進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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134話 ミカサ&ハンネスVS覚醒ベルトルト

ベルトルト・フーバーという男は、自分の意志がほとんど無かった。

誰かに命じられた通りに忠実に動く事しかできない指示待ち人間だった。

逆に言えば、私情で行動する事が無いので超大型巨人を継承する事となった。

 

 

「前から思っていたがもう我慢できないね。君は、もう少し愛想をよくしたらどうかな?」

「うるせぇ!ナルシスト野郎!そんなの俺の勝手だろうが!」

 

 

男爵家のご子息デント・アクアとキニスン・カイザーリングが些細な事で喧嘩していた。

同じ104期訓練兵とはいえ、どうしても些細な事で喧嘩してしまう事がある。

 

 

「ね…ねえ、ちょっと2人共…その辺でやめておこうよ」

「君こそ何の真似かね?発言したい事があれば声を出すべきだ」「うるせぇノッポ野郎!!」

「ええっ!?」

 

 

蚊の羽音かと思えるほどの声量で話しかけたせいで逆にベルトルトは2人から怒られた。

とりあえず怒られたので謝ろうとした時にライナーがやって来る。

すぐに何があったか理解したライナーはすぐさま喧嘩を仲裁した。

 

 

「お前ら、何をやってんだ!これから兵士になる奴がつまらん事で喧嘩してどうする!」

「ああ、ライナー。確かに君の言う通りだ。この行為は兵士らしくなかったね」

「そういえば次の実技担当は、シャーディス教官とデュヴァリエ教官だったな…感謝するぜ」

 

 

力強い言葉だが、どこか優しさがあるライナーの叱責を受けた2人は喧嘩をやめた。

組織として動く兵士になる為に訓練を励む彼らは、兵士としての自覚が無い事に気付いたのだ。

それにこれ以上喧嘩すれば、めちゃくちゃ怖い教官たちに懲罰を受けると理解したのもある。

 

 

「さすが、ライナー……ありがとう。困っていたんだ」

 

 

ベルトルトは、自分と違って心身共に強くなったライナーに感謝の言葉を告げる。

 

 

「ベルトルト、お前は兵士としての実力があるのに喧嘩1つ仲裁できずにどうするんだ」

「ははは…そうだね」

「俺たちはいつか、一緒に故郷に帰るんだろ……こんな調子でどうする…」

 

 

ライナーからすれば、これからが大変なのに…たかが喧嘩1つでビビっている彼が情けなかった。

戦士候補生時代の方が遥かに立派な戦士に見えていたのにと…遠回しに彼を激励して去った。

 

 

「そ、そんな…」

 

 

ベルトルトは同じ戦士から失望されたと勘違いして落ち込んだ。

 

 

「いや、ライナーに言われて当然だ。自分でも臆病なのは分かっているんだ…」

 

 

アニとの恋の進展も白紙状態だった彼はとにかく自分が変わらないといけないと考えた。

しかし、どうやったら変われるか悩んだが…。

 

 

「ですわ♪ですわ♪ですですわ~♪」

 

 

すぐ傍で呑気で歌いながら歩いているフローラを見て彼女の生き方が羨ましく思えた。

 

 

「ねえフローラ、お願いがあるんだけど……」

「ですわ!?…ああっ、びっくりした!?」

「ごめん」

 

 

なので彼女の気分を限界まで壊さない様に忍び足で寄ったベルトルトは耳元で話しかけた。

さすがにベルトルトの行動が理解できなかったフローラは驚愕したがすぐに気を取り直した。

 

 

「で?何か用かしら?」

「僕がもっと自信がつけられるよう、力を貸してくれないかな」

「かまわないわ」

「ありがとう、恩に着るよ」

 

 

アニやライナーと仲良くやっていたフローラはベルトルトとも仲が良かった。

彼の性格を熟知している彼女は、あっさりとベルトルトの提案を受け入れた。

 

 

「面倒な事を頼んでごめん……。どうか、よろしくね」

「ねえ、ベルトルト。その一言を加えるから弱く見えるのよ」

「あ、ああ…うん、そうだね」

 

 

フローラのツッコミを受けてベルトルトは恥ずかしそうに頭を掻いた。

そして彼女に引っ張られる形で訓練地に向かって巨人の模型の前に辿り着いた。

 

 

「自信をつけるなら腹から声を出すべきよ。特に下を向いていたら意味はないわ」

「なるほど…度胸を付ける為、この模型に向かって思っている事を大声で話せばいいんだね」

「その通りよ、この時間帯なら誰もここに近寄らないから大声を出すなら今の内ね」

 

