進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
絶対に安全だという場所は、この世には存在しない。
内地の城壁都市に女型の巨人が出現して大暴れした様に何が起こっても可笑しくない。
だから王都で最も安全な場所の1つである玉座の間であっても、例外では無かった。
「次弾装填急げ!!」
「「「ハッ!」」」
ザックレー総統が率いる反乱部隊に散弾を発砲した部隊は班長の命令に従い銃身を捨てた。
一斉に大腿部に装備されたカートリッジから予備の銃身を操作装置に装填する。
そして黒煙に潜む生き残っている反乱兵に向けて二式銃・改二をぶっ放そうとした。
「ぐあっ!?」
「ん!?そこか!?」
突然、誰かの悲鳴と共に黒煙を見据える班長の前に人影が見えた!
躊躇いも無く発砲し、散弾の直撃を受けた兵士は爆散し、血肉を周囲に降らした。
「なっ…!?」
だが、散弾の直撃を受けたのは敵兵ではなく味方の兵士であった。
聴覚に優れるフローラは床に落下した銃身の音を聞いて敵兵力の居場所を感知した。
すぐに傍に居た散弾兵を班長に向けて蹴っ飛ばして銃弾をぶっ放す様に仕向けたのだ。
『これで5人!!』
さすがに散弾銃相手には、白兵戦は分が悪いので煙幕で視界を遮らせてもらった。
調査兵を発見した時に発砲する為と偽って持ち込んだ信煙弾が功を奏した。
おかげですぐに発砲できない知り合いに向かってフローラは短剣を構えて突撃した。
「何事だ!?ぶぎゃああ!?」
玉座の間に繋がる扉で待機していた反乱兵たちが騒音を聴いて駆けつけてきた。
が、敵の増援を予想していた対人立体機動部隊に散弾を放たれて3名の兵士が爆散した。
「え?」
ミーナ・カロライナは律儀にフローラの指示を守ったので無事であった。
だが、彼女は動く事ができずにそのまま柱に身を隠して見守る事しかできない。
ついでにこれ以上の犠牲者を出さない様に援軍の入室を抑える羽目になった。
「チッ!!」
奇襲したフローラであったが、間一髪気付いた敵兵が銃身を盾にした為、斬撃を防がれた。
すぐさま短剣を握っていない左手で右眼球を突き刺した。
「ぎゃあああああ!?」
眼球に攻撃を受けて悶絶する敵兵を放置して立体機動で上を駆け回る兵士にフローラは警戒した。
シルガイリス班長をすぐに仕留めたかったが、別の兵士が工作をしたのに気付いたからだ。
『撒きビシを撒いたわね!?』
交戦している敵戦力と知り合いであるフローラは、当然、彼らの戦術についても知っていた。
というか、彼らはフローラがこっそり創設した“
対人戦どころか巨人の掃討作戦に従事できる様にとフローラによって生み出された精鋭兵である。
王政の最高幹部たちを脅迫したのもこの部隊であり、彼女の息がかかった中央憲兵とも言える。
『正体をバラしておくべきだった!!』
隊員は個別に装備が微妙に違い、中には毒ガス弾や手榴弾を装備している者も居る。
さきほど撒きビシを床に散布したヴィリバルトが特製の手榴弾を投擲してきた。
それをフローラは起爆する前に扉に向かって瞬時に蹴り返す。
爆発と共に破片が周囲に居た兵士や遺体の破片、壁や床に突き刺さった。
『ん?』
ここでフローラに心酔する特殊部隊の隊員たちが違和感に気付いたが…。
『さすがにきつい!!』
煙幕で視界を塞いだので視覚に頼らなくても戦えるフローラの方が有利であった。
しかし、撒きビシを床に散布された以上、立体機動を駆使する敵の方が有利になった。
なにより短剣では、白兵戦で分が悪いのでフローラは新たな武器を調達する羽目になる。
「てい!!」
「ぐああっ!?」
黒煙で視界が利かないが、音と“声”を頼りにして短剣を投擲し、壁に向かって走り出した。
即座に発砲されたが、辛うじて回避したフローラは壁に沿って壇上を登って玉座に辿り着く。
「貸せ!!」
「うわ!?」
今なお、堂々と玉座に座る偽者の王を警護する近衛兵から槍を奪い取ったフローラは構えた。
…が、その時に見せた隙はデカすぎた。
「そこだ!!…うっ!?」
すぐさま2つの銃口を構えたコンラートに発見されたが、すぐに撃てなかった。
エルティアナに化けているフローラの背後には、偽者の王が居たのだ。
中央憲兵である以上、王に忠誠を誓っていたので攻撃できる訳が無かった。
「おりゃあ!!」
「ごほっ!?」
一瞬の隙を見逃さなかったフローラは、コンラートを首を槍で突いた。
さすがに急所を突かれた彼は瞬時に発砲する事ができず、傷を両手で抑えて倒れ込んだ。
『アイリス!?』
うつ伏せに倒れ込んだコンラートに止めを刺したフローラだが、まだ戦闘は終わっていない。
短剣型立体機動装置を身に着けた女兵士がフローラを強襲したのだ。
『まずい!?』
アイリスが装備しているのは、第57回壁外調査で実戦投入したブリッツメッサーである。
問題なのは、別装備のせいで拳が自分に向けられたら即死しかねない攻撃が来る可能性がある。
そのせいで不利になると分かりつつも、フローラは槍を突き出して牽制するしかなかった。
『うわ…』
儀仗用の槍とはいえ、あっさりと柄を切り裂かれたフローラは本気でドン引きした。
確かに鎧の巨人の装甲にも貫通しそうな刃だが、初期よりも明らかに切れ味が上がっていた。
槍を突き出す度に次々と輪切りにされる感覚は、調理でもやっているのかと思うほどだ。
「死ね!!」
ブリッツシャイダーからアンカーが射出されるが、既に動きに読んでいたフローラは回避できた。
問題なのは、次!
