進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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159話 未知なる領域

最近、自分の苗字がアッカーマンと知ったリヴァイは助っ人に感謝している。

いくらウォール・マリアの外に居る巨人が少ないとはいえ交戦する可能性がある。

進軍していたら、いつの間にか巨人に包囲されると警戒しなくて済むのは大きい。

 

 

「お前の読み通りだ、ハンジ。ウォール・マリアの中に居たのがほとんどだったようだ」

「そうかい、なら進むしかないね」

 

 

ハンジ・ゾエもシガンシナ区跡地の守備隊やフローラの報告で予想したに過ぎない。

だが、荒れ地を進んで1時間が経過しても巨人と遭遇しないのは本当に珍しい。

 

 

「まあ、先頭に居るフローラが巨人を避けているかもしれねぇが……」

「それはそれでありがたいね。もう、平原で立体機動出来る兵士など両手で数えられるから…」

 

 

6年前から調査兵団で活動している調査兵はハンジ団長とリヴァイ兵長しか残っていない。

一応、調査兵団に現役で所属していると限定しなければ、生き残っている調査兵も居る。

女型の巨人に噛まれて両腕を失ってもなお、フローラの兵団に所属したエルド・ジン。

ウトガルド城防衛戦で唯一104期兵以外で生き延びたリーネという女兵士も居るが…。

従来の調査兵団の志を継いでいる兵士は本当に少なくなった。

 

 

「それにしてもフローラが連れて来た兵士が少ないな?」

「巨人に白兵戦を挑む兵士の育成を諦めたそうだよ。だから戦力が居ないんじゃない?」

「……妙だな、それにしちゃ死者が多すぎる気がするが……」

 

 

最近、リヴァイはフローラが率いている新兵団の死者数が可笑しいと感じている。

巨人との戦闘がほとんどないにも関わらずにこの1ヶ月で死者が8名も出ていた。

しかも、あまりにも無残な死体なのか死因すら『出血性ショック』としか報告をしていない。

 

 

『なんか隠しているのか?』

 

 

フローラ・エリクシアという女は、どうしてそこに至ったのかという経緯が不明な事が多い。

調査兵団の新兵だったにも関わらず中央第一憲兵団を掌握していたといい隠し事が多かった。

しかし、兵団の死者数とフローラ自身の活動内容が不明な点以外はツッコミどころがなかった。

兵団政権も疑っており、総統局の監査部を何度も送り込んで問題を発見できないのだから…。

フローラがやばい事をやっていないと信じるしかなかった。

 

 

「ジャン!やけに近くねぇか?」

「コニー!お前こそ勝手に近づいてきているだけだろ!?」

 

 

去年に入団した104期調査兵は、いつの間にか調査兵団の中核を担っている。

だが、コニーもジャンも未だに自分たちが上官になったという感覚が無い。

こうやっていがみ合っているのも、少しでも気分を落ち着かせる為に行なっていた。

 

 

「ああ、干し肉をもっと食べておけば良かった」

「サシャ、それは後で考えればいい」

「ミカサはなんでそんなに強いんですか?」

「分からないけど今考える事じゃないと思う」

 

 

ミカサと並走するサシャも未だに巨人と遭遇するのは慣れなかった。

第57回壁外調査でカラネス区壁外の旧市街地で遭遇した四足歩行の巨人が未だにトラウマだった。

 

 

「エレン、大丈夫?」

「ああ、刺激が足りなくてウズウズしていたところだ」

 

 

アルミン・アルレルトは、エレンの様子が可笑しい事に気付いている。

記憶を上書きされるという感覚はアルミンも味わったが、それでもエレンの様子が可笑しかった。

かつてのエレンは未知なる世界にワクワクしていたのに未だに彼は嬉しそうにしていなかった。

 

 

「……と言ってたら、巨人を発見したみたいだな」

 

 

すると前方から赤色の信煙弾が撃ち上がり、巨人の居場所を報告する。

エレンとアルミンは気を引き締めて赤色の信煙弾が発射された方角を見る。

 

 

「なんだありゃ?」

 

 

104期調査兵の中で最初に巨人を発見したのはサシャだった。

その後に辿り着いたコニー、ジャン、エレンに指を差して巨人の居場所を知らせた。

それを見たコニーは、その巨人の異様さに驚愕する。

 

 

「地面に埋もれているのか…?」

 

 

