進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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165話 鎧の巨人 VS 自律型AI原子力装甲戦車

悪魔の末裔が住まうパラディ島は、楽園とも言われている。

名前の由来がそうなのか、巨人にとっての楽園なのかは知らない。

ただ、ライナー・ブラウンにとって確かにあそこは楽園であった。

 

 

『ああ、確かに楽園だったな…』

 

 

外の世界から隔絶された壁内社会は、どこか歪んでいた。

壁に留まる様に洗脳された住民は電気どころか蒸気機関すらない辺鄙(へんぴ)な場所で一生を過ごす。

当たり前が存在せずに歪な常識を疑う調査兵団を異質として蔑んでいるまである。

そんな世界がライナーにとって恐ろしく、そしてとっても大好きだった。

 

 

『俺がやるんだ……』

 

 

外の世界では、結果を出せて当たり前どころか、ライバルを蹴落とせて及第点という有様だった。

狭き門を競っていたのは、訓練兵団も同じであったが、少なくとも頑張れば讃えられた。

間違っても、敵対勢力どころか自身が所属している組織の後輩から睨まられる事は無い。

 

 

『終わらせるんだ…』

 

 

再び、元の世界に戻って来たライナーは自分たちのせいで世界は残酷になったと知る。

自分たちの敗北を知られてただけでマーレ大陸の南東部にある半島で反乱が起こった。

パラディ島に派遣されたマーレの戦士が惨敗した事実は、世界どころか常識すら変えた。

 

 

『ガビの為にも……』

 

 

装甲戦車(パンツァー)”、“無人航空機(ドローン)”、自動小銃(オートマチックライフル)、“航空母艦(エアクラフトキャリアー)”、“化学兵器(ケミカルウェポン)” 、“電磁加速砲(レールガン)”、“原子爆弾(アトミックボム)

今までの常識では、ありえなかった兵器群が人類の悪意と狂気によって表舞台に躍り出ている。

先代の失態で生まれてしまった兵器の相手まで後継者に継がせる気などライナーには無かった。

 

 

〈グオオオオオオ!!〉

 

 

巨人が咆哮するのは、かつては恐怖そのものであったが、今の戦場では逆効果である。

ただし、あえて目立たせたり、ヘイトを向けるには打ってこいであった。

特に最近まで無敵と謳われた鎧の巨人ならば尚更だ。

 

 

「鎧の巨人をここで仕留めろ!!」

 

 

誰かの悪意と憎悪が入り混じった罵倒すらライナーにとって救いの言葉となる。

はっきり“敵”であると分かるなら殺すのに躊躇する事は無いからだ。

 

 

「は、放せ!!う、うわあああああああ!!」

 

 

さっそく鎧の巨人は、罵倒した敵兵を右手で掴んで()()()に向かって投擲をする。

今までの装甲戦車は、せいぜい全高が2mほどしかない。

だが、目の前に立ち塞がった化け物は、15m級の鎧の巨人を見下ろす迫力がある。

 

 

「ははは、悪意ってここまで発展するんだな…」

 

 

化け物の遥か真上に飛ばしたはずなのに投擲された敵兵は爆散した。

砲撃音も発砲音も聞こえなかったのに人体が爆散するのを見てライナーは苦笑いをする。

――また新兵器か

そんな考えが頭をよぎるが、もはやそれを考えている暇すらない。

もう1輌が要塞の壁を破壊して出てきたのだから。

 

 

「なんだこの兵器は!?」

「どこの部隊の兵器だ!?なんでこっちを撃って来る!?」

「とにかくこいつを止めろ!!」

 

 

スラバ要塞陣営所属のレオパルド装甲戦車(パンツァー)が120mm滑腔砲で化け物に向かって砲撃を繰り返す。

もはや同胞すら犠牲にする残党軍ですら同士討ちしてでも、止めようとする時点でヤバかった。

この化け物の概念(コンセプト)は、核戦争や化学兵器で汚染された大地でも運用できる兵器である。

すなわち自律型AIで勝手に自力で判断して動く兵器は、敵を殲滅する以外の仕事はしない。

 

 

『ああ、なんだ…』

 

 

