進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「あいつら、本当に仲が良いな」
「ジャン、起こして来いよ」
「やめてくれ!俺はまだ死にたくない!」
フローラとミカサは寝不足であり、トロスト区の清掃活動中に寝ていた。
無駄に信頼しているのか、お互いが寄り添いながら立ったまま寝ていた。
その様子を見た同期たちがジャンに起こすように指示をしたが、彼は断固として拒否した。
「お前がお世話になった2人だろう?起こしてやれよ」
「よしお前ら、合計すると巨人のキルスコア、最低でも30体以上の女たちを起こせるのか?」
「無理だ」
「冗談じゃないわ」
「ばあちゃんを泣かせたくない」
フロック、サンドラ、ゴードンは顔を真っ青にしてジャンの意見を完全に否定した。
すなわち、ジャンが酷い目に遭う事を内心、愉しみにしていたのだ。
「お前ら!!やりたくない仕事を俺に押し付けるんじゃねええ!!」
「うるさい、聞こえてる!」
「ジャンのおかげで目覚めましたわ」
奇遇にもジャンの大声で起こされた2人はご機嫌斜めであった。
名指しで指名されたジャンは凍り付き、おまけの3人は慌てて逃げ出した!
「おいお前ら…ふざけんな!戻ってこいー!おいいいいい!!」
「とりあえずジャンだけでも…ね?」
「何かお礼してあげないとね」
一見すると女の子2人からお礼がもらえると聞くと、男共は変な妄想をしてしまうだろう。
口は微笑んでいるが目が笑っておらず相当不機嫌な顔を見ない限りは…。
「まさか!?また逢えるなんて!?」
ジャンが覚悟を決めた瞬間、大柄な髭もじゃの駐屯兵が驚いたように駆けつけてきた。
この場に居た3人は面識がないので困惑した。
「あんたのおかげで命拾いした!本当にありがとう!!」
「フローラ?この人と知り合い?」
「あー、変異種に追われていた3人組のうちの1人だった記憶が…」
「そうだ、本当にあんたのおかげで両親に逢えることができた、本当に感謝している」
身長が1m90cmを越える大男。
それは鬼教官と悪名高いキース教官に匹敵する体格の持ち主だった。
そんな彼がフローラに何度も頭を下げていた。
「そこまで感謝されなくても…」
「何か礼を…そうだ!今日の午後6時にローゼの扉で待ち合わせをしないか?」
「別に問題ありませんわ」
「ありがとう、俺の名はグリズリー・グリューブルク、まあ『グリグリさん』とでも呼んでくれ」
そう言って、グリグリさんは去っていった。
「お前、本当に人に好かれるな」
「ジャンも一緒にいかが?」
「勘弁してくれ、あんな臭そうな大男の所に行きたくない」
「私もそうね」
珍しくミカサとジャンが意見を一致したのを見てフローラは、明日大雨になると感じてしまった。
ちなみにジャンの両親は生存しており、両親に逢えたという言葉は彼の心に深く突き刺さった。
とにかくフローラは疲れが取れたので、みんなと清掃活動をした後、言われた通りローゼの扉の前に待機した。
「あっ!居た!」
「グリ班長!いましたよ」
駐屯兵団の兵士たちが集まっており、その中にグリグリさんが居た。
「グリズリー班長の命の恩人だと聞いて、一同貴女に感謝しています」
「えーっとあなた方は…」
「ああ済まない!我々は駐屯兵団第一師団、工兵部、技巧科の技術4班に所属しているんだ」
技巧科は、立体起動装置などのブラックボックスを管理しており、よっぽどのエリートでないと所属できない。
第104期訓練兵団では、アルミンが唯一、技巧科に推薦されたくらいで他の話はないほどである。
「そんな…私はただ…」
「というわけで命の恩人である嬢ちゃんに我々の仕事場に案内しようと思ってな」
「貴重な体験っスよ!」
「ガハハハッ!違いない!!」
まるで山賊団のような兵士たちと共にフローラは吸い込まれるように建物に入っていった。
「どうだ!いろんな立体機動装置があるだろう?」
「ええ、こんなに多くの種類があるとは思いませんでした」
そこには様々な立体機動装置や鞘が存在した。
「まあ、訓練兵は一式シリーズしか装備できんからな」
「駐屯兵団の高級士官用の『二式刀身』は切れ味も耐久度も凄かったです」
「そうだろうな…技術2班の最高傑作だから…ってなんで知ってるんだ!?」
「ピクシス司令から高級士官用の刃をお借りした事がありますので…」
グリズリー班長は、この女訓練兵が只者ではないと見抜いたが予想以上であった。