すぐさま飛び出したワイヤーを引っ張って金髪ツインテールが印象的なアイリスの体勢を崩した。
そのおかげで彼女の左袖口から射出された
『ハァ!?』
実際、それが射出されたのは初めて見たが、超高強度コンクリートの柱があっさりと粉砕された。
明らかに袖口に潜める暗器の威力ではない上にあれに猛毒が仕込んであるというのも恐ろしい。
鎧の巨人の装甲程度では防ぐ事ができない高威力の射出暗器の威力をしかと見届けた。
「グリューン!!」
「了解!!」
ただ、それをフローラが考えている暇など無かった。
アイリスの呼びかけで同じく短剣型立体機動装置を身に着けた兵士が駆けつけて来た。
「うわ……」
彼が持っていたのは、フローラも知っているが、自分に向けて使用されるとは思っていなかった。
最近、クロルバ区壁外で使用したクイーンバレルという巨人用に転用された対人装備がある。
だが、立体機動で撃つのに向いていない上に威力不足という文字通り自動小銃でしかなかった。
後にハンジ分隊長の副官であるモブリットの肉体をハチの巣にしたエースバレルはその改良型だ。
『AP-1 ウォルケンブルフ…』
それとは別にフローラは、王政府に内緒で
巨人相手に牽制するなら対人立体機動装置に組み込まなくていいよね…という理屈である。
分類は、“
アイリスが投擲した手投げ式の閃光弾と併用する事を想定したその兵器は…。
『やっぱ王政は正しかったわああああああ!!』
見事に撒きビシで移動が制限された玉座の間で効果を発揮した。
慌てて短剣と化した穂先をグリューンに投擲したフローラは壁に沿って逃げ出した。
そして穂先が弾かれる音を聴く前に未だに黒煙を噴き出す信煙弾の付近に転がった。
王政幹部が座っていた豪華な椅子の1つが破壊されて壁や床に穴が空いた。
『誰か動きなさいよおおおお!!』
本来だったら最精鋭である近衛兵が動くが、味方同士が戦っているせいで困惑して動けなかった。
奇襲で散弾を喰らった兵士はともかく重傷を免れた兵士や将校もフローラの援護をしなかった。
エルヴィン団長を処刑台に連行しようとした中央憲兵は両手を挙げて壁際で投降した。
そのせいで孤軍奮闘する羽目になったフローラは血溜りからマスケット銃を持ち出した。
『借りるわよ!!』
ザックレー総統と共に率いた兵士の遺品ではあるが、弾はしっかりと装填してある。
自業自得とはいえ自分が蒔いた種を踏み躙る事になった彼女は、“声”を頼りに銃を構えた。
「ああがっ!?」
射線に飛び出してきたアイリスを見た瞬間、マスケット銃の引き金を引いた。
肌荒れに悩む彼女に化粧水をあげて喜んでくれた際に見せた笑顔を見たのはいつだったか。
見事に肌が潤っている顔をぶち抜いたフローラは、短機関銃の弾を装填しようとするグリューン!
…ではなくさきほど眼球を負傷した散弾兵に向かって駆け出した。
『来なさい!』
壇上に居るグリューンよりも煙幕の先に居る2名の散弾兵の方が厄介と判断!
近くに居たシルガイリス班長に向かってフローラは突撃をした。
「あちぃ!?」
右手から放たれた散弾を回り込む様に回避したフローラは彼の懐に飛び込んだ。
さきほど発砲して高熱になった銃口をシルガイリス班長の頬にぶつける。
すぐにフローラは、マスケット銃を捨てて高熱で怯んだ班長の両手をそれぞれの手で握った。
『あとは…』
左手で右中指を強く押させてアンカーをあらぬ方向に射出させ、左手は別の方角に向けさせた。
その先には、同士討ちを避ける為に散弾を発砲できないカイアスの姿があった。
さきほどの一斉射撃時点では居なかったが、どうやら増援としてきたようであった。
『カイアス、ごめん!!』
そしてフローラは右手で班長の左人差し指を強く押すと引き金が作動し、散弾が放たれた。
「グボアッ!?」
さすがに班長を撃てなかった哀れなカイアスの肉体は爆散したが、フローラは分かる。
玉座で座っているボケ老人と化した偽者の王が居なかったら絶対に勝ち目が無かった事に…。
「はぁはぁはぁはぁ…」
対人立体機動装置は、銃身とアンカー射出機が同じ方向に付いている。
シルガイリス班長が左手で握る二式銃・改二は、銃身を変えない限り次弾を撃てない。
右手にある銃器は、アンカーが射出されている間は、こっちに向けて発砲できなかった。
『あるものは全て活用してやるわ!!』
それを把握してるフローラは、カイアスの死体に近づいて二式銃・改二で班長に向けて発砲した。
しかし、敵も馬鹿ではないのでその前に立体機動で煙幕の先に消えてしまった。
『本気で王のおかげで助かった…』
カイアスの死体から猛毒が塗られた2つの短剣を回収したフローラは、胸を撫で下ろした。
あっさりと瞬殺された彼だが、持っている兵器が危険過ぎて王が居なかったら本気で危なかった。
『燃料気化爆弾、クラスター爆弾、毒ガス兵器……やはり作るべきでは無かった…』
燃料気化爆弾の厄介なところは、物陰で爆発から免れても爆圧で肺を潰されて死ぬ危険性が高い。
他の兵器も、巨人化能力者を想定した兵器とはいえ危険過ぎた。
『巨人化能力者に有効とはいえやり過ぎた…。』
鎧の巨人をぶち殺す為に闇に葬られた技術でとんでもない兵器を試作したフローラは反省する。
この経験を受けて彼女は、毒ガス兵器を含む毒武器を禁止して回収し、全て破棄する事となった。
広範囲に気化爆発を起こす兵器も、
「はぁはぁ…」
そもそも、“
しかし、あっさりと仲良くなったので巨人化能力者及び王政の刺客を想定した装備になっていた。
そして彼らは、同期のヒストリアの父であるロッド・レイス辺境伯に預けたはずである。
『レイス卿の差し金か…』
ユトピア区防衛戦で元より疲弊していたフローラは、なんとか過呼吸から立ち直った。
額からは大量の脂汗が流れて吐き気を催していたが、それどころはない。
鞘から2本の刃を抜いた彼女は殺意の感情が近づいてくる場所に目を向ける!
