進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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164話 科学技術と悪意の発展には犠牲は付き物

ファルコ・グライスは、目の前の兵士に罵倒されて呆然としていた。

確かに致命傷であった以上、治療の施しようがないのは事実だった。

しかし、味方から面に向かって罵倒されるとは思っていなかったのだ。

 

 

「ファルコ!?」

 

 

すると坂を滑り落ちるように兄であるコルト・グライスが降りて来た。

彼の左腕には、マーレの戦士候補生の証である黄色の腕章を付けていなかった。

 

 

「なんで腕章を付けて行動した!?」

「……だって、そうしないといけない規則だったから」

「早く立て!もうこの場所はバレちまった!急がないと敵軍が動くぞ」

 

 

スラバ要塞攻略戦に至って戦士候補生に腕章を外す事を義務付けられた。

もちろん、かなりの重罪になるが、ここではそうも言ってられない。

座り込んでしまった弟の腕を引いてコルトは必死に移動をを促した。

 

 

「コルト!!何をやっている!!早く後退しろ!!」

「分かってる!」

 

 

仲間から呼びかけられたコルトは、ファルコを背負って前に進む。

1個分隊のエルディア人戦士たちは爆心地のクレータに身を隠して適当に発砲をする。

こうする事で少しでも敵軍の侵攻を抑えようとしたのだ。

 

 

「クソクソ!!」

 

 

そんな彼らをコルトは置いて行く事しかできない。

すぐさま背後から爆発が起こり、銃声どころか悲鳴1つ聞こえてこない。

それでも走るしかなかった。

制空権が自動で動く無人機(ドローン)によって掌握されている以上、他にできる事は無い。

 

 

「撃て撃て!!」

 

 

中東連合軍から鹵獲した155mm自走榴弾砲3両が無人機(ドローン)を撃ち落そうとするが上手く行かない。

最先端のトラックに155mm榴弾砲を載せただけだが、対地と対空を担える優秀な兵器である。

しかし、発砲後にすぐに離脱できる利点を無くした為、すぐに集中砲火を受けて全て爆散した。

 

 

「コルト!何をしている!!」

「も、申し訳ございません。マガト隊長」

 

 

なんとか決死で行なった味方の援護でコルトとファルコは、戦士隊が潜む地下壕に合流できた。

直属の上官から叱責されて過呼吸になっているのも関わらず、すぐにコルトは返答をした。

そんな彼に背負われたファルコは、ようやく正気を取り戻しつつある。

 

 

「……探し物は見つかったようだな」

 

 

テオ・マガトから見るとファルコは優し過ぎるのが難点だと思っている。

負傷して戦意を失った敵兵を治療し、国際法に遵守する真面目な人物は評価していた。

しかし、この戦場では、その思考は命取りになる。

 

 

「予定より早いがそろそろ頃合いだ」

 

 

本来であれば、30分後にマーレの戦士候補生の居場所を敵軍に知らせるつもりだった。

だが、ファルコの独断行動により、既に存在と居場所が知れ渡った以上、計画を早めるしかない。

マガトは、すぐに休息を取っていた戦士を召集し、次の作戦を遂行しようと歩き出した。

一方、ファルコは未だに頭が痛くてしょうがない。

 

 

「ここは?」

 

 

なんとか絞り出した発言がこれである。

地獄がこの世に出現した環境では優しさは命取りになる。

同僚たちは、さきほどまで居た環境に居たと思えないファルコの発言に困惑した。

 

 

「お前、どれだけ僕たちに迷惑かけたと思ってるんだ!?」

「ご、ごめん。ウド…」

 

 

ファルコの肩を軽く叩いたウドは、彼を罵倒し、気つけ用のアルコールを軽く飲ませた。

眼鏡をかけて冷静沈着に見えるウドは情に熱くすぐに感情が行動に出てしまう癖がある。

 

 

「私たちの誰かがやるのは決まっていた。むしろ彼の行動に感謝するべきじゃないの?」

 

 

