進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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143話 回想9-2 親友が敵だと知る前の女悪魔の軌跡

超大型巨人と鎧の巨人によってシガンシナ区に存在する2つの門が破壊された日。

人類はウォール・マリアの領域を放棄してウォール・ローゼが最前線になった。

その5年後、再び超大型巨人がウォール・ローゼから突出した城塞都市トロスト区を襲撃した。

正門を破壊された事で巨人の大群が侵入し、兵士たちの奮闘によって何とか街は死守された。

 

 

「人類は巨人に勝てるんだ!!」

「我々はまだ生き残る事ができる!!」

 

 

人類史上で初めて巨人に勝利した出来事であって英雄の活躍に民衆たちは歓喜した。

ところが、同じく壁から突出している城塞都市が次々と巨人に襲撃される事となった。

人類活動領域最東端にして第57回壁外調査における拠点となった商業都市カラネス区。

人類活動領域最北端にして数少ない温泉を有する工業都市ユトピア区。

それらの城塞都市でも巨人の群れが襲撃し、駐在する兵力に大打撃を与えた。

 

 

「次はクロルバ区か?」

 

 

なので唯一巨人に襲撃されていないクロルバ区が次の標的になるかと思われていた。

実際、ウォール・ローゼ内に巨人が出現したと報を受けてクロルバ区の駐屯兵は大騒ぎした。

結果としては、トロスト区とクロルバ区の間にある領域に出現した巨人が全て討伐された。

幸いにもクロルバ区に巨人が侵入してくる事は無かったが、誰もが分かっている。

次に大惨事になるのはクロルバ区だと…。

 

 

「これでいいかな」

 

 

ウォール・ローゼから突出したカラネス区と反対側に位置するクロルバ区は資源都市と呼ばれる。

北西には大量の【燃える液体】が産出される油田が存在し、南西には大量の黒金竹が生えている。

更に近くにある鉱山には鉄や銅、一部では金まで採れるほど資源が豊富であった。

故に公害が他の地域より多発しており、医療や公害病に関する知識や経験が豊富である。

そんなクロルバ区で買い物をしたミーナは、親友が入院している病院に帰還する事にした。

 

 

「それにしても物騒な都市ね…」

 

 

ミーナは南方訓練兵団の拠点であったトロスト区と比較してクロルバ区を物騒な場所と評した。

城塞都市の襲撃に神経を尖らせているのか街中の至る所に大砲が設置されていた。

病院の屋上にも3門の大砲が設置されており、まるで戦時中のようである。

 

 

「ただいま!」

 

 

観測手や見張りの多さも相まって『なんか怖い場所』と考えていたミーナは速足で病室に戻った。

そこでは、脊髄を損傷して下半身が動かないエルティアナ女史とフローラが罵倒し合っていた。

 

 

「どうやら貴公には死神と悪霊が取り憑いているようだ。どこかで祓いに行く事を勧める」

「エルティアナ監査副長も不運続きでありませんか、わたくしと一緒に御祓いに行きません?」

「やだよ、というか何で貴公と病室が一緒なんだ。これ以上エセお嬢様と関わりたくないんだが」

「エセお嬢様とは失敬ですわ!」

「やかましい!!お前のせいで新型立体機動装置の量産計画でどれだけ酷い目に遭ったのかと…」

 

 

唯一動く左手で果物を咀嚼するエルティアナは、リハビリ運動をするフローラを煽っていた。

一見すると仲が悪く見えるが、それは彼女なりの激励であった。

つまり、さっさと顔馴染みに顔を見せてやれという提言である。

 

 

「相変わらず仲がよろしいことで」

「うるさい」「うるさいですわ」

 

 

エルティアナ配下である兵士が微笑ましい光景を見て思わず失言してしまった。

2名の女から罵倒されるが、あまりにもタイミングが合い過ぎて再び笑ってしまった。

 

 

『…なんであそこまで強いんだろ?』

 

 

巨人と交戦して死にかけたのにそんな素振りなど彼女たちは見せなかった。

故にミーナ・カロライナはその強さに疑問に思うと同時に羨ましいと思った。

未だに自分が巨人に喰い殺される光景がフラッシュバックし、ずっと悩んでいた。

だが、フローラとエルティアナ女史の漫才を聴くだけで考えるだけアホらしいと思ってしまった。

 

 

「そこで余裕ぶっこいている貴公に隠し事があるんだが、話して良いか?」

「わたくしも色々隠してますけど暴露してもよろしいでしょうか?」

「お前は隠し過ぎなんだよ!!さっさと吐け!!」

「痛い!痛い!!殴らないでくださいまし!」

 

 

どうやらエルティアナはフローラに内緒に何かをしていたようだ。

それに対してフローラは煽り返したせいで余計に話がむちゃくちゃになった。

この機会にフローラに秘密を全て白状させたいエルティアナは先手を打つ事にした。

 

 

「コホン、まずカラネス区にある貴公の私室から荷物を運ばせてもらう事にした」

「え?」

「え?じゃない!お前の部屋にはヤバい物が山ほどあるだろう!?」

「暗号化してるから大丈夫ですわ」

 

 

フローラは様々な人と交流しているせいで郵便が山ほど入り口に積み重なっていた。

当然、部屋にはそれを上回る荷物が置いてあり、中には王政にとってまずい物も混じっていた。

上層部がフローラの存在を隠蔽して行動を起こすと察して事前に女将校は荷物の移動を命じた。

だが、フローラは問題ないというのでエルティアナは自信満々の根拠を訊く事にした。

 

 

「例えば?」

「自分が食べたい料理のメモに偽装してウォール教のローデリヒ枢機卿の誅殺計画を…」

「初耳だが?王政の内務大臣と大総統を脅迫しただけで終わったのではないのか!?」

「いえ、レイス卿の動きを阻害する糞野郎を誅殺しようと思いまして計画を…」

 

 

とんでもない爆弾発言を聴いたエルティアナは詳細を聴きたくて更に質問を繰り出した。

 

 

