進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

132 / 179
132話 リヴァイ兵長VS獣の巨人 First Battle

ジーク・イェーガーは、先行で壁の中に潜入していた戦士隊に忠告された事がある。

 

 

「え?1人の兵士に気を付けろって?」

 

 

ライナーに警告される前からジークは分かっている。

栗色の髪に黄緑色に近い翠眼を持つ悪魔の様な女兵士が…。

 

 

「リヴァイ兵長に気を付けてください。奴は危険です」

「リヴァイ兵長?フローラじゃないのか?」

 

 

ジークは戦士たちの会話であの女がフローラという名を知った。

なので彼女について「警戒しろ」と言って来ると思っていたので本気で困惑した。

 

 

「いえ、フローラもそうですが、リヴァイの方がもっとやばいです」

「ホントか?」

 

 

獣の巨人になって巨人を討伐していた兵士にチョッカイ出していた時にフローラと接触した。

なんか自分から声を出して居場所を知らせる馬鹿女と思ったのが運の尽き。

フローラに瞬殺されるどころか、拷問されて全裸で脱糞&失禁しながらピークに泣き付いた。

再戦した時も瞬殺されてピークが居なかったらバラバラ死体になっているところだった。

 

 

「いや、フローラの方がやばいだろ!?」

「……意味が分かりませんが」

「なんで分かんねぇんだよ!?お前ら、正気か!?」

 

 

104期南方訓練兵団で3年間、彼女と接してきたライナーとベルトルトは未だに実感がなかった。

いつも負傷していたり、みんなと仲良くやってきた奴が戦士長を瞬殺して拷問していた事に…。

 

 

「戦士長、リヴァイ兵長はフローラの10倍ヤバいですよ!」

「ウッソだろお前!」

 

 

ライナーは兵長がフローラの10倍強いと発言したつもりだが、ジークは別の意味で受け取った。

フローラ以上に生き生きとして拷問してくる糞野郎だと考える…訳もない。

 

 

「馬鹿らしい…!フローラよりヤバい奴が居る訳ねぇだろ!」

 

 

なのでジーク・イェーガーは、リヴァイ兵長を過小評価した。

 

 

-----

 

 

全身が焼かれて炭と化していた獣の巨人の動きはノロい。

なので接近してきた眼帯の兵士に左手を伸ばそうとするのが精一杯だった。

 

 

〈ぎゃああああああああっ!?〉

 

 

リヴァイの回転斬りによって一瞬で左手が細切れになったのを目撃したジークは泣いた。

やっぱり、悪魔の末裔が居住するパラディ島なんかに手を出すべきではなかったと…。

 

 

〈やだあああああああああ!!〉

 

 

しかも、左腕まで4個の輪切りにされた事に気付いたジークは失禁しながら逃走を図ろうとした。

 

 

『…って、まずい!!』

 

 

このままだとうなじを狙われると思ったジークは残った右手でうなじを抑えた。

ところが、いきなり視界が真っ暗になった。

 

 

『え?ええ!?なんだ!?何が起こった!?』

 

 

いきなり視界が真っ暗になった事に衝撃を受けた。

その隙が致命的となった。

 

 

『目をやられたのか!?』

 

 

ようやく両目が切り裂かれたとジークが実感した頃にはリヴァイに両足首を切断された。

そのせいで彼は、何が起こったか分からないままうつ伏せに倒れ込んだ。

 

 

『なんだ!?』

 

 

あまりにもリヴァイの動きが速すぎてジークは反応に遅れてしまう。

左手を斬られたと思ったら既に左腕まで切断されて後方に回られてしまった。

左腕が複数の輪切りになったのを目撃して驚愕した頃には視力を潰されていた。

そして視力を失ったと実感した頃には巨体を支える両足首を切断されていたのだ。

 

 

「さっきは、随分と楽しそうだったな!!」

 

 

気を許して雑談していた仲間を投石で殺害されて激怒したリヴァイは止まらない。

獣の巨人が硬質化を意識する前にうなじを高速で切り裂いていく!

