進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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15章 英雄になりたかった少年が紡ぐ忘れられない栄光の時代
170話 回想0-1 英雄になりたかった少年


かつてエルディア帝国に滅ぼされたマーレは、英雄ヘーロスの活躍で奇跡の再興を果たした。

それと同時に悪魔の一族であるユミルの民を支配して【九つの巨人】の継承者を確保する。

だから巨人の力を擁する【マーレの戦士】は、マーレが再興した同年から運用されている。

 

 

「聞けエルディア人よ!、我々はマーレはユミルの民からマーレの戦士を集る!」

 

 

しかし、【マーレの戦士】になる為の【戦士制度】は、831年に創設された。

創設経緯は最重要機密なので現役のマーレの戦士であっても理由は分からない。

ただ、当時は世襲制であった【戦士】に成れるという資格が一般エルディア人にも開放された。

それは、生まれてからずっと人権が得られない一般エルディア人の希望となる。

 

 

「戦士になる応募資格は、大陸各地の収容区から5歳から7歳までの健康な男子女子のみとする」

 

 

とにかくマーレ人として保証してくれる【名誉マーレ人】が世襲制でなくなった影響は大きい。

すぐにマーレ全土にある収容区から5歳から7歳の男女が戦士に成る為に応募した。

 

 

「当然の事ながら最大でも6名しか戦士にはなれない!それを忘れるな!」

 

 

ただし、マーレの戦士になれる席は、僅か6個しかない。

831年当時のマーレ国内におけるエルディア人は500万人

その内、戦士候補生の応募資格がある者は約25万人ほどだ。

戦士制度が発表された年は、その大半が応募したので当選倍率は、0.000024%ぐらいになる。

一見すると宝くじの一等くじの2000万分の1よりはマシの様に見える。

 

 

「そして戦士は、剥奪資格を満たさない限り、任期満了で交代してもらう!」

 

 

だが、戦士の席は毎年空いている訳ではない。

現役の戦士が【力】を剥奪されない限り、任期が満了となる13年間も空席となる。

なのに応募者が戦士候補生になれる期間は、最大でも3年しかない。

この時点で客観的に考えれば、マーレの戦士の募集制度が破綻していると分かる。

 

 

「これから第一次戦士候補生応募者の選別試験を実施する!」

 

 

だが、エルディア人は明らかに破綻している制度にしがみ付く。

それを嗤う様にマーレ軍は、毎年押し寄せる応募者に対して何度も選別試験を実施した。

3桁まで応募者を絞る事で専門教育が実施できる様にとマーレらしくないほど力を入れている。

よって第四次選別試験まで勝ち抜いた毎年100名の応募者のみが戦士になれる権利を手にする。

 

 

『やった…』

 

 

ライナー・ブラウンと名乗る少年も何度も面接を受けて最後まで応募者として残り続けた。

そして見事に最終選別試験に合格して身が震える。

同じく合格した応募者たちと共に整列して指示を待った。

 

 

「諸君、まずはおめでとう…でも言っておくか。何故なら戦士候補生になれる資格があるからな」

 

 

その時に遭遇したマガト少佐は、ライナーから見ると…かなり優しく見えた。

今までのマーレ兵は、本気で膨大な数の応募者を落選させようとする存在だったのだ。

 

 

『どんな人なんだろう…』

 

 

彼は応募者をマーレの戦士になれる戦士候補生として応募者を育成するのだ。

彼の熱意がヒシヒシと伝わって来たライナーは改めて覚悟を決めた。

 

 

『頑張って戦士になる!!』

 

 

当時のライナーは本気でそう思っていた。

自分と同期である99名の戦士候補生応募者もそう思った事だろう。

だが、名誉マーレ人になるのが、どれだけ困難な道なのか、すぐに思い知らされる事となる。

 

 

『な、なんで…』

 

 

応募者の選別試験においては、マーレへの忠誠心はもちろんとして面接と体力試験が実施された。

ただし、不要な人物を落とす為の試験なので勝ち抜いた彼らは必要とされる人材だった。

 

 

『なんでだよ!?』

 

 

その精鋭たちを15名まで減らす抜き打ちの試験がいくつも実施された。

ここで問題になったのは、応募者たちは一切それを知らなかった事だ。

 

 

『ただの集団による討論会(グループ・ディスカッション)じゃないのか!?』

 

 

戦士隊の入隊説明会を受けた後、100名の応募者は20個の班に分けられて個室に案内された。

そこで、班員たちは簡潔な自己紹介をした後、教官から10個の議案が渡された。

5名で構成された1個班は、議案毎にそれが向いている人物を推薦する事となっていた。

この時点で誰もが不審がったが、その違和感を口にできた者は居ない。

 

 

『まだ戦士になる為の勉強や訓練すらできないのか!?』

 

 

集団による討論会(グループ・ディスカッション)の結果が貼り出されたので応募者たちは掲示板に集った。

ライナーもその1人であったが、掲示板に貼られた書類を見て愕然とした。

応募者の記録用紙で採点し、班ごとに点数が最も低かった応募者20名が落選していたのだ。

 

 

『なんで!?』

 

 

これが意味するのは、戦士候補生の応募者が同期を蹴落とすという行為をマーレは推奨している。

それにライナーが気付いたのは、1か月が経過した頃であった。

 

 

「ここまで勝ち抜いた君らに…正式に戦士候補生になれる資格を与える…が油断しないように」

 

 

再び、マガト少佐に遭遇した時は、ライナーの成績は最下位(ドベ)である15位だった。

彼は、自らの意志で同期を蹴落としてギリギリ戦士候補生になれる資格を手に入れたのだ。

その日は、マーレの戦士になる為に応募してから3ヶ月が経過した時であったと…記憶している。

 

