進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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131話 完全試合

巨人は、目の前の人間を捕食する通常種と予期せぬ行動する奇行種の2つに分けられる。

…とされたが、近年になってより強力な巨人が出現する様になった。

 

 

変異種

 

 

その巨人の特徴は、褐色の肌に血管の様な白い管が全身に張り巡らされていた。

そしてその血管らしき物を辿っていくと白色のカサブタの様な物に辿り着く。

あまりにも常識破りな化け物っぷりに一時は存在そのものが都市伝説として疑われた。

 

 

変異種

 

 

あまりにも目撃された個体が少ない上に相手をして生還する例がほとんど無かった。

故に壁外調査を何度も経験した調査兵団のベテラン兵士ですら存在を知らない者が多い。

だが、戦闘を行なって生還した数少ない者たちは、誰もがその巨人を“変異種”と呼んだ。

 

 

異形の巨人

 

 

本当の名は“異形の巨人”といい無垢の巨人に巨人化能力者の能力を付与できてしまった化け物だ。

古代のエルディア帝国が9体しか知的の巨人を生み出せずに業を煮やした結果による負の産物だ。

本来の巨人の弱点となる脊髄液とは別に付与された脊髄液が巨人を更なる化け物に変えた。

 

 

異形の巨人

 

 

それは、【始祖の巨人】の能力を継いだフリッツ王ですら操作できない反逆者だ。

元から知能が無い巨人に複数の脊髄液が混ざり合った結果、完全に異端者となった。

“神”の力をもってしても制御できない化け物は、エルディア帝国でも禁忌とされた。

マーレというエルディア帝国に滅ぼされた国の名を継ぐ大国が禁術を紐解いて製造するまでは…。

 

 

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獣の巨人は今の現状に満足していた。

プラズマをぶっ放す固定砲台と化した異形の巨人と硬質化の結晶をばらまく異形の巨人。

双方とも1体でも居れば脅威なのにそれが複数も居る。

そのせいで敵対する兵士たちは未だにあの城塞都市から出て来れていない。

いや、この窮地を文字通り抜ける方法は残されている。

 

 

〈今頃、あの壁の上を必死に走って逃げているんだろうな〉

 

 

ジーク・イェーガーの予想では、壁上に兵士の一団が走って逃げている様子を思い浮かべた。

地上に馬を残して放置し、必死に城塞都市を囲む異形の巨人から逃亡するというシナリオだ。

あの城塞都市に籠城したところで食料が尽きるのは目に見えている。

常識的に考えれば、少数の兵を残して本隊が逃亡するのが一番の策であるはずだ。

 

 

〈まあ、逃げられる訳ねぇんだけどな〉

 

 

両端に居る異形の巨人は感知タイプであり、動きがあれば勝手に動き出す。

だから攻撃を受けないように車力の巨人を自分の遥か後方に待機させたのだ。

 

 

〈ん?〉

 

 

だが、ジークは知らない。

敵対している調査兵団という組織は、本当にイカれた連中しか居ない事に!

雄叫びが聴こえたのでその方角を見ると騎兵隊がこっちに向かって進軍を開始していた。

 

 

〈まあ、このまま終わると思わなかったが、特攻か…〉

 

 

またしても、特攻を選んできた古典的な馬鹿共にジークは呆れた。

前回も似た様な事をしてきたが、あの時は地下道があったらしく彼は奇襲された。

なので自分の真横には、雷を纏う蜥蜴型の異形の巨人を侍らせており、守りを固めていた。

 

 

〈歴史と経験で学べない愚者はホント、愚かだな〉

 

 

まるで塹壕を張り巡らされた要塞に突っ込んで命を無駄に散らす突撃部隊の様なものだ。

設置された機関銃で次々と風穴を空けられて無様に何もできず死んでいく歩兵そのものだった。

それでも砲兵による支援砲撃があるし、気を惹き付けて毒ガスや手榴弾をぶち込んだりする。

なので要塞に向かって突撃する作戦は、陽動か、陣地制圧の為に行なう大攻勢以外にあり得ない。

 

 

〈まあ、人類は愚かだから何度でも戦争を繰り返すんだけどな!〉

 

 

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」 というが実際に実行できる者は少ない。

できたとしても、周りから足を引っ張られたせいで予想通りにできない事が多い。

祖国マーレも平和を謳歌しているつもりで、実際は、敵対国が新型兵器の開発をしていた。

下手に超大国であったせいで他国を侮った結果、致命的な技術格差が産まれた。

気付いた時には、手遅れの段階まで来たせいでこの悪魔の島に手を出す羽目になったのだ。

 

 

〈ん?煙?〉

 

 

いざ、岩を投げようとすると騎兵たちは緑色の煙を撃ち出した!

