進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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138話 新婚夫婦 VS 夫婦の死を望む変異種たち

最近、104期調査兵を率いるオルオ・ボザドは悪夢を見るようになった。

あれほど大好きなペトラ・ラルと結婚できるからこそ、何かおかしい気がしたのかもしれない。

 

 

「クソ…」

 

 

幸せ過ぎて自分は巨大樹の森で死にかけて夢を見ているのではないかと錯覚するのだ。

自分の眼前でペトラが女型の巨人に踏み潰されて自分も返り討ちに遭って死ぬ。

そんな悪夢を週に1回は見ているせいで頭が可笑しくなりそうだった。

だから結婚式を終えて寝室で彼女と2人っきりになった時にオルオは話を切り出した。

 

 

「なあ、ペトラ。最近、悪夢を見るんだが内容を聴いてくれないか?」

「うん、聴いてあげるから…もう少し傍に寄りなさいよ」

「ああ…」

 

 

ペトラから承認を得たオルオは、ダブルベッドに入って先に横になっていた彼女と向き合う。

そして今まで黙っていた悪夢の内容を告げた。

 

 

「なんだ…オルオも見ていたんだ」

「……ペトラもそうなのか」

「うん、やっぱりあの時ほど死ぬかと思ったからね。たまに思い出しちゃうのよ」

 

 

第57回壁外調査は、戦友のうなじが削がれるわ、先輩の両腕が食い千切られた事件が発生した。

そのせいか、過去の壁外調査に比べても、ペトラはその事で気が落ち込む事がある。

だから甘えられる時に告げようとしたが…先にオルオが弱音を吐いたおかげで気が楽になった。

 

 

「いつからだ?俺はエルティアナ連隊長と話をする様になってからだ」

「私も同じくらいの時ね」

 

 

話をしていく内に悪夢を見始めたタイミングが一緒の事に気付いた。

力強く自信あふれる女将校と話していると、あのフローラの事を想い出してしまうのだ。

恐怖という感情が欠如した復讐鬼の一面を持ち合わせる彼女とどこか似ている雰囲気があった。

 

 

「まあ、香水の影響が大きいかもな」

「同感、香水といったらフローラだもん。やっぱり思い出しちゃうよね」

 

 

オルオとペトラは気付く事は無かったが、フローラは必死に体臭を誤魔化していた。

もちろん、香水作りが趣味の1つだった彼女の体臭が超絶に臭い訳ではない。

ミケ・ザガリアス副団長に不本意なタイミングで正体を見抜かれるのを危惧した為だ。

一応、いつも使っている香水ではなく新調した香水を服用していたのでバレる可能性は低い。

だが、嗅覚が異常に発達している彼に見抜かれない様に無駄に努力をしていた。

 

 

「あいつは強かったな」

「羨ましいほどにね…」

 

 

別にフローラのせいでオルオたちが悪夢を見ているという事は無いだろう。

むしろ、彼女が陽動したおかげで女型の巨人に殺されない未来に到達したと言える。

だからこそ、フローラを思い出す度に彼女が介入しなかったらどんな未来になるか考えてしまう。

 

 

「ちょっと先に横になって良いか?少しでも休んでおきたいんだ…」

「遅刻したらエルティアナ連隊長に怒られちゃうからね、おやすみなさい」

 

 

弱音を吐いたオルオは、愛するペトラを抱き寄せた後、すぐに寝息を立てて寝てしまった。

その光景を見たペトラは、困惑半分、そしてようやく素を出し始めた夫の頭を優しく撫でる。

ウォール・マリア奪還作戦を達成し、2人仲良く生還できる事を祈って彼女も就寝した。

お互いの温もりが混ざり合う感覚がいつまでも続く事を願って…。

 

 

「ああ…そうだった。世界が残酷だって分かってたんだ…」

 

 

シガンシナ区の壁が崩壊して超大型巨人の大群が出現した時、オルオは悟った。

ここが自分たちの死地だと…。

初代レイス王の罠にまんまと嵌められた調査兵団は、地鳴らし発動の代償を支払う事になる。

 

 

「なんで壁から巨人が出て来るんだ!?」

「とにかく撃て!!少しでも巨人を減らせぇ!!」

 

 

