進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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177話 回想0-7 アニ・レオンハートへの配慮

ライナー・ブラウンは、アニの内心を察する事ができなかった。

そもそも彼女は内心を明かす奴ではなかったし、自分から孤立していた。

向こうから歩み寄らない上に介入してくるのを嫌うのだから分かる訳が無かった。

 

 

「キニスンが落ち込んでるって?」

「ああ、デントが死んでから自分が悪いって思い込んでいる様だ」

 

 

むしろ、野郎共から兄貴分として評価されていたライナーは同性から相談を受ける事が多かった。

この時も、トムから『キニスンが落ち込んでいる』という話を聴いたらすぐに動く。

 

 

「分かった。俺に任せておけ」

 

 

同性からの悩みを解決しようと奮闘していたので男の悩みは良く理解できる。

そんな男だった。

 

 

「よお、キニスン。たまには誰かとつるんで訓練でもしたらどうだ?」

「そんな気分じゃない」

 

 

前から些細な事でデントと喧嘩したキニスンだったが、彼なりに思うところはあったのだろう。

あれほど口が悪かったキニスンが喪を服す姿は、当たり前の世界がどこか壊れた感じがした。

 

 

「いつものおまえらしくない。張り合いがなくてつまんねぇな」

「俺だってそういう時はある」

「そうだな…」

 

 

だが、ライナーは他人事に感じられなかった。

 

 

「俺も似た様な事があった」

「…何が言いたい?」

 

 

ライナーもまたマルセルの死を引き摺っていた。

 

 

「同郷の仲間がよ、俺を庇って巨人に喰われちまったんだ」

「……そういえば、ウォール・マリアの南東にある…山奥の村出身だったな」

「ああ、あの時、俺が油断しなければマルセルは巨人に喰われなかったと今でも思ってる」

 

 

なんであの時にマルセルは、自分にあんな独白を告げたのか。

なんで弟の為に戦士になったマルセルが自分を庇ったのか。

今でも答えは出ていない。

 

 

「役立たずと罵倒された俺を助ける必要があったのかって思う時があるんだ」

「お前は兄貴分に成長した。素質があったと見抜いていたんだろう」

 

 

三角座りをしていたキニスンの横に座ったライナーは手と首を軽く振る。

 

 

「いや、違うんだ。マルセルは兄貴分でな、代わりに頑張らないといけないと思ったんだ」

 

 

マルセルが巨人に喰われた瞬間、上官の命令は二度と果たされなくなった。

「任務を果たし、始祖と共に…全員、帰って来い」という命令は達成できない。

だが、まだアニやベルトルトが居る。

彼らをまとめていたマルセルが死んだ以上、誰かが指揮をして任務を遂行しなければならない。

 

 

「そうしないと俺を庇って死んだマルセルの意味がなくなっちまうって思ってよ」

「お前は強いからできたんだろ?」

「いや、新しく約束したんだ。今度こそ生きて故郷に帰ろうってな…」

 

 

未だにライナーは夢を見る。

辛かった戦士候補生時代に受けた仕打ちやマルセルが巨人に喰われる瞬間を…。

そして何度も忘れないようにここに居るはずがない母が自分を呼びかけてくるのだ。

 

 

『お前なら絶対に任務を果たせるよ。父さんもきっと成功を祈ってくれていると思うから…か』

 

 

実の父から拒絶されて同僚も死んだのでどちらも成功するわけがない。

しかし、母親という楔と鎖に縛られたライナーは未だに夢を見る。

 

 

「なんてな、ちょっと英雄になってチヤホヤされた想いがあるのが本音だ…」

 

 

ライナーには幼少期から夢があった。

夢を思い浮かべる度に現実によって粉砕されたが、それでも何度でも思い浮かべてしまう夢が…。

 

 

「お前は英雄だよ」

「英雄なんてそんな簡単になれる道じゃないのは一番理解している。困難な道だと分かっていた」

 

 

英雄へーロスの偉業は、例え後世で作られた伝説だとしても、多くの人々の希望となった。

自分も大陸に残されたエルディア人の希望となりたいと何度も願っていたし、努力もしてきた。

その結果が、傍に居る同僚を内心を明かして何とか励ますのが精一杯の若造であった。

 

 

「でも、兵士になればきっと誰かの死を見続ける…覚悟しているつもりだった」

「俺もだよ、兵士になって母さんの仇を討つ…そんな事を考えていた」

 

 

この世界で兵士になろうと思った奴は、世論で無理やり訓練兵に志願した者だけではない。

両親や親戚、知り合いが殺されて巨人に復讐しようとしていた者も多く居る。

キニスンもその1人に過ぎない。

 

 

「でも、人生は何があるか分からん。予期せぬ出来事で人生を途中退場する事だってある」

 

 

後にトロスト区防衛戦で1個班を率いていたキニスンは行方不明になる。

せっかく兵士になったのに予期せぬ出来事で全てが台無しになるのは、この世界では常識だ。

発言しているライナーですらマルセルが行動してくれなかったら死んでいた可能性がある。

 

 

「もしかしたら心が折れて諦めて別の人生を進めるのも悪くないのかもしれない…」

 

 

逆にシガンシナ区出身者の多くが精神を病んだり、巨人に怯えて生産者の道を選んだのも事実だ。

ライナーも他者から自分を否定された時、本当に自分が存在して良いのかと思った事がある。

こんな奴が生きていて立派な奴が死んでいいのかと…。

 

 

「どちらにせよ、人生は一回限りだ。せいぜい悔いがないように生きようと思ってるんだ」

「…やっぱ、お前は英雄だよ。凡人ならそこまで覚悟を決めねぇよ…」

 

 

自分の人生は、自分の物とは限らない。

敷かれた線路に導かれて脱線しないように終着地点まで迷うことなく進んで行く。

それがエルディア人の人生そのものだった。

 

 

「だからこそ、俺は死んだマルセルに笑われないような人生を目指すつもりだ」

「それが恩返しのつもりか?」

「いや、自己満足に近い。死んだ奴の想いなんて今となっては、分からないままだからな」

「それもそうか」

 

 

デント・アクアがどんな事を考えて死を迎えたのかは誰にも分からない。

ずっと同期の死について考えていたキニスン・カイザーリングもようやく吹っ切れたのか。

 

 

「さっきの話だが…」

「ん?」

「俺も訓練に参加したい。ここで座り込んでいたらあの糞野郎がグチグチ言ってそうでな…」

「そうだな、『君はどうして隅っこでウジウジやっているんだ』…とか言う奴だったからな」

 

 

ようやく立ち直る事ができたキニスンの姿を見てライナーは安心した。

自分に置かれた環境と過去があったからこそ同じ苦しみを味わう奴に手を差し伸べる。

あの時、こうして欲しかった…そういった行動を取る事で訓練兵時代の生活は充実していた。

 

 

「よお!話は聞いたぜ。良かったら混ぜてくれねぇか?」

「ナック!」

「4人で訓練した方がバディアクションの練習になるって思ってね」

「ミリウスまで…」

 

 

ナック・ティアスやミリウス・ゼルムスキーもキニスンが立ち直る瞬間を伺っていたのだろう。

厳しい訓練を越えて104期訓練兵たちには絆が生まれ始めていた。

本当にこの島に居た連中は、お人好しだった。

 

