進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
ついに訓練も大詰めとなった。
1年目で立体機動に素質が無い者は、開拓地での任務に転進した。
2年目での兵士としての座学と適正がなかった者も同様である。
よって3年目まで残った訓練兵は、
「ファイトォ!!」
崖登りで先行したサムエルがコニーに向かって何かを叫びながら左腕を伸ばす。
「一発ぅ!!」
差し伸べられた左手を掴んだコニーが叫びながら這い上がって見せた。
それを見ていた訓練兵一同は、「おお!」と歓声をあげる。
「何をやってんだこいつら…」
一方、その様子を見ていたライナーは呆れていた。
「バディアクションの練習らしいよ」
「なんで訓練じゃなくて休憩中にやるんだ?」
「……さあ?」
ベルトルトが崖上に登り詰めたコニーたちの行動を説明するが、余計に意味が分からなかった。
「「やったぞ!!」」
まあ、楽しければそれでいいじゃないか。
「「俺たちは“仲間”だ!!」」
コニーとサムエルが嬉しがっているところを見てそう思った。
そして休憩が終わる前にどうやって地上に降りて来るのか気になった。
「「おーい降ろしてくれ!!」」
当然、本人たちもようやく気付いたのか救援を要請している有様だった。
ここで様子を見守っていた一同がズッコケるが、既に行動に移していた
「保険として縄と手袋を持ってきたけど…居る?」
「「要る要る!!」」
立体機動装置を身に着けたフローラが崖上で助けを求めている2人に縄と皮製の手袋を渡した。
さっそく一行は下山していたが、問題が発生した。
「クリスタ!?危ない!!」
「え?」
フローラと同じ事を考えていたクリスタが立体機動で崖を登っていた。
問題なのは、コニーたちの真下に居たせいで崩れた岩が彼女に向かって落下したのだ。
「いてええええええですわあああああああ!?」
現場に急行したフローラは何故か持っていた
その衝撃で右腕を負傷したらしく悲鳴をあげていた。
慌ててクリスタが地上に降りるとフローラも痛がりながら無事に地上に降りてきた。
「まーた負傷したのか?犬も歩けば棒に当たるというが、積極的に負傷しに行ってるだろ?」
「今回は名誉の負傷よ!」
「死に急ぎ野郎以上に死に急いでるなこいつ…」
なお、ジャンに煽られた通り、フローラからすれば大怪我程度なら日常茶飯事である。
彼女の返答を受けて珍しくジャンが本気で呆れていた。
「大丈夫?医務室に行った方が良いじゃないか?」
「マルコ、見逃して!今度行ったらわたくしに向かって匙を投げてくるの!!」
マルコの提言に対して意味不明な供述をするフローラだが、行きたくない理由があるのは明白だ。
もうじき成績の順位が確定する最終試験が実施される。
だから最後の追い込みをしたい彼女は、マルコの提言を蹴った。
「ダメでしょ!!」
だが、フローラの親友であるミーナはそれを見逃さない。
「あんたはさ…いい加減にしなよ」
ついでにアニもフローラの左腕を掴んだ。
「怪我の具合が悪化するからダメ」
「私のせいだから!弁明してあげるから!だから一緒に行こう!」
「やだー!まーた怒られるの嫌なの!!」
クリスタに呼ばれたミカサまで駆けつけてきたので…もはやフローラに逃げ場はない。
あっという間に手綱を付けられた犬みたいに引き摺られながらフローラはこの場を去って行った。
「女の子4人に愛されるなんて羨ましい!オレにもああやって心配してくれる子はいねぇかな?」
その様子を見ていたジャンが残った女の子に向けて本音を述べているが…。
どうやら周りから相手にされずに無視をされてしまった。
さすがに何か言われると身構えていたのか。
どこか悲し気なジャンの顔が印象的だった。
「なあ、ちょっといいか?」
そしたら何か問題があったのか、エレンがライナーに相談を持ち込んできた。
「馬面野郎の言っている事が良く分からないからさ。何が言いたいのか教えてくれないか?」
相変わらずどこかエレンは女が関わる問題に鈍感である。
この前も2人っきりでアニと格闘術を練習していてベルトルトが涙目になっていた。
それならまだ良いのだが、アニとエレンが付き合ってると同期の中で噂になっている。
なのに張本人と来たら恋愛に疎い鈍感系主人公のような質問を繰り出して来るもんだから。
「心配してくれる子は自分の事を大事に思ってくれているわけだ」
「まあ、確かにそうだな」
「お前だってミカサに心配されたりしただろ」
「いろいろ迷惑をかけたが…それがどうした?」
だからライナーは、エレンとジャンを同時に弄る事にした。
「つまり、ミカサに心配されるエレンにジャンが嫉妬してるってわけだ」
「はあ!?今、なんて言った?」
すぐにジャンが釣れたのでエレンに押し付けた。
女にモテたいと断言するが、口と態度が悪いせいで中々願望が叶えられないジャン。
何かと女と縁があるのに鈍感過ぎて恋愛に繋がらないエレン。
どう考えても相性が最悪あり、あっという間に2人が対峙して睨み合う。
「…といがみ合うのは結構だが、もうすぐ休憩が終わるぞ?続きは後でやれ」