うつ伏せで地面を掘り進んできた巨人は、見る限りは動いている様子が無い。

ただし、巨人の後方に掘り起こされた痕が地平線の彼方まで見える以上、進んでいるのは確かだ。

 

 

「あの身体で少しずつ這って壁まで進もうとしたんでしょう。とっても長い時間をかけて…」

 

 

巨人といえば、好き放題に暴れて人間を捕食するイメージがあるが、実際は別の行動も起こす。

生前の記憶が朧げに残っているのか、何かを呟いたり巨人同士でぶつかりあったりする。

そういった巨人はまだ当たりであり、コニーの母親のように身動きが取れない巨人も存在する。

サシャの発言通り、そういった巨人はこうして壁から離れた場所で転がっているのだろう。

 

 

「【楽園送り】にされたオレ達の同胞だ。ここから近いぞ」

 

 

それを見たエレンは、無理やり同胞を巨人化されるあの地が近いと判断した。

エレンの発言を聴いた同期たちが馬を進めようとした時、異常が発生した。

 

 

「黄色の信煙弾!?」

 

 

作戦関連の意味する黄色の信煙弾が遥か前方から発射された。

作戦成功や変更を意味する信煙弾が発射されたのを見て104期兵に動揺が走る。

 

 

「報告します!!索敵班が巨人の群れを発見!移動先を変更するとの事です!!」

 

 

すると右腕に白色の腕章を付けた駐屯兵がその事に関する情報を伝達してきた。

どうやらフローラが巨人の群れを発見し、陣形の移動先を変えるらしい。

 

 

「聴いたか?」

「ああ、ばっちりだ……」

 

 

コニーの質問にうんざりするようにジャンは返答をする。

こういった可愛げがある巨人ならともかく…健全な方の巨人の群れだと理解してしまった。

 

 

「緑色の信煙弾だ。あそこに向かうみたいだね」

 

 

続いて緑色の信煙弾が別方向から発射されたのを見てアルミンは皆に伝える様に呟いた。

本来の予定では、そのまま海とやらに向かうつもりだったが、まず巨人を避けなければならない。

 

 

「赤色の信煙弾が複数!!クソ、何が巨人をほとんど討伐しただ!まだ残ってるじゃねぇか!!」

 

 

誰かの発言を聴いてリヴァイはハンジ団長の方を見る。

 

 

「何か言う事は?」

「まずは緑色の信煙弾に向かって進め!あとは奇行種のみ討伐しろ…でいいんでしょ?」

「なら、さっさと号令をかけろ!!編入組と新兵たちが混乱を起こすぞ!!」

「はいはい、わかったよ」

 

 

ハンジ・ゾエもやる事は理解していた。

ただし、前回のウォール・マリア奪還作戦と違って巨人と戦闘経験がない者が占めている。

少しでも生存率を上げる為にすぐに行動を開始した。

 

 

「巨人だああああ!!」

「やっと()()()()()()が現れたか!気を付けろ!」

 

 

横に居た名も知らぬ調査兵の叫びを聞いてコニーは警戒する。

そしてすぐにこっちに向かってやって来る四足方向の巨人を発見した。

それと同時にすぐさまリヴァイ兵長は動いた。

 

 

「もう目標地点に近いはずだが、ここで巨人と出くわすとツイてねぇな」

 

 

必死に馬を走らせて巨人の真横を並走するリヴァイは馬上で立体機動に移った。

これ以上、死者を出さない為にも真っ先に眼球を削いで動きを鈍らせて無防備のうなじを削いだ。

 

 

「まずは1体……まだ居るな!!」

 

 

すぐに別の巨人を討伐しようとしたリヴァイは陣形の後方にも巨人が居ると信煙弾を見て知った。

さすがに距離があり過ぎて陣形の後方まで救援に迎えそうにもなかった。

 

 

「ん?」

 

 

すると爆発音と共に陣形の後方に居た巨人の群れが爆散した。

どうやらフローラが連れて来た砲兵部隊が砲撃した様である。

 

 

「なるほど、確かに白兵戦を挑む部隊なんか必要ねぇな」

 

 

一瞬だけ雷槍を使用したのかと思ったが、兵士と距離がある巨人の群れが大爆発を起こした。

それで雷槍ではなく砲撃だと気付いてリヴァイは砲撃するのが難しい巨人。

つまり、陣形に近づきすぎている巨人を優先して狩る事にした。

 

 

「おお、さすがフローラだ。これなら周囲の巨人を全て討伐する必要はないね」

 