 

「よろしくな!」

 

 

親指を立てて2人の提案を受け入れたライナーは、後に彼らを死なせる事となる。

相談してきたトムも含めてこの場に居る連中は、トロスト区防衛戦以降で再会していない。

どこまでが演技なのか、本気なのか。

いや、全部本気だったのかもしれない。

 

 

「どうした?お前らしくないな…」

「なんか本領が発揮できなかった。なんでだろうな…」

 

 

この頃からたまに記憶が消える事が多くなった。

間違った事は言ってないし、変な行動もしていないはずだった。

 

 

「疲れているんだろ?」

「そうかもな」

 

 

ナックの問いに対してライナーは本音を漏らす他なかった。

とにかく頑張らなければいけないという半ば強迫観念めいた想いがある。

 

 

「とにかく今のままじゃいけないって感じがしてな…」

「向上心がある事は良いけどよ、気を抜くのも物事を上手く進めるコツだぞ?」

「ミリウス、お前の言う通りだ。ちょっと頑張り過ぎた」

 

 

戦士には自力でなれなかったからこそ兵士には自力でなるという目的。

誰から見ても、立派な兵士になろうとしてどこか盲信染みた言動や行動が出てしまう。

 

 

「お前まで事故で死ぬのは見たくねぇ。どこかで休息を取ったらどうだ?」

「つまり、事件で俺が死ぬって事か。あーあ、そうなる前にクリスタに告白しねぇとな」

 

 

キニスンからの忠告を受けて軽口を叩きながら空を見る。

もうじき日が地平線に沈む時間帯という事もあり、どこか寂しく感じられる雰囲気であった。

 

 

「おいおい、クリスタを狙っている奴は山ほど居るぞ」

「そうだ、男受けが良いお前でもクリスタはどう思っているか分からんぞ」

「なんだよ、ミリウスまでそんな事を言うのか」

 

 

同期の野郎共から頼りにされるライナーであったが、女子からの人気は皆無に等しい。

 

 

「いつも野郎共を気にかけてるのは、汚いケツを狙っているんじゃなかったのか?」

「そんなワケないだろ!?…おい待て!キニスン、なんで無言で後退する!?」

 

 

確かに頼れる兄貴分であったのだが、同性しか助けていなかった結果、衝撃的な評価を受けた。

「実は男性愛者では?」とか「同性の尻を狙っている」という評判が生まれてしまったのだ。

 

 

「そこのノッポ野郎がこっちをチラチラ見て来るのが気になったんだ」

「ん?」

 

 

そのせいでまた自分を弄る為にキニスンが思いつきで行動したのかと思ったが違った。

 

 

「おっと、【ライナーの嫁】が来ちまったか!」

「ベルトルトと仲が良いってそういう事か…」

「そうだな、2人っきりにしてやるか」

 

 

それより、ベルトルトとの関係で同期が盛り上がっているのが気になった。

同郷でいつも一緒に行動しているというのがいけなかったのだろうか。

 

 

「おいおい、その理屈だとアルミンがエレンのお嫁さんになっちまうぞ?」

「無自覚って怖ぇな」

「とりあえず、今日は楽しかったぜ。またやろうな」

 

 

少なくともエレンとアルミンの関係ではそういう事を言われる事は無かったので違和感しかない。

ベルトルトの関係を弄る3人を見送った後、壁に擬態しているようなベルトルトに逢いに行った。

 

 

「ベルトルト、普通に会話に参加しろ…なんで見つめているだけなんだよ…」

「ご、ごめん!でも、仲良く会話してるのを見てどんな感じに話しかけるべきか迷って…」

 

 

せっかくの実力も優柔不断で他人任せの性格のせいで本領を発揮できない。

空気を読むというのは大切であるが、自分を犠牲にしてまでやるべきではない。

そう伝えようとしたのだが…。

 

 

「アニの機嫌が悪くてどうすればいいかって相談しようと思って…」

「ん?なにかあったのか?」

 

 

最近、アニの機嫌が悪いのは分かっていた。

しかし、ベルトルトがここまで言い出すほどに関係が拗れているとは思わなかった。

 

 

『また、なんかやらかしたのかこいつ…』

 

 

たまにベルトルトは、アニの後をつけて怒られる事があった。

確かに気になるのは分かるが、女からすれば自由の時間を阻害するものである。

だから、あえてライナーは休憩時間で過ごすアニに声をかけたりしなかった。

 

 

「つまり、なんだ?アニに怒られたから俺がなんとかしろって事か?」

「うーん、うん。そうだよ」

 

 

言葉足らずでとにかく相手の意見に沿って自重しながら行動するのがベルトルトの悪い所である。

巨人の模型の前で何か叫んでいる奇行もそうだが、どうか行動がおかしい。

だから他人事だと思って深刻に考える事は無かった。

 

 

『そろそろ、言ってやるべきか…!』

 

 

最近、アニは兵士としての自覚どころか戦士としての使命も果たそうとしなかった。

既にウォール・シーナで潜入捜査を中断してから2ヶ月が経過していた。

それなのに「疲れた」とか「無理」とか言って講義中に昼寝している有様だ。

 

 

「ベルトルト、お前も来い!」

「え?あ、ああ!うん、分かった!」

 

 

だから面と向かってここに来た理由を問い詰めて彼女の覚悟を見ようとした。

同期の中でも無駄にサボって堕落している奴が居るが、いつもこの手法で上手く行った。

だから今回も上手く行くと信じていた。

 

 

「何の用?」

「アニ、お前に言いたい事があって来た」

 

 

夜間にこっそり呼びつけられて不満そうな顔をしているアニに話しかける。

既に何度も脳内で練習したので致命的な失態は起こらないと確信している。

だからこそ単刀直入に告げてやった。

 

 

「手を抜くのは結構だが、他人を巻き込む行為はやめろ」

「……は?」

 

 

ライナーは知っている。

エレンや一部の訓練兵に格闘術を教えるようになってからサボり癖が悪くなった事に…。

 

 

「今日の抗議でフローラがやらかしたのは知ってるな?」

「確かにやらかしたね、まさかマスケット銃の座学の時に実物を分解してるなんて…」

 

 

フローラは色々やらかす。

だが、意味も無くやらかす事は無かった。

 

 

「なんで寝ていたのにその事を知っているんだ?」

「え?」

 

 

アニは休憩時間に昼寝する事が多くなっていた。

しかし、講義中にも寝ている事があり、そういう時に限ってフローラが何かやらかす。

もしくは、コニーやサシャといった何かしら騒動を起こしていた。

 

 

「もしかしてお前がサボりたいから(そそのか)したんじゃないのか?」

「証拠はあるの?この話だってミーナから聞いたから知ってるだけだし」

 

 

もちろん、これはあくまでライナーの推測でしかない。

 

 

「訓練兵が意味も無くマスケット銃を所持できるわけがねぇ。当の本人が一番知っているはずだ」

「今度は探偵ごっこでもしてるってわけ?」

 

 

正規兵ですら命令なしに武装する事は許されない。

だから訓練兵が無許可で武器庫からマスケット銃を持ち出せるわけがないのだ。

 

 

「昨晩、お前とフローラが武器庫の管理をしていたよな?」

「……何が言いたい?」

 

 

