進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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166話 追い詰められた果てに

マーレの戦士候補生であるガビ・ブラウンは焦っていた。

何故なら従兄のライナー・ブラウンが最前線に残っているからだ。

もちろん、他にもあるが、それが1番大きい。

 

 

「マガト隊長!」

「どうした?」

「戦士候補生ガビ・ブラウンは、戦士隊の帰還を援護する為に殿(しんがり)を志願いたします!」

 

 

だから上官であるテオ・マガト隊長に自分はこの場に残ると報告した。

同期たちは驚いた顔をしてガビを見るが、当の本人は誇らしげですらあった。

 

 

「ガビ・ブラウン、貴公をここまで育成させるのにどれだけの労力と資金が投入されたと…」

 

 

マガトからすれば、こんなふざけた提案など即座に却下したかった。

だが、彼女が志願した理由を知っており、ふくざつな感情を抱く。

 

 

『なるほど、生え抜きの候補生としてプライドがここで来たか』

 

 

現時点においてマーレの戦士候補生は、2種類に分けられる。

マーレ本土で生誕し、マーレ軍直下の戦士候補生として育成された者。

もう1つは、マーレ国外のエルディア人が戦争で活躍し、成り上がった者だ。

特に前者は、投入された資金と労力の喪失を恐れて死神がひしめく最前線に投入できなかった。

それ故に現在、戦士候補生として世界に名を知らしめているのは、国外出身者である。

 

 

「1つだけ問おう。それは貴公の私情か?それとも責務か?」

「マーレの勝利の為です。戦術的勝利を達成しても戦略的敗北をしては意味がありません」

 

 

当初のマーレ軍の戦術的目標であった通信タワーとデータセンターは破壊された。

そして中東連合艦隊が壊滅的な打撃を受けたのでマーレの勝利は確定している。

だが、戦場に残った3人の知的巨人が殺害されれば、マーレは今度こそ立ち直れない。

 

 

「戦士隊の窮地を救う事ができるのは、戦士候補生の優等生である私しかおりません」

 

 

確かにガビ・ブラウンは歴代の戦士たちに引けを取らない実力者である。

狙撃能力は、ベルトルト・フーバーを凌駕し、総合的な身体能力はアニ・レオンハートを越える。

ライナー以上の忠誠心と粘り強さ、そして若さゆえの大胆不敵さが噛み合って最強に見える。

ただ、マガトもガビも分かっていた。

ライナーが戦場で死ねば、鎧の巨人を継承する最有力候補の彼女は用済みになってしまう。

 

 

『今、死ぬか。後で死ぬかの違いか…』

 

 

役目を達成できない戦士候補生の末路は決まっている。

死ぬまで戦い続けるか、功績を上げて戦士候補生の教官になるか、異形の巨人になるか。

どの道を選んだとしても、ガビには死ぬより恐ろしい道だと分かっている。

 

 

「ならば、役割を果たせ。必ず戦士たちを死なせるな!」

「はっ!もちろんです!」

 

 

下手すれば、大陸さえ破壊する兵器が運用されている戦場で彼女が役立つ機会など無い。

ただし、戦士候補生を乗せた列車が遥か遠くの駅まで脱出する時間稼ぎにはなる。

マガトは、ガビの独断を支持して彼女の役目を命じる。

 

 

「ならば、僕も残らせてください!」

「ファルコ!?」

 

 

すると同じ戦士候補生のファルコ・グライスがガビに感化された様に志願した。

あまりにも唐突な発言に実の兄であるコルト・グライスは慌てて弟に駆け寄ろうとするが…。

マガト隊長が右腕を横に伸ばして制止してきたので仕方なく立ち止まった。

 

 

「ガビは同期です。俺らは彼女を見捨てて撤退しませんよ」

 

 

同じく同期であるウド・ファーレンハイトは、ファルコをフォローする様に提言した。

冷静沈着の眼鏡野郎に見えて激情家の感性を持ち合わせる少年の右肩に少女が手を乗せた。

 

 

「マガト隊長、独断で行動して申し訳ありません。私がしっかり面倒見ますので…」

 

 

ゾフィア・メーリアンがめったに見せない表情が彼女の覚悟を表明する。

まるでガビだけに良い所を見せさせないと言わんばかりに彼らも残る気満々だった。

マガトはそれを見て言いたい事があったが、ここで話す事は1つしかない。

 

 

「お前たちが望んだ道だ。今更に止めはしない。だが()()()()()()は許さん」

「隊長、自分も残ります。獣の巨人を継承できなければお役御免ですから…」

 

 

ファルコを残して実の兄が無様に逃走する訳にはいかない。

そんな瞳を見せられては、マガトとしても返答が限られてしまう。

 

 

「……ああ、分かった。ならば勝手にしろ」

 

 

マガトは苦渋の決断で戦士候補生5名を残して客車に搭乗する。

その後ろ姿を見送る戦士候補生の瞳に迷いは見えなかった。

 

 

「運転手!出発させろ!!」

「いえ、ですが……」

「ならばここに残るか?」

「はい!出発します!!」

 

 

運転手が何か抗議したかったようだが、マガト隊長の圧力に負けた。

そしてすぐに蒸気機関車が動き出し、6両編成の列車は安全地帯に向かって走り出した。

 

 

「……お前ら、本当に馬鹿だろ」

 

 

最後尾の客車が豆粒より小さくなった頃、コルトは呆れたように彼らを叱責した。

 

 

「「「「ゲホゲホ!!」」」」

 

 

蒸気機関車が発する黒煙があっという間に地下鉄構内を覆い、格好良くしていた4名は咽ている。

このままでは敵兵と一戦交える前に一酸化中毒死か、視覚を失って戦力外になると判断。

急いで安全地帯まで彼らを誘導した。

 

 

「いいか、当然の事だが敵主力は知的巨人を狙っている。援護する事すら難しいからな」

 

 

マーレ軍がつい最近採用した自動小銃、シュトゥルムゲヴェーア854を構えたコルトは警告する。

そもそも敵軍の主力に狙われている知的巨人を救出するのは難しいと!