「だが、そんな事をしたら中央第一憲兵団が黙っていないぞ?」

「大丈夫ですわ、200名以上の中央憲兵と駐屯兵団第二師団長とその配下、更にローデリヒ枢機卿に恨みがある奥様と脅迫して従わせた内務大臣と大総統、デレトフ会長が彼を始末させるので…」

「は?」

「あれ?」

 

 

ここでフローラは失言したと実感した。

王政が危険視する兵器を開発している時点でフローラは既に王政のコントロール外だった。

初代レイス王の楽園計画に乗った王政府は中央憲兵を使って楽園の維持を務めた。

ところが、フローラは中央憲兵の大半を掌握してしまい、逆に王政府を脅迫している有様だ。

 

 

「前から思っていたのだが、お前の財力とコネが気になってしょうがない」

「えーっと」

「丁度、貴公の親友が居る事だ。この期に貴公の成り上がり話と秘密を共有したらどうだ?」

 

 

これ以上、追及しようとしても話をはぐらかされると思ったエルティアナはミーナを利用した。

現にミーナは話についていけずフローラの顔をじっと見つめている。

さすがに隠し切れないと観念したフローラは口を開いた。

 

 

「どうやら自分の資金源やコネや縁に関してご説明しないといけませんわね…」

「たかが新兵がここまで成り上がれると思えん。全て話せ」

「承知しました」

 

 

フローラ・エリクシアは語る。

シガンシナ区で活動していた商人の令嬢は、記憶を失ったどころか全て失った。

だから104期訓練兵団を卒業しても同期以上にフローラはコネや縁が無かった。

そんな彼女が成り上がるきっかけになったのは、トロスト区に巨人が押し寄せた時だ。

 

 

『クソ…巨人め』

 

 

エレンが率いた固定砲整備4班は、正門跡地で巨人を5体討伐する事ができた。

いや、フローラが全て討伐したのだが、それでも10体以上の巨人の侵入を許した。

駐屯兵からの命令で退却をする事にした同期たちは、誰もがフローラに頼る事となった。

 

 

『ジャン!絶対に赦さないんだからあああああああ!』

 

 

そのせいで立体機動装置が壊れたジャンに代わってフローラは巨人の大群に追われた。

そしたらピクシス司令率いる部隊に集中砲撃を喰らった。

その際にフローラは負の感情を“声”として聴ける能力が開花した。

 

 

『退いてえええ!きゃああああああ!!!』

 

 

だからといってガス切れが近かったフローラは必死に50mの壁を登った。

そこで駐屯兵団の部隊からガスボンベ6本と1人分の刃を受け取って戦場に戻った。

その際に彼女はピクシス司令と縁ができてその後に繋がっていく。

 

 

『家族を守りたい者だけが任務に参加せよ!トロスト区奪還作戦を本時刻をもって開始する!』

 

 

巨人化できると判明したエレンがトロスト区にある岩で門の穴を塞ぐという作戦が立案された。

その為にエレンの同期や駐屯兵団第一師団、更に援軍の駐屯兵団第三師団は全力で任務に就いた。

こうしてトロスト区奪還作戦が始まったが、ピクシス司令の命令にフローラは耳を疑った。

 

 

『フローラ・エリクシアは、遊撃要員として、できるだけ多くの巨人を討伐せよ』

『は…えっ?』

 

 

ピクシス司令は、巨人の大群を連れて同期の囮になった彼女を高く評価した。

当然、遠回しに死刑宣告を受けたフローラは反論した。

 

 

『お待ちください!わたくしは人間ですよ!ガスもブレードも尽きれば囮にすらなりません!』

『そこじゃ!おぬしは、補給があればいくらでも巨人を討伐できるという事じゃ!』

 

 

ところが、ピクシス司令は補給さえあればフローラは戦えると判断!

最優先で補給を受けられる権限がフローラに付与される事となった。

これにより彼女は壁内で補給に困らなくなった事により、更に活動を活発させる事になる。

 

 

『よし単刀直入で言うよ!君には調査兵団に入ってもらう』

 

 

獅子奮迅の活躍になったフローラの話は調査兵団の耳に入る事となった。

そこで調査兵団第四分隊のハンジ・ゾエ分隊長は、フローラを勧誘する事となった。

 

 

『別に構いませんわ、巨人を殲滅してシガンシナ区を取り戻す気なので…』

 

 

ウォール・マリア奪還をするなら調査兵団一択だと分かっていたフローラはそれを承認した。

ところが、ハンジは卒業したとはいえ訓練兵団に在籍しているフローラをトロスト区に投入した。

さすがに異例過ぎた事もあり、この時からフローラの活躍が大人の事情で伏せられる事となった。

 

 

『あんたのおかげで命拾いした!本当にありがとう!!』

 

 

同時期に駐屯兵団第一師団工兵部技巧科技術4班グリズリー・グリューブルクが彼女と接触した。

彼はトロスト区奪還作戦で変異種に追われていた所をフローラに助けられた借りを返そうとした。

丁度、装備に不満があったフローラは、技術4班が試作した短剣型立体機動装置に興味を持つ。

そこでフローラは、人生で初めての壁外作戦に短剣型立体機動装置を実戦投入した。

 

 

『新装備の実戦テストができたので満足です!』

『そうそう!この子いつの間にか新装備を持っているんだよ!!凄いよな!!』

 

 

結果としてシュツルムシリーズは迫撃に優れており、フローラは満足する事となった。

ハンジは興味津々に新兵器を持ってきた新人を褒めたが、フローラは更に性能が欲しかった。

だから彼女はこの装備を更新したかったのだが、資金もコネもなければできないはずだった。

それが可能になったのは、ピクシス司令による最優先で補給を受けられるという権限だ。

 

 

『わたくしなら単独で巨人を10体討伐できますわ!!』

『ほう?ならば見せてもらおうではないか』

 

 

ウォール・シーナから突出したストヘス区でフローラは大貴族に喧嘩を売られた。

その際に彼女は自分なら巨人を10体討伐できると啖呵を切った。

本来ならあり得ないはずであったが、既にフローラの情報は王政にも届いていた。

 

 

「ふん、無様に喰われるところを見てやろう」

 

 