「そこ!!」
「…おま!?」
立体機動で再び現場に駆けつけて来たシルガイリス班長に猛毒の短剣を投擲した。
すぐに発砲するつもりだった彼は、大慌てで銃身で短剣を叩き落す!
その隙にフローラは壁に沿って直進し、今度は短機関銃を構えるグリューンを狙った。
「うおっ!?」
いきなり煙幕から飛び出した人物を彼は確認したが、瞬時に撃てなかった。
さきほど立体機動を駆使したシルガイリス班長に発砲しそうになったからだ。
「おりゃああ!!」
「ぐっ!!」
銃身に短剣を切り上げて銃口を別方向に逸らしたフローラはそのままグリューンに体当たり!
その衝撃で引き金が引かれて銃口から連射された銃弾が天井に穴を空けていく。
弾切れになるのを確認する前にそのままフローラは自分の利き足で彼の軸足を払った。
元より体当たりで姿勢が不安定だったグリューンは後方に倒れてそのまま床に激突した。
「ぐっ!?」
「寝てろ!!」
その隙に操作装置にある人差し指で操作するトリガーで2つのアンカーを射出させた。
そしてそれが二度と使えなくする為にフローラは、短剣で立体機動装置を破壊する。
後頭部を強打し、痛みで悶えるグリューンの様子を見て彼女は次の標的を班長に定めた。
『一か八か……当たり!』
すぐさま落ちていた短機関銃を手に取って銃声が止んで近づいて来た班長に向かって発砲した。
「ひいいいいいい!!」
「うわあああああ!!」
数々の政敵や民衆を誅殺してきた王政の最高幹部たちは眼前の殺し合いで情けない悲鳴を出す。
平和である王都の中でも安全だった場所は、新兵器のお披露目会と化して戦闘が継続していた。
それでも王を守る為に志願した近衛兵は身を前に出して王を守っているのはさすがというべきか。
「貴様、何故兵器を…」
「やかましい!!」
さすがにこうも、自分たちの弱点を突くエルティアナにシルガイリスは疑問に思って口に出した。
だが、ブリッツハーケンによるアンカー攻撃を阻止したフローラはそれどころではない。
交渉できるなら敵であっても仲良くできる彼女だが、交渉できない敵には容赦なかった。
「ああっ!?」
猛毒が塗られた短剣は見事にシルガイリスの
心から信頼していた相手に短剣を投擲したフローラは、残っていた近衛兵から槍を強奪!
短剣を抜こうとしたが、それだと大量出血で死ぬと理解して動きが止まった敵に振り抜いた!
「うぐぁ!?」
激痛で前屈みになっていたシルガイリスは玉座の傍にある大きな窓枠に激突する!
その衝撃で窓枠が歪んで窓の一部が割れるが、彼はまだ戦える!
「せめてお前だけでも…!」
猛毒が全身を犯している感覚を受けながらも二式銃・改二を構えた。
そして撃とうとした彼の眼前に…。
「落ちろ!!」
助走をつけて床に槍を床に突き刺し、踏み切ってその勢いで飛び蹴りをしてきたフローラの姿が!
104期訓練兵時代に訓練兵が槍で遊んでいたのを応用した彼女は、敵の胴体を両足蹴りした。
「ぎゃあああ!?」
物体の運動エネルギーは、質量に比例し速さの2乗に比例する。
助走をつけて加速したフローラの両脚蹴りは、見事に復帰した彼を再度、窓枠に激突させた。
その衝撃で窓から飛び出したシルガイリスは地面に向かって落下し、全身を強く打って死んだ。
「ほげっ!?」
ただしフローラも床に激突して見悶えた。
幸いにもガラスの破片は刺さらずにすぐさま立ち上がった。
この程度の痛みなど医務室送り常連であった訓練兵時代で慣れていた。
『あとはグリューン!!』
最後は立体機動ができなくなったグリューンを残すのみ。
無理やり動いたのか、アンカーを引き摺ったまま彼はブリッツメッサーを構えていた。
「このアマが!!」
調査兵団の団長を逆恨みしたグリューンは、どうやらエルティアナに殺意を抱いたようだ。
エルヴィン団長が処刑から免れようとしたのを防ごうとする行動はしなくなった。
それはフローラの狙いとも言える。
「フローラを!フローラを無駄死にさせたお前らを許さん!」
「うるせぇよ馬鹿!!さっさと死ね!!」
フローラに心酔し、悪魔の手先になった精鋭兵は、目の前の女がフローラだと気付いていない。
一緒に巨人と交戦したり、飲み会をして交流したフローラも殺し合いでは容赦はしなかった。
床に刺した槍を抜いて彼をぶち殺そうと構えた!