 

ハンジ・ゾエは、エルヴィン前団長の意志に背いて周囲の巨人の掃討を命じようとしていた。

ベテラン兵がほとんど残っておらず、索敵要員も少ない為、巨人を掃討しないと移動できなかった為だ。

しかし、それをやると部隊が固まってしまい、更に集団による移動が困難になるのも事実だ。

ただ、フローラのおかげで前方だけ気にすれば良いという状況はハンジに笑みを作り出した。

 

 

「移動に邪魔な巨人だけ討伐して緑色の信煙弾に向かうぞ!」

 

 

当初の予定では実戦に不慣れな新兵や転属兵を索敵班に配属させていた。

もし、巨人と遭遇したらリヴァイに討伐する手筈であった。

 

 

『前方の索敵班にはフローラが居るし、後方は砲撃部隊に任せるとしよう』

 

 

だが、思った以上に巨人が多いのとフローラの協力を得られた事で作戦を変更した。

ハンジは自分の周囲に居る本隊のみに気を遣って進軍をする事にした。

幸いにも前方に居るフローラが緑色の信煙弾で誘導してくれるので道を考える必要はない。

 

 

「信煙弾!?あっちにも巨人が!?クッソー!私が向かう訳にもいかないし…」

「救援には俺が向かう!お前はこのまま本隊を率いて信煙弾の方向へ向かえ!」

 

 

索敵陣形のすぐ傍で赤色の信煙弾が撃ち上がりハンジは驚愕したが、すぐに平常心を取り戻した。

すぐにリヴァイが現場に急行すると聴いて本隊を率いて索敵班が居る方向に部隊を進めた。

 

 

「やけに多いな!!どっから湧いた!?」

 

 

リヴァイは、未だにフローラの動きが理解できていない。

ここまで巨人が多いのならさっきの伝令で知らせるべきだった。

そうすれば、もう少し巨人の群れの侵攻に備える事ができた。

 

 

「ひぃぃ、助けてくれええ!!」

 

 

調査兵団に志願してくれた兵士を死なせるわけにはいかない。

巨人を発見し、たじろいだせいで馬を走らせない調査兵の援護に向かった。

 

 

「オイ、しっかりしろって!……あ、兵長!」

 

 

狂乱状態に陥った新兵が手放した手綱を握って馬に移動を急かしたフロックは兵長の姿を見た。

 

 

「応援お願いします!」

「早く新兵を移動させろ!死にてぇのか!?」

 

 

やはり、巨人の数が可笑しい。

フローラの索敵能力は風に影響するミケ・ザガリアスより優れているはずだった。

あえてフロックを罵倒したリヴァイは更に発射された赤色の信煙弾を見て勘付いた。

 

 

「チッ、さてはわざとやったな?」

 

 

フロックと新兵に近づいていた巨人を3体討伐したリヴァイはフローラの意図が掴めてきた。

何故かは知らないが、明らかにフローラは安全なルートを選択して移動をしていない。

むしろ、巨人と遭遇させて少しでも巨人を討伐できる様に仕向けている節がある。

 

 

「まあ、帰りを考えると悪くねぇが……」

 

 

壁外作戦を実施すると必ずと言ってもいいほど死者が発生する。

ただし、調査兵団も馬鹿ではないのでどの条件で死者が出やすいか分析をしている。

 

 

『遠征を繰り返したあいつの方が経験が上だから従うしかねぇ…』

 

 

未知なる領域で探検するよりも帰還する時に死者が出やすくなっているという分析結果がある。

装備と体調が万全ではないというのもあるが、巨人の習性が大きい。

奇行種以外の巨人は、近くに居る人間を襲う習性がある。

 

 

『……それにしちゃ多いが』

 

 

つまり、城壁都市周辺に固まっていた巨人の群れが壁の外に居る調査兵団に誘導される。

だからシガンシナ区やトロスト区に帰還する際は必ずと言ってもいいほど挟撃されるのだ。

リヴァイやフローラが現場に居ても死者が抑えられないのはこれが原因と言って過言ではない。

同時に別方向で巨人の群れに襲撃されたら、いくら巨人の討伐が速い兵士でも救援しきれない。

故に壁外で巨人を掃討する任務をやってきたフローラの行動をリヴァイは信じる事にした。

 

 

「こいつさえ討伐すれば進めるはずだ。さっさと討伐する事に限る」

 

 