そんな暴走しがちなウドをフォローしがちなゾフィアは、あえてファルコの行動を讃えた。

計画とは名ばかりで誰も戦場で居場所を敵軍に知らせるという事はできなかった。

そのせいで、かなり計画の実行が遅れており、むしろファルコは当初の計画を守ったと言える。

 

 

「だからといって上官の命令を無視して行動するべきじゃない」

 

 

本来の計画が大幅に遅れた理由は、複数あるが一番大きかったのが放射線対策である。

このスラバ要塞は、とある事情により軍事施設で初めて原子力発電所を所有している。

その核燃料を砲弾に加えて放射性廃棄物を散布しているとの情報を受けたのだ。

未だ原子力というエネルギーが未知なる領域である以上、マーレ軍は進軍に消極的になった。

 

 

「でも、ここで戦争を終わらせないとずっと殺し合いを続けないといけない」

 

 

そして唯一、ファルコの行動を肯定したガビは告げる。

 

 

「ここで私たちが戦争を終わらせなかったらエルディア人の未来はない」

 

 

従兄のライナー・ブラウンの能力と責務を継ごうとしているガビは恐れている事がある。

それは、巨人兵器として価値のなくなったエルディア人は絶滅する未来に到来するという事だ。

それを避けるには、唯一エルディア人を保護するマーレに自分たちの価値を周知させるしかない。

 

 

「私はこの戦争が終わるまでここから離れない。絶対にエルディア人の未来を繋いで見せる!」

 

 

拳を握り締めてこの手で戦争を終結する事をガビは誓った。

この悲惨な戦争を越えれば、あの悪魔たちが住まうパラディ島の攻撃が始まる。

まだ彼女は死ぬ気は無かった。

 

 

「来たぞ……」

 

 

ファルコの行動もあり、延期されていた作戦がいっきに動いた。

獣の巨人になったジーク・イェーガーの咆哮により、地面や大気が揺れた。

この戦争を終わらせる切り札にして戦争を悪化させた異形の巨人たちが動き出す。

 

 

「全てがこれで決まる……があいつらに力を借りたくなかった」

 

 

ウドは未だに異形の巨人に慣れない。

今まで見て来た巨人も気持ち悪かったが、新型の巨人はもはや何かの傀儡に見える。

本来なら成し得なかった能力を他者の命令によって行使する化け物たちが不気味だった。

 

 

「そうだね。私たちが到達する最悪の未来の1つだもん。ウドの気持ちも分かる」

 

 

当初のマーレの戦士候補生は、能力を継ぐ後任以外は全て異形の巨人にさせられるところだった。

ある意味、異形の巨人に対抗するために中東連合軍が悪魔の技術を手にしたと考えれば…。

全ての元凶に思えてしまうウドの発言は正しいとガビは思っている。

 

 

「でも、パラディ島に住む悪魔をこの世から駆逐すれば終わるよ」

「ねえ、ガビ?なんでそんなに自信満々に言えるの?」

 

 

明らかに戦争が終わる事を確信しているガビを見て同性のゾフィアは彼女に質問する。

確かに戦士候補生で主席の座を争うガビの自信とそれに至る根拠は分かる。

それでも、なんで彼女がそこまで勝利できるのかと疑問に思ったのだ。

 

 

「悪夢はいつか終わるよ。だって極悪非道なエルディア帝国の時もそうだったじゃない」

 

 

この戦場でガビ・ブラウンに現在できる事は無い。

だから出撃命令がいつでも出ても良いように敵軍から鹵獲した自動小銃を構えながら待機した。

地面が揺れ始めて地下壕はそろそろ放棄される。

だからこそ、不安がる皆を勇気づけたガビは笑ってみせた。

 

 

-----

 

 

スラバ要塞の中枢にして驚異的な科学技術と兵器を駆使する司令塔。

スラバ要塞コントロールは、確かに異形の巨人とマーレの戦士候補生の居場所を観測した。

 

 

「ああ、遂にこの時が来たか」

 

 

()()()()()()()()()()()バイバルス・ロレンス統合作戦本部長は苦笑いをする。

いろんな感情が複雑に混ざり合い、ヨルムンガンド工廠(こうしょう)の女取締役の連絡を絶った。

彼女さえ生き残って居れば、必ずマーレを、自分の遺志を継いでくれると本気で信じていた。

 