 

 

〈やめてえええええええええええええええ!!〉

 

 

うなじを攻撃されていると理解した獣の巨人は右手を伸ばすが、あっという間に肉片となった。

それらが重力に基づいて地面に激突する前にジークはうなじから掘り起こされる。

両椀を切断された事にも気付けない彼に成す術はない。

 

 

「もがっ!?」

 

 

光が見えたと思ったら右目の視界がまたしても真っ暗になった。

何が起こったのかと口を動かそうとしたが、何も動かなかった。

それどころか、激痛で見悶えて血が喉を流れていき、呼吸をするのも困難になった。

ここでようやく彼は、口に刺さった刃がそのまま右目を貫いたと理解した。

 

 

「オイ、返事をしろよ。失礼な奴だな…」

 

 

リヴァイ兵士長は、ギリギリのところで理性を保った。

本当は殺すつもりだったが、こいつの巨人化能力を誰かに移譲できるという事を思い出したのだ。

 

 

「さっきまで楽しそうにしていたのにやり返されたら被害者ぶるのかこの野郎…」

 

 

泣く理由は理解しているリヴァイだが、それでも尋常じゃないほど怯えている理由が分からない。

なんでこいつ、ここまで怯えているのだろうかと…。

しかも、自分の顔を見て驚愕したと思ったら、少しだけ落ち着いた素振りまで見せたのだから…。

 

 

『フローラじゃない…!?まさか、こいつがリヴァイか!?』

 

 

フローラじゃない事に安心したジークは、自分の反応が可笑しくなっている事に気付かない。

現在進行形で殺されかけているのに彼女じゃなく本気で安心していた。

それほど、彼はフローラと交戦したくなかったのだ。

 

 

「巨人化を終えた直後はすぐに巨人化できない。そうだったよな?」

 

 

巨大樹の森で捕縛した女型の巨人でリヴァイは、肉体再生と硬質化が同時にできない事を知った。

更に巨人化能力者であるエレンとの会話で巨人化のメカニズムの一部が解明された。

まず、能力者が精神的に不安定であれば、巨人化できないこと。

そして、巨人化した後にすぐに巨人化ができないという点だ。

硬質化を実現する為にエレンの覚悟を何度も見続けたリヴァイに迷いは無かった。

 

 

『こいつは…まだ殺せない……誰かにこいつを喰わせるまでは』

 

 

リヴァイは囮になってくれた騎兵隊が居る場所を眺めていた。

投石の犠牲になるという覚悟を決めて特攻した兵士は少ない。

だって転属してきた兵士は誰1人も特攻作戦に参加していないのだから。

エルヴィン団長に代わって指揮を執ったミケ副団長と元第三分隊の兵士たち…。

心臓を捧げてくれた者たちを救える可能性に彼は縋る。

 

 

『誰か、生きている奴は居ねぇのか…息さえあれば誰でも良い』

 

 

リヴァイの人生は、親しくした人たちと死別の連続で成り立っていた。

餓死寸前の自分を救ってくれて地下街で生き残る術を教えてくれたケニー・アッカーマン。

地下街で仲良くなって一緒に調査兵団に入団したファーラン・チャーチとイザベル・マグノリア。

いつも真面目で忠実に任務を遂行し、その真面目さ故に命を落としたグンタ・シュルツ一等兵。

なにより今まで看取って来た兵士たちの顔がリヴァイの頭の中から離れられない。

 

 

『この注射器で巨人にする。こいつを喰って能力を奪えば、命を救えるはずだ…』

 

 

今まで死を看取る羽目になったリヴァイにできる事はほとんどなかった。

下半身を食い千切られたボクっ娘の女兵士、腹が割かれて腸が飛び出した熱血漢。

その度に彼は死んでいく者に【約束】をし、少しでも気休めさせる事しかできなかった。

だが、誰か1人だけ瀕死から救える手段があるせいで……珍しく思考が乱れてしまった。

 

 

『生き返らせる事ができる…』

 

 