 

 

「困難は承知の上です!」

「言ってくれるなガビ、この戦場じゃ命がいくらあっても足りねぇよ!」

 

 

3体の知的巨人ですら戦況を変えられないのだ。

たった5名の戦士候補生が戦場に出た所で無駄死で終わるのは確定している。

ただし、こうも考えられる。

 

 

「では、継承者のフリをすれば奴らもこっちを優先的に狙って来ますよね!」

「あのな……」

 

 

巨人化能力者の顔は、とっくの昔に世界中の人々に知れ渡っている。

しかし、人間の目というのは案外、節穴である。

実際の能力者と遭遇するよりも、知的巨人の継承者の証である赤色の腕章が目に行くものだ。

だからガビは、赤色の腕章をコルトに見せつけて笑う。

 

 

「お前、早死にしたいのか?」

「まさか?私は鎧の巨人を継承して任期を全うするまで死ぬ気はない!」

 

 

赤色の腕章を左腕に付けたガビは死ぬ気など毛頭なかった。

ただ、こうすれば敵軍の注意を惹けると思ってやっただけである。

 

 

「おいおい!お前らまで何やってるんだ!?」

 

 

そして当然の様にガビと同期である3名の戦士候補生もあっさりと赤い腕章を取り付けた。

あまりの馬鹿さ加減に思わず顔面を左手で覆ったコルトだったが、どうしようもない。

 

 

「すぐに腕章を外せよ!!敵軍の総攻撃を喰らいたくないならな!!」

「ふふふ、ガビの名を戦場に(とど)かせる良い機会!!」

「ダメじゃこりゃ……」

 

 

もはやツッコミを入れるのすら疲れたコルトは合図を出して先行して戦場に飛び出す。

ちょうどマーレ軍と反中東連合の部隊が展開しており、敵主力と交戦を避けられると思ったのだ。

 

 

「ゲッ……」

 

 

その考えが甘かったとすぐに知る。

目の前の友軍は、進軍しているのではなく敗走していたのだ。

 

 

「無理だこれ!!」

 

 

コルトはすぐに地下壕に籠る事を決意した。

マーレ陸軍の大半は歩兵で構成されており、制式採用されている銃はゲヴェーア798である。

ボルトアクション方式で7.92x57mm口径弾を5発装填できて長年の運用で整備率と精度が高い。

ただし、1発撃つ毎に排莢(はいきょう)する必要があるので自動小銃を採用する敵軍に苦戦を強いられた。

だから、ただでさえ戦闘では向こうに分があるのだ。

 

 

「クソッタレ!!絶対に残党の規模じゃねええええ!!」

 

 

敵軍が陣取る塹壕に向かって突撃する事しか能が無いマーレ陸軍の歩兵に対し!

レオパルド装甲戦車(パンツァー)とコンドル歩兵戦闘装甲車両(シュッツェンパンツァーワーゲン)で構成された機甲師団が相手だった。

絶対に勝てる訳が無いのでコルトは地下壕入り口に向かって走る。

 

 

「うおおおおお!!」

 

 

大声を出したところで敵の的でしかないが、それでも声に出さないとやってられない。

120mm口径から飛び出す砲弾や7.62mm口径の機関銃(マシンガン)でマーレ兵は薙ぎ倒されていく。

ならば、戦士候補生に自分が生きている証拠を出すくらいしか後輩を守る事などできやしない。

なんとか地下壕に続く隠し戸まで辿り着いたコルトは、すぐに異変に気付いた。

 

 

「居ねぇ!?」

 

 

地下道はもぬけの殻であった。

過呼吸で息が上がっているコルトはその場に座り込んで呼吸を整えるしかできなかった。

一方その頃、1輌のレオパルド装甲戦車(パンツァー)が敗走する敵兵を効率良く銃撃できる様に停止していた。

 

 

「ヒャッハー!逃げる奴はマーレ人だ!逃げない奴はエルディア人だ!!」

 

 

砲塔上にあるハッチ付近に取り付けられた銃座は車長専用のものだ。

ハイテンションの車長はハッチから上半身を乗り出して制圧射撃するのが大好きだ。

今まで生物だった物体が蜂の巣になるなど心に踊るどころか絶頂するほどだ。

だからこうやって車両をわざわざ停止させて銃撃を繰り返すのが好きだった。

 

 

「ホント、戦争は地獄だぜ!!」

 

 

ただし、ここでは命取りになった。

 

 

「オリャァ!!」

「じぇあああああ!?」

 

 

装甲戦車によじ登って息を潜めていたガビが隙を見せた車長を襲撃したのだ。

シャベルで思いっきり薙ぎ払って調子に乗っていた彼を勢いよく殴打した!

彼にとって不運だったのは、興奮して片足を上げていたせいでそのまま転落してしまった。

 

 

「今だ!!」

 

 

地面に激突して激痛で悶絶している車長は、戦士候補生たちにシャベルで袋叩きにされた。

殺す立場だった男が殺される立場に引き摺り降ろされた時、不審に思った砲手が動いた。

また、調子に乗って転落したのかと呆れながら砲手用のハッチから上半身を乗り出す。

 

 

「ぶぎゃああ!?」

 

 

その瞬間、ガビは所持していた拳銃を発砲し、砲手を射殺して無理やり砲塔から引き摺り下ろす。

油断しきった砲手の死体は、皮肉にも刺突で殺害された車長の隣に転がり落ちた。

 

 

「ん?どうした!?何が……ッ!?」

 

 

操縦手は周囲を警戒しており、銃声があってもすぐに動けなかった。

そのせいで車中に入って来たガビによって射殺された。

 

 

「よし、奪った!!」

 

 

すぐにガビは、ハッチから顔を出して同期に指示を送る。

最精鋭部隊であるマーレ戦士候補生の動きに乱れはない。

4人がかりで操縦手の死体を外に放り投げた彼らは最新鋭()()()車内を観察する。

 

 

「やっぱり自動装填装置があるな。というか車内が広い!!まるでホテルのようだ!」

 

 