 

「ここから勝ち抜かないと…」

 

 

ここから応募者は落選しなくなったが、今度は戦士候補生に選ばれなければならない。

通常であれば、18歳以上のエルディア人の男女が行う訓練を5歳から7歳の子に課せられた。

それでも【名誉マーレ人】になりたい5歳から7歳の子供たちは死に物狂いで頑張った。

そんな彼らには誰かに手を差し伸べる余裕などないし、むしろ放置するのが常識だった。

 

 

「誰にも頼らずに自分の力で頑張らないといけないんだ…!」

 

 

既に戦士候補生の試験が始まっていると知らされた子供たちは全力で訓練に励む。

どのタイミングで合格するのか一切知らされていない為、油断している暇も無かった。

しかも、身体能力が高い30名の先輩も居るのだからどれだけ過酷だったか…。

ライナーは思い出したくもない。

 

 

『今年はダメだった…でも2年以内に合格しないといけない!絶対に…』

 

 

結局、戦士に志願した年には戦士候補生になる者はおらず、来年に繰り越した。

ライナーは戦士候補生になるまで誰にも頼れずに苦悩し続ける毎日を過ごしたのだ。

同期より身体能力が劣っているせいで後輩にも成績が劣る事が多々あった。

 

 

『あああ、あしが…』

 

 

最初に候補生応募者が戦士候補生に合格している日を覚えている。

荷物を背負って銃を構えていつでも戦闘ができる【戦備行軍】をしている時だった。

あの日は、あいにくの大雨で視界が悪かったが、戦士候補生に合格した人物の顔を覚えている。

 

 

「くっ!?」

 

 

先頭を走るライナーは確かに頑張っていた。

だが、マルセル・ガリア―ドが必死に走るライナーをあっさりと追い抜いていった。

 

 

「まっ…」

 

 

ライナーは思わず彼の背中に向かって手を伸ばすが、決して届く事は無かった。

そして行進予定地に真っ先に辿り着いた同期のマルセルは…。

 

 

「マルセル・ガリア―ド!合格!!」

 

 

戦士候補生の席を手にしたのだ。

それを示すようにマガト少佐の発言が聴こえてきた。

この事件は、久しぶりに戦士候補生が誕生したと同期どころか先輩も大騒ぎするほどだった。

ここからライナーは更に焦る!

 

 

『クソクソ!!』

 

 

残念な事にライナー・ブラウンという少年の頑張りは他者に比べれば成果は少なかった。

次に戦士候補生に合格したのは、自分より年下のベルトルト・フーバーであった。

 

 

「ベルトルト・フーバー!合格!!」

 

 

今度は狙撃の実技だった。

5発装填できるボルトアクション式ライフル銃で的を狙撃するだけの試験。

たったそれだけだったのだが、5発とも的の中央部に命中させた後輩のベルトルトが合格した。

 

 

「くっ…」

 

 

巨人の力を行使するには、狙撃の技能(スキル)が必要ないのは明白である。

だが、彼は合格してしまった。

既に【戦士候補生】に合格できる人物は決まっており、それを示す実績が欲しいのでは…。

最近まで戦士候補生の合格がなかったのは、それが原因では…。

必死に実技も勉学もこなすライナーはそう考えるようになった。

 

 

「5人抜きをしたか、実力も申し分ない!アニ・レオンハート!合格!!」

 

 

次に戦士に決まったのは、偶然にもライナーが対人格闘実技でアニに敗れた時だった。

その時の彼女の目は、自分を地べたを這いずる虫を見る視線だったと記憶がある。

ただ、そこは重要ではない。

またしても後輩に戦士候補生の席を奪われてしまったという事実が大きかった。

 

 

『やっぱりそうだ…!!』

 

 

対人格闘術で5人抜きした程度で戦士候補生になれる実績が得られる訳が無い。

戦士候補生の応募者を納得させる実績が欲しいだけに見えた。

 

 

『やだやだやだ!!』

 

 

マーレの戦士になれる席は限られているが、戦士候補生になれる席はいくつか教えられていない。

もしかしたら、このまま打ち切りになるのではと…ライナーは悪夢のような考えに至った。

このまま何もできずに戦士になれる資格を失うのではないかと…。

 

 

『嫌だ!!僕は戦士になるんだ!』

 

 

ライナーには夢がある。

いや、母の夢を叶えるために戦士になる必要があった。

だが、誰よりも努力してようやく半人前であると自覚していた。

このままではいけないと考えた彼はすぐに行動した。

 

 

「教官殿!このままの実力では祖国マーレを守れません!!どうか、ご教授をお願いいたします」

 

 

自分が戦士候補生の応募者で最下位(ドベ)なのは、自他共に知っている事である。

だから応募者の誰よりもあらゆる面で少し劣る少年は、事あるごとに教官に訴えた。

【今の自分では祖国を守れない】だから【マーレを守れる実力者になる為に努力したい】…と。

ここからライナーは、全員の教官に頭を下げて色々指導してもらった記憶がある。

 

 

「教官殿、祖国マーレを仇なす敵兵を1人でも多く仕留めたいので!早く弾倉に装填できるコツをご教授お願いします!誰よりも早くマーレを守る男になりたいんです!」

 

 

ある時は、狙撃実技を担当する教官に何度も頭を下げて実技の指導をしてもらった。

 

 

「教官殿!誰よりも祖国マーレの盾になるべく素早く進軍できるコツをご教授ください!」

 

 

