進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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136話 地鳴らしⅠ - 奇襲 -

パンドラの箱という話をご存じだろうか。

パンドラと呼ばれた女性が開けてはいけない箱を好奇心で開けてしまった。

すると、箱に入っていた病気や憎悪、災害をばら撒いてしまい人間に不幸が訪れた。

慌てたパンドラが箱に蓋をすると箱の底に希望だけが残ったという伝承である。

これは、好奇心がもたらす危険性と、どんな困難でも希望は残っているという意味合いがある。

 

本当にそうだろうか?

 

希望が箱に残ったままで世に解き放たれていないので、この世界に希望が無いかもしれない。

なにより数多くの災厄が入っていた箱に残っていたのは、本当に希望なのだろうか?

他の箱から出てきたのは、目に見える災厄であった以上、それも災厄ではないだろうか。

もしも、希望を偽っている絶望だったら、それは人の最期にもらたらす災厄となり果てるだろう。

世界は残酷だ、それが真理であり、等価交換と同じ様に覆しようがない事実である。

 

 

「やだぁ……!」

 

 

ようやく戦闘が終わり、トロスト区に帰れると思った104期調査兵サンドラ・ホルムは震えた。

死を体現した異形の巨人が牙を見せながら鋭利な爪が伸びた両手を振った!

 

 

「やだぁ!!」

 

 

急いで横に逃げようとした彼女は瓦礫に躓いて転倒した。

だが、そのおかげで硬質化で作られた10本の爪による攻撃を回避した。

 

 

「いやいやあああああ!!」

 

 

またしても、彼女は顔面を地面に強く打って瞼に石が刺さった。

それでも這うように前に進もうとした。

 

 

『まだ死にたくない!!死にたくないいい!!書きたい事が…』

 

 

男性同士の恋愛を妄想して書き上げた本を出版した彼女は、この作戦でいろんな経験を得た。

それを元に様々なシチュエーションの話を書くつもりだった。

無様でも良いから生き延びようとした史上初の腐女子は気合で立ち上がり走って逃げようとする。

 

 

「あああ゙あ゙あ゙あ゙っ!!」

 

 

そんなサンドラの奮闘も巨人からすれば、地べたに這い蹲って歩く蟻の様に見えたのだろう。

あっさりと巨人に叩き潰されて胴体が破裂した彼女は、装備品以外は原型を留めてなかった。

あまりの衝撃に眼窩(がんか)から飛び出した眼球がコロコロと転がって樹木にぶつかる。

 

 

「よくもサンドラを!!」

 

 

同期で親しくしていた女を殺害されたゴードン・クリンゲンベルクは激高した!

すぐさま怒り任せで褐色の肌の巨人の左腕にアンカーを命中させた。

そしてうなじを削ごうと立体機動をしたが、それを見た異形の巨人は左腕を振った。

 

 

「ぐぼっ!?」

 

 

ワイヤーに引っ張られて民家の梁に後頭部を強く打ったゴードンは意識を失った。

そんな動けなくなった獲物を見逃すはずもなく異形の巨人はワイヤーを引っ張る。

全身を摩擦で削られたゴードンは、捕食者の目の前に引き摺り出された。

いざ、右手で気絶した兵士を掴んで捕食しようとした巨人の上に何かが降って来る。

 

 

〈ぶげ!?〉

 

 

飛び込んできた60m級の超大型巨人によって顎型の異形の巨人は潰されてしまった。

奇しくも、さきほど潰したサンドラと同じ様に眼窩(がんか)から両目がどこかに吹っ飛んでいった。

ミンチより酷い彼女と違う点があるとすれば、左腕だけは無事だった事であろう。

 

 

「巨人が転倒している内に逃げろ!!勝ち目がねぇ!!」

 

 

総勢88体の超大型巨人は、意外とアホなのか隣とぶつかったり、前のめりに転倒した。

これは、初代レイス王がどのように超大型巨人を動かすのか指定していなかったせいだ。

そのせいで一斉に動き出した際に通常の巨人の様に好き放題に動いてお互いが激突した。

巨大な質量同士の激突は、巨体に深刻なダメージを与えたばかりか、転倒事故が相次いだ。

その影響か、現時点でシガンシナ区に居る人類を狙える超大型巨人は、僅か7体しか居なかった。

 

 

「って無理だ!!民家にかくれ……」

 

 