「仇を討つ!」
「あの世でやってろ!!」
硬質化した皮膚すら貫通する刃と穂先が何度も激突し、剣戟を繰り広げる。
お互いが文字通りの必殺を繰り出して王政の最高幹部たちは黙って見守るしかできない。
明らかに聞いた事が無い連射する銃声を聞いて死んだフリを続ける兵士も動けなかった。
『ヘイトは稼いだけど…』
ぶっちゃけ今、フローラと戦っている中央憲兵たちは王政と敵対している。
じゃあ、なんで王政幹部である大総統の号令でザックレー総統の部隊に攻撃したかというと…。
フローラをユトピア区壁外で見捨ててそれを誇ってすらいる調査兵団を憎んでいたからだ。
その元凶となるエルヴィン団長を殺す為だけに敵対する王政に護衛すると嘘ついていた。
敵の敵は味方を地で行く行動にフローラは感心すらある。
『他の班はどこに行った!?』
フローラが焦っていたのは、“
そう、同等の装備をしているフローラの忠実な狗がまだ6人も残っていたのだ。
ロッド・レイス卿に
「たかが女一人死んだだけで大騒ぎするな!!このアホが!!」
「死ね」
挑発してみるが、却って言葉数を減らす結果になった。
なによりフローラは…。
『前よりボケが酷くなっていない?この惨状でそれはないわよ…』
フローラと愉快な仲間たちが壮絶な殺し合いをするのをフリッツ王は黙々と見守っていた。
眼前で散弾銃や短機関銃が発砲していたり、剣戟を繰り広げられているのに眉1つ動かさない。
右手で頬杖をついて目の前の惨劇を黙過しているお姿は頼もしくも見える。
まあ、合図が無い限りこうするしかできないボケ老人に感動すらした。
「!?」
双剣で穂先を防いだグリューンは両手で何かをした。
するとブリッツメッサーから白煙が噴き出した。
『はぁ!?ブリッツメッサーにも採用したの!?』
この細工は、フローラ専用装備になっている短剣型立体機動装置に採用されていた。
ケニー・アッカーマンが借りた装備の1つ、ヤークトメッサーは煙を噴き出す事ができる。
これは、フローラがベルトルトと一騎打ちした時に鍔迫り合いで有効打がなかった影響だ。
煙がいきなり噴き出して気が動転した隙や不利な戦況を打開する一手として用意された。
『さては、こっそり作ったわね!?』
フローラが王政に内緒で兵器を作ったように彼らも自分に内緒で兵器を作ったようだ。
ブリッツメッサーⅡから白煙が飛び出してせっかく換気で黒煙が薄くなった部屋に充満した。
『こいつだけでも…』
白煙で身を隠したグリューンは後退し、撒きビシを床に撒いた。
さっきと違って窓が大きく割れてドアが開いている関係で煙がすぐに薄くなる。
だが、その隙に彼は先手を打とうとした。
『そこだ!!』
白煙が薄くなって敵の姿が朧げに見えて来た瞬間、手裏剣を投擲した。
「あっ!?」
命中したようで女の悲鳴が聞こえた。
それを聴く前に毒針を用意していたグリューンは更に人影に向かって投げつけた。
「ああっ!?」
猛毒を塗った毒針も命中し、煙の中に居る人影が前屈みになった。
すぐさま懐からパーカッションロック式拳銃を取り出した。
「死んで詫びろ!!」
すぐさまエルティアナの頭部と思わしき場所に向かって発砲した。
見事に弾丸は命中した様で皮膚が裂ける音すら聞こえた気がした。
「なっ!?」
シルガイリス班長の犠牲で割れた窓の影響で発生した空気の流れで白煙が晴れると…。
そこには、同じ班員であるアイリスの死体を盾にしたエルティアナに化けたフローラの姿が!
最近、自分が演技が上手いのではないかと勘違いする女は、やられる悲鳴を演じてみせた。
「てめぇ!!」
密かに班員たちの中でアイドルであったアイリスの死体を盾にされたと知って激怒した。
それすらフローラは想定内であった。
『はぁ…』
度重なる野外作戦で体臭が気になっていたアイリスにフローラは専用の香水を贈呈した。
実際に服用した結果を嬉しそうに報告してくれた彼女の顔は未だに思い出せる。
未だに使ってくれている様でいつまでも嗅いでいたくなる香りがフローラの鼻を刺激する。
だが、少しずつ香水や体臭以外の匂いが漂ってきたアイリスの右手を操作した。
『やってられないわ…』
猛毒が塗られていない方の
だが、既に死んだアイリスは自分の肉体の心配どころか痛みを知る術はない。
見事に死体の尊厳を踏み躙ったフローラは、生き残った敵兵に
「嘘だろ!?」
さっきから
だが、彼もまたフローラによって覚醒した精鋭兵の1人である。
すぐに左手のブリッツメッサーを投擲したと同時に壇上から飛び降りて床に転がった。
人間を殺さなかった
その結果、フローラ配下の対人立体機動が潜伏していた隠し部屋が露わになる事となった。
『クソが…』
ヴィリバルトが撒いた撒きビシが刺さって血塗れになったグリューンも
「いっ!?」
そんな彼にフローラは、アイリスが所持していたAP-1 ウォルケンブルフを披露する。
短機関銃の銃口を向けられた彼は慌てて走り出すと同時にフローラは発砲した。
戦闘が終わったのかと立ち上がろうとした兵士は、すぐに銃声で床に伏せる事となった。
「なんでだ!?」
短機関銃の銃撃から必死に逃れるグリューンはこの世の不条理を呪った。
そもそも彼らの戦術は、フローラと一緒に生み出したものである。
「なんで動きを読まれる!?」
その一部の戦術は、駐屯兵団第一師団に所属するキッツ隊長が率いる精鋭部隊にも影響を与えた。
だからフローラは、直属の部下たちの行動を予想したり新兵器を躊躇いなく使用ができたのだ。
「…なるほど」
さきほどグリューンが散布した撒きビシの上にアイリスの遺体が置かれた。
その上で足を乗せてグリューンに向かって短機関銃を発砲しているフローラは思った。
『ふーん』
対人立体機動装備の1つであるクイーンバレルという自動小銃から派生したきっかけは単純だ。
立体機動をすると破損したり弾詰まりをするので威力を向上するしか改良しようがなかった。