 

「ここで我々か、奴らか。どちらかが必ず滅びるであろう」

 

 

祖国の領土を化学兵器と兵器開発の公害で汚染させた男に迷いは無い。

現在、マーレ軍と反中東連合軍相手に応戦している友軍すら切り捨てた。

この戦闘が絶滅戦争と位置付けて最期まで戦い抜く所存であった。

 

 

「ならば、最期までやり遂げるまでだ」

 

 

既に高度に発達した通信機器と高性能の無人機(ドローン)は使えなくなった。

何故かって?

電子パルスを発する新型の異形の巨人を投入したからだ。

元よりプラズマ弾を放出する異形の巨人が更に発展したものである。

 

 

「エルディア人の支配から完全に脱却するならば、私は悪魔に魂を売ろう」

 

 

全てを破壊する兵器を手にしたロレンスは、力に溺れたわけでない。

エルディア人の支配から人類を解放するという夢はまだ残っていた。

皮肉にもエルディア人と親密になったおかげで戦争が変わったなんて知る由もない。

彼は本気で自分の行動が人類の為だと信じていた。

 

 

無人機(ドローン)が落ちていく……」

 

 

戦場に居る兵士たちも異様な光景を目にした。

あれほど戦場で猛威を振るっていた無人航空機(ドローン)が次々と地面に向かって落下していた。

まるで天空から吊るしていた糸が切れた様に重力に導かれて制御を失った兵器は散っていった。

 

 

「異形の巨人!!今までの鬱憤をここで全て晴らせ!!」

 

 

亀形の異形の巨人が戦場に投入されたのは、今回が初めてではない。

4年前にパラディ島で試験投入されたが、その時は未知なる兵器で瞬殺された。

しかも、現場を肉眼で確認したジークが瀕死状態だった為、効果確認が遅れた。

 

 

「プラズマ弾で全てを焼き尽くせ!!」

 

 

プラズマは、固体、液体、気体に並ぶ【第4の形態】である。

超高温になると原子を構成する粒子の運動エネルギーが増大し、原子に変化が起こる。

なんと、原子が正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つイオンに分離するのだ。

要するにこれで「パラディ島の悪魔を焼き尽くせば良い」と当初のマーレ軍は考えた。

ところが、逆に新兵器で瞬殺されてしまいプラズマ兵器の有効性が不明確となった。

 

 

「奴らに悪魔の技術は使えない!いくらでも焼いてやれ!!」

 

 

しかし、中東連合軍が駆使する無人機(ドローン)に苦戦するマーレ軍は気付いた。

プラズマは電離で生じた粒子が、電磁場と相互作用しつつ高速で移動するものである。

つまり、電波妨害や電子機器を異変に起こす事が可能ではないかと考えられた。

そして成功してしまった。

 

 

「総攻撃を命じる!!スラバ要塞を丸ごと焼き尽くせ!!」

 

 

10mから15m級で構成される200体の巨人がスラバ要塞に向かって全力で動き出す。

ジーク・イェーガーの脊髄液で辛うじて彼の命令を聴ける巨人に疑問など無い。

問題なのは、異形の巨人がなんで制御できているのか誰も分からないというだけだ。

 

 

「何をしてる!!艦砲射撃を……」

 

 

一方、スラバ湾に展開する中東連合艦隊も動きがあった。

すぐに艦砲砲撃をしようとすると突然に発生した高波で制御不能になった。

 

 

「避けろ!!面舵一杯!!」

「無理です!!高波で制御が…うわああああああ!!」

 

 

ドレットノート級戦艦同士が激突し、大爆発と共に海中に沈んで行く艦が相次いだ。

皮肉にも海上で最強になった中東連合艦隊は、友軍の艦艇のせいで沈没する事となった。

 

 

「なんだ!?何が起こっている!?」

 

 

中東連合艦隊の旗艦であるロースカロライナ級戦艦ではすぐに事態収拾に図る。

…が、高波という自然現象の猛威に耐えるのが精一杯である。

 

 

「海兵!!報告しろ!!」

「ほ、報告申し上げます!」

 

 

損害が軽微なサウスカロライナ級戦艦の海兵が甲板から波を確認すると異変の正体に気付いた!