必死に生き残ろうとする敵兵と装甲戦車は、ガンマ線レーザー砲によって瞬殺された。

ガンマ線自体は不可視のエネルギー波の為、何が起こったかは犠牲の末路によって知らされる。

生物はおろか分子構造すら破壊するので無機物すらただでは済まない。

おまけに強力な電磁波も発生させる為、猛威を振るう無人航空機すら巻き添えで撃墜する。

ナパーム弾やクラスター爆弾、化学兵器を抱え込みながら40機近い無人機が空から降って来る。

クジラ型の異形の巨人が噴出する硬質化の結晶の雨と共にここは地獄だと知らせてくれた。

 

 

『俺だけじゃなかったんだ……』

 

 

しかし、ライナーにとっては、価値観も信念も違う人間でも同じ気持ちになれると知った。

それだけで充分であった。

当初の予定であるスラバ要塞の通信施設とデータセンター、中東連合艦隊は壊滅している。

だからライナーがするべき事は、少しでもマーレの戦士隊が撤退できる様に暴れ回る事だ。

 

 

「来いよ!!化け物が!!」

 

 

自律型AIを搭載した原子力装甲戦車(アトミック・パンツァー)は、停滞した戦場で動き回れるように設計された。

敵味方識別装置自体はあったが、技術者や開発者が黒幕に粛清された影響で機能していない。

起動したら同型兵器以外の全てを破壊する大量殺戮兵器として暴れる事しかできない化け物。

そんな哀れな化け物に向かって鎧の巨人は突っ込んで行った。

 

 

「チッ!」

 

 

スラバ要塞を守るはずの外壁を破って出現した新手は、ご丁寧にも同じ敵だった。

ブルドーザーとロードローラーと装甲戦車を巨大にして組み合わせた様な化け物である。

高速で噴き出す土砂を身に纏い、大自然と無機物が組み合わさった悪魔に見える。

 

 

『なんてな』

 

 

さっそく鎧の巨人を発見し、新手は2門の155mm磁気火薬複合加速方式滑腔砲をぶっ放す。

当然、鎧の巨人は前方に居た化け物を盾にして攻撃を防いだが、これでは撃破できないようだ。

ただ、それ自体はライナーにとって想定内だった。

 

 

「とことん同士討ちさせてやる!!」

 

 

明らかに勝ち目がないので化け物たちで同士討ちをさせる気である。

そもそもガンマ線はおろか、放射線の名称すら彼は良く分かっていない。

 

 

『“マイクロ波”でな!!』

 

 

むしろ、ライナーはヨルムンガンド工廠(こうしょう)が開発した電子レンジを兵器化したものだと思っていた。

マイクロ波を照射し、水分子を振動させて加熱させる理論を兵器に転用したと勘違いしている。

だが、それは仕方が無かった。

たった4年でアホみたいに技術が発展したせいで最前線で戦う彼に覚えられる訳が無かったのだ。

 

 

『さすがに無敵では無いはずだ!!』

 

 

なにより、化け物の自重が凄まじ過ぎて常時地面に減り込んでいくという弱点が大きい。

あまりにも重すぎるせいか、超高速で犬掻きして地上へと浮上している様にすら見えた。

故に地上に這い上がる装置を破壊すれば良いと一瞬で理解したからこそ戦うと決意する。

 

 

『幸いにも武器になるのはいくらでもある』

 

 

ただ、ここで長居すれば死ぬと分かっているので双方の化け物の合間を駆け抜けた。

幸いにも機動力ならば鎧の巨人が上回っているのですぐに攻撃を当てる事はできない。

しかも、自律型AIであるので効率良く運用されているとはいえず隙だらけであった。

 

 

「居たぞ鎧の巨人だ!!」

「先人たちの悲願をここで果たす!!」

「人類の力を思い知れ!!」

 

 

しかし、隙だらけだったのは鎧の巨人も同じである。

恐怖を怒りで凌駕する中東連合の残党兵たちが自動小銃を向けて罵倒してきた。

それを見たライナーは、あまりにも無謀過ぎる装備を確認して本気で困惑する。

 

 

『正気かこいつら!?』

 

 

カラシニコフ式自動小銃を構えた1個班が鎧の巨人に突撃してきたのを見て驚愕するしかない。

7.62mm口径弾は対人威力が大きいが、巨人相手ではまともに通用しない。

ましてや、巨人の中でもっとも防御力がある鎧の巨人相手には豆鉄砲でしかない。

なのにわざわざ声で居場所を知らせながら突撃してくる姿は、かつてのマーレ軍を彷彿させる。

 