またある時は、自分の足の遅さを否定せずに教官に少しでも早く走れるコツを伝授してもらった。

唯一の長所を思い浮かべれば、誰よりも我慢強い事しかなかった。

それを身をもって示すように非力な少年は、とにかくマーレの忠誠を示し続けた。

 

 

『母さん…』

 

 

物心ついた頃から何度もライナーは母の話を聴いた。

自分に流れているのは悪魔の血であり、被害者である人類に贖罪(しょくざい)し続ける為にある。

だから父親であるマーレ人とは一緒に居られないと…。

涙を流す母の顔を見てその度に思った事がある。

 

 

『僕が戦士になって母さんが父さんと一緒になれるように頑張るよ…』

 

 

マーレの戦士になって名誉マーレ人になれば父親と再会できる。

何度も母が「マーレ人に生まれていれば…」と口にする度に彼は戦士になろうと思った。

そうすれば、捨てられた自分たちを再び、愛してくれると本気で思っていた。

 

 

『絶対に……!』

 

 

母親であるカリナは、自分が戦士になるのを期待している。

自分がこの世に生まれたのは、マーレの戦士になって家族が再び一緒になる為だ。

 

 

『そして戦士になったら、エルディア人を苦しめる悪魔を成敗してやるんだ!』

 

 

パラディ島の悪魔を成敗すれば、きっと大陸のエルディア人は人類が認めてくれるだろう。

世界を滅ぼす力をもったパラディ島の脅威がなくなれば絶対にそうなると少年は信じていた。

それを実行するのは自分で、世界一の自慢の息子になれると本気で思っていた。

 

 

『なのに!なのに!ここまで来て失敗してたまるか!!』

 

 

世界中から差別されて保護してくれるマーレ人にすら蔑まされている。

その未来を絶対に自分の手で変えたいライナーは様々な物にしがみ付いた。

同僚、先輩や後輩から馬鹿にされようが、教官に呆れられようが関係なかった。

 

 

『僕が絶対に戦士になって残酷な未来を変えるんだ!!』

 

 

泥まみれになろうが、疲労で倒れそうになろうが彼は歩き続けた。

母親が五体満足の健康体に産んでくれた以上、義務を果たす為に果敢に挑み続けた。

 

 

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成人になったライナーは、色々経験して成長した後に過去を振り返っているから分かる。

 

 

『この時の俺は、本当に何も知らなかったクソガキだな…』

 

 

人類であれば、誰かに褒めてもらう機会があるはずだ。

そうすれば、自己愛が満たされるのに…自分にそんな機会などなかった。

今思えば、母親に褒めてもらいたいから戦士を目指していたのが原動力と分かる。

それでも戦士を目指す事しかできなかったのだ。

 

 

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自分が戦士になれる資格を得られるなんて信じられなかった。

あの日、【マーレの忠誠を示す作文を時間内に仕上げろ】という訓練があった。

白紙3枚と筆記用具が置かれた自分の席に座ったライナーは紙と向き合う。

 

 

『やるしかない!!』

 

 

どの分野でも誰かに劣っていると自覚するライナーは作文に賭けるしかなかった。

自分の想いを誰かに伝える絶好の機会だからこそ本気を出した。

我慢強さと忠誠心の高さしか皆に勝っていないと思っているなら尚更だ。

 

 

『これでダメでも最後まで足掻いてやる!!』

 

 

ライナーは単に白紙の3枚を字で埋めただけではない。

他の戦士候補生応募者と差をつける為に自分だけの忠誠心を記した。

今でも全文を思い出す事ができる。

 

 

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僕は、戦士候補生応募者を嫌悪します。

 

何故ならば、誰もが同じ考えしかしていないからです。

誰もが口を開ければ、祖国マーレを守りたい。それか、マーレに仇なす敵を倒したい。

そういって訓練や座学に励んでおります。

 

僕は思いました。

それは当然の事でユミルの民が犯した大罪を償う事と同等な事。

むしろ、祖国マーレに尽くした先人たちと同じ轍を踏んでいるだけだと!

 

僕は違います!

今の英雄国マーレには、マーレ人の英雄を必要としている。

だから、その英雄を支え続けて礎になれる人物を目指しております。

この考えに至ったのは理由があります。

 

偉大なる歴史と実績を誇るマーレに敵対国が嫉妬するのは仕方がありません。

ですが、昨今における諸外国まで英雄国の実績をしっかり認識していないように見えます。

英雄国がこの世に存在しているからこそ巨人の支配から解放されたという歴史を忘れております。

歴史の継承を疎かにして歴史を忘れた民族に未来はありません。

 

これは僕はマーレの歴史を勉強したからこそ書く事ができます。

エルディア帝国に滅ぼされたマーレが英雄国になれた理由は1つです!

過去の歴史をマーレ人は忘れずにずっと継承し続けて虎視眈々と帝国の隙を伺ったからです。

英雄ヘーロスは、歴史を忘れなかったマーレ人の集大成であるとここで断言します。

 

「ユミルの民が犯した大罪の歴史を忘れてはならない」

 

クリューガー広場で誓った英雄の発言は、ユミルの民だけではなく世界中が受け継ぐものです。

マーレとユミルの民は、英雄の遺志を継いでずっと継承してきましたが、諸外国は違います。

英雄の発言を歪めて自分の都合の良い歴史として受け入れたのです。

 

だから、マーレの偉大さが諸外国に認知されていないのは歴史を歪めているからです。

英雄国の実績をただの歴史として教えているせいで後世の人物が偉業を甘く見ています。

それどころか、戦士候補生応募者も表面的にしか歴史を認識しておりません。

 