キニスンの一言でエレンとジャンは、いがみ合うのを止めてその場を立ち去って行った。
そう、もうじき最終試験があり、今週はそれに備えての実技訓練がほとんどである。
「そうだな」
ライナーにとって幸せな時間が終わると自覚させる出来事でもあった。
戦士候補生時代は落ちこぼれだった自分がここでは頼れる兄貴分として評価される世界。
だが、兵士になれば訓練兵の成績より上官に好かれたり、実績が重視される。
『俺は本当に兵士になれるのか?』
自力でマーレの戦士になれなかったという事実がライナーの心の奥深くに突き刺さっている。
まるで喉に刺さった魚の骨のように否定したくても向き合わなくてはならない現実がある。
『いや、これは始まりに過ぎねぇ…』
パラディ島に上陸してからもうじき5年が経過し、能力を継承してから6年が経った。
もうじき折り返しの時期に来ると言うのに未だにライナーは割り切れなかった。
『はあ、楽しい訓練生活もこれで終わりなのに…まだやりたいと思ってしまう。情けねぇ事に…』
この頃のライナーは、訓練生活が充実し過ぎてまだ卒業したくなかったのだ。
野郎共から何かと頼りにされる兄貴分が一番、潜入した戦士の中で兵士になりたくない。
そんな感情と葛藤しながら訓練を励む糞野郎であった。
だが、時間は待ってくれない。
「これから訓練修了試験を実施する!」
キース・シャーディス教官によって訓練兵の最終試験が実施される事を通知された。
それを聴いたライナーは身構えたが、意外な発言によって困惑する事となる。
「だが、その前に言っておく事がある!既に貴様らの点数は決めてある!!」
実は、訓練兵団における3年間で誰が成績上位になるのか教官たちは既に予想していた。
つまり、出来
これには直立不動で敬礼をしている訓練兵全員が困惑したが、更にシャーディス教官は語る。
「なんでか分かるか?厳しい訓練に耐えて心臓を捧げたつもりでいる輩を兵士にする気はない!!いいか、これから貴様らは同僚の死を経験する!!評価されるつもりで試験に挑むのであればな!すぐさま辞退しろ!これから先は、お前たちが我々に教えるのだ!自分の価値を!同僚の価値を!教官の目を出し抜くか、そのまま評価を受け入れるか。その二択しか残されてはいない!」
最初は、減点方式かと思ったが、その割には教官に自分の価値を示せと命じて来る。
「この時期になるとな!お前たちは我々に【死】という最悪な結果をもたらす!少なくとも毎年、2人は死ぬ!それほどまでに貴様らは頑張り過ぎて無茶な立体機動をするのだ!」
5年ほど前には、このトロスト区近郊も【内地】であり、巨人という脅威は忘れ去れていた。
だが、ウォール・マリア陥落を受けて8つあった訓練所は4つとなり、内地も減った。
訓練兵を指導し、立派な兵士にする教官も大勢が戦死したというのに現実は非情である。
「いいか!もし修了試験で死者が出た場合は、貴様らの夢に支障が出ると肝に銘じろ!」
世間の風潮や復讐、もしくは安定を求めて例年の数倍の志願兵が訓練所に詰めかけた。
兵士を選別する余裕がないどころか、教官が負担する事は、指数関数のように拡張した。
限られた資源、人材、戦略に対して多くの戦術、教訓、経験を訓練兵に叩き込まないといけない。
ウォール・マリア陥落の皺寄せを受けたのは、訓練兵団の教官も同じであった。
「これから我々は貴様らを評価しない。貴様らが自分の評価を我々に知らしめるのだ!!地べたに這い蹲って豚のように鳴くか!巨人に喰われる囮として宣言するか、無様な死に様を見せるか!」
人類がウォール・マリアの領域を失って5年目になろうとするが、訓練兵団ですら多くを失った。
厳しい訓練を越えて限りがある席に座っている教官ですら挫折と絶望を得て立ち去っていく。
「誰1人死なさずに全員が訓練を修了し、兵士になるかは貴様らの行動次第だ!!」
訓練兵から恐れられているシャーディス教官の演説が何故かこの時だけは哀愁漂わせている。
少なくともライナー自身はそう記憶している。
「試験内容は20分の休憩後に伝達する!以上、解散!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
誰かが死ぬ。
既にマーレの戦士からすれば経験した事である。
だが、実際にデントの死を見て努力しても死ぬ時は死ぬと同期に知らしめた。
ただし、シャーディス教官の真意を理解した者はこの場に居なかったはずだ。
『まあ、誰も死なねぇと思うけどな…』
後に多くの人を死なせる当事者であるライナーですらそう思ったのだ。
きっと上手くいくし、誰もが兵士になる。
訓練兵団を卒業し、各地に配置されれば二度と再会する機会に恵まれない同期も出るだろう。
『精一杯、頑張るだけだ』
心配そうに見つめるアニとベルトルトを見て頷いてライナーは口角を釣り上げてみせる。
今を頑張れば、輝かしい未来があると信じていた。
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試験内容に関しては実はそれほど覚えていない。
