進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

14 / 179
2章 希望が1つずつ潰えても絶望的状況を乗り越えられると信じていた時代
14話 前代未聞の抜擢


フローラは死にかけていた。

昨日、あれほど立体機動で身体に負担をかけたのだ。

むしろ、よくもったほうである。

 

 

「朝…わた…の…」

 

 

人体は、空中を回転しながら飛び回る動作など想定外である。

彼女の場合は、常人より遥かに平衡感覚と三半規管が鍛えられているとはいえ、

昨日だけで筋肉、内臓、三半規管への負担が、常人の生涯で受ける1万倍以上もあったのだ。

勢いとやる気と復讐心で誤魔化しても、疲労と肉体の負担は誤魔化せなかった。

なにより寝坊して朝飯を喰い損なったせいで、自律神経が大幅に乱れていた。

 

 

「フローラ!」

「フローラ起きてる!?」

 

 

ノック音と共にミーナとクリスタの声が聴こえてきた。

声を上げたくても呻き声しかできない彼女は諦めて無言で瞼を瞑った。

 

 

「あれ?まだ寝てるの?」

「フローラの事だもん、パンを鼻に近づければ起きると思うよ」

「サシャに次ぐ嗅覚の持ち主だもんね」

「ワンちゃんと同じ勝負のサシャに次ぐってすごいよね」

 

 

さすがにここまでコケにされると彼女は黙っていられずに抗議の声をあげた!

 

 

「あっ!!い!ぬ!?」

「起きちゃった…」

「とりあえず食べさせてあげましょう」

 

 

ミーナとクリスタは、パンをフローラの口元に近づけて食べさせようとする。

フローラは優しく手を払い除けて自分でパンを掴みベッドの上で齧って食べた。

 

 

「すごい生命力ね…明日には自由に駆け回ってるかも」

「だから言ったでしょ!2日間で医務室に7回も搬送された実績は伊達じゃないわ!」

 

 

生命力に対して、信頼されているのか馬鹿にされているか分からなくなったフローラ。

ただ、ミーナの性格上、前者であることは間違いない。

 

 

「目覚めた事だしフローラをトイレに連れていきましょう」

「ええ、命を助けられた私たちがしっかり介護しないと…」

 

 

さすがにトイレくらいは1人でできる。

そう思ったフローラは、無理やり立ち上がり身体がふらつきながらもトイレに向かおうとした。

 

 

「ダメじゃない、まだ安静にしてなきゃ!」

「トイレなら一緒に付いて行ってあげるわ!だから一緒に行こうね!」

 

 

彼女たちの邪悪な笑みで完全に理解した。

乙女として尊厳を踏みにじられた所を目撃した自分にも尊厳を損なってもらう。

すなわち、お相子を狙っているという事に…。

 

 

「あっ!待ちなさい!」

「しまった!?」

 

 

彼女たちの制止を振り切って扉から飛び出したフローラは、凄い勢いで兵舎中を駆け回った。

 

 

「おい、あいつ。疲労で寝込んでいたって聞いたのにもうあんなに元気になったのか…」

「知らんのかコニー、あいつは一晩寝ただけで疲労が全回復する噂があるって事を!」

「じゃあ、今晩もお前の晩飯を狙って来るな」

「その前にほとんど食べて見せるさ」

「お前の本能のままに生きていく図々しさだけは、ホント尊敬するよ」

 

 

ジャンとコニーを背後から追い抜き、時折四足歩行で駆けまわるフローラを見て呆れた2人。

これでもかなり心配したが、彼女の元気そうな姿を見て落ち込んでいたのがバカらしくなった。

 

 

「ねえコニー!?フローラを見なかった!?」

「あっ!?ああ、あいつなら、そこの角を右折していったぜ」

「ありがとう!行くわよクリスタ!」

「えぇ、絶対に捕まえて見せるわ!」

 

 

血眼で睨みつけながら服を力強く掴んできた彼女たちに思わず嘘を言ってしまったコニー。

異様な雰囲気を出しながら猟犬のように駆け出していく女たち。

 

 

「なにやらかしたんだあいつ」

「少なくとも女の子にモテモテで羨ましい、俺にも追ってくれる乙女はいないものか」

「お前みたいな糞みたいな性格の馬面じゃ、女は寄ってこないと思うけどなー」

「言ったなこの坊主野郎!」

 