 

フローラは、目の前の巨人の模型に向かって大声を出せと指示した。

身長が高いせいとはいえ、いつも俯いて喋っていると自覚している彼はその訓練を受け入れた。

 

 

「でも、フローラ……急に言われても一体、何を言えばいいんだろう……」

「取り戻したい故郷…いえ、帰りたい故郷があるんでしょ!そんな願望を叫ぶといいわ!」

 

 

フローラは、アニとベルトルトとライナーが同じ故郷から来た事しか知らなかった。

だからあえて故郷を意識させたが、ベルトルトは帰る目的を思い出した。

 

 

「そ、そうだった…僕は……!帰れなくなった故郷に!いつか帰るんだ!!」

 

 

座標を入手した暁には、故郷に帰って家族と再会するんだ!

そう思ったベルトルトは過去で一番大声を出したと実感した。

 

 

「こんな感じがいいのかな?…でも大声を出すと少しだけ自身が湧いてくるみたいだ」

「うん、その調子で少しずつ度胸をつけましょう。あなたはできる男なんだから」

 

 

少しだけ男前になったベルトルトを見て嬉しそうにフローラは笑った。

 

 

「もう一回やってもいいかな?」

「いいけど、私は入り口を見張ってるわ」

「なんで?」

「巨人の模型に向かって大声で叫ぶ行為を他の誰かに見られたいの?」

「あっ、そうだね。じゃあ、頼んだよ」

「任せておいて!」

 

 

フローラは相談相手の気配りとフォローを忘れなかった。

だからベルトルトは、自分の悩みを解決しようと思った時は、彼女に頼った。

 

 

「フローラ!アニに嫌われちゃったよ!!どうしよう!?」

「落ち着きなさい、まずどんな時に話しかけたの?」

 

 

次にフローラに頼った時は、アニの口から絶交を言い渡された時だった。

前から嫌われているのを知っていたが、口で拒絶されたベルトルトはパニックに陥った。

相談相手のフローラは、まずなんでそこまで関係が悪化したか探ろうと試みた。

 

 

「……ああ、うん。手遅れね」

「どどど、ど、どうしよう!?」

 

 

デリカシーの無いライナーと一緒につるんだせいで完全にアニに嫌われた事が発覚した。

この時点で戦士隊の絆が完全に破綻しかけており、アニは裏切る寸前まで追い詰められていた。

そんな事情まで把握できなかったが、フローラは激怒したアニと接触させるのは危険と判断した。

 

 

「アニの中ではベルトルトという存在すら認識したくないみたいね」

「ど、どぉ、どうしよう!?どうすればいいんだ!?」

「まず兵舎の掃除を自発的に取り組む…それだけをやっていれば良いんじゃない?」

「でもアニは…」

「彼女からの印象を変えたいなら、自分から変わらないと!ほら実践あるのみよ!」

 

 

ライナーがアニに嫌われていたのは知っていたが、ベルトルトも大概だった。

彼女が苦労しているのを知ってる癖に放置した挙句、疲れている時に限って声をかける。

これでは逆効果なのは、誰が見ても明らかだったし、その一線すら超えてしまったのだ。

 

 

『全く…乙女心は繊細なのよ、まあ、アニと仲直りできる様に尽力しますけど…』

 

 

おかげさまでフローラは、アニとライナー&ベルトルトの仲立ちをやる羽目になった。

それはともかく自発的に掃除を継続していくとアニからベルトルトに話しかけて来た。

 

 

「フローラ!アニと話せた!アニが自発的に話しかけてきたよ!」

「よかったじゃない!イライラする男から清掃人にランクアップしたわね」

 

 

この頃になるとライナーが自分の行動を反省したおかげでなんとか関係を取り持つ事ができた。

そんな事情を知らずにアニが自分に話しかけて来たのを実感したベルトルトは喜んだ。

苦労した甲斐があって再び同じ故郷同士が仲良くなれたのを感じたフローラも喜んだ。

こうしてフローラとベルトルトの関係は、訓練兵団を卒業しても続く事になった。

 

 

「でもね!アニの好物が分かったの!」

「え?」

「甘い物が大好きみたいでね!ドーナツを見て目を輝かせていたのよ」

 

 

何度も彼女と相談していたベルトルトは、ある日、衝撃的な情報を入手した。

アニが甘党だという事をフローラは話してくれたのだ。

しかも、ドーナツというお菓子まで教えてくれたので行動に移しやすくなった。

 