 

「…クソ」

 

 

マーレ陸軍は、巨人を主力としており、他には歩兵、騎兵、砲兵が構成されている。

兵員は数だけなら世界一の大軍団であったが、実際は張子の虎に過ぎなかった。

70年以上も前からまともに兵装が更新されておらず、大半が戦列歩兵という有様だった。

対する中東連合軍は、戦争序盤での化学兵器による停滞を得て様々な新兵器を運用してきた。

 

 

「マジかよ……」

 

 

そんな最先端の象徴だった彼らが特攻兵に成り果てた事実にライナーは嫌気が差す。

まるで次に大戦が発生したら石器時代の文明まで人類は劣化するのではないかと思うほどだ。

 

 

「撃て!!」

 

 

そんな彼の懸念に最悪な形で彼らは行動で示してきた。

突撃する歩兵を囮にして後方に居た兵士たちがグレネード弾を鎧の巨人に向かって射出する。

色は紫。

サリンかVXガスか、もしくはその両方を混ぜた化学兵器を使用していると知らせる色だった。

 

 

「もう、うんざりだ!!」

 

 

一時期は15m級の巨人を即死させる化学兵器とその使用者が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、戦場は変わった。

今では視認できる様に着色されて対人を想定した威力に抑えられており、大幅に弱体化している。

だからこそ化学兵器を投入した部隊の背後から出現した巨人の群れには無力である。

あっさりと12m級と8m級の巨人が敵兵を蹂躙し、鎧の巨人に向かってやって来た。

それを見てライナーは未だに悪夢の深層で苦しんでいるようでうんざりした。

 

 

「特にお前らはなぁ!!」

 

 

右腕を伸ばしてきた12m級の巨人の懐に入り込んで足を絡めてバランスを崩させて腕を掴む。

その勢いで背中で担いで腕を抱えたまま新型の装甲戦車に向かって投擲した。

すぐさま鎧の巨人はその場から文字通り転がって次の攻撃に備えた。

 

 

「チッ!!」

 

 

さきほど無視した8m級の巨人は撃破されたようで蒸気を出して地べたに転がっている。

その代わりに対戦車用擲弾砲(パンツァーファウスト)による砲弾が鎧の巨人に向かって飛んできた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

辛うじて直撃は回避したものの爆風で煽られて鎧の巨人は更に転がり回った。

いくら巨人になっても生身の人間が本体である以上、限界がある。

脳震盪(のうしんとう)を受けたような感覚がするライナーはすぐには動く事ができなかった。

鎧の巨人を討伐するには絶好の好機だと誰もが思っただろう。

 

 

「うぎゃあああああ!!」

 

 

そんな彼らの期待は、無情な新型兵器の横やりによって粉砕された。

12m級の巨人が目の前に飛んできたので100kwのレーザー兵器で焼き払っただけである。

だが、自律型AIが放った戦術エネルギーレーザーは巨人どころか遥か後方に居た兵士も焼き払う。

敵の敵は味方というが、人間VS巨人の戦いに自律型AIまで参戦する恐ろしい時代となった。

 

 

「こっちも撃ち返せ!!」

 

 

さすがに友軍を攻撃し続ける欠陥兵器に残党軍も反中東連合軍の両軍は無視できなかった様だ。

硬質化で発生した結晶が小雨のように降り注ぐ戦場で必死に彼らは抵抗する。

20輌で構成されたティーガー装甲戦車(パンツァー)とレオパルド装甲戦車(パンツァー)の連合部隊が砲撃を繰り返す。

対する相手は、核戦争で人類が生き残れない環境になった戦場で動き回る事を想定した兵器だ。

砲撃を物ともせずにすぐさま自律型AIは、殲滅するべき敵勢力に対して反撃を繰り出す。

 

 

「はははは、これは酷い……」

 

 