少しでも視界を遮って岩に被弾する確率を下げようとしているのだろう。

 

 

〈なるほど、奴らも学習してるか!……と言うと思ったか!馬鹿共が!!〉

 

 

岩を砕いているので事実上、散弾による面制圧だと知らずに…。

愚かな騎兵たちは囮となって少数精鋭部隊が奇襲してくるのだろう。

4km圏内に入ったら動き出す異形の巨人が待ち構えているというのにだ…。

 

 

〈せめて俺の手で楽にしてやるよ!!〉

 

 

本気で奴らに失望した獣の巨人は、砕いた岩を構えて軸足を騎兵隊に向かって一歩を踏み出した。

その勢いで反対側の足を上げて軸足一本で巨体を横に向けるように支えた。

 

 

〈オラァ!!〉

 

 

直後、振り上げた足のつま先を大きく踏み出して上半身を回転させながら腕を振り下ろした。

伸びきった腕の遠心力から放たれた岩の破片は、騎兵隊に向かって飛んでいく。

そして最後に軸足を曲げて利き足1本で巨体を支え、バランスを取って投球結果を眺めた。

 

 

〈チッ、怒りで手元が狂ったか!〉

 

 

残念ながら初球は、騎兵の遥か前方で炸裂した。

しかし、そのせいで進行方向に馬を走らせる事ができなくなった。

更に方向転換をしようとすればプラズマや硬質化の雨が待ち構えているという有様だ。

 

 

〈…やっぱりこいつら馬鹿だろ!!〉

 

 

それでもミケ副団長が率いる調査兵団は、必死に前へと進んでいた。

 

 

兵士よ進め!!兵士よ怒れ!!兵士よ戦え!!」

 

 

黒色の外套を身に纏い、片手で盾を横に構える騎兵たちは地獄へと進んで行く。

フードを被って少しでも頭を守ろうとしているのが逆に滑稽な感じがした。

それでもミケ副団長は本気であり、大声を出して兵士たちを鼓舞していた。

 

 

〈そんなに死にたいならやってやるよ!!〉

 

 

更に激怒した獣の巨人は岩を構えて投球の準備をする。

そのせいで壁上から青色の信煙弾が撃たれたのを瞬時に気付く事ができなかった。

 

 

〈砲撃?……ああ、壁上からやっているのか〉

 

 

砲撃音がしたので改めてジークは、壁の方を見た。

少数の砲を持ってきたようだが、全然射程が足りておらず、的外れな場所に爆発していた。

騎兵隊より前方を砲撃できているので彼らの技術水準だと合格点なのだろうか。

どちらにしても、その12倍くらい砲弾を飛ばさないと異形の巨人に届かなかった。

 

 

〈まあ、あいつらは後だ〉

 

 

もし、砲弾が当たったとしても、巨人を倒すには威力不足だ。

だからジーク・イェーガーは、まずは接近してくる騎兵隊に狙いを付けた。

そのせいでまたしても壁上から赤色の信煙弾が撃ち上がったのを見逃した。

 

 

〈うおっ!?〉

 

 

もう一度、投石をした結果、今度は上空で広い範囲の爆発が連鎖した。

まるで花火の様に大量に炸裂した爆発は、投石の多くを撃墜した!

 

 

 

兵士よ道を作れぇええ!?

 

 

しかし、一部の投石は、騎兵隊に飛んでいき戦闘を走っていたミケ副団長の左脇腹を貫いた!

