進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
ミカサ・アッカーマンは、早朝に憲兵が扉を叩く音によって起こされた。
同期たちも瞼を擦りながら何事かと、動向を見守っていた。
「エレンが目覚めたんですか」
「ああ、さっそくで済まんが重要参考人として来てもらう、すぐに出発の準備をしたまえ」
彼女はエレン・イェーガーが3日ぶりに目覚めたという話を聴いてひとまず安心した。
だが、憲兵の放った次の一言で凍りついた。
「奴は兵法会議によってその身柄の処遇が判断される…どうせ解剖されて処分されるだろうよ」
その瞬間、頭痛が彼女を一時的に正常な判断力を失った。
すなわち憲兵の首を爪で掻き切ってやろうという気持ちになったのだ。
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」
「扉の前で待ってるぞ」
「はい、10分で支度をします」
その殺意の衝動に耐えられたのは、目の前にアルミンが居たからだ。
「では、わたくしたちは着替えますので扉を閉めさせて頂きます」
フローラは、ミカサの“声”を聴き取り、とにかく負の連鎖を断ち切るために扉を閉めた。
少しでも扉を閉めるのが遅れたら理性が薄れたミカサが憲兵に飛び掛かっていたからだ。
そんな事したら、弁解の余地などなくなってしまう。
さすがに憲兵と言えども、よっぽどな正当な理由がない限り、女部屋には踏み込めない。
それ故に彼女は扉を閉めたのであった。
「よかったわね、エレンが生きてて…」
「でもあいつ!エレンを解剖して処分するって言った…!」
「所詮、保守派の下っ端に過ぎない小物に殺意を抱いていたらキリがないわよ」
「…フローラはどう思う?」
「少なくとも憲兵団と王政府は、エレンを排除しようと考えていそうね」
ミカサはエレンを守る為ならこの手を汚すのを厭わなかった。
しかし、敵は王政府及び、憲兵団。
彼女がいくら強いからと言って国家には勝てない。
「大丈夫よ、エレンには心強い味方がいるから」
「…慰められても私の心は変わらないわ」
「調査兵団と商会、トロスト区の住民が味方になっているわ」
調査兵団?商会?
ミカサからすれば巨人を敵視する組織が味方だというのは初耳であった。
「どこで情報を仕入れてきたの?」
「商会に関しては、聞屋の娘さんのサンドラ経由で仕入れてきた」
フローラから二つの新聞を手渡されて思わず受け取って確認をした。
丸められた新聞の記事には、トロスト区奪還について簡潔に書かれていた。
もう1つは商会の機関紙で「人類の味方である巨人によって壁の穴は塞がれた」と書いてあった。
「少なくとも商会は味方…か」
「調査兵団に関しては、エルヴィン団長から直接聞いてきたから間違いないわ」
「分かった、フローラ。貴女を信じる」
エレンを味方になってくれる組織がいる。
ただそれだけで彼女の心は晴れていった。
「あまり憲兵を待たすのも悪いし、さっさと制服に着替えましょう」
「えぇそうしましょう」
「ナイフや針を仕込むのは駄目だからね?」
「分かったわ…」
フローラによって思考を先読みされて牽制されてしまった為、ミカサは武器を仕込むのは諦めた。
そのフローラもこっそり武器を仕込む気満々だったがミーナに牽制されて諦めた。
どちらも似た者同士であった。
「無駄に豪華な馬車ですこと」
「うん、私にはこの椅子は慣れない」
「これはソファーっていう奴だよ」
アルミン、フローラ、ミカサは、エレンが拘束されている審議所に向かう馬車の中に居た。
「さすがアルミン、物知りね」
「そんな事よりエレンを助ける事を考えないと…」
「決めるのは、お偉いさんであってわたくしたちにできるのは少ししかないわよ」
「だからこそ、僕たちの証言によって展開を変えていくんだ」
まず、巨人はエレンの巨人に敵視していること。
巨人化したエレンは、20体以上の巨人を葬った事。
トラブルはあったもののトロスト区の穴をエレンが大岩で塞いだこと。