ここでフローラの発言を引き出す機会を作ったのは、王政の四大幹部であるアウリール大臣だ。

その報は、当然の如くエルヴィン団長に届いて彼は調査兵団の物資を彼女に触れなくした。

ところが、ピクシス司令のおかげで装備を調達できたフローラは、約束通りに行動した。

第57回壁外調査の拠点となっていたカラネス区の壁外で巨人討伐ショーを開催する事となった。

 

 

『うおおおおお!やるではないか!』

『ふむ、これなら第57回壁外調査も期待できるというもの』

 

 

結果として巨人を14体討伐したフローラは、無様な死にざまを見に来た悪徳貴族を喜ばせた。

あまりにも刺激的な光景を見れて満足したのか、彼女に向かっておひねりを投げつけた。

そのおかげでフローラは、馬を購入できる資金と共に貴族や王政幹部と縁が作れた。

ヒストリアの父親であるレイス辺境伯とそこで出会った。

 

 

『正気じゃない…本当に馬鹿だあいつは…』

 

 

ついでにリーブス商会の会長に活躍を見られる事となった。

これは意図していなかったが、後に彼とビジネスパートナーとしての縁ができる事となった。

 

 

『良いのか!?本当にこの馬でいいのか』

『えぇ、この子にします』

 

 

安物買いの銭失いと言わんばかりにオーナーから警告されたが、フローラは馬を購入した。

白毛という品種から突然変異で誕生した汗血馬は、ヒストリアにライリーと名付けられた。

フローラの相棒となったライリーは、なんだかんだで似た者同士として活躍した。

 

 

『そろそろ勲章が邪魔になって来たわ…』

 

 

この時点になると王政府からフローラは無視できない存在となっていた。

兵士単独で14体も巨人を討伐できると民衆に知られたら大変な事になるからだ。

そこで口封じも兼ねて山ほどの勲章をフローラに送ったが、彼女からすれば余計なお世話だった。

 

 

『ちょっとトロスト区で売れる場所が無いか探してみましょう』

 

 

表向きに勲章を売れなかったフローラは闇市場のコネを探してトロスト区に向かった。

 

 

『そのポンコツな馬を売っ払った金で、リーブス商会の品でも買ったらどうだ?』

『…ライリーを馬鹿にしましたの…?』

 

 

そしたら偶然遭遇したディモ・リーブスに相棒を侮辱されてフローラは激怒した。

金貨10枚ならもっとマシな物を買えると暗に告げた彼はすぐに自分の失言を撤回した。

 

 

『リーブス会長様は、この勲章を売買できる場所はご存知でしょうか?』

『ああ、非合法ルートだが知ってるぞ…売ってどうする気だ?』

『納税を引いて残った資金で投資する予定です』

 

 

そして勲章を売り払って得た資金でフローラは投資する事を考えた。

どうせいつ死んでも可笑しくない状態だったので何かできないかと模索していた。

彼女としては、トロスト区復興にも役立つ土木工事と兵器開発に投資しようとした。

 

 

『それも良いが、このトロスト区に投資してみないか?』

 

 

会話している内に知り合いの娘だと気付いた会長はトロスト区の投資を勧めた。

商人の血が流れているフローラは未知なる未来に賭けるというのは面白かった。

それと同時にこの人から自分の過去を掘られたくないと考えてあえて彼の意見に同意した。

 

 

『さて、どうしましょうか』

 

 

ただ、資金があってもトロスト区に投資したところで水が砂に消える様に無駄になるだけだった。

あえて言うならトロスト区の経済を司るリーブス商会が活発になれば自然と街も復興できる。

その手段を考えていたフローラは、数少ない残った記憶で精製できる香水に着目した。

 

 

『そうですわ!!香水を貴婦人に売り捌きましょう!材料は訓練兵でも調達できますし!!』

 

 

フローラの服用する香水は、リラックスハーブとアルコール、そして一部の材料で構成される。

ハーブという植物は異様に繁殖力が高いので事実上、タダで調達できるのが功を奏した。

体臭が文化と称される人間社会でも異様に臭い体臭は避けられる事もあり勝機もある。

なのでフローラはリーブス会長と協力して巨人討伐ショーで知り合った貴族に香水を売りつけた。

 

 

『まさかレイス辺境伯がわざわざここに訪ねられるとは思いませんでしたわ』

『風の噂で頑張っている君の話を聞いてな、少しだけ興味を持ったんだ』

 

 

自分の体臭が気になっていた貴婦人を中心に飛ぶように香水は売れて大分儲かった。

次の商売についてフローラは悩んでいるとヒストリアの実父であるロッド・レイス卿が接触した。

彼曰く「諸事情で別れる事となった娘が調査兵団に入団したと聴いて相談しにきた」と発言した。

この時点でのフローラは彼の思惑に気付けずに困惑したが、色々相談する事となった。

 

 

『なるほど、道理で技術を制限してきたわけですね』

 

 

自力ではヒストリアを救えないが、彼女を始末しようとしている王政にも頼れない。

そこでレイス卿は世渡りが上手いフローラを利用して王政に対抗できる様に育成を始めた。

その際に王政が隠している事実の1つを教えるとフローラはようやく納得できた。

技術班から王政の愚痴を聴かされた彼女は、王政が技術を抑制している事に気付けた。

 

 

『ありがとございます。クリスタの件は引き続き見張らせて頂きますわ』

 

 

とりあえずレイス卿から王政における礼儀作法や王政の暗部を教わったフローラは学習した。

上手く短剣型立体機動装置を改造しようとした時、とんでもない事態が発生した。

 

 

「はあ!?」

 

 

フローラは新型の立体機動装置で巨人を掃討したせいで憲兵に目を付けられた。

そのせいでシュツルムシリーズを憲兵に提出した。

ところが、軽くて動きやすい兵器は憲兵たちに人気となって量産計画が立案された。

まだ試作品にも関わらずに王政府は短剣型立体機動装置の量産を命じた。

 

 

『無理に決まってるでしょ!?』

 

 