全力の後退りで退避した鎧の巨人は、目の前の惨劇を見て笑う事以外にできなかった。

レーザー兵器では装甲戦車に効果が無くガンマ線砲では自壊する距離に居る敵にどうするべきか。

自律型AIが出した答えは、掘り進めて出た土砂を使って高速で散弾のように撃ち込む事である。

ただの土砂ならばまだ良かった。

原子炉を冷却するのに使用した土砂をご自慢の155mm磁気火薬複合加速方式滑腔砲で射出した。

 

 

「ミンチよりひでぇな……」

 

 

結果は御覧の通り。

何千度に熱せられた土砂が高速で装甲を削り取ったばかりか燃料に引火して爆散した。

そう見えただけで違うかもしれない。

ただ、明らかに即死できたと分かるのでライナーから見ると羨ましくもあった。

 

 

『羨ましいぜ……即死できるならな』

 

 

死ねば楽になるのは理解している。

だが、ここで死ぬわけにはいかない。

後輩の為にも、エルディア人の未来の為にも、なによりマーレの為にもだ。

 

 

『まだ死ぬ気はないがな!』

 

 

120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲が天空に向かって砲撃をする。

狙いは、スラバ湾に出現した異形の巨人が散布する硬質化の結晶の雨を吹っ飛ばす為である。

その度に大気が振動し、自分が未だに生きているという実感を痛み以外で伝えてくれる。

口の中で鉄と砂が混ざり合った味と匂いですら正気を保つスパイスである。

 

 

「ああ、やってやる!!」

 

 

未だに現世と地獄の狭間で彷徨っている感覚があるライナーだったが、やる事は決まっている。

辛うじて残ったティーガー装甲戦車(パンツァー)の主砲である8.8cm戦車砲を拾って鎧の巨人は襲来に備える。

塹壕を埋め立てる気なのかと思わんばかりに大地を耕す化け物は、この戦場に良く似合う。

だからこそ戦場でしか輝いてはいけない英雄は、この兵器をこの戦場から出す気は無かった。

 

 

「喰らえ!!」

 

 

まずはゴルフのように残骸を戦車砲で振って原子力装甲戦車に向かって飛ばす。

当然の事ながら反撃して来るが、1つだけAIならではの致命的な問題点があった。

 

 

「無人機なら話は早い!!」

 

 

従来の装甲戦車は、複数の人員が乗り込んで操縦する。

砲手や装填手、操縦手や車長などが居て1個班で動かす存在だ。

一方、自律型AIはデータを参照して最適解を出すが、複数の機転に関しては論外である。

よって、飛んできた飛来物を撃墜する動作以外は一切しないのだ。

 

 

「オラァ!!」

 

 

飛来物を全力で撃墜する間に白兵戦を仕掛けた鎧の巨人は戦車砲で殴り掛かった!

薙ぎ払ってセンサーらしきものを破壊し、カメラっぽい何かを叩き潰して全力で離脱する。

センサーの一部が物理的破壊されて支障が出たのか、原子力装甲戦車の動きが鈍くなった。

 

 

『うっ!!』

 

 

ここで鎧の巨人の悪運が尽きた。

目の前に同型の原子力装甲戦車がガンマ線レーザー砲を向けていたのだ。

もうダメかと思ったその時!

 

 

「うおおおおっ!?」

 

 

突然、目の前の地面から40m級のモグラ型と呼ばれる異形の巨人が出現した。

超大型巨人の脊髄液の影響を受けている異形の巨人は、激突と同時にすぐさま大爆発を起こす。

生半可な物質など防ぐどころか分解するガンマ線の射出が逸れただけではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()爆風でぶっ飛ばしたのだ。

 

 

『ああああああ!?』

 

 

唐突に発生した眩い光源とすぐにやってきたキノコ雲、そして絶大な威力を誇る衝撃波。

またしても爆風で鎧の巨人は自慢の装甲を削りながら要塞から離れるように転がっていく。

 

 

「うわあああああ!?」

「やだああああああああ!!」

 

 

ある者は、目の前の光景を否定しようとしたのか眩しかったのか、両手を広げて視覚を隠す。

ある者は、自分がここで死ぬのが信じられずに地面に伏せるが結果は変わらない。

爆心地周辺に居た存在は、この世に居た痕跡を抹消されて直撃を免れた者にも牙を剥く。

地表に居た者は、高熱の熱風で焼かれて慌てて塹壕に潜った者も肺が潰れて窒息をする。

阿鼻叫喚の光景が繰り広げられる地獄ですらまだ生易しい。

 

