進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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167話 エルディア人収容区レベリオ

マーレと中東連合の戦争は、スラバ要塞と中東連合艦隊が丸ごと消滅した事により終結した。

抵抗勢力が消滅したマーレは、中東連合と講和条約を締結し、正式に戦争は終わった。

だが、当初問題になっていた半島の自治権に関しては、マーレが譲歩する形となった。

いや、認めざるを得なかった。

 

 

「一体、誰が化学兵器で汚染された場所が欲しいというのだ」

 

 

講和条約を締結する際にマーレ軍のトップであるカルヴィ元帥の一言が全てを物語っている

中東連合の領土の2割は化学兵器で汚染されており、近隣も重装備による除染が必要だ。

そんなところに金をかけるくらいなら自治権を認めるしかマーレに選択肢はなかったのだ。

 

 

「要するに我々は負けたと言えよう」

 

 

つまり、戦争には勝利したものの結果的には、マーレの属州から南東の半島の独立を許した。

多くの犠牲を払って得た物は、新兵器とエルディア人とマーレへの憎しみだけ。

むしろ、4年も費やした戦争でマーレは張子の虎だったと世界に知らしめるだけだった。

それでも得た物はある。

 

 

「化学兵器反対!!原子爆弾反対!!戦争反対!!」

「人類は分かち合えるはずだ!!動物と違って人類は他者の考えを共感できる!!」

「殺すのはエルディア人だけで充分だ!!」

 

 

世界中の首都で何万人の規模で抗議デモが発生していたのだ。

町どころか自分たちが住まう星さえ破壊できる兵器の登場に世界中が恐怖した。

当事者であった中東連合の加盟国ですら思っている事だ。

時折、人類は暴走するが、それでも希望を捨てていなかった。

 

 

《本日、アイスバーグ陸戦条約に新兵器に関する改訂が行われました!これにより…》

 

 

世界中の報道機関(マスコミ)が情報を報道し、新聞やラジオにより民衆に周知していく。

絨毯に落ちた雫がじわじわと周りに広がっていく様に情報は周囲に伝達した。

 

 

「これで不条理がまかり通った戦争が無くなれば良いのだが…」

 

 

新兵器の脅威に畏怖していた民衆は、世界が優しくなったと安堵し、胸を撫で下ろす。

戦争当事国だけではなく全ての国家が条約改訂を認可し、改訂された陸戦条約を締結した。

以下に記すのは、改訂された箇所の内容である。

 

 

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アイスバーグ陸戦条約 陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則

第二(かん) 戦闘

第一章 害敵手段、攻囲、砲撃

第23条: 特別の条約により規定された禁止事項以外、特に下記の物を禁ずる

 

1. 毒、または毒を施した兵器を使用する事

2. 敵対国の国民、または軍に属する者を裏切って殺傷する事

3. 兵器を投棄し、または自衛手段が尽きて降伏を乞う敵兵を殺傷する事

4. 助命しない事を宣言する事

5. 不要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用する事

6. 軍使旗、国旗その他の軍用の標章、敵の制服またはジェネヴェ条約の特殊徽章(きしょう)(みだ)りに用いる事

7. 原子力を扱う施設への攻撃、または原子力関連の技師を殺傷する事

8. 航空機の機上に居た者が落下傘で下降し、地上に退避するまでに攻撃する事

9. 核燃料を含む原子力を活用した兵器、または原子核が放出する際に発生する電磁波を利用する事

10. 対巨人兵器を人間に使用する事

11. 武装した無人航空機による中立国への武力行使、または人道支援団体に攻撃をする事

12. 直接操作、または遠隔操作で全機能を停止ができない自律型のAIを搭載した兵器を運用する事

13. 誘導放出による光増幅放射を用いた光学兵器で殺傷する事

14. 戦争の必要上、やむを得ない場合を除く敵財産の破壊または押収する事

15. 相手当事国国民の権利及び訴権の消滅、停止または裁判上不受理を宣言する事

16. 第二(かん) 戦闘  第一章 害敵手段、攻囲、砲撃 第23条をエルディア人に適用する事

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世界中の人々は、まだ隣人と歩み合えると信じている。

国家間の争いは未だに絶えないが、それでも人類が団結できると信じて新たな一歩を踏み出した。

そして悪魔の血族であるエルディア人の駆除を改めて誓うのであった。

 

 

「そうだ、エルディア人には未来は無い」

 

 