人生で唯一、リヴァイが自分で動かずに誰かが動く事を期待してしまった状況だった。

……その致命的な隙は、すぐに彼を後悔させる事となる。

 

 

「いっ!?」

 

 

突然、後方から出現した巨人に驚愕したリヴァイはとっさに横に逸れてしまった。

そのせいで巨人は両椀を失った能力者を咥えてどこかに向かって走り出してしまった。

 

 

「オイ待てよ…」

 

 

すぐさま双剣を構え直したリヴァイは、唯一の希望が自分の手元から離れた事を知った。

 

 

「俺はあいつに…いや、あいつらに誓ったんだ!」

 

 

リヴァイはエルヴィン団長に獣の巨人を必ず殺すと約束した。

そして囮になってくれる兵士たちに断言したのだ。

「絶対に獣の巨人を殺す」と誓ったのだ!

 

 

「お前を殺すと誓ったんだァ!!」

 

 

障害物がないせいで立体機動ができないリヴァイは走る事しかできない。

どんどん遠ざかっていく四足歩行の巨人の後ろ姿が今の現状を示していた。

それでもリヴァイは全速力で走る!

ミケ副団長と同志たちが馬で駆けた様に唯一の希望を夢見て走り続けた!

 

 

「た、助かった……あ、ありがと…ピークちゃん…」

 

 

九死に一生を得たジーク・イェーガーは、ピーク・フィンガーの行動に感謝した。

まさか戦士たちが言った通り、フローラより強い奴が居るなんて思わなかった。

それと同時にあの地獄から生還できたという事に涙が止まらない。

 

 

「もうやだ……おうちかえる…」

 

 

なお、ジーク・イェーガーは完全に心を折られた。

3度目の惨敗となれば、誰かに能力を移譲しないといけないのは分かっている。

異形の巨人を製造するのに最新鋭の軍艦1隻分のコストが掛かるのにほとんど失ってしまった。

この戦闘を生き抜いたところで罪を問われて粛清される末路しか見えない。

ただ、それでも二度とパラディ島に居る悪魔の末裔たちと面を合わせるのはゴメンだった。

車力の巨人に胴体を咥えられているジークは、戦士候補生に身を捧げる覚悟を決めた。

 

 

『……これは上層部に報告しないといけない』

 

 

車力の巨人の能力者であるピーク・フィンガーは、敵前逃亡する事にした。

壁の中に居るエルディア人が明らかに壁外の技術力を凌駕する兵器を運用している事実。

 

 

『壁の中にいるエルディア人が本気で我々を殺しにかかっている事に!!』

 

 

1発放てば、100万人の命を奪えるという兵器を複数運用している事実を伝えなければならない。

「もうじき悪魔たちが壁の外に侵攻してくる」とマガト隊長に伝える事を使命としたのだ。

 

 

『早く知らせないと!!』

 

 

車力の巨人は、大爆発から生き残った異形の巨人に襲撃される可能性があった。

なのでわざと大きく迂回して防護巡洋艦が停泊する港に向かう事となった。

――これが致命的なミスに繋がると知らずに…。

 

 

『ん?何の音?』

 

 

何かが破裂した音がした。

たったそれだけなのでピークは特に気にせずにそのまま走った。

だが、ジークは知っている。

 

 

「ピークぐぅうりゅう!?」

 

 

だから異変を知らせようとしたがジークは地面に振り落されて舌を噛んだ。

それどころか腹部を地面から飛び出していた岩に貫かれた。

 

 

『え?』

 

 

車力の巨人は前屈みに転んでジークを吐き出してしまう結果になった。

なんでそうなったか理解できない車力の巨人は飛んでいったジークの肉体を両手で掴む。

岩から引っこ抜いたジークは瀕死であり、治療しなければ再生力が負けて死ぬと思うくらいだ。

 

 

〈全く付いてない…一体何があった…の!?〉

 

 

仕方なく左手で優しく握って走ろうと思ったピークはようやく巨体の異変に気付いた。

両膝裏と左足首が損傷したらしくてうつ伏せ状態で動けなくなっていたのだ。

しかも、ジークは痛みに耐えながら何かを言いたそうに見える。

 

 

〈うんこ漏らし!何が言いたい!?…えっ!?〉

 

 

だからピークが理由を問おうとした時、巨体の両腕が切断された。

その傷口から炎が発生し、車力の巨人を焼きつく勢いで激しく燃え上がった!