 

「だずげでぇ!!」

 

 

即死を免れた者もすぐに絶命する事となるが、それはまだ救いがある。

どうせみんな死ぬのだから、少しでも延命するだけ無駄だった。

地面を掘り進めた異形の巨人と激突した原子力装甲戦車は、そのまま地面に埋もれていった。

いくら無人だから頑丈にできるとはいえ至近距離の大爆発で切削機と浮上装置が壊れた様だ。

空回りした土砂排出器から煙が噴出してそのまま逆に土砂に埋もれていく。

ついでに逸れたガンマ線が別の原子力装甲戦車に命中してセンサー類を破壊した。

 

 

〈ライナー無事か!?……クッソ!!ポルコ、急いで救出するぞ!!〉

 

 

少し前に中東連合艦隊が4体のクジラ型の異形の巨人を討伐する事に成功した。

これによって硬質化の結晶による雨が止んで獣の巨人と顎の巨人が動けるようになった。

ただ、未だに地上に展開された兵器がヤバすぎて身動きが取れなかった。

そしてそれらを吹っ飛ばす大爆発が収まった瞬間を見計らってマーレの戦士たちは動き出す。

 

 

〈お前ら援護しろ!!とにかく走れ走れ!!〉

 

 

獣の巨人の呼びかけで大量の無垢の巨人が彼を援護するように走り続けている。

人は群れる事で力を発揮できるが、巨人も同じである。

それどころか全ての物に適応されるので数は正義と言える。

その圧倒的な戦力を戦士隊の撤退に尽力するライナーを救出する為に利用した。

 

 

〈ポルコ!!こいつらは盾にもならん!ライナーだけを探すんだ!!〉

 

 

ただ、巨人が大地の覇者だったのは昔の話。

 

 

〈クソ!!レールを走れ!!〉

 

 

地雷を踏み抜いて吹っ飛ぶ巨人を目にしたジークは線路の上を走り出した。

さすがに補給の生命線に地雷を仕掛けていないと確信して行動に移しただけだ。

もちろん、他より標高があるせいですぐに敵軍に居場所がバレてしまう。

 

 

〈伏せろ!!〉

 

 

獣の巨人の叫び声が聞こえたと同時に顎の巨人は慌てて地面に伏せる。

すぐさま、そのすぐ真上で高出力のレーザーが無垢の巨人を薙ぎ払って焼き尽くしていく。

 

 

〈やはり噂通り、レーザー兵器を配備してやがったか!〉

 

 

スラバ要塞に設置された核融合炉で発電された膨大な電力を列車砲として活用していたのだ。

もちろん、生物には効果的だが、活躍の場所が限られるのでほとんど使用されないはずだった。

ただし、スラバ要塞の戦力が壊滅的でマーレ軍の戦略が達成できている以上、敗北は確定した。

だからヤケクソに焼き払っているだけだが、新時代のレーザー列車砲は巨人の天敵と言えた。

 

 

〈……よし、走れポルコ!!こっちに照射する前に全力で移動するぞ!!〉

 

 

レーザー照射が終わったと同時に獣の巨人は生き残った巨人に指示を出して走り出した。

複数あるレーザー列車砲は、敵対した元中東連合軍を標的にしているようである。

そのチャンスを逃さない戦士たちは全力で鎧の巨人が居る最前線に向かって走り続ける。

 

 

〈マスタードガス弾か!!鬱陶しい!!〉

 

 

化学兵器の1種であるマスタードガスは、ガスマスクも防護服も浸透する危険性がある。

ただし、黄色の煙は視認しやすい上に対策をしている戦士にとっては見慣れた光景であった。

それでも長居すれば健康被害が出る為に避けて通るべきであったが…。

 

 

〈お前らが居るからやりにくいんだよ!!〉

 

 

当然の様に退避しようとした場所に122mm榴弾砲が10門並んでいた。

鎧の巨人の装甲すら容易く粉砕する砲撃は、他の巨人では致命傷に繋がる。

だからこそマスタードガスが見えた瞬間、ジークは愚痴を溢すしかなかった。

 

 

〈って事で行って来い!!〉

 

 