その7体の超大型巨人が問題だった。

とある1体は、超脚力を活かして天空に跳躍し、落下の勢いで飛び蹴りをしてきた。

当然、60m級の巨人がそんな事をすれば、とんでもないエネルギーが発生する。

 

 

「うわああああああああああああ!?」

 

 

その巨人が落下した付近に居た兵士たちは、30mほどの高さまで飛び上がった。

こうなってしまえば、リヴァイ兵士長くらいの実力者でなければ対処しようがない。

成す術無く宙に舞った兵士は、赤色の水っぽいスライムにジョブチェンジをした。

飛び蹴りをした巨人もただで済まずに下半身を失って転倒する羽目になった。

 

 

「こっちに来やがった!?」

「逃げろ!!」

 

 

別の超大型巨人は、永遠に前転を繰り返して調査兵団の本隊が居る場所へと向かっていた。

残念ながら高速で回る巨人の動きを止める手段など存在しない。

 

 

「撃て!!」

 

 

…かに思えたが、鎧の巨人絶対ぶっ殺す娘が生み出したカノン砲による砲撃で動きが鈍った。

偶然とはいえ、頭を丸ごと吹っ飛ばしたので肉体の動きに支障が出たようだ。

大きく道を逸れて近くにあった時計塔跡地に胴体が激突した。

すかさず対鎧の巨人用ライフル銃で首元を狙撃されて1体の超大型巨人が討伐された。

 

 

「クソッタレ!!」

 

 

しかし、度重なる反動に耐え切れなかったのか、RF-11 イェーガー狙撃銃が破損した。

フローラは威力を優先して強度に不備がある状態で少数生産したので壊れやすかったのだ。

下手に強化すると立体機動に支障が出て燃費が悪くなる為、欠陥を未だに直せていない。

更に礼拝堂の地下空間で使用した兵器をずっと使い回しにしたツケが出始めていた。

 

 

「もう1丁ある!まだ戦えるだろ!?」

「ふざけんな!銃が壊れたら立体機動できねぇんだよ!!」

「え?じゃあ、どうするんだ!?」

「逃げるんだよおおおおお!!」

 

 

さきほどまで喧嘩をしていた調査兵の励ましの声ですら狙撃兵は、皮肉に感じた。

一般兵が使う剣の柄が操作する装置になっている様に対人立体機動装置も銃で立体機動を行なう。

そのせいで事実上、戦えなくなった元対人立体機動の兵士は逃亡をし、調査兵も後に続いた。

 

 

「エルティアナ連隊長!!ご命令を!!」

「まずお前のヘルメットを貸せ!!」

「うわっ!?」

 

 

クロルバ区から派遣された駐屯兵は、上官に指示を求めた所、ヘルメットを奪われた。

バイザー付きのヘルメットを装備したフローラは改めて命令を下す!

 

 

「速やかにウォール・マリアに居る変異種を討伐しろ!!少しでも砲兵を活用する!」

「しかし、砲兵部隊の大半は、巨人と戦闘を行なえる装備がありません!」

「何の為の狙撃部隊だ!!さっさと奴らに蜥蜴の巨人を討伐させろ!!」

「は、はい!!」

 

 

すぐにフローラは、駐屯兵に蜥蜴型の変異種の討伐を命じた。

さすがに砲兵を活用せざるを得なかったし、なにより退路を確保したかった。

 

 

「……もう使いたくなかったんだけど」

 

 

先の交戦で新兵器を使用したフローラは、肉体に及ぼす害がまだ把握しきれていない。

だから連発する気はなかったが、使わずに死ぬくらいなら使った方が良いと判断した。

 

 

「ああ、もう!!」

 

 

しかし、新兵器を所持している補給隊長に逢いに行く前に別の存在と遭遇した。

 

 

「邪魔!!」

 

 

マフラーとマスクを兼任する防塵用の耐熱タオルを口元に巻いたフローラは、バイザーを下ろす!

そしてインフェルノブレイドを着火し、迫ってくる超大型巨人に備えた!

 

 

『邪魔しないで!!』

 

 

超大型巨人の殴打攻撃を立体機動で回避したフローラは巨体の背に回る。

何度もアンカーを撃ち直して水蒸気が出始めているうなじを削いだ!