 

 

「お久しぶりですわね」

 

 

ユトピア区防衛戦で車力の巨人のせいで獣の巨人の能力者を仕留め損なった女悪魔は…。

またしても、ノコノコと戦場に出現した車力の巨人を殺せる機会が訪れた事を感謝している。

彼女が装備している双剣は、寺子屋に通う少年や少女に匹敵する全長の刃である。

その刃の大半に『全てを焼き尽くす』と錯覚するほどの火力を誇る紫色の火炎を纏っていた。

 

 

「今度は逃がさないわよ…」

 

 

オルブド区で討伐したロッド・レイス巨人体が残した『大きな赤熱結晶』と『巨人の大結晶』!

そして同量の金の価格を上回る専用の鋼材で作られた刃は、フローラしか装備できない特注品!

『インフェルノブレイド』と名付けられた刃は、類稀なる熱量によって周囲に地獄を作り出す!

 

 

「ゴミクズ共が…」

 

 

一般兵が使用する立体機動装置『一式装置』の7倍のワイヤー巻き取り速度と5倍のアンカー強度。

なによりアンカー射程が2倍に増えた『インフェルノマシーナリー』は絶対に巨人を逃がさない!

 

 

灰燼(かいじん)に帰しなさい!!

 

 

元より極限まで軽量化し、とんでもないガス圧に耐える設計と鋼材で作り上げた最高傑作の鞘。

そこにポリ窒素に反応する触媒で制御された『インフェルノアクセル』は、この世の理を変えた。

量産型のガスボンベ1本で7倍のガス量と6.5倍のガス圧に匹敵する機能を得たのだ。

――地獄に堕ちた悪魔が業火を纏って再び地上で暴れるのにぴったりな装備が車力の巨人を襲う!

 

 

〈女の声!?〉

 

 

ピーク・フィンガーは、フローラの存在は聴かされていたし、実際に一度交戦している。

しかし、彼女はさきほどまで考え事をしていたせいで瞬時に状況を把握できなかった。

これが命取りとなった。

 

 

〈うええああっ!?〉

 

 

胴体を一閃で切断され!飛んでいった上半身にフローラが強襲!

巨人の首を刎ねてピークは生身で空高く放り出された。

 

 

「うひゃあああああああああがっ!?」

 

 

焼け野原どころか地表が飛ばされて岩石だらけの場所にピークは背中から激突した。

そのまま気を失った様に瞼を閉じて動かなくなった。

 

 

「まあ、さすがにここまでやれば動かないでしょうね」

 

 

左腕に赤色の紋章を付けた黒髪の女を見下ろしたフローラは2本の刃を地面に刺した。

そして近くに寄って来た相棒を見る。

 

 

「ライリー…今度は呼ばなくても来たわね」

 

 

フローラの相棒である汗血馬のライリーは彼女とライバルでもある。

いつもいがみ合ったり喧嘩したりするが、体格に勝るライリーがほとんどの勝負に勝利していた。

そんな“彼女”だが、フローラが瞳孔を開いて笑う時だけ素直に従うようにしている。

それは、フローラが激怒しているサインであり、恐怖の象徴でもあったのだ。

 

 

「ありがとう、貴女は下がってなさい」

 

 

ライリーに乗せていた荷物群からライフル銃を回収したフローラはライリーに指で指示を出す。

するとライリーは、指示に基づいてその場から去って行った。

 

 

「おや?誰かが産業廃棄物を落としたみたいね。ああ、落とし主を見つけたら問い詰めなきゃ」

 

 