マーレの戦士及び戦士隊の士官専用の客車で新聞を読んだライナーは呟いた。

確かにあの戦争によって人類は誤った道に気付いて自力で修正して前進をしている。

だが、その道にはエルディア人は存在しない。

 

 

「寛大な祖国マーレの管理下以外ではな……」

 

 

果たして自分の任期が終わるまでに戦士候補生は存在しているのか。

少なくともそれを否定する根拠など存在しなかった。

 

 

「ガビはマーレの戦士候補生として世界に祖国マーレの忠誠と活躍を示した!!」

 

 

マーレの戦士候補生専用の客車の報から酔っ払った男の声が聴こえてくる。

相変わらず酒に弱いコルト・グライス戦士候補生のものだと誰もが分かる。

 

 

「隊長、奴らを黙らせてもよろしいでしょうか?」

「…今宵だけは目を瞑ろう。奴らの活躍のおかげで祖国は首の皮一枚繋がったからな」

 

 

部下からの提言を却下したテオ・マガト隊長は、目の前にある食卓に向き合う。

ここで奴らを叱責したところで何も利点は無い。

就寝時間まで騒いでいたら罰則を設ける程度に考えていた。

 

 

「今はエインフェリア准将相当官の餞別(せんべつ)を存分に味わうべきだ」

 

 

久しぶりに味わえる祖国マーレ産の赤ワインと嗜好品のチョコレートは格別だ。

凱旋(がいせん)記念にとマーレの戦士隊に特別支給された食事は、戦士候補生たちにも行き届いている。

兵站の専門家として名高い彼女の采配に感謝したマガトは丸い粒のチョコを手に取る。

【手で溶けず口の中で溶けるチョコ】を口に含んで存分に勝利の余韻を味覚と感触で味わう。

 

 

「マガト隊長」

「どうした?」

 

 

そして更にチョコを取ろうとした時、ライナーに話しかけられた。

 

 

「戦士候補生の客車で興奮する後輩たちの見張りをさせて…」

「構わん、だが就寝時間は通常通りとする」

「ありがとうございます」

 

 

どうやら羽目を外した戦士候補生の暴走を恐れて彼は提言してきたようだ。

合理的な判断とし、マガトはライナーの提言を受け入れた。

すぐさま、上官に頭を下げたライナーは騒動が発生している客車に向かった。

 

 

「よろしかったんでしょうか?彼には重要な役目がありますが……」

「ああ、だから規則で定めた就寝時間は守らせた。問題ないだろう」

 

 

ライナー・ブラウンは、現役戦士として記者会見に臨む事になっている。

それに支障が出ると感じた部下の質問にマガトは簡潔に返答をした。

 

 

「それに質疑応答で活かせるネタも確保できるだろうしな」

 

 

あの日、スラバ要塞で展開していた部隊は、一部の兵士を除いて全滅した。

唯一、前線に居て生還を果たした5名の戦士候補生に被らせたヘルメットからカメラを回収。

残された映像を分析して政治宣伝(プロパガンダ)に活用した。

そして英雄たちを迎えるのは、自国民だけでなく各国の報道機関も存在する。

なお、記者会見には質疑応答が想定されるのでネタ集めも兼ねたとマガトは分析。

相変わらず聴こえてくる歓声を(さかな)に赤ワインで喉を潤していった。

 

 

「果敢にもガビは新型の装甲戦車(パンツァー)を3(りょう)も撃破し、マーレの戦士候補生の未来を示した!!」

 

 

一方、酔っ払って顔面を赤く染めているコルトは、興奮していたが無理もない。

数少ない戦士候補生の活躍を世界中に知らしめたのだから。

 

 

「巨人が戦争に使えなくなったとしても、我々は戦える事を世界に示したんだ!!」

 

 

戦士になれない候補生の大半は、異形の巨人にさせられる未来しか残っていない。

しかし、人間形態のまま祖国マーレの尖兵として活躍できるのを知らしめた。

それを示した小さな黒髪の少女を讃える様に酒瓶を握った左手を天井に向ける。

 

 

「エルディア戦士隊、万歳!!祖国マーレに万歳!!」

「「「「万歳!!万歳!!」」」」

 

 

コルトが左手を突きあげて声を出す度に戦士候補生たちも続いて復唱する。

誰もが出来なかった事を成し遂げた事で感情を爆発させている有様だ。

どんどん盛り上がる戦士候補生たちを見てファルコは少しだけ俯いた。

 

 

「偉大なる祖国マーレの勝利に貢献したガビを讃えよ!」

「「「「ガービ!!ガービ!!ガービ!!」」」」

 