当時は必死なのもあったが、戦士候補生時代と違って種明かしがなかった。
だから立体機動の点数が大きいのと同僚との連携、兵士としての思考が評価された。
そう考えるしかなかった。
『精一杯、頑張った結果が
ライナー・ブラウンには目の前にある線路に沿って進む事しかできなかった。
分かれ道はあったものの全ては事前に決められた道で選択の余地など残されていなかった。
希望を信じて走り続けた未来の先は、ライナーにとって残酷な世界であった。
『どうすれば良かったんだ…』
今から訓練兵時代に
現在の自分という存在を抹消する過去改変をしようにも、どれが正しい選択肢なのか分からない。
『俺はずっと後悔している…』
ライナーは選択肢を間違え続けたと自覚している。
ただ、自分が生まれなかったとしても、この未来はいつか到達していると分かってしまう。
それほどまでに巨人は、マーレは、エルディア人は世界中の憎しみと恨みを掻き集めてしまった。
『人類に自分たちを絶滅させる兵器を生み出させた原因になった俺自身を…』
パラディ島に上陸する時は、自分が敗走するなど考えていなかった。
ところが、今となっては鎧の巨人は既に時代遅れどころか足枷である。
『殺させなかった事に…』
今のライナーは『償いをしたい』という【一心】と【責任】によって生かされているに過ぎない。
既に人類は、かつて夢見た『大空を飛ぶ』という行為を
スプライト姉妹が生み出した飛行艇の開発も、内燃機関の改良と共に歴史の闇に葬られた。
それほどまでに化石燃料で動かす蒸気機関が時代遅れになってしまったのだ。
それこそ大昔の公共移動手段であった牛車のように【無用の長物】と呼ばれるのも遠くない。
『ホントに情けねぇな…』
これにより航空による移動手段は、
その時代には、既に巨人は無力であり、エルディア人は地上から消滅しているだろう。
『こんなんだから次世代に夢と使命を託せねぇんだ…』
ライナーは、この世界で猛威を振るっている新技術について理解できない。
それどころか、新技術で兵器を開発していたヨルムンガンド
理論や理屈は分かるのだが、なんでそれが実在し、どうやって調達し、発展させたのか謎が多い。
『……まあ、世界も似た様なもんだが』
例えば、
活用しやすいアンモニアではなく大気中の
窒素を多原子分子に結合させる触媒の精製技術を転用した
120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲やレーザー列車砲といった超兵器群。
パンの作り方を知らなくてもパンは喰えるが、こういった未知なる技術は各国の首脳を魅了する。
『皮肉なもんだ、凄惨な戦争を終わらせたら完成した通常兵器以外に接収できなかったなんてな』
当然、各国がヨルムンガンド
超巨大な多国籍企業を各国が一斉に解体したせいで大不況となり、世界情勢は大幅に悪化。
しかも、各国が把握していたのは、民間施設の工場ばかりで新技術に関しては一切不明のまま。
それどころか、生産できていた最先端の通常兵器群ですら二度と作れなくなってしまった。
『下手に介入したせいで兵器を横流しにされて自国で紛争が起こるというおまけ付きだ…』
更に接収による混乱期で大量の兵器群が独立勢力に流れた結果、20カ国以上で独立紛争が勃発。
皮肉にもマーレから独立しようとした半島を応援していた各国で独立運動が盛んになったのだ。
既に打倒された民主国家から【共産主義】という新たな思考が生まれたとも風の噂で聞いた。
ライナーが整備しているカラシニコフ式自動小銃は、そのきっかけの1つになった兵器である。
『そしてこの結果をもたらした元凶も分かっている』
マーレと中東連合との戦争で得られた物は負の遺産が大半だった。
一応、人類は反省してアイスバーグ陸戦条約などの
少なくとも次に大戦が発生した時は、祖国マーレは滅びると確信できる。
そして、そのきっかけを作った人物をライナーは良く知っている。
『全部、俺のせいだ……』
ずっとライナーは自分を責めていた。
この最悪な未来を到来させたのは自分だとずーっと誰にも相談できずに悩み続けている。
それでも前に進みたいのだが、どうすれば分からない。
『だが、これ以上の失敗は防ぐ事はできるはずだ…』
だからライナーはパラディ島における過去を必死に振り返る。
自分が中途半端だったせいで敗北して最悪の未来をもたらしたのであれば…。
過去を振り返って得た情報で今後の失敗を防ぐ事ができる。
『ああ、そうだ。そうだよ、俺は兵士にも戦士にもなれなかった屑野郎だ…』
だからライナーは過去を振り返る。
自分のせいで今度はトロスト区の住民と警備していた兵士と同期を死なせるきっかけを…。
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あれは、最終試験が終わった日から3日後の晩であった。
「ベルトルト、寝相が更に悪くなってるぞ」
「…え?ああ、うん、ごめん」
アニとの打ち合わせの為にベルトルトと一緒に目的地に向かっていた。
その際に気になった点があったので彼に質問してみた。
「なあ、まだ悪夢って見てるのか?」