 

『ありがとうフローラ…』

 

 

ベルトルトは、異性で最も仲が良いフローラといつまでも過ごせる気がした。

自分から正体をバラしたあの日までは…。

 

 

「酷いじゃないか…僕たちは仲間だったじゃないか」

()()()からでしょ?今は違う…でしょ!!」

 

 

夕日が辺りを赤く照らす頃にベルトルトとフローラは一騎打ちで殺し合いをしていた。

地に落ちる夕日を反射する煌めく刃が友情の関係を終わらせる様に何度も刃が唸って激突した。

 

 

『なんでだ?なんでフローラはこんなに強いんだ?』

 

 

お互いに文字通り必殺の一撃を繰り出している中でベルトルトはフローラの強さに疑問に思った。

あれほど仲良くしてきたのなら…少しくらいは動きが躊躇っても可笑しくないはずだった。

しかし、フローラは卓越した戦闘技能を発揮し、力を出し切れないベルトルトを圧倒した。

 

 

『なんでだ?なんで!?』

 

 

彼女との戦闘で操作装置を繋ぐケーブルとガスボンベが破損し、事実上ベルトルトは敗北した。

自分に迫って来る巨人に必死で逃げる最中でも、フローラの強さが羨ましかった。

彼女と一緒に訓練して精神が成長したはずなのに…何かが彼女と致命的に違ったと実感した。

すぐにその答えは見つかった。

 

 

「フローラ!休戦にしないか?」

「ふざけないでよ!あとちょっとで殺せるのよ!!」

「ここは双方とも退いた方がメリットがある」

「戯言を!!」

 

 

近くに居た巨人の掃討を終えたフローラは、ベルトルトと刺し違えるつもりだった。

だが、自分じゃ彼女に勝てないと悟ったベルトルトは、休戦を提案して戦闘を避けようとした。

このまま一方的な殺戮が発生しようとした時、フローラの愛馬が彼女の行動を妨害した。

その結果、フローラは休戦に賛同し、その日においては襲って来る事は無かった。

 

 

『ああ、分かったよ』

 

 

あれほど殺したかったライナーを見逃した理由も、彼女の強さもベルトルトは理解した。

 

 

『迷わずに行動する事…それが君の強さだったんだね…』

 

 

目的が達成できる直前で挑戦者がそれを諦める事はまずない。

だが、彼女自身は何をやりたいか明確化し、目的が達成できないなら退き下がる事ができた。

それは自分の行動に迷いがあると絶対に達成できない事であった。

 

 

『僕も迷いを捨てるよ。君がそう教えてくれたんだから…』

 

 

アニに片思いしていたベルトルトは、彼女と仲良くできるフローラに嫉妬すらあった。

だが、フローラのおかげで学べた事は、ライナーの腰巾着から一人前の戦士として成長させた。

フローラの長所と戦術を継承したベルトルトは、もはや以前の彼ではない。

 

 

「ジーク戦士長、この城塞都市に籠った兵士は僕が皆殺しにします」

 

 

調査兵団がシガンシナ区に到着する1時間前、ベルトルトは衝撃的な発言をした。

 

 

「おまっ…」

 

 

コーヒーを飲んでいたライナー・ブラウンは相棒の正気を疑った。

明らかに彼が発言する事ではなく偽者かと思ったほどだった。

 

 

「オイオイ、目標を忘れるなよ。座標を奪還する事が優先だ。兵士の殲滅(せんめつ)は後で良い」

 

 

フローラにいろんな意味でボコボコにされたジークはさっさと祖国に帰還したかった。

だからベルトルトの意見を一蹴し、やるべき事を示した。

 

 

「僕は、次世代の戦士たちに同じ目に遭ってもらいたくないだけです」

「それは俺も同感だ」

 

 

ベルトルトの意見に賛同したジークは、少しだけ違和感を覚えた。

 

 

「お前、アニちゃんの事を言わないな?何があった?」

 

 

ベルトルト・フーバーがアニ・レオンハートに片思いしているのは誰もが知っていた。

モジモジとして遠くから彼女を眺めたり、何度もチラチラ見ているなら誰もが気付く。

ところが、この場に居るベルトルトは歴戦の猛者で腹が据わっている様に見えた。

 

 

「同期の女のおかげで僕は迷いを捨てました。もう僕は後悔しません」

 

 

鞘から刃を取り出して焚火の光に煌めく刃を反射させた彼の目は本気だった。

 

 

