進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
イノセンシオ商会の会長からサウナ店の貸し切り招待状を9個も受け取ってしまった。
そもそもサウナって何だと思ったが、会長はフローラにサウナを調査しないのかと問う。
そんな事を言われたら調査するしかない彼女は仲間を集めに行った。
『…で、こうなったわけ!』
サウナ調査兵団を結成するに当たってフローラは、同期を掻き集めて来た。
今思えば、翌日にエレンを王都に護送するのに何をやっているのかと考えてしまう。
というか、ライナーやベルトルトなど人類の敵が普通に参加したのも可笑しかった。
他にもツッコミどころが多かったがそれはどうでもいい。
『誰かに引率されるなど久しぶりだ!』
何故か強制的にサウナ調査兵団に入団したエルヴィン団長が未知なる蒸気風呂に興奮していた。
誰かに引率されて未知なる世界に行くのがそんなに嬉しかったらしい。
あまりにも彼がはしゃいでいるせいでリヴァイ兵士長がドン引きするほどだった。
『サウナ調査兵団の団長として頑張らなくちゃ!』
サイヤマという人物が開いたサウナ施設の支部がカラネス区で開店したようだ。
だが、蒸気を扱う関係上、人々から敬遠されるのでこうやって招待制にしている。
今回、サウナを調査するに当たってフローラが団長として皆を引率していた。
『蒸気と巨人、切っては切れないものであるから当然とも言えるわね』
蒸気という巨人に関係する単語は、民間人どころか兵士ですら良い思い出はない。
だからこそ調査するのだ。
『えーっとガイドブックでは、上段に座るほど熱くなるそうよ』
『温かい空気が上に行くからな。その関係だろう』
特製のサウナ室は、様々なプランが行えるようだったが、フローラは通常プランを選択した。
満面の笑みを浮かべたエルヴィン団長による豆知識を聞きながら一行は、蒸気で身体を温めた。
『どっちがサウナに長く入浴できるか勝負だ!』
『望むところだ!死に急ぐんじゃねえぞ!』
エレンとジャンがサウナ我慢大会を始めたのは無視してフローラはプランを確認していた。
『ふーん、香料を焚くプランか…』
香水や美貌関連を扱うフローラは、膨大な蒸気と香りを組み合わせる事は思いつかなかった。
確かに肌の潤いに良さそうだし、皮膚から汗と共に老廃物を輩出するのもありだと感じた。
『…というか、エレンたちは何をやっているのかしら?』
我慢大会をしていたのは良いが、暇になったのだろうか。
エレンとジャンはフローラの背中にある傷を数え始めた。
それならまだいいが、蒸気で見えにくいのでわざわざ彼女に触れて傷を確認にしてくる有様だ。
しっかりと下半身はタオルを巻いているとはいえ良い気分ではなかった。
『もう少し乙女を厭わってくれてもいいんじゃない?』
無駄に背中を触られるフローラは抗議したかったが、エレンが楽しそうだったので我慢した。
ここで無駄に抗議したところで適当に扱われるのが目に見えたからだ。
『おいベルトルト、鼻血が垂れているぞ』
『ああっ!?うん、えーっと!そうだね!!』
ただ、ベルトルトは正常な反応を示してくれたようだ。
ライナーの指摘の声を聴いたフローラはベルトルトに振り向いて嬉しそうに声をかけた。
『あらーベルトルト、わたくしの身体に欲情してくれるなんて嬉しいわ』
ベルトルトが自分を乙女と見てくれるのは嬉しかったが、さすがに限界だと思った。
なので全員が退室しようとしたが、我慢大会をしていたエレンとジャンは残ってしまった。
「「ぎゃああああああ!!」
だからアウフグースという熱風を送りつける行為をやってさっさと野郎共を退室させた。
『サウナ我慢大会の勝者はわたくしよ!敗者は黙って指示に従いなさい』
『『…はい』』
なんで男という奴は、そこまで無駄に張り合うのかフローラには理解できない。
とりあえず、引き分けという形で彼らの勝負を曖昧した一行は水風呂に向かった。
『なるほど、温まった身体を冷水で急激に冷やすのね!……これって身体に悪くない?』
存分に蒸気を浴びて温まった肉体を水風呂で冷やす事となった。
明らかに身体に害ではないのかとフローラは思ったが、そうでもないらしい。
『コニー!汗を流さずに浴槽に入るのはマナー違反よ!』
『フローラ!マジで冷たいんだって!』
『だから汗を流すのよ』
水風呂から飛び出したコニーのマナー違反を叱責したフローラはガイドブックのページを捲る。
汗を流したら1分ほど水風呂に浸かってその後に外気浴を10分以上するらしい。
『やっぱり、わたくしには相性が悪そうね…』
傷だらけのフローラからすれば、むしろ何度も水風呂に浸かり直すのは相性が悪い。
『めんどう…』
サウナ調査兵団の団長としてフローラは本音は出さなかったが…。
身体が温度差で痙攣しているのを見て神経がイカれたのではないかと思ってしまう。
『フローラ!!サウナに誘ってくれてありがとうな!!』
だが、エレンはサウナにハマったらしく何度も繰り返している。
冷たさと暑さが交互に繰り返す行為が快楽に繋がるのが、あまりにも衝撃的だったらしい。
嬉しそうなエレンの意見を否定する事ができないフローラは笑って見送るしかできない。
『中々面白い経験だったな。サウナとは哲学かもしれん』
『同感だ、初めて蒸気がこんなに心地良いものだと知れて良かった』
色々苦悩していたエルヴィン団長もサウナを経験してご満足の様だ。
リヴァイ兵士長も珍しく嬉しそうに団長の言葉を肯定しており、フローラは首を傾げた。
『そこまでいいものかしら?』
肉体が痙攣するのが慣れなかったフローラは、団員たちの感想に疑問しかない。
落下して何度も痙攣した彼女に言わせれば、肉体が異常な反応を示しているという感想しかない。
『まあ、家庭でもお手軽に設置できる加湿器くらいならわたくしでもイケそうだけど…』
今回の調査では、蒸気だけでも肌を潤したり、喉や鼻を癒す事ができるとフローラは確信した。
巨人と蒸気はセットというイメージから同業者も製作に敬遠するからこそ商機がある。
ただし、蒸気と香料の相性はさっぱり分からないので店員に訊く事にした。
『老齢になった巨大樹の根元に生えるキノコね…』
そしたら面白い話を聞いた。
香りを嗅ぐだけで精神や行動が可笑しくなるキノコがこの世に存在するらしい。
『次回はいつにしようかしらね…』
興味本位でキノコを採取する事にして次回のサウナ調査兵団の実施日を考える事にした。
だが、サウナ調査兵団が活動した翌日にフローラの機嫌は悪くなった。
『その女型の巨人と思わしき女性の名はー』