ウドはすぐに旧世代のティーガー装甲戦車(パンツァー)の違いに気付く。

車長、砲手、操縦手、装填手、通信手が必要だったティーガーはかなり窮屈だった。

しかし、3人で運用できる様に効率化された新型装甲戦車は快適に見える。

もちろん、バカでかい自動装填装置のせいで車内の半分が塞がっているが、それでも前より広い。

 

 

「混乱しない様にする為か、旧世代と操縦席が変わってない。これなら私たちでも使える」

 

 

冷静沈着どころか言葉数が異様に少ないゾフィアはここぞとばかりに報告をする。

 

 

「じゃあ……」

 

 

みんなの報告を受けて鹵獲したこの装甲戦車で大暴れをしようとガビは思った。

 

 

「お前ら!何やってんだ!?」

 

 

そしたらハッチの上から戦士候補生の部隊長であるコルトの声が聴こえて来た。

ちょうど車長をどうするか考えていたガビは、彼が適任だと思って声をかける。

 

 

「コルトさん!装甲戦車を鹵獲しました!!申し訳ないですが車長をやってくれませんか!」

「はあ!?」

 

 

こんな最前線に居たくないコルトはガビの呼びかけに思わず混乱した。

その間にガビは同期たちの役割分担を一瞬で決めて任命した。

操縦手は客観的な判断と気転ができるファルコ。

動じにくいゾフィアは通信傍受とファルコの支援。

知略的に見えて情熱的なウドは、索敵と車長までの伝令。

 

 

「そして砲手はこのガビ様!!候補生の中で射撃と砲撃の成績が主席の私なら当然よね!!」

 

 

狙撃手(スナイパー)のガビ”と戦士候補生から呼ばれる彼女は、自信満々で役割を決定した。

 

 

「おい!!ここに居たら危険だ!すぐに…」

「そう!すぐに出発!!ゾフィア!!ファルコに指示をして!!」

「分かった」

 

 

コルトは大声で車外退避を呼びかけるが、それよりガビの指示が早かった。

彼女から指示を受けたゾフィアは、操縦手になったファルコに呼び掛ける。

 

 

「クラッチを踏んで中央のレバーを1速に入れて!」

「こうか!」

 

 

未だに車内から出てこない部下たちにもう一度呼びかけようとしたコルトは…。

何故か後輩たちが操縦した事が無いはずの装甲戦車が起動したのに気付く。

まさかこれで戦う気か…と思っていたら勝手に作業が進んでいた。

 

 

「左右のレバーを前に倒して」

「分かった」

 

 

ゾフィアの指示通りにファルコは、履帯の動きを司る左右の操向ハンドルを前に倒す!

 

 

「アクセルを踏んでクラッチをゆっくり離して」

「……動いた」

 

 

アクセルを強く踏んでクラッチを緩めると装甲戦車はゆっくりと動き出した。

 

 

「中央のレバーを2速に入れて」

「はい!」

 

 

装甲戦車を操縦したのは初めてではないが、それでもファルコは緊張する。

鉄仮面かと思うほど顔面が冷たそうな少女のおかげで平常心が保てたまである。

 

 

「さすがファルコ!!うまいじゃん!」

 

 

戦士候補生5名が車内に乗り込んで2分もしない内に前進したのを感じてガビは笑った。

すぐにファルコを褒めてガビは主砲と砲塔を動かすハンドルを操作して動きを確認した。

 

 

「うわ!?急に動かすな!!」

 

 

可愛そうなコルトは、意味も分からないまま銃座に上半身を潜める。

そして無駄に小刻みに動く砲塔から振り落されない様に踏ん張るしかない。

 

 

「久々の装甲戦車戦(パンツァーバトル)だ!!」

 

 

なお、ガビは前回やった戦車戦の興奮を忘れられていない。

むしろ、レオパルド装甲戦車(パンツァー)の車内に入ったと同時に調子にも乗っていた。

撤退するマーレ陸軍に追撃するコンドル歩兵戦闘装甲車両(シュッツェンパンツァーワーゲン)に照準を定めた。

 

 

「吹っ飛べ!!」

 

 

ガビの嬉しそうな叫びと共に砲塔から砲弾が飛び出して高速で敵車両に向かう。

まさか友軍、ましては知り合いから砲撃されると思っていない車両は回避行動がとれなかった。

 

 

「よっしゃあああああ!!」

 

 

さきほどまでマーレ兵を攻撃していた車両が爆散したと同時にガビはガッツポーズを取る。

 

 

「うげええええ!!やりやがった!?」

 

 

またしても何も知らないコルトは、ガビと装甲戦車の暴走に悲鳴をあげる。

 

 

「さすが、えーぴー…なんだっけ?」

「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)よ」

 

 

砲弾の名前があやふやなガビは、ゾフィアのツッコミを受けてようやく正式名を思い出した。

 

 

「それそれ!やっぱり中東連合軍は良いもの使っててズルい!!」

 

 

すぐに名称を忘却すると同時に優れた兵器と砲弾を運用している敵軍にガビは嫉妬する。

これをマーレ軍が運用できれば、巨人に頼らなくてもマーレに歯向かう奴が居なくなるからだ。

 

 

「うわあああ!!もう!どうにもなれ!!」

 

 

燃え盛る車両から飛び出してきた敵兵に向かってコルトは銃座から7.62口径弾を連射する。

放置すれば、仲間を呼ばれて奇襲が台無しになるのでこうするしかなかった。

 

 

「相対方位35°(操縦席の正面から見て北東)にレオパルド発見!」

「ゾフィア!右に信地旋回の指示を!迂回してから砲撃する!」

「分かった」

 

 

同型の装甲戦車との一騎打ちは、相手の方が経験が上なので交戦するのは避けるべきだった。

ただし、奇襲できるならこっちの勝率が高くなる。

すぐにガビがゾフィアに指示を下して彼女は操縦手のファルコに声をかける。

 

 

「右側のレバーを引いて!」

 

 

ゾフィアの指示でファルコは、右側にある操向ハンドルを後ろに引いた。

すると油圧システムによって作動したステアリングシャフトで右の履帯の動きが変化する。

左の履帯は前に進もうとするのに逆の履帯は停止をしたので左右の履帯で速度差が生まれた。

すなわち、右の履帯を軸に装甲戦車が時計回りで回転する事で右折する事に成功した。

 

 

「元に戻して4速で直進!後は任せて!!」

 

 

コルトはもはや飾りであるが、彼が居ないとガビの発言に説得力が無くなる。

役立たずに見えて実は、彼が居ないと同期に指示を下せないのは、彼女自身が分かっている。

そして中東連合軍残党のレオパルド装甲戦車(パンツァー)と逆方向に並走する形となった時!