更に傍に居たハロルド班長の額を吹っ飛ばし、他にも数名が落馬した。

それでも調査兵団第三分隊出身の兵士たちは…。

 

 

「今だ!!」

 

 

なんと投石から生き残った者たちは、馬を乗り捨てて進軍を停止した。

それどころか、盾が固まる様に構えて取り付けられた棒を地面に刺して固定する作業を始めた。

手の空いた者は赤色の信煙弾を発射し、獣の巨人の視界を遮ろうと試みている。

 

 

「副団長!!」

 

 

部下を連れてきたディルク分隊長は、負傷したミケ副団長を引き摺って盾の壁に隠れた。

次々と兵士たちは横に並べた盾に隠れていく。

もちろん、こんな物で投石から身を守れるなどと思っていない。

 

 

〈今度は何だ?〉

 

 

今度は騎兵隊から赤色の煙幕が張られた。

それだけなら良かったのだが、何故か進軍してこない様だ。

風に乗って飛んできた硬質化の破片が何個か盾に当たるがビクともしなかった。

 

 

〈ああ、盾で投石を防ぐ気か……舐めやがって!!〉

 

 

そして赤色の煙が晴れると盾が横列に立てかけており、投石から身を護るバリケードに見えた。

完全に投石の威力を馬鹿にされていると思ったジーク・イェーガーは憤りを感じた。

そのせいで壁上から黒色の信煙弾が放たれたのを見逃してしまった。

 

 

『ん?』

 

 

今度こそ自殺志願者に向かって投石をしようとした獣の巨人は変な物体を上空で見かけた。

50mの壁より遥か上空に何かが白い雲を出しながら飛んでいた。

 

 

『なんだありゃ?』

 

 

ジーク・イェーガーが困惑するのも無理はない。

砲撃ではないし、だからといって信煙弾でもない。

いわば、白い雲を後方から噴き出している物体が上空に向かって飛んでいたのだから。

 

 

『まあ、関係ないか』

 

 

何かの合図だと思った獣の巨人は、包囲している異形の巨人を見たが、何も問題は無かった。

後方を見ても、異常が無いので疑問を抱きつつも大した事はないと考えた。

現に例のアレは、異形の巨人による包囲網を通り過ぎて遥か遠くに落下していく。

あの距離では、超大型巨人の爆発すら脅威にならないのでそう考えても仕方なかった。

 

 

〈ほえ!?〉

 

 

この日、人類は天空を裂いた。

強大な光源は、影すら作らさないようで全てを光の中に飲み込んで行く。

それは、超大型巨人の大爆発さえ上回る惨劇の始まりだった。

後方が光ったと感じた獣の巨人は、何事かと後ろを振り返ると……とんでもない物が見えた!

 

 

〈お、お前ら、盾になれぇ!!〉

 

 

後世で開発される原子爆弾という戦略核兵器に匹敵する大爆発が発生した!

それを目撃してすぐに行動に移れたジークはやはり只者ではない。

急いで周りに居た異形の巨人を集めて自分の後ろ、つまり爆風の盾にしようとした。

 

 

〈無理だああああ!!〉

 

 

閃光の次に発生した全ての生物を無に帰す大爆発は、爆音と共に全てを飲み込んだ!

ありとあらゆる水分が一瞬で蒸発し、上昇気流で巻き上げられた水蒸気はキノコ雲を作った。

それと同時に全てを破壊すると感じる爆風が全てを吞み込もうと凄まじい速度で駆け抜けていく。

獣の巨人は必死に壁に向かって走るが、手遅れだった…。

 

 

『なんじゃこりゃあああ!!?』

 

 

まずは、待機していた異形の巨人が爆発に巻き込まれてその存在すらこの世から抹消された。

肉体が消滅しなかった異形の巨人も爆風で大きく転倒し、巨体に甚大な被害を与えた。

更に獣の巨人を護衛していた異形の巨人の集団すら巻き込んで爆風は50mの壁に向かっていく。

 

 

〈ほぎゃああああああああああ!?〉

 

 

一応、盾になったのか衝撃波や爆風が直撃しなかった獣の巨人だが、余波を受けた。

暴風によって70mの高さまで巻き上げられた彼に成す術はない。

シガンシナ区の壁に向かって3km以上もぶっ飛んで顔面から着地してゴロゴロと転がっていく。

岩をボールにして投石していた彼だが、まさか自分がボールになるとは夢にも思わなかった。

 