「おじさんの事?」
「そうだ、山奥の村の出身の…」
「うん、今日も見ていた」
ベルトルトが極端に寝相が悪い時は、いつも自殺したおっさんの夢を見ている。
それを理解するまでに時間がかかったが、さすがにアニの乙女心ほど難解ではなかった。
「最近、アニと会話できるようになったんだろ?」
「う、うん…業務連絡くらいだけど…」
「だったらその楽しい記憶を想像しながら寝るといいぞ。きっと良い夢が見られるはずだ」
班長として班員の体調と精神状態を管理する。
簡単そうでとても難しい事だが、大事な同僚をこれ以上、疲弊はさせたくなかった。
「いいか、俺たちはあいつらと相容れない。それを肝に銘じないと精神が壊れるぞ?」
「そうだね」
他者から見た評価は分からないが、当時のライナーは割り切りができていたと自覚している。
基本的に訓練兵として過ごしているが、戦士として発言する時は、気分を切り替えている。
そのつもりだった。
「よぉ、アニ!」
そしてアニ・レオンハート。
既にフローラから彼女の現状を聴かされていたので発言内容は決まっていた。
「明日は早い。今回の遠征で何があったか結論だけ聞かせてくれないか?」
「王都で黒いコートの奴を追ってたら逆に追われて逃げて来た」
「…なるほど、災難だったな。つまり黒いコートは大物って事か、それだけでも充分だ」
フローラ曰く、アニからはドブの匂いがしたそうだ。
本来なら彼女がそれを知らせる事はないが、何かを察したのか特別に教えてくれた。
慌てて香水と石鹸を渡して洗ってもらったようだが、その名残は消し切れていなかった。
「え?どういう事?」
「アニが返り討ちにできなかったって事は、おそらくこの世界の暗部だ、深入りは無理だろう」
人間形態なら戦士の中で誰よりも強いアニが逃げに徹する。
つまり、彼女ですら戦うのを避けるほど身の危険を感じたということだ。
「黒いコートの奴は、そこら辺と違う。中央憲兵に入ったところであいつが居る限り…」
「ああ、顔を覚えられている可能性が高い。王都の潜入捜査はこれで終わりにするぞ」
「…もう限界」
「そうだな、エルミハ区くらいなら俺でも潜入できるかもしれねぇ…ご苦労だった」
エルミハ区とは、トロスト区を北上すると出迎えてくれる城塞都市である。
ウォール・シーナという内地に位置する為、そこそこ貴族や商人が集まっている。
毎日は無理かもしれないが、何日かは鎧の巨人で往復できるかもしれない。
「あんたが苦労をねぎらうなんて珍しい。明日、大雨でも降るっていうの?」
「俺だって馬鹿じゃない。班員に気を配って責任者として行動する事を心掛けているだけだ」
「それもフローラの入れ知恵じゃないの?」
「もちろん、あいつのやり方も参考にしている」
人にはそれぞれ長所と短所がある。
直せない癖や習慣はあるものの誰かを参考にして短所を直すのは悪くない。
とりあえず、フローラの言われた事を実践し、アニのご機嫌取りを欠かさないようにした。
「ねえ、私たちが必死に掴んだ壁の情報をもってマーレに帰ろうよ、あれから5年が経つんだよ?どんな情報でも歓迎してくれると思うよ。」
「なら、その成果を俺が伝えてもいいか?きっと上官たちは
「…失望して殺されるってわけ?」
「ああ、次世代の戦士がここに送り込まれて記憶を辿りにお前と手を組むだろうよ」
祖国マーレは、成功か勝利以外には興味がない。
後世では、勝利の二文字以外には納得しなかった。
だからアニの提案は受け入れられるわけがないと分かってるからこそ煽る。
「じゃあ、どうすればいいっていうの?」
「ウォール・ローゼを破壊するしかない。それ以外に道は無いだろう」
ライナーの発言を聴いて信じられないといった表情をしたベルトルトが見つめて来る。
「…あんたらの友達がたくさん死ぬね。全員死ぬ可能性だってあるんだよ?」
「確かに友達は死ぬかもしれねぇ…でも、お前らが祖国に処刑されるなら俺は虐殺の道を選ぶ」
既にウォール・マリアを破壊したせいで多くの人々を死なせた。
そして今はウォール・ローゼを破壊してその再現をしている。
この頃までは、きちんと戦士と兵士の顔を使いこなしていたのだ。
「俺の事を嫌っても良いし、もしバレたら俺のせいにもしていい。だが、忘れるなよ?あいつらは俺たちと違う。【エルディアの悪魔】だと割り切れ。そうしなきゃ心がいくらあっても足りねぇ」
自分のせいで大勢が死んだ。
あの時は、全く接点がない人々だったから耐えきれた。
だが、今回は違う。
「吐きそう、それ以上、顔を近づけないでくれない?」
「分かった。いつもお前に負担をかけてすまなかった…」
アニには数は少ないが話し相手が居る。
その内の1人であるミーナという少女とライナーは接点がないせいでどういう関係か分からない。
ただ、どこか人懐っこくて空回りする性格をアニが気に入っているのかもしれない。
「これだけは言わせてくれ。俺たち訓練兵のトロスト区滞在期間中に調査兵団が壁外調査で出払う日になっている。その日に実行すれば、壁内社会は大混乱に陥るし、訓練兵が何人か行方不明になっても誰も生きているとは思わないだろう」