様々な闇を隠蔽していた王政府に仕えた中央憲兵ですら予想外の出来事で大混乱に陥っている。

そんな彼らを見たペトラは、この事態は王政府高官ですら想定外の事態というだけは把握した。

 

 

「超大型巨人!!こっちに1体来ます!!」

「カノン砲部隊!!撃ち方始め!!」

 

 

88体も出現した超大型巨人の大群は、出鼻を挫かれてまともに動いているのは7体だけだった。

それでも空中で飛び蹴りをしたり、前転してくる巨人の攻勢で既に調査兵団が半壊した。

しかも、3体の異形の巨人に退路を絶たれてしまい、市街地で巨人に挟撃される形となった。

対人立体機動部隊の出身者が主力となって交戦しているが、誰もが分かっている。

どう足掻いても、絶対に勝てない戦いだと…。

 

 

「エレンたちを避難させるぞ」

「了解、すぐにみんなを誘導するわ」

 

 

奇しくも、5年前に発生したシガンシナ区防衛戦と同じく絶対に負け戦になる戦闘だった。

だからこそ、調査兵団に所属しているベテラン兵ほど自分のやるべき事を理解できる。

とりあえず、部下たちを避難させようとするオルオの意見に賛同したペトラは動き出そうとした。

 

 

「ペトラ!伏せろ!!」

「きゃっ!?」

 

 

突然、オルオに押し倒されて思わず乙女の声を出したペトラだったが、恥じる暇も無かった。

彼の頭上より少し上のところで血塗れになった超大型巨人の腹が見えた。

大量にある民家の屋根を巨体で破壊しつつ、巨人は地区名も不明な場所に激突した。

その衝撃のせいで更に市街地に待機していた兵士の気力と精神を削っていく。

 

 

「なっ!?ぎゃああああああああああ!?」

 

 

 

誰もが振動に耐えて必死に生き残ろうとしていた。

ベルトルトが変身した超大型巨人を瞬殺したヘビーカノンを装備する兵士も油断していなかった。

だが、超大型巨人と同等の巨人に砲撃している時に地面から巨人が飛び出すのは想定外過ぎた。

そのせいで、地上に出現した巨人に動揺した彼は誤って目の前の地面に誤爆して肉体が爆散した。

その爆発音に向かって異形の巨人が飛び込んで行き、そのまま地面へと潜っていく。

 

 

「クソ、避難を…ぐっ!?」

「ああっ…!?」

 

 

すぐに体勢を立て直したオルオだったが、即座に伏せる羽目になった。

別の超大型巨人が飛び込んできたせいでどうする事もできなかった。

幸いにも激突することはなかったが、遥か離れた場所で発生した衝撃による振動で転倒した。

 

 

「退路は……ない!?」

 

 

その間に横になっていたペトラは、必死に退路を模索するが……逃げる場所が無いと気付いた。

唯一壁が残ったウォール・マリアには蜥蜴(とかげ)みたいな巨人が屯していて近づけない。

それ以外の場所は、60m級の巨人の大群に包囲されており、そもそも振動で動けなかった。

 

 

「ペトラ、まずはあの超大型巨人を潰すぞ!」

「……そうね。あいつを倒さないとエレンたちと合流させてくれないみたいだし……」

 

 

さきほど地面に激突した超大型巨人は立てないと分かると横に転がり始めた。

最初に飛び込んできた巨人に至っては、立ち上がってどこかに走っている有様だ。

シガンシナ区の市街地を片っ端から破壊する巨人たちを見て2人は刺し違いを覚悟する。

それほどにここから生還できる未来が掴めなかった。

 

 

「来るぞ!!」

 

 

横に転がるだけの存在でも、それが60mの巨体による体積があれば立派な破壊兵器になれる。

それを証明する様にシガンシナ区の民家を片っ端から轢き潰していく。

鉄壁な守りと攻勢を両立させる超大型巨人を前にオルオとペトラは退避するしかできない。

 

 

「これじゃあ分が悪い!まずは内門に居る巨人を討伐して退路を開く!付いて来れるか?」

「オルオに心配されるほど…か弱くない!」

「そうか」

 

 