装備を開発した駐屯兵団第一師団の工兵部技巧科の技術4班とフローラは慌てた。

何故なら従来の立体機動装置と比べて互換性が少ない上に量産体制が整っていない。

新型の馬車を開発しても、実際には量産試作や強度試験があるので量産されるのは先の話となる。

それと同じで量産設備が無いのに装備を量産しろという命令を受けたフローラは察した。

 

 

『さては、わたくしたちを嵌めようとしているわね!?』

 

 

半年以内に量産体制を確立し、3年以内に憲兵の装備がシュツルム一式に統一など不可能だ。

それを王政府が分からないはずは無いので、これは体のいい王政の陰謀であった。

要するに大失態を犯す事を期待して王政は無理難題を振ったという事である。

どうせ、兵器開発するグリズリー班を処分する建前を作ろうとしたのだろう。

 

 

『こうなったら徹底抗戦よ!!』

 

 

そこでフローラは自分が交流した人物に泣きついた。

要するにピクシス司令とリーブス会長とロッド・レイス辺境伯に恥を捨てて頼ったのだ。

するとすぐに司令から協力してくれると報を受けてフローラは歓喜した。

 

 

『ふむ、これはザックレーを巻き込まないと無理だな』

 

 

真っ先に事態を知ったピクシス司令はザックレー総統及び総統局を巻き込んだ。

その影響でフローラはザックレー総統やエルティアナ監査副長と知り合う事となる。

 

 

『…まあよくもこんな巨大なプロジェクトを引っ張ってきたな』

『絶対に破綻するのはご理解いただいたと思います』

『じゃあ、なんでリーブス商会に協力を要請したんだ!?』

 

 

エリクシア夫妻の忘れ形見から兵器量産プロジェクトを知らされてリーブス会長は呆れた。

もちろん、商人の令嬢が彼の思考を見抜けない訳もなく対策を打った。

 

 

『なるほど、リーブス商会には王政府の首脳陣や貴族との縁を作ってくれるのか』

『お察しが早くて助かります…商会が武力をもつなどと憲兵が黙っていませんのでー』

 

 

フローラ自身は新型の短剣型立体機動装置の量産計画は失敗に終わると思っていた。

そこで彼女は計画を隠れ蓑にして王政の支援母体である有力貴族を味方に付けようとした。

幸いにもレイス辺境伯のおかげで誰に助けを求めるべきか分かっていたのが大きい。

 

 

『つまり軍需産業という餌に釣られた商会と投資家を締め上げる貴族を狙い撃ちにすると?』

 

 

明らかに失敗するプロジェクトでも大金が動くなら有力貴族や商会は黙っていない。

つまり、甘い汁を吸おうとする虫に餌を与えて利用しようとしたのだ。

経済というのは、9割の人間が損をし、1割の成功者が資金を回すことで運営される。

こういう匂いに敏感な金貸しや流行の仕掛け人も集まってくる以上、利用しない手はない。

 

 

『余計な真似をしてくれたな?』

『あら、レイス卿なら支援してくれると踏みましたのに…』

 

 

フローラに真の王家の血筋と明かしたレイス辺境伯は、事実上辺境に追いやられていた。

ただ、それ故にユミルの民ではない貴族と多く交流関係を結んでいる。

レイス卿としても、ここでフローラが消される訳にもいかず協力する事となった。

 

 

『なんとかいけそうね…』

 

 

第57回壁外調査の実施日が迫る中、みんなのおかげでなんとか量産体制を整えた。

フローラ自身は、短剣型立体機動装置の試験データを提出し、お偉いさんと交渉した。

ザックレー総統、憲兵団の師団長、有力な商会ギルドとそれをまとめる中央商会連盟の役人。

王政の内務大臣と副総統、そして上流貴族も集まって新兵器の量産について協議する事となった。

変人と称されるピクシス司令もびっくりするほど人類のお偉いさんが兵器について語り合った。

 

 

『ようやく終わった……二度とやらないわよこんな事!!』

 

 

専用となるガスボンベの量産については一時、保留になった以外は何とか量産計画をまとめた。

そのせいで初めての壁外調査を実施する前に疲れた果てたフローラは世の中の不条理を愚痴った。

しかし強度問題に関しては、まだまとめ終えていないので事故による負傷を危惧していた。

幸いにもそれはすぐに知る事となる。

 

 

『シュツルムシリーズとは一線を画す自信作が完成した』

『量産計画で振り回されているのによくできましたね…』

『嬢ちゃんに死なれたら困るからな』

 

 

量産計画と並行して新装備の開発をしていた技術班にフローラはびっくりした。

それでも『ブリッツ』と名を冠する短剣型立体機動装置に喜んだ。

そして第57回壁外調査で実戦投入した結果、性能向上とは裏腹に強度の脆弱性が発覚した。

しかも、硬質化の爪を伸ばす変異種の存在もあり、すぐに装備を改良する必要性に迫られた。

 

 

『ぐぬぬ……王政が邪魔過ぎる!!』

 

 

王政府の裏腹に短剣型立体機動装置の量産計画は問題なく施行される事となった。

大失態をフローラと技術班に押し付けようとした王政は次なる手を打つ事となる。

すぐにフローラは自分が監視されていると負の感情を“声”として聴ける能力で理解した。

 

 

『めんどくさ!!もう勝手にしなさい』

 

 

そこでフローラはレイス卿と交流している事実以外は、中央憲兵に見せる事となった。

すなわち交流会と評して調査兵団の兵士と食事会を開いたり、一緒に訓練を開始した。

さすがにそれらを全部を監視しきれない憲兵は、少しずつフローラを警戒する時間を減らした。

 

 

『そろそろ鬱陶しいから反撃しましょう』

 

 

貴婦人が暴露した裏話やレイス卿のおかげで王政の裏事情を知っているフローラは反撃に出た。

アウリール大臣と定期的に文通している事を利用して少しずつ彼が隠したい事実を書き記した。

浮気とか、隠し子が居るとか、そんなレベルではない政敵が知りたがっている暗部を書いた。

すると大臣は、エレンの召集よりフローラを敵視して武力で排除しようと試みた。

 

 

『…にしても、クリスタとミーナはどこかに遠ざけたいわね…』

 

 