「あ、ああ…そいつは結構だ。ここで決着をつけて我々の使命を果たそうじゃないか」

 

 

フローラ・エリクシアの本性に誰よりも近づいたベルトルトは笑っていた。

不要な物は全部斬り捨てる様な視線をジーク戦士長に見せながら…。

彼の変わりっぷりに動揺したジークは、さっさとこの話題を終わらせようする。

 

 

「「了解!!」」

 

 

ジーク戦士長の宣言に返答をした2人は、注がれたコーヒーを飲み干して作戦に移った。

そしてその10分後、壁上で走るライナーは後続にいるベルトルトに話しかけた。

 

 

「なあ、俺はお前の事を甘く見ていた」

「そうかな、僕はまだライナーの決断力に敵わないと思うんだけど…」

「その返答が出る時点でお前は強い。ああ、そうさ。本当に強くなったな…」

 

 

戦士候補生時代では落ちこぼれだったライナーは、いつからかベルトルトを下に見る様になった。

いつまでも指示待ち人間で自分から何かしようとしない彼を無自覚で見下していたのだ。

しかし、さきほどの覚悟はライナーは素直に感嘆とし、彼の覚悟を見習いたいと思った。

 

 

「そうさ、ここで勝って負の連鎖を終わらせてやる」

「そうか…」

 

 

ベルトルトは才能の塊だったが、彼の性格が本領を発揮させなかった。

だから兵士になる為に努力を続けたライナーは彼を実力で追い越したと思い込んでいた。

 

 

「その調子で…愛しのアニの元まで踏ん張ろうぜ」

「ライナーもクリスタを救うんだろ?お互い頑張ろう!」

「そうだな」

 

 

フローラのおかげで迷いを捨てられたベルトルトは、ライナーから見ても立派な戦士に見える。

あっという間に自分を乗り越えてしまった相棒の成長をライナーは心から喜んだ。

 

 

「じゃあな、頼んだぞ相棒!」

 

 

ライナーは後方を警戒していた相棒の背中に左拳を当てた。

これ以上の発言は不要だった。

 

 

「任せろ」

 

 

ベルトルトも左拳をライナーの背中に力強く当てて角灯を持って配置についた。

例えライナーが戦死しても、ベルトルトの動きが鈍る事は無い。

 

 

-----

 

 

敵と対面しながら笑っているベルトルトは戦闘で本性を見せたフローラの影響を強く受けている。

さっきと変わって無表情になった彼は駆け出して命の恩人に向かって双剣を左下から切り上げた。

それを間一髪、回避したハンネスは右手で彼の胴体を向かって刃を突き出した!

 

 

「うっ!」

 

 

それを予測したベルトルトは右足を全身の重心を入れて時計回りに双剣と頭を右下に傾ける。

その間に左脚をハンネスの足と絡めてバランスを崩させた上で双剣を左に向かって振り抜いた!

 

 

「この!!」

 

 

ミカサが刃で攻撃を受け止めるが、今度はベルトルトは左脚を軸足にして右脚を踏み込む!

その勢いで時計回りに肉体と共に回転する双剣を時計回りに振り抜いた!

双剣を引くと思わなかったミカサはバランスを崩すが、ハンネスさんを斬らない様に踏ん張った。

そのせいで右から来る双剣に対応できなかった。

 

 

「にゃろ!!」

 

 

今度は右足を前に出したハンネスが右に出した双剣を右下から切り上げて刃を防いだ。

さすがにベテラン兵と同期最強の女を同時に相手をするのは不利だと感じたのだろうか。

ベルトルトは迷うことなくバックステップで距離を取って双剣を構え直した。

 

 

「くっ、全くの別人じゃない…あれがベルトルト!?」

 

 

後退する際にどさくさに紛れて左腕を軽く裂かれたミカサは傷口を抑えながら彼を警戒した。

ハンネスも訓練し直したとはいえ僅かな刃の小競り合いでジャケットの左肩から血が垂れた。

 

 

「ハンネスさん、私があいつをやります。援護をお願いします」

「任せておけ」

 

 

ミカサは、エレンが鎧の巨人に捕獲されない限り、ベルトルトが巨人化しないと判断!

ハンネスに援護を任せて駆け出した!