やむを得ず目的を変えたオルオは、ペトラの強情さを見て複雑な感情を抱いた。

明らかに無理をしており、理想の兵長を演じる過去の自分の様に感じられたのだ。

だからといって立ち止まっている暇は無い。

 

 

「いくぞ!!」

「うん!!」

 

 

ここまで絶望的な状況だが、この混沌の状況から大逆転できる手段が残されている。

超大型巨人による大爆発の100倍の威力があると推測される爆弾を所持しているのだ。

だからこそ、ウォール・マリアに屯する異形の巨人を早急に討伐しようとしていた。

 

 

「こいつを確保しろ」

「正気かよ…」

 

 

誰かの声が聴こえてオルオが振り向くと、そこには砲兵や狙撃兵が屯していた。

どうやら超大型巨人の能力者を確保しようと動いているようだ。

 

 

「もういっそ、こいつに巨人になってもらって戦わせるべきだ!」

「無理!!この状態じゃ巨人化できないんだ!!」

「この役立たず!!さっさと四肢を再生させろ!!」

「えぇ!?」

 

 

どうやら超大型巨人の能力者が発生させる大爆発に頼ろうとしている様だった。

しかし、話の流れからそれは不可能という事は分かる。

 

 

「……ペトラも期待したか?」

「うん……」

 

 

超大型巨人による大爆発を目撃したペトラは、彼の巨人化に期待していた。

シガンシナ区全体を揺らすほどの大爆発なら活路を見い出せる…と。

その証拠に立体機動をやめて彼らの動向を窺っている有様だ。

 

 

「副長!!退却命令を!!」

「超大型巨人を50mの壁を壊させる訳にはいかないの!!まだ応戦して!!」

「戦線維持は不可能です!!」

「50mの壁を壊されたら今度は、ウォール・マリアが巨人が出てくるのよ!?」

 

 

エルティアナの副官であるラナイを演じていたミーナは、必死に配下を戦場に留めていた。

彼女自身も逃げたかったが、親友が退却命令を却下したのでそれに従う事しかできなかった。

 

 

「とにかく一点でも包囲網を解けばいいの!超大型巨人に集中攻撃を…」

 

 

ここでオルオは、フローラに何か策があると気付いて副官に向かって走り出した。

突然に走り出した伴侶に困惑しつつも、ペトラも後を追った。

 

 

「おい!そこの女!!何か策があるのか!?」

「そこの女!?」

「いいからお前らの作戦を話せ!!」

 

 

生き残りたいオルオは、フローラの打開策を期待してミーナに質問をした!

それに対して自分の生存率を上げる為に彼女は必死に作戦内容を告げる!

 

 

「この巨人の大群は、自分たちに近い兵士から襲撃しているの!」

「それは分かる!」

「だから包囲網に穴を空けて騎兵が抜けられる場所を確保して……」

 

 

フローラの作戦を聴いたミーナは愕然としたが、代案が無いので従うしかできなかった。

その作戦を他者に伝達する彼女の声は震えていた。

 

 

「重傷者を囮にして超大型巨人の注意を惹いて壁から離れた場所でまとめてぶっ飛ばすの…」

 

 

フローラは、この超大型巨人の大群の異質さを理解した。

近いはずの壁上に居る砲兵より、自分たちより離れた市街地に居る調査兵を襲っているのだ。

奇行種ならば、更に人が多いトロスト区に向かうはずなので巨人の動きが変だと気付いた。

だから副官であるミーナに…厳命を下した。

超大型巨人の大群を惹き付ける囮がウォール・マリアの外に行くまで部隊を後退させるな…と。

 

 

「連隊長からご命令です!!ウォール・マリアに居る変異種を狙撃して討伐せよとの事です!!」

「聴いた通りよ!!狙撃班は、変異種を討伐!残りは少しでも巨人の足止めをしなさい!!」

 

 

それについて未だに納得していないミーナだったが、部下からの報告を受けて決断した。

速やかに命令をした彼女は、エレンの護衛班の先輩に向かって発言しようとしたその時!