 

『えぇ!?何事!?……きゃああああ!?』

 

 

車力の巨人は爆発と反対側に居たが、思いっきり爆風に巻き込まれて遥か後方にぶっ飛ばされた。

その頃には、騎兵隊が設置したバリケードにも爆風が押し寄せる。

囮になっていた調査兵団の兵士たちは必死に盾を掴んで飛ばされない様に踏ん張る。

耐熱性のフード付き外套と耳栓、そして大きな盾で身を護る彼らはさぞかし恐怖だっただろう。

乗り捨てた馬は爆風で吹っ飛んで激突した衝撃で即死か、瀕死状態に追い込まれた。

 

 

「あははははは!!予想以上ね!!」

 

 

50mの壁の上に居たフローラ・エリクシアは、予想以上の威力に笑っていた。

迫撃砲の手前に設置した盾に隠れながらも、彼女は嬉しくてしょうがない。

恐怖の感情が欠如した化け物は、ようやく自分の望んだ結果が見れて喜んでいる様であった。

 

 

「おいフローラ!!なんだこれは!?」

 

 

爆発が収まったのを確認して盾から頭を出したリヴァイは、その威力に戦慄していた。

明らかに超大型巨人が引き起こした大爆発の10倍以上の威力があったからだ。

すぐさま耳栓を外してその元凶に問い詰めた。

 

 

「え?巨人をまとめて爆発でぶっ飛ばしただけですわよ?」

 

 

一方、フローラは何が起こったのか分からないと勘違いして簡潔に報告した。

当然、何も理解できなかったリヴァイは更なる説明を求める羽目になった。

 

 

「違うだろ!?どんな爆薬を使えば、ああなるんだ!?」

「分かりやすくお伝えしますと、巨人化する際に発生する爆発の原理で作られた兵器ですわ」

 

 

フローラは【窒素爆弾】*1と告げたかったが、説明が面倒だったので大雑把に報告した。

説明すると長くなるし、1回の爆発で巨人の大群を全て殲滅できると思っていなかった。

 

 

「さあ、リヴァイ兵士長、難聴になりたくないのであれば耳栓を付けてくださいませ」

「……何をする気だ?」

「もう1発お見舞いしてあげるだけですわ!」

 

 

なので、もう1発ぶっ放すつもりだ!

 

 

「馬鹿!!やめろ!!」

「あはははは、遅いわ!もう発射許可は下したの!!」

 

 

リヴァイが阻止する前にフローラは黒色の信煙弾を発射し、新兵器の発射許可を下した!

それを目撃したグランツ砲撃班長が新兵器を構えた。

 

 

「ぎゃはははは!!やっと出番だぜぇ!!」

 

 

その兵器は、安定翼と後部にラッパ状のブースターが付いた鉄槍が発射筒に装填されていた。

これは、対人立体機動装置と弾道学、雷槍の試験結果による努力の結晶で誕生したものである。

カーフェン分隊長に先手を打たれた彼は、ようやく新型兵器を射出できる好機に恵まれた。

 

 

「“百雷(びゃくらい)”ちゃん!!」

 

 

後世で『ロケットランチャーの元祖』と呼ばれるその兵器の正式名は、アホみたいに長くなった。

【個人携行型無反動砲式超長距離ポリ窒素炸裂弾頭】なんて誰が覚えられるだろうか。

分類したフローラもそう思ったのか、雷槍の命名の例に基づいて百雷(びゃくらい)と名付けた。

100個の雷が同時に発生するという意味合いで製造された兵器は、いわば諸刃の剣だった。

それを承知に使用する時点で彼らは狂っていた。

 

 

「派手にぶっ飛べ!!」

 

 

右肩に新兵器を担いだグランツ班長が空いた手で付属のトリガーを引くとそれは発射された。

反動低減の為に初速は遅いが、すぐに急加速し、大空に向かって銀色の槍が飛んでいく。

すぐさまグランツは、用済みになった発射筒を壁下に投げ捨てて盾に隠れた。

 

 

