進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
フローラは難題にぶつかっていた。
それは馬である。
巡航速度は35km/h、トップスピードは75km/hと唯一巨人から逃げられる移動手段だ。
平地で活動する機会が多い調査兵団には必須の相棒である。
「問題なのは、馬によって言う事をきかないということよ」
「扱い方が悪いせいじゃない?」
「借りる度に馬が違うのよ!?さすがにそれはないわよ」
何度か壁外任務をしていて分かったのは、自分専用の馬が居ないと駄目だという事である。
さきほどの任務では、指笛を何度も吹いても帰って来ずに馬を諦めた。
やむを得ず同僚に襲い掛かる巨人を利用して味方部隊に帰還せざるを得なかった。
そして合流した時に自分の馬がそこに居て頭が痛くなったのだ。
「おい馬を置いてどこに行ってたんだ!?」
「馬が可哀そうだろう!?」
先輩たちの叱責で反省したフリをして二度と馬を借りないことにした。
もちろん、調査兵団用の馬は、庶民の生涯年収に匹敵するので新兵に買えないはずであった。
しかし、彼女には馬を買うお金があったのだ。
任務でウォール・シーナのストへス区に行った時に大貴族にバカにされたのがきっかけだった。
役立たず、ゴミ、税金泥棒と調査兵団を侮辱していた大貴族が居たのを見てチャンスにしたのだ。
自分なら巨人を10体、1人で討伐できると啖呵を切ったおかげで大金を稼げてしまった。
-----
「本当にこの小娘ができるのか?」
「まあいいではないか、若い娘が尊厳を投げ捨てて泣き叫ぶ悲鳴を聞けるのも良い余興だ」
「ぐふふふ、さあ魅せてもらおうじゃないか、彼女の晴れ舞台とやらを…」
「やはり、命知らずだな。調査兵団の兵士というのは…」
見るからに悪徳貴族たちを巻き込んでカラネス区の壁外でパフォーマンスを行なった。
もちろん、ガスボンベ6本、シュツルムメッサーの替え刃12本を事前に用意しておいた。
ガスボンベを6本も新兵が用意できるのではないが、ピクシス司令の権限がある為、用意できた。
フローラ・エリクシアには最優先で補給ができるという権限がトロスト区攻防戦以降も効果を発揮していたのだ。
「うおおおおお!やるではないか!」
「ふむ、これなら第57回壁外調査も期待できるというもの」
「つまらぬ…やはり無様に泣いてくれんと」
「正気じゃない…本当に馬鹿だあいつは…」
無様な死に様を見に来た貴族は、思わぬ彼女の奮闘で興奮しており上機嫌だった。
その中でトロスト区を拠点にしていたリーブス商会の会長以外は。
「はぁはぁ…この通り、支援して頂ければ…巨人を…倒すことが…できますわ」
フローラは内心切れた。
理由は2つである。
巨人を10体討伐してみせて『巨人討伐ショー』が終わる合図の黄色の信煙弾を撃っても援護がなかった。
つまりカラネス区壁外にいる巨人を殲滅する羽目になったのだ。
最前線であるトロスト区と比べてここは、兵士の練度が低く砲兵の腕前も下手くそどころか砲撃すらしなかった。
正式でないとはいえ、王の側近で行政担当の大貴族が壁上に居るにも拘わらず無視をした友軍に失望した。
「よし、こっちを見ろお嬢ちゃん!」
「ひゅーひゅー暑そうだね!もっと脱ぐか?」
「はぁはぁ…固定ベルトで…これ以上…脱げません…わ!」
しかも必死に巨人を討伐した後、無駄にパフォーマンスをしなければならなかったのだ。
上着である兵服を脱ぎ捨てて、黒色のノースリーブ姿でセクシーポーズをとらなければならなかった。