爆発音が鳴り響くのを聴きながらリヴァイは本隊の移動を阻害する巨人に急行する。

見慣れない装備をした兵士が銃らしき武器で撃つと巨人の上半身が吹っ飛んだ。

 

 

「……馬上で撃てる兵器があるなら先に報告しておけよ」

 

 

フローラが巨人と交戦する部隊を解体したと聴いて調査兵団は耳を疑った。

巨人を積極的に討伐する兵団なのに主力部隊を解体するなんて馬鹿げた話だと思った。

だが、実際にフローラの部隊を見てリヴァイは理解した。

 

 

「ケニーの置き土産はよっぽどフローラに影響を与えたらしいな」

 

 

リヴァイの叔父であるケニー・アッカーマンは対人立体機動部隊を率いていた。

フローラは誰よりも早く接触をして彼らの兵器開発に携わる事となった。

今となっては、フローラが率いる兵士の大半が刃を捨てるほどには影響されていた。

少しだけ嬉しそうに笑ったリヴァイは本隊との合流を目指して馬を走らせた。

 

 

「もう少しで海なんだ……こんなところで邪魔されてたまるか!」

 

 

ピーク・フィンガーを喰って能力と記憶を継いだアルミンは海を記憶で見た事がある。

だからといって海を直接見たい気持ちが無くなった訳ではない。

 

 

「兵長、ありがとうございます!これで目標地点に向かって進めます!」

 

 

移動先に居た巨人を討伐したリヴァイ兵長に感謝しながらアルミンは馬を走らせる。

 

 

「いや、アルミン。お前は俺と来い。頭の切れる奴が必要だ」

「僕がですか?」

「ああ、どうやって行動すれば効率良く巨人が討伐できるかお前しか分からんからな」

 

 

…つもりだったが、リヴァイはアルミンの頭脳に頼った。

既にリヴァイは自分にできない事は104期調査兵に頼るほどこの1年で打ち解けていた。

 

 

「分かりました。指示を出します」

「頼むぞ。死者を1人も出さないって親御さんに誓ったからな」

 

 

シガンシナ区跡地に戻ったら凱旋とパーティをする。

それをリヴァイはハンジ団長に打ち明けたら本気で驚かれた。

彼なりに考えた行動だったが、その驚きっぷりに苛立つほどであった。

 

 

「兵長!森が見えました」

「なるほど、あそこなら新兵でも立体機動ができる」

 

 

フローラが率いる偵察班が放つ緑色の信煙弾の方角に進むと森が見えて来た。

残念ながら巨大樹の森では無いのでそこに居ても巨人に掴まれる可能性がある。

それでも平原で巨人に挑むよりは大分マシに見えた。

 

 

「よーし!!森に突っ込め!!平原で巨人と遊ぶよりマシだよ!!」

 

 

ハンジ率いる本隊も前方にある森に向かって馬を進める。

森の手前まで来るとフローラが周囲に居た巨人を掃討したのか巨人の姿が見えなかった。

その影響でリヴァイはアルミンと共にハンジ団長に合流して並走をしていた。

 

 

「なあ、何で先行部隊が移動していないんだ?」

「伝令によると人工物を発見したらしい」

「ほう?」

 

 

森に辿り着くと先行した部隊が何故か馬に乗ったまま動く気配を見せなかった。

疑問に思ったリヴァイはハンジ団長に質問すると興味深い返答を得られた。

こんなところに人工物を建てるのは限られる。

つまり、壁外勢力の情報を得られると踏んだ。

 

 

「ねえ!なんか発見したの!?」

 

 

ちょうど索敵班に居たエルティアナ扮するフローラを見つけてハンジは質問を繰り出した。

するとフローラから意外な回答が返って来た。

 

 

「調査兵団が放置したと思われる作りかけの拠点を発見した。確認してみてはどうだ?」

「ん?」

 

 

調査兵団は壁外調査を実施する度に多大な損害を被った。

しかし、ここまで城壁都市から離れた場所で拠点を作ろうとしたのはかなり珍しい。

一時的な仮拠点ならともかくここまで調査兵団が来るとは思えない。

疑心暗鬼になりつつも、エルティアナの誘導の下、ハンジは馬を進めた。

 

 

「これは……!」

 

 