案外、あっさりと倒せたようで…これだけの行為でフローラの肉体は悲鳴をあげた。

 

 

「……やはり、後遺症か……想定したとはいえきついわ…」

 

 

自分に流れるユミルの血を無理やり覚醒させる猛毒は、確かにフローラの肉体を蝕んでいた。

明らかに立体機動に関係ない眼球付近が痛み始めて目の前が真っ白に染めあげた。

真っ黒ではないので立体機動によるブラックアウトではないのは確かだ。

 

 

「お前もさっさと死になさい!!」

 

 

聴覚と巨人が発する“うめき声”、そして自分の肉体に当たる風で巨体の位置を特定!

彼女は盲目のまま、すれ違いに超大型巨人のうなじを回転斬りで削いでみせた。

 

 

「うっ……」

 

 

いくら防熱の外套と長手袋、厚いブーツを履いているとはいえ高熱対策は完璧ではない。

通気性抜群のズボン越しにあった大腿が高熱の蒸気で蒸されて火傷をした。

まだ戦えるとはいえ、2体の超大型巨人を討伐しただけでこれでは分が悪い。

 

 

「見えた…良かった」

 

 

ここでようやく視力が戻ったフローラはすぐさま作戦を変更した。

倒れ込む巨体を上手く利用し、立体機動で地上に降りた彼女は補給隊の隊長に向かって走り出す。

しかし、灼熱の刃を扱う関係でフローラは、他の兵士より防熱装備が優れているだけである。

 

 

「ぎゃああああ!?」

 

 

同じ様に討伐しようとした調査兵は蒸気に触れてすぐに火傷し、痛みで動きが鈍った。

そのまま、動く事も逃げる事も出来ず立体機動装置が爆発して地面に向かって落下した。

他にも調査兵たちが超大型巨人に挑みにかかったが誰一人うなじまで辿り着けなかった。

 

 

「ここで仕留めろ!!」

「ふざけんな!!勝てる訳ねぇだろ!!」

「短期決戦で仕留めないと勝ち目がないんだ!!」

 

 

フローラの直属の部下ほど超大型巨人の討伐を急いだのには理由がある。

巨人化能力者と違って知性の無い巨人は無限に動き出す事ができる。

それと同時に地上に出現した巨体は、放置するほど高温になってくるのだ。

 

 

「灼熱の蒸気を噴き出す前にここで討伐せよ!」

 

 

オルブド区を襲撃してきた超大型の変異種は、積乱雲かと思わせるほどの蒸気を纏っていた。

しかし、巨人化した直後は、そんな蒸気など纏ってはいなかった。

これが意味するのは、出現したばかりの巨体は、必要最低限の熱源しかないという事だ。

ただ、活動していく時間が増えるほど稼働エネルギーが膨大になる為、高温になってしまう。

触れたら即死しかねない蒸気になれば手遅れになるのでどうにかするしかない。

 

 

「蒸し焼きになりたくなかったら戦え!!」

 

 

今ならば、近づいても即死はしない温度の為、討伐を急いでいた。

それができるなら苦労しないというのは誰もが思っている。

 

 

「“百雷”で良いだろう!?まだ一発残ってる!!」

「味方ごとぶっ飛ばす気か!?」

 

 

シガンシナ区を丸ごと吹っ飛ばせる爆弾であれば、超大型巨人の大群さえ滅ぼせる。

問題なのは、シガンシナ区に撃ち込んだらこの場に居る全員が全滅してしまう事だ。

本当にどうしようもなければ使う羽目になるが、使用すれば自分も爆死する諸刃の剣となる。

 

 

「孤立して転倒した巨人から狙え!!」

 

 

幸いにも一斉ダッシュでコケたせいで大半の超大型巨人が一時的に動けなくなった。

その内に動いている超大型巨人を討伐しながら後退し、退路を確保する事となった。

無駄に図体が大きいおかげで対人立体機動部隊だった兵士たちは楽に攻撃ができている。

その間に調査兵たちは、挟撃してきた変異種の相手をする事となった。

 

 

「まずこいつを倒せ!!」

 

 

50mの壁上で陣取っている蜥蜴型巨人に向かって閃光弾が放たれた。

一瞬、動きが怯んだ隙に工兵と砲兵部隊が急いで後退をする。

そしてその隙を見逃さなかった調査兵たちが巨人に向かってアンカーを射出した。

 

 

「ぎゃあああああ!?」

 

 

胴体に射出した兵士は、纏っていた放電の鎧に感電し、丸焦げになった壁下に向かって落下した。

運良く右腕にアンカーをさせた兵士も腕を振られた衝撃で地面に叩きつけられた。

 

 

「にゃろおおお!!」

 

 

これを見た工兵は、火炎瓶を片手に走り出す!