口ではそう言いながら()()()()に用がある彼女はジークに向かって歩いていく。

1歩近づく度にジークは必死に逃げようとするが落下の衝撃で両脚を複雑骨折したようだ。

しかも肉体の再生優先度は、両腕の様なので脚が再生して動けるまで時間が掛りそうだ。

 

 

「んん-!!!んぐううううううう!!」

 

 

ライフル銃を構えた女兵士を目撃してジークはうめき声を出すしか抵抗できなかった。

これでジークの悪運も尽きると思ったその時、さきほど落下したピークの肉体がピクリと動いた。

 

 

『死んだ真似作戦成功』

 

 

もちろん、ピーク・フィンガーは死んでも居ないし、意識も失っていない。

あえて気を失ったフリをして奇襲するつもりだ。

 

 

『甘く見たね!車力の持続力なら本体の私がやられない限り、勝つまで戦える!』

 

 

さすがにそのまま飛び掛かっても返り討ちされるのは、さきほどの戦闘で分かっている。

なので、さっきの眼帯を付けた黒髪の兵士の様に後ろから巨人体で奇襲するのがてっとり早い。

瞼を閉じたまま、足音の大きさと声の聴こえ方、なにより糞野郎の怯え具合で位置を判断した。

 

 

『チャンスは1回限り…でも私はやるよ!』

 

 

車力の巨人は何度でも巨人化できる特性があるが、他の能力者より傷の修復が遅くて鈍い。

さすがに背中を強打して激痛に堪えるのはきつかったが、それも終わりが近い。

足音がかなり遠ざかってジークのうめき声がデカくなった。

 

 

『今だ!!』

 

 

ジーク・イェーガーの居場所を確認しようとピークが立ち上がった瞬間!

 

 

「え?」

 

 

遠くに居るはずの女兵士が自分のすぐ傍でライフル銃の銃口を向けていた。

その遥か背後には、人間の足音に偽装する様にゆっくりと歩く赤い体毛の馬。

そしてピークに「逃げろ!!」と必死に呻いているジークの姿であった。

 

 

「さようなら」

 

 

黄緑色の瞳孔が大きく開いたフローラ・エリクシアは、微笑みながら引き金を引いた。

するとピーク・フィンガーは真正面から額を撃ち抜かれて銃弾が頭蓋骨を粉砕し、脳を貫いた。

それだけに留まらずに後頭部から銃弾が抜け出してその勢いで脳髄の一部が飛び散る。

 

 

『ピ、ピークちゃん…』

 

 

ジーク・イェーガーは何度も「逃げろ!!」と叫んだが、彼女には伝わらなかった。

それどころか、同じ戦士が悲惨な末路を辿る様子を特等席で見届ける事になってしまった。

 

 

「ふふふ!」

 

 

瞬時に地面に刺してあった双剣を操作装置に装備したフローラの動きは速かった!

地面に倒れようとする黒髪の女の両腕、両足を切り捨ててみせた。

傷口はその高温から肉が液体の様に溶けて塞がった。

それどころか、仰向けで倒れて痙攣する女を俯瞰してフローラは更に口角を釣り上げる。

 

 

「ああ、汚いわね」

 

 

またしても、燃え盛る刃を地面に刺したフローラは動く!

急速に湿り気を帯びるズボンを脱がし、乙女の秘部を守る下着を力一杯に引き裂いた。

そこには、湿った花園が広がっており、中央にある渓谷は誰も侵入を許さなかったようだ。

 

 

「汚物は消毒しないとね」

 

 

死にかけた女の制服らしき物で汚れた手を拭いたフローラは燃え盛る刃を女の股間に突っ込んだ。

フローラからすれば、股間ごと小便と大便を無理やり焼いて消毒しているつもりだった。

だが、ジークから見れば、死にかけているピークの去勢を楽しんでいる悪魔の様にしか見えない。

ただでさえ致命傷を負ってビクンビクンと痙攣していたピークは更に震えが止まらなくなった。

 

 

「ねえライリー、貴女は焼肉を食べる時、どんな焼き加減をする?」

 

 

命令される前に動いたライリーだったが、いきなりご指名を受けて固まった。

 

 