 

喧嘩を始めた2人は、たまたま通りかかったライナーに仲介されるまで続いた。

一方、フローラはトロスト区戦で培った【特殊能力】を最大限に駆使して彼女たちから逃れた。

男子トイレの個室を利用して周囲の“声”を聴きながら移動しようとしたが無理であった。

結局、同期たちの目を盗むように重傷を負った逃亡兵の如く進んでいった。

道中で俯いてるフロック、ダズ、サムエルの憂鬱3兄弟に気付かれないように移動したほどに。

 

 

「そう、兵団選定の日は、10日後になったのね」

「トロスト区の巨人殲滅作戦が終了してないのもあるな、今でもやってるんじゃないか」

「それでエレンの処遇を決める会議は開かれてないのね!?」

「良く分からないが、そうらしいな」

 

 

入手した情報を軽くメモをしてフローラは手帳を閉じた。

エレンの安否が判明しなかったのは、もどかしいさがあったが少なくとも推測はできる。

既にエレンが巨人化できる人間であると壁内中に知れ渡っている以上、隠蔽など不可能である。

必ず人類を納得させる為に、公式に【兵法会議】を開き処遇を決めて発表するはずだ。

そう考えた彼女は、あらゆる可能性を想定して対策を練ろうと考えた。

 

 

「それより大丈夫なのか!?すごくフラついてるが!?」

「これが大丈夫に見えるの?」

「いや、全く見えんな、今日は休日になったから部屋に戻って休んだ方がいいぞ」

「ありがとう、でも安静にしてると悪化するから軽く乗馬で三半規管を慣らしてから寝るわ」

「余計に悪化すると思うんだけどな」

「とにかくクリスタとミーナには伝えないでね!ゴードン、貴方を信じてるわ」

 

 

同期の気遣いと情報提供に感謝しつつ彼女は、吸い込まれるように訓練所に向かっていった。

兵舎から訓練所に繋がる門は、目と鼻の先である。

もっとも、自分の思考を先読みしている女たちによって門で待ち伏せされている可能性がある。

だからわざわざ遠回りをし、近くの門から訓練所に向かった。

道の真ん中で昼寝しているサシャのおかげでフローラの移動はさほど目立たなかった。

 

 

「フローラ、安静にしてなきゃ駄目だよ…」

「ありがとう、ベルトルト」

「本当に死ぬよ!?あんたが死ぬとこっちまで精神的に参るから勘弁して」

「立体機動のやりすぎで平衡感覚が狂ったのよ!馬に乗るだけで良いのよ」

 

 

いざ、訓練所に着くとアニとベルトルトと遭遇してしまった。

慌てて理由を述べるが彼らは納得しないようである。

彼らの性格上、必ず自分を有無言わせずに兵舎へ送還するだろう。

普段ならありがたい心遣いであるが、今回はさすがに遠慮したかった。

 

 

「フローラああああああ!」

「なんかアルミンが呼んでるよ?」

「うーん、良く分からないけど良い話じゃなさそうね」

「まったく、気晴らしに訓練に来ただけなのに何で面倒事が重なるのかね…」

 

 

精神的に参っているアニは、訓練所に来たもののベルトルトの視線が気になってそれどころではなかった。

問い詰めても曖昧な返答しか返さずに場所を変えても付いてきてうんざりした。

更に明らかに死にかけているフローラが訓練所に併設されている馬小屋に向かって行こうとしたので呼び止めた。

すると、訳が分からない理屈で馬に乗ろうとするおバカさ加減に呆れるを通り越した凍り付いた。

必死に連れ戻そうとしたところ、アルミンがこっちに向かって走ってきたのだ。

頭がパンクした彼女は、死んだ目をして情報処理を放棄した。

 

 

「ちょ、何事なの!?」

「フローラ!早く逃げた方が良いよ!」

「クリスタとミーナ率いる救護班がお尋ね者のわたくしを探しに来たのね!?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 

自分の羞恥心や尊厳破壊された姿を見たがる女たちの話かと思ったフローラは肩透かしである。

アルミンもなんか良く分からない彼女の返答で一瞬、思考を停止してしまった。

 

 

「じゃあ、エレンの重要参考人として憲兵が連行しにきたのね!?」

「それも違うよ!」

 

 

フローラは内心で、心当たりがある事を言ってみたが外してしまった。

むしろ、これ以外の何があるのか本気で分からなくなった。

 