上肢は訓練で怪我した時についた傷まみれで、美しい肌とは言えなかったので見せたくなかった。
それでも身体を売るよりマシだと思いフローラは必死に頭を垂らして、土下座したのだ。
「ふむ、中々世渡りが良いではないか」
「侯爵様のおかげで王政が成り立っているのは僻地の末端でも理解しておりますので…」
こうして集まった活動財産の半分を王政府に納税という形で手放して、大貴族に謝礼金として2割を手放した。
更に迷惑をかけたとしてカラネス区に1割分を納税してから換金して金貨20枚を確保した。
そして事前に事情を説明していた調査兵団本部で頭を下げつつ金貨10枚を収めた。
こうして一頭の馬を購入できる金貨10枚を確保したのだ。
-----
「長い険しい道のりだったけど、これも全て巨人を駆逐する為…」
「だからって無理をし過ぎだよ…」
「とにかく行くわよ!」
さっそくウォール・ローゼで有名な厩舎にクリスタを引き連れて突撃していった。
しかし、すぐに挫折した。
とりあえず乗馬したものの、実戦で役にたつのか不明だったからだ。
動物と仲良くなれる事に定評あるクリスタを連れてきたものの旨い事は行かなかった。
「やはり、専用の馬をもつのは無理なのかしら…」
「分隊長クラスでようやく専用馬が与えられるくらいだもん…しょうがないよ」
一般兵に配備されるのは『鹿毛』という茶褐色の体毛の馬 金貨6枚
士官用に配備されるのは『栗毛』という黄褐色の体毛の馬 金貨9枚
調査兵団の団長と同じなのは『白毛』という白馬 金貨100枚
「乗ってみたけど中々これって決まるのはないわね」
「それより気性が荒そうな馬が居るんだけど、あれを試してみない?」
「むしろ、気性が荒いのは駄目な気がするけど、まあいいわ」
クリスタの提案した馬を見ると赤い体毛で覆われた馬で、他より一回り大きい牝馬であった。
なにより目を惹いたのは値段、たったの金貨4枚である。
「すみません!あの馬って何ですか?」
「あーあれは止めておいた方が良いよ」
「白毛同士でかけ合わせたら、突然変異で生まれたじゃじゃ馬さ!」
「とりあえず乗ってみますか」
まず鞍を付ける所から手古摺る馬であった。
10人がかりで30分かけてなんとか取り付ける事に成功するほど気性が荒かった。
大抵の動物なら仲良くなれるクリスタですらお手上げというある意味、値段通りの馬である。
そして乗れるようにしたと思ったら柵を乗り越えて暴走していった。
結局、立体機動装置で5分くらい苦戦した末に乗馬できたが、大暴走してしまい止まったのが1時間後であった。
「大丈夫?」
「死にかけたわ」
「ごめんなさい…」
「いいのよ、乗ったのは自分だし」
「馬だけに?」
「そう馬だけに…?」
疲れているフローラは、気分転換に馬用ブラシで馬の毛の手入れを行なった。
気のせいか心地よく感じているようで少し大人しくなった気がした。
「オーナーさんにも迷惑かけちゃったし、この子でいいわ」
「良いのか!?本当にこの馬でいいのか」
「えぇ、この子にします」
安物買いの銭失いと言わんばかりにオーナーに警告されたがフローラはそのまま支払った。
「やはり愛着というのがあってな、売り物にならんと思っても殺処分できなかったのだ」
「必ず彼女を幸せにしてみせます」
「ハッハッハッ!期待しておくよ」
厩舎のオーナーに別れをつげて、クリスタとフローラは帰路に着いた。
「さっきまで暴れていたのに急に大人しくなったわね」
「だって、窮屈な馬小屋で嫌われながら過ごしていたんだもん」
「…まるで他人事じゃないみたいに言うわね?」