 

文字通りコルトに担がれたガビは、少しだけ高くなった景色を見て目尻から涙を溢す。

一時は戦士隊の廃止寸前まで追い込まれたと知っているからこそ現状が嬉しかったのだ。

 

 

「マーレ万歳!!戦士隊万歳!!」

 

 

両腕の上腕二頭筋を強調する様にガッツポーズを取るガビは熱い声援に応える。

祖国マーレに勝利をもたらした戦乙女の様な振る舞いをするなど完全に調子に乗っていた。

 

 

『このままじゃ……』

 

 

その様子を見てられないファルコは、ガビから見えにくい場所に移動した。

自分だけ興奮していない姿を見られると彼らに水を差すと考えたからだ。

 

 

「見事にコルトに担がれたな」

「僕の兄だけではありません。祖国の宣伝によって全世界がガビに注目しています」

 

 

ありとあらゆる分野で他国に追い抜かれたマーレが取った策は、戦争の勝利を宣伝する事だ。

とっくの昔に張子の虎だとバレているのにマーレ軍の上層部や政治家は未だに気付いていない。

戦果を4割、嘘を3割ほど交えてマーレ軍の活躍を3割ほど誇張して彼らは世界中に宣伝した。

これで世界は、ガビという戦士候補生の存在と活躍を知ったと同時に警戒する事となる。

 

 

「実際に『【鎧】を継承するのは彼女に相応しい』と新聞の社説(コラム)に書かれていたな」

「このまま順当に【鎧】を継承すればガビの寿命は27歳。それまでに戦死する可能性が高いです」

「そうだな、敵軍のエースを見逃すほど仮想敵国は甘くない」

 

 

ガビの寿命を口にするファルコの気持ちが良く分かるライナーは、わざと話をはぐらかす。

 

 

「ああ、たった4年で世界は変わった。俺の任期が切れる2年後は想像もつかないな…」

「今は平和を謳ってますが、戦争を長期化させたのは中立国です」

「“平和”は戦争をする為の準備期間、中立国全てが敵だと……そう言いたいのか?」

 

 

未だにファルコの想いを聴けていない。

だからこそライナーは、自分の後継者になり得る少年を挑発した。

 

 

「いえ、そうではないんですが……このままではいけないと思います」

「俺達どころか、祖国マーレもそう思ってるさ。お前だけじゃない」

「……副長は本当にこのままで良いんですか?」

 

 

要するにファルコは、鎧の継承者の従妹に能力を継承させない様に仕向けたいのだ。

もちろん、これはライナーの判断でどうにかできる問題ではない。

 

 

「今、お前。なんて言った?【九つの巨人】を継承する名誉を冒瀆(ぼうとく)したのか?」

 

 

ここでファルコ・グライスは失言に気付いたが後の祭り。

 

 

「これはすぐさま上に報告しなければならない」

「あ…」

「俺が聴いていなくても誰かが聴いて居たら即座に密告される。何故か分かるよな?」

 

 

慌ててファルコは、先輩に対して失言を取り消そうとする。

だが、それよりも少年を圧迫するように顔を近づけたライナーの口が速かった。

 

 

「まずコルトは【獣】の継承から剥奪される。親族にマーレへの忠誠が無いとすれば当然の処置。それにお前らの両親は既に楽園送りをされており、後が無い。それが意味するのは分かるよな?」

「ま、待ってください」

 

 

幸いにも他の戦士候補生や上官たちには気付かれていない。

それほど大騒ぎをしているので盗聴すら意味をなさなかった。

しかし、ファルコは急いでライナーに弁明する。

 

 

「どうした?謀反人ではない証拠を示せるのか?」

「発言を訂正させてください。戦士候補生ファルコ・グライスはユミルの血によってもたらされる世界の破滅を阻止するべく、この血を生涯マーレに捧げられる偉大な名誉を遂行する所存です」

 

 

エルディア人の人権が無いのが当然だ。

長年虐げて来たマーレ人による寛大な処置でなんとかユミルの民の生存を黙認されている状態だ。

パラディ島を除くと既にマーレ以外に居住していたエルディア人が駆除されたと知らされている。

同じ戦士候補生であるウドとゾフィアは

だからこそ藁にも縋る想いでエルディア人は、マーレに絶対の忠誠を誓っているのだ。

 

 

「では、【九つの巨人】を継承する名誉をなんと心得る?」

 

 