南方訓練兵団は、訓練の一環として施設の管理の一部を訓練兵に移管している。

それでも兵器の持ち出しを見逃すほど教官は甘くない。

本来であれば、報告した後に教官によって個数を再度確認されるので持ち出しは不可能であった。

 

 

「砲撃実技と弾道学が得意なあいつが、わざわざ模型を持ち帰るなんて行動をするわけがねぇ」

 

 

だが、管理している人物が銃の持ち出しを黙認していたら別である。

特に【殺傷能力がない模型の銃】を勉学の為にと言って事前に許可を取っていたならば尚更だ。

 

 

「それに後ろめたい事はな、隠れてやるもんなんだよ。少なくとも点呼の時にやるもんじゃない」

「つまり、私がフローラに講義を潰させた。そう言いたいの?」

「ああ、だから点呼の時点でお前は寝ていたんだろ?講義が潰れるって知っていたから」

 

 

何かをサボる時は、教官にバレないように誤魔化すものである。

だが、講義が始まる前から堂々と昼寝をしていたアニを見てライナーは確信した。

講義が何かしらの要因によって自習となり、問題行為を咎められる事は無いと…。

 

 

「しかも今回が始めてじゃないよな?」

「推理ごっこで私を呼び寄せて楽しいの?私は全然楽しくないんだけど…」

 

 

なにより、アニの昼寝が3回目であった。

だからこそライナーは腹を括る。

例えここで殴られても、アニに叱責しようと口を開く。

 

 

「いい加減にしろ。お前の自分勝手な行動でみんなが迷惑してるんだ!」

 

 

ライナー本人としては、本音を告げたつもりだった。

しかし、アニの状態を知らずに告げた一言は、彼女の逆鱗に触れた。

 

 

「調子に乗るな、だったらお前がやれ。私はもう知らん」

 

 

拳を震えさせてゆっくりと発言したアニの顔は未だに忘れられない。

 

 

「ライナー、言い過ぎだよ。アニだって彼女なりに頑張ってるんだから」

 

 

そしてベルトルトが喧嘩になりそうな2人を仲裁しようとしたが、火に油を注ぐ結果になった。

彼の言い分だとアニにも非があると暗に告げてしまったからだ。

 

 

「あんたらの顔なんて見たくない!!二度と話しかけるな!!」

 

 

ついに恐れていた事が発生した。

アニが同僚との関係を断ち切って一握りしかいない話相手以外に関わる事は無くなった。

このままでは、アニがパラディ島勢力に寝返るのではという懸念が現実になりつつある。

 

 

「ま、待ってよ!なんで僕まで…」

 

 

ベルトルトがアニに抗議していたが、ライナーはそれどころではなくなった。

 

 

『ついに始まりやがった…』

 

 

元よりアニを内心で恐れていたライナーはすぐにアニと接触しようとした。

さすがに激怒させた直後に交渉はできずに翌日に彼女と接触しようと試みたが…。

 

 

「…なんか用か?」

「ライナーを見張れって言われたの」

 

 

黒髪で2つのお下げが印象的なミーナ・カロライナによって牽制される事となった。

もちろん、力づくで彼女を排除する事は可能だった。

 

 

『チッ…』

 

 

しかし、ミーナは数少ないアニの話し相手であり、手を出せばただでは済まない。

なにより、アニと絶交されたのが同期にも伝わっているらしく…。

 

 

「おいおいライナーさんよ、あそこまで怒らせるなんて何をやらかしたんだ?」

「俺も良く分かってない。女心って難しいもんだな」

「いや、よくもあそこまで怒らせたもんだ。当分、鎮火する感じはしねぇなあれは…」

 

 

クリスタを巡って犬猿の中であったはずのユミルまで気を遣う有様だった。

 

 

「まーた、得意の下ネタでアニを弄ったのか?」

「…コニー、俺がそんな事をすると思うか?」

「いや、でもよ。普通はあそこまで怒らねぇよ、なにやったんだ」

 

 

コニーにすらアニが激怒したのを見てライナーに原因を訊くほどである。

 

 

「ライナー、何をしたか知らねぇけどよ。さっさと頭を下げて謝った方が良くないか?」

 

 

それどころか、あのエレンにすら正論を言われてしまうほどに追い詰められた。

 

 

「俺だって謝りたいけどあそこまで拒絶されたらな…」

 

 

同期から「アニに謝っておけ」と言われる度に返答する内容は限られた。

絶交されたのだからアニに近づく事すら困難で交渉の余地すらなかった。

 

 

「そんな態度だから余計に怒らせたんじゃないの」

 

 

両手を腰に当てて正論を言うミーナの発言が余計に腹が立つ。

ライナー自身、どうすればいいか迷っているのに余計に関係が悪化している状態だった。

 

 

『…んな事、分かってる!!』

 

 

同期に相談する内容でない事が一番の問題だった。

それに女子たちが自分を避けているのも、相談しにくい要因となる。

こっそり他者頼りでアニの状態を知る事すら困難になったのだ。

 

 

『……フローラに頼るわけには』

 

 

野郎共に相談できず、女子にも避けられている以上、フローラに頼るしかない。

それができない理由があるせいでベルトルトと違ってすぐに彼女に相談できなかった。

 

 

『ああ、そうだよ。俺のせいでこうなったんだ!これは俺の失態だ…』

 

 

フローラは何度もアニに気を遣えと忠告してきた。

だから忠告を聴いてアニがサボっているのを黙認した。

その結果、余計に事態が悪化したから声をかけた結果、大惨事となった。

 

 

『それにあいつはそれどころじゃない…俺がやるしかないんだ…』

 

 

しかも、この頃のフローラは破傷風に苦しんでおり、とても相談できる状況じゃなかった。

ただ、ライナーからすればそれほど驚きはない。

さすがにあそこまで負傷すれば、破傷風になっても可笑しくないのでむしろ遅いまである。

 

 

「やっぱり面と向かって話をするしかないか…」

 

 

だからフローラを頼らずにアニに接触しようとした。

 

 

「それ以上はダメ」

 

 

だが、珍しくミカサに制止された。

アニと違って自分からは孤立しない彼女だが、わざわざ接触するのは珍しい。

そう思っていたら衝撃的な話を聴く事になる。

 

 

「今、遭ったら殺される。すぐに帰った方がいい」

 

 

本気の忠告であった。

ここで怖気づいたら男と言えないのだが、もはや警告染みた発言に…。

 

 

「どうすればいい?」

「怒りが収まるまで待つ。それでいいと思う」

 

 

ミカサに解決策を訊くが、有効となる回答は得られなかった。

ただ、ミカサですら警告するのだからこのままではアニと和解できないと判断。

 

 

「分かった。アニについて進展があったら教えて欲しい」

「頑張ってみる」

 

 

アニの進展を知らせて欲しいと頼み込んで尻尾を巻いて帰るしかなかった。

当然、ベルトルトも何も言えずにその場から引き返す他なかった。

というか、振り返った時に初めてベルトルトの姿を見てびっくりしたまである。

そしてどうするべきか悩んでいたのだが、意外な転機が訪れる。

 

 

「はぁ、死ぬかと思ったわ」

「普通は死ぬ病気なんだけどな、破傷風って奴は…」

 

 