 

 

「ぐああ!?」

 

 

…が伸びて来た舌に腹部が激突し、そのままぶっ飛ばされた。

 

 

「馬鹿!!」

 

 

後方に居た砲兵が彼を受け止めたが、落下した火炎瓶が床に落ちて割れた。

着火しなかったおかげで爆発はしなかったが、弾薬がある場所で可燃物を増やしてしまった。

もし、地面に放電されれば着火して大爆発しかねない状況に追い込まれたと言える。

 

 

「……俺が行く!」

 

 

砲兵は、巨人と交戦するのを想定していないので短剣くらいしか武器が無かった。

そこで雷槍を装備しているマルロ・フロイデンベルクは動いた。

 

 

「待ってよ!!勝てる訳ない!!援軍を待ちましょう!!」

 

 

彼の蛮勇を目撃したヒッチ・ドリスは彼を引き留めようとしたが無駄だった。

頭でっかちの彼は、決めたことは絶対に守る男である。

 

 

「やってみないと分からないだろうが!!」

 

 

再び放電を開始した蜥蜴野郎に向かって雷槍をぶち込もうとマルロは走り出した。

フローラのおかげで巨人との戦闘の経験がある彼に迷いはない。

 

 

「馬鹿!!死ぬ気!?」

 

 

同じくフローラから命じられて雷槍を装備していたヒッチも彼の後を追う羽目になった。

この行動が、他の調査兵団の兵士が辿った末路との分かれ道となる事を彼らは知らない。

 

 

-----

 

 

50mの壁の崩壊で落ちて来る壁の瓦礫を巨体で防いだエレン・イェーガーは気を失っていた。

うなじを切り裂いた104期兵たちは、自分たちを守った英雄を肉の棺桶から引き摺り出した。

 

 

「おい、どこに逃げる!?」

 

 

コニーの問いかけに対して指揮官に向いているジャンが即答する。

 

 

「コニー!アルミンを回収して一緒に50mの壁に向かうぞ!!」

「了解!」

 

 

調査兵団の兵士たちは超大型巨人の大群の討伐を諦めていた。

なので彼らは、人類の希望と共にシガンシナ区から撤退すると決断した。

 

 

「エレン、しっかりして!」

「ミカサ、早く逃げないとまずいですよ!!」

 

 

既にスタートダッシュに失敗した超大型巨人の大群が復帰しつつある。

ようやく4体目の超大型巨人を討伐したが、既に使える兵器はほとんどない。

気を失ったエレンに問いかけているミカサの袖をサシャは引っ張って動くように仕向けた。

 

 

「一体、何が起こったの!?」

「こっちが知りたいですよおおおおお!!」

 

 

立ち上がったミカサを見てサシャは必死に走って逃げだした。

立体起動しないのは、ガス切れで喰われた同期の末路が頭から離れないからである。

 

 

「エレン、壁まで逃げる!!絶対に!!」

 

 

エレンは50mの壁に対して良い印象を抱いてなかった。

人類を守る壁であるのは知っているが、彼には自由を束縛する鳥籠に見えていた。

今では、唯一残った50mの壁に向かって走るしかない。

エレンの装備を全て外したミカサは、彼を背負って走り出した。

 

 

「ミカサ!!後ろ!!」

 

 

サシャの叫び声が聞こえたが、ミカサはそのまま走り続けた。

 

 

『そんな事!分かってる!!』

 

 

走って来る60m級の巨人がミカサの背後に迫ってきている。

振動がドンドンでかくなっていき、満足に走れなくても彼女は最後まで走り続けた。

 

 

「この!!図体がでかい巨人が…」

 

 

窮地に陥ったミカサを救ったのはリヴァイ兵士長だった。

彼は、立体機動で巨人に追いついてうなじを削いで何とか討伐する事に成功した。

しかし、巨体が発する蒸気によって彼の上半身に軽い火傷を負わせた。

 

 

「チッ!」

 

 

眼帯と瞼の癒着を防ぐ為に無理やり引っぺがしたせいで彼の右瞼は更に傷が悪化した。

それでも、左目でエレンたちが無事なのを確認してホッとしたのは事実だ。

眼帯が着地する前に地上に降りたリヴァイは、彼らの顔を見る。

 