“レア”(弱火で炙る)“ミディアム”(肉の表面を焼く)“ウェルダン”(中までじっくりと焼く)…どれが良いと思う?」

 

 

草食の馬に…自分の相棒に質問する事では無いのは、フローラ自身が良く理解している。

では、何故訊いたかというと悪魔モードから人間モードに切り替える為だ。

少しだけ精神が落ち着いたフローラは自身の額から流れて来る鮮血を手で払う。

興奮し過ぎて自身の傷口が開いてしまった彼女は、これを今後の課題にすると決めた。

 

 

「……って貴女に訊く事じゃないわね。そこの髭もじゃさん!あなたはどう思う?」

 

 

元通りの瞳になったフローラはぶっきらぼうに糞野郎に向かって質問した。

つまり、次はお前の番だという意味を突き付けた事になる。

 

 

「…ジテ……ゴロジテ…」

 

 

なんとか声が出せるようになったジークは死を懇願した。

少なくとも死ぬ前にあのような拷問など受けたくなかったからだ。

 

 

「え?あれが拷問?違うわよ。ライリーに運ばせる為に消毒しただけよ」

 

 

負の感情を“声”として聴く能力があるフローラは、ジークの“声”を聴いて困惑した。

むしろ、黒髪の美少女の下半身をじっくり見れて実は興奮していたのでは…とまで考えていた。

なのに勝手に拷問扱いされた挙句、【エルディアの悪魔】呼ばわりされてご立腹だ!

 

 

「まさか()()()()で拷問だと思ったの?頭をカチ割って脳を弄る作業ですら小手調べなのに…」

 

 

フローラは巨人化能力者の肉体再生能力を過大評価している。

脳を大きく損傷しても、うなじさえ無事ならばすぐに復活できると思っていた。

だから触れた肉が文字通り溶ける高熱の刃で徹底的に大腸と膀胱を焼いて塞いだのだ。

 

 

「ああ、拷問好きの方でしたか。世の中にはそういう性癖の殿方も居るかもしれませんわね」

 

 

フローラは、ザックレー総統が作った()()に本気でドン引きした。

ただ、人にはそれぞれの個性があり、芸術というのは、判断基準など存在しない。

作者が芸術と言い張れば、それは芸術作品として認知されなければならない。

これも時代を変える多様性か…と考えたフローラは素直にザックレー総統の芸術を受け入れた。

 

 

「じゃあ、お望み通りに私でもドン引きする拷問をしてあげますわね」

 

 

いつの間にかザックレー総統の芸術作りを手伝っていたフローラは暗に語る。

口だけ偉そうで内戦を唆したが内心は臆病だった貴族を芸術にする工程で作り出した秘儀!

【人生最大の絶望を被験者に遭わせるRTA】に必須となる8つのテクニックをやるつもりだ!

もちろん、あれだけ「拷問」「拷問」ってうるさいので一度にやるのは確定していた。

 

 

「……時間切れか…残念ですわ」

 

 

いざ、ジークという名らしい男に絶望を味わう拷問RTAをやろうとした彼女は行動を中断した。

息を切らして疲労困憊のリヴァイ兵士長に叱る労力を割いてもらいたくなかったからだ。

 

 

「ハァハァハァハァ……」

「リヴァイ兵士長、さきほど四足歩行の巨人を討伐し、獣の巨人の能力者を確保いたしましたわ」

 

 

先にピークと呼ばれた達磨状態の女を指差した後、ジークが居る場所に指を指した。

それを聴いて安心したのか、呼吸を整えるように彼は歩き回り始めた。

その隙にフローラは、さきほど壁上で準備をした拳銃を取りに行く為にライリーを口笛で呼ぶ。

 

 

「よう、糞野郎。また逢ったな。さっきと違って腰抜けになったな?オイ?」

「んぐー!!でぃばぁあい!!」

「ん?何言ってんだこいつ?」

 

 

必死にジークは、リヴァイに彼女の蛮行を伝えようとした。

 

 