調査兵団は壁外調査を実施する度に参加する調査兵に目印を付けている。

例えば、第34回壁外調査に参加したイルゼ・ラングナーは目印に印鑑を装備に捺してあった。

【第34回】という印鑑の上に【帰還】の印鑑が捺されてなければ帰還していないと一発で分かる。

人語を喋る巨人と意思疎通を最期まで図りながら手帳に記録した彼女は確かに英雄だった。

この様に壁外調査が失敗しても遺品が戦果になる事があるので武器や装備、資材には目印がある。

 

 

「キース・シャーディス元団長が作ろうとした拠点なのか…」

 

 

だから拠点に使われていた資材からキース団長時代に作ろうとして放棄された拠点だと分かった。

しかも、彼が話してくれた回想話から拠点を設置する話題が出て来た。

キース本人はあと少しで森から抜けられるのでそのまま進むつもりだった。

しかし、部下から休息を求められたので拠点を構築をしようとしたら巨人に襲撃されて失敗した。

もし、彼が強行すれば、別の結果を得られたのかもしれないとハンジは考える。

 

 

『おいおいまさか…』

 

 

リヴァイは一足先に森を抜けるといつもとは違う光景が見えた。

遠くに砂の丘が見えており、もしかしたらあの先に海があるのかもしれない。

だからこそリヴァイは気付いてしまった。

 

 

『さては、てめぇ!ここに来るためにわざわざ巨人と遭遇するルートを通ったな!?』

 

 

要するにフローラは最初からここに調査兵団に誘導するつもりだったのだ。

巨人との触敵を避けているはずなのに巨人の群れと遭遇したのも納得がいく。

ハンジとフローラが雑談している隙にリヴァイは仮拠点を見て回る。

 

 

『どっかでこいつを問い詰められる材料はねぇか!?』

 

 

良く考えてみれば分かる事だ。

シガンシナ区跡地に駐在していたフローラがここまで遠征していない訳が無い。

それどころか既に【海】を見ているのだろう。

すぐにリヴァイはその事に気付いたが、口に出す事は無かった。

 

 

『……やっぱりねぇか。クソ、今回は諦めるしかねぇ……』

 

 

もし、リヴァイが質問すればフローラは回答してくれるだろう。

自分が質問した範囲以外の事を話す事も無く。

フローラに秘密が多いのは、質問した内容以外の秘密を語らないからだ。

そのせいで人によって共有している秘密がバラけてしまう為、余計に謎が深まるのだ。

全てを問い詰めたいリヴァイは、質問する根拠を集め終えるまで質問する気はなかった。

 

 

「ここで休息を取ってもいいのだぞ?」

「先輩も冗談が上手くなったね。海に行くまで休む気は無いよ」

 

 

暗に海が怖いなら引き下がるべきだと提言するフローラの意見をハンジは断った。

ようやく調査兵団の努力が報われると知ってハンジはもう止まる事は無い。

 

 

『ハンジには悪いが、俺はフローラを監視させてもらうぞ』

 

 

もし、フローラが海を見ているならば、謎の行動をすれば問い詰められる材料になる。

4か月ほど姿を見せなかったフローラの行動に疑問が深まったリヴァイは監視する事にした。

 

 

「さあ、行こうじゃないか!先輩!最後まで案内をよろしくお願いしますー!」

「最期にならなければいいがな…」

「何か言った?」

「いや、なんでもない」

 

 

さっそく本隊に移動を促すハンジ団長と違ってフローラにあまりやる気が見えない。

その反応から予想以上に海が近いとリヴァイは分析した。

こうして調査兵団は、先代の努力を目の当たりにして前に進む事となった。

フローラの先導の下、調査兵団が大量にある砂の丘に辿り着く頃、無言だったハンジが口を開く。

 

 

「ついに人類はここまで来た。あと一歩だよ、リヴァイ」

「ここに来るまでに代償を払い過ぎた。海ってのはさぞ価値があるんだろうな?」

 

 

砂に馬の足が取られない様に慎重に進軍するハンジは、リヴァイに嬉しそうに話しかけた。

今まで遠征そのものに成果を得られなかったせいなのか、やたらと励まして来る。

よっぽど緊張しているのか、いつもよりテンションが低いまであった。

 

 

「それは後世の人々が決める事だよ」

「いや、今決めろ。お前が判断しないで誰が判断するんだ?」

「フローラで良いんじゃない?」

「次の目標はフローラが隠している事を暴く事だ。忘れるなよ?」

 

 