『まさか、アニ・レオンハートと仰るつもりじゃないですよね!?』
エルヴィン団長によると女型の巨人の正体は104期南方訓練兵団出身者と発言した。
それを受けてフローラは牽制したが、逆に墓穴を掘る事となった。
『緘口令を敷いて、この場で正体を知ってるのは私とアルミンだけだ。何故分かったんだ?』
レイス卿のおかげでフローラはこの時点で巨人の能力は継承できると知っていた。
だが、あんなにドーナッツを美味しそうに頬張るアニが敵な訳が無いと信じたかった。
『第57回壁外調査における撤退作戦中にアニと思わしき人物が居ました』
第57回壁外調査に失敗し、本隊が退却したのでフローラも後を追った時に該当する人物が居た。
さすがにアニがここに居るわけないと思ったので深く考えなかった事にした。
だが、アニと同室であるヒッチから彼女がその日、非番だと知った。
『エレンのお父様と同じ様に誰か殺して女型の巨人の能力を継承したというの?』
そもそもフローラは、エレンが王都に召集される本当の理由を知っていた。
だからエレンを殺させない様に王政の最高幹部を脅迫していたのだ。
しかし、この情報を調査兵団に漏らす事ができずに必死に秘密を抱える事となった。
『総員、退避!退避いいいいいい!!』
アニを最後まで信じたフローラはそれが間違いだと知った。
監視していたレスター班長と班員に避難を呼びかけたが遅かった。
女型の巨人が誕生する際に発生する爆発を受けて気を失ったフローラは夢を見た。
『お願いだから死んでくれ!お前が生きていると皆が苦しむんだ』
誰かが「自分に死ね」と耳朶を打ってきた。
フローラは夢を見ていると思って反論するが、声の主は納得できない様だ。
『お前は生きちゃいけない人間だ!お前が生きていると大切な人が苦しむんだ!』
わざわざ挑発してきた何者かに本気でうんざりしたが、すぐにその正体に気付いた。
『わたくしが巨人を駆逐してあげますわ!』
男女なのかも分からなかったが、きっと知り合いの声だと確信した。
異様に聴力が良いフローラは、この時ほど自分の聴力を恨んだ事は無い。
そもそも自分が作り出した夢だから関係ないと指を噛むと無事に目覚める事ができた。
『そう…みんな死んだのね』
レスター班長やレクソン班長心得、シルバ一等兵は爆発の直撃を喰らって戦死した。
この時、フローラはこれ以上の犠牲者が出るくらいなら親友を殺すと決めた。
『お久しぶりね、女型の巨人!!…いえ、アニ・レオンハートって言えば良いのかしら?』
女型の巨人と対峙するのはこれで3回目だ。
だが、今回は、巨人の正体を知っているからこそ刃が震えてしまう。
『調査兵団の第四分隊、遊撃戦闘員、フローラ・エリクシアがお相手しますわ!』
大切な物を捨てなければ、何かを変える事は出来ない。
例え今までお世話になった同期であっても、ミーナの親友であっても殺すと決めた!!
『これはわたくしのミスか……きついわね』
しかし、その覚悟が甘かったと知った。
女型の巨人が作り出した硬質化の刃は散弾となってストヘス区を半壊させたのだ。
運悪く当時のストヘス区は、お祭りを開催していたので民衆がいつもより多かった。
その犠牲者は2千人以上とされ、トロスト区の住民と兵士の犠牲者の合計に匹敵するほどだった。
『結晶体を街に撃ち込んで街を滅ぼすつもりだったの!?』
フローラは分かっていた。
アニが好んでそんな事をしないと…。
最後はオルオ・ボザドとペトラ・ラル、そしてミカサと共闘して女型の巨人を追い詰めた。
そしたらアニ自身が硬質化で全身を覆ってしまい、手が出せなくなってしまった。
『……これで良かったかもしれないわね』
これからアニは拷問された上で情報を引き出される未来だったとすれば、まだマシな末路だった。
調査兵団が殺意剥き出しで結晶を攻撃しているのを見れば、アニの末路は火を見るより明らかだ。
それに彼女が最後に発した“声”は幼児退行して父親に謝っていた。
『主犯格は別に居る……と判断したいわ』
レイス卿曰く、レイス家が所有している巨人の能力以外は外部から来た存在らしい。
だからフローラは、アニが脅されて暴れ回ったと考えるしかなかった。
しかし、この日から数日間はかなり忙しくてまともに考えている暇など無かった。
この辺りは調査兵団や王政に報告した通り、大した隠し事はしていない。
ただし、それを箇条書きをすると本当にそれを実施したのかと疑うほどの日程表になるだけだ。
『ああ来たか。実は、君に頼みたいことがある』
ストヘス区の復興を巨人化したエレンが行うというフローラ渾身の作戦が却下されてしまった。
そのせいで更にフローラは不機嫌になった。
しかも、エルヴィン団長から伝令の任務を命じられてしまった。
『いくら信用できないとはいえ同期を隔離するなんて…』
ウォール・ローゼ南部には調査兵団に入団した同期が隔離されていた。
敵対する巨人化能力者の可能性があるせいで彼らは隔離生活を強いられる事となった。
しかし、すぐにそれが解除されると分かったフローラは迅速に動いた。
『国道を通って王都を迂回してエルミハ区に向かうのね』
ウォール・シーナ領の地理が詳しくないフローラは必死に地図を見ながらライリーを走らせた。
まずストヘス区の内門から出て国道を進んで王都が見えたら南下してエルミハ区に向かった。
『ライリー!山脈の道は大丈夫そう!?』
『ヒヒーン!』
『なら良かったわ』
内地に詳しくない人物は勘違いしがちだが、王都周辺は山脈に囲まれている。
…というか、壁内世界の中央に近づくほど標高が高くなる。
そのせいでほとんどの土地が農地に向いておらず、道も限られていた。
『伝令!!緊急を要します!!』
わざわざ遠回りの道を走らされてフローラとライリーはいつもより気分が悪い。
だが、エルミハ区に着いた瞬間、気持ちを切り替えて内門へと向かった。
『これでいいですよね?』
『ああ、問題ない!通行を許可する!』
顔パスで通れるカラネス区とトロスト区と違って面倒な手続きがあった。
なので騎兵は大人しく手続きを受けて通行の許可を得た。
『ライリー!行くわよ!!』
一刻でも早く情報を報告したフローラは通行の許可が出た瞬間、出撃した。
寝不足でイライラしているのもあって彼女はもはや激怒しながら馬を走らせていた。
『ええっ!?』
エルミハ区から出発してすぐに巨人と遭遇してフローラはびっくりした。
ライリーの足が速すぎてワープしたのかと思ったほどだ。
『なんで巨人が居るのよ…』
さくっと30秒クッキングで巨人の死体を作ったフローラは信煙弾を撃って異常を報告!