僕は祖国マーレの現状に危機感を抱いています。

祖国を更に偉大にするべきなのに誰もが現状維持に満足しようとしている現実に恐怖しました。

諸外国が間違った歴史を教えているのに誰も咎めずに祖国の偉業を甘く見ているのです。

今こそ、そういった間違いを正すべきと恐れを多くも提言させて頂きます。

 

自惚れた諸外国や敵対国の認識を変えさせるには再び英雄ヘーロスを継ぐ者が必要です。

そして、救世の英雄は絶対にマーレ人でなくてはなりません。

残虐なエルディア帝国を滅ぼす突破口を開いた英雄の遺志を継ぐのはマーレ人です。

 

僕はそのマーレ人に仕えて彼を英雄として世界中に名を轟かせたいです。

そうすれば、世界は再びマーレは英雄国であると再認識する事でしょう。

 

ですが、今の僕の実力ではマーレ人を英雄にする事はできません。

祖国マーレに再び英雄を必要としている現状、僕は必ず同志を集めて英雄を支える男になります。

 

僕はマーレだけではなくマーレ人の英雄を支える男になると誓います!

それが決して消える事が無い大罪の贖罪(しょくざい)になると信じています。

 

でも、僕は知っています。

現在進行形で歴史を忘れた民族が未来があると信じている事に。

パラディ島の悪魔を滅ぼさない限り、人類に希望はありません

マーレに再び英雄が誕生しても、自分の大罪を忘れた悪魔の一族を生かしては何も変わりません。

 

僕は、自分の長所を我慢強さとマーレへの忠誠心の高さしか示す事はできません。

それは事実です。

でも、ご命令とあれば、パラディ島の悪魔を殺してみせます。

これは巨人による恐怖で長年に渡って苦しめられた世界の意志です。

 

そして英雄に率いられた僕は、必ずその使命を達成してみせます!

絶対にエルディアの悪魔を滅ぼして人類の救世主はマーレにありと示してみせます!

 

どうか、僕に祖国に忠誠を示せる機会を頂きたいです!

必ずしや英雄国の威光を再び世界中の国家に照らして見せます!

僕はその日まで絶対に諦めません!

ライナー・ブラウンは、祖国マーレの盾として矛としてやり遂げてみせます!

 

それが祖国マーレに生まれた僕の使命だと思っております!

これが僕の存在意義となります。

 

 

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これが1枚目に書いたライナーの文章である。

マーレへの忠誠を誰よりも誓っていると示す文章であった。

ただし、1つだけ彼は本音を隠していた。

 

 

『僕は英雄になってみせる』

 

 

6歳だったライナー・ブラウンは、英雄になりたかったのだ。

英雄ヘーロスの名を出したのは、彼の存在に憧れたからである。

終わりが見えない暗黒時代を終わらせて新時代を築いた英雄に…。

 

 

『みんなから英雄と呼んでもらう!』

 

 

ただ、ライナーは英雄を自称するものではないと知っていた。

誰かに高評価されて歴史上の人物と比較されて初めてその肩書きが口から出て来る。

他者が評価してくれない限り、ただの自称でしかない。

 

 

『そうすれば、父さんも認めてくれるはずだ!』

 

 

全ては家族全員から愛されたいというライナーの本心によって動いていた。

更に短時間で2枚目の白紙も文字で埋め尽くして余白が無いようにした。

 

 

『みんなから尊敬される息子だと!!』

 

 

そう考えても、すぐに無理なのかもしれないと考えてしまう。

 

 

『クソ…クソ…クソッ……!』

 

 

3枚目を仕上げている内に夢のままで終わるのではないかとライナーは考えてしまう。

最悪の未来を思い浮かべてしまう為に表情が歪むのを必死に我慢していた。

そんな記憶がある。

横からポルコの視線を感じたが、当時はそれどころじゃなかった。

 

 

『戦士にならなくちゃ意味が無いんだ…』

 

 

教官が作文の評価をしている時間にライナーは必死に黒板を見続けていた。

視覚に優しい緑色の黒板は、何故かこの時は自分を見て嗤っているように見えた。

それでもできる事はしたと彼は思っていた。

 

「ライナー・ブラウン!そこまで書くなら忠誠を示してみせろ!合格だ!!」

 

 

そして採点した教官と共に入室してきたマガト少佐に戦士候補生に合格したと告げられた。

 

 

「ハッ!ありがたき幸せ!!必ずや結果を出してみせます!」

 

 

すぐにライナーは敬礼してマーレの戦士になれる光栄に身が震えた。

まさにその時が一番嬉しかった。

これで母に褒めてもらう事ができるのだから。

 

 

「母さん!」

 

 

あの日の事は良く覚えている。

自宅で夕飯の支度をしていた母親に声をかけて新しくもらった腕章を見せた。

 

 

「戦士候補生に選ばれたよ!!」

 

 

黄色の生地に白い色で示されたユミルの民の紋章。

間違いなく戦士候補生とその一族に配布される腕章そのものだった。

 

 

「ライナー!!よくやったわ!!」

 

 

すぐに母親は泣いて喜んで自分を抱きしめてくれた。

久しぶりに母親から愛されていると実感する少年は更に高みを目指す事に決意する。

 

 

「これで…名誉マーレ人まであと一歩ね」

 

 

だから母親の発言の違和感にその時は気付く事は無かった。

 

 

「うん、僕が必ず【九つの巨人】を継承してみせるよ」

 

 

温かな母の温もりと香りを味わうライナーは母の為にも戦士になると宣言するが…。

 

 

