進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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179話 回想0-9 ベルトルト・フーバーの嘆き

キース・シャーディス教官は誰よりも厳しかった。

人間の本質を見抜くような眼孔と自己を徹底的に否定する口調。

なにより、誰よりも強く全てにおいて真摯に向き合う存在であった。

 

 

「いいか!バディアクションを組んだ奴を絶対に見捨てるな!」

 

 

特にバディアクションという班編成に関しては、特に口を尖らせた。

簡潔に言えば、味方は見捨ててもいいが、相棒は見捨てるなという事である。

もちろん、ライナーからすればベルトルトやアニが優先となっている。

 

 

「バディアクションを組む奴を見捨てた奴に人権など無い」

 

 

何故そこまでシャーディス教官が口煩く言っていたのか今でも分からない。

1つだけ言えるとしたら、仲間や親族よりも相棒を大事にしろという事らしい。

 

 

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トロスト区の内門を破る予定であるが、今までの訓練が巨人に通じるか気になった。

それだけの理由でライナーは、トロスト区に侵入した巨人を討伐しようと考えた。

 

 

「馬鹿じゃないの?私たちが積極的に巨人を狩ってどうする気?英雄に成る気なの?」

「そ、そ…そうだよ!前衛部に配属された先輩たちの足を引っ張るだけだよ…」

 

 

当然の如く、巨人と交戦する気が無いアニとベルトルトが反論してきた。

しかし、フローラとマルコ、それどころかこの場に居る誰もが分かっている。

 

 

「おかしいですわ…予想より巨人の侵攻が早い…」

 

 

トロスト区の正門で巨人を討伐していたフローラは先輩方に任せて兵団司令部に撤退した。

それでも援軍は向かったはずだし、既に先遣班が喰い止めているはずだった。

だが、ライナーのゴリ押しで前衛部が展開している地点に来ると巨人の姿を複数、発見した。

 

 

「これは異常だよ!一旦、兵団司令部に報告した方が良いんじゃないか?」

 

 

巨人の侵攻の早さに驚くフローラの意見を聞いてマルコは決断する。

明らかに想定以上の早さで前線が崩壊していると上層部に通達するべきだと…。

 

 

『……これはどうするべきだ?』

 

 

この状況を受けてライナーは判断に困った。

すぐにでも情報を伝達すれば、上は対策を打ってくれるだろう。

ただし、2体の巨人に気付かれたせいで奴らを撒くのは不可能と判断!

 

 

「マルコ!撤退の邪魔になる巨人だけ討伐するぞ!」

「でも!」

「どうせ巨人と交戦するんだ!ガスの余裕がある内にやるぞ!」

 

 

兵士には退いてはいけない時がある。

今がその時だとライナーは判断した!

 

 

「まず手本を見せる!フローラ援護しろ!」

「動きを止めますわ!」

 

 

生身で巨人に挑むのは始めただった。

屋根から飛び降りて立体機動に移り、巨人の後方に周る。

だが、訓練と違ってこっちに向かって走って来る。

 

 

「くっ…!」

 

 

あえてアンカーを撃ち出さずに振り子のように後方へとぶら下がる。

勢いよく走っていた巨人はその動きに反応できずにそのままライナーを追い越す。

 

 

「てい!」

 

 

獲物を追い越したのに気付いた巨人が動きを止めてライナーの方を見る。

その隙にフローラが飛び出して巨人のアキレス腱を切り裂く!

 

 

「ライナー!」

「おう!」

 

 

前屈みに倒れ込む巨人を見て既にライナーは動いていた。

双剣を構えて巨人のうなじを抉り取ってそのまま駆け抜ける!

 

 

「回避行動!上昇!!」

 

 

更にフローラからの報告で慌てて立体機動で上昇を図る。

その後すぐに巨人が真下から強襲して近くの民家に激突した。

 

 

「アニ!」

「分かってる!」

 

 

今度はベルトルトとアニが駆けつけた。

ベルトルトの一言で巨人の首を切りつけて自重で頭が前に垂れ下がる!

 

 

「そりゃあ!」

 

 

すぐさまベルトルトが巨人のうなじを削いで立体機動に移る。

これで前方に出現した巨人の討伐が成功した。

 

 

「すごい…」

 

 

その様子を見ていたマルコは感激するが、マーレの戦士組は既に疲弊していた。

 

 

『クソ、やっぱ実戦は違う。単独行動じゃ勝てる気がしねぇ…』

 

 

既に参戦していないマルコ以外の全員が肩で呼吸をしていた。

余力があってこれなのだから撤退途中で交戦は避けた方が良い。

ライナーは本気でそう思った。

 

 

「これで満足した?」

「ああ、撤退だ。あとは先輩方に任せるぞ」

 

 

嫌味を込められたアニの発言を肯定し、ライナーは撤退する事を命じる。

これ以上、交戦しても利点がないと判断した。

 

 

「マルコ、ここの地理に詳しいんだろ?」

「うん」

「なら、巨人が侵入しにくい経路を割り出してくれ。できるだけ交戦を避けて撤退したい」

「わかった!」

 

 

すぐさまライナーは撤退をしようとするが、下手な道を使うと巨人と遭遇する可能性がある。

だからトロスト区の地理に詳しいマルコに撤退経路を調べてもらう。

ついでに前線の兵士から敵前逃亡と思われないようにしてくれると願って…。

 

 

「ライナー、良い話と悪い話があるけど…どっちを聴きたい?」

「良い話から聴かせてくれ」

 

 

ところがフローラが何かを発見したようだ。

何故か勿体ぶる彼女に良い話から聴く事にした。

 

 

「増援が来たわ。これで少しは崩壊した戦線が長持ちするわね」

 

 

別に問題無いはずである。

なんでそんな事をわざわざ言う必要があるのかライナーは疑問に思った。

 

 

「悪い話は?」

「増援が104期兵だという事ね、規模からして…どうやら先輩方から騙されたみたい」

「そんな馬鹿な!?」

 

 

トロスト区に巨人が侵入した事で駐屯兵団は慌てて防衛陣形を構築した。

穴を空けられた正門付近は、駐屯兵団で構成された前衛部が展開している。

ライナーが興味本位で来たのは、その前衛部である。

 