すぐに獣の巨人は近くに居た無垢の巨人の首を掴んで引き千切った。

血肉が噴水の様に吹き出し、毛だらけの巨体が汚れるのも気にせずに両手で掲げる。

そして砲兵部隊に向かって投擲をした瞬間、その場を後にした。

 

 

「撃墜せよ!!」

 

 

巨人の頭が音速を越えてこっちに向かって飛んでくる。

文字で表現すると間抜けな感じがするが、砲兵部隊にとっては一大事である。

直撃を受けなくても地面に激突して飛び散る血肉に触れた瞬間、重傷が確定するからだ。

慌てて砲撃をしてなんとか頭を撃墜して安堵する…時間すらなかった。

 

 

〈おらよ!!〉

 

 

獣の巨人と顎の巨人が協力して片っ端から巨人を投げつけて来た。

待ち構えていたさっきと違ってすぐに発砲できず、飛んできた巨人に激突する兵士が相次ぐ。

 

 

〈メインディッシュも喰らえ!!〉

 

 

ついでに獣の巨人は土砂を掬って全力で砲兵部隊に向かって投げつけた。

超音速で飛んでくる土砂はそれだけで鋭利に物体を切り裂く狂気となる。

 

 

〈砂好きの変態共が!!思い知ったか!!〉

 

 

直撃しなくても着弾の衝撃ですぐには反撃して来る事はないだろう。

そしてこれだけでは敵対勢力を全滅させる事はできていないと分かっている。

舞い上がる砂煙で周囲の視界を奪った獣の巨人は顎の巨人に呼び掛ける。

 

 

〈行くぞ!!〉

 

 

無力化はできないが、そもそもこの戦場で長居するつもりはなかった。

だから獣の巨人は、鎧の巨人が居る場所に向かって走るつもりだった。

 

 

〈ん?〉

 

 

しかし、ここで異変が起こった。

何故か、誰もが武器を捨てて逃げ出しているからだ。

敵対する残党軍も、反中東連合の義勇部隊も、マーレ兵も徴兵されたエルディア人戦士も…。

何かに怯えるように敵前逃亡しており、重傷を負った者も地面を這いずって進んでいた。

 

 

〈なんだ?〉

 

 

いつの間にか砲撃も止んでいた。

人々が狂乱して奇声を発するも、さきほどまでの戦場に比べれば静か過ぎた。

あまりの異様さに獣の巨人は、顎の巨人を見るが、彼も何が起こった理解できていない様だ。

 

 

〈急いでライナーと合流するぞ!!絶対に碌な事じゃねぇ!!〉

 

 

分かる事と言えば、さきほどの地獄を生き抜いた者すら逃げ出す事態が発生している。

碌な事が起きないと分かっているからこそ獣の巨人は自身を奮い立たせる為に発言をする。

顎の巨人を継承したポルコ・ガリア―ドもただ頷いて走る事しかできなかった。

 

 

「まだ動くか化け物が!!」

 

 

そんな異常な事態でも鎧の巨人は、未だに原子力装甲戦車と戦い続けた。

ガンマ線レーザー砲で外装甲が溶けて放射線を防ぐ150mmの鉛装甲が傷痕から覗く。

どれくらいダメージを受けたかは分からないが、未だに前進する時点で脅威な事に変わりはない。

道中に居た装甲戦車を60km/hを越える速度で粉砕する新時代の装甲戦車は体当たりすら脅威だ。

 

 

「来いよ!!相手をしてやる!!」

 

 

さきほどの大爆発から奇跡的に免れた地雷原に化け物を誘い込んだライナーは死を覚悟する。

なにせ超大型巨人の爆発すら耐える兵器であるからだ。

地雷程度で動きが止められるかは賭けでしかない。

 

 

「お前と俺!!どっちが悪魔か決着をつけようじゃねぇか!!」

 

 

もはや元が何だったか分からない物体を粉砕して装甲戦車は鎧の巨人に向かって進撃をする。

ライナーの挑発に乗る様に地雷原に踏み込んだ瞬間、次々と地雷を踏み抜いて爆発を起こす。

そんな爆炎の中でもレーザー兵器を照射して鎧の巨人の左腕を消し飛ばす!!