 

 

「巨人だあああああ!!」

 

 

海兵の叫び声に反応したかのように全長200m級の異形の巨人が海中から飛び出してきた。

そしてサウスカロライナ級に覆い被さる様に激突し、巨人諸共に乗員は海中に消えていった。

【巨人は海を泳がない】という常識を覆された中東連合艦隊は大混乱に見舞われる。

さすがに全長200m、体高40mのクジラ型の異形の巨人を複数相手にするのは無理があった。

 

 

「撃て撃て!!」

「違う!!撃つな!!」

 

 

大波に苦戦しながらも30.5cm砲で砲撃するドレットノート級も居たが、これは悪手だった。

大きく揺れるせいで砲撃に失敗し、砲塔で爆発を起こし、大量の死傷者が発生した。

 

 

「スラバ要塞から光源によるモールス信号を受信しました!」

「報告せよ」

「異形ノ巨人ニヨッテ電波障害アリ。新兵器ヲ投入スル。全艦艇、全力デ離脱セヨとの事です」

 

 

海上の異変から5分後、ロースカロライナ級戦艦の艦橋は大騒ぎになった。

 

 

「速やかにスラバ要塞コントロールに信号を送り返せ!!攻撃の中止を命じろ!!」

 

 

スレイマン海軍大将は慌てて副官に命じたが、遅かった。

既にスラバ要塞の通信タワーを守る為に作られた兵器群が友軍に向けても牙を見せる。

 

 

「本当に起動してもよろしいのでしょうか?」

「2度は言わん。やれ!」

「ハッ!」

 

 

スラバ要塞を守る為に作られた兵器は、その威力故に要塞を破壊する事が判明した。

いくら50km先に出現した異形の巨人を討伐する為とはいえ過剰過ぎた。

命令を聴いて砲手が上官に確認を取るが、逆に命令を肯定する羽目になった。

 

 

「起動します!!」

 

 

3基の120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲が動き出す。

原子力発電によって稼働する電磁加速砲(レールガン)の射程距離は、設計上では1200kmに達する。

本来の用途は、鹵獲されて上空1万mを航行する早期警戒管制機を撃墜する為だけだった。

だが、兵器を開発するヨルムンガンド工廠(こうしょう)は黒幕の意図に反して暴走した。

 

 

「100メガトン級の水素爆弾より小型水素爆弾をばら撒く方が効果的です」

 

 

TNT換算で100メガトン級の水素爆弾を開発したヨルムンガンド工廠(こうしょう)は黒幕に叱責された。

「地球や月を破壊する気か?」と問われてしまい、その巨大さ故に戦場での運用も難しかった。

そこで核砲弾を複数の水素爆弾にして電磁加速砲(レールガン)で砲撃する計画が立てられた。

更に改造すれば、射程距離が2000kmを越えると断言する関係者たちは限度を知らなかった。

 

 

「あっそ」

 

 

意気揚々と計画を述べる技術班や科学者たちの発言を聴いた黒幕はそっけない返答をした。

そして核融合炉の開発を達成した彼らは、更に誤った方向に向かって進撃を続けた。

そのせいで黒幕によって関係者全員が皆殺しにされて核砲弾計画は永遠に闇に葬られた。

ただ、核砲弾の計画が白紙化しても、その120cmの砲口は、脅威であり続けた。

 

 

「砲撃の準備が整いました!」

 

 

発言とは裏腹に砲撃に対して疑問を抱く砲兵たち。

砲兵部隊に命令をする中佐ですら疑問だったのだから仕方が無い事である。

しかし、残党軍を指揮するトップとヨルムンガンド工廠(こうしょう)の暴走は誰にも止められない。

通信タワーを守るスラバ要塞なのに砲撃すると通信タワーを破壊するという諸刃の剣。

既にEMP兵器で通信タワーの機能が大幅に低減しているとはいえ、やる必要性がない。

だが、軍隊というものは、時には理不尽な命令を受け入れる必要がある。

 