圧迫面接を越える真剣な眼差しで質問するライナーに対して即座にファルコは返答する。

 

 

「【名誉マーレ人】としての栄誉と誇り、そしてマーレの歴史に名を遺す権利を授けて頂きまして祖国マーレへの忠誠を存分に示せる全ユミルの民が目指すべき権利が得られる事と存じます」

 

 

これは、マーレの収容区で生まれ育ったエルディア人が発言する模範的な回答である。

誰だってそうするが、ライナーが後輩のファルコに求めているのは、それではない。

 

 

「お前は、【鎧の巨人】を継承したいのか?」

 

 

鎧の巨人を継承しているライナーから質問されたファルコは…。

 

 

「もちろんです。必ずオレが【鎧の巨人】を継承します」

 

 

ライナー・ブラウンの後継者になると言い切った。

それを聴いた現行の戦士はさきほどと打って変わって表情を和らげた。

 

 

「良く言った。ガビを守りたいならお前がガビを越えるしかない」

「え?」

 

 

後継者になりえる顔を見て満足したライナーは今まで隠してきた本音を告げた。

困惑するファルコの左肩に右手を優しく乗せて彼を諭す。

 

 

「お前がガビを救うんだ。この真っ暗で先が見えない絶望的な俺たちの未来から…」

 

 

深夜に高速で走る列車は、前照灯(ヘッドライト)で明かりを照らされる前方以外は真っ暗だ。

それは、絶望の未来に足掻くエルディア人が唯一進むべき道に向かって走っているようだ。

 

 

「副長…」

 

 

ここで場を盛り上げていたコルト・グライスの体調が急変した。

慣れない飲酒に列車の揺れが加わって酔いが悪化してしまった。

 

 

「おいファルコ!お前の兄が倒れたぞ!」

「え?……うん、すぐに行く!」

 

 

同期のウドの発言でファルコは専用客車に戻るライナーを見送る事も無く兄に駆け寄った。

 

 

「これも余興ね」

 

 

【鎧】の次期継承者が体調不良になってもゾフィアはいつも通りだ。

何気なく呟いた言葉は、周りから首を傾げられて開いていた窓から飛び出していった。

定期的な補給をして走るこの列車は、前進しかできずに途中下車は不可能である。

1週間に及ぶ経過観察により問題ないと判断された者は、列車に乗り込んでマーレに帰るのだ。

スラバ要塞攻略戦に参加した戦士及びマーレの戦士候補生も例外ではなかった。

 

――意識がはっきりしたまま故郷に帰れるのが、どれだけ幸運の事なのか。

後に誰もが理解する事となる。

 

 

-----

 

 

午前9時半、ようやく目的地に着いた列車は止まった。

それから30分後、点呼と今後の予定を知らされて休息時間となった時、ガビは動いた。

 

 

「うおおおお!!」

 

 

マーレの戦士候補生一番乗り!と言わんばかりに列車の戸を勢い良く開く!

 

 

「生きて帰って来たぞ!!」

 

 

生きて故郷に帰って来る。

それがどれだけ大変だったかガビ自身が良く理解している。

 

 

「レベリオ!!ただいまぁぁあああ!!」

 

 

だからこそ、その喜びを腹に力を込めて絞り出した大声で表現した。

マーレ軍専用の駅構内には、マーレ軍関係者か従軍記者しか訪れる事は無い。

ここには親族は来れない。

厳密に言うとエルディア人戦士の親族が暮らす居住区は駅から少し歩かなければならない。

それでもガビは止まらない。

 

 

「……うん」

 

 

広げた右手の親指と人差し指を右耳付近に当てて音を聴き逃すまじと耳を傾ける。

当然の事ながら彼女の発言に対してレベリオそのものからの返答はない。

 

 

「お帰りなさいいいいい!!」

 

 

だから、ガビは残った左手を口元にくっつけてレベリオの返答を演じてみせた。

そんな奇行を見て慌てた同期や戦士候補生たちがガビの暴走を止めようと試みる。

 

 

「おい、やめておけ。記者団も近くにいる。家に帰るまで平常心を保つべきだ」

「ライナー、ここは軍の関係者しか入れないんだよ?ちょっとくらい…」

 

 

なによりライナーは、暴走する親族を必死になだめようとしていた。

それを見ていたファルコは複雑な気持ちになった。

 

 

『ブラウン副長……昨晩はなんだったんですか?』

 

 