「でぃばああいい!!ああいいつっうはあああ!!」

「うるせえ!」

「むがああああああああああ!!?」

 

 

しかし、さきほどまで焦っていたリヴァイから見ると、命乞いをしている様にしか感じなかった。

なので思いっきり憎たらしい顔面を全力で蹴っ飛ばして、歯を6本ほどへし折ってみせた。

 

 

「汚ぇ悲鳴を聴かせるくらいなら寝ておけ。てめぇは絶対に俺が殺す…」

 

 

この日、ジーク・イェーガーは分からされた。

自分を瞬殺できる奴がフローラ以外にも居るという恐怖を…。

【脅威の子】という異名ですら…ここでは、ただの巨人の餌としか思われない屈辱を…。

【メスガキ分からせ】だったら、同じ性癖の者同士たちでこっそりと愛を語る事はできる。

しかし、【ジーク分からせ】は、誰が欲情するのだろうか。

思わず弄りたくなるナイスガイの【ライナー曇らせ】と違って髭面の糞野郎の曇らせなんて…。

 

 

もおおおはめだぁああ!!(もうダメだあああ!!)おひぃまひぃだぁああ!!(おしまいだアアアアァ!!)

 

 

なお、ジークは知らなかった。

更に自分がボコボコにされて生まれて来た事を後悔する羽目になるとは…。

 

 

『本気でうるさいな…』

 

 

リヴァイ兵士長は、エルヴィンにこいつを必ず仕留めると約束している。

だが、あまりにも悲鳴が凄惨過ぎて少しだけ同情しつつある。

暴力で気絶させて巨人に喰われる苦痛を少しでも与えない様にしようかと考えていた。

 

 

「オイ、てめぇ…何をする気だ?」

 

 

ところが、フローラが拳銃をジークに向けた光景を目撃した時、さすがに止めようとした。

投石から生き延びた負傷兵が居るならそいつを巨人にしてこいつを喰わせようと思ったからだ。

 

 

「ご安心ください。激痛で黙らせるだけですわー」

 

 

自分の顔を見て怯えているジークを目撃したフローラは、リヴァイの質問に笑って答えた。

そして銃口を彼の股間に向けて引き金を引いた。

乾いた音と共に専用の銃弾がジーク・イェーガーの股間に生えている器官に命中する。

確かに痛くて黙らさせる威力があるかもしれないが、この銃弾はフローラらしい一工夫があった。

 

 

むぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 

突然、ジークは言葉にできない激痛が迸り、この世に存在するものとは思えない絶叫をする。

直後、顔面が蒼白となり吐き気と腹痛に襲われてしまい、それ以降に言葉を発しなくなった。

脳を銃撃されて痙攣するピークの後を追う様にジークも痙攣をするだけの物体になった。

 

 

「…何をした?」

 

 

どうせ碌でもない兵器だったんだろうと思ったリヴァイはフローラに質問をする。

彼がフローラに怒らないのは、自分の失態の尻拭いをしてくれた彼女に感謝しているからだ。

 

 

「リヴァイ兵士長は、尿管結石(にょうかんけっせき)という病名はご存じでしょうか?」

「いや、知らん」

「分かりやすくお伝えしますと膀胱(ぼうこう)に繋がる尿道に石みたいな物質が詰まる病気となります」

 

 

フローラは語る。

ジークの股間に撃った銃弾の正体を…。

 

 

「わたくしは負傷によって一時的ですが、尿管結石と同じ症状になった事がありますわ。尿管って甘く見がちですが、そこが詰まると死ぬほど痛いのですよ。いや、本当に…だから香辛料を塗った散弾でその症状を思う存分に味わってもらおうとしましたの」

 

 

フローラは立体機動の事故で尿管結石と同じ症状になってしまった。

そのせいで本気で苦しんで…苦しんで誰にもこの苦しさを味わってもらいたくないと思った。

逆に言えば、ムカつく敵ならば進んでその症状で苦しんで欲しいと本気で思っている。

なので特製の香辛料と1μm未満になる散弾を組み合わせて擬似的な尿管結石を味わえる様にした。

 