 

 

「ベルトルト!!」

 

 

アタッカーとタンク役を兼任したミカサはひとまず小手調べで右手を突き出した。

すぐさま左手で持った刃で応戦したベルトルトは、何度かの剣戟を繰り返す。

立体機動で刃を突き出してくるハンネスの攻撃を斬り返し、2人の相手を務めた。

ここでようやくベルトルトが巨人化しないと調査兵たちが気付いたのだろう。

 

 

「数で押せ!!雷槍の使用を許可する」

「「「ハッ!」」」

 

 

ハンネス班の副官であるフィル副班長の指示で兵士たちがベルトルトの襲撃を開始した。

それが彼の思うつぼとは思わずに…。

 

 

「来たか」

 

 

ミカサと鍔迫り合いをしていたベルトルトは微笑んだ。

何事かとミカサはアンカーを撃ち出そうとしたその時!

 

 

「うっ!?」

 

 

顔面に唾を吐かれてミカサは一瞬だけ隙を見せた。

すぐにベルトルトを見るが、特に変わった様子はない。

しかし、閃光が見えたと同時にピリピリと何かが擦り合う音がした。

 

 

「うぁあ!?」

 

 

すぐにミカサは後退するが、ベルトルトは追撃してこなかった。

その代わりに光っている自身の小指の爪先を右手で持っていた刃で斬り捨てた。

ボトリと落下した小指の爪先を左手で拾ったベルトルトは、向かって来る調査兵たちを見る。

 

 

「みんな!!逃げて!!」

 

 

巨人化する兆候を確認したミカサは、迫って来る兵士たちに避難を呼びかけたが遅かった。

拾った小指を空中に放り投げて右手で持った刃で迫ってくる調査兵に向かって叩きつけた。

 

 

「ん?」

 

 

何かが飛んできたと感じたが、もう回避できなかった。

小指の爪先が巨人化すると同時に大爆発を引き起こす。

更に雷槍の爆薬に引火して誘爆した!

 

 

「ベルトルト!!」

 

 

すぐに殺そうとしたミカサだったが、足元にベルトルトが残した薬指がある事に気付いた。

慌てて後退して距離を取った瞬間、爆発し、超大型巨人の爪先が目の前に出現した。

 

 

『そんな…』

 

 

調査兵の大半は、巨人の肉体の一部だけが巨人化する事を想定してなかった。

元より超大型巨人の上半身だけ巨人化できるベルトルトは更に技能を磨き上げた。

そのきっかけは、またしても頭進撃娘の影響だ。

 

 

『やっぱり僕はフローラに影響を受け過ぎているな…』

 

 

以前、フローラはエレンの巨人化実験に付き合った結果、爆発に巻き込まれた。

彼の心配をして傷口に触れた瞬間、右手だけを巨人化した影響でぶっ飛んだのだ。

仕方なく彼女は頑張ってエレンを守るとしたらハンジ分隊長に放り投げられた。

そのせいで2度も頭を打ったとベルトルトに愚痴っていたのだ。

 

 

「普通、そこで死んでない?」

「わたくしは鎧の巨人を討伐するまで死にませんわよ」

「そうだったね…」

 

 

当時はフローラの頑丈さに呆れていたが、これがベルトルトに影響を与えた。

つまり、巨人化する際にその部位を切り離せば投擲できる爆弾になるのではないかと思ったのだ。

ユトピア区防衛戦で散々な目に遭った彼は、全身爆弾人間の利点を悪用し始めた。

 

 

「くっ、厄介!!」

 

 

迂闊に彼に近寄ると爆発に巻き込まれると知ったミカサは動けなくなった。

幸いにも目の前の爆炎が自分の姿を隠してくれたので対策を考えていた。

 

 

「うっ!?」

 

 

そしたら爆炎の中からベルトルトが飛び出してきてミカサに斬り掛かった!

なんとか彼女は振り下ろされた刃を双剣で受け止めるが、ぼとりと彼の爪先が落ちた。

 

 

「ミカサァ!!」

 

 

大声を出してミカサに抱き着いたハンネスはそのまま屋根から落下した。

声で反応したベルトルトは、その隙のせいで爆発に巻き込まれると判断し、追撃をしなかった。

 

 

「ぐえっ!?」

「あうっ!?」

 

 

近くにあった布製の屋台の天井で一時的に衝撃を殺してから布ごと地面に落下した。

2人は激痛に見悶えるが、上では大爆発が発生したので九死に一生を得る事となった。

 

 

「くたばれ巨人野郎!!」

 

 

味方を殺されてオルオ以上に口が悪くなったペトラ・ラルがベルトルトを強襲する!

すぐにオルオが援護に回り、ベルトルトと交戦するが、2人がかりでベルトルトに押された。

 

 

「まだだ!」

「あんたは私たちが仕留める!」

 

 

オルオが敵の目の前に出てペトラが後方に回れば立体機動で回転斬りをされて包囲を脱出され!