 

「調査兵団の分隊長がフローラを連行しようとしてるんだよ」

「憲兵じゃなくて?なんかの間違いでしょ!?」

「ホントだって!外観でフローラの名が出た途端、血眼で探し回ってるんだ」

「その分隊長って、ゴーグルを付けた女の人じゃなかった?」

「そうだよ」

 

 

身の危険を感じたほどの視線を送ってきた調査兵団の女兵士。

分隊長クラスとは知らなかったが、とてもじゃないがこの状態で遭遇したくなかった。

 

 

「あー!!そこに居たー!!」

「待ってください!彼女はまだ安静にしないと…」

「分隊長ー!?任務を部下たちに押し付けてどこに行く気ですか!?」

 

 

噂をすればなんとやら。

ハイテンションでこちらに走ってくる女分隊長。

それを宥めようとするが失敗して後ろから追って来るミカサと副官らしき男。

 

 

「ベルトルト!足止めを頼むわ!その間に逃げる」

「えっ!えっ!?えええっ!?」

「良く分からないが、あの女は制止させないと不味いね」

「って!?どこに行く気なの!?君は安静にしてなきゃ駄目だよ!!」

 

 

ベルトルトを囮に任命して気力を振り絞って馬小屋に駆け出したフローラ。

未だに平衡感覚のズレが直っておらず、直進してるつもりがだいぶ遠回りになってしまった。

それでも馬小屋に転がり込んだ彼女は、管理者たちの制止を振り切って乗馬して逃げ出した。

馬小屋に到着して1分ほどの早業であった。

 

 

「ほら!やっぱ元気じゃないか!」

「どう見ても我々から逃げ出しているしか見えませんが!!」

「そんな事はどうでもいい!とにかく勧誘しに行くぞ!」

「ちょっと…止まって」

「待ってください!一旦話をしましょうよ!」

 

 

勇気を振り絞って両腕を広げてベルトルトは呼びかけた。

アルミンもとりあえず釣られて進撃するハンジを制止させようとした。

しかし、彼女は馬の方に向かって走ってしまい、彼らの努力は水の泡になった。

 

 

「何してるの?」

「僕にもよく分からない」

「僕も…なんでこんな事を…えーっとアニ?」

「なんだい?」

「訓練している姿…もう一回見ていい?」

「ダメに決まってるだろう!アルミン、ベルトルトを頼んだ!!私は帰る」

 

 

バカらしくなったアニは、ベルトルトをアルミンに押し付けて兵舎に向かっていった。

 

 

「サンドラ…フローラを見なかった?」

「見てないわ」

「どうせ、訓練所に居るんだろう?」

「でもここには来なかった」

「訓練所に入る門は複数あるんだぞ?絶対侵入してるって」

 

 

門を見張っていたクリスタであるが、フローラが来ずに困惑していた。

仕方なく少し離れて同期に聞き取り調査を行なうが成果が得られなかった。

その様子を見ていたユミルが事情を聞いて呆れながらもアドバイスをした。

 

 

「だって…」

「私も取り押さえるのを協力するからさ、訓練所に行ってみようぜ」

「ありがとうユミル!」

 

頼れる親友の手を掴んで共に門を開いて訓練場に進んでいった。

ついでにサンドラも興味本位で気になったので同行して3人で歩いていった。

訓練所で彼女達が目撃した物はー。

 

 

「分隊長!さすがに可哀そうですよ!一旦退きましょうよ!」

「モブリット!ここで話をしとかないとまずいんだよ!」

「待ってください!フローラに何をする気なんですか!?」

「もうなんなのよおおおお!神様はわたくしに恨みでもあるわけ!?」

 

 

そこには、パジャマを着たフローラが馬で訓練所を駆けまわっており、その後方では調査兵団の兵士2名とミカサが馬に乗って追いかけている状況だった。

 

 

「凄いぞ!あの昨日で今日だ!これだけ動けるなら凄い兵士になるぞ!」

「あなたは人の心ってあるんですか!?」

「今、伝えないとまずいんだよ!直前になって伝えるのは可哀そうじゃないか」

 

 

ハンジ・ゾエは、速やかにあの訓練兵に伝えておきたいことがあった。

逃げられたのは予想外だが、そのタフさとスタミナ、そして行動力。

間違いなく逸材であった。

 

