので…〉

 

 

ジークが操作する獣の巨人は、車力の巨人に装備された荷台を外して地面に置いた。

それを車力の巨人が掴んでそのままウォール・ローゼ方面に向かって走った。

 

 

〈そうさ、いつだって巨人は脅威だ。今でもそう思うよピークちゃん…〉

 

 

わざわざ壁を越えて暮らすエルディア人に巨人化の実験をしてその効果を見た。

結果は、夜間でも動く事ができたが、少しだけジークの命令を無視する巨人が発生した。

だから二ヵ月以上かけてその欠点を克服した脊髄液を完成させたのだ。

3体以上で巨人化させるのは初めてだが、きっと上手く行くはずだとジークは思うしかない。

 

 

〈特に異形の巨人はな…!〉

 

 

始祖の巨人の力すら受け付けないほどの凶暴な巨人。

過去のエルディア帝国が無垢の巨人に巨人化能力者の能力を付与しようとして誕生した化け物。

祖国マーレですら、通常兵器が巨人の脅威を上回るまで手を付けなかったほどの禁忌にされた巨人。

その戦闘力を間近に見守るしかできないジークは、ピークが安全地帯に行くまで見守った。

 

 

〈ああ、俺はこれから王として奴らを操作してやる!!〉

 

 

そして車力の巨人の姿が獣の巨人視点で豆粒より小さくなった時、彼は咆哮をした!

 

 

〈ウォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!〉

 

 

それは、この世の全てに絶望する嘆きの様であった。

 

 

-----

 

 

超大型巨人の爆発と鎧の巨人の襲撃で調査兵団は大混乱に陥った。

既に壁内に展開していた部隊が壊滅し、新兵たちを中心にパニックに陥っている。

 

 

「ひ、ひい……」

 

 

フロック・フォルスターは今更になって調査兵団に志願した事を後悔した。

実際は安全地帯で爆音と衝撃で震えているだけなのだが、彼はそれどころではない。

自分に死が迫っていると実感して震えが止まらなかった。

 

 

「落ち着け!壁の向こうで爆発しただけだ!こっちには被害が出ていない!!」

 

 

新人たちの教育担当でもあるクラース班長が震える兵士に檄を入れるが効果はない。

軽い気持ちで志願してしまった駐屯兵を中心にパニックに陥ってしまった。

むしろ、彼も壁の向こうで何が起こっているのか分からず不安しかない。

 

 

「すまない……俺が仕留めきれなかったばっかりに……」

 

 

鎧の巨人の能力者を仕留めきれなかったミケ副団長は、エルヴィン団長に謝罪をする。

本気で後悔しており、エルティアナ連隊長に顔向けできないと顔を歪めていた。

 

 

「まだだ、我々はまだ生きている。そこまで悲観的になる事は無い」

 

 

エルヴィンは、自分の失態を責める副団長を慰めたが、内心では悩んでいた。

ウォール・ローゼ側に出現した巨人6体を討伐しただけで終わらないと…。

きっと、シガンシナ区で発生した大爆発より良くない事態が発生すると分かっていた。

 

 

「エルヴィン!!」

 

 

そんな悲観的になっているエルヴィンを鼓舞する様にリヴァイがやって来た!

 

 

「お前らしくない!早く命令を出せ!」

「ああ…」

 

 

内門から景色を眺める自分と向き合う形となったリヴァイに急かされた彼は命令を下そうとした。

…しかし、景色の変化を目撃して口を開いたまま固まってしまった。

 

 

「また巨人化か!?懲りねぇ奴らだ!」

 

 

連鎖する爆音の規模や兵士たちの反応から10体どころではない巨人が出現したとリヴァイは判断!

『自分より弱い奴は絶対に死なせぇ』と腹を括った彼は、エルヴィンの見ている方角を見た。

 

 

「なっ……」

 

 

ここで何でエルヴィン以外の調査兵たちも黙り込んだのかリヴァイは理解した。

 

 

「ふざけんなァ!!全部、変異種じゃねぇか!!」

 

 

絶望に感じられるリヴァイの叫びは、この場に居る兵士たちの気持ちを代弁していた。

たかが1体の変異種ですら苦戦するのにそれが50体もシガンシナ区を囲む様に出現したのだ!

 

 

「カラネス区を襲撃した変異種に…あそこで身体が光ってるのはトロスト区を襲撃した奴か!」

 

 

リヴァイも変異種を全て知っている訳ではない。

だが、カラネス区を襲撃した変異種は、現場を目撃していたので良く知っている。

情報からトロスト区を強襲した蜥蜴(とかげ)型も四足歩行で光っている奴だと即座に理解した!

 

 

「しかもご丁寧に獣の巨人にそっくりな奴や亀みたいな新型まで居やがる!!」

 

 

ニャンコとワンコを汚いおっさんで人体錬成して合体した様な両腕が長い巨人が4体。

つまり、ジーク・イェーガーと似た【獣型の異形の巨人】が4体も出現した。

そしてなにより植物のツボミを背負う【亀形の巨人】も5体出現していた。

どんな能力を持つか知らないが、今までの経験から碌でもない能力があるのは確かだ。

 

 

「……この世を作った神様って本当にドブより腐り切ったみたいだな。クソがァ…」

 

 

リヴァイは、もはや目の前の光景を見てエルヴィンに頼っても無駄だと理解する。

 

 

「撤退するぞ!絶対に勝ち目がねぇ!!」

 

 

なんと獣の巨人にそっくりな奴は両腕を硬質化して鱗の様に覆う事ができるようである。

それだけなら問題なかったが、奴らが腕を前方に大きく振る度に結晶が飛んでいく。

要するに硬質化の結晶の雨を無限に降らせる巨人だと判明した!