そのまま南下して目的地へと向かった。
もはや巨人との戦闘より地図を見て現在地を確認するほうが大変だった。
そして何とか隔離施設に辿り着いたフローラは異変を感じた。
『ミケ分隊長と…誰?』
負の感情を“声”として聴いて2人の人間と4体の巨人の呻き声を感知した。
だが、知り合いはミケ分隊長以外居なかった。
ただ、ニャンコとワンコを人体錬成した様な獣の巨人は、立体機動装置を知らない様だ。
『あいつのせいで…!』
巨人に指示してミケ分隊長を襲わせたのを確認してフローラは理解した。
騒動の発端は大体こいつのせいだと考えて情報を引き出して殺すと決めた。
『おっほっほっほっ!…よくもミケさんをやってくれましたわね!』
獣の巨人と対峙したフローラはそこで行なった戦闘についてよく覚えてない。
ただ、巨人体が引き摺り降ろした糞野郎を火炎瓶で焼いたのを覚えている。
ここでしっかり死んだと確認するべきだったが、しょうがない。
だって、ミケ分隊長を死なせるわけにはいなかったのだから。
『なんか変な感じ……』
ここで重要なのは、獣の巨人と交戦したフローラは自分の精神が分裂した感じがした。
後のユトピア区防衛戦でも同じ事が起こったが、彼女は自分に命令される感覚を味わった。
まるでライナーの様に精神分裂をしたのだが、実際はなんで発生したのか分からない。
『まあ、助かったならいいわ』
負傷したミケ分隊長を救出したフローラにはまだまだやるべき事があった。
サシャの故郷であるダウパー村が気になった彼女は、そこに向かう事にした。
だが、調査兵団の一団と合流した時にサシャが単独行動していると知った。
『…そう、まだ生存者がいるのね』
急いでライリーを走らせたら近くの村出身の少女を保護した。
どうやらサシャの指示で動いていると知ったフローラは彼女と合流!
ついでになんか居たダズや駐屯兵と共闘して退却に邪魔だった巨人を全て掃討した。
『すまない!!君の腕を見込んで協力して欲しい事がある』
『え?』
ところが、ダズを率いた班長から東で大規模な巨人掃討作戦が実施されていると知った。
トロスト区戦でお世話になった駐屯兵団第一師団精鋭部隊が苦戦しているらしい。
やむを得ずフローラは、彼らに少女とサシャを任せて東防衛線に向かった。
『めんどくさ!!』
兵士の報告によるとトロスト区とエルミハ区を繋ぐ街道に戦線を築いたそうだ。
ここが陥落すれば、トロスト区は巨人に包囲されるので絶対に死守するべき場所だった。
しかし、朝から女型の巨人と交戦して休めていないフローラは眠くてしょうがない。
『はぁ……これが終わったら寝たい。でも頑張らなくちゃ!!』
しかし、友軍が必死に巨人と交戦している時にそんな事など言えない。
野戦糧食を食べて元気になったフローラは駐屯兵団第一師団精鋭部隊と合流した。
そこでは、地面に穴を掘る変異種など出現したが、なんとか巨人を掃討する事に成功した。
『よし、よくやった!貴様の手柄は記録しておくぞ!』
『そこまで大げさに記録されても困りますわ…』
『いずれ駐屯兵団精鋭班に推薦するつもりなんだが、実績が必要でな!』
巨人掃討作戦に従事したら、駐屯兵団第一師団精鋭部隊のキッツ隊長は大層喜ばれた。
ある意味、王政府と戦争しているフローラからすれば余計な記録に残して欲しくなかった。
だが、これによりキッツ隊長から信頼されたので後のエレン関連の交渉に繋がる事となる。
『調査兵、ご苦労であった。ここは我々に任せて今のうちに調査兵団に合流しておけ!』
『ハッ!』
キッツ隊長の気遣いにより、装備を補給したフローラは今度こそ同期と再会しようとした。
『きつい……』
この時からドーピングという選択肢をフローラは考えるようになった。
通常の兵士には必要ない物だが、それほど疲労し過ぎて正気の思考ではなくなった。
『ミーナ、こんな所で何をしてるの?』
『見て分からないの!?東班から逸れて彷徨ってるのよ!!』
ついでに照明器具を忘れたままフローラは、同じく夜で彷徨うミーナと合流した。
ちょうどこの日は満月であり、月光に照らされたおかげでウトガルド城跡地が見えた。
休憩したかったフローラとミーナはそこに向かって城の探索をしていると…。
更に巨人の出現場所を捜索していた調査兵団の一行とも合流した。
『出発は日の出の4時間前だ。我々が交代するから新兵は良く休んでおけよ』
ナナバ先輩からそう発言されたフローラは歓喜した!