破傷風で苦しんだフローラは、訓練所に勤める医師や衛生兵から匙を投げられた。

普通ならそのまま死ぬはずなのだが、投げられた匙を掴んで自力で治療するのがフローラである。

負傷しても1日で復帰すると噂の彼女は、最期を迎えるまで諦めるという考えはなかった。

 

 

「というか、どうやって助かった?」

「ダズの植物図鑑を見て興味深い事が書いてあったのを思い出してね、アオカビを――」

 

 

アニの機嫌が悪かったのは、仲が良かったフローラが死にかけたのもあるかもしれない。

一方、地獄を経験したはずのフローラはどこか他人事で治療内容の一部を暴露してくれた。

ダズからもらった植物図鑑を元にアオカビから何かを精製して何かやっていたらしい。

ただ、当時はアニの事で頭が一杯でどんな治療をしていたのかは覚えていない。

 

 

「…もうちょっと心配してよ」

「心配を通り越して呆れているんだよ…」

 

 

今思えば、ペニシリン*1という抗生物質を自力で生み出していたのかもしれない。

ただ、それだとすぐに破傷風が再発するし、なによりすぐに復帰できないのだが…。

当の本人は、「自分を心配して欲しい」と不機嫌そうに告げるほどには回復していた。

 

 

「香水を精製したり、弾薬を調合してきた経験が役に立ったわ」

「……良く分からんが、助かって良かったな」

 

 

同期からフローラは放置しても大丈夫という印象は、訓練兵団でやらかした実績である。

とりあえず、アニが不機嫌になった要因の1つが解消されたと思ったので…。

 

 

「フローラ、病み上がりで悪いが、頼みがある」

「あらー、もしかして私がまだお化けだと思ってる?」

「違う、アニの件でやって欲しい事があるんだ」

 

 

藁にも縋る気持ちでライナーは、どこか不満気そうなフローラに頼みごとをした。

 

 

「これって根本的な解決になっていないと思うけど…」

「いや、アニに内容を伝えてくれ」

 

 

フローラに頼んだ内容は簡単なものだった。

ライナーやベルトルトが書いた手紙をアニの元に運んで欲しい。

そしてアニが返答した内容を知らせて欲しいという簡潔な頼み事だった。

それに対してフローラは根本的な解決にならないと忠告してくれたが…。

 

 

「お前が居ないとそもそも伝える機会すら無いんだ」

「…伝えてみるけど状況が好転するとは思わない方が良いわよ」

「ああ、分かってるさ」

 

 

さすがに数少ない親友の発言をアニは拒絶しないと賭けるしかない。

ライナー自身ではアニと会話できずにベルトルトに至っては、何故か掃除をしていた。

もはや、関係改善を諦めた相棒に失望しつつフローラが何とかしてくれる事を祈るしかない。

 

 

「……結論からお伝えしてもいいかしら?」

「よろしく頼む」

「さっさと一人で苦しんで死ねって言ってたわよ、あそこまで怒るなんて…何をしでかしたの?」

 

 

だが、文通は失敗した。

フローラが手渡したのは、ビリビリに千切られた手紙、そして拒絶を示す暴言であった。

 

 

「まだだ」

「…え?」

「あいつに伝えたい事がある」

「ま、待って。わたくしも怒られるんだけど!ねえ聴いてる!?」

 

 

それでもライナーは諦めるわけにはいかなかった。

何度も何度もアニに拒絶されても、関係を改善しようと努力した。

アニの気持ちを考えもせずに…。

 

 

「内容を読んでも良いかしら?」

「ダメだ!」

「内容を見る前に破られるんだけど!?」

「じゃあ、アニに伝わるように重要の書類に書くだけだ」

「違う!そうじゃない!」

 

 

訓練兵団に入団してもうじき3年目を迎えようとしているのにアニとは絶交状態だ。

それでも無駄に文章力があるライナーはめげずに何度もアニに文章で気持ちを伝える。

それだけを考えてフローラを酷使してアニに手紙を届けさせた。

 

 

「最近、分かったんだけどアニに無理難題の事を伝えたりしてない?」

「いや、そんな事はない。というか内容は読んでないよな?」

「読むわけないでしょ、その代わりに怒られまくってるわ!」

 

 

何度でもアニに伝わるようにライナーは努力をし続けた。

それが無意味な行為だと気付くのは、些細なきっかけだった。

 

 

「アニが高熱を出して寝込んだ…だと?」

「えぇ、この時期は風邪が流行りやすいからね、しょうがないわ」

 

 

肌寒いを通り越して冷気が皮膚を傷める時期にアニが風邪を引いたのだ。

フローラの報告を聴いたライナーは思わず聞き返してしまうほどに衝撃的だった。

 

 

「お陰様で医療班がわたくしに意見を求められましてね、酷い目に遭ったわ」

「なんで素人のお前に意見が求められるんだよ…」

 

 

ただし、毎回フローラという奴はどこかズレており、周りもどっか可笑しい。

少なくとも彼女と会話していると何かが可笑しいと感じる時がある。

 

 

「うーん、…自慢じゃないけどね、感電、火傷、凍傷、熱射病、低体温症、骨折、筋挫傷、打撲、捻挫、破傷風、窒息、銃創、切創、刺創、咬傷(こうしょう)、擦過創、脳震盪(のうしんとう)、転倒、失神、吐血、内臓圧迫、脱臼、突き指、貧血、尿管結石とか無駄に負傷しているから意見を求められる事があるのよね」

 

 

最終的に106回も医務室送りになった女だ、面構えが違う。

いっそ、ヒィズル国で縁起が良いとされる108回を達成すれば良いと思ったほどであった。

とにかく当時は、同じ言語で会話してるのに異世界人と別言語で話す様な感覚になってしまった。

 

 

「…そこは死んでおけよ、人として」

 

 

だから思わずライナーは本音を告げてしまうが、フローラは特に気にしている様子はない。

 

 

「鎧の巨人をこの手で仕留めるまで死ぬ予定はありませんわ」

「いや、お前のせいで色んな人が滅茶苦茶迷惑してると思うんだが…」

 

 

どんな手を使っても鎧の巨人を仕留めてみせるという復讐鬼は、ただでは死ぬ気はないようだ。

自分の正体が鎧の巨人と忘れてしまうほど呆れてしまい、逆にフローラを諭している有様だった。

 

 

『そうか、フローラと違ってアニは頑丈じゃないって事か。そりゃあ、そうだよな』

 

 

ここでようやくアニの体調に気を遣っていないとライナーは知った。

昼寝をしていたのも、徹夜でウォール・シーナに潜入していた影響だとようやく分かった。

そもそも男と女では、肉体の差が生まれるので同じ扱いをする事自体が間違っていたのだ。

 

 

「……なんか変な事を考えてない?」

「ああ、アニは女の子だったんだ。…でも俺はあいつに無理難題を押し付けてしまった」

 

 

フローラとかいう例外はともかく…アニは常人よりは強いが、限界がある。

何度も生死の境目で反復横跳びで遊んでいる化け物とは違う。

如何せん、戦士候補生時代は女の子の方が成長が早くて恐ろしく感じていた。

そんな呪い染みた思い出が未だに自分を縛っていたとライナーはようやく理解する。

 

 

「まるでわたくしが乙女じゃないみたいに…」

「普通だったらよ、死にかけたらもう少し悩むとか、怖がるとかするもんだろ」

 

 