ガビは主砲と砲塔を同時に操作して一瞬の隙を見逃さずに砲撃をした!

 

 

「よし!」

 

 

いくら砲撃に耐えられるように設計された装甲戦車であっても、後方からの攻撃は弱い。

徹甲弾が後方の装甲をぶち抜いてエンジンを貫通し、トランスミッションを粉砕する。

ついでに飛んだ破片で燃料タンクに発火し、複数のハッチから火柱が噴出したと共に大爆発した!

 

 

「見たか!!マーレ軍を甘く見るからこうなるんだ!!」

 

 

今までマーレ軍を苦しめて来たレオパルド装甲戦車(パンツァー)が爆散したのを見てウドは歓喜する。

あまりの嬉しさにここぞと言わんばかりに両手を握り締めて暴言を吐きまくる!

 

 

「はははは、まるでビックリ箱だ!俺たちの活躍を地獄から眺めてろ!ゴミクズ共が!!」

 

 

砲弾が命中してハッチが吹き飛んで爆散した様子を彼はビックリ箱と評した。

両手の中指を立ててハイテンションのウドの声を聴いて他の同期たちはドン引きした。

 

 

「おいいいい!!レオパルドにバレたぞ!!しかも2輌だ!!まず相対方位が…」

 

 

当然の事ながら敵軍にバレてコルトは涙目になって状況を逐次報告する。

敵の数、位置関係にそれぞれの距離と速度を簡潔に後輩たちに伝えた。

 

 

『勝てる!』

 

 

コルトさんから得られた情報で勝機があると判断したガビの指示は早かった。

 

 

「まずは左の頭を潰す!ゾフィア!右に超信地旋回!!ウドはコルトさんを車中に!!」

 

 

側面から砲撃しようとするレオパルドを撃破しようとガビは指示をする。

 

 

「左レバーを強く押して!右レバーは限界まで引いて!!」

 

 

ゾフィアの指示通り、ファルコは操向ハンドルを操作する。

さきほどは、履帯を軸にして回転するという信地旋回を行なったが、今回は違う。

左側の履帯が前進し、右側の履帯は少しだけ強めに後退していたがほぼ前後に拮抗する形となる。

 

 

「うわあああ!?なんだ!?」

 

 

今度は、装甲戦車自体が時計回り回転すると同時にコルトは車内に引きずり込まれた。

それを確認するまでも無くガビは砲塔を操作する!

 

 

「え?」

 

 

てっきりこちらに正面を向けるか、前後するかと思っていた車長は困惑した。

超信地旋回というその場で車両が回転する行動をこの状況でやるには異常だった。

そのせいで砲撃命令を出せずにそのまま敵性と認識した装甲戦車に近づく事となる。

 

 

「あっ…」

 

 

車長が気付いた時には手遅れだった。

なんと、ガビは砲塔を反時計回り、つまり装甲戦車が居る左側に向かって回転させた。

 

 

「ぶぎゃああああああ!?」

 

 

その結果、困惑する車長と銃座、いくつかのセンサーとアンテナをまとめてぶっ飛ばした。

車長の悲鳴と衝撃音は、車内に居る班員たちにも伝わる。

 

 

「車長!?」

 

 

まさか砲身を白兵戦における打撃武器として使うと思ってなかった砲手は上官の状態を確認する。

さすがに確認作業で速度を出す事ができず、やむを得ず操縦手はニュートラルギヤで停止させた。

そんな戦場で停止しちゃうような甘ちゃんを歴戦の戦士であるガビが見逃すはずもない。

 

 

「次!」

 

 

さきほどの装甲戦車の末路を再現する様に後部から徹甲弾をぶち込んで爆散、炎上させた。

だが、新手が居る以上、ガビは先ほどの敵の末路を気にしている暇が無かった。

 

 

「「右レバーも全力で押して!「前進!」」

 

 

ガビの発言を言う前にゾフィアがファルコに指示を出す。

今度はケツを狙われる事となった以上、旋回する必要があるが、まだ後方の状況が掴めない。

その状態で回転しようとすると動きが鈍るので前進するしか選択肢がなかった。

 

 

「クソ!!砂漠に寄生するゴミクズ共が!!」

「ウドうるさい。さっさと索敵やって」

 

 

怒りで震えるウドの発言はゾフィアの無情な発言によって打ち消された。

というより、惚れた女に罵倒された男の様に意気消沈して彼は索敵を開始した。

 

 

「きつい!」

 

 

大きな衝撃を感じたが、直撃は受けなかった様だ。

しかし、敵の装甲戦車に中々照準を合わせられずにガビは打開策を考える。

さきほどは、あえて回避行動を取らなかった事で相手の裏を突いたが今度はそうはいかない。

 

 

「……うおっ!?」

 

 

さきほど歯で舌を切りそうになったコルトはハッチを開いて一瞬だけ頭を出す。

たった5秒ほどだったが、すぐに頭を引っ込めてハッチを閉めた。

閉め終わったと同時に連射された7.62mm口径弾がハッチの装甲を削る様な爆音を発した。

 

 

「…イテテテ!相手は手練れだ。旋回技術が違い過ぎる…」

 

 

背中を軽くぶつけたコルトは、痛みを堪えて敵対している装甲戦車の動きを後輩たちに伝える。

さすがに経験値と土地勘の影響で残った敵を正攻法で撃破するのは難しかった。

 

 

「なら、邪法を使うまで…!」

 

 