 

『拷問のよる絶望の極意、その1。一生続く激痛の体験を味わせてから種晴らしをする事…』

 

 

ぶっちゃけ脳死になったピークよりジークは激痛を味わっている。

「生まれてきてごめんなさい」という感情しか考えられないほどに激痛で苦しんだ。

その様子を目撃したフローラは思わず両手を合わせて頬擦りしてしまうほど満悦した。

 

 

「……一体、あいつに何があった?」

「ヒヒン?」

 

 

リヴァイ兵士長と汗血馬のライリーは顔を見合わせてフローラの異常さを共に再認識した。

 

 

『なんでこんな事にぃいいいいいいいい!!』

 

 

そしてジークは、この痛みが自然に完治する事は無く半年以上も続く麻酔無しの手術で苦しむ。

尿管結石に苦しみ続けた結果、肉体がそれが正常だと判断してしまったからだ。

その原因になったのは、尿道に入った破片が異物と肉体に判定されなくなったのが大きい。

巨人化する度に小便や大便まで再生しないが、持病の悪性腫瘍は再生されると同じ理屈である。

 

 

『殺して!!ごろじでええええ!!もうやだあああああああ!!』

 

 

つまり、散弾を手術で取り除いても、肉体が同様の悪性腫瘍を永遠に作り出す事となったのだ。

だっていつまでも肉体にあるという事は、肉体の一部だとジークの肉体が判断したからだ。

まさか巨人化能力者特有の肉体再生で尿管結石まで再現されるとは夢にも思うまい。

 

 

『父さん!!早く逢いたいよ!!母さん!!なんで俺を産んだんだあああああ!!』

 

 

なので麻酔代が勿体ないと判断したマーレ軍上層部によって麻酔をせずに手術を続けられた。

毎日、麻酔無しの手術を20回以上、半年も続く闘病生活を送る羽目になるジークは絶望した。

この経験からジークは、反出産主義に思考が繋がる事となるほどにこの世に絶望した。

それが誰よりも人の絶望を知り尽くしたフローラ・エリクシアの最初の一手(レベル1の拷問)であった。

 

 

『うるさいわね…』

 

 

なお、さすがに目の前の糞野郎がそんな末路になるとはフローラも想像してなかった。

それどころか、負の感情を“声”として聴ける能力のせいで本気で頭が痛くてしょうがない。

自分すらドン引きする虐待(レベル100の拷問)をしてやろうかと思ったくらいだ。

もちろん、【尿管結石の無限自動再生による拷問】より酷い目に遭うのは言うまでもないだろう。

 

 

『巨人の数を数えられないじゃない…』

 

 

2発のポリ窒素炸裂弾頭で大半の異形の巨人を討伐した。

しかし、5体の異形の巨人が肉体を再生しながらこっちに向かって来ていた。

そして、いきなり奇行種に切り替わった3体の異形の巨人が、あらぬ方向に向かって走り出した。

なので巨人の向かう方向を“うめき声”で特定しようとした彼女は、ジークの絶叫で集中できない。

自業自得と言えるが、先に自分たちに向かって来る異形の巨人を討伐しようと考えた。

 

 

「リヴァイ兵士長、報告致しますわ」

「どうした?」

「獣の巨人を取り返そうとする変異種が5体、こちらに向かって来ております」

「そうか、ならやる事は1つだ」

 

 

人類最強の男は、人類最凶の女に向き合って無言で頷いた。

徐々に地面が揺れ出して目の前に褐色の肌の巨人たちが見えた。

まるでジークを助けに来た異形の巨人たちの群れと彼らは戦う羽目になったのだ。

 

 

『でも、1つ気になる事があるわ…』

 

 

そんな絶望…いや絶望の感情を知らないフローラは、1つ気になった事がある。

50mの壁の上で2度と逢えないはずだと思っていた知り合いを“声”として聴いたのだ。

さすがに幻聴だと考えた彼女は、地獄の業火を纏う双剣を構えて異形の巨人の群れに備えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。