『あっ、フローラは別だからな!ちゃんと交代してもらうからな』
『なんで!?わたくし新兵ですわ!!』
だが、新兵扱いしてくれない先輩の発言に反論したが、押し通されてしまった。
それでもここで休息できるというのは大きい。
ようやく休めるという事で同期には女型の巨人の正体をあえて伝えず伝言を報告した。
そして寝た。
『起きて!フローラ!』
だが、この日は全然寝かしてくれなかった。
なんと!獣の巨人が生きており、こっちに巨人の大群を差し向けたのだ。
しかも、月光で動けるのか、夜間でも巨人が通常通りに動くというおまけ付きだ。
「新兵は下がっているんだよ!」
ナナバ先輩を筆頭にゲルガー、リーネ、ヘニングは無防備な新兵を守ろうと刃を構えた。
「けど、フローラには戦ってもらおう…ここからは立体機動装置の出番だ」
さすがにナナバ先輩の参戦要求をフローラは拒絶する事ができなかった。
結果として第一波は退けたものの獣の巨人の投石や巨人の増援で不利になった。
瓦礫の下敷きから救出したリーネ先輩以外は戦死を遂げてフローラは城砦に逃亡する事となった。
『疲れた…』
あまりにも連戦過ぎてフローラは疲弊していたが、それは肉体だけの話では無かった。
負の感情を“声”として聴く能力のせいでライナーの“声”まで聴いてしまった。
『ライナーの精神がおかしい…なにこれ』
彼はやたらとクリスタを気にしており、結婚する際に自分にで式を執り行う妄想をしていた。
それどころか、フローラは糞みたいな結婚生活の妄想を追体験させられる羽目になった。
いくらライナーに無自覚で恋をしていても、曾孫に求婚してライナーが天に召される妄想は…。
『あっ、変異種…とりあえず殺す!!』
凶悪なギミックと凶暴さを持ち合わせる変異種を瞬殺するほどフローラは苛立たせた。
その怒りのせいか分からないが、フローラはこの時から巨人の首を積極的に刎ねる様になった。
「お願い…寝かせて…揺らさないで…」
その結果、腰や腹だけではなく血が滴れ落ちるほど両腕に負担がかかった。
なので信煙弾を同期に託して寝ようとするとミーナに揺さぶれて完全に気を失ってしまった。
ここで休み続けられるなら良かったが、残酷な世界はそれを許さなかった。
『ち、違うよ…私はただ皆を救う為に…!』
『だってよ!おいフローラ!まだ交戦する気はないのか!?』
誰からも見捨てられて孤独に育ったクリスタと名乗るヒストリアは自己犠牲しようとしていた。
ただでさえヒストリア関係で酷い目に遭ったのに更にフローラは苦悩する羽目になった。
お世話になったレイス卿に彼女を生かす様に命じられているし、なによりユミルがうるさかった。
『コニー、短剣を貸してくれ』
それでも駄々を捏ねた結果、ユミルはコニーから短剣を借りて自傷し、巨人になった。
104期兵に紛れて更に巨人化能力が居ると露見したが、それどころではない。
フローラも続いて巨人の掃討をする羽目になったが、さすがに掃討しきれなかった。
塔が崩壊し、ヒストリアの目の前に巨人が出現した時は、誰もが対処できず終わりかと思った。
『クリスタ…みんな下がってて!後は私たちに任せて!!』
絶体絶命の危機を救ったのはミカサ・アッカーマンであった。
フローラが託した信煙弾の煙や城の倒壊により、調査兵団が発見できたのだ。
『おっ!フローラ…この厳しい状況下で君は本当によく持ち堪えてくれたよ』
『疲れました…あとはお願いします』
調査兵団の第四分隊のハンジ分隊長と合流したフローラは援軍に巨人の対処を任せる予定だった。
『刃もガスも切れたんだね!ちゃーんと用意してあるよ!』
『…えっ?』
ところが、フローラが動けないのはガスや刃が切れたと勘違いされてしまった。
そのせいで更に彼女は巨人と交戦する羽目になった。
正式記録としてエレンが初めて巨人を討伐した頃、彼女は疲労で死にかけた。
『これからウォール・ローゼの穴を捜索する!総員、私に続いてくれ』
結局、巨人を掃討する羽目になったフローラはボロボロだった。
ハンジ分隊長が部隊をまとめて馬を走らせる事になったと聴いて彼女は考えた。
『移動はライリーに任せて寝ましょう…』
ライリーに前の馬の後についていく様に指示をしてフローラは寝てしまった。
その光景を見た第四分隊の隊員や同期たちは驚いたが…。
『まあ、フローラだし…』と頭進撃娘の行動をそこまで気にしなかった。
ここで誰も気にしなかった事だが、この行為自体はフローラは慣れていた。
『というか、なんで10代のわたくしが王政のトップと取引してるのよ!!』
フローラは王政のやりとりや商会関連、取引で毎日80枚以上の書類を書いていた。
『厩務員がライリーを扱えないし、どうすればいいの…』
更にライリーは毎日数時間走らさなければ満足しないじゃじゃ馬だった。
しかも、人見知りの上に好戦的のせいで自分が7時間以上接しなければならなかった。
つまり、フローラは一睡もする暇が無かったのだ。
『そこまで走りたいなら勝手に走っていればいいのよ』
その影響でフローラは夜間にライリーを走らせるついでに寝る特技を身に着けた。
ライリーとしても、主人面した女が寝ている間は指示しないので存分に遊ぶ事ができた。
これの何が問題かというと、平時のフローラは馬の上以外でほとんど寝ていなかったのだ。
『俺達は5年前に壁を破壊して攻撃を始めた。俺が鎧の巨人で、こいつが超大型巨人って奴だ』
兵士たちが起こそうとしてもフローラは爆睡していたが、聞き捨てならない話を聞いた。
さすがに両親の仇である巨人の名でボケるライナーにフローラは目覚めるしかなかった。
そして頭をしばいてやろうと50mの壁を登ったら…。
『ミカサ!!なにやってるのよおおお!?』
ミカサがライナーの右腕と首を斬り裂いた瞬間を目撃してしまった。
しかも、ベルトルトに襲い出したので慌ててフローラは蛮行を止めようとした。
『…そう』
しかし、周りの状況とベルトルトが超大型巨人の上半身を出現させた。
ライナーに至っては鎧の巨人になってエレンを掴んでウォール・マリア領に落ちて行った。
『殺す!』
あれだけ殺したかった鎧の巨人がすぐ傍に居るとはフローラは気付かなかった。
それと同時に自分の精神が崩壊しつつあると気付いた。
『うるさい…』
興奮し過ぎて古傷が開いたフローラは血塗れになった。
だが、その感覚よりも気になった事がある。
『ライナーには苦痛よりも絶望を味わせよ』
獣の巨人の能力者を相手にした時もそうだったが、フローラは
罪悪感やスパイ活動で疲弊して精神分裂したライナーみたいに精神が分裂するという奇妙な感覚。
ただ、なんで自分の肉体と精神を乗っ取る様に自分が囁いてくるのか分からない。
『ごめんなさいミカサ…今度はしっかり命がある限り守ってみせるから』
残念ながら不意打ちと疲弊しきっていたせいでフローラは敵対勢力を取り逃してしまった。
だから今度は、なんとしてもエレンを助けようと決意した。