ハンジ・ゾエはフローラが何か隠していると知っているが追及する気はない。

むしろ、【海】というネタバレを必死に隠している事に感謝しているまでもある。

そんなハンジの思考を見抜いたリヴァイは口で釘を刺すが、効果は無さそうだ。

 

 

「ハンジ団長!!砂の丘の先に人工物と見られる壁が見えます!」

「おお!!」

 

 

岩を避けて砂の上を馬で駆ける調査兵団は長い壁に沿う様に移動をする。

20mはありそうな壁の正面に登れる場所がない為、迂回する羽目になった。

 

 

「間違いない。ここの場所でエルディア人が巨人にされた」

 

 

その壁を見たエレンは父親の記憶を思い出す。

彼は、伴侶であるダイナを巨人にされる様子を見守る事しかできなかった。

それどころか、グリシャより前の進撃の巨人の能力者によって何度も繰り返された。

いくらスパイだとバレないようにする為に同胞を蹴り落とした彼の記憶までは分からない。

ただ、こうして壁を見ると相変わらず『自由を阻害しているようだ』とエレンは思う。

 

 

「そして、あの先に…」

 

 

この人工物は、巨人に捕食されないように作られた壁である。

そしてその壁の近くに大型の船を停泊させる場所が整備されている。

エレンも記憶でしか見た事ないが、その先には海があるというのは知っていた。

 

 

「索敵班どうしたの?前に進まないの?」

 

 

ところが索敵班が急に進軍を停止した為、慌ててハンジは話しかけた。

 

 

「この先は、ハンジ団長が率先して前に進むべきだ」

 

 

どうやらフローラはハンジに道を譲ったようだ。

彼女の意図を察したハンジは手を振って先頭に立って登り坂を進んで行く。

 

 

「そうだ、ゆっくりと進もう。海は逃げやしないからね」

 

 

一歩が調査兵団の歴史を振り返る様な気がしたハンジは馬の進む速度を落とした。

今まで犠牲になって来た調査兵たちの遺志を継いで調査兵団の団長は坂を登っていく。

後続に続く調査兵たちも団長に速度を合わせて馬を進めていた。

 

 

「……別に海自体は問題ないけど」

 

 

一方で登り坂の手前に待機したフローラは少しだけ引き攣った顔をしていた。

リヴァイ兵士長が自分の行動を監視しているのに気付いたのもあるが…。

 

 

「海の向こうが問題なのよね」

 

 

酸っぱさと苦みを含んだ様な匂いがフローラの鼻をくすぐり、思わず袖で鼻を擦る。

ベルトルトを通じて海の外を、自分たちが置かれた状況を理解している彼女は苦笑いをする。

 

 

「さあ、迫撃砲を設置しましょう」

 

 

パンパンと軽く手を叩いて砲兵部隊に迫撃砲を設置する様にフローラは命じた。

壁の上に居れば安全なのはここでも同じだが、ここで籠城する気はない。

人間が群がっているのを感知して迫って来る巨人の群れに備える事にした。

 

 

「ああ…」

 

 

ハンジ・ゾエは壁社会の記録上では史上初めて海を目撃した人物となった。

 

 

 

「これがそうか…」

 

 

そして後続でやって来た104期調査兵と転属した兵士や新兵も目撃する事となった。

中には緊張のあまり鞘から抜剣している兵士まで居る。

そんな彼らの眼前に広がっていたのは未知なる領域であった。

 

 

「やった!やったぞ!海に!海に辿り着いたぞ!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」」

 

 

今まで壁の中で暮らす常識に疑問を呈した先人たちの苦労は今、報われた。

それどころか、今まで巨人で殺された調査兵の無念も少しは晴れる事だろう。

第14代調査兵団の団長の発言に兵士たちは歓喜して腕を上げる!

彼らの歓喜の声が広大な水を通じて水平線の彼方まで響く様であった。

 

 

「エルティアナ連隊長」

「どうした?」

「あの事を話さなくてもよろしいでしょうか?」

 

 

調査兵団が放つ歓喜の声を聴いたフローラの部下は上官の顔を見て質問をした。

緑色の外套のフードを被って顔面を包帯で巻いているフローラは首を振る。

 

 

「水を差す事は無いだろう。帰った後に報告するべきだ」

「承知しました」

 

 

どうせここで色々探したところで海に沈んでいる船の残骸と遺品しか引き上げられない。

それを知っているフローラは自身が知っている事実をここで報告するのを止めた。

エルティアナを演じる上官を見た直属の兵士はそれ以上の提言をする事は無かった。

 