 

《スラバ要塞コントロールより、グスタフ砲塔へ命じる。砲撃を開始せよ》

 

 

通信網が遮断されても、拡声器と伝達要員を用意すれば連絡は取れる。

10分に及ぶ伝言ゲームによって到来した命令を受けて中佐は口を開く。

 

 

「砲撃を許可する!」

 

 

たった一言だけ命じただけだった。

3基ある内の1基が目標地点に向かって砲撃しただけだった。

 

 

「え?」

 

 

既に上空は酸化するプラズマ弾によって無駄に青く見える。

しかし、そのプラズマ弾の供給元は、全て抹消された。

40km先に居た異形の巨人はおろか、10km先に居るはずの砲兵部隊まで甚大な被害を与えた。

 

 

《グスタフに続き、ドーラ、パーリの砲撃も許可する》

 

 

さきほどの砲撃で中東連合艦隊に甚大な被害を受けたのは間違いない。

異形の巨人と海戦をしているのと沈没した軍艦の乗員を救助して留まっていたからだ。

絶対に安全地点に撤退できないと分かっていながらロレンス統合作戦本部長は発砲を命じた。

戦場に居る者で彼の本心を理解する機会はない。

この30分後にスラバ要塞が丸ごと消滅する爆発によって存在そのものを抹消されるからだ。

 

 

「うわあああああああ!!」

 

 

40m級の異形の巨人がスラバ要塞内の地面から出現し、砲兵が122mm榴弾砲で砲撃を繰り返す。

開戦前では中東連合の主力であった装甲列車を持ち上げて噛み締める巨人に意志は無い。

搭載された100mm口径の対巨人砲もこの戦場では何もできずに無力に砕け散っていく。

ただひたすらに人間を捕食するだけの道具として行使されているだけだった。

 

 

「人類の恐ろしさ!!思い知れ!!」

 

 

マーレ軍や中東連合から離反した部隊が運用する装甲戦車(パンツァー)を撃破する兵器もあった。

しかし、射程距離が短い事もあり、対戦車用擲弾砲(パンツァーファウスト)が使用される事は緊急事態だった。

それが今である。

そこらじゅうで爆音と悲鳴、断末魔の叫びと共に巨人の叫び声が聞こえてくる。

 

 

『ガリア―ド、いくぞ!!』

 

 

ライナー・ブラウンは同僚のガリア―ドと共に作戦を開始した。

その作戦は、スラバ要塞から撤退する戦士候補生の援護である。

マーレ軍の砲撃によって掘り進めた地下道は、穴を掘る異形の巨人のせいで使えない。

上空からのルートは高射砲や電磁加速砲(レールガン)によって検討すらされなかった。

 

 

〈ライナー!ガリア―ド!急げ!!〉

 

 

獣の巨人を継承したジークは、自身の脊髄液を注入した巨人を口頭で指示する事ができる。

だから巨人を使ってマーレの戦士候補生の盾になる様に仕向けた。

では、何が問題かというと中東連合軍残党の暴走と異形の巨人の戦闘の巻き添えであった。

 

 

〈うおっ!?これがレーザー兵器か!?〉

 

 

スラバ湾で暴れ回っているクジラ型の異形の巨人から口からレーザーを放つ。

1.5ギガワット以上の高出力レーザーは誰にも止める事はできない。

スラバ要塞を守る3つの壁はあっという間に両断されて熱線で近くに居た物全てを焼き尽くす。

 

 

〈げええ!?逃げろ!!早く逃げろ!!〉

 

 

それと同時に背中から噴水と共に放出された硬質化による結晶が空から大量に降り注いでくる。

かつて世界を滅ぼした最強の異形の巨人である“アジ・ダハーカ”。

そして事故でパラディ島のユトピア区内に出現した“アジ・ダハーカjr.”よりは規模も速度も劣る。

だが、その広範囲で降って来る【雨】の危険性を認識しているジークは涙目で逃げ出した。

 

 

〈グオオオオオオッ!!〉

 

 

それでもライナーは戦地に留まり続けた。

咆哮を出して敵軍にアピールして必死にマーレの戦士候補生を逃がそうとした。

 