ファルコにとってのライナー・ブラウン副長は自分が尊敬するのもおこがましいほどの存在。

4年前の大失態すら命を賭けた戦果の数々で汚名返上をしてきた。

今では、『彼以外が鎧の巨人を継承していたら消失していた』とマーレ軍の上層部の評価を得た。

 

 

『あなたは他の戦士の誰よりも高い忠誠心を行動で示してきましたよね…?』

 

 

鎧の巨人が瞬殺される兵器が日常で使用される戦場の中で生き残る。

しかも、マーレへの忠誠を行動で示せる活躍をやり遂げてみせた。

それがどれだけ偉大な事か知っているからこそファルコは疑問に思う。

 

 

『なんでオレにガビを救えって言ったんだ…?』

 

 

ガビを見ればいつもより可愛く見える。

祖国にバレれば、ただでは済まない思考をしている事もあってすぐに顔を逸らす。

 

 

『ブラウン副長じゃなくてオレが救えだなんて…』

 

 

残念ながら今の時代は、巨人は無敵どころかただの標的に成り下がった。

名誉である戦士になったとしても、使命を果たせるか疑問に思える時代。

そうだとしても、普段の副長ではありえない発言を思い出してファルコは悩む。

 

 

『こんなオレがガビを救えると確信しているのか…?』

 

 

もう一度ガビを見れば、他の戦士候補生の家族に向かって姿勢を作っていた。

どうやらレベリオでも有名人になったようで鼻が高いと同時に恐ろしくもある。

果たして自分がガビを越えて鎧の巨人を継承する事ができるのかと…。

 

 

『もしかしてブラウン副長、オレと同じ考えだったりするのかな…』

 

 

ファルコ・グライスには夢がある。

ガビに告白するのもそうだが、なによりエルディア人を戦争から開放させたい。

()()()()()()()()()()()()()()()()()を見れば、尚更そう思う。

 

 

『はははは…どう足掻いても、巨人から俺たちは逃げられないってか…』

 

 

偶然にもファルコと同じタイミングでライナーもここに存在しなかったはずの化け物を発見した。

 

 

『あれが戦士を継げなかった戦士候補生の成れ果てか…』

 

 

マーレに存在するエルディア人収容区の1つであるレベリオに化け物が佇んでいる。

まるで自分たちの戦争犯罪を思い出させる様にマーレ軍が運用する化け物が出迎えてくれた。

 

 

『人の意識を失っても、マーレへの忠誠を果たし続けるとは俺たちへの当てつけか…』

 

 

あまりにも皮肉過ぎてライナーは自嘲するしかない。

身体に異常が無かったエルディア人戦士は体調観察で1週間も医療施設に軟禁されていた。

誰もが健康体なのに…と不満気であったが、それはマシだと知る。

不幸にもそうではない者たちは、先にマーレに帰国させられていたのだ。

マーレ本土防衛作戦の要として運用する新型の異形の巨人の検体として活用する為に…。

 

顎型の異形の巨人 10m級迎撃強襲型  “ショゴス・ロード”

鎧型の異形の巨人 15m級深層防護型  “ノフケー”

 

おそらく部隊運用を試験する為にエルディア人収容区に先行配備したのだろう。

中東連合との戦争が終わっても、自分たちの罪を思い出せてくれる存在を見てそう思った。

そしてライナーの背後を歩いていた黒髪の少女は思った事がある。

 

 

『私はあんな末路になる気はない!そしてみんなをこんな未来から守ってみせる!!』

 

 

ガビ・ブラウンは、待機命令を受けて駅構内で座り込んでいる異形の巨人になる気はない。

必ず鎧の巨人を継承し、こんな残酷な未来からエルディア人を解放すると改めて誓う。

 

 

『絶対に!!』

 

 

後にレベリオ収容区に帰還したマーレの戦士及びエルディア人戦士は説明を受ける。

あれは、マーレ政府巨人化学研究学会の最新の研究によりジークの脊髄液で制御されている。

そして1年以内に実行されるパラディ島攻略作戦を実施する間、マーレ本土を守る存在だ。

だから心配する事は無いと、巨人部隊の管轄する少将が直々に説明をする事となる。

 

 

『……気味も気分も悪くなるな』

 

 

ただ、レベリオに到着した際に説明を受けていないのでエルディア人戦士たちは気分を害した。

特に【マーレの盾】と評されたライナーからすれば自分の代替になる巨人に見えて鳥肌が立つ。

 

 

『クソ、クソ!定期的に抜かれた脊髄液はこの為か!!』

 

 