 

「あいつらは中衛部の担当のはずだろ!?」

「ライナーみたいに戦績を稼ぎたかったんじゃないの?」

 

 

徴用された104期訓練兵は、前衛部の後方である中衛部で展開するように命じられていた。

よってライナーの様に功績を焦らなければ、安全地帯で展開しているはずである。

そうならなかった理由をフローラが述べるが、それでもライナーは納得できない。

 

 

「ライナー!正面から新手の巨人!」

「何をやってんだ先輩方は!?」

 

 

マルコから巨人発見の報を受けて再びライナーは双剣を構え直す。

 

 

「四足歩行か!?」

 

 

二本足で歩く巨人との交戦は想定していた。

だが、四足歩行の相手はライナーは想定してなかった。

 

 

「僕が行く!」

「頑張ってね」

「フローラも来て」

「分かったわ」

 

 

今度はベルトルトがフローラを誘って巨人を討伐しにいくようだ。

彼が率先して動くのは珍しい。

 

 

『アニにカッコいい姿でも見せたいのか…?』

 

 

2人で両腕を削いで動くを鈍らせた後、ベルトルトが巨人のうなじを削いだ。

ついでに新手に出現した巨人もフローラによって瞬殺されて前屈みに倒れ込んだ。

 

 

「…みんな、すごいね。それに対して僕は…」

「いや、普通じゃないからな?」

 

 

巨人能力者すら立体機動を続けるのがきついのだ。

それなのにあれが出来て当然だと勘違いしているマルコに思わずライナーは指摘した。

 

 

「で?退却経路は割り出せたか?」

「うん、できるだけ巨人が侵入しにくい道を選んだ」

「でかした!ここの地理に詳しい奴が居て助かったぜ」

 

 

適材適所というのがある。

部隊運用の訓練で戦士組もフローラも1個小隊規模の兵力を指揮できなかった。

その中で唯一、1個小隊を目標通りに指揮をできたマルコは前線に出るべき人間じゃない。

 

 

「一旦、報告に戻るぞ!」

 

 

ライナーの指示で訓練兵 31班は兵団本部に報告するという建前で撤退を開始する。

戦闘開始から8分も経っていないが、既に身体中が痛くて満身創痍に近い。

 

 

『フローラは…あいつもきついか』

 

 

同期の中で巨人討伐数1位に躍り出たフローラも血が混じった唾液を吐き捨てていた。

立体機動で身体を酷使するのにも慣れているあいつすらあのざまなのだ。

このまま残り続けていたら確実に全滅していたと確信した。

 

 

「おいフローラ大丈夫か!?」

「ライナー、心遣い感謝するわ。でもマルコの方に伝えた方が良いんじゃないの?」

 

 

吐血していたにも関わらずフローラはマルコを心配する。

今思えば、非戦闘要員だったマルコに情報伝達をして欲しいという意味だったかもしれない。

 

 

「それを言うなら顔が真っ青なベルトルトに言ってあげてよ」

「おいおいベルトルトは、潜在能力なら俺以上なんだぞ!まだバテる訳ないじゃないか!」

 

 

ちなみにマルコ本人はベルトルトを心配していたが、ライナーは反論した。

どちらかというと自分のせいで同期が多く死ぬと分かったからこそ暗い顔をしているのだ。

ただ、そんな事を報告できる訳が無いので事実となる情報を述べる事しかできなかった。

 

 

「やめてよ、みんな!ここは戦場なんだよ!」

 

 

苦し紛れのベルトルトの返答すらこの場ではただの戯言だとして片付けられる。

それほどまでに悲鳴が多すぎて撤退しているはずなのに前進している感覚に襲われた。

 

 

「アニは大丈夫?」

「ああ、だからそれ以上密着しないでくれない?ぶつかって損するのは嫌だからさ」

「でも…」

「分かったからマルコの援護に行ってくれない?あいつを放置してると心配だから」

 

 

そこら中から断末魔による悲鳴は気分どころか体調すら乱すようであった。

既に同期の中で死人が出ているのは明白であり、更に目の前が真っ暗になってしまう。

それを気にしていたベルトルトはアニを気遣うが、彼女自身はマルコを心配していたようだ。

 

 

「みんな!巨人が!巨人がこっちに来たよおおお!?」

 

 

立体機動をして先陣を切るマルコの叫びを聞いてライナーは腹を括った。

 

 

『撤退して回り込まれたって事は、完全に前線は崩壊したな!?』

 

 

巨人が出ないと思われる道で転進したというのに巨人と遭遇した事実は、最悪の状況を示す。

シガンシナ区の時よりも巨人の侵攻速度が遥かに上回っているという事だ。

 

 

「よし、お前ら!マルコに戦績を譲るぞ!肘は俺とフローラ!アニ達は膝を頼む!」

「ああ、分かったよ!やればいいんでしょ!やれば!」

「マルコ行きますわよ!」

 

 

もはやマルコを庇う余裕がなくなったので彼にも巨人討伐の経験を積ませる事にした。

ライナーに指示を聞いて投げやりになりつつもアニはすぐに動く。

 

 

「待ってええええ!心の準備ががが…」

 

 

フローラの呼びかけでマルコも戦闘姿勢に入る。

 

 

「いくぞフローラ!」

「ええ!ぶっ倒して差し上げましょう!!」

 

 

既にこの日の為にバディアクションは練習してある!

ライナーの呼びかけにフローラは応えて息の合った連携攻撃で右肘の肉を削ぐ!

ちょうど同時期にライナーも巨人の左肘を削いで急いで離脱した!

 

 

『ベルトルトとアニには掛け声すらいらねぇか…』

 

 

振り向くとアニとベルトルトが動きが鈍った巨人の両膝の裏を削いでいた。

マーレの戦士としての絆があるとはいえここまで息がぴったりで動けたのにライナーは驚く。

 

 

「ふーん、ベルトルトにしては頑張った方だね」

「ええっ!?」

 

 

ぶっちゃけアニも驚いており、思わず本音を漏らされたベルトルトは驚愕した。

だが、そんな事はどうでもいい!