記憶と共に恐怖という感情もシガンシナ区に置いて来た()()()()()()()()はやっぱり可笑しい。

ただ、アニに対して歩み寄る努力をして来ずに事情を知らずに偉そうに命令をした事実。

それが、今になってライナーの両肩に圧し掛かってそのまま自重で潰されそうな感じがした。

 

 

「そんな事をするよりも、リハビリで体力を取り戻す事が重要なの!」

「だから同期から適当な扱いをされるんだよ…」

 

 

ただ、フローラの行動や奇行に対して発言する時は、何かがすっきりする。

やはり、コニーと同じで重苦しい場の空気を変えて前向きにさせてくれる存在は大きかった。

 

 

「なあ、アニに見舞の品を送りたいんだが、何が良いと思う?」

「花束はやめておいた方が良いわ。…そうね、同期からのメッセージカードとかどうかしら」

 

 

初めてアニの身体と気持ちに配慮したライナーは確かに成人としての階段を登っていた。

少年が思春期を迎えて恋を知り、そして女の子に配慮できる青年となりつつある。

 

 

「いいな、それ!」

「わたくしは女子に呼び掛けておくわ。だからライナーは…」

「もちろん、野郎共を掻き集めて書いてもらうつもりだ!」

 

 

とりあえず、同期の野郎共とは大半は仲良くできていると自負している。

自分の呼びかけで同期たちは動いてくれるだろうと疑う余地もなかった。

 

 

「メッセージカードは羊皮紙で良い?」

「新品にしておいてくれ」

「…調達するのが大変なの分かってる?」

 

 

とんとん拍子で話が進んでいってフローラ経由でアニにメッセージカードを贈呈した。

全員が記入した訳じゃないが、200人近い人物からの言葉や文字の集大成は確かに効果はあった。

 

 

「あんたがこんな粋な計らいをするなんてね…」

「いや、フローラや同期と相談して決めた事だ。俺だけが決めたわけじゃない」

「ふーん」

 

 

とにかくアニと歩み合う機会ができた事は不幸中の幸いだった。

こうやってアニから話しかけられたおかげでようやく会話する事ができるのだから。

今まで交渉の余地すらなかったのだから本来なら悲劇になる病魔も役に立つ事があるのだと…。

 

 

「ハンナ!アニが元気になったんだって!」

「フランツ!みんなで応援した甲斐があったわ」

「君の頑張りのおかげだと思う!」

「そんな事はないわ!フランツがみんなに呼び掛けたおかげだと思ってるの!」

 

 

同時期にフランツ・ケフカとハンナ・ディアマントの関係が大きく進展していた。

何かと2人はお互いを讃え合い、時には戦友として切磋琢磨する関係。

 

 

「今度はリハビリを続けているフローラにメッセージカードを送るとどうだろう!」

「素敵なアイディアよ!やっぱり大変な時こそ支え合わないとね!」

 

 

…を通り越してバカップルな関係になれ果てていた。

噂ではフローラが仕込んだとか、誰かの陰謀だの言われたが、もはやどうでもいい。

 

 

「…ちょっと別の場所に行こうか」

「そうだな」

 

 

絶交状態だったライナーに移動するように促すほどにアニはバカップルの行動に疲弊していた。

よってアニとライナーは和解をする事となり、ひとまず戦士隊の絆が完全崩壊するのを回避した。

ついでにベルトルトもアニの方から声をかけるようになり、今までの関係が戻りつつある。

これでめでたし、めでたし。

 

 

「俺も協力する。何かやって欲しい事があったらすぐに教えてくれ」

 

 

そうは問屋が卸さない。

アニと和解して口では彼女に配慮しつつもライナーは未だに不信感が残っていた。

 

 

『おそらく次はねぇな…』

 

 

今回は和解できたとしても、次回は今回みたいに和解ができるとは限らない。

すなわち、共犯者として彼女を使命から逃さないようにする。

そうしなければ、アニは再び離反しかねないと心の底で燻った火種のように残り続けた。

 

 

「アニ!!マルコの立体機動装置を外せ!!」

 

 

だからアニを共犯者として壁側の住民に戻れないようにしてしまった。

またしても自分の失態を尻拭いする形でマルコを間接的に死に追いやるように仕向けた。

悪質なのは、アニの手でマルコの立体機動装置を外させて彼の人生を終わらせる。

 

 

「早くやれ!!」

 

 

考える余地すら呼びかけたライナーの発言はアニを苦しませた事だろう。

いや、絶対に苦しめたし、アニは決して許さないと確信できる。

全てが無茶苦茶になって思考も行動も何が正しいか分かってすらなかった。

 

 

「ライナー…やるんだな!今ここで!」

 

 

だからこそ、あの時、ベルトルトは念を押すように呼びかけたのだ。

下手すれば、超大型巨人を敵と判定して攻撃してこないか確認する為に…。

何が正しいのか、どうすればよかったのか。

答えなど出るはずがないのに…。

 

 

『信煙弾!?』

 

 

1つだけ言えるのは、何かを偽れば必ず何かしらの報いを受ける。

鎧の巨人として活動を開始してすぐに緑色の信煙弾が撃ち上げられたのを確認した。

無垢の巨人を相手にする時と違ってわざわざ相手に居場所を知らせるなどあり得ない。

 

 

『…あれはフローラ!?まずい!!』

 

 

だが、鎧の巨人として活動するライナーは見てしまった。

分かっていたはずなのに今まで存在を失念していた。

どんなに死にかけてもすぐに復活する化け物が自分の命を狙っているという事に…。

 

 

『何故来ない!?罠か!?』

 

 

それどころか無垢の巨人の首を刎ねまくる処刑人に成長していた悪魔の顔は未だに忘れられない。

フローラは、ライナーの正体に気付いて笑っていたのだから。

 

 

『それとも…ぐあああああ!?』

 

 

あの時は、フローラに注意を割かれたせいでエレンの奇襲を喰らう事となった。

だが、なんとか返り討ちにして無事に逃走した時、正直安心していた。

それどころか同期たちを殺さずに撤退できて良かったと…。

 

 

『よし、こいつで全部だ!』

 

 

分かっていた。

全てが上手くいくなんてあり得ないし、調査兵団が簡単に見逃してくれるわけがなかった。

エレンに逃走されるくらいなら無垢の巨人に喰わせた方がマシだと何体も投げまくった。

思い付きの作戦は功を奏して調査兵団は大混乱に陥り、再度エレンを拉致する機会が生まれた。

 

 

『あとはエレンを奪還するだけだ!』

 

 

だからエレンが居る場所に向かって全速力で走るつもりだった。

 

 

「お久しぶりね鎧の巨人!」

 

 

運命とはここまで残酷で悪い意味で重なるものだとライナーは感じた。

さきほどまではエレンしか考えていなかったのに目の前の女兵士に釘付けになった。

 

 

「ねぇ!素晴らしい舞台じゃない?手を汚してきた…わたくしたちにとって最高の舞台よ!」

 

 

フローラ・エリクシアは、親友であり戦友であり、なにより相談相手でお互いを信頼していた。

彼女の過去を知っているからこそ分かってしまった。

 

 

『お前…何をしてるんだ!?』

 

 

無垢の巨人を数体討伐して発生する蒸気と目の前に広がる草原を彼女は舞台と称した。

――怒りと嬉しさと失望と希望が混ざり合った感情を言葉にする女は狂っていた。

 