ポルコ・ガリア―ドに至っては、自身の複製らしき異形の巨人が見える度に視線を逸らしていた。

 

 

『信じるか信じないかの問題じゃない。オレたちが変えていかないといけないんだ…』

 

 

ファルコ・グライスもまた自分の夢を達成するために尽力するつもりだ。

戦士たちの親族と会話する内にブラウン副長は記者団に囲まれて移動していった。

おそらくジーク戦士長の代わりに会見を開くと思うが、あまりの責務にファルコは戦慄する。

もし、自分だったらどうするべきかと考えてしまうほど…。

 

 

「あっ……」

 

 

ここでファルコは、もしかしては見てはいけない物を見てしまった気がした。

マガト隊長の副官であるコスロ大尉が負傷したエルディア人戦士の一行を先導している。

もしかしなくても、あの人たちも異形の巨人にされると気付いてしまった。

 

 

「コスロさん、負傷兵を連れて病院に向かわれるんですか?」

 

 

それでも声をかけてしまった。

もしかしたら、自分が到来していた別未来に見えてしまったのが大きい。

 

 

「ん?デコスケ邪魔するな。こいつらは心的障害を負った奴らだ。巨人にしても使い物にならん」

 

 

しかし、コスロ大尉の発言を聴いてファルコは半信半疑になった。

わざわざエルディア人負傷兵、しかも治療が難しい心を治療するとは思わなかったからだ。

 

 

「負傷兵で心的障害って治療が難しくありませんか?」

「レベリオは数々のマーレの戦士を輩出した収容区だ。できるだけ治療を施すんだろうよ」

 

 

よく考えてみれば分かる事だ。

同じエルディア人でも格差がある。

ましてや諸外国で迫害を受けて命ガラガラ逃げて来た出身不明者なら尚更だ。

 

 

「つまり身元がはっきりしているんですか?」

「記録上はそうなんだが、身寄りがない連中が大半さ。全く困ったもんだぜ…」

 

 

現在、マーレが()()()()()()()()()()()()()()()()()()は以下の通りだ。

 

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1.【名誉マーレ人】

九つの巨人を継いだマーレの戦士及びマーレの戦士の一親等

腕章:赤色

権利: マーレ人と同様の権利を得られる(選挙権とエルディア人以外の婚姻権を除く) 

 

 

2.【マーレの戦士候補生】

マーレの戦士候補生と候補生の一親等

腕章:黄色

権利:収容区の永久居住権及び候補生特権を得られる 一親等は治療費と税の大半を免除 

 

3.【エルディア人の一般戦士】

腕章:灰色

権利:収容区の永久居住権 一親等に一等エルディア人か二等エルディア人の階級を付与 除税

 

4.【一等エルディア人】

実績があるエルディア人戦士の一親等、または名誉除隊したエルディア人

もしくは、収容区生まれの一等エルディア人同士から生まれたエルディア人

腕章:茶色

権利:収容区の永久居住権 基本的なエルディア人権が保障される 減税

 

4.【二等エルディア人】

新民エルディア人がエルディア人戦士隊に入隊した際に一親等に付与される

もしくは、物資生産隊に入隊した際に一親等に付与される

または軽犯罪歴を有し、名誉挽回をしていない収容区生まれのエルディア人

腕章:薄い茶色

権利:定期更新がある収容区の居住権 基本的なエルディア人権が保障される 一部減税

 

5.【新民エルディア人】

エルディア人在留管理局によって認可を受けて登録されたエルディア人

腕章:白色

権利:短期間の収容区居住権 エルディア人戦士隊か物資生産隊に入隊する権利 減税なし

 

6.【外民エルディア人】

エルディア人在留管理局が認可していないエルディア人 害民エルディア人とも評される

権利:密入国した場合、見つけ次第に殺処分 新民エルディア人の認可試験を受ける権利

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そう考えてみると最低階級から成り上がれたウドは恵まれているとファルコはいつも思う。

 

 

『ウドって運が良かったんだな…』

 

 

中東連合との戦争が始まる2年前に入国を認可されたウドは戦士候補生になれる時期があった。

一応、戦争中にもあったが、一歩間違えれば戦士候補生を通り越して異形の巨人にされる。

そうしてみると現行のエルディア人階級制度がどれだけ破綻しているか分かる。

 

 

「おい!用はもう無いんだな?」

「ハッ!知り合いの顔が見えた気がして尋ねようと思っただけです」

「これだからエルディア人は困る。全くこのような輩も罰するべきなのだがな」

 

 