その欠点は、後にレイス領の礼拝堂地下での戦闘で対人立体機動部隊にも認識される事となる。
なので、対人立体機動装備から外して単体で活用しようと作ったのがこの銃である。
もちろん、連射できるとはいえすぐに弾切れになる。
「今だ!!」
銃声がしなくなった瞬間、痛みを堪えるグリューンは踵を返して女将校に襲い掛かろうとした。
「マジかよ!?」
「マジだよ!!」
当然、どうやったら弾が補充されるのかフローラは知っている。
グリューンが見せなかったはずの
わざわざ近づいてくれた戦友に向かってフローラは再度、発砲を繰り返した。
だが、銃身に熱を帯びた影響なのか、さきほどより集弾性が目に見えて低くなったのが分かる。
『やっぱ、ダメね』
再び距離を取られたせいで弾が当たらなくなったフローラは殺し合いの中で別の思考もしていた。
『反動で集弾性が低く連射による高熱で継戦能力は低い…』
自分の為に暗躍した憲兵に向かって短機関銃をぶっ放すフローラは新兵器の評価を行なった。
短剣型立体機動装置の実戦試験を繰り返した彼女は、長所と短所を発見する探求者でもある。
結果、突発的な敵との遭遇で弾幕を張って面制圧する程度しか向いていないと分かった。
こうやって対人でぶっ放すのも機会が無いどころか奪われると逆に脅威になりかねかない。
『量産はやめますか』
銃身が真っ赤に染まったのを確認したフローラは飛んできた手裏剣を銃器で叩き落とした。
こうしてクイーンバレルから派生した兵器群は、その派生した兵器で開発が終了する事となる。
飛んできた手榴弾を再度、AP-1 ウォルケンブルフで撃ち返した。
『さてと…』
高熱で銃身が曲がった短機関銃を捨てたフローラは近くにあった椅子を掴んだ。
手榴弾の爆発と共に飛んでくる
一方その頃、壇上にある玉座の後ろで動こうとする人影があった。
『今のうちに逃げるか…』
反乱を起こしたピクシス司令やザックレー総統の発言に反論していたアウリール大臣は…。
エルティアナ女史とフローラの配下と交戦している隙に玉座の間から逃げ出そうとした。
どっちが勝っても、結局自分が殺されるのは分かっているからこそ小賢しく動いたのだ。
「え?」
フローラが投げた椅子によって激突した
つまり、動こうとした内務大臣の移動先に
「うぎゃあああああ!?」
椅子を粉砕した
その衝撃でガラスが飛び散って彼は慌てて両手で頭を押さえて床に伏せた。
「な、なにが…」
恐る恐る視線を上げていくと、跡形もなく粉砕された大きな窓枠があった。
一応、逃げ道が増えたわけだが、5階にある玉座の間から飛び降りて生還できる未来が見えない。
『死んだフリしておくか…』
エルティアナに化けるフローラと交戦している中央憲兵以外は死んだフリか、投降していた。
唯一、マルコ・ボットの様に純粋に王の護衛を志願した近衛兵が直立不動しているだけである。
お飾りの王の盾になり続ける彼らの努力を嗤っていた大臣は、今は彼らを頼る事しかできない。
「こうなったら…」
ここでようやくグリューンは、フローラが当初恐れていた行動に出た。
最初に戦死したゲルプの持ち物から気化爆弾を手に取ろうとした。
「させるか!」
さすがにそれを起爆されたらどうしようもないフローラは動いた。
「エルティアナ監査副長!ご無事ですか!?」
ここでエルティアナの部下が騒動を受けて玉座の間に入って来た。
「邪魔だ!!」
そのエルティアナと交戦しているグリューンは、残った
扉付近に待機する兵士を粉砕し、廊下の柱の陰に隠れていたミーナの眼前を通過した。
遠くで何かが崩れる音がしたが、もはやどうでもよかった。
「おのれ!!」
禁じ手の方の
顔面に包帯を巻いている女将校が繰り出す穂先を1本のブリッツメッサーで応戦する羽目になる。
すぐにフローラの槍術で巧みに柱に誘導された彼は、完全に退路を絶たれる事となった。
「参った!投降する」
「……ああ、そうか。それが賢明だ」
最後の生存者になったグリューンに穂先を突き付けると抵抗の遺志を無くしたのか投降した。
さすがに柱を背に首元に穂先が付き付けられれば、詰んでいると自覚したのだろう。
「知り合いを殺すのは、いい気分にはなれない。君は良い選択をしたよ…」
なまじ負の感情を“声”として聴ける能力のせいでこれで完全に心が折れたと思った。
だが、背を向けた瞬間、『死ね』という“声”をフローラは聴いた。
「ああ、そうだ。いつだってそうだ」
またしても選択を間違えてしまった。
だからフローラは身を翻して構えた槍を薙ぎ払ってグリューンをぶっ飛ばす。
すぐに立ち上がろうとする敵兵の首に槍を突き刺して窒息を狙った。
「ぶほっ!?」
生物というのは致命傷を受けても、暫く動く事ができる。
そう考えると、窒息させて意識を失わせる方法こそが慈悲かもしれない。
「人はいつも選択を間違える!!こうやってな!!」
玉座の間で戦闘が発生しても、無傷で手を取り合える未来があったかもしれない。
実際、ユトピア区防衛戦が発生するまで仲良くしていたから実際にあり得た未来だった。
だが、そうならなかった以上、フローラはそのまま戦友の首に刺さった槍に力を込めた。
「はぁ…」
槍を更に奥に突き刺した後に捻って呼吸に苦しむグリューンに止めを刺した。
最期に彼が見せた表情は、一生忘れる事はないだろう。
窒息して意識を失ったのを確認したフローラは穂先を首から抜いて返り血を振って払った。
「閣下、抵抗する武装集団の鎮圧を完了しました。お1人で立てますか?」
「…あぁ、なんとか」
エルティアナに化ける悪魔は、表向きに上官であるザックレー総統を気遣ったが…。
内心では、『もっと細かく知り合いに手を打っておくべきだった』と後悔した。
「うわあああああ!?ああっ!!?あああああああああああああああああ!!」
「誰が逃げていいと言った」
ついでに奇声を出してローデリヒ枢機卿が逃走しようとしたのでフローラは槍を投擲した。
部下と違って動きが分かりやすかったおかげで狙い通りに彼の左肩に穂先が刺さる。