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果たして母親はライナーの事を見ていたのだろうか。

少なくとも、パラディ島で心身共に成長し、中東連合の戦争で成熟したライナーは分かる。

 

 

『……俺より戦士候補生の腕章を大事にしていたな』

 

 

マーレに居住するエルディア人にはいくつかの義務がある。

特例の処置か命令が無い限り、収容区で生活を送るのもそうだ。

そして人類とエルディア人を見分ける為に外出する際は必ず腕章を付ける事を義務がある。

腕章を付けずに外出すれば、【楽園送り】にされる大罪に至る例もある。

 

 

『すぐに戦士候補生の腕章を付けたんだったな…』

 

 

逆に言えば、収容区に存在する自宅の中では腕章を付けなくていいのだ。

だが、まるで腕章の方が大事だと言わんばかりに母は見せつけた腕章を取り上げた。

そして自分に左腕に身に着けた。

 

 

『俺の腕章をな…』

 

 

戦士候補生になった事を報告した当時の自分は気付かなかった。

自分はただの復讐の道具に過ぎないと…。

それが変わっていないどころか、むしろ悪化していると今なら分かる。

 

 

『母さん、パラディ島は本当に母さんの言う通り地獄だったよ…』

 

 

久しぶりにレベリオ収容区で母親の姿を見た時、ライナーは確信した。

異様に綺麗な【名誉マーレ人】を示す赤色の腕章を見て母はまだ狂っていると…。

 

 

『母親の違和感に気付かせたんだからな…』

 

 

ガビとガビの両親、親戚一同が集まって自分の自宅で生還記念会をした時もそうだった。

戦士候補生のガビとその両親は、料理が腕章に着かないように外して席に座った。

現役の【マーレの戦士】であるライナーですら赤色の腕章を外しているというのに…。

自分の母だけが、名誉マーレ人である事を他者に示す様に左腕に身に着けていたのだ。

 

 

『皮肉だよな…パラディ島では腕章を付ける文化なんかなかったもんな…』

 

 

もちろん、家の中でもエルディア人の証である腕章を付ける者は居るだろう。

ただ、どちらかというと罰則を恐れているからわざわざ【差別の証】を身に着けている。

誤って腕章を付けずに外出しない為の保険であって誰かに見せつけるものではない。

 

 

『はははは、ガビもいくつか気付くか?母さんの違和感に…』

 

 

きっと自分の後を継ぐガビは、自分の記憶から全てを知るだろう。

ここでの常識は外では非常識だという事に…。

未だに自分を愛してくれない母の心配をしながらライナーは更に戦士候補生時代を振り返る。

 

 

-----

 

あれは自分が誕生日を迎えたばかりの841年の夏頃だった。

戦士候補生の中で最も戦士に近いとされたジーク先輩の発言がきっかけだった。

 

 

「よお、お前ら!知ってるか?あと数年でパラディ島に攻撃を仕掛けるってさ!」

 

 

最初はライナーは自分の耳を疑った。

現役の戦士たちはマーレ大陸より南部の国家を攻めているはずだ。

マーレ大陸の北東に存在するパラディ島に攻め込む余裕が無いと思っていたのだ。

後の戦士長となる彼が発する次の発言を聴くまでは…。

 

 

「俺たちが巨人の力を継承する時が来たんだ」

「え……」

 

 

現役の戦士の任期など知らないライナーは少しだけ混乱した。

 

 

「もうじき南の戦争にケリがつく。そして現役の戦士にも任期が迫っている。そこでマーレ軍は、新体制の中で戦士隊を再編成するってよ!ここまで言えば分かるだろ?」

 

 

そんな自分の混乱に気にする事も無くジークは語る。

 

 

「俺たち戦士候補生の7人から一挙に6人が選ばれる」

 

 

あれだけエルディア人が望んだ席が6個もできたのだ。

1人だけ座れないが、今までの苦労を考えればむしろ夢みたいだった。

 

 

「やったぁ……これで…マーレ人になれる」

 

 

マーレの戦士に任命されれば、一族も名誉マーレ人としての権利を得る事ができる。

なにより、母から託された夢を同時に果たす事ができるのだ。

訓練終わりで疲れ切っていたライナーだったが、思わず本心が口から飛び出すほど喜んだ。

 

 

「はあ?何がやっただ?」

 

 

そのせいか、最後にマーレの戦士候補生に合格したポルコが噛みついてきた。

前から自分はライナーより優秀だと思っている彼は不愉快だっただろう。

 

 

「お前は、この中で最下位(ドベ)だろうが…。お前に座れる席はねぇぞ」

 

戦士候補生の中で成績7位(ドベ)がマーレの戦士になれると考えている事に…。

実際、後にライナーも戦士になれたと知って何故なのか疑問に思ったほどである。

まさか、あのタイミングで真相を知らされるとは思っていなかったが…。

 

 

「お前の長所は俺には分かるぞ」

 

 

1つだけ言えるのは、当時のポルコは、自分が戦士になれると思っていた。

 

 

「行動力か?体力か?頭脳か?射撃か?格闘術か?どれも違うだろう?」

 

 

ポルコ・ガリア―ドは、ライナーが戦士候補生になれた理由を告げる。

 

 

「ただの糞野郎が評価された理由なんて試験の作文で記したマーレへの忠誠心だけだろ?」

 

 

確かにライナーは否定できなかった。

未だに自分が戦士候補生になれた実績が良く分かっていないのだから…。

だから否定されること自体はライナーも我慢した。

 

 

「それに関しては尊敬するぜ。毎日、頭を下げて隊長に媚びて島の悪魔を皆殺しにしますってな。嘘も方便というが、思っても無い事をあそこまで書けるなんて詐欺師に向いているって俺は…」