「えっ?」
クリスタは図星を突かれたように歩みを止めてしまった。
「もう、フローラったらそんな冗談を言うなんて…」
「そうね、命と引き換えに馬を止めようとした貴女にはきつい冗談ね」
「なんでそんな事を言うの?」
「わたくしは、貴女を死なせたくないからよ」
昔からフローラとユミルは核心をついてくることが多かった。
雪山訓練にダズと共に志願した際に防寒具をありったけ渡してきて無理やり着せたのはフローラだった。
評価欲しさに志願した彼は、体調管理ミスで死にかけたが辛うじて凍傷を免れた。
そして体力に劣っていたクリスタが大丈夫だったのは、フローラの防寒具のおかげであった。
「どうして?」
「ユミルが一番知っているんじゃないかしらねー」
「…いじわる!」
誰かの為に犠牲になろうとする度にユミルとフローラに妨害されていた。
その度に自分は必要とされていると説いて、無理やり信念を曲げてくるのだ。
「いじわるで結構!」
「じゃあ私もいじわるをする!」
「えっ?」
「寝ている時に傷口を舐めてあげる!!」
「えっ、やめて!」
ユミルとフローラの最大の違いは、自分が嫌だと思う事をすると嫌がるのが彼女である。
ユミルだと、耳を舐めようがトイレに付いて行こうが背後から胸を揉もうが喜んでしまう。
しかし彼女には弱点があるのでこうやって反撃できるのだ。
「えーっと、そうそう!この子に名前を付けてあげなきゃ!」
「それはフローラが名付けるべきじゃないの?」
「客観的に名付けられないからクリスタに頼むわ」
焦ったフローラはクリスタに馬の名前を考えてもらい誤魔化そうとした。
もちろん、傷口は舐められるのは避けられないと経験から分かっていた。
それでも少しでも思考を変えようとしたのだ。
「ライリーってどう?」
「怒り、勇敢、元気、活発か…この子にぴったりね」
フローラの相棒の名が決まった。
女の子の名前の由来としてはどうなのかという問題は…細かいことは気にしなかった。
「でもどうやって認識させるつもりなの?」
「餌付けするときに名前を呼んであげれば、そのうち身に着くでしょ」
久しぶりの遠出で満足しているライリーは鼻息をしながら悠々と歩いていた。
「私もお世話していい?」
「いいけど、その時は一緒にやりましょ」
「なんで?」
「わたくしよりクリスタに懐いたら意味がないから!」
馬を引いているのはクリスタである。
フローラも引きたかったが馬と仲良くできるのがクリスタの特技であった。
むしろその為に連れて来たせいでなんとも言えない気持ちになった。
「これから相棒になるんだからしっかりわたくしだけを認識させないとね!」
段々嫉妬したかのように不機嫌になったフローラ。
その様子をみたクリスタはなんとか誤魔化そうとした。
「そういえば、フローラってミカサと仲が良いよね?」
「えぇ、同期の中で背中を任せられる相棒みたいなものね」
「どうしてそんなに仲良くなったの?」
「今ここで話すべき事なの?」
「二人と一頭しかいないから…」
まだ、兵舎まで距離があった。
「そうね、みんなに内緒にするって約束するなら馴れ初め話を話すわ」
「約束する!絶対に黙ってる!」
「そうねー!あれは845年のウォール・マリアが陥落した日ー」
ただ歩くだけでは寂しいのでフローラは昔話を話した。
-----
「駆逐してやる!!この世から…一匹…残らず!!」
決意したエレンの一言でフローラは生まれ変わった。
鎧の巨人を討伐し、シガンシナ区を奪還する。
例えこの身を悪魔に売り渡してでも…達成してみせると!