木を隠すなら森の中、ならば人を隠すなら大混乱に陥った街の中というわけだ。
「その後、王都に雪崩れ込む難民を装って潜入してもいいし、状況次第なら兵士を続けても良い。なんなら明日、発表される成績で10番以内に入れそうだったら卒業を待って憲兵になってもいい」
少しでも同僚に選択する余地を与える。
これは、ライナーの自己満足だけではない。
大勢の人々を更に殺すという大罪を共犯させるという意図もあった。
特にアニは親友を殺せる勇気があるか疑問なのも大きかった。
「要は、壁の王の行動や動きに合わせられる位置に就ければいいんだ」
ライナーだって104期兵を死なせたくはない。
ただ、自分たちには使命があり、いずれパラディ島から脱出しなければならない。
人生でも重要な判断をここでライナーが示さなければならない。
未だに相棒が状況を理解できていないので彼の名を呼ぶ事にした。
「ベルトルト!」
「どうしたの?」
「とりあえず、明日の発表を聴いてからこの作戦を実行するか判断しようじゃないか」
「本当にいいの?」
「こんな汚れ仕事をアニにやらせるわけにはいかねぇだろう?」
「そうだね」
そしてウォール・マリアの門を破壊した時を再現する事は確定していた。
まずは、トロスト区の正門を超大型巨人が破壊する。
穴が空いた門から巨人が侵入して混乱する守備兵の隙を突いてライナーが内門に辿り着く。
そして鎧の巨人となって内門を体当たりで破壊してウォール・ローゼ内に侵入する。
「アニは頑張った。次は俺たちがやる番だ」
それと前回と違って巨人の大群を引き連れる事はしない。
あくまでも2つの門に穴を空けるだけであってウォール・ローゼを巨人に明け渡す気はなかった。
巨人が数体、ウォール・ローゼ領に侵入したという報を出させて警備を手薄にするのが狙いだ。
「100年間の平和の代償は惨劇によって支払われた。当時の危機管理では対処できなかったのだ。突然に襲来した【超大型巨人】の攻撃は人類にウォール・マリアを放棄させてしまった」
訓練兵団の団長が演説をする。
「今、この瞬間にもあの【超大型巨人】が壁を破壊しに来ても不思議ではない」
訓練兵の現状を伝える団長であるが、マーレの戦士たちは他人事ではない。
実際にウォール・ローゼの門を破壊するつもりなのだから当然と言える。
「その時こそ、諸君らはその職務として【生産者】に代わり、自らの命を捧げて巨人という脅威に立ち向かっていくのだ!諸君らは最期の時を迎えるまで戦い続けなければならない!」
この世界における兵士というのは、生産者に代わって巨人と戦う事である。
例え直接、巨人と戦わなくても3年間で学んだ技術と技能を尽くし戦い続ける。
命がある限り、戦わなくてはならない。
「心臓を捧げよ!!」
団長からの号令に対して訓練兵の想いは1つである。
「「「「「ハッ!!!」」」」」
握り締めた右手を自身の心臓がある左胸部中央に当てる。
残った左手は右手を押し返すように背中に当てて胸を張る。
この場に居るのは、104期訓練兵団を卒業した104期兵である。
『…この中で何人が死ぬだろうな』
マーレの戦士が所属する104期南方訓練兵団の総勢218名がこれから卒業する。
そして成績発表の結果次第で彼らの運命は大きく変わる。
ライナーの目線は教官の首元を向けていたが、思考は遥か上に向かっていった。
「本日、諸君は訓練兵を卒業する…。その中でも、最も訓練成績が良かった上位10名を発表する。呼ばれた者は前へ」
ついに始まった運命の時。
ライナーだけではない。
この場に居る全員が自分の名を呼ばれると確信して整列している。
…ダズはそんな事を考えていないと思うが、それでも胸を張れる人物がこの場に居る。
「主席、ミカサ・アッカーマン!」
予想通り、ミカサの名が呼ばれた。
誰もが想定内であり、異論を言いたそうな人物は居なかった。
「次席、ライナー・ブラウン!」
自分の名前が呼ばれた瞬間、口元だけを緩めてしまった。
ついに自力で勝ち取ってみせたのだから嬉しくないわけがない。
さすがにミカサには勝てないと思っていたが、それでもベルトルトに勝つとは思わなかった。
「3番、ベルトルト・フーバー!」
ベルトルトの名が呼ばれた時、彼の表情は見えなかった。
だが、この時ばかりの彼は、マーレの戦士としての顔そのものであったはずだ。
「4番、アニ・レオンハート!」
そしてアニも憲兵になれる資格を手に入れた。
これでどの作戦を実行してもいい。
ただ、ライナーは既に決行日を決めていた。
『調査兵団が居ない日、つまり、翌日に作戦を決行する!』
以前、調査兵が曲芸師のような動きをして目を丸くした事がある。
確かに乗馬しているとはいえ平原で白兵戦を仕掛ける調査兵は異常者である。
ただ、動きからして化け物に見えたのでライナーは彼らを警戒していた。
『そうだ、迷う必要はねぇ!』
ここで作戦を決行しなければ、いつまでもこの環境でぬるま湯に浸かってしまう。
いくら居心地が良いとしても、いつかはやらなければならない。
そしてマルセルに代わって班長となったライナーは覚悟を決める!