コルトの指示でゾフィアが指示を出している間、ガビは思いついた。

旋回技術が優秀なのは、向こうの班が全員優秀だからだ。

ならば、誰か1人でも本領を発揮できなくなる状況なら勝機があると考えた。

 

 

「緊急停止!そしてすぐクラッチを入れて4速発進!急いで!!」

 

 

ガビの発言に誰もが耳を疑った。

これはすぐに動く事ができなくなるどころかエンジンが止まると理解した。

ただ、同期を信じているファルコは指示通りにした。

 

 

「あっ!?」

 

 

エンジンの回転速度と車両の速度が一致しないせいで誰もが予想した通りエンストした。

それを示す様に車両全体が一度上の方に向いた。

 

 

「そこだ!!」

 

 

そして砲塔が一瞬だけ下に向いた瞬間にガビは砲撃した。

通常、戦車砲というのは、水平より上に向かって撃てる角度、つまり仰角は20°くらいである。

4階建ての建物の高さまで撃てれば、巨人も含めて大体の敵は撃破できるという事でもある。

一方で水平より下に撃てる俯角は、仰角より抑えられている。

あまりにも砲身を下に向けると砲塔の天井に砲尾が衝突するからである。

 

 

「やった!!」

 

 

本来であれば、履帯を砲撃できない角度と位置と距離だったのに…。

ガビ・ブラウンは、エンストで車両が上下に振動する事を利用して無理やり砲撃を行なった。

一か八かの賭けであったが、見事にガビ側から見て左側の履帯を大きく破損させた。

 

 

「ぐおっ……くっ!右履帯が大破!左折しかできません!」

「構わん!!もう一度撃ち返せ!!」

 

 

しかも、幸運な事に同時に敵軍から放たれた徹甲弾は、砲塔の上面前部を掠めて飛んでいった。

これにより、いくら装填と砲撃が速くてもガビ側の装甲戦車が有利となる。

 

 

「……ん?」

 

 

ここで車長は異様な光景を見た。

現在、自分たちの装甲戦車は重心が崩れて右側が下に向いて左側が少し上がっている状態である。

そんな中、何故か敵対行動をする装甲戦車が宙に浮いている左側の履帯の側面から突っ込んできた。

 

 

「ぎゃああああ!!」

 

 

当然、40tの質量が50km/h以上の速度で突っ込めば、あっさりと転倒する。

哀れな車長は、地面と装甲戦車の上面に挟まれて圧死した。

そして履帯が真上にある時点で脱出不可能の棺桶になったと同意義だ。

 

 

「3キル!!」

 

 

車長に先立たれた班員たちはすぐに爆炎に飲まれて後を追う事となった。

ここまでガビと愉快な仲間たちは奮闘したが、客観的に見れば無意味に等しい戦果だった。

 

 

「オイ、ガビ…」

「どうしたの?」

 

 

さきほどと打って変わって泣きそうなウドが自分の名前を読んでおり、ガビは嫌な予感がした。

 

 

「機甲師団の本隊に気付かれた……もうおしまいだ…」

 

 

さきほどマーレ兵と反中東連合軍の兵士を掃討したのか、それとも騒ぎで駆けつけて来たのか。

レオパルド装甲戦車(パンツァー)13輌とコンドル歩兵戦闘装甲車両(シュッツェンパンツァーワーゲン)43輌が目の前に迫って来ていた。

ついでにティーガー装甲戦車(パンツァー)と155mm自走榴弾砲が複数見えるおまけ付きだ。

 

 

「まだ死んでたまるか!!」

 

 

なお、そんな絶望的な状況であっても、ガビは生き残るつもりだった。

ライナ・ブラウンから鎧の巨人と記憶を受け継いでエルディア人の名誉回復させるその日まで!

ガビ・ブラウンには夢がある。

収容区から善良なエルディア人が解放されるという夢が…。

ライナーですらできなかった偉業を達成するまで彼女は死ぬ気はなかった。

 

 

「……えっ?」

 

 

ある意味、ライナー・ブラウン以上にしぶとい彼女の願いは天に認められたのか。

 

 

「え?え?」

 

 

さきほどまで迫って来ていた機甲師団が砂細工が崩れる様に消滅した。

まるで魔法のように跡形も無く消滅したという現実離れの光景にさすがのガビも目を丸くした。

 

 

「なにあれ……」

 

 

ただ、この世で起こる事象には必ず意味がある。

原子力装甲戦車(アトミック・パンツァー)がガンマ線レーザーで機甲師団を薙ぎ払っただけである。

500人以上の敵兵を即死させて小国の国家予算に匹敵する軍団を瞬殺してしまった。

 

 

「味方……なの?」

 

 

同型の装甲戦車以外の全ての物を滅ぼすように動く自律型AIは偶然にも彼女を救った。

ただし、それはガンマ線レーザーの射程外だったから狙われなかっただけである。

 

 

「ぜ、前進!!」

 

 

2門の155mm磁気火薬複合加速方式滑腔砲が動く瞬間、ガビは指示を出す。

その砲弾は、中東連合との戦争で色々経験している戦士候補生すら知らないものだった。

直撃していないのにファルコが操縦する42tのレオパルド装甲戦車(パンツァー)が爆風で3mも宙に浮かぶ。

とりあえず、()()と戦う事自体が間違っているというのは誰の目から見ても明らかだ。

 

 

「うおお!?」

 

 

今度は、さきほど敗走していたマーレ軍と中東連合軍がこっちに向かって砲撃してきた。

敵軍の装甲戦車に乗っているから当然ではあるのだが、説明している暇すらない。

 

 

「そのまま突っ込んで!!」

 

 

ガビに言われるまでもなくファルコは全力で敵対してしまった友軍の部隊に真正面から突っ込む。

爆音が鳴り響き同士討ちされる可能性が高いが、アレと戦うよりマシだった。

 

 

「なんだありゃ!?」

 

 

戦力を再編し、スラバ要塞に向かって進んで行く兵士は異様な装甲戦車を発見した。

全高が14mはある異様にバカでかい装甲戦車に彼らも戸惑う。

ただし、図体がデカいならその重量で自滅する事は分かっている。

 

 

「チハたん!!あのデカ物を砲撃で転倒させてやれ!!」

 

 

歩兵支援用に運用される57mm口径の戦車砲を構えて九七式装甲戦車(パンツァー)が登場!