 

『また壁かよ……』

 

 

ライナーの前方にはパラディ島にあった50mの壁を彷彿させる大きな防護壁があった。

さきほどのレーザー攻撃で一部が大破したものの壁としてはまだ残っている。

未だにパラディ島で抱えたトラウマが残るライナーにとって愚痴に出してしまうほどきつい。

 

 

『チッ!!』

 

 

そんな事を考えていたら、鎧の巨人を撃破しようとレオパルド装甲戦車(パンツァー)がやって来た。

44口径120mm滑腔砲による対巨人用徹甲弾は、鎧の巨人の装甲すら耐える事ができない。

すぐに応戦しようと鎧の巨人が動こうとしたら、すぐにその危険性は無くなった。

 

 

『オイオイ……』

 

 

地面から飛び出してきたムカデ型の異形の巨人があっさりとレオパルドを持ち上げて宙に投げた。

そして地面から飛び跳ねて頭突きで叩き落として燃料と血塗れになった残骸を捕食し出した。

その光景を目撃したライナーは思わず声を出してしまうが、彼も他人事ではない。

 

 

「ん?」

 

 

さきほどのレーザー攻撃から免れた120cm砲塔が鎧の巨人に照準を定める。

 

 

「クッソタレ!!」

 

 

犠牲者が多すぎてスラバ要塞に立て籠もる残党は、戦争の敗北を悟ったのだろう。

硬質化の結晶による雨にも耐える砲塔で全てを消し飛ばすつもりのようだ。

それを見抜いた鎧の巨人は全速力でスラバ要塞に向かって突撃していく。

例え無駄な行動としても、双方とも譲る気は無かった。

 

 

『あ?』

 

 

この戦争の本質は、黒幕によって【より多く人名を失わせる消耗戦】に仕向けられた。

よってこの戦争には勝者は居ない。

少なくとも生物であるならば…。

 

 

『爆発した!?』

 

 

120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲2号機“ドーラ”の砲塔は爆発した。

決してこれは事故ではない。

何者かによって砲撃した結果である。

 

 

『誰が?』

 

 

硬質化の結晶が降り注いでくるこの場では友軍の攻撃はあり得ない。

さっきの最新鋭の装甲戦車(パンツァー)ですら死に体であった。

無人航空機(ドローン)も異形の巨人によって制御不能に陥っているはずである。

誰が攻撃したのかと鎧の巨人は見渡して……気付いた。

 

 

『ふざけんな!!』

 

 

攻撃を行なったのは、自律型AIを載せた原子力装甲戦車(アトミック・パンツァー)である。

存在そのものはライナーも知っていたが、想像以上の大きさにうんざりする。

ただ、問題なのはそこではない。

この原子力という未知なる技術で動く兵器の主砲はガンマ線レーザー砲。

つまり、鉛の壁ぐらいしか防ぐ事ができない高出力のガンマ線を射出する兵器だった。

 

 

『勝てるかこんなもん!!』

 

 

生物どころか分子構造すら容易に破壊する兵器に勝てないとライナーは本能で悟る。

さきほど超長身の砲塔や30m級ムカデ型の異形の巨人が瞬殺されるのを見ればすぐ分かった。

 

 

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この兵器のきっかけは、化学兵器と塹壕によって戦線が停滞したのに困った黒幕の行動である。

人類同士を無駄に殺し合わせてパラディ島からヘイトを逸らそうとした彼女は困った。

 

 

『うーん、どうやって悲惨な殺し合いをさせて人類を地獄に突き落とそうかしら……』

 

 

マーレと中東連合軍の戦争を大幅に悪化させたフローラ・エリクシアは必死に考えた。

もちろん、戦争当事国どころか、世界各国がどのように戦線を動かすか悩んでいる。

しかし、彼女が思いついた案は、誰もが思いつかなかった事である。

 

 

『放射線を放つ物質で被爆させまくればいいのよ!!』

 

 