 

 

しかし、ポルコがパラディ島の悪魔を根絶やしにする主張まで否定したのは我慢できなかった。

 

 

「今、なんて言った?」

「あ?」

 

 

ライナーは母の…大陸に残されたエルディア人の夢を嗤ったポルコを許せなかった。

 

 

「パラディ島の奴らは、世界を滅ぼそうとする悪魔の一族だぞ!?奴らは根絶やしにしなければ、またいつか殺戮を繰り返すんだぞ!!お前は俺たちの任務を馬鹿にする気か!?」

「な…」

「それともお前はフリッツ王を支持するエルディア復権派の思考を真に受けた裏切り者か!?」

「ま、まて…」

 

 

ライナー・ブラウンという男は、追い詰められると早口でまくし立てる癖がある。

自分の意見を否定されるのが恐れているのもあるが、意見を肯定して欲しいのだ。

だから次々と早口で自分の意見を述べて来るので割とゴリ押しができる。

 

 

「そうだ!そうに違いない!!隊長に報告してやる!!」

 

 

しかし、承認欲求も度が過ぎれば反感を買う。

どんどん話が意味不明な展開になるのを感じたポルコは激怒した。

 

 

「てめぇ!調子に乗るな!!」

「ぎゃ!?」

 

 

未だに思春期を迎えていない少年の精神は単純だ。

ムカつく奴が居たら我慢せずに手を出してしまう。

現にポルコに右手で殴られたライナーは痛みと衝撃で地面に転倒した。

 

 

「ポルコやめろ!」

「島の悪魔に恨みなんて誰もが思っている事を口うるさく言いやがって!!」

 

 

実の兄であるマルセルに羽交い絞めされたポルコは暴言で抑える羽目になった。

それでも怒りが収まらない彼は、ライナーにとって最も言われたくない発言をする。

 

 

「てめぇだけ留守番で13年待つんだな。せいぜい先輩面を練習しておけよゴミクズ!」

「クソォ…」

 

 

この時のライナーは自分が戦士に選ばれる自信がなかった。

だから反論できずにそのまま地面に伏せている事しかできない。

 

 

「敗北者を相手にするのは面倒だぜ。マルセル、行こうぜ!」

「す、すまないライナー…」

 

 

捨て台詞を吐いて集合場所に向かうポルコと後を追うマルセルの声だけ聴こえた。

 

 

「泣き止んだらすぐに来いよ!遅いと俺が叱られるからな!」

 

 

ついでにジーク・イェーガーの発言は追い打ちに聴こえた。

ピーク・フィンガーも疲労で発言する余裕がなかったのかジークの後を追ったようだ。

 

 

「クソ……もっと力があれば…」

 

 

無気力のライナーは、すぐに立ち上がる事ができなかったが…。

足音が聞こえて来た方向を見ると黒髪の冴えない長身の少年が居た。

 

 

「…立ってよ。ライナー」

 

 

自分に右手を差し伸べてくれたベルトルト・フーバーは後の相棒となる。

その時は、初めて自分に手を差し伸べた少年の手を右手で掴んで立ち上がった。

 

 

「13年間も待ってられないんだ…」

「え?」

 

 

自分の意志がないのが弱点という少年に本音を述べた時点でライナーは追い詰められていた。

いや、図星を指されて弱気になっていたのかもしれない。

 

 

「俺は…マーレ人になって母さんと父さんと3人で暮らしたいんだよ」

「どういうこと?」

 

 

自分の父親がマーレ人と白状しそうになったライナーは必死に我慢する。

それでも、ようやく手を差し伸べてくれた人物に本心を伝えたくなった。

 

 

「ごめん、忘れてくれ…」

「別にいいけどさ。次は13年後なんて確定してないよ」

 

 

やっぱり、こいつは優しい奴だとライナーは思った。

今の失言から「ライナーは名誉マーレ人の特権に釣られた」と報告しても良かった。

もし、逆の立場だったらライナーはやると確信しているからこそ…。

 

 

「俺はあいつの言う通りの存在だ。忠誠心くらいしか戦士になれた根拠が見つからないんだ…」

 

 

ベルトルトに自分の弱みを見せてしまった。

 

 

「そうかな?忠誠心は大事だと思うけどな…」

 

 

自分の意志はないが、相手の事を尊重できる彼の発言に少しだけ救われた。

指示待ち人間と候補生になる前から言われていたが、評価を見直した。

ベルトルト・フーバーという男は、いざという時は頼りになる存在だと!

 

 

「君はどう思う?忠誠心って大事だよね?」

 

 

一方、ベルトルトの方はさきほどの騒動でも動じなかった金髪の少女に声をかけた。

 

 

「……え?なんか言った?全く聞こえなかった」

 

 

ベルトルトの声かけで振り返ったのは、アニ・レオンハートである。

彼女は独学で格闘術を学んだようだが、どこか他者と関係を断とうとする一匹狼だった。

ただ、彼女も自分を労わる存在が欲しかったのか、数少ない友人を作る事となる。

 

 

「な、なにをしてたの?」

「別に私の勝手でしょ。それよりもうすぐ時間。さっさと行くよ」

 

 

ベルトルトもライナーもアニがバッタを踏んでいたと見て分かった。

だが、なんでここでバッタを踏むのか理解できない。

ベルトルトもそう思ったのか質問したが、アニは適当な返答をしてその場を去った。

 

 

「ああ…」

 

 

走り出したアニの後を追ってライナーとベルトルトは駆け足で前に進んで行く。

 