『結局、こうなるわけ…』
その後、寝ていたらエルヴィン団長が壁上に兵士を走らせて第四分隊と合流した。
そして昇降機を設置し、次々と騎兵をウォール・マリアの領域に降ろして出撃した。
『【鎧の巨人】がエレンを連れて逃亡する気だ!絶対に逃すな!!』
エルヴィン団長は、作戦の邪魔となる奇行種を討伐し、そのまま兵力を率いた。
近くの人間を襲う習性がある巨人の群れを連れて鎧の巨人に向かって馬を走らせた。
エレンを奪還する為なら囮すら厭わないという彼の覚悟の表れだったのかもしれない。
『お久しぶりね鎧の巨人!』
エルヴィン団長の作戦は多くの犠牲者を出したが、効果的ではあった。
奇策をした調査兵団の奮闘でエレンを奪還された鎧の巨人はフローラと対峙した。
ついでにベルトルトが居たが、彼女も負けじと巨人10体を引き連れて交戦した。
『はあ!?この場に居る全ての巨人がたった1体の奇行種を襲ってるの!?』
その戦闘の最中、フローラは異常な感覚を味わった。
落雷を受けた時以上に身体が痙攣したと思ったら巨人の動きが変わったのだ。
エレンとミカサを襲撃していた巨人がその場にいた巨人の大群に襲われてたのだ。
『まさかこれがレイス卿が言っていた力なの!?』
時折、ロッド・レイス辺境伯は【力】を神の様に扱っていた。
その意味がさっぱり分からなかったフローラがここでようやく意味を理解した。
『来るんじゃねぇ!てめぇらぶっ殺すぞ!!』
鎧の巨人も気付いたが、【力】を発動するエレンによって巨人の大群を相手にする羽目になった。
さすがに巨人にあっさりと殺されてはフローラとしても気が収まらない。
なので彼らと共闘して巨人を掃討している最中、フローラは決意した。
『お前が考えている以上に単純な話じゃないんだ!』
『壁外人類がわたくしたちに滅んで欲しいのであれば、巨人で
疲れ切ったライナーがなにやら言い訳をしていたが、フローラは暗に告げる。
エレンの力で全ての巨人を操作し、ライナーたちを派遣した存在を滅ぼせば良いと…。
この時、フローラは自分の決断がどれだけ犠牲を強いるかは分かっていなかった。
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『そう、エレンには巨人を操作する力が眠っていたの!』
病室でエルティアナとミーナに回想を語っていたフローラは、自分の考えを述べた。
『だから彼の力を利用すれば、巨人で敵対勢力を襲わせる事も可能だったの…だから私は―』
ここから更に自分の行動が可笑しくなったとフローラは自分の所業を知りたい人たちに告げた。
そして、そのやり取りを回想として伝えられているエレンたちも黙って聞いていた。
実際、巨人を操作する事も可能だったかもしれない。
だが、それをすれば50mの壁が全て崩壊するかもしれない諸刃の剣だと身をもって知った。
壁の攻撃を加えたせいでシガンシナ区の壁が全て崩壊した惨状が全てを物語っていた。
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結局、フローラは巨人化能力者の撤退を手助けする事になってしまった。
疲労で死にかけて寝ているライナーに手の出しようがなかった。
ベルトルトと相打ちしたかったが、ライリーの存在で我慢せざるを得なかった。
『フローラ!?ユミルは!ユミルが居ない!!』
日が暮れてウォール・ローゼに沿ってライリーを走らせたら偶然、壁上に居る調査兵団と再会した。
昇降機で上げてもらったフローラは、ヒストリアからユミルの奪還を懇願されたが…。
ユミルが自分の意思で糞野郎共に付いて行ったと告げてトロスト区に帰投した。
『ああ、最悪……』
あれだけ鎧の巨人を殺したかったのに殺せなかった現実は、彼女を蝕んだ。
ここから平気で犯罪に手を染めていく事となる。
『まずは物資が必要ね』
ウトガルド城防衛戦では装備が枯渇して先輩たちが巨人の群れに押し切られた。
東防衛線で補給していたフローラは辛うじて生還した教訓を生かさなければならない。
『だから横領しちゃいましょう』
ピクシス司令のおかげでフローラはいくらでも補給ができた。
つまり、過剰に要求しても、刃やガス、野戦糧食を大量に受け取る事ができた。
元からフローラは壁外戦闘で巨人を2桁討伐していたので誰も過剰な物資を疑問に思わなかった。
『誰も壁外には確認しに来ませんからね』
「大半の物資を壁外戦闘で使用して放棄した」と上に報告すれば、誰もそれを確認などはしない。
逆に本当に使用されたのかと確認するなど真面目に定評あるマルロですらしない蛮行だった。
あくまでも、王政に設置させた補給拠点以外にも彼女は補給拠点を作ろうとしただけだったのだ。
だが、この行為は意図せぬ副産物を生んだ。
『フローラ・エリクシアを24時間、監視しろ!!』
王政府の最高幹部である内務大臣と大総統を脅迫したせいでフローラは目の敵にされた。
そのせいで中央第一憲兵団及びその配下は、フローラを1日中、監視する羽目になった。
『もう嫌だァ!!』
『なんでこんな事にいいいい!』
なので彼らは、最低でも毎日、ウォール・ローゼの外に出る事となった。
フローラはわざわざ巨人の群れに突撃するので監視する彼らも突撃する羽目になったのだ。
しかも、同日にトロスト区とカラネス区壁外で作戦を行なう時もあるほど忙しかった。
いくらローテーションで交代しようとも監視員には休める暇などある訳が無い。
『いつ寝てるんだよこいつ…』
『何で明かりを付けずに馬を走らせているんだよ…』
前述の通り、フローラは寝る暇が無かったので夜間の移動中に寝ていた。
当然、松明や角灯に火を灯すなど自殺行為なので無灯火でライリーを走らせた。
そんな事情を知らない中央憲兵たちは、必死に無灯火で馬を走らせる羽目になった。
しかも、夜が明けた時に目的地に着いていれば問題ないとフローラは考えていた。
『お前!!なんでこんな道を走るんだよ!?』
『どこにいるんだよ!?』
よってライリーの気分に彼らは振り回される事となった。
僅か3日で100人以上の中央憲兵が負傷し、巨人による戦死者も相次いだ。
『ふざけているのか?』
それでも命懸けで掴んだ情報を上に報告しても、誰も信じてもらえなかった。
それどころか、フローラの行動が可笑し過ぎて報告した自分たちですら信じられなかった。
『クソが…』
24時間フル稼働しているフローラの行動を信じてもらえなかった中央第一憲兵団は…。
見せしめに4人を処刑されてしまい、そのせいで中央憲兵の大半から見切りをつけられた。
彼らは、王に忠誠を誓い、自分たちの行動で平和を保っているという自負があった。
間違っても、王政府の高官に使役される奴隷ではなかったのだ。
『おいフローラ!!てめぇのせいで負傷者多数なんだよ!!多額の賠償金をよこせ!』
『えぇ!?』
ついにどうしようもなくなった中央憲兵とその配下は、フローラに怒りを向けた!