 

 

「今だ!うなじを狙って斬り付けろマルコ!」

「高低差で訓練通りやればできますわよ!」

 

 

歩行できずに転倒する巨人は見事にうなじを兵士たちに見せつける。

うなじを削いでくださいと言わんばかりの光景にライナーとフローラはマルコに呼び掛ける!

呼びかけられた青年は覚悟を決めて屋根から飛び降りて巨人のうなじを見事に削いでみせた!

 

 

『危ねぇ!?』

 

 

しかし、討伐した後の事を考えていなかったと見抜いてライナーは動く。

回避行動が取れずに地面に激突するマルコを見事に救って戦闘は終了した。

 

 

「見てたぞ!よくやったなマルコ!」

 

 

マルコもやればできるのだ。

 

 

「あ、ありがとう!みんなのおかげだよ!」

 

 

照れ隠しの素振りを見せるマルコは何で女の子にモテないのか疑問に思うほどだ。

 

 

「そうだ!記念にマルコとハイタッチやりましょう!アニも手伝って下さない?」

「あーしょうがないな、一回だけだぞ」

「いいな!それ!」

 

 

巨人と戦い続けて精神的に疲弊していたのをフローラは見抜いたのだろう。

両手を合わせて勝利の余韻を分かち合おうという提案にライナーとアニは乗った。

事情が分からず困惑するマルコだったが、同期の行動を断るほど器が小さな男では無かった。

 

 

「よし、今度も生き残るぞ!」

 

 

これで気分転換になったと思ってライナーは更に先を進もうとする。

…しかし、1人だけ気分転換をしてない奴が居る事に気付く。

 

 

「…おいベルトルト何をしてるんだ!早くやれよ!」

 

 

ベルトルトだけ何故か呆然して自分たちを見つめていた。

これにはライナーはおろかアニまで苦言を呈する。

 

 

「全く、いつもは空気が読める癖に肝心な時だけ読まないんだね、あんたは…」

 

 

アニとしても無駄に空気を読む奴が今回だけは空気を読まないか理解できない。

彼女が放った辛辣な発言は更にベルトルトの心を傷つけたようだ。

 

 

「いいよいいよ!みんなの気持ちでいっぱいいっぱいだからさ!」

 

 

そんな状況を察したのかマルコも何かを発言しようとしていた。

やはり、あそこで死ぬべき人材じゃなかった。

 

 

「マルコ、ベルトルトを甘やかすと、ただの凡人になっちゃうから叱るのも1つの手ですわよ?」

 

 

フローラだけなんかズレた事を言っていたが、まあ気にするだけ負けである。

そのまま退却をしようと考えていたが、ライナーに気がかりな点があった。

 

 

『クリスタも逃がさねぇと…』

 

 

ジャンやコニーが居るとはいえ中衛部に展開しているクリスタの事が心配になった。

しかし、兵団司令部の撤退する道を選んだマルコの面子を考えると変更するのは難しい。

 

 

「よし、フローラはコニーたちを援護してくれ」

「4人で大丈夫ですの?」

見たところ巨人は少ないみたいだしな!それより女神のクリスタが心配で頭が一杯なんだ!!」

 

 

だからフローラにクリスタを任せる事にした。

何もせずにクリスタが死ぬよりは、何らかの手を打っておきたかったのもある。

本音としては、クリスタがめっちゃ心配なのでフローラに救援をお願いしたが…。

 

 

「はいはい、分かったわ。ライナーの好意アップ作戦に協力しますわ」

「ありがとうフローラ!やっぱ、お前は親友だぜ!」

 

 

あの時の約束を律儀に守ってくれているフローラにライナーは本気で感謝している。

親指を突き立てて笑うと彼女の照れ隠しなのか顔を背けてクリスタの居る方向へ向かっていった。

 

 

「ねえ、本当にこれでよかったの?」

「少しでも同期たちに情報共有した方がいいだろ?」

「…うん、そうだね」

 

 

さすがにフローラを戦場に残す事にマルコは抵抗があったのか。

確認をしてきたが、適当に誤魔化すと彼なりに考えて納得してくれた。

 

 

「行くぞ!巨人は待ってくれないからな」

「ライナー!!フロック班が巨人に追われてる!!」

「くっ…ここで死なせるわけにはいかねぇ!!」

 

 

すぐにでも中衛部まで撤退したかったが、そう簡単にはできない。

おかげさまで友軍を救う建前で更に2体の巨人を討伐する羽目になった。

 

 

「おいおい!撤退するぞ!!このままじゃ囲まれる!!」

 

 

フローラが居なくなったせいで慎重に巨人との戦闘に挑んだら時間が掛かり過ぎた。

そのせいで慌てて中衛部に撤退したが、後の祭りだった。

 

 

「生き残ったのはこれだけか?」

「分からないけど…前線にいる同期の生存は絶望的じゃないかな」

 

 

兵団司令部付近には同期が集まっていた。

しかし、既に司令部は立て籠もった兵士を捕食しようと巨人の群れに囲まれている。

自分たちを含めて34人の兵力で巨人の群れを正攻法で相手をするのは難しい。

 

 

「ライナー、どうする?」

「もう少し、人が集まんないとダメだろう。おいベルトルト、良い案ないか?」

 

 

ここでのアニからの提案は2つの意味がある。

まず1つ目は、いつ兵団本部に突入してガスの補給をするか。

もう1つは、トロスト区の内門をいつ破るかという事である。

一応、策があるつもりだったライナーはこの際は、まだ待機するつもりだった。

ついでにベルトルトに話題を振って自分の責任を転嫁する悪質さもある。

 

 

「無理だよ。この手勢じゃなんともできない」

「もう終わりだよ…このまま街から出れずに死ぬんだ」

 

 

だが、残酷な事実にベルトルトおろかマルコすら悲観的になっている。

 

 

「マルコ、蹴られたくなかったらそのまま静かにして」

 

 

あのアニですら焦っており、誰かに八つ当たりしないと気が収まらないようだ。

彼女の不機嫌さに気付いたマルコが黙るが、これで状況は好転しない。

そこでライナーは沈んだ空気を何としても変えようと試みた。

 

 