前面装甲には25mmの表面硬化鋼が採用されている歩兵たちのメイン盾である。

ライバルの装甲戦車には歯が立たないが、マーレが自力で生産、運用した初めての装甲戦車だ。

歩兵相手には強い為、マーレ陸軍兵士からはチョコレートと共に勝利に導く必需品と名高い。

 

 

「チハたん!?」

 

 

もちろん、勝てる訳も無く劣化ウラン弾で瞬殺された。

 

 

「こうなったら“四連続攻撃(フォーストリームアタック)”だ!!やっちまえ!!」

 

 

今度は4輌の九七式装甲戦車(パンツァー)が単縦陣になって自律AI型原子力装甲戦車に向かって突っ込んだ。

一見するとバカみたいな戦術だが、前線どころか後方に展開する部隊を狙う縦深攻撃である。

機械化歩兵がただの歩兵になった中東連合軍残党の兵士相手には割と効果的であった。

 

 

「チハたんーー!?」

 

 

劣化ウラン弾によって見事に4枚抜きならぬ4輌抜きで撃破された。

もちろん、乗員は全滅した。

 

 

「まだだ!!マーレ軍にも新型があるんだ!!」

 

 

だが、さすがにチハたんで装甲戦車戦(パンツァーバトル)をするつもりはマーレ軍にも無かった。

よって最近、制式に運用される事となった新型の装甲戦車のお披露目である。

 

 

「四式装甲戦車(パンツァー)!!チハたんの仇を取ってくれ!!」

 

 

マーレ陸軍が採用した第二世代装甲戦車、四式装甲戦車(パンツァー)!愛称はチト!

なんとレオパルド装甲戦車(パンツァー)と同じ前面装甲が75mmもある新時代の装甲戦車である。

ティーガー装甲戦車(パンツァー)の100mmには劣るが、ようやくマーレも自力で運用できる様になった。

なお、レオパルドは複合装甲を採用しているので強度と頑丈さは向こうが数段上だったりする。

 

 

「75mm口径の戦車砲であのデカ物を集中砲撃してやれ!!」

 

 

75mm戦車砲は、生半可な装甲車両を撃破し、巨人と対峙して撃破する実力も秘めている。

もっともライバルであるヨルムンガンド工廠(こうしょう)が設計したものが元になっている。

ヒィズル国の単独では完成できず、世界2位と3位の鉄鋼生産量の合計を上回るマーレが共同開発!

戦闘力以外はティーガー装甲戦車(パンツァー)を上回る事に成功した。

ティーガー1輌を生産するコストで4輌も作れて整備と運用と燃費の良さが自慢である。

 

 

《こちら、第3装甲師団 第31装甲戦車連隊!砲撃を開始します》

 

 

先行した4輌の四式装甲戦車(パンツァー)が無線連絡をした後、ご自慢の75mm口径戦車砲を一斉にぶっ放す!

悲しいかな、相手は核兵器が常時炸裂する戦場で動き回る事を想定した装甲戦車である。

 

 

《うぎゃああああ!!》

 

 

彼らは弱くはないはずだった。

むしろ、腐敗したマーレ軍の中で珍しく戦士候補生に匹敵する精鋭部隊のはずだった。

全高14m、幅42m、奥行100mで外装だけで300mmの複合装甲で覆っている化け物が!

重量が1000t越えているのに無理やり地面を掘り進めながら60km/hで突っ込む!

それだけで大抵の物体は粉砕されて滅びる。

無線から聴こえた断末魔の叫びからは即死できなかったようだ。

 

 

「え?ただの動く要塞(トーチカ)じゃないのか……?」

 

 

ここでようやくチハたんやチトを過信したマーレ陸軍の士官が自身の間違いに気づく。

あっ……これはマジでやばい相手だと気付いてしまった。

 

 

「うわあああああ!助けてえええああああああっ!?」

 

 

マーレ陸軍の少佐が命惜しさに得物であるゲヴェーア798を投げ捨てて敵前逃亡を図る!

当然、隙だらけの敵を自律型AIに見逃される訳も無くレーザー兵器で焼き尽くされた。

 

 

《迎え撃て!!》

 

 

反中東連合軍が運用するティーガー装甲戦車(パンツァー)5輌と連携する第31装甲戦車連隊長は命じた。

12輌の四式装甲戦車(パンツァー)と共にあのデカ物を返り討ちにしてやると!

だが、無線で連携した結果、部隊が密集していたのが悪手だった。

その15秒後にはガンマ線レーザーで第3装甲師団 第31装甲戦車連隊の構成員は全滅した。

 

 

-----

 

 

「ハァハァハァ……囮がたくさんで助かった」

 

 

当初の予定である戦士たちの撤退援護どころではない。

相変わらず戦争で新兵器と遭遇する度にガビを筆頭に死を意識する。

これが中東連合との戦争であった。

だから日常であったはずなのだが、さきほどの化け物は段違いでヤバいと感じた。

そのせいか、囮になってくれた人たちにガビは素直に感謝した。

 

 

「で?どうするんだ?もはや撤退できる状況じゃなくなったんだが…」

 

 

戦士候補生の中でリーダー格のコルト・グライスは、泣きそうになっていた。

このまま前に進めば、絶対に死ぬ。

後退しても生還する可能性は無いに等しい。

あるとすれば、戦士たちと合流してその巨体に乗せてもらい戦場を脱出するのみ。

それが不可能に近いと思っているから彼は涙を堪えているのだ。

 

 

「大丈夫、俺らなら絶対にやれるさ!」

 

 

そんな中粋がるウドだったが、さきほどから小便を繰り返している。

別に密室でトイレに行けなくなるから緊張している訳ではない。

明らかに新技術が到来したのを感じて更に戦場が糞みたいになると分かってしまったのだ。

発言とは裏腹に全身が小刻みに震えている姿を誰にも指摘できないほど全員が落ち込んだ。

 