 

 

「副長!!連隊長が!!連隊長の全身から青紫色の炎が!!」

「…えっ!?話と違う!!」

 

 

更なる情報を部下から受け取ったミーナは呆然とした。

【決戦の狼煙】という強化剤は、まだ効果確認がしっかりとできていない危険な薬品である。

これから少量を臨床試験で試す段階だったのに二度も服用するとは思わなかったのだ。

 

 

「フローラ!?まさか囮になる気!?」

 

 

ミーナが親友に文句を言う前に超大型巨人の胴体が切断されたのが見えた。

ああ、なってしまえばもう誰にも止められない。

 

 

「なんだありゃ!?」

 

 

オルオも異様な光景を目撃した。

黒色の外套を纏ってヘルメットを装備した兵士の全身から青紫色の炎らしき物が見えた。

そして紫色の火炎を纏った双剣で次々と超大型巨人が討伐されていく光景に現実味が帯びない。

あれほど脅威だった超大型巨人が瞬殺されるなどあり得ない。

 

 

「あれは何だ!?また俺らに隠していた兵器なのか!?」

 

 

さっそくオルオは、呆然としている黒髪の女将校に質問した。

 

 

「始祖ユミルの血が流れる兵士の肉体を無理やり覚醒させるドーピング剤よ!!」

「ドーピング!?」

「私も詳しく聴かされていないけど…すぐに効果が切れる巨人化の一種だと思って!!」

 

 

【決戦の狼煙】の存在を知っているミーナですら、その原材料も効果も把握しきれていない。

フローラ曰く、ユミルの民だけに作用する強化剤の一種だと聴いて手渡されていただけだ。

もしも、ピンチになったらこれを使えと言われたが、ミーナは分かっていた。

最後まで親友が試作ですら躊躇った時点で、碌な物ではないと分かり切っていた。

 

 

「なんで俺らに隠してたんだ!?」

「まだ臨床試験すらしてない劇物なの!!だからまだ公表できなかったの!!」

 

 

ミーナは口が裂けても言えなかった。

フローラが凶悪な死刑囚(死んだはずの罪人)処分予定になっていた芸術品(横暴な非ユミルの民が辿った末路)で人体実験をしていたなんて…。

確かに彼らの死刑は確定していたが、ハンジ分隊長以上に親友は倫理観が崩壊していたのだ。

 

 

「おい!!そこの女!!」

「え?ええええ!?いやああああああああ!!」

 

 

どう返答しようかと迷ったミーナは怒声を聴いて振り返った。

すると自分を断罪すると言わんばかりに怒り狂ったリヴァイ兵長が迫って来た。

さきほど考えていた事もあって彼女は泣きながら逃亡する羽目になった。

 

 

「……隠し事が多すぎるぞ!!絶対、後でフローラを問い詰めてやる!!」

 

 

全く話が理解できなかったオルオだが、1つだけ結論を出した。

この地獄から生き残ったらフローラに抱えている秘密を全て暴露させると!

 

 

「同感!私も聴きたい事がたくさんあるし!!」

 

 

ペトラも、生き残る理由が1つできてオルオの意見に同調した。

ついに再起した超大型巨人の大群が動き出しており、考えている暇は無い。

 

 

「ウォール・マリアの変異種が討伐されました!!次のご命令を!」

「ここに留まって応戦しろとのご命令だが……」

「もう無理だ!!能力者を抱えてウォール・マリアに後退せよ!!急げ!!」

 

 

副長であるミーナが去ったせいで中央憲兵出身の部隊の指揮系統も崩れ始めた。

フローラの命令を無視して彼らも生き残る為に後退を開始する。

 

 

「どうするの?」

「とりあえずこいつらの援護をするしかねぇな!」

 

 

何が嬉しくて2か月前に殺し合ったこいつらの退路を開かねばならないんだ…。

一瞬だけ考えたオルオだったが、彼らの協力なしでは生き残れないと判断した。

エレンたちが無事に後退している事を祈って私情を殺して動こうとしたが…。

 

 

「エルヴィン団長!?」

 

 

突然、団長の容態を心配する声が聴こえてペトラは振り返った。

そこには、背後から硬質化の爪で突き刺されたエルヴィン団長の姿が!