「お前ら!何体巨人を討伐したんだ?俺らは6体だ」

「はああ?1体討伐した班の方が珍しいぞ!?」

 

 

巨人の討伐数で話を盛り上げようとしたら逆効果で終わった。

 

 

「そういえば、成績トップクラスの連中だったな!お前らが率先して兵団本部に行けよ!」

「「「そうだ!そうだ!!」」」

 

 

むしろ、言い出しっぺの法則で兵団本部に集る巨人の群れを討伐しろと言われる有様だ。

とんだ失言である。

 

 

「しまった…がっ!」

 

 

そのせいでイライラしていたアニに殴り倒されてしまった。

巨人化する為の負傷は困らないな…と何とか立ち上がるライナーだったが…。

 

 

「バカだね、これで私たちが行く羽目になるじゃないか」

「…だって、ふがっ!」

「うるさい黙ってろ」

 

 

とにかく余計な事をしたせいで注目されたのにイライラしていたのか。

ライナーが一言でも発しようとすると本気で殺されるような叱責と睨みを受けた。

 

 

『ジャンは居るが……フローラはどうした?』

 

 

ジャンやコニー、クリスタやユミルの姿が見えるので上手く退却できたようである。

しかし、救援に向かわせたフローラの姿が無いのでおそらく死んだのだろう。

 

 

「お願いだ!誰か助けてくれ!ハンナの血が止まんないんだ!!」

 

 

フランツの悲痛な嘆きは誰かの叱責で打ち消される。

いつ、誰が死んでもおかしくない極限状況に置かれた時、人間は何をするべきだろう。

 

 

『もういい!やるか…!!』

 

 

いっそ、鎧の巨人になって内門に突撃するべきだ。

そうすれば、巨人の一部がウォール・ローゼの領域に行くはずである。

そう考えたライナーはすぐにでも巨人化しようとした。

 

 

「ミカサ!?おまえ、後方に居たんじゃないのか!?」

「心配で駆けつけてきたの!ところでエレンを知らない!?」

 

 

ところが後衛部に居たミカサが出現した事でライナーの決意が揺らぐ。

彼女が中衛部のここに居るという事は、援軍が来たのかもしれない。

 

 

「あの死に急ぎ野郎の事だ!まだ最前線で巨人でも狩ってるじゃねえのか」

「そうだといいんだけど、胸騒ぎがして…」

 

 

それよりジャンの態度が気になる。

まるで待っていましたと言わんばかりの顔をしている。

 

 

「おい!34班を見た奴は居るか!?」

「いや…知らない」

「逃げるので精一杯だったし」

「ここに居ないって事は、そういう事だろう」

 

 

ここでエレンが所属している34班について情報を引き出せればカッコよかったかもしれない。

現実は非情であり、むしろミカサの心配が的中する事となる。

 

 

「すまん、誰も知らないようだ」

 

 

さすがのジャンも気まずそうにミカサに現状を報告するだけで終わった。

それから何かを会話していたが、内容を聴き取れなかった。

むしろ、すぐに非常事態が発生したせいで記憶が曖昧になっている。

 

 

「うわああああああ!」

 

 

落ち込んで黙り込む訓練兵たちを立たせるほどの悲鳴は地上から聴こえて来た。

何事かと地上を見ると民間人の避難誘導をしていたトムが巨人に掴まれていた。

 

 

「今助けるぞトム!」

「リーダーを見捨てるほど薄情じゃないわ!」

「バカ!よせ!!」

 

 

トムとつるんでバカ騒ぎをするオステルマンとカロリーネがすぐさま救援に向かった。

ジャンの制止を振り切って地上に展開する彼らの姿は無謀以外になかった。

…今思えば、トムとバディアクションを組んでいたせいなのかもしれない。

 

 

「ひいい!いや!いやああああああ!!」

 

 

複数の巨人によって両腕を掴まれたカロリーネに生きる未来は無い。

そのまま悲鳴をあげる彼女の頭が巨人の口の中へと消えていった。

これで残り31名。

1個小隊にも満たない規模であれほどの巨人の群れと対抗はできない。

 

 

『今度こそやる!』

 

 

ミカサも諦めたようで呆然としており、言い争っていたジャンは不貞寝している有様だ。

このままじゃ埒が明かないのでついに覚悟を決めたライナーは同僚を呼ぼうとする。

 

 

「あっーーー!そこに居ましたのね!」

 

 

ところが、フローラの声がしたのでライナー一行はおろか誰もが声のした方を見る。

 

 

「呑気に寝てるんじゃないわよ!」

「ぶはっ!?」

 

 

思いっきりジャンに手打ちをしたところを見るとジャンとフローラで何かあったようだ。

 

 

「おお!?…よおフローラ!生きていたのか!立体起動を叩き込んだ甲斐があったってもんだぜ」

「そ う ね!その点については感謝してるわ!!でもねー!」

 

 

何故か平常運転どころかめちゃくちゃフローラが興奮していた。

おそらくジャンに囮にされたのかと思うくらいには彼女の苛立ちが見て取れる。

 

 

「大変だ!巨人が来たぞおおおお!!」

「きゃあああああ!!」

 

 

ジャンの胸ぐらを掴んでいたフローラであったが、巨人襲来の報を聞いて手を放す。

 

 

「どうする?」

「どうするって言われてもな…」

 

 

アニからの発言にライナーも返答に困った。

いっそ、同期を皆殺しにしてトロスト区の内門に向かえと急かされている状況だ。

だが、そんな事をすれば確実に同期と交戦しないといけない。

 

 

「あんたのせいでこうなった。ならやる事は決まってるはずよね?」

「分かっているさ」

 

 

既にアニの心に自分はないと分かっている。

鎧の巨人になっても、女型の巨人になって援護するなんて行為をしてくれないだろう。

それを理解するくらいにはアニの怒りが感じられた。

 

 

「こうなったのは俺の責任だ、最後までやり続けてやるから安心しろ」

 

 

既にライナーはここで死ぬのも悪くないと思った。

トロスト区の内門を破った後は、もう一度、トロスト区に戻って巨人と交戦する。

そしてそれをアニやベルトルトに見届けてもらって有終の美を飾るのだ。

 

 

「駆逐してやりますわ!」

「潰す!!」

「……ん?」

 