高級士官用の装備を使用する訓練兵など聞いたことが無かった。
ただ、戦果を見る限り大体察しは付いたが。
「これとかどうだ?」
「まるで樽みたいな立体機動装置ですわね…そういえば調査兵団の方々が装備されていましたわ」
「その通りだ!これは『強化装置・1型』と言って調査兵団が愛用している装置だ!」
「訓練兵や駐屯兵団が装備する装置と比べて2倍以上の重量と値段があるが、その分高性能だ」
フローラは、自分の常識が崩れ落ちる気がした。
確かに任務毎に装備を変えるのは当然であると、頭で理解していた。
でも実際には決められた装備しか使用できずその事が抜け落ちていたのだ。
「興味があるみたいだな」
「えぇ、立体機動をする兵士として関心があります」
「じゃあ、どんどん説明していくぞ」
「はい!」
フローラは調査手帳を取り出して生き生きと説明するグリズリー班長の説明をメモしていった。
訓練兵及び駐屯兵団の一般兵は、一式刀身と一式鞘と一式装置
駐屯兵団の精鋭班及び高級士官は、二式刀身と二式鞘と二式装置
調査兵団の一般兵は、強化刀身・1型、強化鞘・1型、強化装置・1型
調査兵団の精鋭兵は、強化刀身・2型、強化鞘・2型、強化装置・2型
リヴァイ兵士長の専用装備で、強化鞘・3型、強化装置・3型
強化シリーズは、一式シリーズの装備に互換性があるが逆はない
そして高性能であるが、鞘と装置は2倍以上の重量と値段である
「つまり、大きく分けて2種類のシリーズがあるのですね」
「いや、他にも色々あるんだが諸事情により正式採用されていない」
「そうなのですか…」
「大体、憲兵のせいだ」
ここから技術4班による愚痴を聞かされたフローラは、適当に頷きながら考え事をしていた。、
ハンジ分隊長やリヴァイ兵士長の立体機動の動きに惚れ惚れしていたが、それは装備の違いでもあったのだ。
回転斬りをやった時に想像した動きが出なかったのは装備のせいだと分かった。
今思えば、リヴァイ兵士長の動きは、驚異的な身体能力とそれにあった立体機動装置のおかげで実現できたという事だ。
「あの糞共は!技術発展を遮り妨害する屑だ!!」
「そうだ!王政共はまるで我々を恐れているように弾圧してくるんだ!」
「特に中央第一憲兵団なんか糞喰らえ!!」
「あいつらに爺さんを殺されたのは絶対に赦せん!!」
よっぽどストレスだったのか、怒りでヒートアップしていく技術4班。
常識的に考えれば、そもそも技術班の班長が囮作戦に参加する時点でおかしいのは分かっていた。
おそらく左遷させられたか、憲兵のせいで落ちぶれたか。
どちらにしてもフローラからすれば、勿体ない事だと思った。
「すみません!これなんですか!?」
「それは我々が開発したシュツルムシリーズだ!」
「巨人との接近戦を想定してアンカーの強度の強化と軽量化をした鞘と装置だ!」
彼女が気になった立体機動装置と鞘は、かなり小型化されていた。
ガスボンベを装備すると鞘から飛び出すくらいに小さいのだ。
装備品の重量で苦しんでいた身としてはかなり興味が惹かれる物である。
「ただこの鞘に納める刃は、シュツルムメッサーという専用装備なので流通していないんだ」
「強化シリーズと一式シリーズの刃は、共通規格の長さなので互換性があるが、こいつは無理だ」
「全長が通常の刃の6割しかないがその分、頑丈で軽いんだよ」
「だから結果的に兵士の身体に負担が掛からんので継続戦闘するにはうってこいの逸品だ」
技術4班の話を聴いてフローラは、シュツルムシリーズに興味を持った。
自分が使用している装備は、自身の肉体と合っておらず無駄に身体に負荷をかけているのを実感していた。
もちろん、訓練兵たちは自分の身体に合うように工夫していたが根本的な所までは弄れなかった。
だからこそ、技巧科の技術を目撃して、自分の合う装備を確保しようとした。
「これ、身に着けてもいいですか?」
「ああ、嬢ちゃんの頼みならいいぞ!」
「ありがとうございます!」
さっそく取り付けてみると、予想以上に軽かった。
鞘には収納数が10個あり、シュツルムメッサーという専用の短剣を10本装備してみても軽かったのだ。
ただし、ガスボンベの後方が剥き出しになっており、いつもと違う重心のズレを感じていた。
「調子はどうだい?」
「予想以上に身体に合ってますね!これなら肉体に負担が掛かりにくいですわ」
「嬢ちゃん、結構立体機動装置に振り回されていたもんな」