『本当は使いたくなかったんだけど…まあ、しょうがないわね』

 

 

なお、ノリノリであったフローラこそがこの兵器の使用を出し渋っていた。

何故なら一歩間違えれば城塞都市を跡形もなく消滅させるほどの威力があるからだ。

いくら民衆からの注文とはいえ、人類の領域で多用するのは避けたかったのだ。

 

 

『【ポリ窒素(ちっそ)*2は、その毒性すら不明で化学反応した副産物が何をもたらすのかも分からない』

 

 

窒素(ちっそ)という物質は、大気中の約7割強を占めている物質である。

窒素自体は安定した物質ではあるが、それ故にあえて不安定にした物質など危険極まりない。

不安定な窒素化合物は大体、爆発物になるし、無理やり結合した窒素酸化物*3は毒性がある。

特に懸念しているのは、さきほどの大爆発で窒素酸化物が大量に飛散していないかという点だ。

 

 

『まあ、普通に息ができているなら直ちに健康に影響を与えるレベルじゃないって事かしら?』

 

 

今死ぬか、後で死ぬかは大分違う。

窒素爆弾を使用したせいで3日後に死ぬとしても、使用せずに1分後で死ぬよりはマシである。

エレンとアニのせいで至近距離で巨人化の爆風を喰らって生き延びたフローラは…。

無理なく呼吸できているなら問題ないと判断し、部下たちに毒性の危険性を黙っていた。

 

 

『チッ、あの髭もじゃ野郎さん。気付いちゃったか……』

 

 

本当は気絶している間に焼くつもりだったが、その前に能力者の復帰が早かった。

さきほど発射された兵器を目撃して一目散にシガンシナ区の内門に向かって逃亡していた。

負の感情を“声”として聴く能力を持つフローラからすれば、彼の心境など…どうでもよかった。

彼女の願いはただ1つ。

この世に誕生した事を後悔させるほどの地獄を奴に遭わせるだけである。

 

 

〈総員、俺に接近しろ!!早くしろ!!〉

 

 

獣の巨人は、無事だった異形の巨人たちに向かって号令を下した。

そのせいで待機命令を解除された異形の巨人が進軍を開始。

プラズマをぶっ放していた異形の巨人も攻撃を中断する事となった。

 

 

「わざわざやってくるなんて好都合よ」

 

 

2発目を撃った理由は、変異種がバラけて包囲しているせいだった。

それが一カ所に集まるとなれば大爆発で一網打尽にできる。

視界は盾で塞がれているのに居場所を全て把握している彼女は鼻歌を歌っていた。

 

 

〈うわあああああ!話と違うぞ!?なんだあの兵器は!?〉

 

 

毛だらけだったはずの獣の巨人は丸焦げになった挙句、皮膚が大きく剥がれていた。

『巨人って案外クッション材なのかな』…と思うフローラと違ってジークはパニックに陥った。

そのせいでわざわざ地の利を放棄して安全であろうと考えた城塞都市に向かって進撃していた。

道中で馬鹿にしていたはずの騎兵部隊と遭遇したが、気付かずに無視をして走り続ける。

 

 

〈うびゃああああああああああああ!?〉

 

 

再度、発生した大爆発の影響から免れなかった獣の巨人はぶっ飛ばされた。

図体がでかいせいで爆風を受ける羽目になり、投石で破壊された旧市街地跡に激突した。

またしても、爆風が直撃した異形の巨人は即死、免れても二次被害で焼かれて炭となった。

それに比べれば、ジークは幸せ者であり幸運なのだが、それに気付く事はない。

 

 

『さて、やりますか!』

 

 

フローラは予め書いてあったカンペを横に居たリヴァイに見せた。

そこには、【団長との約束通り、獣の巨人を討伐してください】という一文しか書かれていない。

 

 

「おい、口が利ける状況なら話せよ」

 

 

地味にフローラが読唇術を使えると理解したリヴァイはゆっくりと告げる。

 

 

「獣の巨人が爆風から立ち直る前にお早くお願いしますわ」

「どうやってあの爆弾を作った?」

「ガスの燃料である氷爆石(ひょうばくせき)に極僅かに含まれている“爆発物”を集めて作りました」

「なんでこの兵器を黙っていた!?」

「つい最近、開発しましたので……それに実際に目撃しないと信じてくれない威力ですし…」

 