ペトラが刃を投擲したと同時にオルオが死角から奇襲しても、あっさりと刃を弾かれた。

 

 

『キリがないな……』

 

 

さすがに連戦で疲弊して肩で息をするベルトルトは奥の手を使う事にした。

 

 

「なっ!」

「嘘!?」

 

 

ベルトルトは全身を光らせて超大型巨人に変身しようとした。

それを目撃したペトラは叫ぶ!

 

 

「総員退避!!退避!!」

 

 

さすがに死ぬ気は無かったペトラは同じ考えだったオルオと一緒に敵前逃亡した。

兵士たちも大慌てで雷槍を捨てて少しでも身軽にして逃げ出した。

 

 

「なんてね」

 

 

超大型巨人は巨人化すると大爆発を発生させる。

継承者によっては爆発の規模を抑えたり、特定の部位だけを大爆発させる事も出来る。

歴代で最強の超大型巨人の継承者であるベルトルトは、巨人化を全身から指先に変更した。

さすがに規模から小指を1本捨てる羽目になったが、大半の爆発をキャンセルする事ができた。

 

 

「うわああああ!!」

「いやあああ!!」

「もうダメだ!!」

 

 

逃げきれないと判断した調査兵たちは民家に隠れたり地面に伏せて頭を両手で抑えたりした。

なのでベルトルトは安心して調査兵の死体からガスボンベや刃を拝借した。

 

 

「……え?」

 

 

いつまで経っても爆発が起こらなかったので1人の女調査兵は勇気を出して壁から頭を出した。

もちろん、時間差の大爆発に巻き込まれて即死した。

爆発の規模が調整できるなら爆発する時間も調整できるという事だ。

まんまと調査兵団を混乱に陥れたベルトルトは、見晴らしの良い時計塔に辿り着いた。

 

 

「…まだエレンを捕まえられないのか?」

 

 

時計塔から見下ろすと未だに鎧の巨人が戦闘を行なっており、ベルトルトは本気で呆れた。

それどころか、新型兵器で苦戦してボロボロになった巨人体をライナーは捨てた。

ベルトルトが巨人化しないと確信しているのか暢気に立体機動をしていた。

そしたら兵士に包囲されて必死に逃げ回っている有様に希望を抱くのは難しかった。

 

 

「時間切れだよライナー、せいぜい生き残ってくれよ」

 

 

業を煮やしたベルトルトは、エレンなら後方に展開したと考えて相棒を切り捨てた。

超大型巨人になろうとした瞬間、見覚えがある兵士を発見した。

 

 

「まあ、いいか」

 

 

命の恩人がこっちに向かってやってくるのを目撃したベルトルトは笑った。

少なくとも彼は苦痛を受けずに死ぬ事ができるのに安堵したのだ。

 

 

「ッ!?伏兵か!?……ぐっ!?」

 

 

物音がしてベルトルトは立体機動に移ったが、油断しきったせいで逃げきれなかった。

発砲音と共に放たれた散弾が時計塔を崩壊させてその瓦礫の一部がベルトルトの背中に刺さった。

 

 

「今だ!!」

 

 

対人立体機動部隊の副長だったカーフェンは、ミケ副団長の要請で動いた。

見晴らしの良い時計塔にベルトルトが来るのを予想して潜伏していたのだ。

そして隙を見て散弾をぶっ放してその場を去った。

すぐにベルトルトは彼女を追いかけようとしたが、ハンネスによって腹を刃で刺された!

 

 

「うおおおおおおお!!逃げろ!!」

 

 

それで終わらない事を知っているハンネスは急いで立体機動で逃亡した。

幸いにも不意打ちのせいでベルトルトはすぐに立体機動ができなかった。

辛うじて時計塔を支えていた建物にアンカーを刺してぶら下がって地面との激突を防いだ。

 

 

「僕を舐めるな!!舐めるなよぉ!!悪魔の末裔が!!」

 

 

アンカーを解除して着地したベルトルトは口から血を吐きながら激高した!

巨人化する際に邪魔な刃を両手で掴んだ彼は力強く引っ張った。

だが、すぐに抜けずに再度、怒りに任せて引っ張って何とか刃を抜いて投げ捨てた。

刃が抜けた瞬間、血が噴き出して負傷者を出血死に導こうとするが、既に彼の全身が光っていた。

 

 

『死ね』

 

 

ベルトルトの殺意に応えるようにシガンシナ区の中央に超大型巨人が地上に降臨した!