その先には、その元凶である6m級の顎型の異形の巨人の姿もあった。

 

 

「貴様!?よくもやりやがったな!!」

 

 

左手から20m以上伸びている爪に雷槍を撃ち込んで破壊したクラース班長は殺意剥き出しで動く。

新兵の教育責任者であった彼は、オルオに立体機動術と経験を叩き込んだベテラン兵である。

左腕にアンカーを刺して舞い上がった彼の動きは速かった。

あっさりと弱点部位である左手の甲を裂いた彼は、うなじに双剣を突き付けた。

 

 

「なっ!?」

 

 

だが、彼は気付かなかった。

カラネス区の壁を乗り越えた個体と同じ様に()()()()()()()()()()()()()()()に…。

 

 

「ごげぁああっ!?」

 

 

なにより異形の巨人は、肉体にアンカーが刺されると反撃行為をしてくる事に失念していた。

その代償に地面に叩きつけられた彼は、死という対価を支払って無理やり身体に教え込まれた。

 

 

「よくも先輩を!!」

 

 

負傷したエルヴィン団長をハンネスに任せたオルオは、こいつを討伐する事を決意した!

カラネス区で発見した個体は泣く泣く他の兵士に討伐を譲ったが、今回だけは許せなかった。

古巣でお世話になった先輩を殺害されて彼は正気を失っていた。

 

 

「オルオ!」

「……ああ、そうだったな」

 

 

ペトラの制止の声を聴いてオルオは双剣を構え直した。

もう独りではないという事を思い出して一瞬だけ伴侶を見た。

彼女が頷いたのを見たオルオは、迫って来る6m級の異形の巨人の動きを見抜く!

 

 

「ここだ!!」

 

 

右手の甲に弱点部位があるのを見抜いたオルオは、そこを削ごうとした!

 

 

「クソが!!」

 

 

しかし、オルオは攻撃を中断して後退する羽目になった。

 

 

「勝てる訳ねぇ!!」

 

 

60m級の超大型巨人が4体も襲撃してきたとなれば、逃げるしかない。

ようやく【地鳴らし】の脅威を発揮し、致死になりかねない蒸気が辺りに漂い始めた。

 

 

「くっ!!」

 

 

ペトラもオルオを援護したかったが、それどころではない。

超大型巨人が上空に跳んだと思ったら飛び蹴りを仕掛けて来た!

そのせいで周囲に居た超大型巨人にアンカーを刺して舞い上がるしかない!

 

 

「あつっ!?」

 

 

身体に蒸気が当たらないと想定する風上をいっきに目指したとはいえペトラは火傷した。

既に超大型巨人の表皮は300°に迫ろうとしているので…そこから出る蒸気も高温だった。

それでも必死に30mまで登った所で、凄まじい衝撃に襲われる。

ガス噴出を利用して超大型巨人との激突を防いだペトラはぶら下がる事しかできなかった。

 

 

「ペトラ!!」

 

 

ペトラと比べれば軽度の火傷で済んだオルオだが、彼女を助けに行けない。

衝撃を受けて両手と膝を地面に付いた超大型巨人を登って顎型の異形の巨人が襲撃してきた為だ!

 

 

「邪魔するな!!」

 

 

痛覚や温度感覚が存在しない6m級の異形の巨人は、高熱の蒸気すら完全に無視をする。

獲物を見つけて飛び掛かって来るその様は、まるで人間を嘲笑う悪魔だった。

伸びた硬質化の爪の先を双剣で逸らしたオルオは、超大型巨人の背後に向かって立体機動をする!

そこで「待ってました」と言わんばかりに別の超大型巨人が両手を伸ばしてきた。

 

 

「させない!!」

 

 

ペトラの声を聴いたオルオは、自重を支えるアンカーを巨人の表皮から外した。

その瞬間、ペトラが自分に飛び掛かって来て攻撃を回避!

抱き寄せながら残ったアンカーを撃ち出して振り子の様に宙に舞った。

 

 

「…で?どうするの?」

「どうしようかな…」

 

 

超大型巨人の右側にある耳朶にぶら下がったオルオは、伴侶の質問に笑って返すしかない。

片手は塞がっているし、残る腕もペトラの胴体を必死に抱いていた。

魅力的で弾力性がある双丘も、彼女から漂う素敵な香りも、ここでは無意味だった。

この体勢のままでは、アンカーを巻けないし、伴侶も両手と2つのアンカーが伸び切っていた。

 

 

『一か八か落下するか!?』

 

 