グリズリー班長は、フローラの嬉しそうな表情を見て口元が緩んでいた。
シュツルムシリーズの開発に携わった技術4班の8名は、とても嬉しい光景である。
完成品を駐屯兵団の工兵部の上層部に提出したところ、バカにされながら返品されたからだ。
要求通りに開発したのに、侮辱された挙句ゴミ扱いにされた過去を思い出せば泣ける光景である。
「よし、そのシュツルムシリーズ一式は、嬢ちゃんが持っていっていいぞ!」
「えっ?良いのですか!?」
「どうせ、使う事もなく倉庫に眠っているだけの代物だ」
「君に使い潰してくれれば、開発した我々も装置も喜ぶさ!」
「ありがとうございます!さっそく訓練所で動作テストしてきます!」
フローラはさっそくこの立体機動装置と鞘で動作テストをしたかった。
技術4班の8名も自信作の動作を確認する為に彼女と共に訓練所へと目指した。
「中々良い動きをするな…」
「そりゃあそうだ、嬢ちゃんの動きは精鋭班すら凌駕してたんだ」
「よく見惚れて民家にぶつかりませんでしたね」
「おい…それはどういう意味だ」
訓練所で動作テストしている彼女を観戦しながら技術4班は軽口を叩いていた。
もちろん、動作テスト自体はしていたがここまで客観的に動きを見る機会は初めてであった。
「やっぱりアンカーの射程範囲が狭いな…」
「せめて一式装置並みの射程範囲になるまで改良したいですね」
「ワイヤーの強度はしっかりしたつもりだが、ブレが酷いな」
「それとガスの噴出とアンカーがうまく噛み合っていなくてちょっとズレてますね」
人間離れしたフローラの動きに感心しながらシュツルムシリーズの欠点を記録していく技術班。
空中3回転、軌道転換、ワイヤーの巻き取る速度など、視覚と聴覚で判断して記録していく。
「おい嬢ちゃん!動きはどうだ!?」
「とっても身軽で動きやすいですけど!思った通りにアンカーが刺せませんわ!」
「これは予想通りだな」
「ガスの噴出を一式鞘と同じように想定しているせいかもしれん」
「それもあるが、どうも操作装置が触りにくそうに見えるんだが…」
立体機動の技量が限界まで極められた彼女だからこそ判明した欠点。
すぐさま、改良の余地があると判断して技術班の何名かは既に計算を始めていた。
「ああ、とっても快適…」
巨人の正面からU字の軌道を描いてうなじを斬り落とす動作。
地面から障害物を使って巨人のうなじを斬る動作。
自由落下している時にアンカーを撃ち出して体勢を立て直す動作。
落下の勢いを利用してうなじを斬る動作や回転斬り。
フローラは自分の想像した動きがある程度近づいているのを実感していた。
「しかし、よくもあれだけのパターンを試せるものだ…」
「立体機動装置のテスト要員としては最適ですね」
「毎回思うんだが回転斬りで目をまわさんのか?」
「空中で二回転するだけで吐く人も居るしな」
こうして、立体機動の動作テストが終わった頃には晩飯の提供が終わった時間帯であった。
晩御飯を食べられないと悟ったフローラはかなり落ち込んでいた。
それを見た技術班は、晩御飯を奢り喜ぶ彼女の姿を見ながら酒を飲んだ。
そしてなんだかんだで、仲良くなった彼らは23時まで雑談をしていた。
「いつでも来いよ!」
「はーい!また行きますうー!」
上機嫌になったフローラは技術班全員に抱擁した後、ふらつく足取りで兵舎に戻っていった。
「ガハハハハ!女の子に抱き締められるのは悪くないな!!」
「そういえば、訓練兵にお酒を飲ませてしまいましたけど良かったんでしたっけ?」
「いや、駄目だろう」
「良い飲みっぷりで4杯くらい飲んだよなー」
規則違反だと分かっていたが彼らは止められなかった。
むしろ、酔っていて上機嫌な彼女に襲い掛からなかった紳士の彼らはどうでもよかった。
今から、技巧室に戻り研究を続けるのだ。
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一方、104期生は、お葬式状態であった。
明るい未来を描いていた新兵たちは非情な現実に砕かれて鬱状態になっていた。
トロスト区の清掃活動は終わりつつあり、あと数日すれば住民が帰還できるようになるだろう。
ただ、そこで地獄を見た兵士たちは、未だにその傷が癒えてなかった。
「今日もフローラが食堂に来なかった」
「なんか忙しそうだもんね」
「アニ、どうすればいいの?」
「私に聞かれてもな…」