 

『ガビ……』

 

 

いや、まだ希望を捨ててない男が居る。

ファルコ・グライスは密かにガビに恋をしていた。

だが、あの気の強さと世界情勢、そして戦士候補生としての責務から告白できていない。

もちろん、一部の人は気付いているが、誰も指摘する勇気は無かった。

もし、マーレ軍上層部に発覚すればどんな目に遭うか分からないからだ。

 

 

『どうやったら共に生き残れるのだろう…』

 

 

こんな時だからこそガビ……いや、全員が生き延びる方法を必死に考えていた。

ただ、生き残りたいなどこの戦場では誰もが考えている事だ。

せいぜい撃墜されて焼け焦げたマーレ軍の飛行船の残骸に身を潜める事しかできない。

 

 

「大変!!」

 

 

そんな暗いムードの中でゾフィアの発言に誰もが耳を傾けた。

 

 

「どうした?」

「なんかスラバ要塞の司令官が暴走した。自爆するつもりみたい」

 

 

良い話を期待していないコルトの質問にゾフィアは返答をする。

自爆自体は知っているが、妙な点がある。

 

 

「司令官が自爆?」

 

 

さきほどの兵器に遭遇してまだ残党軍には余力があるとコルトは思っていた。

だが、自爆するほど追い詰められたなど信じられなかった。

あの兵器が自暴自棄で運用されているという話の方がまだ信用できる。

 

 

「今、中東連合軍の残党が次々と逃亡を図ってる」

「は?」

 

 

未だ圧倒的な戦力を誇るあいつらが敵前逃亡するなどありえない。

ますますゾフィアの話に信憑性が見られなくなり、ウドが動いた。

 

 

「なあ、中東連合って別言語を使ってたよな?良く解読できるな…?な?」

「ヨルムンガンド工廠(こうしょう)がエルディア語とマーレ文字を使ってるせいで統一されたみたい」

 

 

中東連合は、文字通り文化も言語も宗教も違う中東諸国がマーレに対抗して合体した組織である。

ただし、脱退国も相次いだどころか、スラバ要塞に追い詰められたのがその末裔とも言える。

それでも世界を滅ぼす力を持っており、マーレは全軍ではなく小出しで投入する事を決意した。

戦力の逐次投入は愚策だが、原子爆弾がある以上、複数の軍団規模で運用できなかったのである。

 

 

「……大変、スラバ要塞とその近郊が丸ごと消し飛ぶみたい」

 

 

盗聴した内容をまるで他人事のように話すゾフィアに誰もが疑問を持つ。

ならば、なんですぐに使用しなかったのか。

使用すれば、マーレに大打撃を与えて勢力を盛り返す事も可能だったはずである。

 

 

「なあ、アレ……なんだ?」

 

 

ファルコの発言に誰もが彼の声が聴こえた方向を見る。

彼はスラバ要塞の中枢がある場所の空に向かって指を差していた。

 

 

「白い雲?しかも9本ある」

 

 

スラバ要塞の高台にして通信タワーがあった場所から白い雲が上空に向かって伸びていた。

いや、現在進行形で伸びている。

その先端に向かって地上から複数の光線が伸びている。

まるで先端で飛んでいる何かを撃墜したいかのように…。

 

 

「まさかな……」

 

 

5名の戦士候補生は知る由もないが、レーザー列車砲が必死にアレらを撃墜しようとしていた。

しかし、大気中でレーザーが拡散して上手く撃墜できなかった。

そこで120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲の出番である。

この兵器は、上空4万mで運用されていた超大型の無人航空機(ドローン)を撃墜するのを目的に作られた。

大気圏に突入してくる存在を撃墜できるようにとわざわざ無駄に巨大に作ってしまった。

 

 

「アレがそうか?」

 

 

白い雲など空にはたくさんある。

ただしあそこまでくっきりな人工の雲は珍しい。

だからこそコルトは、あれが自爆に関係すると気付いてしまった。

 

 

「あっ!!」

 

 

ここでウドは何かに気付いて緑色の発煙筒に着火した。

敵に居場所がバレる危険を冒してまで行動する理由は1つしかない。

 

 

「ポルコさん!!」

 

 

奇跡的にも、顎の巨人が近くを通りかかっていたのだ。

だからウドは緑色の煙で自分たちを気付かせようとしたのだ。

そしてその目論見は珍しく成功した。

 

 

「……はぁ」

 

 

顎の巨人は地上に衝撃が出ない程度にゆっくりとうつ伏せで転倒した。

するとうなじから蒸気が噴出して戦士のポルコ・ガリアードが中から出て来た。

溜息を見る限り、そして他に戦士が見えない時点で誰もが最悪のシナリオを脳内に描く。

 

 

「お前ら、まだここに残っていたのか…」

「あ、あの!!鎧の巨人と獣の巨人はどうなりました…?」

 

 

呆れたような発言をするポルコに対してファルコは恐る恐る残る戦士の状況を訊ねた。

 

 

「あいつらなら俺の両手に居る。全くなんで戦士長があそこまで狂乱に陥ったか分からん…」

 

 

当初は、鎧の巨人で居続けるのが難しくなったライナーを回収するだけで良かった。

ところが、あの白い雲を見たジーク戦士長が無駄に発狂してその場でうずくまった。

ポルコからすれば意味が分からなかったが、戦士長の発狂具合にドン引きするほどだった。

もしかしたらと何度も訊ねても戦士長は答えるどころか勝手に気絶した。

 

 

「とにかく味方、無垢の巨人や異形の巨人を利用して敵を撒いた…つもりだ」

 

 

そう言い切ろうとしたポルコだったが、ここは危険になったと実感する。

さすがに敵対勢力が凄まじい執念で追跡していないなどと実証する術がないからだ。

 

 

「俺は気絶してねぇよ……ちょっと休憩していただけだ」

「ライナー!!」

 

 

その時、疲労でフラフラしながらも無理やり立って歩くライナーが出現した。

どうやら長期に渡る巨人化を続けたせいでかなりの体力を消耗したらしい。

だが、従兄が生存しているのを見てガビは一目散に彼に逢いに行く。

 