その際の大爆発で周囲にあった物全てをこの世から抹消し、爆風が無事だった物を粉砕する!

木材や地面にあった水分が蒸発してキノコ雲を作り出した。

それは内門にいた調査兵団本隊はおろか遠くに居た獣の巨人からも見えた。

 

 

『そんなに僕を怒らせて鏖殺(おうさつ)されたいなら徹底的にやってやるよ!!』

 

 

ようやく超大型巨人をお披露目したベルトルトだったが、彼の最盛期はここで終わった。

 

 

「撃て」

「「「ハッ!!」」」

 

 

ようやく対人立体機動部隊のカノン砲部隊が仕事をした。

超大型巨人は両膝裏を砲撃されてしまい、いとも簡単に跡形もなく粉砕された。

フローラによって元より鎧の巨人を粉砕する砲弾にポリ窒素を加えたのだから当然と言えよう。

下半身を喪失した超大型巨人の胴体は、前のめりになって地面に落下しようとする。

 

 

「ええええええええ!?なんで!!?」

 

 

さすがに超大型巨人が30秒も経たずに瞬殺されるとは思わなかったベルトルトは絶叫した!

ぶっちゃけ巨人化したら負ける未来しかなかった事に気付かなかったのが彼の運の尽きだった。

 

 

「なんですぐに砲撃しなかった!?」

「お前らが作戦を主導したからだろうが!!」

 

 

カノン砲部隊の兵士と調査兵は勝ちを確信して口喧嘩をしている有様だった。

当然、事前に砲兵部隊は条件を出していたので被害が拡大したのは調査兵団に非がある。

だが、彼らが柔軟な行動をしなかったせいで犠牲者を出した調査兵の怒りは収まらない。

その一方で爆風でぶっ飛ばされたライナーは何とか気力で立ち上がった。

 

 

「え?ベルトルト!?」

 

 

そこで見たのは、絶望的な光景だった。

未だに人類が攻略できなかった60m級の巨人がうつ伏せて倒れていたのだ。

あっさりと超大型巨人が瞬殺された事で負けが確定したと彼は悟った。

 

 

〈ウォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!〉

 

 

そうとは知らずに獣の巨人は咆哮を繰り出して異形の巨人を50体出現させた。

その証拠に咆哮のすぐ後に連発爆音が彼らの誕生を祝っていた。

 

 

「戦士長!!違うんです!!」

 

 

絶対に声が届くわけがないのにライナーは叫んだ。

 

 

「いたぞ!!そこだ!!」

 

 

そのせいで敵兵に発見されたライナーは再び左手を短剣で切った。

すぐに爆発と共に鎧の巨人が爆誕した。

 

 

『こうなったら誰かを人質に取って…!』

 

 

ライナーは最後の足掻きに声がした方を見た。

そこには、爆発する鉄槍みたいな物を持って走る兵士が居た。

彼を人質にして不利な戦況を打開しようと右腕を伸ばしながら鎧の巨人は走った。

 

 

「右腕を撃て」

「了解」

 

 

対鎧の巨人用ライフル銃で右腕を狙撃されてあっさりと右腕が取れた。

 

 

「え?」

 

 

雷槍の雨を耐えた装甲があっさりと貫通したのを目撃したライナーは…。

 

 

『ははん、これは悪夢だな!』

 

 

痛みを感じているのに悪夢を見ていると思い込んだ。

だが、現実逃避したところで現実そのものは変わらない。

 

 

「ほぎゃああああああああああああほげええ!?」

 

 

暢気に棒立ちしていた胴体に砲撃されて鎧の巨人は大爆発を起こして粉砕された。

うなじから宙に向かって飛び出した哀れなライナーは重力に基づいて地面に激突した。

 

 

「殺せ」

「ハッ!」

 

 

止めと言わんばかりに対人立体機動部隊の兵士は自動小銃をぶっ放した。

これはフローラが開発したエースバレルという自動小銃であった。

しかし、レイス領の礼拝堂地下空間で立体機動をすると弾詰まりをするという欠点が発覚。

どうせ破棄するならと巨人化能力者に向かってぶっ放す在庫処分行きとなっていた。

 

 

「待ってくれ!!発砲を止めてくれ!!」

 

 

ここでジャンが大声を出して制止したが、対人立体機動部隊の兵士は銃撃を止めなかった。

それどころか予備のマガジンを装填して更に巨人化能力者に弾丸を撃ち込もうとした。

 