それを予測して対策をしていたフローラだったが、1つ問題が発生した。

お節介に定評あるヒストリアとミーナが自室を探りに来ていたのだ。

これから王政府の刺客といろんな意味でドンパチするのに邪魔でしかなかった。

 

 

『まあ、第58回壁外調査でご指名を受けた以上、親友たちに危害は及ばないと思うけど…』

 

 

幸いにも第57回壁外調査を実施した日から2日後にミケ分隊長から別の作戦を伝達された。

カラネス区から憲兵が逃げたせいで王政はその対応に追われていたのだ。

第58回壁外調査という名の巨人掃討作戦&調査兵団に犠牲と難癖を付けたいと分かっている。

それに自分が指名された事実からすぐには王政が先手を打たないと考えるしかなかった。

 

 

『同期に危険が及ぶ前に大臣と大総統を排除しないとね…!!』

 

 

既に政敵に連絡を取っていたフローラは、どうやって彼らを叩きつぶすか考えていた。

引き摺り下ろす事自体は簡単だったが、後任者もおそらく敵となるので説明するのが面倒となる。

だから玉座の前に座る四大幹部に現状を黙認してもらう為に政敵を焚きつける方法を考えていた。

 

 

『化粧水、香水、ブランド服、特にミニスカとニーソスタイルはかなり流行ったわね…』

 

 

それと同時期に流行の仕掛け人と手を組んで王都の若者に新時代の服装をフローラは提案した。

ある意味で停滞していた時代に鬱憤が溜まっていた若者は喜んでそれらを買い始めた。

その関連のブランド品で大儲けした彼女は、更に中央商会連盟と手を組んで商機を広げた。

そうする事で敵対する四大幹部の1人であるデレトフ会長が自分を庇ってくれる様に仕向けた。

 

 

『でも、絶対に強敵よね……』

 

 

ただでさえ商人というのは、強情で欲深くて頭が回る……つまり強敵だらけだ。

マルレーン商会を筆頭に有能な狐野郎と交渉してきたフローラは今後を考えるだけで頭痛がする。

どうやって商会ギルドを束ねる中央商会連盟の長に自分の必要性をアピールするか考えた。

その結果、寝る暇を惜しんでロッド・レイス卿に情報を提供する日々が続いた。

 

 

『私!あの子の父親を助ける為なら!いくらでも脱ぎます!!』

『…痛あああああっ!?』

 

 

事態が急変したのは、第57回壁外調査から帰還した重傷者が破傷風で落命しそうになった時だ。

破傷風で苦しむ男の娘の為にもヒストリアは何としても彼を助けようとした。

思わず服を脱いで身体を売ろうと発言した彼女の頭をユミルとフローラは同時に殴りつけた。

そして決して意思が折れる気が無いヒストリアに負けた一行は医師から薬草の話を聞いた。

 

 

『ちょっと待ってください!どこでその薬草が採れるんですか?』

 

 

特効薬となる薬草の話を聞いたフローラは第58回壁外調査のついでに採取できると思った。

だが、ただでさえ王政の幹部と文面で戦争している時に彼らに要求するのは避けたかった。

なのでエルヴィン団長に説明してあえて彼に否定させる事で薬草を諦めさせようとした。

 

 

『ここで!?……最悪のタイミング!!』

 

 

ところが運悪くアウリール大臣とゲラルド大総統とフローラは鉢合わせしてしまった。

大総統とは初対面であったが、文通自体はしていたので彼女は本気で何を言われるか警戒した。

幸いにも、エルヴィン団長をおちょくりに来た様で安堵したが、とんでもない事態が発生した。

 

 

『待ってください!!』

『ほう?我々に何か用かね?』

『えーっと…』

 

 

なんと薬草を諦められなかったヒストリアが王政幹部に声をかけてしまった。

すぐに彼女は自分を殺そうとした人たちだと理解して言葉に詰まってしまった。

そのせいでフローラに何とかしてと目線を送った。

 

 

『ああああああっ!?余計な事をしないでえええええ!!』

 

 

この時、フローラは本気でヒストリアに平手打ちをしてやろうと思った。

彼女の父親から事情を聴かされているせいでこれが何を意味するのか分かった。

要するに…これはフローラによる宣戦布告だと彼らに認識されてしまったのだ。

 

 

『どうしよう!?』

 

 

ただでさえエルヴィン団長に論争で返り討ちできる2人が虎視眈々と反応を待っていた。

ここで発言しないと調査兵団ごと叩き潰されると悟ったフローラはアドリブを交えて発言をする。

 

 

「第58回壁外調査に、畏れ多くも提言したいと思い、ここに集りました!」

 

 

もはや口調すら可笑しくなるほどヤケクソで薬草採取計画の提言するしかなかった。

さすがに彼らも予想していなかったようだが、否定はして来なかった。

先に同僚であるデレトフ会長と仲良くしていたおかげで計画は否定されずに済んだ様である。

 

 

『ハァハァ……余計な真似を…』

 

 

無自覚にライナーに恋をしていたフローラは、ヒストリアという存在が苦手だった。

口を開く度に彼がクリスタの事を熱く語っており、嫉妬以上に存在そのものを毛嫌いしていた。

しかし、レイス卿に恩義があるのと彼女が偽名を使っていたと判明し、フローラは考えを改めた。

 

 

『私の本名と正体がバレるとみんなに迷惑かけちゃうの…フローラ、ごめんね…』

 

 

ヒストリアの負の感情を“声”として聴いたフローラは思わず考えてしまった。

 

 

『クリスタ…その名前、偽名なのね…』

 

 

レイス卿からはクリスタとしか知らされてなかったフローラは事情を大体察した。

これで彼の発言の裏取りができたと同時に恩義でどう返すべきか考えた。

もしも、彼女が本名で活動できる様になればレイス卿が望む世界になったと証明できる。

 

 

『まあ、それは後で考えましょう…』

 

 

とりあえず第58回壁外調査が迫っているのと知り合いになったヒッチをどうするか考えた。

親友であるアニと仲良くなろうとする同期に何かしてあげられないかと…。

だが、やる事が多いフローラは余計な事を考える事はしたくなかった。

だから巨人掃討作戦当日、ヒッチと打ち合わせをしようとした彼女は衝撃を受けた。

 