そんな結晶の雨に突っ込めるほどリヴァイは蛮勇ではないし、間抜けでもなかった。

 

 

「おい、退却命令を…」

 

 

硬質化で作った結晶が天空から降り注ぐ威力は、ユトピア区防衛戦で嫌というほど知っている。

なのでリヴァイは、エルヴィンに代わってミケ副団長に撤退命令を出させようとした。

 

 

「なんだ…?」

 

 

異様な光源が気になってリヴァイは元凶である亀形の巨人を見た。

何故か腹が光っており、ツボミの先端をこっちに向けていた。

まるで自分たちを狙っているかのように…。

 

 

「まさか…」

 

 

リヴァイは最悪の予想をしたが、残念な事にその予想は当たる事となる。

ツボミが開いたと同時に青白く光る物体をシガンシナ区に向けて射出した。

それは巨人の肉片ではなく事情を知らなければ神秘的な流れ星に見えただろう。

 

 

「総員、壁から降りて障害物に隠れろ!!急げ!!」

 

 

リヴァイの一言で付近に居た調査兵たちは全員、壁から飛び降りて立体機動を行なう!

明らかに巨人による人為的な砲撃みたいな物だと判断した為だ!

実際は、砲撃ではなくとんでもないエネルギーを帯びたプラズマである。

命中すればとんでもない熱エネルギーで周囲を焼き尽くすので判断は間違っていないが…。

 

 

〈うおっ!?すげぇ威力だな…〉

 

 

旧市街地前に着弾したプラズマは急速にエネルギーを熱に変えて大爆発を発生させた。

それは、人類史上最大の砲塔を有する軍艦から放たれる一斉砲撃を凌駕する威力だった!

遠く離れていたはずの獣の巨人を通してジークに揺れを伝える状況がその威力を物語っていた。

 

 

〈おうおう!やれやれ!焼き尽くせ!一匹残らず悪魔の末裔を駆逐してやれ!〉

 

 

シガンシナ区内部にライナーとベルトルトが居るのを忘れてジークは楽しんでいた。

無垢の巨人の性質を持ち合わせる異形の巨人は、巨人化能力者と違って限界はない。

つまり、いくらでも硬質化の結晶の雨を降らせたり、プラズマを射出できるのだ。

籠城する敵兵力に対して長期戦が行えるし、なにより敵は近づく事すら困難となる。

 

 

〈…って俺も仕事をしないとな!〉

 

 

ここで当初、自分がやるべき事を思い出したジークは身体を動かす事にした。

車力の巨人が運んできた岩を握った獣の巨人は、大きく振りかぶる。

そして両腕の長さのリーチを活かした大きなフォームを描いて投石を行なった!

 

 

〈チッ!ボール1個分高かったか…〉

 

 

城塞都市の入口を狙うつもりが、コントロールをミスって手前の市街地に岩の破片群が命中した。

高く投げたせいで叩きつける様に岩が飛んで行ってしまったと、これまでの経験で分かっている。

 

 

〈まあ、初球は様子見だし、コツも掴んだ〉

 

 

恩人と遊んだキャッチボールが殺戮の道具になるとは誰が予想しただろうか。

だが、彼はそのおかげで【歴代の獣の巨人で最強】という名声を手に入れた。

フローラ・エリクシアに成す術無くボコボコにされた彼だが、ようやく本領を発揮できる!

異形の巨人による包囲網は、何人たりとも通したりしないのだから。

もちろん、ジークを除く巨人化能力者も含んでいる訳だが…昔を思い出したせいか忘れていた。

 

 

〈目指すは、完全試合(パーフェクトゲーム)だ!!〉

 

 

岩を担いで大きく振りかぶった獣の巨人は、シガンシナ区の内門を見据えていた。

多数の結晶体の破片と無数のプラズマ弾が援護する様に上空を飛んでいく。

それを見て微笑みながら踏み込んで投石をする!

 

 

〈…よっしゃあ!!今度こそ命中させてやったぜぇ!〉

 

 

今度の投石は見事に内門に命中して派手に入り口を崩壊させた。

これで馬を利用して門の出入りができなくなるので更に敵戦力の士気を削ぐ事ができる。

 

 

〈もっと俺の凄さを見せつけてやらねぇとな!〉

 

 

あまりにも興奮したジークは、自分が達成するべき目的を完全に忘れていた。

【座標】を奪取したライナーとベルトルトの撤退を一切考慮していない状況に…。

本来ならピークが彼を叱責する予定だったが、異形の巨人のせいで後退していた。

そのせいで獣の巨人は投石を繰り返す事が目的になってしまったが…。

それは、調査兵団を筆頭とする兵士たちに絶望を与える事となった。

 

 

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