 

「ねぇ!私はずっと貴方の相手をしたくて今まで練習してきたの!」

 

 

どんな手を使っても鎧の巨人を殺すと断言した彼女は見事にそれを実行していた。

フローラの背後には、無垢の巨人が10体も控えており、既にこちらに向かって走って来ていた。

 

 

『ホント、お前はトラブルの渦中に居るな!!そんなに地獄が好きか!?』

 

 

フローラはまたしても笑っていた。

1体の巨人ですら脅威のはずなのに彼女にとっては観客に過ぎないのだろう。

 

 

「さあ、鎧の巨人!わたくしと踊ってくれない?」

 

 

あくまでもフローラは鎧の巨人を仕留める事を意識していた。

 

 

「どちらか死ぬまで!最高のダンスを踊りましょうよ!ライナー・ブラウン!!」

 

 

わざわざ指名してくるという事は、そういう事だろう。

ここでどちらかが死ぬまで決して殺し合いが終わらないと嫌でも理解した。

 

 

「さあ、始めましょうか!!」

 

 

フローラが走り出した瞬間、覚悟を決めた。

 

 

『いいぜ!乗ってやるよ!!お前が死ぬ時の舞を!俺に見せてみろ!!』

 

 

ここで決着をつけて全てを終わらせる。

…はずだった。

 

 

『おい…なんでお前らが殺し合うんだ……』

 

 

しかし、予想に反してフローラとベルトルトが本気で殺し合いを始めた。

全ての一撃が文字通り必殺と言わんばかりに2人に手を出そうとした巨人が討伐されていく。

 

 

『一体、何が起こった!?』

 

 

黄昏の光が少しずつ暗くなりつつあるのに刃に反射する逆光によって未だに輝きを増していた。

ベルトルトもフローラも今まで自分が知っている存在じゃないような気がして…。

ライナーは呆然と殺し合いを見守る事しかできなかった。

 

 

『とりあえずあいつをぶっ飛ばす!!』

 

 

とにかく実戦経験の差でベルトルトが押されていると判断。

フローラも戦闘で疲弊していると思って突撃しようとした。

 

 

『今行くぞ!ベルトルト!!ってお前!?』

 

 

だが、これはフローラの罠だった。

いざ、鎧の巨人が突撃しようとしたら無垢の巨人に飛びかかられた。

そのせいで本領を発揮できずにエレンと調査兵団の一団を逃す事となる。

正直、ユミルが手を貸してくれなかったら生き残れる気がしなかった。

 

 

「無事か!?」

「なんとか…」

「とにかく馬を拾って逃げるぞ!!」

 

 

なんとかベルトルトが無事だと確認し、指笛を鳴らして馬を呼ぼうと試みた。

ウォール・マリアの外で馬に乗れなかったら死ぬ以外に道が無いのは知っていたから。

 

 

「ライナー、呼んだかしら?」

「呼んでねぇよ!!」

 

 

だが、指笛で呼ばれてきたのは、自分の命を狩ろうとする復讐鬼だった。

連日の激務に加えて幾度となる巨人化で疲弊しているのに未だに危機を脱していない。

むしろ、死神の鎌は自分を逃すまじと首元に刃を突き付けられている状況だった。

 

 

「嬉しいわ!あんなに群がれていたら巨人に喰われたと思ったのに!」

「悪運だけは良いからな…」

「わたくしに殺される為に生き延びたなんて嬉しいわ!」

 

 

味方では頼もしかった女は、ここでは悪魔でしかない。

以前、自分を追いかけて来た赤い暴れ馬に騎乗する悪魔は、なによりも恐ろしい。

相手の事を良く知っているからこそ、ライナーは意地でも足掻こうと抜剣する。

 

 

「死んでたまるか!!ぐほっ!!」

 

 

何故か正直に真っすぐに騎兵が突っ込んできたのか、疑問を持つ余裕すらなかった。

それどころか、またしても彼女の恐ろしさを実感する。

 

 

『こ、呼吸が……』

 

 

フローラは鎧の巨人を討伐する為に何故か短剣を投擲する訓練を加えていた。

この日までは、なんでそんな事をするのかと半ば呆れていた。

だが、こうして的確に短剣を投擲し、文字通りに息の根を止めに来た事実に…。

 

 

「ぐおっ!?」

 

 

必死に足掻こうとしたが、煌めく刃は右肩から腋までを切断し、地面に右腕が転がった。

 

 

「がはっ!?」

 

 

それでも最期まで足掻こうと左手で喉元に刺さっていた短剣を引っこ抜く。

すぐにフローラに投げ返そうとしたが、すでに斬撃が眼前に迫って来る。

左手で握った短剣で受け止めようとしたが、柔軟に曲がる刃で左肘より先を切り落とされた。

 

 

『ここで終わるのか…』

 

 

さっきまでエレンを確保してようやくパラディ島から脱出できると思っていたのに…。

現実は、喉を潰されて両腕を切り落とされ地面に転がる事しかできない無様な状態。

 

 

「おっほっほっほっ!どこに逃げる気?」

 

 

なんとか呼吸をしようと喉の傷を治している間に高笑いする女悪魔の魔の手が迫っていた。

 

 

「畜生が!!」

 

 

それでも約束を果たそうと全力で走ろうとしたが、草むらに隠れていた石に躓く。

前屈みになって転がる自分が何故か客観的に認識できてしまい、自分の死を覚悟した。

あれほど生きたいとおもったはずなのに…。

 

 

「ユミル…何故、邪魔をするの?」

 

 

鎧の巨人を仕留める為に悪魔に成り下がった化け物の刃を受け止めたのはユミルだった。

あの日、マルセルを喰った巨人の姿で無様に転がっているライナーを助けたのだ。

何故かフローラは追撃をせずにユミルに警告を発していたのは覚えている。

 

 

「貴女も分かってるでしょ。エレンの力があれば巨人を操り敵勢力を滅ぼせるって事を!」

「お前が考えている以上に単純な話じゃないんだ!」

「言ったでしょ?巨人を1匹残らず駆逐するって!ライナーに命令した元凶も抹殺するわ!」

 

 

そして巨人化を解除したユミルとの会話でフローラが何か禁忌を犯そうと考えていた。

まるで【地鳴らし】に賛同する様な発言を受けてさすがに立ち上がるしかなかった。

 

 

『やべぇ…!それだけは阻止させなければならない。俺の首を差し出してでも…』

 

 

エレンを最初に拉致した時には気付かなかったが、今なら分かる。

エレンの中に祖国マーレが欲している【力】が眠っている事。

そして復讐に身を投じているフローラは、地鳴らしに賛同しかねないほど狂っている…と。

 

 

「フ…フローラ…!!」

「あら、わざわざ殺されに来たの?ご褒美に楽に死なせてあげるわよ」

 

 

それだけは阻止しようと口を開く。

 

 

「お願いだ…俺には壁外に大切な家族が居るんだ…」

「だから?」

 

 

――それから先は何も覚えていない。

目覚めた時には、全てが終わっており、フローラに見逃されたという事実が残った。

 

 

「俺は負けたのか?」

「それ以外にあるか?」

 

 