ここで詰みを回避するには、2人は離れてワイヤーを巻き取り、アンカーを撃ち込む必要がある。

だが、地面に激突するまで5秒もない状況下でそれをやるのは不可能だった。

 

 

『兵長ならどうする!?』

 

 

考えを放棄しないオルオは、伴侶が決断を出す前に…。

超大型巨人が集中砲撃された事を知った。

 

 

「全弾!!ここで撃ち尽くせ!!」

 

 

マルロを筆頭に命懸けの奮闘によって異形の巨人が討伐された事で砲兵が砲撃を開始したのだ。

獣の巨人による投石や飛来物を撃墜する事を想定している新型のブドウ弾が市街地に降り注ぐ!

耳朶からぶら下がった2人を掴もうとした超大型巨人の側頭部にも衝突し、大爆発を起こした。

 

 

「ペトラ!今のうちにアンカーを巻き取れ!!」

「もうやってる!!合図が出たら放して!」

「分かった」

 

 

ペトラは既にワイヤーを巻き取っていたが、どこに撃つべきか迷った。

下手に撃てば超大型巨人の蒸気に身を炙られる。

だがらといって待機し続けても、生き残る可能性は無い。

 

 

「オルオ!今度は私が受け止める!」

「了解!!」

 

 

さきほどの衝撃に耐えて立ち続けていた超大型巨人が近づいてきてペトラは腹を括る!

簡潔な作戦を伴侶に伝えてからすぐに飛び降りた!

続いてアンカーを撃ち出した直後、同じく飛んだオルオが伴侶に抱き着く!

そのまま再び振り子の様に上空に待った彼女はアンカーを外した!

 

 

「討伐!」

「了解!」

 

 

右ストレートで殴りにかかった超大型巨人にペトラは残ったアンカーを撃ち出す!

さきほど飛び出した隙に両方のワイヤーを巻いたオルオもアンカーを射出した!

息が合ったバディアクションで超大型巨人のうなじを削いで急いで地上に降りた。

 

 

「まずは2体!」

「……きついな」

 

 

うなじを削がれた超大型巨人は、隣に居た60m級の巨人の側頭部を勢いよく殴打した。

その衝撃で頭がぶっ飛んだ際にうなじが大きく裂かれて2体目の超大型巨人の討伐に成功した。

だが、新婚夫婦はその時点で満身創痍に陥っている。

 

 

「ガスは?」

「ほとんど無いよ…」

「俺もだ…」

 

 

既に立体起動できるガスがほとんど残っていなかった。

しかも、交戦するほど火傷が発生し、その度に動きがどんどん鈍っていた。

おまけに能力者と違って無制限に動き回れるという超大型巨人が相手だった。

リヴァイ兵長ですら死を覚悟する窮地を前にした新婚夫婦は…。

 

 

「足掻くか?」

「もちろん!」

 

 

絶望的な状況下でも、最後まで2人は戦い抜くつもりだ。

双剣を構えて着地に失敗して横転を続ける超大型巨人と向き合う。

ゴロゴロと自分たちに向かって転がって来る巨人を見て満身創痍だった夫婦は頷いた!

 

 

 

「「え?」」

 

 

刺し違えようとした時、巨人の足元で爆発が発生し、超大型巨人はその衝撃で吹っ飛んだ。

対人立体機動部隊による砲撃にしては、威力があり、明らかに新兵器が投入された感じであった。

しかし、そんな兵器を出し惜しみする必要が無いので2人は必死に原因を探ろうとしていた。

 

 

「金髪の巨人!?」

 

 

次に見えたのは、金髪の巨人であった。

四足歩行で動くその巨人は、転倒した超大型巨人に絡んでうなじに向かって噛みつき始めた。

 

 

「アルミンか!!」

 

 

オルオの予想通り、目が覚めたアルミン・アルレルトが巨人化したのだ。

流れ込んできた前任者であるピーク・フィンガーの記憶で目が覚めた彼の動きは速かった。

すぐに自分の能力と特性を把握して存分にそれを活かし始めた。

 

 

「じゃあ、俺らの相手は…」

「こいつだけ!!」

 

 

うなじを荒らしまくって超大型巨人を討伐したアルミンは最後の巨人に挑んだ。

その光景を目にしたオルオは笑って自分たちが相手をする化け物を見る。

高熱の蒸気に蒸された表皮が剥がれて筋肉質の繊維が良く見えた。

 

 

「来いよ!!」

 

 

火傷の痛みに堪えながらオルオは、閃光弾が装填された専用銃を片手に挑発をする!