 

「なっ!ガビ!?なんでここに!?」

 

 

一方、ライナー・ブラウンは従妹がここに居るとは思わなかった。

既にマガタ隊長と共に地下鉄で撤退したと思ったからこそ本気で驚いた。

 

 

「ライナーの全てを継承してエルディア人の明るい未来を作るまで諦めないから!」

「そ、そうか……」

 

 

ガビ・ブラウンは従妹ではあるが、ライナーは複雑な感情を彼女に抱いている。

恋をしているわけではないが、自分の後釜になって欲しくない。

純粋に自分を慕ってくれているからこそ、どうしようもない自分を継承して欲しくなかった。

もちろん、これはライナーの本音であるが、当の本人に言える訳が無くずっと黙っている。

 

 

「なあ、ガビ。あのな……」

 

 

それでもガビに伝えたい事があるライナーは彼女に声をかけるが……。

突然、爆音と共に空が大きく揺れた。

慌てて上空を見上げると白い雲が地上に向かって落下して来ていた。

さきほどの超兵器による砲撃で4個に減っていたが、何かまずいのは確かだ。

 

 

「くっ!!」

 

 

慌てて短剣で指を切って周囲からライナーが離れる。

巨人化の際は爆発を発するので味方に被害を及ばないようにしたのだ。

その迅速な対応と判断が皆の命を救う事となる。

 

 

「え?」

 

 

ライナーは今、夢を見ていると思った。

他のみんなも同じだと思っているはずだ。

だってあの化け物が2輌出現するなどあり得ない。

2輌も地面に沈めたのに新品っぽいのが何食わぬ顔で出現したのだから。

 

 

「畜生が!!」

 

 

この世から絶対にあの世送りにしてやるという悪意が嫌でも感じられる。

そんな雰囲気を漂わせる自律型AI原子力装甲戦車(アトミック・パンツァー)に向かってライナーは走る。

 

 

「もう!!てめぇらなんかたくさんだああああ!!」

 

 

巨人化する爆発で2輌の化け物に多少のダメージを与えた…とライナーは信じたかった。

ただし、それを考えるのは生きて故郷の地を踏んだからでも良い!

今はとにかくこの化け物を無力化しなければ、全滅するしか道が無い!

 

 

「ん?」

 

 

ここでライナーは異変に気付いた。

この化け物たちに砲塔が見当たらなかった。

それどころか、前方装甲が扉の様に大きく開いていた。

 

 

『なんだこれ?』

 

 

これは、兵器というより…むしろ、これはシェルターに見えた。

さきほどには無かったので巨人化の爆発で何かを破壊したようだ。

未完成品に見えるからおそらく放置してあったのが何かしらの衝撃で地上に出現した。

そう考えるのが妥当であるとライナーは考えた。

 

 

「シェルターに……なるよな?」

 

 

こいつらの頑丈さは嫌というほど分かっている。

ならば、外に居るよりは、この中に居た方が安全だろう。

鎧の巨人は戦士候補生とポルコ、そして何故か気絶したジーク戦士長を中に入れた。

 

 

「ライナー!!どうしたの?」

「……すまんお前ら!!ここでお別れだ!!」

 

 

残念ながら外部から扉みたいな装甲を閉める必要がある。

だから必然的に鎧の巨人だけは巨体を利用して閉めなければならない。

 

 

「ライナー!?ライナー!!?」

 

 

ガビが飛び出してくる前に装甲を無理やり閉じたライナーは笑う。

ああ、いい人生だったと……。

 

 

『なんて母さんが許してくれないよな……』

 

 

……と思っていたが母親を泣かす訳にはいかない。

同様に開いていた装甲戦車の中に鎧の巨人の上半身を突っ込んだ。

窒息する危険もあるが、やらないよりマシである。

そう思っていたら地面が大きく揺れて意識が途絶えた。

 

 

------

 

 

「なあ、フローラ嬢…これで良かったのか?」

 

 

パラディ島名産と知らされた酒瓶を飲み干したバイバルス・ロレンスは笑う。

意味のない問いかけであるが、どうしてもやってみたかった。

壊れた通信タワーの瓦礫の上で彼は孤独の時間を過ごした。

だが、降り注いでくる“ポリ窒素広域破壊弾頭”を肴に酒を飲むのは悪くなかった。

 

 

『えぇ……ご苦労様でした』

 

 

聴こえるはずもない彼女の声が聴こえた気がした。

だが、ロレンスは分かっている。

彼女によって自分どころか世界が狂わされた事に…。

そしてそれをマーレ…世界に黙って死ぬのが最高の仕返しと信じて…。

 

 

「エルディアの悪魔め……来世こそ手を下してやる…」

 

 

最期に笑って呪詛を吐き出した彼の意識は途絶えた。

それどころか、スラバ要塞に居た全ての者がこの一瞬で絶命した。

地表に居た者は、全て焼き尽くされて地下壕に籠った者は圧死した。

地表を大きく変えるのが、核兵器とは違う点である。

 

 

「なんて人間は愚かなのでしょう……」

 

 

マーレと中東連合の戦争を地獄にしたフローラ・エリクシアは呟く。

独自に調達したマーレ産のワインを飲み干した彼女はこの結末を手帳に記す。

 

 

「それにしても…うまくいったわね」

 

 

唯一の救いは、端末でライナーは確実に生きていると分かるくらい。

自律型AI原子力装甲戦車にこっそり細工をした甲斐があったというもの…。

頑張って誘導してみたが、それでもこうなるかは賭けでしかない。

その賭けに見事に彼女は勝ってみせた。

 

 

「まあ、これからが地獄なんですけど…」

 

 

こうしてスラバ要塞に展開していた部隊はマーレの戦士候補生及び戦士隊。

そして同行していた一部の部隊と遥か遠くから砲撃していた砲兵部隊が生き残った。

だが、忘れてはならない。

これは人類の破滅に繋がる序章に過ぎないと…。

この時点での人類はまだ気付く事はできなかった。

 

 

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