すぐさま激痛で転倒した枢機卿は、見事に撒きビシに刺さって悲鳴をあげた。
「クソッ!起きろ老いぼれ!!」
追い詰められたアウリール大臣はお飾りの玉座に座る偽りの王に頼る為に蹴りを入れた。
もしかしたら彼の発言次第で状況が好転するかと思って無意識に賭けに出たのだ。
「ほっ!?なんじゃ…!?飯か!?」
「この役立たずが!!」
だが、これほど激戦を繰り広げていたのにフリッツ王は暢気にボーっとしていたようだ。
元よりザックレー総統に彼はボケ老人だから罪に問わないで欲しいと提言していたが…。
これほどボケているとは思わず、フローラと話を聴いていた総統は本気で呆れた。
「何をしている!!中央憲兵と大罪人を取り押さえろ!!」
「は、はい!!お前ら急げ!!」
だからといってそのまま放置する訳にもいかない。
戦闘が終わったのに暢気に傍観している兵士たちをフローラは叱責し、動くように仕向けた。
傍から見れば、エルティアナの発言によって戦闘が終わった事が示された。
「急げ」
「早くしろ」
さきほどまで死んだフリ作戦をしていた兵士たちが大慌てで動き出した。
女将校の怒りを買いたくない兵士はこぞって人類憲章を違反した大罪人の取り押さえをする。
幸いにもフローラと交戦していない近衛兵は完全に投降したようで素直に指示に従っていた。
「被害現状を報告せよ」
「死者16名、負傷者14名、ジークフリート司令が戦死し、ナイル師団長が左肩を負傷しました。またピクシス司令がジークフリート司令に庇われた際に「負傷者の手当てを急げ!」ハッ!!」
報告中に死者22名、負傷者8名になったと実感したフローラは負傷者の手当てを急がせた。
『少なくとも憲兵団は貴族派閥が上に立つか、ああ、面倒……というかめんどくさい!!』
憲兵団を大きく分けると【保守派】と【革新派】と【中立派】の三派閥が存在する。
従来の生活と特権を維持しようとする保守派には、更に平民主義と貴族主義に分けられる。
文字通り転入組という名の天下りをした貴族と自身の特権を守ろうとする平民派は仲が悪い。
権力を独占する貴族出身者とその独占に穴を空けようとする平民の構図だから当然と言える。
『革新派と中立派が壊滅し、中央憲兵がここで捕らえられた以上、こうなっちゃうのよね…』
王や民を守る為に特権で活動する憲兵と、自分の利益を守ろうとする貴族出身者の価値観は違う。
貴族出身の憲兵は、自分の領土から動かないので必然的に無傷で生き残ってしまったという訳だ。
「閣下、ここはまだ危険が潜む伏魔殿です。すぐさま安全なご自宅に護送させて頂きます」
「ああ、分かった。そうしよう」
表向きにはザックレー総統に退避を提言したフローラだが、別の意味合いもあった。
憲兵団本部でおそらく昼寝をしているローグ・カルテンブルンナー副師団長に道を譲った。
総統閣下のご自宅の警備は、ローグ副団長の管轄内なのでこうする他に道は無い。
もし、彼の管轄内で総統が死ねば出世街道が途切れるので命懸けで守ってくれるという訳だ。
『大貴族を肯定する野犬か、自分の利益を考えるタヌキか。タヌキの方がマシよね…』
過激派になりがちな貴族派より元より野心がある貴族派の方がマシだとフローラは判断した。
ここからこいつらを相手にし続けないといけないと考えると本気で頭が痛くなってしょうがない。
『それよりも…』
この戦闘がロッド・レイス辺境伯によって仕向けられたのはフローラが一番理解していた。
王政から娘を守りたかった彼だが、反乱しようとしていたザックレー総統を信用してなかった。
そのせいでフローラは、王政に反逆する勢力同士の橋渡し役になれなかった。
『おそらくここで兵団関係者と王政幹部を潰す気だったようね…』
調査兵団の団長をここで仕留める為に動いていたのは間違いない。
ただ、彼らの反応からすると玉座の影で震えていた王政幹部も始末するようであった。
レイス卿の目的を達成すれば、死んだフローラが報われるのだろう。
そう考えたかどうかは、今となっては知る術は残されていなかった。
『いえ、まだある』
フローラ直属の配下である
正体を明かして彼らに尋ねれば、きっと答えが返ってくるはずである。
そして、これほど騒動を起こして彼らが来なかった理由はなど限られる。
『瞬時に来れない場所に居たか、機会を狙って一網打尽をするか…そのどちらか』
レイス卿が彼らにどう指示を出したのかは分からない。
ただし、生き残った班員たちの性格から後者だと判断した。
「廊下で警戒しているラナイをここに呼び寄せろ。彼女に用がある」
「了解しました」
血塗れの包帯から見える目力は、かなり迫力があったのか。
エルティアナの命令にあっさりと従った兵士は、玉座の間から慌てて飛び出していった。
それを見送ったフローラは、次にやるべき事を考えるが、考える暇すら与えてくれない様だ。
「エルティアナ監査副長!」
だが、エルティアナ直属の部下が
さきほど戦死した兵士の件も含めて本物に謝罪する事も増えて本気で頭が痛い。
「駐屯兵団第二師団に不穏な動きがありと報告がありました!」
「は?それだけじゃ分からない。詳細を報告しろ」
既に負の感情で状況が理解しているフローラだが、起点と途中経過がさっぱり分からない。
だから説明を求めて対策を打つ事にした。
「ストヘス区に駐在する駐屯兵が暴走し、カラネス区に向けて進軍するとの報告を受けました」
「何をしている!!さっさと止めんか!!」
「そ、それが多くの民衆に後押しされており、我々だけでは止めきれませんでした」
自分がこっそり作った補給拠点にストヘス区の駐屯兵と民間人が犠牲になった事への復讐だろう。
ストヘス区で甚大な被害が出たのは、女型の巨人の対応を間違った調査兵団のミスでしかない。
しかも、知り合いを更に殺されては、調査兵団の本拠地に怒りを向けるのも当然と言える。
そしてヒントを得るべく質問をする事にした。
「まだ戦闘は起こっていないのだな?」