 

 

「だと思ったよ!!」

 

 

それすらライナーは想定済みだった。

勇気とは恐怖を感じたうえで立ち向かう事を示す。

無我夢中で薙ぎ払われる光の栓を回避した鎧の巨人は装甲戦車に飛び乗った。

そして未だに高エネルギーを放出する兵器に向かって右手で殴打する。

 

 

「うっ!!」

 

 

激突した衝撃で右手の甲が割れるほどの全力を込めた一撃はその分、効果があった。

あっという間に右手は溶けたが、それと同時に大爆発が発生した。

膨大な電流が内部基盤に逆流し、次々と回線をショートさせて自律型AIの反応を鈍らせていく。

 

 

「喰らえ!!」

 

 

その隙を見逃さなかった鎧の巨人の動きは速かった!

火花が飛び散る場所に向かって全力で頭突きをしてレーザー照射機を完全に破壊した。

幸いにも膨大な電流はどこかに放電されたおかげでライナーは感電死せずに済む。

 

 

「まだだ!!」

 

 

今度は一度地面に降りてから全力で体当たりして原子力装甲戦車を傾ける。

すると、地雷が埋められた影響で軟弱になった地盤のせいであっという間に転倒する。

元より自重で埋もれていく巨体はそのまま地面に減り込んでいく。

 

 

「はぁはぁはぁはぁ……」

 

 

それを確認するまでもなく全力で走る鎧の巨人は、あらゆる液体で顔を濡らしていた。

巨人にも唾液や涙は存在するが、ついに鎧の巨人であり続けるのに限界が来たようだ。

 

 

「まだだ……くたばる訳には…」

 

 

ただし、ここから生還しないといけないのに生身では絶対に生き残れない。

だからこそライナーは視界が真っ赤に染まっても、少しでも要塞から逃げる様に走った。

 

 

「あ、ああ?」

 

 

ここでようやく戦場が静かになった事に気付く。

そして前方から獣の巨人と顎の巨人が見えたライナーは息を切らしながら動き続けた。

既に巨体に限界が来ていても、目の前の同胞に無様な真似を晒したくない。

いわば、やせ我慢で自分が無事とアピールするように彼らと合流する事となった。

 

 

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事態が急変したきっかけは、クジラ型の巨人を殲滅した中東連合艦隊が壊滅した事に起因する。

スラバ要塞陣営があまりにも暴走するので中東連合艦隊が要塞に攻撃を行なうという異常事態。

そうした彼らの反乱は、レーザー列車砲という新兵器で物理的に艦橋を焼かれて機能を停止した。

 

 

《こちら第4光学列車砲隊からスラバ要塞コントロールへ、中東連合艦隊を無力化しました》

《スラバ要塞コントロールから第4光学列車砲隊へ、そのまま臨戦状態で待機せよ》

 

 

複数のレーザー列車砲は、スラバ湾で敵対した中東連合艦隊の艦船を次々に無力化した。

僚艦の盾になろうとした中東連合艦隊の旗艦であるロースカロライナ級戦艦は既に海の藻屑だ。

少しでも反抗すれば、友軍艦隊すら攻撃させられた彼らは、未だに上官の命令が信じられない。

そして今さっき、無人航空機の基地であるグラーフ・ツェッペリン級航空母艦の艦橋を焼いた。

これで中東連合艦隊の艦船は、救助された海兵や乗組員を乗せて浮かぶ避難船となった。

 

 

《こちらグスタフ砲塔からスラバ要塞コントロールへ、【雨】の脅威は排除されました》

《マーレ軍砲兵部隊の殲滅をせよ》

《グスタフ砲塔、了解》

 

 

射程距離が1200km以上ある地上最大の砲塔を動かす部隊は、司令部の命令に安堵していた。

さすがに彼らでもマーレ国境付近に居住する民間人を虐殺するのはどうかと思ったからだ。

 

 

《スラバ要塞コントロールから行動可能な光学列車隊へ。残存する艦船にレーザーを照射せよ》

《こちら、第3砲撃管制官よりスラバ要塞コントロールへ!!これ以上の戦闘は無用です!!》

《巨人に与する勢力を許してはならない。速やかに殲滅せよ》

《ここまで同胞を殺す必要がありません!!せめてマーレ軍を殲滅するまで…》

 

 