 

「何をやってる!早く逃げろ!!」

 

 

分かり切っている命令をするのは、一見するとアホみたいに見える。

だが、何者かに命じられたらその通りに動けばいいという考えになるのは大事だ。

ましてや、超大型巨人の大群に包囲されると思ってなくて動揺している奴らなら尚更である。

 

 

「行け!!」

 

 

珍しくリヴァイは、2回も命令して104期調査兵を壁に向かって走らせた。

 

 

『ここが死に場所か…』

 

 

ケニー・アッカーマンと再会した彼には、心残りは無い。

既にエルヴィンに伝えていたが、ようやく死地を見つけた。

 

 

「……だが、これじゃあダメだ」

 

 

蒸気が多く当たった右瞼による激痛により、そのまま交戦したら犬死だと理解している。

せめてケニーと同じ装備が無ければ戦える気がしなかった。

 

 

「……せめてどっかに良い装備はねぇか!?」

 

 

フローラは、専用装備である燃え盛る刃を扱う関係で防熱装備をしていた。

その装備なら長く戦えると思った彼は、とにかくフローラかその関係者を探した。

無駄に兵器を隠し持っている奴の事だから予備の装備くらい持っているかと思ったからだ。

 

 

「復帰が早いな…」

 

 

ついに予期せぬ衝突事故で転倒していた超大型巨人が立ち上がり始めていた。

既に復帰した14体がこっちに向かって来ており、20秒足らずでリヴァイは踏み潰されるだろう。

奥歯を噛み締めた彼は、最後となる任務を遂行しようと…。

 

 

「ん?」

 

 

ところが、地面が大きく崩れたせいで超大型巨人の群れは再び転倒をした。

頭から激突したので復帰するまでには、更に時間が掛るだろう。

 

 

『なにがあった?』

 

 

いくら重量があるとはいえ強固の地盤があるシガンシナ区で地面の崩落はあり得ない。

何事かと注視すると原因が分かった。

 

 

「なるほど、変異種にも利点があるか」

 

 

地面を掘り進める関係上、モグラ型の異形の巨人は、音を聞いて判断する。

なので超大型巨人が走る振動を聴いてそこに獲物が居ると勘違いして地中を掘り進めていたのだ。

ちょうど崩壊した地盤からモグラ型の異形の巨人が飛び出して背中から蒸気を噴き出した!

 

 

「あいつを利用する!!」

 

 

本来なら早急に討伐しないといけないが、今回は有益になる巨人だ。

奴を放置すると、エレンの実家の地下室が崩壊する危険性があるが…。

そもそも、この超大型巨人の大群のせいで既に崩落している可能性が高い。

やるべき事を瞬時に判断したリヴァイは、当初の目的を果たそうと人を探しに走り出した。

 

 

「信煙弾……色は青紫か!!」

 

 

発砲音を聞いてリヴァイが振り返るとさきほど見た物とそっくりな青紫色の煙が見えた。

間違いない!

あれは、フローラが5体の変異種を討伐する為に使ったドーピングである。

そう考えたリヴァイは立体機動で現場に向かった!

 

 

「いっ!?」

 

 

現実は非情である。

いきなり両足で地面を蹴って飛び出してきた超大型巨人がリヴァイを狙う。

さすがにあの質量を回避できずに彼は地面に伏せようとした。

 

 

「退きなさい!!」

 

 

そんな巨人の胴体を真っ二つにしたフローラは更に加速していく!

超大型巨人の肉体が別れて空気抵抗が大きく変わったのか。

落下地点だったリヴァイから大きく逸れて場所に上半身が落下して市街地を破壊していった。

下半身に至っては、別の方向に飛んで行って兵団司令部だった頑丈な建物に激突した。

 

 

「死ね死ね!!死になさい!!」

 

 

視界が虹色に染まったフローラは、もはや化け物と化していた。

燃え盛る回転ノコギリと化した空飛ぶギロチンの刃は、次々と超大型巨人の首を刎ねていく!