 

「ねえ」

「ん?」

「いいの?戦士になったら13年しか家族と過ごせなくなるんだよ?」

 

 

ベルトルトの疑問は当然と言える。

戦士になれば、長くても13年しか生きられない。

だから家族と一緒に過ごすなら戦士にならなくてもいいのでは…という気遣いだった。

 

 

「13年で英雄になるんだよ」

 

 

そもそもライナーは家族が元通りになるのを望んでいるだけである。

母親の思考と行動で少年期の思考に多大な影響を受けているライナーは違和感に気付けない。

 

 

「世界を脅かすパラディ島の悪魔を成敗すれば、エルディア人は…いや、世界が救われるんだ」

 

 

この時のライナーは、パラディ島の悪魔を滅ぼせば世界が平和になれると本気で信じていた。

幼少期を迎えた子供は、両親が神の様な存在として認識している。

そこから派生した世界が広がって常識を少しずつ改めるのが少年期である。

 

 

「そしたら俺は世界一の自慢の息子と認められるのにな…」

 

 

前を見て走るライナーがふと、空を見ると壁が見えた。

それは物理的な壁だけではない。

精神的な壁である。

 

 

『いつか、エルディア人も認められる日が来ると良いが…』

 

 

その願いが叶う事はない。

少年から青年になる為の思春期を迎えると現実が思った以上に過酷だと知る。

それでも足掻くものだが、絶対にやってはいけない事と成功しない事の分別ができるようになる。

 

 

「ライナー・ブラウン、君には鎧の巨人を継いでもらうが、覚悟はいいか?」

「問題ありません」

 

 

844年、13歳を迎える2ヵ月前にマガト隊長から【鎧】を継ぐ事を告げられた。

ただし、マガト隊長の発言に何か裏があるように聞こえた。

だからと言って名誉を否定できる訳もなく即答で【鎧】を継ぐ事を決意した。

 

 

「こっちだ」

 

 

案内された場所は、頑丈な地下壕であった。

まるで生贄の儀式の場に見える場所だったが、それは間違っていなかった。

 

 

「彼が()()()()()【鎧】の継承者だ」

 

 

両手の手枷によって鎖に繋がれた先代は白髪のおっさんだった。

任期の終了間近になると肉体に大きな変化が見られると座学では習った。

しかし、ここまで老けるものなのかと13歳の少年は衝撃を受けた。

 

 

「そして君が彼の遺志を継ぐ。……準備はいいか?」

「問題ありません」

 

 

先代の表情は安らかには見えなかった。

薬物で意識を朦朧とさせているのは、少しでも苦痛を和らげるためか。

そして戦士の末路を見せられたライナーだったが、臆さずに戦士になる事に決意した。

 

 

「成功だ」

 

 

鎧の巨人を継承した時の記憶は残っていない。

ただ、自分が自分では居られなくなった感覚がした。

マガト隊長で意識を覚醒した時は、レベリオ収容区にある中央病院の病室に居た。

 

 

「何か感じたか?」

「…マーレを守る使命を託されました」

「そうだ。それが鎧の巨人の使命だ」

 

 

本来であれば、他者の記憶や経験を継承する事は出来ない。

だが、戦士になったエルディア人は例外的に先代の思考と経験を継ぐ事ができる。

 

 

「……了解しました」

 

 

よってマーレの戦士は、初めての巨人化しても制御ができる。

どうすれば、効率良く鎧の巨人を動かせるかという感覚さえも肉体が覚えてくれている。

 

 

「俺はマーレの盾になる…」

 

 

これは呪いでもある。

先人たちの記憶と経験を薄っすらと継ぐ事になると同意義なのだから。

つまり、ライナー・ブラウンは、先人たちの怨念の影響も出る事になる。

 

 

『なんだこれは……』

 

 

無念にも重要な任務に失敗して【鎧】を剥奪される事を知った先々代継承者の嘆き。

その記憶を継いで先代の継承者は恐怖した記憶をライナーも履修する事となった。

 

 

『たかが、少佐の命令に背いただけで剥奪されるのか』

 

 

衝撃的な事実だった。

名誉マーレ人になったとしても、マーレ人から蔑まれる事は変わらないと知った。

選挙権とエルディア人以外の恋愛権が無いだけではないと記憶と知らない経験で彼は教えられた。

なにより、少佐が立案した独断作戦に口答えしただけで先々代は【鎧】を失ったと知らされた。

 

 

『そ、そんなはずは……』

 

 

マーレの戦士になれば、母親も自分もマーレ人になれると本気で信じていた。

実際は条件が整えば巨人になれる化け物を人類は仲間と認めてくれない。

そんな残獄な事実を知っても、ライナーには立ち止まる暇が無かった。

 

 

「さっそくで悪いが、すぐに出撃の準備をしろ。フランドール王国の残党狩りをするぞ」

「し、承知しました…」

 

 

マーレ大陸の南に位置する【西部マーレ運河】を越えた対岸にカミール共和国が存在する。

かの国を属国にしているマーレは、更に南に存在するフランドール王国に目を付けた。

南東の半島にあるマーレの属州を表明している中東諸国を合計した領土より遥かに広い大国。

近年における国際会議で難癖をつけて来る大国にマーレは宣戦布告をして戦争をしていた。

 

 

「必ずマーレに勝利をもたらしてみせます」

「それは行動で示せ」

「了解しました」

 

 

病み上がりに近い存在なのにライナーはマガト隊長の後に続いていく。

同時期に5名の戦士が代替わりになる隙を狙って王国の残党軍が暴れ回っている様だ。

そんな哀れなフランドール王国軍の残党を殲滅するのが最初のライナーの任務となった。

 