「10番、クリスタ・レンズ!」
ところが、クリスタの名前が聴こえて思わずライナーは振り向いた。
そこには何で自分の名前が呼ばれたか理解できずに困惑している美少女の姿が…!
『うぉっ!?めっちゃかわいいい!!』
その瞬間、ライナーの両眉が垂れ下がったが、一瞬だけ目が合ったフローラに睨まれてしまった。
『やべぇ!』
自分に対して怒っているというより『だらしがない』と叱責しているようであった。
現にクリスタですらきちんと目の前に居る104期兵たちの手本として姿勢を正している。
可愛いクリスタにデレデレになっていては、同期たちに示しがつかないとライナーは理解した。
『マルセル、俺はやったぜ。自力で兵士になってみせた。なあ、お前の行動に意味があったぞ』
この場に居ないマルセルにも胸を張って自分の雄姿を見せつける様にライナーは姿勢を正す。
直立不動で待機する10名の若き兵士の姿は、今後も壁内世界を守り続ける英雄に見えた事だろう。
それが地獄の始まりと知らずに…。
「班員変更だと?つまり、こっちも誰か編入されるのか?」
それは唐突だった。
思わずベルトルトに質問を繰り出してしまう。
「うん、マルコが班員に編入されるんだって」
「待て、19班のマルコは補給担当じゃなかったか?」
訓練兵団では、入団した時に班に分けられる事となる。
それとは別に任務で臨時の班を割り振られる事もある。
今回の場合は、初任務であるトロスト区防衛の任務の班編成だった。
「なんでも、エレンがフローラを固定砲整備4班に編成を願い出た影響って聞いたよ」
「…なるほど、さては、壁上固定砲の整備の自信がなかったな?」
どんなに死にかけても放置すれば復活する事に定評あるフローラだが…。
数学と弾道学と砲撃実技は首席である。
つまり、壁上固定砲の整備に自信がなかったのでそうなったと理解した。
「まあ、いいんじゃないか?」
「よくないよ」
「ん?なんかあるのか?」
ところが、ベルトルトが何か言いたそうだった。
彼があそこまで食いつくのは珍しいので思わず質問してしまった。
「地図で確認したんだけど、固定砲整備4班ってトロストの正門を担当してるんだよ」
「……固定砲を素早く始末して無力化をしねぇといけないって事だな」
超大型巨人は、トロストの正門前で出現して正門に穴を空ける予定である。
だが、ちょうどエレンやフローラが居るせいで彼らと交戦しかねない状況となる。
別に交戦しても問題ないが、人殺しに消極的なベルトルトにそれを命じるのは酷だった。
「いいか、適当に壁上固定砲を薙ぎ払って正門に穴を空けたらすぐに離脱しろ」
「ライナーはどこにいるの?」
「教会前の派出所で警備しているはずだ」
「…はず?」
もちろん、ベルトルトは上手く仕事をこなして帰投するのは分かっている。
「巨人痕を誤魔化す必要があるだろ?」
「うん」
「だから俺とアニはマルコを連れて巡回任務をする。その隙に派出所に向かってくれ」
本来であれば、正規兵が勤めているが、今回は104期兵の訓練という事で貸し切りになっている。
その代わりに兵団司令部に多くの兵士が集っている。
これならば、そう簡単には巨人は街中に侵入できないだろう。
「そして巨人襲来の報を聞いて俺らは兵団司令部に向かう。そこで合流しよう」
緊急時であれば、持ち場を離れて上官の命令を乞う必要がある。
エレンたちであれば、正門の警備兵の指示に従うが、ライナー班は巡回中。
つまり、早急に命令を受ける為に兵団司令部に向かう事となる。
そこでベルトルトと合流しようという魂胆である。
「そして俺は機会を見て…内門を破る」
さすがにシガンシナ区の時と違って兵士の士気も装備も段違いである。
そう簡単には、トロスト区は陥落しないと信じている。
だからこそ、トロスト区の内門を破る機会に関しては時間を指定しなかった。
「本当にやるの?」
「あくまで賭けだけどな、それでもやらないよりマシだ」
今まで仲良くしていた同期が死ぬ可能性がある作戦である。
パラディ島脅威論に賛同していたベルトルトも思わず確認を取って来た。
だが、ライナーは決断した。
「調査兵団が不在で堂々と内門まで向かえる機会は明日しかないんだ。俺はやるぞ」
「……そこまで言うなら協力するよ」
「ああ、今度こそアニに負担をかけないようにしねぇとな…」
同期を死なせてでも自分の課せられた任務を達成する。
その行為が自分に呪いとなって帰って来ると知らずに作戦を決行してしまった。
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決行日当日、ベルトルトは困っていたおばあさんの手伝いをしているので到着に遅れている。
そう告げるとマルコがベルトルトに加勢しようとしたので必死に留める羽目になった。
「マルコ、お前まで行ってどうする?俺らの任務を忘れたのか?」