チャンスは一度しかないが、それでもこれで終わらせるつもりだ。

 

 

「…なんてそんな好都合な展開は無理か!!」

 

 

「いざ、尋常に勝負」という展開になろうとしても、人間同士の戦闘ですら成り立つのは珍しい。

ましてや、人間の意識が無い巨人なら尚更だ。

彼の発言を聴いて瓦礫の山から飛び出してきた土竜(モグラ)型の異形の巨人も相手をする羽目になった。

 

 

「ペトラ!!後ろを任せた!!」

「オルオこそ私を抱く前に死なないでよ!」

「もちろんだとも!!」

 

 

ブドウ弾の雨、何度も繰り返すアルミンの巨人化による爆発、超大型巨人が動く事による振動。

平衡感覚どころか聴覚すら失いつつある2人は、相方の言葉などほとんど聴き取れなかった。

だけど、ようやく相思相愛が成就して誕生した新婚夫婦はお互いの発言を確かに受け止めた。

 

 

「私はペトラ・ボザドよ!!聴いてるかこのバケモン!!」

 

 

音で反応する変異種を彼女は今まで見た事が無かったが、その巨人に関する話は聞いた事がある。

だから誰よりも大声を出して地面を掘り進める巨人の注意を惹いた!

 

 

「喰らえ!」

「喰らいなさい!」

 

 

オルオが閃光弾、ペトラが音響弾を発射したのは同時だった。

そして伴侶に背を向けていた彼女はすぐに彼と合流した。

 

 

『左』

『右』

 

 

目配せでどっちが両方にある弱点部位を削ぐか瞬時に決めた夫婦に迷いはない。

巨人討伐数が最も多いオルオと最も討伐補佐をこなしたペトラは共同作戦が多かった。

だから瞬時の目配せで双方の弱点部位を削いですぐさま異形の巨人のうなじを削いだ!

 

 

「へっ!一昨日に来やがれ!」

「二度と来なくていいわよ!」

 

 

6m級の顎型の異形の巨人を討伐した2人は踵を返した。

最後に残ったジーク・イェーガーの置き土産を討伐しようと試みる。

 

 

『居ねぇ…』

『クッ…やはり手強い…!』

 

 

しかし、地中に潜ったのか、もう1体の異形の巨人は地上に居なかった。

だが、さきほど声を出したおかげでどこから来るのか分かっている。

無言で2人が奔った直後、さきほど居た場所から地面を突き破って巨人が出現した!

 

 

 

「オルオ!!こいつは即死級の蒸気を出す!!」

「なら話は早い!!」

 

 

あえて腹に力を込めて大声で叫んだペトラの発言の意図を察したオルオも大声で返答した。

すると、まんまと大声で反応した巨人が迫って来た。

既に超大型巨人が傍に居ない事を確認していた2人に隙は無い。

 

 

「おりゃ!」

「てい!」

 

 

ペトラとオルオは、落ちていた瓦礫を拾って巨人に向かって投げつけた。

すると高熱の砂利を含んだ蒸気を背中から大量に放出した。

しかし、超大型巨人と違って蒸気の量には限界がある。

更に蒸気を噴き出す際に踏ん張る影響で巨人は隙だらけだった。

 

 

『くたばれ!!』

『消えろ!!』

 

 

両腕の膝裏を削がれた巨人は前のめりに転倒し、頭を地面に強打した。

脳が揺れた影響なのか、蒸気を噴き出すのをやめて一時的に致命的な隙を作った。

その隙を2人が見逃すわけが無かった。

 

 

「みんなの!!」

「想いを!!」

「「思い知れ!!」」

 

 

息の合ったバディアクションでうなじを削いだ夫婦は、見事に着地してみせた。

地面を掘り進める影響で弱点部位を失っていた異形の巨人はあっさりと討伐された。

舌ベロを出してそのまま黒ずんで肉片が靄になって風に乗って消えていく。

 

 

〈オルオ班長!ペトラ副長!僕に乗ってください!!すぐに脱出します!〉

 