エルディア人階級制度を思い出していたせいでファルコはコスロ大尉の任務を妨害していた。

上官に叱責されてようやくそれに気付いた少年は、謝罪して道を譲る。

そして大尉に率いられる一般エルディア人戦士の集団を見守る事にした。

 

 

『とりあえず、信じて良いのかな…』

 

 

灰色の腕章を付けた一般エルディア人戦士の顔色は誰もが悪い。

うわ言を呟く者、定期的に震える者、髪の毛を抜きすぎて頭皮丸出しの者。

戦争は常人の心を狂わせる者だが、逆に言えば自分が異端なのかもしれない。

 

 

『それともオレがおかしいのか…?』

 

 

ずっとガビの事とエルディア人の未来の事しか考えていない自分に吐き気すらある。

彼らだってああなりたくてなった者ではない。

もしかしたら自分も仲間入りになると分かっているからこそ自責をしてしまう。

 

 

「あっ…ちょっと待って」

 

 

そう考えていたら、とある負傷兵が灰色の腕章を右腕に付けているのを発見した。

腕章は収容区の外に出るには身に着けるのは必須だが、間違えて付けると罰則が付く。

ただでさえ地獄を見たのだから無駄に苦しむ必要はないと考えたファルコは動いた。

 

 

「腕章が逆ですよ」

「……逆?」

 

 

その人は負傷したと思われる左目付近に包帯が巻かれており、左脚の(すね)から下が無かった。

代わりに右手で松葉杖を地面についてバランスを取りながら歩行している黒髪の男だった。

そんな彼に寄り添ったファルコは、慣れた手つきで腕章を本来あるべき場所に付け直した。

 

 

「これで大丈夫ですよ」

「すまない、腕章と言えばこの位置かと思ってな…」

「記憶障害を起こしてますよ、エルディア人の腕章は例外なく左腕に着ける義務があります」

「そうか、わざわざ親切に思い出させてくれてありがとう…」

 

 

疲労と負傷で憔悴しきって倒れそうに見えた黒髪の負傷兵は意外と余裕そうに見えた。

だからこそファルコは、負傷兵に向かって本音を告げた。

 

 

「大丈夫ですよ、あなたは強い。きっと良くなりますよ…」

「そう願いたいものだな…」

 

 

負傷兵の衣服から漂って来る汗と大地と血と硝煙の匂いは未だに鼻が慣れない。

ましては、軍服から一度、着替えさせられて入院していたファルコはよりそう感じる。

 

 

「もう、あなたは戦わなくていいんですから…」

 

 

ファルコなりに負傷兵を励ます言葉をかけた。

すると黒髪の負傷兵は一瞬だけであったが、虚ろに見えた瞳が輝いた…気がした。

 

 

「……そうもいかない。オレの戦いはまだ始まったばかりだ」

「そうですね、戦場が病院に移っただけですからね」

「さて、そろそろ行くとするよ。また逢う機会があったらその時はよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

暗に戦場が病院に移ったと感じ取ったのか負傷兵は再びさきほどと同じ表情になる。

そしてその表情になった理由を述べてゆっくりと動く列に加わってどこかへ去って行った。

 

 

『そうだ、僕の戦場も変わっただけだ』

 

 

負傷兵との会話で戦場が変わっただけとファルコは考え込む。

このまま、能天気に平和を受け入れて帰郷を楽しんでいるだけでは現状を変えられない。

負傷兵がこれから治療を頑張る様に自分も頑張らないといけないと意気込む。

 

 

「ファルコ、マガト隊長の進軍召集よ。おそらく居住区に向かうと思う」

「ありがとうゾフィア」

「だから嬉ションで漏らさないでよ?」

「漏らす訳ないじゃないか!」

 

 

ゾフィアという同期の女はどこか感性がおかしい。

本人は真面目にやっているのに気を抜くとどこか可笑しい話題を振って来る。

それに関して戦士隊全員の疑問でもある事はファルコは知らない。

 

 

「よし、どっちが速くマガト隊長の元に辿り着けるか勝負だ」

「じゃあ、行く」

 

 

ただし、意外と他者の意見を聞き入れて行動してくれる。

今回は、ファルコが競争を誘ったのに合図を出す前に彼女は走り出してしまった。

 

 

「いやいや、待ってよ!ズルいぞ!!」

 

 

この時、ファルコはさきほど話しかけていた負傷兵の事を完全に忘れ去って行った。

だが、すぐに彼はクルーガーと名乗る負傷兵と再会し、仲良くなっていく事となる。

それが自分の命運はおろか、世界の命運を賭けた事態になるとはこの時、想像だにしてなかった。

 