「でも、僕たちも手伝えばすぐに終わると思うんだ」
「気持ちはわかる。巡回任務でベルトルトが良そうな場所を周ってみるのはどうだ?」
これでは、意味が無いとアニの顔を見る。
「別にいいじゃない?私からすればその分、楽になるし…」
「お前な……」
そろそろ正門付近に超大型巨人が出現するのを知っているアニはどこか他人事であった。
実際、他人事だからやる気が無いのは確かだが…。
「ああ、さっさと帰りたい」
どうやら話し相手の2人がベルトルトと遭遇するのには不満があるようだ。
何か一言を告げようとした瞬間、正門から爆音と共に地面が揺れた。
「な、なんだ!?地面が揺れたぞ!?」
なんで地面が揺れたのかは分かっている。
ただ、超大型巨人の大爆発をかなり抑える技量にはベルトルトの素質に慄く。
歴代で最強と噂されるベルトルトが本気を出せば、自分が居なくなるのでは…。
そう感じてしまうほどには手際が良かった。
「ねえ、壁から何かが見えない?」
微妙に棒読みなアニの発言を聴いて振り返ると正門の上から顔を出す超大型巨人が見えた。
賢い住民はこの時点で何が起こったのか察して内門に向かって走り出している。
もうじき、ここが戦場になるのは明白だった。
「マルコ、まずは兵団司令部に向かって上官から指示を乞うぞ!」
「でも、避難勧告をした方が…」
「それは駐屯兵に任せておけ!素人の俺らが指示を出すと逆に混乱を起こすだけだ!」
適当な建前で兵団司令部に向かおうと発言するとマルコから異議の申し立てがあった。
ただ、トロスト区の地理に関してそこまで自分たちは詳しくないのは確かだ。
それをやらない理由を述べるとマルコも諦めたのか。
「分かった。まずは兵団司令部に向かおう!」
ライナーの意見に賛同し、兵団司令部に向かう事となった。
「ベルトルトはいいの?」
「あいつだって立派な兵士だ。自分のケツくらい拭けるさ」
実際は、エレンやフローラから必死に逃げ回っているんだろうな…。
ベルトルトを心配するマルコを言葉で宥めつつライナーはそう思った。
「訓練兵!速やかに兵団司令部に向かえ!!」
「「「ハッ」」」
ついでに抜剣した騎兵の発言でマルコに違和感を覚えさせずに済んだ。
おそらく最前線で交戦したのだろうが、二度と再会する事は無かった。
だから彼の死も自分のせいになる。
「巡回3班、只今帰投しました!」
「よし、中央広場に急げ!!」
「ハッ!」
兵団司令部に辿り着いて見張りに所属班を告げて建物に入る。
既に同期の大半は揃っており、その中にはフローラやエレンの姿もあった。
「ライナー!アニ!マルコ!無事だったか!」
「巡回任務だったからな、運が良かったぜ」
エレンから呼びかけられたライナーは本音を告げる。
実際、エレンたちは巨人と交戦する機会があったはずだ。
だからこうやって帰投できているとすると、ベルトルトも無事だと分かった。
「そういえば、ベルトルトはどうした?」
「近所のおばあさんの手伝いで単独行動してるんだ。今、どこに居るか分からん」
思った以上にベルトルトの到着が遅くてライナーも違和感があった。
さすがに巨人痕が消えている頃合いだし、そもそも最前線のエレン班も辿り着いている。
「おいおい、ベルトルトが最初の犠牲者かよ」
「…まあ、良い奴だったぜ」
そのせいか、負傷して後方送りになったサムエル以外に居なかったのはベルトルトのみ。
だからジャンとコニーが気を紛らわせようと軽口を叩き始めた。
「…確かに昼行灯みたいな奴だったけどよ、あんなあっさり死ぬもんだな」
キニスンもベルトルトが生きていると信じているからこそ冗談を告げる。
シガンシナ区の二の舞という非常事態に落ち着いている奴は居ない。
「実際に巨人を討伐したんだけど、やっぱり斬るより削ぐ方が戦いやすかったわ!」
フローラもまた巨人の討伐経験を同期たちに聞かせていた。
具体的な話もしているので同期どころか、近くに居た駐屯兵も耳を傾けるように見える。
『兵士として巨人の討伐経験も必要…か?』
せっかく立体機動装置を身に着けて巨人と戦えるように訓練してきた。
どの道、巨人の領域となったウォール・マリアを抜ける為には装備を使いこなす必要がある。
「フローラ!」
「あら、どうしたの?」
「せっかく兵士になったんだ。巨人を討伐したいと思ってな!」
だから巨人討伐を経験したフローラに声をかけた。
訓練時と違って目標は動き回る。
だからどのように討伐したのか気になったのだ。
「さすがライナー、やる気満々ね」
「そりゃそうだろう。せっかく兵士になったのに傍観しているわけにはいかないだろ?」
「そうね、あとで詳しく教えるわ!」
この時、アニの顔を見ていない。
だが、どんな表情をしていたのかは予想がつく。
『何言ってんのこいつ…』みたいな顔をしていたのは間違いないだろう。
「ご、ごめん。ちょっと遅れちゃった…!」