勝手に監視をしておいて自分が叱責される意味が分からなかった彼女だったが…。
『まあ、しょうがないわね…』
巨人との戦闘で共闘した影響か、同情したフローラは負傷兵全員に見舞金を支払った。
彼女としては意味が分からなかったが、中央憲兵としては、ようやく努力が報われる事となった。
『真面目に報告して処刑されるくらいならあいつに付いた方がマシじゃないか?』
『少なくとも処刑してくることは無いしな…』
カラネス区に同行した中央憲兵が大臣を置いて巨人から逃亡したせいで大臣は激怒した。
その影響で無能は一掃されたが、裏を返せば有能も彼らの機嫌を損ねれば粛清される可能性があった。
そして事実を報告すれば、虚報と判断されて処刑されるという現状は最悪の一手となった。
有能であっても、王政の機嫌を損ねれば処刑されるという前例は、それほどまずかったのだ。
『ふむ、ようやくフローラの弱みを握れたか』
ある日を境に王政府の最高幹部が望むフローラの調査結果が届く事となった。
当然の事ながら愛想を尽かした手下たちが虚報を報告していたのは言うまでもないだろう。
その影響でフローラは意外とあっさりと中央第一憲兵団の大半を掌握する事となった。
『まあ、邪魔しないなら問題ないわ』
いつの間にか調査兵団の新兵が中央第一憲兵団にお給料と恩給を支払う事になってしまった。
ただ、邪魔するどころか自分の行動に協力してくれるならとフローラは特に疑問にもたなかった。
そして夜間に寝ながら馬を走らせる行為にも、予想外の産物を生み出す事となった。
『肌荒れが酷いし、身体中が痛い!!』
『そりゃあ、夜間に馬を走らせながら寝ればそうなるだろう…』
いつの間にかフローラのツッコミ役と化していた中央憲兵たちは呆れた。
しかし、ここでただで済まないのがフローラだ!
『やぱり化粧は必要ね』
今度はライバルが多い化粧や美容関連に手を出した。
といっても、
だから長くても20分足らずでそれほど工夫せずに手入れをする事を見出そうとした。
『洗顔料で顔を洗い、化粧水で肌を潤わせて乾かない様にクリームを塗って終わりでいいのよ』
ただでさえ忙しいのに暢気に化粧とかする暇がない。
そこで洗顔をした後、化粧水、それを乾かさないクリームを塗って終わりにする事にした。
未だに夜風に当たって特に顔が肌荒れしてしまうが、大分マシになった。
『面倒だから開拓地の女性向けに条件付きで送りましょう』
ただし、やたらとライバルが多い化粧品業界にフローラは介入する気は無かった。
なので複数の商会の傘下である開拓地に居る女性に事実上、無料で提供したのだ。
元々この施策自体はやっていたが、夜間に馬を乗る様になってから数と提供場所を増やした。
『わたくしでも気にしているんだから開拓地の女性も美容に気を遣いたいじゃない』
男の目を気にせずに傷だらけの半裸を見せる性別フローラですらお肌の荒れを気にしている。
だから、条件を加えて化粧道具を前貸しをして女性たちにスキンケアを流行らせた。
条件というのも王政が定めたノルマの6割を達成するというもので条件を達成しやすくした。
もちろん、達成しなくても次は貸し出さないというだけで回収などしなかった。
『明日に喰う物すら困る開拓地の女性に見返りは求めないわ!表向きにはね…』
一見すると無駄な出費と提供に見えるが実際は違う。
必死に開拓したり、製造しても搾取する者たちのせいで全てを失う現実から…。
ノルマの6割を達成すれば、無料で化粧道具が継続的にもらえるという見返りは大きい。
『どこも生産効率が20%上昇し、支持率も3割増しました!更に化粧道具と香水の大量受注が…』
『なんで!?』
それによって生産効率や化粧道具を提供した商会の支持率を上昇するのが狙いだった。
しかし、開拓地の女性たちはそれだけでは満足できなかったらしい。
『低価格の香水をローションとして利用したり、フローラが使う化粧品に需要が発生した様です』
『香水はローションにはならないわ!!どんな使い方をしているの!?』
食事や最低限の娯楽以外でも、楽しみが増えたようで開拓地でも化粧道具が売れる様になった。
他の商売敵は、裕福な貴族や兵士向けにぼったくり価格で提供していたので必然の結果だった。
それどころか、低価格で提供した香水を美容目的で使う者も続出した。
これにはフローラもびっくりしたが、あえて口を出さずに放置する事となった。
『あれ?』
その結果、受注や製造するほど売れるたせいでフローラですら稼ぐ額を把握しきれなくなった。
彼女と手を組んでいる57の商会すら把握できていないのだから当然であった。
『それなら色々と買収しちゃいましょう!!』
商売をするのには商人ギルドの加盟が必須でそれらをまとめるのが商会である。
そしてほぼ全ての商会を統べるのが、王政の財政を司る中央商会連盟だ。
その加盟している商会の中で今後に必要になりそうな商会の買収をフローラは開始した。
『なんだこいつ!?』
さすがにここまで露骨に動くと貴族が運用する商会の全てに敵対されてしまった。
だが、既に王政の手下である中央第一憲兵団をほとんど掌握したフローラの敵では無かった。
開拓地にいる民衆と大量の資金、王国の暗部である実働部隊が敵に回ったら勝てる訳が無い。
『やりすぎた…』
権謀術数の世界で生きる貴族や上位商人が目の前の敵に躍起になっている裏で…。
いつのまにか中央商会連盟の6割を掌握する事となった。