 

そんな馬鹿げた事を考えていたらフローラとミカサの声が聴こえた。

明らかに巨人を討伐するという意志を感じてしまい、思わず振り返った。

 

 

「うわっ…」

 

 

激怒した女ってここまで怖いものなのか。

一応、原型を留めてくれるアニがどれだけ手加減しているのかライナーは理解した。

だって数分で7体の巨人を討伐した戦乙女の姿を見れば誰だってびっくりする。

 

 

「すげぇ…」

「マジかよあいつら」

「つーか、エレンを殺されたミカサはともかくなんでフローラまで覚醒してるんだ?」

 

 

とりあえず、あれだけ訓練で負傷しまくったフローラがあそこまで覚醒しているのか分からない。

一応、フローラの雄姿を直で見たライナー御一行以外は、彼女の戦闘力に疑問に思ったのだろう。

 

 

「おい…なんでこっちを見るんだ…」

 

 

さきほどまで喧嘩していたジャンを誰もが見る。

ライナーもフローラとなんで口喧嘩していたのか気になったので見てしまった。

いきなり同期からの視線を浴びてジャンは震え始める。

 

 

「ジャン。正直に話してみろ」

「俺たちも一緒に謝ってやるよ…お前フローラになんかしたな!?」

 

 

ストレスが限界を超えた同期たちはジャンに八つ当たりしている状態だった。

それに対してジャンは反論するが、多勢に無勢で巨人の餌にされそうな勢いで追い詰められてた。

 

 

『同情はしねぇが…他人ごとじゃないねぇな』

 

 

あそこまで追い詰められたくないな…とライナーは思いながら双剣を構え直す。

――そこから発生した出来事に関しては、ほとんど覚えていない。

何故ならば、今までの常識を覆す事態が発生したのだから!

 

 

『とりあえずガスを補充できた。それだけでよかったはずだった…』

 

 

いろいろあって大量の信煙弾を兵団本部に突入する作戦が成功したのも覚えている。

そこから施設内部に居た小型の巨人を掃討したとも朧げに覚えていた。

命懸けで巨人と戦った記憶すらぶっ飛ばすのは、それを上回る衝撃的な記憶だけである。

 

 

「え?」

 

 

巨人の頭を殴り倒して討伐する奇行種が出現した。

たったそれだけであったが、それは全ての記憶を塗り替える出来事だった。

 

 

「はああ!?」

 

 

ライナーからすれば、これは予定外であり、今までの計画を粉砕されるのには充分だった。

ガスを補給したら真っ先にトロスト区の内門を破壊するつもりだった。

なのに部外者が巨人になって同類の巨人を討伐するのを見せられれば混乱する。

 

 

「おいおい!!」

 

 

しかも、数の暴力に負けてしまっており、今すぐにでも無垢の巨人に捕食されそうであった。

通常の巨人は、近くに居る巨人を捕食しないので間違いなく巨人化能力者が居ると確信した。

 

 

『まずいまずい!!』

 

 

ここで能力の継承をさせられると二重の意味で厄介になる。

まずは、この場に居る無垢の巨人は、祖国マーレによって楽園送りされた者たちの末路である。

すなわち、祖国マーレに反抗する勢力であり、人間に戻ったら全てを暴露されかねない。

さすがに巨人化能力者をすぐに殺さずに事情聴取されるのは火を見るより明らかであった。

 

 

『どうにかしねぇと…』

 

 

同期たちにバレるのも厄介だ。

別に同期を皆殺しにするつもりはないが、能力が継承できるという情報共有を避ける必要がある。

だから今朝まで同じ飯を喰った同期を皆殺しにしなければ、情報漏洩が避けられない。

アニやベルトルトにその覚悟があるとは思えないのでライナー1人でやる必要がある。

 

 

「どうにかしてあの巨人の謎を解明できれば、状況を打開できるきっかけになると思ったのに」

 

 

なのでミカサの発言に乗っかる事となった。

 

 

「俺も同感だ、なあ、あの巨人を生かしてみねぇか?」

「…え?」

 

 

とにかくミカサといった実力者を集めれば、数体程度の巨人くらいは討伐できる。

 

 

「おい、お前ら!あの巨人に世話になったはずだ!このまま死なせるのは勿体なくないか!?」

 

 

だから暴走していた巨人を眺めている同期に手助けしてもらいたくて声をかける。

 

 

「ライナー、お前何言ってんだ!?」

「ジャン、あのまま喰われちまったら謎が謎のままになっちまうぞ!」

「そりゃあ、そうだけどな!今は逃げるのが先決じゃないか?」

 

 

あのジャンに正論を言われてしまうが、ライナーは諦めきれない。

 

 

「いや、少しだけ時間の猶予を与えればあの巨人は復活するはずだ」

「正気かライナー!?やっと…この窮地から脱出できるんだぞ!?」

「ああ、俺は正気だよ!!あの巨人にこびりついた巨人共を倒すつもりだ!」

 

 

普通に考えれば、『何言ってんだこいつ』扱いされるのは分かっている。

だからジャンの発言は正しい。

だが、今は生きるか死ぬかの瀬戸際である。

生き残る為に使えるものは全て使うのが今の現状であった。

 

 

「ねえきいて!」

 

 

アニも自分の行動にそぐわない発言でライナーを擁護する。

 

 

「例えば、あの巨人が仲間になる可能性があるって考えたらどう?」

「アニまで何言ってんだよ!?」

「どんな大砲よりも強力な武器になると思わない!?」

「制御できない武器ほど怖いもんねぇよ!!」

 

 

わざわざアニまで協力してくれたのだが、同期たちを納得させられない。

せめてミカサが乗り気なら良かったのだが、彼女も困惑しているのが歯痒い。

 

 

『ベルトルト!!お前何やってんだ!!お前も擁護しろ!』

 

 

さきほどの巨人が巨人の群れに負けたように数はそれだけで武器となる。

多数決で無理やり暴走した巨人を助けようという流れにしたいライナーは…。

ただ眺めているだけで冷や汗を掻いて無言で黙っているベルトルトを睨む!