 

フローラ・エリクシアという女は、立体機動装置の開発に携わった。

特に対人立体機動装置の開発は、直接関わったので良く知っている。

そして対人立体機動装置は案外、拡張性が無いと知った。

小さなガスボンベを1つ背負うだけなのですぐにガス欠になってしまうのだ。

 

 

『どうしても持久力に問題が出てしまうわ…しょうがない。威力をあげますか!』

 

 

そこでフローラは開き直って20mm口径弾の対巨人ライフル銃やカノン砲を開発した。

一撃で巨人をぶち殺せば、そこまでガスを使う必要が無いと思って強力な兵器にしておいた。

 

 

「やっぱ、ガスの残量問題はなんとかしないと!」

 

 

しかし、ガスの残量問題からは逃げられなかった。

トロスト区の戦闘でガス欠をしたせいで巨人から逃れられず戦死した同期が相次いだ。

その影響は、未だにフローラに尾を引かせるほどに重要な問題であったのだ。

 

 

「逆に考えましょう!燃料を変えれば良いのだと!」

 

 

なので改めてガスボンベに入っている燃料について着目した。

勘違いしがちだが、ガスボンベにはガス(気体)を圧縮するのではなく固体(氷爆石)にしてある。

注入する際は一度液状化し、ボンベの中にある凝固剤で液状化した氷爆石を凝固*4させる。

そして立体機動装置を使用する際に氷爆石をいっきに昇華*5させて体積を200倍にする。

その圧力で装置のファンを動かしたり、ワイヤーを射出したり巻いたりする動力にするのだ。

 

 

「すごい!!教本通りに模型が動いているわ!」

 

 

実際に研究室で原理を視覚化できる模型を見せてもらったフローラは…!

 

 

「…ってそれだけじゃないでしょ!?たった200倍じゃ明らかに力不足よ!?」

 

 

常温で200倍の体積に膨張する氷瀑石について疑問を呈した!

確かに研究室の実験器具が気化による圧力で動くのは納得ができた。

しかし、人間の体重と装備の重量を加算すると明らかに力不足過ぎたのだ。

 

 

「いや、我々もそう思ったんだが、どんなに調べても他に理屈が思い浮かばなかったんだ」

 

 

短剣型立体機動装置を開発したグリズリー班長は語る。

立体機動装置の開発や整備に携わる者は誰もが明らかに理屈が可笑しい事に気付いていると…。

しかし、王政府の圧力や現在の技術水準では特定できなかったのだ。

 

 

「可笑しいでしょ!?じゃあ、どうやって装備の性能を向上させたの!?」

「だからボンベを含む装備の改良をしただけで燃料に関しては手付かずのままだったんだ」

 

 

てっきりフローラは、燃料に関しても改良していたと勘違いしていた。

そういえば、新型装備の開発話を聴く度に意図的なのか、燃料自体の向上を聴いていない。

せいぜいガス圧が増して動きが鋭くなったくらいの話しか聞いていなかった。

 

 

「燃料自体の研究はしないのですか?」

「どうも、王政府が警戒していてな。変に逆鱗を触れるより無視した方がマシだったんだ」

 

 

当初は、グリズリー班長の話が理解できなかったフローラだが…。

中央第一憲兵団を完全に掌握した後に暗号化された文献を解読してようやく意味を理解した。

 

 

「なるほど、中央憲兵は革新技術どころか常識を覆す知識を全て闇に葬っていたわけね」

 

 

装備の整備記録に偽装された報告書を読んだフローラは溜息をついた。

そこには、歴代の発明家たちが人類の為に!と作っていた技術群が記されていた。

既出だった爆薬を改良して肥料に転用しようとして消された技師などだ。

 

 

「ん?」

 

 

申し訳なさそうに佇む中央憲兵出身の将兵たちを無視していたフローラはある事に気付いた。

 

 

「硝酸アンモニウム、ニトログリセリン……どれも窒素を含んでるわね」

 

 