 

-----

 

 

「あの戦場は、人類の悪意と狂気をありったけに詰め込んで恐怖を熱する坩堝(るつぼ)のようだった」

 

 

集まった記者団から見える壇上からライナー・ブラウンは記者会見を行なった。

簡潔にまとめるとスラバ要塞攻略戦で何が発生したか説明するというものだ。

 

 

「隣人が間近で死ぬ光景が常識となり、新鮮な死体を机代わりにして食事をした者も居た」

 

 

守秘義務があり過ぎて大して受け答えができない。

それどころか戦場の説明も制限されているので曖昧な例えしかできなかった。

 

 

「目の前に広がる惨状ですら、怒りと憎しみに勝らなかった。戦友の死体から頭蓋骨を剝ぎ取ってお守り代わりにしてそのまま地雷原に突っ込んで爆散した狂人が相次いだ。装甲戦車の主砲に頭を突っ込んで砲撃を防ごうとした奴が居た。死すらあの場では救いだった。そう、救いだったんだ」

 

 

未だに自分を憎んでいるあの女の幻覚がライナーに見えている。

気のせいか、ここに居ないはずの彼女の視線すら感じる。

もちろん、この場には居ない。

 

 

「自分たちは運が良かった。そして二度と戦争が起こるなんて無い事を祈りたい」

 

 

なにより長身で目立つ彼女を見抜けないほど自分はアホではない。

鎧の巨人を討伐する事を夢見た女兵士の顔は二度と忘れる事の方が難しい。

 

 

『そうだ、俺はあの時……彼女との約束を果たせないまま殺し合って…決着がつかなかったな』

 

 

あの日、「兵士として安心して背中を任せられる」とライナーはフローラに告げていた。

その時の彼女の表情とやり取りはこの記者会見を行なっている時すら鮮明に思い出せる。

 

 

『今後何かあったら、俺がお前を助けるからな、いつまでも言ってくれ…か。これは酷い…』

 

 

未だに訓練兵として、兵士として活躍できるようにしてくれた彼女の幻影が消えない。

いつか絶対に故郷に帰ろうという願いは双方とも叶えたはずだ。

あれほど取り戻したかったシガンシナ区でみっともない自分の姿を見られたはずである。

 

 

『クソ、せめて最後に殺し合えていればな……』

 

 

最後にフローラと交戦した場所は、人類活動領域の最北端ユトピア区壁外であった。

憎んで殺しにかかってくれればライナーも諦めがつく。

だが、シガンシナ区で生き残ったのは、明らかにフローラの温情があったと理解していた。

 

 

『ここまで悩む事も無かったのに……クソッタレ!』

 

 

まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様で彼は気が済まなかった。

不自然にも死ねない巨人(プロットアーマータイタン)】と自嘲する彼にとってあの戦場すら生易しかった。

絶対に死ねるはずなのに未だに生かされていると実感するからこそ自責と幻覚が消えないのだ。

敵対したとしても、同期相手には明らかに手加減をしてくれた彼女の顔が未だに忘れられない。

 

 

「死さえもあそこでは救いだった。それは間違いない。そしてその非常識は終戦と共に終わった」

 

 

ライナー・ブラウンという男には、印象に残り続けている男女が居る。

1人目は、不俱戴天の仇として鎧の巨人を憎むフローラ・エリクシア。

そして巨人を地上から1匹残らず駆逐すると豪語していたエレン・イェーガーであった。

 

 

「だから今こそ伝えたい。地獄で苦しむのは大罪を背負ったエルディア人で充分であると…!」

 

 

しかし、何故かライナーは近い将来に2人と再会する気がした。

戦争が終わった以上、すぐにでもパラディ島に攻め込むのだから当然と言えば当然である。

だが、それよりも早く逢える気がしてならない。

いや、文字を変えて遭うと表現するべきか。

 

 

『なんだろうな……こういう嫌な予感は良く当たるんだよな…』

 

 

自分の故郷である壁に囲まれたレベリオで再会する気がしてならない。

自責による脅迫観念が影響しているのかとライナーは思いつつも、嫌な予感が続いている。

そしてその予感は最悪の形となって実現する事となる。

レベリオが大惨事になる日は近い。

そして…人類が存続する可能性が見えた希望とは裏腹に人類の滅亡は刻々と確実に迫っていた。

 

 

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