 

「はぁ!?」

 

 

王政から自分宛に【フローラ・エリクシア暗殺計画の承認書】が届いて本気で困惑した。

ヒストリアのせいで首の皮一枚の生活をする羽目になった彼女は本気で悩んだ。

 

 

『薬草採取の時に襲撃が来る?なんでそれを知らせるの?そして何でわざわざ外でやるの…?』

 

 

自分を動揺させる作戦かとフローラは考えたが、すぐにそれを一蹴した。

少なくとも記者や有力者が目視する以上、第58回壁外調査を失敗させる意図はないと考えた。

 

 

『これ……中央憲兵も死ねって暗に言ってるわよね?』

 

 

少なくとも、中央第一憲兵団が壁外で活躍する事は無い。

だが、承認書を見る限り、確かに彼らが自分を暗殺する事になっている。

その後にどうやってカラネス区に変えるつもりなのか疑問に思ったがどうしようもない。

 

 

『気付かなかったフリをしますか』

 

 

とりあえず生還して顔を見せろという命令だと判断したフローラは知らんぷり作戦を決行した。

腐敗しつつある新人憲兵の犠牲者が少数出たものの巨人掃討作戦は無事に終了する事となった。

 

 

『え?マルロやヒッチも付いてくるの?』

 

 

王政から作戦を妨害される事を予想したフローラは104憲兵が作戦に加わるとは予想外だった。

王政の嫌がらせかと思ったが、本人たちは真面目だったので困惑しつつ任務を遂行した。

 

 

『ヤバい……本気で作戦がわたくしに漏れているって気付いていない…』

 

 

ケニー率いる対人立体機動部隊と中央憲兵たちは本気で作戦がバレていると気付いていなかった。

ここまでくるとフローラは、王政がこいつらを壁の外で死なせろと暗に告げたのかと考えた。

さすがにこんな非効率な作戦を遂行する憲兵に同情しつつも、巨人の大群が居る場所に誘導した。

 

 

『久しぶりの感覚ね』

 

 

フローラは命を狙われた事などいくらでもあった。

最初はトロスト区で巨人化したエレンを追って来た駐屯兵団第一師団精鋭部隊だった。

その時は、巨人の群れに誘導して難を逃れたので今回も同じことをしようとした。

 

 

『バン!バン!ってな!』

『くぅっ!!』

 

 

ついに対人立体機動部隊の隊長、ケニー・アッカーマンが散弾をぶっ放した。

それを辛うじて回避したフローラは、襲撃してきた兵士の装備を見て…。

 

 

『ああっ!……ハァハァ…ずるいですわ…』

 

 

未知なる立体機動装置を見てオーガズムで絶頂しかねない快感で震えた。

自慰さえこんなに乙女の心を揺さぶる快感をもたらさないだろうと彼女は考えてしまうほどだ。

既に命が狙われるのを知っていた彼女は、暗殺される被害者の思考をしてなかった。

むしろ、どうやってその装備を改良しようか、製造しようかと考えた。

 

 

『おいおい嬢ちゃんよ…命を狙われているのに暢気(のんき)に眺めてるなよ。それともビビったか?』

『いつ死んでも可笑しくない兵士からすれば通常運転ですわよ…今回は人間だっただけで…』

 

 

さすがにフローラの行動が可笑しいと気付いたケニーは情報を引き出そうと発言したが…。

 

 

『命を狙われる事なんて、両手で数えられる事しかしてませんわ!!』

『充分多いだろうが!素直に死んでおけよ!』

 

 

あんまりの返答で彼女の意図を知ろうとしたケニーはズッコケそうになった。

実際には、それ以上にヤバい事をしていたが、王政にすら露見しなかっただけだ。

そして対人立体機動の弱点であるガス欠を強いたフローラは彼らに共闘を持ちかけた。

 

 

『で?お前は何をしたいんだ?』

『共闘、でもしてみますか?』

『しょうがねぇな!今だけだぞ』

 

 

巨人に包囲されたケニーには夢があったので仕方なくフローラと共闘する事となった。

さすがに15体の巨人と相手をするのは彼としても避けたかったのだ。

そしてフローラは巨人と戦闘をしていく内に王政府の意図を見抜く事ができた。

 

 

『悪魔の居城へ、ようこそお戻りになりました』

『それは皮肉ですか?』

『俺が保証するよ!あんたは悪魔だ!』

『嬉しくありませんわ!』

 

 

戦死した中央憲兵を回収したフローラ一行は王政幹部が居る居城に帰還した。

さすがに暗殺計画が失敗しました…と報告できない中央憲兵たちは立ち止まってしまう。

現にケニーですら王政幹部が居る部屋に入室したくないのかフローラを煽って緊張を誤魔化した。

 

 

『第58回壁外調査から帰還したフローラ・エリクシアです!密約に基づいてここに参りました!』

『『入室を許可する!』』

 

 

そんな彼らの意思など『知るか馬鹿』と言わんばかりにフローラは入室許可を求めた。

すぐに大臣と大総統から許可をもらったフローラは堂々と謁見の間に入室してしまった。

あまりにも怖いもの知らずの女を見て動揺した中央憲兵であったが…。

すぐに気を取り直して死体を担いで彼女の頼もしい背中に続いて入室した。

 

 

『さて、さっそくだが君が導き出した【答え】を聴きたいのだが宜しいかな?』

『はい、問題ありません』

 

 

早速アウリール内務大臣に答えを求められたフローラは報告をする。

 

 

『答えは、同じく抹殺対象だった憲兵の死に様をお二方が確認したいという結論に達しました』

『ほう?何故そう思った?』

『何故なら壁内で効率よく殺せる手段などいくらでもあったはずです』

 

 

フローラは必死に推理した結果、中央憲兵に見せしめをしたいのだと気付いた。

そもそも第58回壁外調査は、憲兵団が逃げ出した事によって発生した混乱を収める為に実施した。

そして主君や民衆を守る事を放棄した憲兵が粛清されたのも、レイス卿から聴かされていた。

 

 