ミーナは、アニとフローラを誘って晩御飯を食べるつもりだった。
だが、誘おうとしても姿が見当たらずに探し回っても見つからなかった。
食堂に待機していれば逢えると思ったのに結局、入室してこなかった。
それが2日連続であった。
アニに慰めてもらっているが彼女も相当精神的に参っている。
「やっぱさあ、俺たちって死ぬまで戦わされるんだろうな」
「やめろよダズ…」
「いっそ、うまく怪我すればいいんじゃねーかな」
「右脚失った兵士が教官になった話も聞くしな、案外良い案かもしれん」
精神的ストレスと肉体疲労で壊れた兵士たちは規則を破り食堂を占拠していた。
そこで繰り広げられるのは、将来の不安と愚痴、悲観的な想いなどを打ち明けていた。
ただ、精神的に追い詰められている同士がそんなことをしあえば悪化していくのは当然の流れだった。
「おいコニー、なんかやれよ」
「無茶言うな…お前こそなんかやれよジャン坊!」
「フローラに母さんに手紙を出してやれって言われたが…こんな状態書けるわけない」
「肉…肉さえあれば…」
「トロスト区の騒動で当分、肉料理が出ないっておばさんたちが言ってたぞ」
「わたし、兵士になれば肉を喰えると思って兵士になったんですぅー」
ムードメーカーのコニーとサシャもどうしようもなかった。
憲兵団の上官たちとは別方向に堕落した104期の新兵たち。
任務中では身体を動かすことで恐怖を誤魔化せても真夜中では恐怖に怯えていた。
「エレンは無事なのかな…」
「フローラは無事って言ってたけど…」
ミカサもアルミンもエレンが心配であった。
調査兵団に入団するまであと4日以上もあるのだ。
逆に言えば、調査兵団に保護されている以上、それまで彼と逢える手段がない。
唯一、居場所を知っているフローラはここ最近行方が良く分かっていない。
「私ねー、エレンの演説で調査兵団に入ろうって思ったの」
「前も言ってたね」
「でもー負けちゃったの…みんな喰われて私も喰われそうになったのー」
「ミーナ、貴女疲れているのよ…」
親友のトーマスが戦死して自分も死にかけたミーナは既に自分が死人だと感じていた。
ここは実は死後の世界で、自分は永遠にここを彷徨い続けるのだと。
「あはっははは!ただいまー!」
その空気をぶち壊すようにフローラが上機嫌で食堂に入ってきた。
「おいフローラ、もう晩飯は食べちまったぞ?」
「あははっは!良いの!もう食べてきたからあー」
未だに晩飯を狙われていたジャンは、現実を告げても彼女は上機嫌であった。
「なんかアルコール臭くないかこいつ…」
その一言でアニ、ミーナ、ミカサが慌ててフローラの元に駆け付けた!
「フローラ!?何をやってたの!?」
「うーん、気のいい兵士たちとねえーお食事会をしたのー!」
「やばい、相当アルコールを飲んでる」
「ねえフローラ、大丈夫?」
「とっても気持ちよかったああー頭ぐるぐるーぐるぐる」
この一言で女性陣はパニックになった!
「フローラあああ!今すぐ風呂に行くわよ!!」
「たしかにー身体がーー汚れちゃったしいねえー」
「この馬鹿!!なんで貴女はそこまで身体に無頓着なの!!」
アニの叱りにも気にせずにフラつきながら笑いながら歩き回っていた。
彼女からすれば、なんで友人たちが大慌てになっているのか理解できなかったのだ。
「大丈夫大丈夫、風呂は後でー」
「だめえええええ!早くしないと!!」
「なんでええなの?」
「アニ手伝って!!」
「分かってる!!」
女性陣は慌ててフローラを風呂に連れて行った。
そして、様子を見守っていたジャンとライナーは【お礼参り部隊】を結成した。
鬱状態になっていた104期生は、フローラを汚した兵士たちに復讐心を燃やしていた。
結果的に怒りで統一された彼らは、巨人の恐怖などどうでもよくなっていたのだ。
「だからー変な事されてないわよ!」
「いいのいいの…だから」
「確かにお酒を飲んだのは悪かったけど!」
「いいから、お食事会した兵士たちの名前を教えて!」
「嫌よ!殺意剥き出しの貴女たちに教えるわけないじゃない!!」
結局、フローラは同期たちの誤解を解くまでに2日掛かってしまった。
軽率な行動で大混乱を引き起こした元凶は、監禁されたことで反省した。
なお、2日間で104期生の絆は深まり、結果的に兵士として立ち直ることができた。
事実上、2日間兵舎に監禁されたフローラにとっては、たまったものではなかったが。