元々、貴婦人たちも味方だったので貴族派閥が意図せずに動いたのも大きい。
『デレトフ会長も脅せるわね…』
王政の四大幹部の1人にして財政を司る会長を軽く脅したら、相手はあっさりと降伏した。
唯一フローラの手が及んでいないのはウォール教を残すのみとなったが…。
『わたくしの敵じゃないわね…』
既に内務大臣と大総統、更に全ての商会を束ねる長を脅せたフローラの敵ではない。
『そろそろウォール教が勘付いてきたわね…』
ちょうど少し前にニック主任司祭が「ヒストリア」という女性を気にしていた。
その偽名をヒストリアの口から聴くまで知らなかった彼女は警戒した。
接点が無さ過ぎるせいでウォール教が王政府の意図しない動きをするのではないかと…。
だからフローラは積極的に汚れ仕事をした。
『共犯者として協力しないと…分かっているわよね?』
中央憲兵と家族を利用して王政の最高幹部3名に恐怖と絶望を与えた。
そしてフローラの意図しない動きをするローデリヒ枢機卿を誅殺する計画に関与させた。
一応、これが達成したら脅迫はしない予定だが、保険くらいは残しておいた。
それよりも、未だに【神】とやらに縋るロッド・レイス辺境伯にフローラは苛立った。
『家族を救いたいのか、神に縋りたいのか、どっちかにしなさい!!』
枢機卿の誅殺計画に賛同したはずなのに奴隷精神が抜けていなかったのだ。
それどころか、本当にヒストリアを逆境から救う気があるのか疑問に思うほどだった。
レイス卿を呼び出して答え次第では、殺害するつもりでフローラは質問を繰り出した。
『私は奴隷だ。ヒストリアを助けたくてもどうする事もできない』
『そうですか、ならばここで死んでくださいませ』
『なっ!?』
『ここまで来たのにウジウジ嘆く男ならここで死んでわたくしに任せてくれれば結構ですわ』
別に神や強大な力に縋る事はフローラも否定しない。
だが、それはあくまで団結したり、同調したり、明日を生きる糧として行なう行為である。
祈った所で現実など変わらず、自分の意思で行動しない限り、何も変わらない。
だからフローラはお世話になった恩人の首元に刃を突き付けて答えを求めた。
『本当にヒストリアを助けられるのか?』
『娘を助けたいならば、まず父親のあなたがそれを信じないでどうするんですか?』
『私に何ができるというのだ!?』
『わたくしを返り討ちにして意志を踏み躙る覚悟くらいなきゃ娘が救えるわけないでしょうが!』
既にヒストリア関係に首を突っ込みたくないフローラは決断を迫った。
自分の意思で奴隷の末裔から脱却してヒストリアを助けるか。
それとも、ここで血を流して自分に全てを託すか。
「ああ、絶対にヒストリアを助けて見せる。自分の手を汚してもな…」
レイス卿の返答を聴いてフローラは笑った。
ここまで彼女が迫ったのは、理由がある。
『レイス卿、残念ながらわたくしはもう長くありませんの…』
フローラは王政を引っ掻き回す快進撃の裏で心身共に追い詰められていた。
きっかけは、獣の巨人の能力者と初遭遇した時だ。
『なにこれ…』
自分の肉体のはずなのに何者かに操られる感覚があった。
それだけではなく鎧の巨人の能力者を仕留められる時もそうだった。
『なんで?』
わざわざ罪を認識させて殺したいという感情で無防備だったライナーを殺さなかった。
調査兵団は、あれだけ鎧の巨人討伐を掲げた頭進撃娘が彼を見逃した事実に疑問に思った。
それはフローラ自身が強く思っていた。
『まさか恐れているというの…?』
エルティアナ女史やミーナに聴かせている今だからこそ分かる。
無自覚にライナーに恋をしていた自分は、鎧の巨人討伐した暁に褒めて欲しかった事に…。
それが不可能になった事実は、フローラの行動信念どころか考えすら変えてしまった。
『恐怖の感情が戻る事に…』
フローラは自分が恐怖という感情が欠如しているのは自覚していた。
そして、それこそが自分が今まで他者より行動できる原動力だと分かっていた。
記憶を戻った今では、それは素だと分かったが、当時は死活問題だった。
もしも、記憶が戻って人間に戻ったら、二度と戦えなくなってしまうと考えてしまった。
『ああ、これが恐怖ね…』
厄介な事にフローラは他者については詳しいのに自分については詳しくなかった。
鎧の巨人のせいで記憶喪失しているせいで自分の過去などほとんど覚えていなかった。
だが、彼女は今の生活が楽しいので無視できたが、他者は違ったようだ。
『余計な真似を…!!』
フローラは鎧の巨人を討伐したら自決するのではないかと他者に気遣われる事があった。
実際、それが事実の時があった故に彼女も否定できなかった。
彼女にとって【第二の人生】は、鎧の巨人の討伐だけが目的であり夢であった。
『しないで…』
だが、もしも記憶が戻れば、自分がどうなるのかフローラは予想できなかった。
故にシガンシナ区に捨てて来た記憶が戻らない事を祈っていた。
しかし、よりによってリーブス会長のご子息フレーゲルに一部を呼び起こされた。
『君の父親の名は、ミオソティス・エリクシア』
『……ご丁寧にありがとうございます』
ただの引き籠りだった男の子は、目の前に居るフローラが結婚を約束した幼馴染だと思い出した。
だから彼は、必死に記憶を思い出さそうとしたが、それは彼女にとって致命傷になった。
「母親の名前は、アネモーネ・エリクシア」
恰幅の良いフレーゲルの放った一言でフローラは激高した!