避難船の中で少女が死んで悪魔に転生した。
「エレン…」
「ミカサ…!オレは絶対に成し遂げてやる」
泣きながらエレンは決意した姿を見てミカサは慌てた。
あの強大な力の巨人に向かっていき、そのまま喰われかねない自暴自棄に見えたからだ。
「協力…するわ」
「誰!?」
「巨人に、両親を殺された…の」
「お前も…なのか」
フローラは人波を掻き分けてエレンの元に辿りついた。
そして泣いている彼の手を取ってしっかりと顔を見た。
「わたくしも…協力…します」
「ありがとう」
「2人とも…」
これがエレンとミカサの出会いだった。
その2年後、訓練兵団に入団した時、3人は再び出会った。
「よぉ!久しぶりだな!」
「エレン、あの時の決意は揺らいでいませんよね?」
「もちろん!巨人を駆逐してみせる!」
「それは良かった…一緒に頑張りましょうね」
「お前もな!」
2人は意気投合して訓練に育もうとした。
それに危機感を覚えたのがミカサだった。
「ちょっといい?」
「いいわよ」
「エレンに近づかないで!」
「どうして!?」
エレンは弱いから自分が守ると決意したミカサにとってフローラは危険人物だった。
まるでエレンを地獄に巻き添えにするヤバい女と本能で認識したのだ。
「エレンは絶対に死なせたくないの」
「それはこっちも同じよ!」
「いいえ、貴女は害虫!エレンにこれ以上纏わりつくな!」
ミカサは、彼女を仮想敵にした。
まるで寄生していくように訓練兵たちと仲良くなる姿に寒気がしたのだ。
凡人だった彼女が同期たちの技術や知識を吸収していき人間離れになっていた。
自分以外、彼女の化け物っぷりに気付かないどころか、骨抜きになる有様だった。
「貴女は一体誰なの!?」
「フローラ・エリクシアですわ!」
「違う!!恐怖の感情がない貴女は人間じゃない!!」
「みんなの精神を喰らい蝕んでいく害虫だ!!」
既にフローラの存在なしに104期訓練兵団が成り立たないほど骨抜きにされていたのだ。
コニーやサシャといったムードメーカーポジションは居るが彼女は別格だった。
「…そうかもしれないわね」
「だったら!」
「だからどうしたと言うの!?」
「何を…」
「巨人を一体残らず駆逐できるなら、わたくしは何でも犠牲にしてみせるわ!」
フローラもミカサを警戒していた。
自分の力不足を実感しているからこそ同期たちと仲良くなり技術や知識を盗もうとした。
両親が【鎧の巨人】のせいで大岩に潰されたのと、エレンの決意の一言以外の記憶がなかった。
だからこそ、失った記憶を埋める勢いで、同期たちと思い出作りをしていた。
「その犠牲は、同期たちも含んでいるでしょ!」
「そうね、できるだけ犠牲にしたくないけど覚悟をしてるわ」
「こいつうううう!!」
フローラの一言で激高したミカサは短剣を押し倒した彼女の喉元に向けた。
「おいミカサ…何をしてるんだ」
「エレン!?」
その様子をエレンに見られたミカサは真っ白になった。
もちろん彼に嫌われるのも嫌であったが殺人未遂の現場を見られた以上、手遅れだった。
第三者から見られたら言い訳ができないほど追い詰められた。
「なあ、なんで…どうしたんだ!?」
「それは…」
「ミカサがねえ、わたくしがエレンを殺すと思って先手を打とうとしたのよ」
「なにを…」
顔を真っ青にしたエレンに言い訳できずに震えているとフローラに先手を打たれた。
「わたくしの行く道は、屍で築かれた道を進んでいくのよ」
「何を言っているんだフローラ!?」
「巨人を絶滅させるなら、相応の犠牲が必要なのよ!この世は等価交換の法則に基づいている限りね!」
「だからミカサに言ってやったの!同期を友人を!巨人の餌にしてでも駆逐してみせるって!」
「友人たちをゴミの様に扱おうとした女にミカサが激怒したのよ!」
エレンは混乱した。
忘れ物を取りに教室に戻ったらミカサがフローラを殺そうとしていたのだ。
ミカサは言わずもがな、フローラは同じ志をもった同期である。
ベルトが壊れていて、姿勢制御訓練に失敗していた時に励ましてくれた優しい女。
そんな彼女から耳を疑う言葉を発していたのだ。
「とりあえず、落ち着こう!なあ!」
「…そうね」
「…ごめん」
彼には、彼女たちに声をかえるのが精一杯だった。
「なあ、お前ら同じ同期だろう?なんでこんな事になったんだ?」
「男の子には分からないかもね…」
「こいつ…」
「ねぇ、エレンは巨人を本当に駆逐できると思う?」
「絶対にやってみせる!!」
エレンは当然のように言い放った!