 

 

「おいおい!!あの巨人が暴れ始めたぞ!?」

 

 

そしたら巨人に捕食されそうになった巨人が大暴れを開始した。

両腕が千切れても巨人のうなじを噛み千切って暴れる巨人に同期たちは近寄れない。

 

 

「なあ、ライナー」

「どうしたジャン?気が変わったか?」

「何を助けるって?」

「ああ、助ける必要が無かったな」

 

 

ジャンの質問に対してライナーは本音を告げる事しかできない。

だが、ここまで時間を稼げれば充分だろう。

 

 

「オレは逃げさせてもらうからな」

「ああ、内門で合流しよう」

 

 

巨人同士が潰し合っている間に同期たちはその場を立ち去ろうとする。

むしろ、さっさと行ってくれと前言撤回するわけにもいかずにライナーはその場を佇む。

せめてもう少し耐えてほしいと思うが…。

 

 

『チッ、限界だ!』

 

 

呼び止めてしまったせいで同期の大半がまだこの場に残ったままである。

それなのに巨人を襲撃する奇行種が倒れ込んでしまい、蒸気を噴き出し始めた。

もはや、同期たちに事実を隠し通せない。

 

 

『やるぞ…!』

 

 

鞘から抜剣し、無防備になった同期の首を狙おうとする。

兵団本部の中で寝ているフローラには悪いが、この場に居る連中を皆殺しにするつもりだった。

 

 

「なんだと…!?」

 

 

だが、巨人を襲撃する奇行種のうなじからエレンの上半身が出て来て驚愕する。

思わず同期を殺す為に向けていた刃を地面に垂らす衝撃だった。

 

 

「いや、なんでエレンが!?どうなってるんだ!?」

 

 

エレンが巨人化能力者なんて初耳だし、そもそもどうやって継承したのかも分からない。

あまりにも不自然な動揺で同期から白い目で見られたかと言われればそうでもない。

 

 

「おい、エレンが出て来たぞ…」

「あいつ、巨人の仲間だったのか!?」

 

 

そもそも巨人の正体は、エルディア人だと知らない同期たちが更に混乱したのだ。

おかげさまでライナーたちの動揺を気にする余裕がなくなった。

 

 

「ライナー!あれは一体!?」

「わからねぇ!!だが、エレンが巨人体になって戦っていたのは確かだ!」

 

 

ベルトルトに質問されるが、ライナーだって分からない。

とりあえずエレンを救出しようとするが、足止めを喰らう羽目になる。

 

 

『なんてタイミングだ!!』

 

 

さきほどの信煙弾祭りのせいで駐屯兵団の兵士たちが勢揃いしていたのだ。

ここで手を出せば、何が起こるか火を見るよりも明らかだった。

 

 

「イアン班長!あいつ、巨人に化けていました!」

「ああオレも見たぞ!」

「私も見ました!!」

 

 

そして数多くの駐屯兵にエレンが巨人から出て来た瞬間を目撃されてしまった。

これにより混乱に紛れてウォール・シーナに紛れ込む作戦に暗雲が漂い始める。

そもそもエレンの身柄を確保するのも不可能に近い。

 

 

「これは人類の脅威とみなす!私が責任を取る!奴を討ち取れ!」

「「「うおおおおお!!」」」

 

 

ついでに女班長の発言を受けて駐屯兵はエレンを討伐する事を決意した!

これに対してライナーは本気で焦る!

 

 

『まずい!!ここで殺されたら手掛かりが…!』

 

 

祖国マーレが所有していない巨人の能力は2つある。

まずは、自分たちが追い求めている【始祖の巨人】、そして【進撃の巨人】という能力である。

とにかくエレン討伐作戦を取りやめさせたいが、末端である自分たちには権限がない。

 

 

『巨人化するか!?いやダメだ!!』

 

 

ここで巨人化すれば、今までの努力は水の泡へと消える。

下手すれば104期訓練兵を全員処刑してまで壁内の平穏を維持しようと考えるだろう。

それまでに巨人に対して駐屯兵団と王政は敏感になっていた。

 

 

「誰だ!?」

「アンカーを射出したのはあいつか!?」

 

 

どうするべきかと悩んだライナーに対してフローラの動きは速かった。

わざとアンカーを射出して突撃しようとした駐屯兵たちを妨害したのだ。

 

 

「おっほっほっほ!御免遊ばせ!手元が狂ってアンカーを射出してしまいましたわ」

「何の真似だ!貴様!」

「それはこっちの台詞よ!同期に殺意を向けている貴方たちを見過ごすわけにはいきません」

 

 

フローラ曰く「同期に襲い掛かる奴らを見逃す事ができなかった」らしい。

だとしても、目覚めたばかりの彼女があそこまでやる理由があったらしい。

 

 

「ミカサ!エレンを連れて逃げなさい!」

「分かってる!」

 

 

その隙に気絶したエレンを担いだミカサは、フローラの発言でその場を立ち去った。

すぐにアンカーを射出機に戻したフローラも彼女の後を追う。

 

 

「逃がすな!!」

 

 

信じられない光景に動揺していた駐屯兵であったが、すぐさま彼女たちの追跡をする。

その様子をライナーは呆然として見届ける事しかできなかった。

 

 

「一体なんだったんだ…」

 

 

とにかくトロスト区の内門を破壊する計画は破棄する羽目になった。

むしろ、どうやって友軍に気付かれないようにエレンを奪取するのか悩む羽目になる。

 

 

「お前たちは内門に向かえ!戦力を再編する!!」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

1つだけ言えるとすれば、流されるまま同期たちと合流して内門に向かったという事だ。

ただ、頑張って追跡したどころで駐屯兵団か巨人の群れに返り討ちに遭う未来しかない。

そう考えるしかなかった。

 

 

『クソッタレ!!』

 

 

全てが上手く行かない。

せっかく兵士になったというのにそのせいで何かがおかしくなった。

同情か、達成感か、使命感か、恐怖か。

トロスト区の内門を破壊する計画を何が狂わせたのかさっぱり分からない。

 

 

「なんだ、一番気に喰わない奴が生き残りやがった」

「はははは、ユミルの憎まれ口もここまで来ると逆に安心するぜ」

 

 