幼少期からエレンは巨人を憎んでおりその点については何も変わっていない事。
「エレンの幼少期に怪我した時は、傷の治りは普通だった」
「巨人になれるようになったのは本人が言ってた通り、ウォール・マリアが陥落してからか」
「でも、こういう情報は黙っていた方が良いかもしれない」
「確かに、あえて伏せておく方が混乱させずに済むかもね」
時折、外にも聞こえる程度の雑談をこなしつつ、打ち合わせをしていく3人。
エレン、エレン、エレンのゲシュタルト崩壊で3人が頭エレンになりそうな頃に審議所に着いた。
「トロスト区の兵団本部並みにでかいね」
「そこまで重要な施設ってことかしら」
「あそこにエレンが居る…待ってて」
憲兵に誘導されながら彼女達は審議所に入っていた。
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エレン・イェーガーは、目覚めた時は牢屋の中で拘束されていた。
ライフルで武装した兵士は、雪よりも冷たい態度で彼に接しており質問すらまともに返してくれなかった。
「あいつら…無事だといいな」
不思議と自分よりも140期生の同期たちの顔を思い浮かべていた。
もう戻れない日常。
5年前にも経験したが、今回も同じ経験をしてしまい悲しくなっていた。
それからが怒涛の出来事の連続であった。
「君がエレンだね?」
当然鉄格子に顔面を激突しながらも凄まじい執念の顔で見つめてきた女兵士。
「やっと目覚めたようだな」
目つきが鋭くまるで殺意剥き出しの小柄な兵士。
「もう少しの辛抱だ、必ず君を救い出して見せる」
金髪をしっかりとセットした胡散臭い兵士。
「やあエレン!生きてるかい?」
「えぇ、なんとか」
「待たしてゴメンね!でもこれでようやく出れるようになった」
「はぁ…?」
考え事で周りが見えてなかったのか鉄格子の前に兵士たちが勢揃いしていた。
戸惑うエレンを無視をして罪人を強制連行するかのように牢に出された。
後ろにはライフルで武装した兵士3名。
両腕を背中にまわされて手錠を填められながら先導する兵士に向かって進んでいく。
「あの…なにか」
「ああ、彼はこうやって初対面の人の匂いを嗅ぐのが趣味なんだ」
「…ふん!」
「そして鼻で笑うのが癖だ、まあこう見えても分隊長なんだけどねー」
「そうなんですか…」
大男が自分の首元を嗅いでくるという奇行に背筋が凍りつくほどであった。
丁寧に説明している女兵士の頭髪が油まみれで寝ぐせが目立っていた。
殺意と恐怖を向けている兵士達の方がいくらかマシと言う意味が分からない状況であった。
「彼はミケ・ザカリアス、私の名はハンジ・ゾエ」
「まあ、今は覚えなくて良いよ」
「えーっと、どこに行くんですか?」
「そうだなー君の処遇を左右させる断頭台ってところか」
「えっ…」
物騒な単語を聴いてしまい立ち止まりそうになってしまった。
ただ、まだ殺されていないのが奇跡なのかもしれない。
友人たちは怖がらなかったが大半の民衆や軍人から見れば、自分は化け物である。
自分ですら身体に何が起きているか分からないのに他者に人権を認めてもらうなど無理な話だ。
「ゴメン、ちょっと言い過ぎたみたいだ」
「いえ、自分でも人類の異端って事は理解してるんで…知ってる事を説明するだけですよ」
「いやいいよ!巨人化の説明しなくても!エレンが思っている事を一言一句叫ぶだけでいいよ」
「えっ!?」
巨人化した原因を説明しようとしていたエレンは、ハンジから咎められた事に驚いた。
人類の異端者である自分は、巨人化できる要因になった【地下室】など話すつもりだったからだ。
もし、自分が殺されても意志を継ぐ人がきっとなんとかしてくれると信じていた。
もちろん、死ぬのは嫌であったが。
「勝手で悪いんだけど、後がない我々には君に縋る事しかできないんだ」
ハンジとミケは目の前に立ちはだかるような大きな扉を開いた。
そこには、そうそうたる顔ぶれが集結していた。
憲兵団の師団長、ナイル・ドーク