意識を取り戻して最初に浮かんだ疑問を口にするとユミルが即答してくれた。

50mの壁上からの景色は、訓練兵時代に見たというのに…どこか寂しく感じた。

既に太陽は地平線から顔を出して前と変わらない景色を醸し出しているというのに。

 

 

『アニを助けねぇと…そして謝りたい……』

 

 

ライナーは敗北よりもアニを何としても取り返したいという気持ちで一杯だった。

すぐ後にジーク・イェーガー戦士長と再会して情報を交換しても、消える事はない。

 

 

「戦士長、提案があります!」

 

 

むしろ、最低限の情報を交換した後にアニ・レオンハートの救出を提言したほどである。

 

 

「正気で言ってるのか?」

 

 

戦士長の発言は正しい。

むしろ敵からもたらされた情報で行動するなどもってのほかだ。

 

 

「もちろんです!ユトピア区で囚われた彼女を奪還するのが座標奪還に繋がると思ってます!」

 

 

アニ・レオンハートの行方は分かっていない。

アルミンからもたらされた情報だけが頼りになる有様だ。

しかも、ベルトルトを惑わす為の罠であって実際にアニが居るとは限らない。

それでもアニを助けたい一心でライナーは戦士長に頭を下げる。

 

 

「…島の悪魔と仲良くし過ぎて頭がおかしくなったか?」

「返す言葉もありません…俺は兵士として演じていく内に狂って、洗脳されかけました…」

 

 

楽な事を見つけるとそちらを意識してしまって自分が堕落していると気付かない時がある。

あれほどアニやベルトルトに言っていたはずなのに無自覚で堕落していたのは自分だけだった。

それを叱責するようにジーク戦士長から発破をかけるような発言を受けた。

 

 

「ならば、戦士として使命を全力で全うしろ!」

「その使命を達成するには、女型の巨人の力が絶対に必要です!!」

 

 

パラディ島に住む住民が世界の常識のままだったらここまで悩まずに済んだ。

実際は、楽園という名の通り、自分の心どころか全てを上書きされるほど素晴らしい世界だった。

だが、夢はいずれ覚める。

 

 

「ライナー!その話はアルミンが言ってたんだ!実際に拷問されていたなら話すわけがないよ!」

 

 

ベルトルトの発言を聴いて自分の意見を述べようとしたら気付いてしまった。

 

 

『クソ……』

 

 

壁内世界の兵士の敬礼を無自覚にしていたのだ。

染みついてしまった習慣はすぐに変える事ができずに未だに全てを引き摺っている。

あれほど【兵士としてのライナー】を捨てようとしたのに…。

 

 

「ベルトルトは、そう言ってるが?ライナー、お前は疲れているんだ」

 

 

戦士長は別にわざと言ったわけじゃなかった。

だが、数日前にエレンに発言された言葉が胸に突き刺さる。

 

 

「うっ!?」

「どうした?」

 

 

自分が犯した所業を忘れないように釘を刺すかのような痛みが全身に迸る。

実際はありえないのに全身の痛みと耳を裂くような幻聴が鼓膜を突き抜けて行った。

兵士と戦士を混同し、自分でも何をやっているか分からない感覚が再び戻ったような感じがした。

 

 

「いえ、なんでもありません。自分の不甲斐なさに憤りすらあります」

「それを理解していれば、問題無いだろう。話はこれで終わりでいいか?」

 

 

とりあえず、誤魔化してみたが、それでもライナーは諦めない。

 

 

「戦士長!戦士アニの奪還を目指すべきです!あいつが居なければ始祖奪還は不可能です!」

「アニちゃんは大事だが本当にユトピア区とやらに居るとは思えんぞ」

 

 

アニの救出が始祖奪還に繋がるなど普通に考えれば、可笑しいと分かる。

実際、ジーク戦士長に正論を言われてしまった以上、もはや説得するのは不可能だった。

 

 

「分かりました!では、俺だけでアニ・レオンハートを奪還しに行きます!!」

「正気か!?任務を放棄して私情で行動するのか!?」

「俺はあいつに贖罪(しょくざい)しないといけないんだ!!あいつをこれ以上孤独にはさせたくないんだ!!」

 

 

もはや、なりふり構わず自分勝手に動く子供のようだと自覚していた。

気に入らない事があると駄々をこねて親御さんに迷惑をかける子供そのもの。

 

 

「よし!お前の気持ちは良く分かった!」

「戦士長?」

「じゃあ、男らしく決闘して決めようじゃないか!!恨みっこ無しだぜ?」

「受けて立ちます!!必ず戦士長を越えてアニを奪還させる!!」

 

 

決闘の結果次第で考えてやると戦士長が発言したので藁にも縋る想いで受けてしまった。

実際は、負けるのが目に見えていたのでわざと譲歩したのだと今なら分かる。

 

 

「条件はどうしましょうか?」

「そりゃあ、男らしく一騎打ちをして戦闘不能になったら負けで良いだろう」

「戦闘不能なんですか?」

 

 

甘ったれた根性を叩きのめす為に。

 

 

「だって、徹底的に敗北させないとお前は納得できんだろう?」

「仰る通りです」

 

 

勝利条件は、相手が戦闘不能になったら勝ちというものだ。

つまり、どれだけ負傷しようが、戦えるなら敗北しない。

今まで培った経験とアニを助けたいという想いがあれば、絶対に負けない。

…はずだった。

 

 

『かわされた!?ぐあああああああああっ!?』

 

 

そもそも戦士長に勝てると思っていなかったのが緒戦が不利であったのだろう。

鎧の巨人は、自慢の装甲による重量で動きが鈍くて方向転換がしにくい。

あっさりと体当たりを見抜かれた鎧の巨人は民家に激闘し、動きが止まった。

 

 

『やっぱ無理か…』

 

 

その隙を見逃さない獣の巨人は、鎧の巨人のうなじを殴打する。

ただでさえ長い腕による遠心力に加えて硬質化による衝撃で意識が飛びかける。

 

 

『クッ…さすがジーク戦士長……強い!!』

 

 

それでも気力で立ち上がると既に獣の巨人は後退して距離を取っていた。

瓦礫を集めているのを見て次に何が来るのか察してはいた。

だが、音速を越える投擲攻撃に成す術無い。

 

 

『ダメだ、このまままじゃ…』

 

 

戦士候補生時代の手合わせでイェーガー先輩に勝利した事が無かった。

何をやってもダメで他の戦士候補生から見下されているような感覚を思い出す。

実際、瓦礫や岩が飛んできても回避できずに装甲が破壊されるのを見ている事しかできない。

 

 

『俺は…俺は、アニに誓ったんだ……みんなで故郷に帰ろうって……』

 

 

高速で壁に激突した自動車が受ける衝撃を何度も浴びてまたしても意識が飛びかける。

それでも、アニと一緒にパラディ島から脱出し、故郷に帰るという約束が…。

 

 

『あいつを連れて故郷に帰る!それがマルセルの代わり…!いやリーダーとしての役目だ!!』

 

 

またしても気力で意識を覚醒させて全身に力を込める原動力となった。

身体は痛み、口内は乾いて、視界は歪んで、耳鳴りをしている。

ただ、アニはそれ以上の肉体的にも精神的にも苦痛を味わったと実感している。

 

 

『まだいける…』

 

 