 

ちょうど、残っていた超大型巨人を討伐したアルミンが2人と合流した。

他の巨人化能力者と違って非力な四足歩行な巨人だったが、持久力は優れている。

すぐにでも、2人を助けようとしたアルミンは衝撃的な光景を目にした。

 

 

〈一旦、口に入れます!!動かないでくださいよ!!〉

 

 

オルオは右目を失明しており、かなり深い火傷を負っていた。

超大型巨人と接する時間が長かったペトラに至っては更に重傷だった。

すぐに瀕死だと気付いたアルミンは巨人の口に2人を含んで必死に走り出した。

 

 

『早くしないと!!』

 

 

既にシガンシナ区の市街地に生き残っているのは、3人だけである。

他に逃げ遅れた者は全滅し、50体以上が残る超大型巨人はアルミンを狙い出した。

砲撃はしているが、とてもじゃないが、60m級の巨体による波状攻撃は防ぎようがない。

 

 

『クソ……!!』

 

 

壁に居た超大型巨人を討伐しまくっていたリヴァイ兵士長も限界が来た。

いくら防熱装備をしているからとはいえ、防具以外は守り切れていない。

大火傷を負って錐揉み回転しながら地面に向かって落下を開始した。

 

 

『まだ終わる訳には…』

 

 

それでも巨人の気を惹こうと、リヴァイは1秒でも長く生き延びようとした。

僅かなガスを器用に使って方向転換をした彼はアンカーを射出し、残った民家に突き刺した。

必死に空中で前転をして空気中の抵抗を変化させて少しでも速度を調整した。

 

 

『いかねぇんだよ!!』

 

 

最後に残った双剣を装備してアンカーを外して弾丸となった彼は…。

思いっきり民家に刃を叩きつけて衝撃を殺した。

うなじを削ぐ為に柔軟に曲がる刃は、見事に衝撃を受けて折れてしまった。

だが、そのおかげで激突するエネルギーを刃に移す事に成功した。

 

 

『チッ…』

 

 

ただ、彼はここまでしか時間を稼ぐ事ができなかった。

少しでも泳ぎやすくする為に瞬時に立体機動装置と鞘を外したリヴァイは川に飛び込んだ。

 

 

『兵士長…わたくしも…』

 

 

ついにフローラも限界になって着地をした。

()()()()()()()()という異様な状況が彼女の現状を表していた。

 

 

『後に参ります……わ』

 

 

大量のキノコが視界に生えて来てカラフルに何度も爆発し、笑い声が聴こえた。

早く死ね、笑って死ね、喜んで死ね、愛を知って死ね…と自分が笑いながら(そそ)してくるのだ。

 

 

『ああ、もう分からない』

 

 

100人のフローラが、たった1つであるフローラ・エリクシアの肉体に向かって笑っている。

いや、怒っている、泣いている、四肢を捥がれた自分が何故か自分を見て笑っている感覚。

何が何だか分からず、火傷による痛みすら痒みへと……味覚に繋がっていた。

甘い、苦い、熱い、冷たい、臭い、五感と世界が融合する様な感覚がフローラを襲っていた。

 

 

「あはははははははは!!」

 

 

燃え盛る双剣でいろんな物を焼いて来たフローラは、川に刃を突っ込みながら笑っていた。

目の前に超大型巨人が迫るというのに…気付かずに笑い続けていた。

異世界と四次元と五感が混ざり合った気分になった彼女は最後まで笑い続けていた。

そんな無防備になったフローラを超大型巨人の大群は…踏み潰さなかった。

 

 

「ああ、来いよ!!」

 

 

超大型巨人の大群は、一斉にぴたりと動きを止めて同じ方角を見つめていた。

そして、自身に課せられた使命を達成するためにその方向に向かって走り出す。

それを確認した兵士は笑って馬を必死に走らせた。

 

 

「俺と一緒に最期まで遊ぼうじゃないか!!」

 

 

ポリ窒素爆弾である“百雷”を背中に抱えたハンネスは壁の外に向かっていた。

囮に釣られたと気付かない超大型巨人たちは、彼を殺すのを最優先にして走り出した。

まるで壁の外に居る勢力を滅ぼしに行く様に…。

 

 

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