 

『行動で示せ……か』

 

 

何かを変えるには何か大切な物を捨てなければ何も変える事は出来ない。

ライナー・ブラウンは、結局のところ先人たちの轍を踏んで鎧の巨人で暴れまわる。

まさに無敵になった気分だ。

 

 

『ああ、なんでエルディア帝国の犯罪みたいな事をしているんだ…』

 

 

鎧の巨人の装甲は、フランドール王国軍の野砲による砲撃すら弾き返す。

それだけではない。

同じく初めて実戦に参加した4名の戦士もあっさりと敵国の残党軍を滅ぼしていく。

 

 

『こんな事をして本当に平和になるのか…?』

 

 

マーレの命令に疑問を抱いてはいけない。

分かっているはずなのに巨人の力を無作為に行使させる軍上層部にライナーは疑問に思う。

これでは、更に巨人になれるエルディア人が憎まれるのではないかと考えてしまった。

 

 

『人類はこのままやられてるだけで徹するのか…?』

 

 

マーレは超大国であるが、実情はかなり追い詰められている。

今でこそ巨人の力で圧倒しているが、いつか人類の兵器が鎧の巨人を撃破するのではないか。

先人が思い浮かべていた本音を知ったライナーは、人類の悪意と復讐を恐れた。

 

 

『鎧の巨人を撃破する兵器がもうじき出てこないよな…』

 

 

ライナー・ブラウンの懸念は当たる事となる。

フランドール王国軍の残党狩りをしていた6年後から恐ろしい兵器が出て来る。

それを21歳のライナーは身をもって知っている。

 

 

-----

 

 

「戦士を継いだ約6年後、中東連合軍が強力な火砲と化学兵器を投入した」

 

 

時折、現実に戻って来るライナーは、鎧の巨人の脅威を再度、整理をする。

まずはパラディ島から脱出した850年、マーレと中東連合の戦争が勃発した。

そこで鎧の巨人は、無敵の存在ではないと嫌というほど思い知らされた。

強力な化学兵器が最前線に居たマーレ軍と巨人部隊を全滅させたのだ。

パラディ島で5年間過ごしてきたライナーは兵器の進歩に驚愕するしかなかった。

 

 

「そしてその1年後、化学汚染と塹壕で停滞した戦線に装甲戦車(パンツァー)無人航空機(ドローン)が出現した」

 

 

中東連合との戦争は、フランドール王国軍とは比べ物にならない地獄だった。

なにせ、敵軍の兵器が1週間毎に更新してマーレ軍を脅かすという時代だったからだ。

地上で無敵だった巨人の立場を揺るがす新型兵器の投入は、マーレに衝撃を与えた。

 

 

「更に1年後、通信技術の発達で常に情報を共有できる時代が到来した」

 

 

それだけで済めばまだ良かったが、現実は非情である。

今まで目視で操作していた無人航空機(ドローン)が長距離を飛行できるようになったのだ。

その影響でマーレ軍が所有する硬式飛行船や野砲では撃墜できなくなる事態が発生した。

それだけではない。

既に戦争は最前線に影響をもたらすものではないと知らしめた事実を実証した年でもある。

1000km先にあるマーレ軍の野戦飛行所まで遠隔操作で飛ばして爆撃した事件は誰もが驚愕した。

しかも、高度8000mから爆撃してきたせいでマーレ軍は一切反撃ができなかったという有様だ。

 

 

「今年に至っては、原子力によって人類は自分たちの星を破壊できる兵器を手にした」

 

 

人間の探求心と欲望は、自らの種族を破滅させる兵器まで作り出してしまった。

今まで理論で済まされていた原子力の研究が進み過ぎて誰も理解が追いつけなくなってしまった。

核分裂実験を成功させたどころか、人工太陽と称される核融合実験まで成功させてしまったのだ。

寝耳に水どころの騒ぎではないマーレはおろか、世界各国も驚愕するほどあの戦争は狂っていた。

その元凶となっていたヨルムンガンド工廠(こうしょう)と中東連合残党軍に世界が恐れる時代が到来した。

 

 

『俺たちの努力に意味はあったのだろうか…』

 

 

反中東連合軍とマーレ軍、マーレの戦士と戦士候補生の奮闘によって最悪な未来は阻止された。

その代償は大き過ぎた。

 

 

『世界を滅ぼせる兵器が拡散していないだろうか…』

 

 

スラバ要塞と周辺、関連施設が丸ごと消し飛んだせいで原子力関係は失われた技術(ロストテクノロジー)となった。

現在、原子力関連の開発を担当したヨルムガンド工廠(こうしょう)の兵器を各国が血眼で押収しているが…。

露見する前に終戦したせいで【常識ではありえない新兵器】がまだ眠っているかもしれない。

それが世界中に拡散したとなれば、もはやマーレはおろか、世界が滅びる事もあり得る。

 

 

『はははは、考え過ぎか……』

 

 

辛い事を考えるだけ更に情状が悪化するのはライナーも分かっていた。

 

 

『あいつを見習うか…』

 

 

かつて「鎧の巨人は両親の仇」と憎んだ女とライナーは親友だった。

彼女は大失敗しても、すぐに割り切って次に生かして行動に移す性格をしていた。

そんな彼女が羨ましいライナーは、彼女に習って前向きに考えようとする。

 

 

『過去と決別できるように…』

 

 

成人して精神が成熟したはずのライナーは更に自分の過去を振り返る。

まるで自分が犯した大罪を思い出すかの様に…。

 

 

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