『つまり、粛清予定だった中央憲兵どころかケニーさんの部隊にも警告したかったのかしら?』

 

 

王政府は中央憲兵と権力を持って楽園を乱す異端者を排除してきた。

だが、あまりにも長く続きすぎた組織は必ず腐敗する。

フリッツ王に忠誠を誓っているはずの中央憲兵ですらどこかしら堕落して綻びが見えていた。

だからそんな彼らに警告しようと、わざわざ自分を利用したのだとフローラは答えを導き出した。

 

 

「君が導き出した答えは良く分かった。では、フローラ君!暗殺される時、どう思った?」

 

 

フローラの答えを聴いた大臣は更にフローラに向かって質問をした。

明らかに分かり切っている話題をわざわざ出してきたおかげでフローラとケニーは気付いた。

 

 

『こいつら!!わたくしが無様に命乞いをするのを見たいのね!?』

 

 

壁の社会で暮らしていく中で王政府に睨まれるという事は、完全に人生が詰んだと同意義である。

実力行使して自分を排除しようとしたと知らされて改めて質問する意図など決まっていた。

ここで命乞いをするが、処刑台に連れて行かれて泣き叫ぶ女兵士の声を聴こうとしていたのだ。

 

 

『ここで退くわけにはいかないわ!!』

 

 

このまま彼らの意図に乗れば、自分は処刑されて次はエレンと調査兵団が危険に晒される。

そう理解したフローラは、一世一代の博打を仕掛ける事にした。

 

 

『暗殺されると分かった時、『またか』と思いました』

『また?妙な話だな、我々以外に刺客を送り込んだ情報などないが?』

『えぇ、同期ですらその存在を伝えておりませんので…』

 

 

フリッツ王がお飾りである以上、彼らが王政の頂点に君臨していた。

だからこそ自分たちの管理外で何者かが動いていると聴かされればさぞかし違和感があるだろう。

自分たちの指揮系統から外れた勢力が気になった彼らは、その正体を暴こうとフローラに質問した。

 

 

『やるしかないわ……』

 

 

ここでフローラは、フローラ・エリクシアという女兵士の仮面を外した。

 

 

『わたくしの邪魔をするなら排除するまで…』

 

 

既にフローラはこいつらを殺すと決めた。

まるで巨人を相手にする様に殺す事に躊躇いが無いフローラにとって殺人など動作も無い。

雑談で気を緩んだ隙に殺してやろうと考えたら興奮し過ぎて息が上がった。

そのせいで至る所にある古傷が開いてフローラは勝手に全身が血塗れになった。

 

 

『おい、お前…』

『血が…』

 

 

人間というのは自分の価値感や常識から外れた存在に恐怖する。

勝手に流血して眼孔を最大限開く女兵士を見て中央憲兵たちは慄いた。

当然、彼女と対峙する大臣と大総統は嫌というほどフローラの殺意に晒される事となった。

 

 

『次は毒殺ですか?事故死ですか?名誉棄損ですか?狙撃ですか?巨人ですか?裏切りですか?』

『あまりにも死にかけたせいでどれも慣れてしまいましたわね』

 

 

王政や中央憲兵も勘違いしていたが、実際はフローラは別勢力にも命を狙われていた。

訓練兵団を卒業したばかりの女が膨大な財を築くなど…特に同業者が納得できるはずがなかった。

それに身寄りがない小娘なので事故死に見せかければ、私財を奪えると踏んだのだろう。

フローラは商人として投資をしていく合間に刺客を相手にする事となった。

 

 

『敵ならば排除するまで…』

 

 

フローラが暗殺を仕掛けて来た中央憲兵の作戦を稚拙と判断したのは根拠がある。

実際に事故死に見せかけられたり、毒殺未遂を自身の痛みとして経験していたのだ。

彼女は、鎧の巨人を討伐するなら何でもする事ができた。

だから自分の手が血で汚れる事も(いと)わなかった。

 

 

『ひいいい…』

 

 

権力闘争で手を汚してきたゲラルド大総統は、たかが新兵だとフローラを甘く見てしまった。

その結果がこれだ。

 

 

『どうなされたのですか?気分がよろしくないようですけど…』

 

 

既に53人をこの手で殺害して巨人を227体討伐した女悪魔は、全身を出血しながら笑い続ける。

隙を見て気絶した大臣と大総統を殺害しようと決めたと分かるほど誰から見ても正気に見えない。

そんな女悪魔が左手をテーブルに軽く押し当てて自分を覗かれた結果、ゲラルドは失禁した。

 

 

『もう、どうしようもないから切り札を使ったけど、これからどうしようかしらね』

 

 

一応、フローラとしても警告してその反応を見て殺人するかどうか決めていた。

交渉できるなら自分を殺そうとした存在すら仲良くできる彼女は、必死に妥協策を模索した。

ここで殺害してもいいが、それだと調査兵団やお世話になった人々に迷惑がかかる。

そこでフローラは軽い質問を何度かしてゲラルド大総統がどんな反応を示すか試した。

 

 

『ケ、ケニー…』

『なんだい?そんな震えながら話かけられても困るが…』

『彼女を調査兵団の兵舎にご案内し…』

『閣下!わたくしは答えを知りたいのですよ?わざわざ暗殺承諾書を送り付けてきた真意を!』

 

 

そしてゲラルド大総統が格下であるケニーにフローラの対応しろと命じた事で彼女は畳み掛けた。

すぐに大声で護衛兵を呼べば、あっさりとその場でフローラを処刑できるのにそれをしない。

その事実から王政のトップが自分に怯えていると察した彼女の動きは速かった。

ようやく『交渉の余地あり』と考えて瞬時に殺人を撤回して商人の令嬢らしく交渉を開始した。

 

 

『大総統閣下!』

『な、なんだね?』

『わたくしから2つ提案がありますがよろしいでしょうか?』

『ああ、構わんよ…』

 

 

フローラの提案は2つだ。

 

 

『まず1つ目、カラネス区壁内に巨人が侵入してきたのを踏まえて補給拠点を作りたいです!』

 

 