ヨルムンガンド工廠(こうしょう)の元となった組織を立ち上げた元凶は原子力を兵器に転用する事にした。

既に装甲戦車(パンツァー)無人航空機(ドローン)の開発をしていた協力者たちは当然ながら抗議をする。

時間も無いし、原子力に関する研究がほとんど進んでいないので実用化は無理だと断言した。

 

 

『じゃあ、時間が取れて原子力の研究が進めば実現できるのね!』

 

 

そこでフローラは、卓越したコミュニケーション能力と資金力、人脈で研究できるようにした。

各国の主戦派を言葉巧みで堕として世界中の主要軍事産業と金融機関を取り込む事に成功した。

ついでに運送業と造船業、通信インフラに半導体メーカーさえ買収し、多国籍企業に変貌させた。

これによってフローラですら制御できなくなるヨルムンガンド工廠は驚異的な兵器を産み出す。

 

 

『楽しみだわー!』

 

 

水素爆弾も核融合炉も電磁加速砲(レールガン)もその一環で生まれた副産物に過ぎない。

放射線で塹壕に潜む敵兵を被爆させる放射線射出機はついにガンマ線の放射器として誕生した。

 

 

『え?いくら何でも威力が強すぎない?』

 

 

残念なのか必然だったのか、フローラは原子力についてそこまで詳しくなかった。

だから完成する兵器は、マイクロ波による加熱で敵兵を死傷する程度のものだと思い込んだ。

おまけの被爆についても、人類が作る兵器ならそこまで高出力の物はできないと考えていた。

 

 

「指向性エネルギー兵器を色々みてきたけど…いくらなんでも殺意が高過ぎない?」

「はい、お求められた兵器を開発しました。これでマーレ人とエルディア人を殲滅できますよ!」

「いや、そこまで求めてなかったけど…」

 

 

確かにフローラは、人類同士が無駄に殺し合って悲惨な事になる結末を望んだ。

ただし、それは負の遺産となり、人類は反省して隣人に手を差し伸べるまで抑えたかった。

既にパラディ島で行なう水素爆弾投下実験を何度もキャンセルしたフローラは疑問を持つ。

こうなるように仕組んだとはいえ、なんでここまで人類ってアホなのだろうか…と。

 

 

「もちろん、機能試作で原子力装甲戦車(アトミック・パンツァー)の主砲として採用しました!」

「機能試作で採用しないでよ!!せめて時間をかけて検証してから量産試作で採用しなさい!!」

 

 

そしてフローラが恐れた通りに自分が作った組織が暴走してしまった。

事後報告でパラディ島に100メガトン級の水素爆弾を投下する作戦を知った翌日の事である。

さすがに度が酷過ぎると思ってフローラは、せっかく育て上げた研究者や技師を殲滅と誓った。

 

 

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そんな無茶苦茶の事情で作られた秘密兵器が鎧の巨人に砲塔を向ける。

副砲であった2門の155mm磁気火薬複合加速方式滑腔砲は落下してきた結晶で破損している。

だから仕込まれたAIは、高出力のガンマ線を動く物全てに照射し、滅ぼしていた。

化学兵器や放射線で汚染された場所で動く事を想定された自律兵器に情は無い。

プログラムで仕込まれたプロンプトと変数、センサーで反応しているに過ぎない。

 

 

「クソが!!」

 

 

ここが死地と覚悟した鎧の巨人は動こうとすると異変が起こった。

今度は上空から爆弾が投下されて新兵器の前方で大爆発を起こしたのだ。

すぐさま砲塔は上空に向けられて高出力のガンマ線が照射される。

 

 

「……なるほど、敵の敵は味方か…」

 

 

撃墜されたのは、全機落ちたはずの無人航空機(ドローン)の部隊である。

中東連合艦隊は、スラバ要塞の司令部が暴走していると判断し、攻撃を開始したのだ。

つまり、中東連合軍の残党が更に分裂して同士討ちをしている地獄絵図となった。

しかし、これによって勝機があるとライナーは考えた。

 

 

「居たぞ!!鎧の巨人だ!!」

「逃がすな!!刺し違えてもぶち殺せ!!」

 

 

当然の事ながら1時間前まで団結していた反乱兵が味方な訳が無い。

暴走する友軍を止めようとしていた反乱兵は鎧の巨人に向かって突撃を開始した。

 