一列に整列していた巨人たちは成す術無く頭を刃に捧げていた。

60m級の巨人の頭が上空へと旅立つ景色は誰が目を疑う事となった。

 

 

「やっぱ、おかしいだろ…」

 

 

人類最強の男は、ドーピング込みとはいえ暴れまくる女に驚きを通り越して呆れていた。

だが、あそこまで暴れられるなら自分にも勝機がある。

 

 

「どこだ!?」

 

 

50mの壁上で爆発が起こり、蜥蜴型の変異種が落下していく。

更に誰かが追撃を加えたのか更に大爆発して四散した。

だが、攻撃を行なったのは調査兵であり目当ての兵士たちではない。

 

 

「くっ……」

 

 

更に西部地区に足を踏み入れるとヘルメットを身に着けた兵士の死体を発見した。

不幸中の幸いな事にリヴァイが求めていた装備を全て身に着けている。

これを活用すれば、少しだけ兵士が後退できるだけの時間が稼げるだろう。

 

 

「すまん、借りるぞ!」

 

 

フローラが連れて来た兵士の中でヘルメットを身に着けた者は砲兵だと判明している。

どうやらオルブド区の砲兵が蒸気でやられた教訓で防熱装備をさせたようだ。

 

 

「急がねぇと…」

 

 

彼の無念を晴らす様に少数の81mm口径の迫撃砲が稼働し始めた。

蜥蜴型の異形の巨人が討伐できた事で砲撃が再開できる様になったようだ。

少しでも時間稼ぎをしてくれるのに感謝したリヴァイは急いで装備を拝借しようとする。

 

 

「……良い装備をしてやがるな」

 

 

死体から分厚い黒色の外套を引ん剝くと羨ましい装備を多く身に着けていた。

頭上の衝撃を緩和させて蒸気から眼球を守るバイザー付きヘルメット。

立体機動による腰の衝撃を緩和するサポーター、外的要因から胸を守るプロテクター。

巨人に挑む兵士には不要となる重装備であるが、彼は砲兵なので手厚く守られていた。

 

 

「これは防塵用マスクか?……いや、マフラーでもあるのか」

 

 

なので、使えそうな装備は次々と拝借している時にリヴァイは変な物を発見した。

ズボンのポケットからミカサが愛用している様なマフラーみたいなタオルが出て来た。

何の用途に使うのかと思ったら、首と口元を覆える装備と端にあるビラに書かれていた。

 

 

「…これも装備するか」

 

 

この兵士の死因に繋がった思われる致命傷は、首の負傷ぐらいしか発見できなかった。

何かしらの要因で、ここで立体起動していたら死角にあった鋭い木材が首を掻き切った。

何とかして傷を抑えようと奮闘したが、力尽きたようであった。

残念ながら検死をする時間が無いので彼は急いで装備を回収していく。

 

 

『お前の犠牲は無駄にしない』

 

 

もしも、これを装備すれば助かったのであれば先人の警告に従うべきだ。

そう考えたリヴァイは、警告通りに口元を黒い布切れで覆う。

そして肘まで迫る長手袋を付けてヘルメットを装備し、外套を纏って交戦の準備は整った。

 

 

「それとこれもだ」

 

 

ついでに兵士のジャケットの左ポケットにあるワッペンを剥ぎ取った。

死体は回収できないが、せめて自分に装備をくれた兵士の情報が欲しかったのだ。

これで超大型巨人相手に長期的に交戦できるようになったがまだ足りない。

 

 

「……あそこだ!!」

 

 

50mの壁付近にエルティアナの副官を演じていた女将校を見つけた。

 

 

「おい!!そこの女!!」

「え?ええええ!?いやああああああああ!!」

 

 

ミーナ・カロライナは、声がした方を見ると黒髪の鬼が迫って来ていた。

本気で自分を殺しに来たと勘違いした彼女は泣きながら逃げ出した。

女補給部隊長とその護衛班、ついでに回収したベルトルトを残して…。

 

 

「逃げるな!!」

「逃げるよ!!怖いもん!!」

 

 

ただでさえ目つきが怖いのに火傷したせいで更に怖くなっていた。

さきほどまでフローラを叱責していた彼女は、未知なる化け物を発見し、必死に逃げた。

だが、リヴァイからすれば事を急ぐので迷わずに彼女に飛び掛かる。

 

 

「動くな!!」

「ごめんなさい!!殺さないで!!」

「いいから寄こせ!!」

「ええ!?」

 

 

押し倒されたミーナは命乞いをするが、リヴァイも焦って言葉足らずで要求してしまった。

そのせいで彼女は別の意味と勘違いしてしまって慌てて腕を交差して両肩を掴んでガードした。

 

 

「フローラに使ったドーピング剤をよこせ!!」

「いやああああ!!助けて!!まだ…「いいからよこせ!!」はいいいい!!」

 