カラネス区を襲撃してきた変異種は、50mの壁を容易に乗り越えられる。

だからフローラは、その対策として補給拠点の設置を求めた。

既に大臣が失禁して気絶したせいで大総統に交渉するしかなかった。

 

 

『もしかしたら、この時、巨人がこっそり侵入しているのかもしれません』

『君の言う事はもっともだ!すぐに補給拠点の構築に移るとしよう』

 

 

実際、カラネス区に変異種が壁を乗り越えたのを大臣が目撃していた。

後にシガンシナ区の壁も乗り越えられると判明するが……現時点ではあくまで想定であった。

 

 

『その計画にわたくしや商会を噛ませて頂けますよね?』

『もちろんだとも…』

 

 

ここでポイントなのは、王政にとって大きな利点を作る事だ。

交渉とは相手に切るカードが無かったら成り立たない。

ここで殺す必要が無いと判断した女悪魔は、あえて交渉できる余地を作った。

自分達を壁外勢力から守り、自分の代で楽園を終わらせない為の行為だと理解させたのだ。

フローラも妥協し、王政との交渉内容を関係者以外に知らせなかった。

実際には、彼女はレイス卿に暗号文で報告していたので…とんだ二枚舌であったが。

 

 

『では、念書を記入していただきたいですわ!』

 

 

ちなみに王政のトップですら人類憲章や法律に逆らえない。

彼らの権力は法で成立している以上、それを破る事は絶対にできない。

だから契約というのは、彼らからしても容易に破棄できるものではなかった。

なのでフローラは悪魔らしく念書を大総統に書かせて約束を破棄しない様に念を押した。

それともう1つの要件は、フローラは完全に譲歩した形となった。

 

 

『現在、新型の立体機動装置の開発情報を提供したいと思います』

 

 

フローラは短剣型立体機動装置の開発を王政に知らせる事にした。

その代わりにガス切れで役に立たない対人立体機動装置の改良に役立てると提言した。

実際、現状では調査兵団には脅威な装備も巨人戦では役に立たなかった。

 

 

『……覚えてろよ』

 

 

やたら近寄って耳元で囁いてくる女悪魔に怯えた大総統は決意した。

対人立体機動装置を改良し、今度こそフローラを仕留めてやろうと…。

だが、それはフローラに対人立体機動装置の開発に携われる名分を与える事となった。

なにより、女悪魔にとんでもない事を学習させる事となった。

 

 

『なるほど、恐怖や脅迫でも契約は成り立つのね!』

 

 

敵に最も優しくそして冷酷でもある女悪魔は恐怖で人を従わせる事を覚えてしまった。

一応、最低限の倫理観があった彼女は、これを機にどんどん人でなしに転がり落ちる事となる。

 

 

『良い事を思いついたわ!』

 

 

ごり押しで王政幹部を脅せるとフローラに知らしめた影響は大きい。

後に四大幹部の3人は、妻と子供、そして中央憲兵の大半に裏切られて殺されかけた。

ユトピア区防衛戦に備えてイライラしていたフローラはその光景を見て心底笑う事となる。

負の感情を“声”として聴ける悪魔は、偉くないのに偉そうな上級貴族に好機を与えた。

それは、彼らにとって苦渋な決断になる悪魔の囁きだった。

 

 

『ウォール教のローデリヒ枢機卿の誅殺に協力しないと分かってますよね?』

 

 

ぶっちゃけ、ユトピア区防衛戦で彼女が行方不明にならなかったら勝手に王政府は崩壊した。

それほどロッド・レイス卿の思惑通り、フローラは手足となって動いたのだ。

もしも、この未来に到達していれば最低限の犠牲で革命する事に成功した。

だが、そんな未来にならなかったのは、回想の回想を聴いているエレンたちが良く分かっている。

 

 

----

 

 

「その後、密かにザックレー総統にお会いして王政との交渉を結果を報告しましたの!」

 

 

フローラの話を聞いていたミーナとエルティアナは呆然とした。

訓練兵団から卒業して二ヵ月もしない内に王政府を脅迫できるほどフローラは成長していたのだ。

あまりにも現実味が帯びないが、彼女の話が間違っているとも思えなかった。

 

 

「そしたら総統閣下から【お誘い】されましたが、今やるべきでは無いとお誘いを一蹴しました。すると閣下は嬉しそうに笑われて…こっちにこっそり情報を回して欲しいと仰られて…」

 

 

フローラの話を聞いてエルティアナは目の前にいる女が本当に人間か疑い始めた。

明らかに化け物染みており、何者かに操作されていないか本気で疑った。

 

 

「わたくしの夢は不俱戴天の仇である鎧の巨人を討伐する事だけでしたの」

 

 

なによりそういった事ですらフローラからすれば、おまけに過ぎなかった。

彼女は両親を殺した鎧の巨人を復讐する為だけに完全に悪魔に成り下がっていた。

 

 

「親友のアニには鎧の巨人討伐を応援してくれると言ってくれて…」

 

 

なによりフローラには更なる問題を抱えていた。

 

 

「鎧の巨人を討伐した暁にはライナーに報告して褒めてもらおうと思ってました」

 

 

そう、フローラ・エリクシアは、これから“親友が悉く人類の敵だった”と知らされるのだ。

そうとも知らずに「鎧の巨人を討伐した事をライナーに褒めて欲しい」とフローラは語る。

 

 

「今でこそ分かりますが、わたくしはライナーに恋をしてました。だから彼に自分を肯定して…」

 

 

アニ・レオンハート、ベルトルト・フーバー、ライナー・ブラウン。

同じく巨人を一匹残らず駆逐すると誓ったエレンに次いでフローラにとって大切な親友()()()

そんな親友を殺し合う事になった時、フローラは更に壊れた。

今後の展開が予想できたミーナとエルティアナは、倫理観が崩壊した女の話に耳を傾けた。

そうする事しか、今の自分たちにできる事はないのだから…。

 

 

「だからわたくしはー」

 

 

クロルバ区の病室でフローラは更に語る。

親友が敵だと知って…どれだけ自分の精神と行動が無茶苦茶になったのかと…。

そしてその回想話を調査兵団に聴かせるフローラは再度、同じ事を言う羽目になった。

 

 

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