中央憲兵は、新技術の再来に備えて摘発した技師や科学者の資料をすべて押収していた。

ほとんどは破棄されたものの、一部はあえて残して再来に備えていたのだ。

そのおかげで政権革命後に技術革新が発生し、新型兵器や道具が生まれる事になった。

それはともかく偽装した報告書には、成分分析や研究成果まで書かれていた。

そこでフローラは窒素という物質が気になった。

 

 

『調べてみますか』

 

 

王政府も中央第一憲兵団も存在しない以上、誰も新技術の研究を止める者は存在しない。

なのでエルティアナに化けていたフローラは、元中央憲兵をパシリにして文献を集めさせた。

王立図書館から僻地にある村の書庫まで爆発物に関する文献全てを…。

 

 

「ふーん」

 

 

こうしてフローラは当たり前に使っていた黒色火薬も窒素が含まれているのを知った。

残念ながら現在の人類の技術水準では、単体の窒素について製造方法が確立してなかった。*6

だが、窒素自体は安定した物質であり、1mmの1000分の1である1μmよりも小さいと分かった。

大気中にも70%以上を占めており、生物にとって存在不可欠の物質であるらしい。

爆薬を肥料に転用しようとした動きもその影響である。

 

 

「で?」

 

 

常人だったらここで終わりになるが、フローラは窒素に疑いの目を向けた。

どこにでもある窒素こそ何かヒントがあるのではないかと…。

まず、氷爆石に含まれていた不純物について全て記された資料を見た。

ガスが氷結して固体になる氷爆石には窒素が僅かだが存在していると書かれていた。

 

 

「本当にこれって窒素?」

 

 

王政府の狗に消された先人たちは、様々な記録を残していた。

例えば、窒素酸化物といってもアホみたいに種類がある様に…。

では、氷爆石に含まれている窒素らしき物質は、本当に全てが窒素なのだろうか。

化合物を作りやすい酸素と違って窒素単体の研究は進んでいない。

だからアインリッヒ大学の化学を専門とする教授に窒素かどうか確認を取った。

 

 

「窒素単体で窒素の性質だけど窒素じゃないのも混じってた?意味が分からないわ!?」

 

 

そしたら意味不明な回答が来た。

あれだけ資金を投入し、無限に出て来る科学者のリクエストに散々応えたというのにこの始末。

さすがにこんな報告をした教授たちに怒ったフローラはアインリッヒ大学に向かった。

―――そして理解してしまった。

 

 

「ああ、なるほど。わたくしたちが必死に爆発物の痕跡を探しても発見できなかったわけね」

 

 

能力者が巨人化する際に発生する爆発に窒素が影響していると判明した。

大気中にも大量に窒素はあるが、本来は爆発に絶対に関係しないので気付ける訳が無かったのだ。

調査兵団の第四分隊のハンジ・ゾエ分隊長は、しっかりとその原因の物質に触れてはいたのだ。

 

 

「窒素単体は安定した物質、それは常識」

 

 

窒素という物質は安定しており、他の物質に結び付けるのは膨大なエネルギーが居る。

裏を返せば、他の物質から窒素だけを引っぺがそうとするのにも膨大なエネルギーが居るのだ。

だから現在の人類が持つ技術水準では、窒素単体に分解できる手法が確立していない。

 

 

「じゃあ、大半が窒素でほんの一部だけ他の物質とくっついていたら?」

 

 

窒素が目に見えるほどくっつくのはあり得ない。

だから何かしらの物質を加えて化合物にする必要がある。

だが、その行為自体に問題がある。

安定した窒素に別の窒素や物質をくっつけるほどのエネルギーには危険が伴うこと!