 

『そう、調査兵団は輝かしい未来を目指せばいいのよ』

 

 

調査兵団は、既にヒストリア女王を頂点とする国家に必要不可欠な存在になった。

未知なる領域を探索し、人類の活動に貢献する役割は今なお変わる事は無い。

だからフローラはこれからも調査兵団の代わりに手を血で汚し続けるつもりだ。

 

 

『わたくしたちは、その為にいくらでも血を流すつもりなのだから』

 

 

中央第一憲兵団という前政権の暗部を擁するフローラは彼らの活動を否定する事はない。

むしろ、彼らのおかげで今まで人類が巨人や壁外勢力に滅ぼされなかった事に感謝している。

寝たきりの老人を壁の外に突き落として代わりに子供に食事が提供できるなら讃えられるべきだ。

本気でフローラはそう思っているからこそ、その事に後悔する憲兵を励ました。

血を流して誰かを救えるならば、それを実行できるのがフローラであった。

 

 

『そう、例えばパラディ島以外の住民を皆殺しにしようとも…』

 

 

既に()()()()()で一部の兵士と共にマーレの地を踏んだフローラは現地で現実を知った。

自分の想像以上に手の付けようがない問題がいくらでも転がっていると知ってしまった。

同期の中で最も交渉に優れて誰にでも仲良くなれたフローラはそれ故に和平は不可能だと気付く。

 

 

『勇敢な兵士が無意味に何人死のうとも…』

 

 

持ち帰った情報を兵団政権に報告しても、鼻で笑われたばかりか逆に予算を減らされてしまった。

「予算を得る為の狂言に付き合うつもりはない」と言われた彼女は、真実を報告しなくなった。

調査兵団にいくつか報告したのだが、当時の彼らはそれどころじゃなく忘れ去れてしまった。

ついでに壁外どころか、壁社会でも問題が発生して対処した結果、報告どころではなくなった。

そして今に至るという訳だ。

 

 

『壁社会が平和になるのであれば、我々は断罪されてもそれを実行しないといけないの』

 

 

もし、フローラが外の世界で戦争を勃発させたと調査兵団に知られればどうなるだろうか。

きっと調査兵団は本気でフローラの行動をやめさせるだろう。

そもそも【戦争】という単語が分からずに他人事の様に励ますのかもしれない。

それを裏付ける証拠などいくらでもある。

兵団政権が信じてくれないどころか、資料を回されたはずのハンジ団長すら行動しなかった。

未だに壁社会の常識に毒された者たちは現実を直接知るまで理解しようとしない。

 

 

『でも、それでいいの』

 

 

フローラが作った兵団は、外の勢力から壁社会を守る為に動く組織である。

既に外の世界で25万人が死んだきっかけを作ったと報告した所で何も変わらない。

むしろ、時間稼ぎをするには、それしかなかったとフローラは思っている。

民衆から蔑まれても、兵団政権に馬鹿にされても、フローラは前に進み続けた。

 

 

『次世代の子供に血を見せたくないのは、調査兵団もわたくしたちも同じだから…』

 

 

絨毯に垂れたワインが周囲に染み渡る様にフローラが放った火種は大きく燃え上がった。

既にマーレと敵対する中東連合に協力する国家は34を超える。

平和ボケしたマーレですら国家総動員する羽目になった世界大戦は誰にも止める事ができない。

 

 

『負の連鎖はここで断ち切ってみせる』

 

 

当初、異形の巨人に蹂躙された中東連合はフローラが持ち込んだ兵器で反攻に成功した。

その代わりに壁外人類は、自分たちを滅ぼせる兵器を平気で扱うようになった。

あそこまであの兵器が暴れ回れば、マーレも中東連合も支援国も共倒れしてくれる。

だからこそフローラはパラディ島に戻ってこうしてこの場に居るのだ。

 

 

『だからこそベルトルトの口からという建前で真実を段階的に報告するべきなのよ』

 

 

いきなり28億人の人間が自分たちの滅亡を願って本気で行動しているなど告げられる訳が無い。

段階的に情報を調査兵団に公開する事をしたフローラは歓喜の声を聴きつつ空を見上げる。

南西に位置するマーレの上空にあった雲が北東に流れる風に乗ってここまで来るというのに…。

世界は繋がるどころか、どんどん拒絶される事実にフローラは苦笑いをする事しかできなかった。

 

 

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