駐屯兵団の司令官、ドット・ピクシス
調査兵団の団長、エルヴィン・スミス
兵団のトップはもちろん、その3つの兵団を束ねるダリス・ザックレー総統
トロスト区の商人を束ねるリーブス商会の会長、ディモ・リーブス
ウォール教の南部支部の主任司祭、ニック・ボーデヴィヒ
エレンの処遇を決める為に現時点で集結できる首脳陣が勢揃いしていた。
「進め」
「はい」
兵士たちに誘導されてエレンは前に進んでいく。
まるで罪人の様であったが、彼は半ば受け入れていた。
「あいつら…」
この兵法会議は、人類の未来を左右するものであり、選ばれた者しか参加できなかった。
だがこの場には、ミカサとアルミン、フローラといったシガンシナ区出身の同期が居た。
おそらく水門で追い詰められた時の3人も重要参考人として招集されたのだろう。
自分だけではなく彼女たちを巻き込んでしまい彼は唇を噛み締めた。
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フローラ・エリクシアは、【特別兵法会議】という名の茶番劇に呆れ果てていた。
別にエレンが無事に生活できるのであれば、それ以外はどうでも良いと考えていた。
保守派や壁教や王政の連中によって妨害されるのは想定していたが予想以上に酷かったのだ。
彼女は既に、人や巨人などから発せられる負の感情の“声”を聴ける能力で大体把握していた。
「あいつは人間に化けた悪魔だ!すぐに処分するべきだ!」
「いや、ここは解剖して巨人の仕組みを調べるべきだ!」
「何を言っている!奴の力でトロスト区の復興作業に当たらせるべきだ!」
「巨人関連は調査兵団の管轄だろうが!我々に任せろ!」
「調査兵団如きが憲兵団に意見に反対するな!!」
要するに『エレンという高度な政治の道具』で王政上層部共が遊んでいるだけであった。
彼らの口から発せられる声と裏腹に誰かを出し抜く、蹴落とす、貶めるなどの感情である。
あのザックレー総統ですら憲兵団か、調査兵団にエレンを押し付けてさっさと会議を終わらせたい感情である。
「あいつもだ!こいつと2人で強盗を3人刺殺しているなんて無関係なはずはない!」
「そうだそうだ!奴の報告書には願望しか書いておらず、まるで庇っているじゃないか!!」
「もしや、彼女も巨人化できるのでは!?」
ミカサとアルミンの証言と提出した資料を一蹴されたどころか貶されているのも問題であった。
特に彼女の場合は、過去の出来事も併せて圧倒的に不利であったのだ。
このままでは、無関係な彼女まで巻き込まれてしまう。
「違う!彼女は無関係だ!もしそうならここには来るわけありません!」
「黙れ!許可が下りるまで貴様の発言権はないぞ!!」
不毛な応酬を繰り広げられるどころか一方的だった。
説得して見せると意気込んだアルミンも一瞬で意気消沈しており項垂れている。
未曽有の危機の状況下で、こんな茶番劇を繰り広げる人類にフローラは失望していた。
「静粛に!願望や推測だけで話を進めていくのは真実を捻じ曲げて歪曲する行為である!!」
「この特別兵法会議にて、貴重な証言を妨げる行為は、誰であろうとも許さん!!」
「…ミカサ・アッカーマンの証言はここまでとする」
なんとかザックレー総統によって過熱した議論は鳴りを潜めて静かになった。
裏ではエレンの処遇を巡って牽制し合い、妄言でも考えているのは誰でも分かる事である。
「最後は同じ出身地のフローラ・エリクシア君、君の話を聴きたいのだが良いかね?」
「はい、畏れ多くも新兵であるわたくしが、エレン・イェーガーについて証言させて頂きます」
ザックレー総統に発言の許可をもらったフローラは少し黙り込んでから発言をした。
「エレン・イェーガーという少年は、救いようもない男の子でした」
「彼は激情家で、思った感情を剝き出しにして相手に暴力で表現する…そんな男です」
「感情のまま、誰かを傷付けたりしましたが!それでも目標に向かって進撃していく人です」
どう足掻いても否定される事を察していた彼女は、あえて開き直った。