ただし、黒幕の暗躍で狂ってしまったスラバ要塞の司令官は信じられない命令を下した。

数時間前まで味方だった兵士を殲滅、つまり皆殺しにしろと命じて来たのだ。

それを受けてさすがに砲撃管制官が砲兵に代わって提言するが、無意味だった。

元より黒幕ですら本気で困惑するほど狂人になってしまった司令官は最悪の決断をする。

 

 

《…ああ、そうか。スラバ要塞コントロールから交戦可能な全部隊に告げる。これは最終命令だ》

 

 

中東連合軍の統合作戦本部長だったバイバルス・ロレンスは冷酷に告げる。

 

 

《スラバ要塞の自爆から逃れようとする敵軍を少しでも足止めをし、最期まで任務を果たせ》

 

 

無線を聴いた者は例外なく自分の耳を疑ったが、それを命令した司令官は既に心が壊れていた。

さきほどロレンス司令官は、ヨルムンガンド工廠(こうしょう)の女取締役と通信で会話して思った事がある。

何故、あれほどの実力も能力も人望も資金もあって()()の為に使わないかという事だ。

いや、既に分かっていた。

分からされた。

 

 

《例え我々がここで滅びようとも、遺志を継ぐ者が居れば必ず夢は達成される》

 

 

あの女に影響を受けて暴れ回った自分をとんだ【ピエロ野郎】だとロレンスは自嘲する。

あれほど頼って来た女の正体がパラディ島出身のエルディア人だとは思わなかった。

ただ、道理でここまで狂わされると納得している。

世界がパラディ島に手出しさせない様に彼女が裏工作してきた事実を知って彼は笑うしかない。

 

 

《人類の夢の実現が不可能な事は無い。今がそうではなかっただけだ》

 

 

マーレ大陸の南東に位置する半島の自治権を巡るマーレと中東諸国の戦争は泥沼化した。

より強力な巨人、より強力な化学兵器、より優れた通信技術の発展は偶然ではなかったのだ。

 

 

《だから全てを未来に託し、我々は負の遺産と共に滅びようではないか》

 

 

黒幕が放った言葉がロレンス司令官の脳裏に消えない。

「ここまで戦争が悲惨になって不幸を撒き散らせば、もう少し人類が優しくなると思ったの」

彼女曰く、ここまで戦争が悲惨になれば、人類は隣人に優しくなると思ったらしい。

悪魔の生まれ変わりと名高いエルディア人らしい思考の持ち主であった。

 

 

《人類が巨人を1匹残らずこの世から駆逐する日まで我々の火種は消える事は無いのだから》

 

 

ただし、ロレンスはその事実を誰にも知らせずに草葉の陰まで持っていくつもりだ。

確かに彼女の正体を知った時は衝撃を受けたが、納得はしている。

むしろ、もうじき巨人がこの世から消えると確信出来て嬉しいまである。

だから自暴自棄と自覚しながらも、友軍ごとマーレ軍を消し飛ばす事に決めた。

 

 

《せめて諸君らが夢を諦める前に引導を渡す。マーレには何も残してはならない》

 

 

“フローラ・エリクシア”

【春】と【豊穣】を司る花の女神の名とは裏腹に【冬】と【荒廃】をもたらす女悪魔だった。

人々を必要以上に狂信させて道を間違えさせる女神は、ロレンスに残された()()()()()()()()

その希望が絶望に変わった今、彼にできる事はスラバ要塞を彼女が提供した兵器で抹消するのみ。

残念ながら核融合炉を起爆剤にするのは不可能だったのでこうするしかない。

最後までエルディア人の掌で踊っていると分からさせる結末を否定する様にロレンスは叫ぶ!

 

 

《人類に栄光あれ!!》

 

 

原子爆弾の威力に匹敵すると揶揄された新型爆弾でスラバ要塞を抹消する。

【エルディアの悪魔】が提供した“ポリ窒素広域破壊弾頭”…略称、PSDB*1で焼き払う覚悟だ。

この連絡を受けた時、戦場に居た兵士全員が職務を放棄して逃亡する事となるが…。

スラバ要塞陣営に所属した兵士は全滅する事となる為、黒幕以外は真相を知る事はなかった。

 

 

*1
正式名は、Poly Nitrogen Spacious Destruction Burst

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