 

軽く頭を小突いたらミーナは、あっさりとリヴァイに従った。

彼が身体を退かした瞬間、彼女はあっさりと紫色のラベルがセットされた専用銃を差し出した。

 

 

「使い方は?」

「信煙弾を上空に撃ち込むだけです!!視界が変わったらすぐに動い…」

「結構だ!あとは俺が何とかする!!」

 

 

エルティアナの副官を演じたミーナから説明を受けたリヴァイは専用銃の銃口を上空に向ける。

これから何が起こるか知っている彼女は急いでその場から離れた。

 

 

「エルヴィン…!!俺は最後までやるぞ!!」

 

 

姿が見えないエルヴィンの顔が一瞬だけ思い浮かんだリヴァイだったが、すぐに引き金を引いた。

紫色の信煙弾が放たれて、それと同時に彼の肉体に異変が起こった。

 

 

「ぐっ……確かに…猛毒だ…これは…」

 

 

視界が赤色になったかと思えばすぐに青色に変わった。

すぐに動き出した彼は、頭痛と共に何がが身体中を駆け回っている感覚に襲われた。

「殺せ殺せ殺せ!!」と殺意と怒りに満ち溢れて目の前の物を全て破壊した衝動に襲われる。

 

 

「てめぇら……!!……消えろ」

 

 

バイザーを下ろした彼は、目の前に迫って来る超大型巨人に向かって飛び出した!

立体機動で市街地の民家を駆け回った勢いで大きく上へと飛び出す。

ただでさえアッカーマンの血筋で強化されている彼は…。

超大型の巨人を縦に回転斬りで捌いてその勢いで別の巨人に襲撃に向かった。

 

 

「や、やれ!!頑張れ!!」

「兵長!!頑張ってください!!」

 

 

もう応援するしかできない兵士たちは超大型の巨人を討伐する2人に賭けるしかできなかった。

ミケ・ザガリアスを放棄せざるを得なかったエルヴィン団長も見守る事しかできない。

地盤が大きく緩んで超大型の巨人の侵攻を阻んでいる状況下でギリギリ彼らは生き残れていた。

 

 

「……クソ、もっと壁について把握するべきだったか」

 

 

当たり前の様に存在を疑わなかった壁の中に超大型の巨人が潜んでいた。

調査兵団は、好奇心旺盛で破滅するのに定評あるが、無関心や知識が無くて死ぬ事も多い。

 

 

「どうするべきか…」

 

 

さきほどの演説を聞いたエルヴィンはどこか引っ掛かっている事がある。

壁を大きく破壊したせいで超大型巨人が動き出したのは疑いようがない。

だが、何かを見落としている気がしてならない。

 

 

『何を?』

 

 

その何を見つけるのが難しかった。

 

 

『先祖の大罪、断罪の時、壁を破壊…何かあるはずだ』

 

 

思考を止めないエルヴィンだったが、1つ気付いた事がある。

この場に出て来た巨人は全て通常種で間違いない。

なので一番近い自分たちを襲撃するのは当たり前であった。

 

 

『何故、あの巨人化能力者を追わない?何かあるのか?』

 

 

ここで気になった来るのは、獣の巨人と鎧の巨人の能力者を奪還した巨人化能力者である。

距離があるとはいえ超大型の巨人から見ればすぐに追いつけるはずである。

ましてやウォール・マリアの外に向かって追わない超大型巨人の大群に違和感があった。

 

 

「まさか!」

 

 

その原因が分かったエルヴィンは、近くに居た兵士に伝えようとする!

 

 

「がっ!?……ぐっ!」

 

 

突然、エルヴィン・スミスの背中から硬質化の爪が貫いた。

 

 

「エルヴィン団長!?」

「貴様!?よくもやりやがったな!!」

 

 

隙を見せたエルヴィンに致命傷を与えたのは、肉体の大半が再生した顎型の異形の巨人であった。

左手の甲にあった弱点部位が無事だった為、うなじが潰れても復活できてしまったのだ。

団長に致命傷を負わされて激怒した調査兵たちがその元凶に向かって突撃する!

 

 

「いい加減くたばれ!!死にぞこない野郎が!!」

 

 

誰かが発した声は、エルヴィンの頭に強く響く事となった。

それは、自分を恨んで死んでいった者たちによる罵倒に聴こえたのだ。

 

 

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