わざと傍聴人が望んでいた餌をばら撒き、最後まで証言を聞かせようとしたのだ。
現に証言を妨害してきた貴族や憲兵ですら必死に耳を傾けている。
「訓練兵団に所属していた時もそうでした」
「アルミンをいじめた同期に、彼は感情を爆発させて殴り倒して医務室送りにしました」
「それだけではありません、率直で救いようもないほど正直なエレンは様々な問題を引き起こしました」
ミカサやアルミン、エレンが信じられないという表情をしてフローラの顔を見ている。
彼らから聴こえてくる“声”は、完全にパニックになっており彼女の想定通りである。
「待て!?エレン・イェーガーが危険な人物であると証言するのか?」
「えぇ、おそらく内心では…失礼ですが、王政や憲兵団に伝えたい事が山ほどあると思います」
「それは我々に脅威であるというのか?エレンは我々に敵意を隠しているのか!?」
「本能に基づいて行動する彼ですが、おそらく発言権がない為に必死に我慢しているのでしょう」
フローラは柱に両手を固定されて跪いているエレンを見る。
何かを言いたそうに、必死に我慢しているのが確認できた。
「なるほど、君の意見は良く分かった」
「だが何故、水門で庇ったはずのエレン・イェーガーに対して不利の証言をしたんだ?」
審判者であるダリス・ザックレーは思わず自分の本心で感じた事を質問した。
報告書や水門での行動からして、彼女はエレンを庇うと推測していたからだ。
ところが、保守派や憲兵団の危惧を裏付けるような証言をしており意図が読めなかった。
「こうでもしませんと、エレン・イェーガーという男は、本心を曝け出す事はできません」
「つまり、この証言は事実であるが、わざとやったとでも言いたいのか?」
「仰る通りです、彼を見てください」
傍聴人たちは指示される通りにエレンを見た。
まるで火薬庫に火が放たれたように爆発寸前の彼は震えており、怒りを露わにしていた。
「ご覧いただいたように彼は怒っています」
「ああ間違いない!」
「やっぱり奴は危険だ!」
「排除するべきだ!!」
外野は巨人化を恐れてあたふたしながら暴言を飛ばしていた。
ここで巨人化される恐怖で頭が一杯になっておりパニック状態になっていた。
その様子を見ていたザックレーは証人を見つめると口が笑っているのが目に見えた。
保守派や憲兵派、王政派を焦らせて感情剥き出しにしている無様な姿を嘲笑っていたのだ。
「静粛に!!」
「…言いたいことは良く分かったが、君は彼の代行としてその【怒り】とやらを発言するのか?」
「いえ、本人に言わせた方が、巨人の恐怖に縁がない皆さまの心に響く事でしょう」
「そこまでしてでも、エレン・イェーガーに発言させたいのか?」
「はい、その為の証言なのですからー」
「よかろう!エレン・イェーガーの発言を許可をする」
たかが小娘の計略に乗るのは癪に障るものであったが、中々面白い経験だったので彼は乗った。
一斉にエレン・イェーガーへ視線を映して黙然としている兵士と傍聴人。
「さてどんな発言をするのやら」
ザックレーは内心では、未知なる光景に子供の様に心躍っていた。
一方、エレンはフローラが親指を立てて『検討を祈る』というジェスチャーを目撃した。
今まで発言する権利すらなかったエレンは、ようやくこの場で発言する権利をもらったのだ。
後押しをされた彼は決意して口を開いた。
「ずっと、話を聴いて!あなた方は!何を恐れているんですか!!」
「俺は!トロスト区の穴を!大岩で塞いだ!英雄なんですよ!!」
感情を爆発させてエレンは思い浮かんだことをただ叫んだ!
「大体あなた方は!なにもやってない!!」
「トロスト区を救ったのはオレだ!!」
「さっきから聞いていれば人類の危機に対して他人事じゃないか!!」
「兵士達はあんたらみたいな!腰抜け共を!守るために死んだんじゃない!!」
「穴を塞ぐオレの為に!!大勢が犠牲になったんだ!!」
もはや止まることは無かった。
ただ、理性で抑えられていた感情や想いから言葉がどんどん溢れてきていた!