 

「ストップ!!ストップだよ!!」

「攻撃を中止してください!!中止して!!」

 

 

ここでハンジ分隊長が横たわるライナーを庇う様に胴体でスライディングした。

更にサシャが両腕を伸ばして自分をアピールした。

 

 

「調査兵団!!死にたいのか!!さっさとそこを退け!!」

「重傷者が出たんだ!!巨人化してこいつを生かしたまま食わせる必要があるんだ!」

「ふざけんな!!射線に飛び出すなんて何を考えてやがる!?」

「だから能力者を生かす必要があるんだ!!」

 

 

さすがに露骨に妨害されたフローラ直属の兵士たちは、調査兵団の兵士たちを罵倒した。

ジャンは彼を生かす価値があると告げるが、彼らは納得できなかった。

 

 

「だったら超大型巨人の能力者を使え!!こいつは始末しろと命じられている」

 

 

鎧の巨人絶対ぶっ殺す女の直属の部下が鎧の巨人の能力者を殺さない訳が無い。

しかも、彼らはフローラから鎧の巨人の能力者を仕留めろと厳命されていた。

なので邪魔する調査兵ごとライナー・ブラウンを撃ち殺そうとした。

 

 

「俺たちは104期調査兵だ!!エレン直属の護衛だ!!」

「104期調査兵?」

 

 

泣きながらコニーは自分の所属している部隊名を報告した。

もしかしたらエレンの名前で銃撃を止めてくれる事を期待したが、ある意味でそれは成功した。

 

 

「104期調査兵ね…」

「ああ……さすがにまずいか」

 

 

表向きは、エルティアナ直属の部隊である彼らは当然、彼女の正体がフローラだと知っている。

なのでフローラが104期調査兵だという事も知っている。

その為、ここで彼らを撃ち殺すと今度は自分たちが彼女にぶっ殺されるのを理解した。

 

 

「チッ、さっさと準備しろ」

「勝手な奴らめ、今度やったら容赦しないからな」

 

 

一旦退き下がった彼らだが、当然の様にフローラに文句を言うつもりだ。

銃口が降ろされたと知ったハンジ及び104期兵はようやくライナーだった物体に向き合った。

 

 

「おい…生きてるか?」

「とりあえず止血しようぜ…」

 

 

ジャンとコニーはとりあえずライナーの止血を開始した。

謎の力でも働いたのか、創造神の寵愛(ちょうあい)があったのか、ライナーの頭と胴体は奇跡的に無事だった。

マジでなんで無事だったのかと104期調査兵たちが長年に渡って議論するくらいに不思議だった。

だが、両腕と両脚は砕け散っており、彼は虫の息であり、戦闘を続行できる状態では無かった。

本人としても、これ以上抵抗する意思は無い。

 

 

()った!」

 

 

同時刻、エレンは超大型の巨人のうなじを削いでベルトルトを取り出した。

超大型巨人になったせいで当分、巨人化できないベルトルトは悟った。

 

 

『僕が巨人化するのを待っていたのか…』

 

 

両腕を切断された彼は情けなく笑った。

 

 

「ははは、クソ……してやられたよ」

 

 

10分足らずで調査兵を28人も殺害したベルトルトは自分の未来を悟った。

ここから逃げ出したとしても、50体による異形の巨人に殺されると…。

 

 

「仇を討ったぞアルミン…みんな…」

 

 

エレンはようやく超大型巨人を討伐して巨人討伐数が2体になったのに喜べなかった。

あれほど超大型巨人を討伐しようと夢見て訓練して夢を達成したのに笑えなかった。

アルミンの容態が悪化した上にリヴァイ兵長の姿が見えないからだ。

 

 

「分かってたさ……お前が勇敢だって事に…」

 

 

誰よりも戦いよりも話し合いを優先したアルミンをエレンは笑わなかった。

だからこそ、早くこいつをアルミンの元に持って行こうとした。

 

 

「ホント、オレは誰かに頼らないと何もできねぇな…」

 

 

長年思い浮かべた決着は、意外とあっさりと済んでしまった。

アルミンの犠牲と引き換えに…。

エレンはこの戦闘で戦死した犠牲者の事を想いながらゆっくりとベルトルトを引き摺った。

その39分後、足を紐で縛られた獣の巨人の能力者は馬に引かれてシガンシナ区の内門に到着した。

調査兵団の死者34名をもってシガンシナ区奪還作戦は終わる事となったのだ。

 

 

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