そして肝心の話を訊こうとすると珍しく空気を読まないベルトルトが合流してきた。
「ベルトルトお前、この非常事態に何をやってたんだ!?」
「え?ええ?えーっと……トイレに行った!」
それならよかったのだが、質問に対する返答が最悪だった。
そのせいでベルトルトは同期から弄られる事となる。
「おい、ベルベル!」
「ベルベル!?」
「この緊急時に何をやってるんだ!?」
これには、なにかとベルトルトを心配していた同期たちに火が付いた。
「ベール!肝心な時に役に立たねぇな!」
「べる何とか!図体はでかいのに下半身は貧弱なんだな?」
「ベロリンガ!罰として巨人と戦って来い!」
「ベルリン、そういうわけだ、ここにおめぇの席ねぇから!」
このせいで暫くベルトルトは自分の名を弄られる事になった。
「なんでこんなに怒られるの!?」
ベルトルト視線から見れば、かなりの理不尽となる。
だが、超大型巨人のせいで大騒ぎになったので無関係ではないのがややこしい。
「ベルト、私も同類になりそうだから暫く近づかないで」
まさかのアニの裏切りにベルトルトは泣きそうになった。
いや、実際に泣きそうだったわけではないが、彼の性格ならそうだったはずだ。
とにかく大好きなアニから梯子を外されたベルトルトはフローラを見る。
『なんだこいつ…』
ライナーからすれば、なんでベルトルトがフローラの発言に期待しているのか理解できない。
「そんな事はどうでもいいわ」
「いや、待って。どうでもよくないんだけど?」
「ベルさん、そろそろ上官から命令が下されるから静かにして」
「えぇ!?」
ついでにフローラまで裏切ったので…。
「ベルトリーニ、お前が変な事を言ったせいだぞ」
ライナーも軽くベルトルトを名前で遊んでから整列している同期の傍に寄った。
「諸君、静粛に!」
ついに上官から話しが始まったが…。
正直眠くなりそうなほどにはくだらない話を多く占めた。
「兵士になった以上、敵前逃亡したら即刻死罪だ!覚悟して任務へ当たれ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
「解散!」
命令から解散指示まで15分以上はかかっていた。
そのせいで即座に出撃できず同期たちは一旦、装備の点検をする事となった。
「さっきの話なんだが…」
「もちろん、コツは教えるわよ」
訓練兵 31班の班長であるライナーは巨人を討伐したくてしょうがない。
同期の大半も同じなのか、すぐに出撃できずに苛立っている者すら居る。
『よし、後は実戦あるのみだ』
ここでライナーは予想外の選択肢を選んだ。
「フローラ、援護してくれるか?」
「えぇ、ライナーたちの役に立てるなら…」
トロスト区の内門を破壊するはずだったのに何故かフローラを加入させる暴挙に出た
何故そうしたのか答えは分かり切っている。
『今度こそ巨人を自力で討伐してやる!』
マーレの戦士になった際は、能力を継ぐ事で一人前と認識した。
しかし、ここでの兵士は、巨人を討伐するほどに評価される。
自力で兵士になったと自覚する男は、独力で巨人を討伐できる事を嬉しがった。
『それこそ、みんなを助ける為に鍛えたんだからな…』
この時点でライナーは兵士と戦士の繋がりが曖昧になり始めた。
自分が戦士なのか兵士なのか、それとも卑怯者なのか。
これからトロスト区で発生する犠牲者を心の底からは理解していた。
『ああ、ある程度の巨人を狩ったら後退しないな』
フローラを誘った要因はまだある。
あまりにも負傷しているのだが、兵器の欠陥で負傷した事もある。
だからこそ気付かなかった。
「マルコ、お前も来るか?」
「……え?」
「せっかくの巨人だ、兵士として討伐経験すれば、すぐに近衛兵になれる実績を得られるはずだ」
マルコ・ボットが目指す憲兵とは、中央第一憲兵団の近衛兵というものだ。
アニが怪しがる組織であるが、偽者の王を真面目に守護するという近衛兵になるには実績が必要。
本来であれば、10年から15年ぐらい憲兵に所属して問題無ければ、関係部署から声が掛かる。
だから巨人を討伐した実績でマルコに上を目指さないかと告げてしまった。
「…まずは装備を整えるべきだね。すぐに準備するよ」
「おう、早くしてくれよ。俺たちでも巨人に勝てるって証明しないといけないからな」
既にライナーは自分が戦士なのか兵士なのか分かっていないほど意識が朦朧としていた。
そのせいであの後、なんて発言したのかは覚えていない。
ただ、マルコを誘ったせいで彼が死ぬ事となる。
「うん、そうだね。頑張らないと」
自分の運命について疑問を抱いていないマルコは、ライナーの発言を鵜呑みにしてしまった。
そして…ライナーが見せてしまった致命的な証拠を口封じで殺される事となる。
そのせいで完全にライナーの精神が完全に壊れるきっかけとなった。