それを見たフローラは安心したように微笑んだ。
「それなら、わたくしの夢も…エレンに託して良いわよね」
落ちていた短剣を手に取って、フローラは自分の首元に刃を近づけた。
「お前!なにやってんだ!?」
「エレン!同じ目標を掲げている同志だけど、方向性が違うのよ」
「エレンは巨人を駆逐して自由になるのに対して、わたくしはどんな犠牲を払っても駆逐する気なの!」
「ミカサは、その犠牲が…エレンも含んでいると感じて問い詰めてきた」
「そしてその危惧を容認したことで貴方を守るために殺そうとしたの」
既にフローラは自分が自分じゃない感覚に襲われていた。
それについて恐怖は無かったが、エレンすら切り捨てられる冷酷さがあるのに悲しんだ。
記憶喪失で過去の自分は喪失しており、ここにいる自分は850年から2年で創られた物だった。
「845年のウォール・マリア陥落した日の記憶はショックで全て失ってしまいましたわ」
「大切な物を全て失ったわたくしは、どんな物でも切り捨てられるようになってしまった」
「それがミカサやアルミン、エレンであっても目標の為なら捨てられるほどにね…」
「フローラ…」
「もしかしたら、わたくしという存在はこの世界に存在してはいけない異物なのかもしれない」
時折、自分がこの世界に存在してはいけない存在と認識することが多々あった。
自分という存在のせいで、本来あるべき世界を捻じ曲げているかもしれないと…。
「もう空っぽの存在には、この残酷な世界はきついものがありました」
「だからこれで終わりにします」
「あなたたちにアリバイができたのを確認したらこの首を掻き切って終わりにします」
「意志を継いで目標を達成してくれるなら、わたくしの犠牲だけで済みますからね」
「さあ、行って…早くしないと手遅れになるわ」
これで悪魔は死んで、意志を継いだエレンたちが仇を討ってくれると信じて…。
「何言ってんだよフローラ!シガンシナ区の記憶がないなら…教えてやるよ!」
「え?」
「オレたちの故郷を!アルミンやミカサ、オレの思い出をいくらでも話してやるよ!」
「何を悟った感じで自己犠牲で逃げようとしてるんだよ!!」
エレンからすれば、フローラの悩みは理解できなかった。
ただ、両親を殺されたショックで記憶を失ってしまい、自己防衛で恐怖の感情を封印したと感じ取った。
だから彼女がそこまで追い詰められていると知った以上、放置はできなかった。
大切な同志であり同期の彼女を見捨てる事なんてできなかった。
「な?ミカサ!あいつにオレ達の思い出を教えてあげないか!」
「うん、あそこまで追い詰められたと知らなかったから、迷惑かけた分教えないと…」
「ありがとう…2人とも…」
こうして、シガンシナ出身の3人組の思い出話を聞いて積極的に手帳にメモした。
まるで、自分の過去を書き記すように残していった。
そしていつの間にかフローラとミカサは背中を任せられるほどの関係になっていった。
-----
「って感じでミカサの疑いを友情に変えて今に至るってわけね!」
「…ねえ、さっきから黙り込んで…何で泣いてるの!?」
「なんかごめんなさい」
「なんで謝るの!?」
フローラからすれば昔話をしただけであったがクリスタがここまで泣くとは予想外だった。
もうすぐ兵舎に辿り着いて彼女と別れてライリーを専用の厩舎に連れて行く予定だった。
それなのにここまで泣かれると寄り添って部屋まで連れて行かないといけなくなってしまった。
「とにかく、全世界の人に存在を否定されても、誕生を祝福してくれる人が居るって事ね!」
「…うん」
「だから、こうやってクリスタと会話できてよかったと思うわ」
「例えこの時の為だけに2人がこの世に誕生したと知っても、後悔しないし嬉しいわよ」
「ありがとう…」
「ああああ!?なんで泣くの!?」
話しかける度に彼女が大泣きをしてしまい、フローラは休憩せざるを得なかった。
結局、泣き止んだ彼女を食堂に送ったが馬を送迎するせいで晩飯を食べる事ができなかった。
そして、へとへとになって兵舎に戻ったら上機嫌のジャンと遭遇した。
「よお!晩飯を食べる気がないなら、晩飯を提出する約束はチャラで良いよな!」
「というか、廃棄が勿体ないから俺が全部もらってるぜ!ありがとうなフローラ!!」
無表情になったフローラが、ジャンに平手打ちをしたのは言うまでもないだろう。