 

「しまった…色々やらかした…」

 

 

フローラは、乗馬して馬を走らせて初めてパジャマを着ている状態に気付いた。

それどころか、色々やらかしており報告書が10枚以上になるのは間違いない事にも気付いた。

 

 

「やっほーい!そこの君!そろそろ乗馬訓練は止めてもらえないかな?」

「分隊長、パジャマ姿で乗馬って、どう見ても我々から逃げる為にやってるのでは?」

「やだねー、まるで私たちが彼女を拉致して強制労働させる悪党じゃないか?」

「では、例の抜擢の話ではないのですか?」

「いや、その話だよ!」

「やっぱり悪党じゃないですかー!やだー!」

 

 

クリスタから見ると、何が起こっているのか分からなかった。

ただ、フローラが肉体を酷使している現実に絶望した。

思わず、彼女の前に飛び出していった。

 

 

「チッ!」

 

 

遠くに居るクリスタの姿を見たフローラは舌打ちをした。

涙目になっている彼女が一心不乱で、こちらに飛び出してくることを察したからだ。

舌鼓を何度も打って両脚で胴体を圧迫させて馬に次の指令を送るという意志表示をした。

そして馬が察してくれたのを確認した後、上半身を大きく傾けてから軽く手綱を引いた。

馬は嘶きながら大きく前脚を上げてその後、立ち止まったクリスタの目の前で振り下ろした。

 

 

「クリスタあああ!!危ないじゃないいい!!自殺しに来たの!?」

「だって…だって…!」

「さすがに焦った、クリスタ大丈夫か!?」

 

 

間一髪であった。

1秒でも判断が遅ければクリスタは最低でも全治半年の重傷を負うところだった。

そうならない為に彼女から横に回り込むようにしたのに無駄に近づいてきた結果であった。

馬から降りてクリスタの身体に異常がないか、必死に確認するフローラ。

まさか、馬に向かって突撃するとは思わず傍観してしまったユミルも追いついた。

 

 

「あんたの行動のせいでクリスタが死にかけたんだが、どう責任とるつもりだ?」

「じゃあなに?自己犠牲精神溢れる女神さまの看護ごっこに付き合えというの?」

「やっぱ、そういう理由だったか、そうじゃなきゃこうならんもんな」

 

 

泣きじゃくるクリスタに軽く小突いたユミルは、彼女の頭を優しく撫でた。

 

 

「とにかく私のクリスタが無事でよかったよ」

「そうね、さすがに彼女の心境を無視し過ぎたわね…今日は大人しくしておくわ」

「そんな事言って、またみんなの迷惑を掛けてクリスタを傷付けるんだろう?」

「……無言は肯定と取って良いか?」

「コニー、サシャと同じトラブルメーカーのわたくしに何を期待してるの?」

「大丈夫だ、最初からあんたに期待していない」

 

 

無傷なのを確認して一息つく暇もなくユミルに責められるフローラ。

既に罪悪感はあったが、ここまで悪い意味で信用されているのはショックであった。

 

 

「フローラ!」

「どうしたの?」

「トイレ行ってないでしょ?私が連れて行ってあげる」

「大丈夫、お世話はちゃんとしてあげるから…安心して放尿して」

「ねえユミル…クリスタが落ち着くまで面倒見てあげて」

「…そうだな、メンタルケアは、あんたに任せるから責任もってやれよ?」

「えぇ…分かってるわよ」

 

 

ユミルは、近くに居たサンドラと共に抵抗するクリスタを兵舎に連行していった。

クリスタは、何も残せずに巨人に喰われそうになったのを何度もフローラに助けられた。

命の恩人である彼女に何かしてあげたいが、昨日は中々機会が訪れなかった。

ところが翌日、動けなくなったフローラを見て絶対に看護するという気持ちが暴発していたのだ。

 

 

「よし、話は終わったみたいだから今度は私の話を聴いてもらおうか!」

 

 

肩を叩かれてフローラが振り向くと、さきほど追跡してきた女分隊長が居た。

 

 

「さきほどの会話で分かっているけど、名前でフローラで良いよね?」

「えぇ、そうですけど」

「よし単刀直入で言うよ!君には調査兵団に入ってもらう」

「別に構いませんわ、巨人を殲滅してシガンシナ区を取り戻す気なので…」

 

 