なにより窒素をくっつけるほど元に戻ろうとするエネルギーが膨大になるという事だ。

 

 

「もしも、何かしらの拍子に窒素を結合させていた物質が外れたら?」

 

 

目に見えるほどの窒素が元に戻ろうとするエネルギーはどんな感じになるのか。

少なくともマスケット銃に使用する黒色火薬の何億倍、いや何千兆倍…もっとあるかもしれない。

学者すら鼻で笑う空想の兵器を氷爆石に含まれていた物質で実現してしまったのだ。

フローラが無自覚に恋をしたライナー・ブラウン、いや鎧の巨人を苦痛なく殺す為だけに…。

 

 

「あら?」

 

 

リヴァイに返答してから20秒ほど黙っていたフローラは彼が居ない事に気付いた。

少しだけ過去を振り返っている間にリヴァイ兵士長が使命を全うしようとしたのだろう。

フローラも負けてはいられない!と拳銃に専用の弾丸を詰めて笑っていた。

 

 

「あっ、しまった。もう1つの兵器を報告するのを忘れてたわ」

 

 

ここでフローラは、リヴァイ兵士長にもう1つの兵器の報告を忘れていたのを思い出した。

まあ、後で報告すればいいと考えて…。

 

 

「え?まだ何か隠していたんですか?」

 

 

フローラは、直属の配下であるカーフェン分隊長に隠している事があった。

さきほど使用した百雷ですら威力を大幅に抑えて30個の量産計画を作っている。

しかし、もう1つの兵器はフローラですら製造するのを本気で躊躇ったレベルだった。

 

 

「大丈夫ですわ。爆薬ではありませんので爆発に巻き込まれる心配はございません」

 

 

確かに百雷と違って爆発物ではないので周囲に甚大な被害を与えない。

嘘は言っていないが、触媒で反応しない限り、無害の百雷と違ってアレは有害だった。

 

 

「それよりヤバい物って事ですか?」

「……まあね」

 

 

中央憲兵出身者から呆れられたフローラは抗議をする事は無かった。

自分とミーナと補給隊の部隊長にしか渡していない新兵器は、未知数の物である。

おかげさまで自分を含めて両手で数えられる者しか存在を知らない。

 

 

「でも大丈夫、きっと使わなくて済みますわよ」

 

 

とりあえず部下たちから呆れられる様な視線が痛かった彼女は言い訳をする羽目になった。

 

 

-----

 

 

二度の大爆発を受けて辛うじて生還した獣の巨人は満身創痍だった。

巨人化できる時間は2分も残っておらず、何度も地面に激突した衝撃で意識が朦朧となっていた。

それでも気力だけで壁に向かって進んでいた。

あの爆発から逃れたい一心で…。

 

 

〈ライナー!!ベルトルト!!助けてくれ!!〉

 

 

ジーク・イェーガーは城塞都市で活動している戦士たちに助けを求めた。

だが、彼は知らない。

鎧の巨人になったライナーや超大型巨人になったベルトルトが瞬殺された事に…。

 

 

〈バケモンが!!化け物が襲って来るんだァ!!〉

 

 

フローラという天敵を嫌でも思い出したジークは泣きながら助けを求めていた。

しかし、彼は気付かなかった。

この日、自分の天敵が更に加わる事を…。

 

 

〈う、うわぁあああああっ!?〉

 

 

毎日見る悪夢のおかげで立体機動の音に敏感になっていたジークは泣いた。

またしても、トラウマとなった音がしたからだ!

 

 

〈来たああああああああああ!?〉

 

 

パニックに陥る獣の巨人の右腕にアンカーを撃ち込んだリヴァイ兵士長は、立体機動に移った。

右瞼に黒色の眼帯をしている兵士との接触は、長く続く因縁と繋がる事となった。

 

 

*1
原子爆弾を凌駕する新型爆弾(現実世界においては1950年代にソ連が開発したとされるが、実在しなかった兵器)

*2
現実世界では2004年に1700 ℃の環境で110万気圧で圧縮すると誕生するという事が判明したが、不安定過ぎて実用化の目途が立っていない。ちなみにマリアナ海溝でお馴染みの水深1万mで掛かる水圧は、1000気圧である

*3
高温燃焼で空気中の窒素が酸化する事によって発生する。他にも化学肥料を微生物が分解すると発生したりする

*4
液体が固体になること。ここでは、流動する燃料を氷爆石にする意味合いがある

*5
固体が液体にならずに直接気体になること。ここでは、氷爆石(凍ったガス)を気体(ガス)に変えている

*6
そもそも大気中にお目当ての窒素が大量に存在しているのでわざわざ化合物を分解する必要が無い

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