おかげさまで少しだけ記憶が戻ってしまったのだ。
思わず親友の両親が経営している店で抜剣し、本気で彼を殺そうと思ったくらいだった。
「こうやって気に食わない事に癇癪を起したんだよ!君は…!」
「確かに
更に挑発されたフローラは、何かが吹っ切れた。
その場はリーブス会長やトーマスの両親のおかげで大事にはならなかった。
だが、この出来事のせいでフローラは、終活する為に活動を開始した。
『もうすぐわたくしの人生は終わりそうね…』
もはや、自分の身体が自分の物では無い事に気付き始めた。
あくまで
誰よりも高慢ちきで他者を絶望や危害を与えるのに躊躇いが無い化け物だと気付き始めたのだ。
『ふふふふ…』
ここからフローラは同期と違う道を進み始めた。
誰もが「家族を守る為」とか「夢」とか『みんなを守りたい』と想って戦っている。
だが、フローラは自分の人生をこの手で終わらせる為に戦い始めたのだ。
『はははは、わたくしが居なくても大丈夫にしないとね』
ケニー・アッカーマン率いる対人立体機動部隊の装備の開発に関与したフローラは…。
旧式になって用済みになった装備を駐屯兵団第一師団精鋭部隊に横流しをした。
さすがにキッツ隊長も異常だと気付いたが、中央憲兵が許可したので疑う事をやめた。
『キッツ隊長、エレンを頼みます…』
キッツ隊長と初対面してから必死にフローラが尽力してきた努力は結ばれた。
エレンと和解したキッツ隊長とその配下は、王政府ですら容易には介入できない存在だった。
これで駐屯兵団第一師団を味方につけたが、油断せずフローラは更に協力者を集めた。
『ハンドリック・マンシュタイン精鋭部隊長殿!お会いできて光栄です』
『駐屯兵団第二師団長なのだが、紹介状はちゃんと読んだのか?』
『え?』
戦死した調査兵団第二分隊長の兄上と精鋭部隊に所属していたという情報を鵜呑みにし過ぎた。
そのせいでミーナと師団長の前でありえない失言をしたが、逆にそのおかげで注目された。
『なるほど、事情は分かった』
『ありがとうございます』
元よりザックレー総統やピクシス司令と交流があるフローラは、第二師団長との会話も弾んだ。
レイス辺境伯の事情や自分の置かれた状況を共有し、別の秘密も共有した。
その結果、駐屯兵団第二師団はレイス辺境伯を守る盾になってくれると約束を得られた。
『それとザックレー総統とその一派にはご内密でお願いいたします』
『ああ、分かっている』
ここで同じく王政府と敵対しているザックレー総統に情報を共有するべきであった。
だが、娘を操り人形にしたくないロッド・レイス辺境伯は、彼に政権を渡す気が無かった。
そのせいで四重スパイと化したフローラは、最終的にレイス卿に判断を委ねるしかなかった。
『ただ、1つだけ言わせてくれ。死ぬなよ?』
『味方に殺されない限りは死ぬつもりはありません』
第57回壁外調査開始前に勘付いたエルヴィン団長といい智将は人の本心を見抜くようだ。
さすがに「自分の死を有終の美にしたい」など語れずに曖昧な返答をしてしまった。
現にフローラの取引相手でも彼女を恨んだり、こっそり敵対している者も多い。
だからこの発言を間違っていなかった。
『フローラ、前に遺書みたいな物を書いていたけど死ぬ気なの?』
『死んだ時の保険よ。それを書かないといけないくらい自分の存在はデカくなり過ぎたの…』
ユトピア区防衛戦が始まる2日前にミーナに核心を突かれたフローラは本音を漏らした。
訓練兵団を卒業して3ヶ月経過した頃には王政府の最高幹部たちを脅迫できる立場になった。
末代まで遊んで暮らせる財産や仲間や取引相手、独自の兵器群や私兵すら抱えていた。
だが、それらはフローラにとって…おまけに過ぎなかった。
『なんでそこまで頑張ったの?』
『全ては鎧の巨人をこの手で殺す為よ…』
さすがにミーナから不審に思われたフローラだが、彼女としては答えなど決まっていた。
ここまでフローラは色々やらかしてきたが、今までの行動は、たった一言で表せる。
鎧の巨人を討伐しようとしたら王政が邪魔したので徹底的に叩き潰して牽制した。
たったそれだけの事だった。
『同期と交流したり、兵器を開発したり、商売をしたり、投資をしたり…』
フローラ・エリクシアという女は、絶対に立ち止まる事は無かった。
『王政を脅迫したり、独自の兵力でレイス卿を守ろうとしたのも、全て…全て…』
そこまでやらなくても良かったが、フローラは交流するのが大好きだった。
それこそ未だに腕を噛みついてくる相棒を選んだのも、交流したかったからだ。
『鎧の巨人を討伐する為だけに全てをやりました…わ…』
訓練兵団に入団した日にもらった手帳の最後のページに書く事は決まっていた。
そこには、鎧の巨人を討伐して両親の仇を討った兵士が、巨人の群れに…。
『でも、鎧の巨人と再戦を果たしたわたくしは、彼を殺せませんでした…』
クロルバ区の病院の一室で過去と所業を報告していたフローラはベッドに腰掛けて俯いていた。
鎧の巨人を殺せるなら全てを差し出してもいいと思ったのに、またしても討伐が失敗した。
『わたくしにとって【愛】とは【恐怖】以上に恐ろしいものでした…』
愛さえ知らねば、フレーゲルとの婚約を思い出さなければ…もっと違う道があったかもしれない。
両親の仇と知らずにライナーに恋をしていたフローラは、ユトピア区に撤退する時にそれを知った。
だからエレンに全てを託して巨人と最期まで殺し合う未来を選んだ……はずだった。
「もういい…」
エルティアナ監査副長は、視線が定まらないフローラを見て報告を強制終了させた。
「フローラ、お茶のお代わりだよ」
「ありがとうミーナ…」
4杯目のお茶を親友から受け取ったフローラはお茶を一瞬で飲み干した。
そして自分の過去を話すのに慣れていなかったのか、そのまま黙り込んでしまった。
「とりあえずご苦労であった。疲れを癒したら一緒に今後の事を考えようでないか」
「ありがとうございます」
「フローラ、トイレは大丈夫?」
「……そうね、一睡する前に行くとするわ」
エルティアナ女史の発言は、亡霊と化したフローラの心に少しだけ響いたようだ。
少なくとも、ミーナの同行をあっさりと受け入れた彼女は一緒にトイレに向かった。
事情を知った女衛生兵も彼女の後を追う。
それを見送ったエルティアナは顔を天井に向けた。
『ああ、ようやくフローラがここまで暴れられた原因が理解したよ…』
とりあえず、フローラのコネと資金源、そして彼女の影響を受けた勢力は判明した。
そしてなにより、ここまでフローラの行動を悪化させた元凶も分かった。
『ドット・ピクシス司令、あなたの命令のせいで全てが狂ったって事か』
確かにフローラは暴れすぎたが、そのきっかけを作ったのはピクシス司令だ。
司令が彼女に最優先で補給を受けられる権限を与えなければ、こうならなかった。
『それとまだ隠しているな…』
そして、さきほどのフローラの暴露話でエルティアナは気付いた事がある。
確かに彼女は、命令通りに報告したが、本当に重要な事は曖昧に話していたのだ。
『巨人化能力の継承方法、レイス卿を守る部隊の全体像、なによりライナーに恋したきっかけ…」
確かに発覚した情報で点と点が繋がり、フローラが色んな行動を起こしたのは理解できる。
だが、それに至ったきっかけが相変わらず不明だったのだ。
唯一、ピクシス司令がとんでもない権限を付与したせいでフローラが暴走したという事は分かる。
それすらも、なんでピクシス司令がフローラにその権限を付与したのかは不明だった。
『…さて、どうやって聴き出してやろうかな…』
さすがにもう戦えないとはいえ総統局の五大部署の1つ、監査部のNo.2は虎視眈々と策を練った。
幸いにも、カラネス区の兵舎にあるフローラの私室から全ての荷物を回収する様に命じてある。
回収された証拠をフローラに突き付けてなんでそうなったのか聴き出そうと考えた!