「はい、まだストヘス区で準備段階のようですが……もう時間がありません」
「なら私が行こう。まだ臨戦状態なら血を流さずに交渉できるかもしれない」
王都に東に存在するストヘス区は商業都市だったが、半壊して現在はスラム街と化している。
城壁都市を警備する兵士は、その地区の出身者が多いので郷土愛というのが異様に大きい。
ストヘス区もカラネス区も同じであるので戦闘になればかなり悲惨な結末になる。
これを防ぐのが自分の使命だと感じたフローラは動く。
「ちょっと耳を貸せ」
まだ正体を明かしていないエルティアナの腹心に策を授けた。
「まずエルヴィン団長をザックレー総統閣下と共にご自宅まで同じ馬車で護送させた後、団長だけ単独で先に北のオルブド区に向かわせろ。お前たちは準備を整えてそこに向かえ」
調査兵団の動きがさっぱり掴めないフローラだが、居場所は予想付く。
『おそらくオルブド区の北西にあるレイス領の礼拝堂ね』
王政派を牽制する為にフローラはそこに部隊を送っていたのだ。
情報はまだ来ていないが、内戦を起こした元凶とされる調査兵団は碌な目に遭っていないだろう。
交戦しているか、戦闘を避ける為に潜伏してるか分からないが、その付近に居るのは間違い無い。
「エルヴィンには、予め私のサインが書かれた通行許可証を渡しておく。さすがにこれがあれば、門衛から攻撃される事は無いと思うが、彼が向かったという情報は極力に兵士に伏せておけ」
オルブド区の守備責任者である駐屯兵団第二師団のカルステン旅団長なら話は通じる。
2回ほど面識があるフローラは、彼の良心と私情に流されない性格に賭けるしかなかった。
「ハンドリック・マンシュタイン師団長に話を通しておくべきでは?」
「彼を口で説得させるのは困難だ。だから君は総統局の本部にある私の執務室へ向かえ」
駐屯兵団第二師団の最精鋭部隊である騎兵隊を率いるハンドリック師団長は癖が強い男だ。
キッツ隊長を味方にする様に『フローラの遺言書』が無ければ説得できないだろう。
一応、内戦は想定して対策を打っていたが、予想より展開が早過ぎて間に合わなかったのだ。
「机の上に赤い紐で二重に巻いてある封筒がある。それを持参し、オルブド区に向かうんだ」
あの封筒の中身を見せれば、大体事情を察して兵を下げてくれるだろう。
ただし、キッツ隊長に何故か通じず、内戦になった以上、効力があるか分からない。
「もしも、封筒の中身に納得できない者が居たら、人類勲章の建前と総統局の地位で排除せよ」
総統局は表向きには3つの兵団を管轄、監視する組織となっている。
100年以上の歴史で形骸化しつつあるが、内戦が起きるなら別である。
「説得してもなお、人間同士で殺し合うなど馬鹿げた真似をする輩に死をもって断罪してやれ」
「承知しました」
さきほどエルティアナが抵抗勢力を皆殺しにしたという説得力は大きかったのだろう。
すぐさまファルケンハイン班長は、任務に取り掛かった。
「エルヴィン・スミス、君は総統をご自宅まで護送するまで馬車を同乗してもらう」
「さっきまで罪人だった私が警護しろと?」
次に命令を待っていたエルヴィン団長にフローラは発言した。
見事に騙されている彼にやるべき事を簡潔に伝えた。
後に何をするかは彼次第だが、自分より遥かに有能なので現状で最善な策を打つだろう。
「君の働き次第によって人類がどうなるか決まる。良い方向に転がる事を期待しているよ」
「このような大任に命じて頂き感謝いたします」
「ならば、速やかにザックレー総統を護送しろ!ファルケンハイン、お前もだ!」
「「ハッ!」」
命じられて入室したのに話しかけられる雰囲気ではなかったミーナは硬直した。
それを見てフローラは彼女が持っていた通行許可証と書簡を強奪し、エルヴィン団長に渡した。
これで彼らは勝手に動いてくれるだろう。
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ウォール・マリアに建てられたプレハブ小屋で調査兵団の生き残りは集結している。
全てはフローラの口によってあの時、何が起こったか知りたい為だ。
手帳の記録と記憶を頼りにフローラは回想をし、劇中の裏で起こった話をしていた。
「ここまで聴いてお分かり頂いたと思いますが、結果としてレイス卿の暴走は…」
フローラが仕組んだシステムを利用してロッド・レイスが暴れた事で内戦が発生した。
そのせいで調査兵団は駐屯兵団と殺し合いをする事となった。
ウォール・マリアを奪還してもなお、その火種はまだ燻っており、いつ引火するか分からない。
「マシであったと結論づけます。現にあなた方は生き残っていますから…」
だが、ロッド・レイスの暴走は、結果として調査兵団を生かす事となった。
一瞬、フローラが何を言っているか理解できなかった調査兵たちだが…。
その話を聴く為に耳を澄ませた。
「もしも、レイス卿が暴走しなくても、エレンとヒストリアは中央憲兵に拉致されて礼拝堂地下に誘導されていたでしょう。エレンの力を奪うこと自体は王政も狙ってましたので」
王政勢力としては、ヒストリアなどどうでもよかった。
だが、フローラという邪魔が消えたのでさっさと力の継承をさせる事にした。
そして自分たちを脅迫する中央憲兵の記憶をヒストリアを使って消させようとした。
「当然、エレンを助けに礼拝堂の地下空間に皆さまはいらっしゃった事でしょう」
元より王政勢力を警戒していた調査兵団は、真実に気付く。
そしてエレンを助けに地下空間に到達する事となる。
「そしたら何が待ち構えているのは、あなた方も理解できるはずですよね?」
フローラは語る。
もしも、ロッド・レイス辺境伯が暴走して動かなかったらどんな事になっていたかと…。
まずは、ケニーが率いる対人立体機動部隊と地下を警備しに来た駐屯兵団との交戦が発生しない。
つまり、リヴァイ班とハンジ分隊長、モブリット副長だけで彼らを相手にする羽目になる。