「人類を救えるのは!オレだけだ!!」
「この何もせずに税金を浪費する腰抜け共が!!」
「分かったら!全財産を!黙って!オレに!投資しろ!!」
「この腰抜けの役立たずで糞みたいな豚共が!!」
エレンが放った魂の叫びは、審議所全体に響き渡り全員の鼓膜を振動させた。
次の瞬間、エレンの顔面に蹴りを入れられた。
その衝撃は、歯を1個飛ばす威力があった。
「リヴァイ兵士長、そこまでにしてはどうだ?」
「ああん?お前らはこいつを解剖して処分するつもりだっただろうが!」
「それ以上やると巨人化する恐れが…」
「今更、何を抜かしているんだ?」
人類最強の男によって、エレンは凄惨な暴行を加えられていた。
巨人化の能力による肉体の再生がなかったら即死しているくらいの酷さであった。
エレンを敵視していたナイル師団長が制止するまで兵士長に蹴りは止まることは無かった。
「こいつは巨人化した際に20体の巨人を葬ったと聞く」
「ああ…だから!」
「だからなんだ、俺ならこいつを殺せる…だがお前らはできんだろ?」
リヴァイ兵士長は、躾けは痛みを与えるのが一番だと思っている。
彼に必要なのは、教育でなく教訓である。
つまりここでいう教訓は、【身の程を知れ】ということだ。
これはエレンだけではなく、政治の道具と扱ってきた腰抜け共に向けたものだ。
「総統、ご提案があります」
「発言を許可する」
「エレンの【巨人の力】は不安定要素を含んでおります」
「そこで巨人のプロフェッショナルである調査兵団が彼の身柄を預かり徹底的に管理します」
「それにリヴァイ兵士長であれば暴走した時にいとも容易く殺す事ができます」
エレンという未知なる巨人の恐怖で支配された審議所。
ここぞと言わんばかりに調査兵団の団長エルヴィンの独壇場であった。
ザックレー総統は、返り血を浴びて血まみれになったリヴァイを見た。
「できるのか?」
「殺す事には全く問題ない、問題なのはその中間ってところだ」
潔癖症の彼がわざわざ血塗れになってでも場の空気を変えた覚悟を見た。
「お待ちください!内地の問題は解決しておりません」
このままエレンを容認する空気を感じ取り思わずナイル師団長が異議を唱えた。
彼もまた、人類を想い行動してきた人物である。
「我々の壁外での活動は、内地のおかげだと認識している」
「決して内地の問題を軽視していません」
かつての同期であり友人であるナイル師団長の心境を察したエルヴィンが返答をする。
彼としても憲兵団や王政を敵に回してでもエレンを匿う気はなかった。
「そこで壁外調査でエレンが人類にとって有意義だと証明してみせます」
「その結果で判断して頂きたい」
エルヴィン団長の提案は魅力的であった。
成功すればエレンは人類の戦力として公式に承認できる。
失敗してもそれを元に有無言わさずに断罪できるのだ。
どちらにしても、壁外に送るという提案は、壁内の問題に苦しんでいる傍聴人たちは賛成した。
「決まりだ、エレン・イェーガーは調査兵団に託す」
「ただし、成果次第ではここに戻ってくることになろう」
「ハッ!」
フローラは、リヴァイ兵士長に暴行されていたエレンを指をくわえているしかできなかった。
ミカサに至っては、暴行した元凶を睨んでいた。
「おい!そのガキ!お前のせいでこうなったんだ!介抱してやれ」
リヴァイの一言で、証言台から飛び出したフローラはエレンの元に駆け寄った。
「ごめんなさいエレン!わたくしのせいで…!」
「いいんだ…結果がよければ…」
久しぶりにフローラの香りを嗅いだエレンは安心したかのように瞼を閉じた。
拘束器具は外されたものの、未知の存在を恐れたのか誰も運ぼうとしなかった。
やむを得ず彼女は、自身の肩に彼の腕をまわして無理やり運ぼうとした。
「私も手伝おう」
「お願いします」
エルヴィン団長の申し出を受け入れて2人でエレンを運んでいった。
その様子を身動きが取れないミカサとアルミンが見守っていた。