 

「反乱兵を殲滅せよ!どんな手を使っても!!」

 

 

一方、暴走する中東連合軍残党は、禁止された兵器を用いて反乱を鎮圧しようとした。

サリン、VXガスといった化学兵器弾頭を筆頭に自動小銃や対戦車用擲弾砲(パンツァーファウスト)を持ち出した。

人間や巨人を殺す為に作られて禁止された化学兵器がまたしても地上で使われようとしている。

 

 

「まずは巨人をなんとかするべきです!!」

「とりあえず、巨人を掃討せよ!!」

 

 

更に巨人の群れが人気の多さに釣られてやって来た。

無垢の巨人が来ると言う事は、奴らも来る。

 

 

「うわ……」

 

 

ここまで無茶苦茶になると思わなかったライナーは他人事の様にドン引きした。

超大型巨人の脊髄液で作れるようになった異形の巨人は巨大化している。

40m級と50m級の異形の巨人が能力で近くに居た巨人諸共焼き尽くしている。

 

 

「中東連合艦隊の無人航空機(ドローン)航空隊を全て撃墜せよ」

「いや、近接航空支援が優先だ」

「既に迎撃機を出しました!」

 

 

上空では、EMP兵器に備えて保管してあった無人航空機(ドローン)が同士討ちを開始した。

グラーフ・ツェッペリン級航空母艦2隻とスラバ要塞から出撃した部隊同士が潰し合う光景。

まるで昔に見た花火の様に大きな音と閃光を発しながらライナーは前を見る。

 

 

「……なんなんだよこの戦場は……!!」

 

 

小雨のようにパラパラと硬質化の結晶が上空から降って来て兵士を次々と傷付けていく。

握りこぶし大の結晶がヘルメットを貫通し、頭蓋骨を粉砕されて即死できた者は幸せだった。

誰もが血を流し、憎悪をぶつけて狂気に陥っている光景にライナーも巻き込まれていく。

 

 

「鎧の巨人を…」

「ここで…」

「エルディア人さえ居なければ…」

 

 

さきほど鎧の巨人に向かって突撃した1個分隊は、後方から放たれたガンマ線で消え去った。

新手の原子力装甲戦車(アトミック・パンツァー)3両も駆けつけて戦場を混沌にもたらす。

 

 

「どうしてこうなったんだ……」

 

 

鎧の巨人を継承したライナー・ブラウンが気付く訳が無かった。

9年前にシガンシナ区の内門をぶち抜いた時の破片が女の子の両親を潰した。

その時に女の子は悪魔に転生し、鎧の巨人を憎んだ事が全ての元凶だという事に…。

後に生還してレベリオ収容区に戻って来たライナーは待ち構えた記者団にこう語る。

 

 

「あの戦場は、人類の悪意と狂気をありったけに詰め込んで恐怖を熱する坩堝(るつぼ)のようだった」

 

 

マーレの戦士隊の副長であるライナー・ブラウンは、こうやって戦場を表現する事しかなかった。

マーレ軍からの守秘義務があると発言しつつも、彼は次の様に語った。

 

 

「自分たちは運が良かった。そして二度と戦争が起こるなんて無い事を祈りたい」

 

 

憔悴しきったライナーは未だに幻覚が見える。

共に夢を誓い合ったフローラ・エリクシアが自分の正体を知って悪魔の様に笑った事を…。

自分の失態のせいで中東連合の戦争が大惨事になったと知らない彼は同期の顔を思い浮かべた。

だが、ライナーは知らない。

彼女と再会する事に…。

そしてスラバ要塞で繰り広げられた地獄が生易しく感じられる事態が今後、発生する事に…。

 

 

『そうだ、俺はあの時……』

 

 

記者団の質問に対応したライナーは、今でも鮮明に思い出せる光景について黙っていた。

自分を憎む集団に囲まれた事で自分とマガト隊長とマーレの戦士候補生の大半が助かった事に…。

しかし、マーレの勝利について泥を塗りたくない彼はずっと黙ってついに公言する事は無かった。

 

 

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