「ウォール・シーナを守護する駐屯兵団第二師団、ユトピア区の部隊も共闘したらでしょうね」
ウォール・シーナの領域を守護する駐屯兵団第二師団と最精鋭の騎兵隊が出迎える。
そして人類活動領域最北端にある城壁都市ユトピア区を守護する駐屯兵団第三師団の部隊。
それと付近にいる兵士もエレンを助けに来た調査兵団に襲い掛かるのは間違いない。
「そしてなにより、わたくしの配下のお相手もする事になったでしょう」
そしてなにより、フローラを無駄死にさせたと勘違いして殺意剥き出しの兵士たちが揃っている。
フローラを見捨てて戦地に置き去りにした調査兵など絶好の餌になる事は間違いないだろう。
レイス卿が工作をしない限り、
「つまり、玉座の間で披露された兵器が、リヴァイ班に全て向けられる事になりますわね」
調査兵団に殺意を抱くフル武装した総勢13名の
それを聴いて全員が青ざめたが、一番衝撃を受けたのは、リヴァイ兵士長であった。
「オイ…てめぇ。他にも隠している部隊がいるだろう!?」
「補給をメインにする特殊部隊以外には隠していませんわ」
一応、フローラに確認したリヴァイだが、全く安心できなかった。
フローラ専用装備を身に着けたケニーは、リヴァイであっても絶対に勝ち目が無かった。
駐屯兵団と殺し合わせて混乱の最中で不意打ちして撃退するのが精一杯であった。
それでも彼は、右瞼と頬を切り裂かれて右目が失明し、黒の眼帯を付けている。
「……なら良い」
同じ駐屯兵でも統率が取れていなかったからこそ104期調査兵も戦えた。
もしも、レイス卿が暴走しなかったら統率された部隊全員を相手にする羽目になる。
短機関銃や
誰よりも強いからこそ、リヴァイは即座に自分たちが全滅する未来以外に予想できなかった。
「結果としては、レイス卿の判断は間違ってましたが、あなた方が生存したのも彼のおかげです。最初にお伝えしましたが、内戦に追いやったレイス卿を恨まないでくださいませ」
レイス卿が勝手に動かなくても王政は勝手に崩壊したし、エレンは儀式の間に連れて来られた。
ケニーによるエルミハ区の襲撃自体は防げないし、調査兵団の本隊が動けないのも変わらない。
違うのは、エレンを救出しに来た調査兵団の部隊が交戦する戦力だけである。
レイス卿の暴走のおかげで最小限の犠牲で調査兵団は生き残る事になった事をフローラは告げた。
「さて、次の話をしましょうか」
フローラは手帳のページを捲ってその内容を元に調査兵団に回想話を聴かせる。
玉座の間での戦闘を終えたエルティアナに化けるフローラはミーナにこう告げた。
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「ラナイ」
「はい、姉さま!」
「貴女はファルケンハインと一緒に向かいなさい」
「え?」
「じゃあ、ストヘス区で独断で動いている部隊に内乱罪と内乱
「できません!」
フローラと一緒に居たかったが、良く分からない単語が飛んできたのでミーナは即座に諦めた。
本当にできない事は、あっさりと諦められる親友の姿にフローラは憧れすらある。
『できるのに諦めるのと、できないから諦めるのは大きく違う。本当に羨ましいわ…』
昔から無茶ぶりをされてきたフローラからすれば、その潔さは見習いたかった。
あくまで人間代表であるミーナは、悪魔に転生したフローラのブレーキ役であった。
『ありがとうミーナ…』
これからもフローラは手を汚す事になるが、今度はミーナが暴走を止めてくれる。
明らかに無理をしていたら強制的に休ませてくれるし、叱ってくれる。
自分の行動スケジュールを管理し、体調と精神もしっかり見てくれる存在は本当にありがたい。
「諸君らの検討を祈る」
だからフローラは、必死に明るい未来を求めて翻弄する兵士たちの奮闘を祈った。
一応、ストヘス区で暴走する部隊に対しては策はあるが、通用するとは限らない。
巨人と違ってコロコロと行動信念や感情を変化させる生き物は、悪魔にとって難敵であった。
なにより、
そうならないように正体を真っ先に明かすつもりだが、それで納得するかどうかも分からない。
「まあ、頑張りますか」
過去の自分だったら、その負債を抱え続けるが、親友はそれを許してくれない。
適度に甘えさせれくれるから孤独だったアニすらもミーナには心を開いたのだ。
だからフローラも全てが終わったらミーナに甘えようとした。
『ミーナの為にも…』
玉座の間で抱いた親友に対しての想いは今なお、変わっていない。
親友に対して同性愛の感情は抱かないフローラだが、親友の為に頑張りたいと思った。
だが、フローラは気付かない。
回想話を聴いていた調査兵団の兵士たちも気付かなかった。
『頑張りたいと思いましたの…』
一喜一憂しながら共に行動し、ベッドで同衾してお互いの温もりと体臭を味わう関係を築いた。
フローラ自身もそれについて疑問に思っていたが、精神が病んだミーナがそれを望んでいた。
巨人に喰われそうになった時の記憶がミーナの精神を蝕んでいたのが大きいのだろう。
突然、『何で生きているの!?』と変な気持ちが出てきた時に抑えるのがフローラの仕事である。
さすがに同期の前では言えないし、それを知っているのも一部の知り合いだけだ。
回想話でも、【親友は自分を心配してくれる良い子】としかフローラは発言しなかった。
『ずっと傍に居てくれる様に…』
フローラ・エリクシアは気付かない。
ミーナ・カロライナという“
女悪魔を人間の道に留めてくれるミーナがいつの間にかフローラに汚染される事となった。
『ミーナに呆れられて見捨てられないような努力をしようと思いましたの…』
全てを知っても、自分を心配したり提言する親友にフローラは感謝したが、ミーナは違った。
心身共にたっぷりと調教された女兵士は、自身の魂を捧げて女悪魔の眷属に成り下がる事となる。
言動や思考に変化があったが、
それが勘違いではない事をフローラは4年後に身をもって知る事となった。