おそらく次に投擲攻撃を喰らえば、そのまま負けると分かっている。

それでも負けられないと鼓舞し、無理やり立ち上がった。

 

 

〈ははっ!勝負はまだこれからだ!ってか?そう来なくっちゃな、ライナー〉

 

 

戦士長の発言が煽りにしか聞こえない。

それでも前に進もうとすると…。

 

 

『疲れている上に負傷者なんだから大人しくしなさいよ!』

 

 

何故かフローラの発言を思い出した。

心身ともに疲弊しきった現状に彼女の声は良く響く。

 

 

『そんなライナーにプレゼントをあげるわ』

『なんだこれ?』

 

 

見たことが無い兵器を手渡されて思わず声を漏らしたのを思い出す。

 

 

『手投げ式の閃光弾と音響弾よ!ここの安全ピンを抜くと5秒後に炸裂するからうまく使って!』

『いいのか?』

 

 

これを彼女が渡してきた理由は良く分かっていない。

ただ、同期から巨人の気を惹こうとして酷い目に遭った時に渡されたものである。

 

 

『少なくとも生身で巨人から仲間を助けるよりマシでしょ?』

『ありがとうな!』

 

 

思えば、マルコの死から完全に精神が可笑しくなっていたのかもしれない。

だからこれ以上、知り合いが死んで欲しくなくて積極的に利敵行為を行なった。

コニーを庇って負傷する必要はなかったし、あの時も囮になる必要はなかった。

 

 

『生身で…か』

 

 

エレンを拉致したと同時に調査兵団、いや壁内社会と決別したライナーは腹を括った。

楽園の空気に飲まれずに戦士として使命を遂行しようと誓った。

だからこうやって鎧の巨人として動こうとしてその度に獣の巨人に迎撃され続けている。

 

 

『そうか…』

 

 

ここでライナーは気付いてしまった。

戦士長に歯向かって決闘するまでにアニの救出をしようとした理由に…。

 

 

『俺は…アニの夢を諦めさせたくなかったんだ…』

 

 

ライナーの夢は既に潰えて二度と叶う事はない。

だが、アニは違う。

マルセルが喰われた後に自分を本気で蹴り殺そうとしていた時に言ってたはずだ。

 

 

『私もそうだ!!生きて帰らなくちゃいけないんだよ!!』

 

彼女の発言に自分もそうだと実感し、必死に足掻こうとした。

ここで意識が現実世界に戻って来たライナーは覚悟を決める。

 

 

『どんな手を使ってもな!!』

 

 

身体は痛み、口内は乾いて、視界は歪んで、耳鳴りをしている。

身体の調子(コンディション)はまさに最悪だが、なにかがすっきりした。

 

 

《font:86》〈よし、勝ったぞ。アニちゃんの事は…マジかよ〉こちらだけフォントが反映されていませんでした

 

 

勝利を確信した獣の巨人が驚く顔がしっかりと見えた。

驚きというより半ば呆れている。

 

 

〈延長戦と行こうじゃないか!サヨナラゲームで徹底的に負けを認めさせてやるよ!!〉

 

 

どれだけボコられても立ち上がる鎧の巨人に敬意を表する戦士長であるが、手加減する気配は無い。

既に巨人体どころか人体にボロボロになっているライナーに勝ち目などないのは明白である。

生き生きとしている獣の巨人に対して鎧の巨人はその先を見据える。

 

 

『なあ、ベルトルト…』

 

 

巨人同士が決闘する光景を心配そうに見つめるベルトルトは、私服を纏っている。

だが、それだけじゃない。

 

 

『お前も自覚がないんじゃないか?』

 

 

壁内の兵士が装備する立体機動装置を身に着けていた。

確かに超大型巨人から脱出するのに便利だが、今着用する必要はない。

おそらく訓練兵時代に身に着いた習慣が未だに残ってしまっているのだろう。

 

 

『【兵士としての責務】…か』

 

 

【マーレの戦士としての責務】は単純である。

祖国マーレの為に最後まで使命を果たすというものだ。

だが、あれほど口にしていた【兵士としての責務】は違う。

 

 

『どんな時にも退かずに覚えた事を使いこなして物事に対処する…』

 

 

かつてライナーは、兵士としての責務についてエレンに問いかけた時があった。

要するに復習である。

 

 

『兵士の技能なら…』

 

 

良く考えれば、ここまで鎧の巨人がボロ負けするという事は、完全に動きを読まれている。

裏を返せば、兵士としての技能があるのに戦士長は気付いていないのだ。

 

 

『勝機があるかもしれねぇ…』

 

 

丁度、異形の巨人がシガンシナ区跡地に乱入した為、獣の巨人が対処に向かった。

そのおかげで冷静な思考と行動ができる隙を得たライナーは勝利してしまった。

あれほど勝てないと思っていた獣の巨人に勝ったのだ。

 

 

「いけるかもしれない…」

 

 

それから全てとは言わないが、上手く行った。

ユトピア区から結晶を纏ったアニを奪還して壁外に脱出する事にも成功した。

ただ、それで終わったのならこうやって回想などしていない。

追いかけて来たエレンとフローラに挟撃されて…またしても敗北してしまったのだから。

 

 

-----

 

 

『そうか、俺はアニに諦めて欲しくなかったんだな』

 

 

ずっとアニを救出しようと考えたライナーには夢があった。

祖国マーレに戻って来たアニが何かを達成できるようにとしていたのだ。

罪滅ぼしだけではなく彼女の想いが叶うようにと…。

 

 

「ふぅー」

 

 

過去にやらかした自分の行動を振り返って収穫があった。

自分の原動力やアニへの想い、兵士と戦士の認識、早急に直すべき癖などが分かった。

それだけあれば、充分だった。

 

 

『俺の世代で残酷な世界を終わらせてやらないとな…』

 

 

マーレの戦士がパラディ島から敗走した事実を世界に知られた結果、戦争が起こった。

その戦争が集結した以上、今度こそ全てに決着をつけなくてはならない。

整備の区切りがついて一旦、銃を床に置いたライナーは天井を見る。

 

 

『そうしねぇと次世代が苦しむ事になるからな』

 

 

もはや、外の世界で巨人など通用しない時代である。

戦争初期に化学兵器が大量散布された影響で兵器が異質な進化を遂げた。

異様に発展した無人航空機(ドローン)装甲戦車(パンツァー)によって巨人などただの的に過ぎない。

 

 

『でもその前に…』

 

 

これからパラディ島に出向いて前回を上回る地獄が発生するのは間違いない。

だからこそライナーはこの場で振り返っておきたかった。

 

 

『マルコの事を…自分が完全に壊れたきっかけだけはしっかりと思い出さないとな…』

 

 

最後にライナーは振り返る。

一応、戦士と兵士と区別がついていた自分が完全に可笑しくなるきっかけの事を…。

今度こそ同じ轍を踏まないと覚悟を決めているからこそ必死に過去を思い出す。

どうしようもない屑が救いようがない屑に変貌する瞬間を…。

 

 

*1
現実世界では細菌学者であるアレクサンダー・フレミングによって発見された世界初の抗生物質である。アオカビから偶然に発見されたもので人体の細胞そのものには無害で殺菌作用がある。ただし、異物を排除しようとする人体の免疫機能によってアレルギー反応を起こし、最悪の場合、死に至る可能性がある

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