フローラすれば調査兵団一択であった。

ただ、ここまで露骨に勧誘されると思わなかったが。

 

 

「聞いたかモブリット!?やっぱ無駄な心配だったじゃん!」

「君、本当に良いのか!?無理をして言っていないかい?」

「無論です、わたくしは調査兵団に入る予定ですし、考えが変わる事はありません!」

「よしよし!良い返答だ!」

 

 

ハンジは、訓練兵の返答に大満足してご満悦な笑みを浮かべていた。

それと対照的に申し訳なさそうにモブリットは顔を背けた。

 

 

「じゃあ、明日の午前7時にフル武装してトロスト門の壁上に集合してね」

「はい?」

「いやー調査兵団に入る前にどういう仕事をしてるか知っておくのって重要じゃない?」

「確かにそうですけど」

「そ こ で、明日、体験入隊してどんな仕事をするか確認しても損はないよね?」

「ええ、仰る通りです」

 

 

なんか話が良く分からない方向に転がっているものの納得はできるので肯定した。

 

 

「しかし不味いですよ…正式配属前の訓練兵を使うなんて…」

「大丈夫大丈夫、上には今から話を通しておくからさ」

「分隊長!?今からですか!?」

「だって、名前も分からないのに話せないだろう?」

 

 

昨日の壁上であった時もそうだが、この女兵士はかなり自己中心的である。

副官らしき男が必死に宥めているが、そこまで止める気はない感じがして同罪な気がした。

 

 

「じゃあ、明日の午前7時にトロスト門で逢おう!私の名前はハンジ・ゾエ!よく覚えておくように」

「私の名前は、モブリット・バーナーだ…済まない君を巻き込んでしまった」

「なにやってんのモブリット!要件は済んだから、はやくトロスト区に戻るぞ!」

「はい、ただちに!」

 

 

嵐のように現れて嵐のように調査兵団の兵士たちは去っていた。

とりあえず、名前と特徴と第一印象を手帳に記録したフローラは馬を馬小屋に返しに行った。

何度も頭を下げてなんとか解放されて兵舎に帰った。

一方、ミカサとアルミンは調査兵団に報告してハンジがこってり絞られるのは別の話。

 

 

「ユミル、バトンタッチよ」

「ああ、頼む」

 

 

フローラは、途中でライナーに逢って挨拶した後、ユミルたちと合流してクリスタを回収した。

目を充血させた彼女を伴って部屋に戻ると先客が居た。

フローラが寝ていたベットにミーナ・カロライナが寝息を立てて寝ていたのだ。

 

 

「さすがに叩き起こすのは可哀そうね」

「うん」

「髪の毛を梳かして、香水を付けたら寝るわ」

「私も手伝っていい?」

「じゃあ髪の毛を梳かすのをお願いするわ」

「うん」

 

 

目を輝かせてブラシをもったクリスタは、無駄に髪の毛を梳かした。

そして予備のパジャマを何故かゆっくりで着せ替えてもらった。

その後、自作した香水を彼女に付けてもらったフローラはベットに向かっていった。

 

 

「でもなんでフローラのベッドに居るんだろう?」

「よく分からないけど、温もりと匂いが欲しかったんじゃないのかしらね」

 

 

同期であり親友であったトーマス・ワグナーが志半ばで戦死。

同じ班だったミーナも巨人に喰われかけて精神が崩壊寸前だった。

最後の拠り所になったのは、親友であり命の恩人であるフローラであった。

クリスタと別れたあと、寝室に戻って親友が戻るのを待っていたがそのまま寝てしまった。

そんなドジっ子のミーナであったが、壊れかけた心を癒すように熟睡していた。

 

 

「クリスタ、あとは頼んだわよ」

「フローラおやすみなさい」

 

 

フローラはクリスタに自身が勝手な行動を取らないように見張るようにお願いをした。

こうすることで、頼られていると認識させると同時に勝手な真似をさせずに済むからだ。

そして先客のミーナであったが、追い出すことはせずに同衾する事にした。

今日逢った同期たちの誰もが鬱状態であり、その中でも追い詰められた彼女。

今朝逢った時の“声”は、「私は貴女の為なら、肉体も精神も魂も全て捧げます」だった。

 

 

「人生って中々うまくいかないものね…」

 

 

乗馬によって平衡感覚を調整したフローラは、ミーナに向き合いながら瞼を閉じた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。