ただ、顔馴染みの同期と再会してライナーは安心してしまった。

さっきまで同期を殺そうと思ったのに殺さずに済んで喜んでいる有様だ。

 

 

「訓練兵!!装備を万全にし、次の命令まで臨戦状態で待機せよ!」

 

 

駐屯兵のお偉いさんから命令を受けて震えていた訓練兵たちも動き始めた。

巨人と戦う為に心臓を捧げる覚悟だったのに誰もが震えていたというのに…。

 

 

「クソ、サムエルが羨ましい!オレも最初に負傷しておけばよかった…」

 

 

ジャンの一言に誰もが肯定する。

トロスト区の正門で負傷したサムエルは安全な場所で治療を受けていたのだ。

如何せん、巨人があそこまで侵入するとは想像だにしてなかった故の処置だった。

 

 

「ジャン、もう無理だ。腕を失っても俺たちは戦わないといけねぇ…」

 

 

しかし、いつトロスト区の内門が巨人に陥落するか分からない。

トロスト区に駐屯する駐屯兵団第一師団どころか全ての師団が勢揃いしている状況だ。

ここから立ち去ろうとすれば、敵前逃亡と評価されて処刑されるのは間違いない。

だからこそ誰もがサムエルの状況を羨むのだ。

 

 

「なあ、これだけしか生き残ってないのか?」

「フロック、言わなくても分かるだろ!?それ以外に何がある!?」

 

 

今朝まで勢揃いしていた104期兵たちは姿が見えない同期に震える。

 

 

「そういえば、ミカサやフローラはどうした?あいつらは生きてたんじゃないのか?」

 

 

ただし、一部の同期は現状に疑問があった。

兵団本部に突入して生き残ったはずの訓練兵の姿が何人か見えないのだ。

 

 

「それについては、緘口令が敷かれていて喋れないんだ」

「緘口令?なんで同じに兵士に黙る必要があるんだ?」

 

 

巨人の中にエレンが居たと知らない兵士には口止めする義務が発生していた。

コニーとかサシャは事実を述べたい気持ちで一杯のようだが、それでも耐えている。

 

 

『俺だって知りたい事だらけだよ!!』

 

 

なんでエレンが巨人化できたのか。

エレンはどこにいるのか。

そもそも何で今まで巨人化できると気付けなかったのか。

ありとあらゆる疑問がライナーを悩ます。

 

 

「フローラも死んだのか?」

「巨人に囲まれた兵団司令部で昼寝していた奴だぞ!?どうせ、どっかで寝ているはずだ!」

 

 

ミカサと共にエレンを連れて行方不明になったフローラの状況も気になる。

「鎧の巨人を討伐する為ならなんでもする」って言っていた奴だ。

もしかしたら自分の邪魔をする駐屯兵を殺しまくっているのかもしれない。

 

 

「マルコ、俺はもうダメだ。お終いだ…」

 

 

既に精神が限界を迎えた奴も居た。

フローラのおかげで窮地から抜け出して生還したダズもそうだった。

 

 

「私も同じぃ…今でも、巨人に頭をかじられて、死んだぉと思っているの…」

 

 

三角座りをしているミーナも同じだった。

 

 

「違う、ミーナは生きている。私が保証するよ」

「アニ…」

 

 

数少ない話し相手であるアニがミーナを勇気づけるが、彼女の涙は止まらない。

鼻水を垂らして震えるミーナに誰もが同情する。

 

 

「でも、俺気付いたんだ。今度は俺が死ぬ番なんだって!」

 

 

ダズに至っては、最悪の状況を思い浮かべていた。

このまま生き残っても死ぬまで戦わされると自覚してしまった。

 

 

「ダズ、それはみんなも同じだ。お前だけじゃない!」

「じゃあ、ゴードンはこれからの戦いで死なないと思えるのかぁ!?」

「そ、それは…」

 

 

空気が読める事に定評あるゴードンすらダズの発言に言い返せなかった。

誰もが分かっていた。

 

 

「喰い殺されるなら…いっそ!」

「やめろダズ!!」

 

 

鞘から抜剣し、自分の首を切り裂こうとするダズをマルコが必死に止める。

自殺した方が苦しみが少なくて済むのではないかと思うのは誰もが同じである。

それほど誰もが恐怖に屈しようとしている。

 

 

「ゴードンの言う通りだ!誰もが恐怖と戦っている!!」

「俺はフローラみたいに恐怖を感じない化け物じゃねぇんだよ!」

 

 

こういう時に揶揄されるのは、いつだってフローラだ。

恐怖の感情を失っているせいでどんなに負傷しても恐れない化け物。

身体能力ならコニーに劣る彼女があそこまで戦えるのが恐怖を感じない体質が大きい。

だからダズは、わざわざフローラの名を出して自暴自棄になっていた。

 

 

「サシャを見ろ!こんな時だって気高い兵士のままだぞ!?」

 

 

このままではいけないとマルコはサシャを指名した。

だが、当の彼女も死ぬのは怖い。

 

 

「ぐあああ!なんかお腹が痛くなってきました!ふ、負傷兵になりませんかね!?」

 

 

サシャだってこれから始まる防衛戦に震えているのだ。

ダズを守る為に戦いたくないのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「せめてフローラが居れば…」

 

 

とりあえず恐怖を乗り越えているフローラの発言が欲しい。

誰もがそう思っていた時、爆音と衝撃を感じた。

 

 

「砲撃!?……壁の中からか!?」

 

 

すぐに砲撃の仕業だとライナーは分かった。

だが、明らかにウォール・ローゼ側に向けられた砲撃だった。

 

 

「水門が突破されたのか!?」

 

 

立ち上る煙の位置からして水門付近である。

だが、あそこは洪水に備えて無駄に頑丈にしている。

下手すれば、鎧の巨人による体当たりすら弾き返す強度があるはずだった。

 

 

「榴弾を落したにしては…煙が変だ」

 

 

しかし、榴弾による爆発は間違いない。

数少ない状況を整理していくと戦慄する事実が導き出せた。

 

 

「まさか巨人の蒸気か!?」

 

 

間違いなく巨人の蒸気だった。

それはさきほど巨人を討伐した経験から導き出せた事である。

そして蒸気の主といえば、すぐに誰か理解した!

 

 

『エレンか!?』

 

 

真っ先にライナーは砲撃があった場所に向かって立体機動を行なう。

遅れてアニやベルトルトもライナーの後を追う。

 

 

「おい、待て!!」

 

 

ついでにジャンやコニーといった立体機動が上手い104期兵も後に続いた。

 

 

「こ、これは…どうなってんだ!?」

 

 

ライナーたちが目撃したのは、衝撃的な光景だった。

水門の近くにあった壁の隅で巨人の姿があった。

だが、上半身だけ剥き出しであり、その下には数名の兵士が居る。

 

 

「あれはミカサ!?アルミンやフローラまで居るぞ!?」

 

 

ミカサだけには敏感であると定評あるジャンの発言にライナーは唇を噛み締める。

 

 

『クソ、バレちまった!!』

 

 

この騒ぎでは、エレンが巨人化能力者と隠すのは無理である。

遅れてやって来たベルトルトに視線で合図を送る。

 

 

『無理じゃねぇ!やるしかねぇんだよ!!』

 

 

ここで巨人化してエレンの身柄を奪取するしかマーレからの使命を果たす事ができない。

能力を継承させずに死なれれば、今度こそ世界中のエルディア人から探す羽目になるからだ。

 

 

『どうやってアニを退かせる!?考えろ!考えるんだ!!』

 

 

ただ、すぐにアニを避難させたいのだが、なんて伝えればいいか分からない。

ベルトルトは急激な状況の変化に耐えられずに借りて来た猫みたいに佇んでいる。

 

 

「どう命乞いしようとも私は規則に従うまでだ!」

「クッソ!!」

 

 

だからライナーが状況を打開するしか方法が無い。

…と思われた。

 

 

「よさんか!」

「ピクシス司令…!?」

 

 

しかし、砲撃を命じていた指揮官をお偉いさんが止めてくれた。

左手の皮膚を噛み千切ろうとしたライナーはすぐにその行動を中断した。

 

 

『アニ…お前もやる気だったのか』

 

 

アニの方を振り向けば彼女も同じだったようだ。

一応、戦士としての絆から爆発に耐えてくれると確信があったようだ。

 

 

「え?ええ?何があったの!?」

「ベルトルト、静かにしろ」

 

 

2人が巨人化すると思って後退したベルトルトは逆に彼らの心理が分からなかった。

わざわざ理由を訊きに来たので無理やり黙らせる事となった。

 

 

『お偉いさんのおかげで助かった』

 

 

少しでも遅れていれば指揮官の腕が振り下ろされて一斉砲撃が開始した事だろう。

それよりも早く鎧の巨人と女型の巨人が出現して暴れ回ったのかもしれない。

 

 

『みんなを殺さずに済んで…』

 

 

悪魔の末裔を殺さずに喜んでいる状況こそが異常だったのかもしれない。

もし、パラディ島に住む末裔共が言葉も心も通じる存在だと知っていれば悩まずに済んだ。

中途半端だったせいで余計に地獄を見る羽目になっている。

 

 

「ねえライナー、さっきのポーズはなんだったの?」

「ん?」

「さっき左手を噛もうとしてなかったかい?」

「いや、口元に当ててたんだが、あまりにも衝撃的でびっくりしただけだ」

 

 

遅れてやって来たマルコの疑問に対して平常心を心がける。

 

 

「ほら、無意識に爪を齧る奴が居るだろ?それと同じで特に意味はない」

 

 

いつもやってきた事だから慣れたものである。

だからこうやって不審な行動を誤魔化してきた。

 

 

『そうだ、俺はマーレの戦士としてエレンの身柄を確保しないといけない』

 

 

ようやく求め続けた存在に手が届こうとしているのだ。

無理して敵を増やす必要などなかった。

 

 

『ベルトルトには防衛作戦の最中に相談するか』

 

 

とりあえず、今のタイミングで相談すると同期や駐屯兵に気付かれる可能性がある。

だから必ず命じられるであろうトロスト区防衛作戦の任務中に相談するつもりだった。

――これが致命的な失態に繋がると知らずに…。

 

 

-----

 

 

トロスト区防衛戦が始まるまで振り返った頃には気付かずに顔を両手で覆っていった。

ここまでライナーは戦士と兵士の顔を使い分けていたのだ。

そうベルトルトに伝えると納得した顔をしてくれなかったが、実際はそうだった。

 

 

『俺が中途半端だったばっかりに…』

 

 

祖国マーレの為に死ぬまで戦い続けられる馬鹿だったらここまで苦しまなかった。

だが、パラディ島の生活は肉体的にも精神的にもライナーを成長させていた。

アニが孤独で悩んでいたように彼もまた苦しんでいた。

 

 

『今でもあいつの顔を思い出す』

 

 

ライナーを今でも苦しめるのはエレンでもフローラでもなかった。

既に死人だというのにずっと苦しめる存在は今まで気にしてなかった奴だった。

 

 

『全て俺のせいだ』

 

 

ここが運命の分かれ道だった。

ここさえ選択肢を間違えなければ、世界は残酷にならなかった。

マルコの死で完全に心が壊れたライナーは取り返しのつかない失態を繰り返す事になる。

 

 

『だからこそ向き合わねぇといけねぇ…』

 

 

これからパラディ島を襲撃していく上でマルコの死は、決して無視できる存在ではない。

自分の犯した大罪に向き合わなくては何も変わらない。

むしろ、更に失態を犯すかもしれない。

 

 

『マルコ……お前のせいで俺は…俺らは』

 

 

ついに今まで向き合わって来なかった過去とライナーは向き合う。

自分の失態でマルコを死なせた結果、祖国マーレに核兵器による戦略爆撃一歩手前まで到来した。

今度失敗すれば、エルディア人の未来が無くなるどころか自分たちが住む星が大破しかねない。

 

 

『壊れちまったんだ…』

 

 

だから二度と悲劇を繰り返さない為にライナーは過去を振り返る。

パラディ島勢力と殺し合いを避けられる最後の好機となる光景を必死に思い出す。

まるで自分の大罪をここではっきりさせるかのように…。

 

 

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