進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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24話 壁外調査に向けての最終調整

第57回壁外調査まで後4日まで迫った頃。

エレン・イェーガーは、ようやく同期たちと再会できた。

【長距離索敵陣形】の大規模な演習の際にリヴァイ班から許可をもらったおかげだった。

 

 

「エレン、無事だった!?酷い事されなかった!?」

「ね…ねーよ!この通りピンピンしてるぞ!」

「ねえフローラ?本当に何もなかったの?」

 

 

ミカサはエレンの反応から何かを隠しているのを感じ取り、更に不安になってしまった。

ここならあの【糞チビ】の監視が緩いので本音を訊き出せると思い、フローラに現状を訊いた。

調査手帳に索敵陣形の訓練時の感想を記録していたフローラは急なフリに戸惑った。

 

 

「えーっと、軟禁された場所の大掃除とか訓練とかしていたわよ」

「本当に?危ない事はなかったの?」

「…壁外で、巨人化しようとした時に喰われそうになったり、ハンジさんに無理やり脱がされたり…」

「やっぱり…!」

「おい!心配させる事を言わないでくれ!!」

「まだあるの…?」

 

 

小声で教えてくれた相棒に感謝しつつ絶対に彼を守らないといけないとミカサは誓った!

「あのチビを筆頭に…いつか私が然るべき処置を」と呟き始めた彼女にエレンは慌てた。

 

 

「エレン!」

「お、お前ら!元気だったか!」

「お前も相変わらず元気そうでよかったぜ」

 

 

コニー、サシャ、ライナー、ベルトルト、アルミン、クリスタ、といった顔馴染みの同期たちと再会できて安心した。

トロスト門で確認していたものの本当にコニーとサシャが調査兵団に入隊したのは驚いたが。

 

 

「…って事は!ジャンとアニとマルコは、憲兵団に入団したのか」

「マルコは死んだ…」

「ジャン!まさかお前も!?…待て!マルコが死んだのか!?」

「ああ、トロスト区奪還作戦中に戦死したみたいだ、劇的に死ねるって訳にはいかねぇらしい…」

 

 

最も意外な男が調査兵になっているのも驚いたが、更に衝撃的事実が告げられた。

あの優しくてみんなの事を考えてくれたマルコが死んだ。

それは、数日前の2回目の壁外での巨人化計画で戦死した兵士で曇っていた心を更に曇らせた。

こんなどうしようもない自分のせいで、死人が出たのが発覚したからだ。

 

 

「なあ、死に急ぎ野郎!巨人化した時にミカサを殺そうとしたらしいな!」

「…そうだ、巨人になった時に殺そうとしたらしい…」

「違う!私は蠅を叩こうとして…」

「ミカサ、蠅を叩こうとして頬にそんな傷ができるわけないだろう…」

「済まない…オレは本当にどうしようもない男だ」

 

 

ざわつく同期たち。

エレンが巨人化してトロスト区の壁の穴を塞いだとしか知らず、ミカサに襲い掛かったのは初耳だったからだ。

巨人化したら正気を失って暴走するとは誰も予想していなかったことである。

それだけエレン関連の情報は、機密情報だったのである。

 

 

「らしい…って事は自我がなかったのか?」

「だから調査兵団の精鋭たちに軟禁されて、巨人化の訓練をしている最中だ」

「つまり巨人の力とやらは掌握できてないって事か、ホント最悪な気分だ」

「ごめん…」

 

 

普段喧嘩してきたジャンだからこそ、エレンは申し訳なさそうに頭を下げる。

同期たちもなんて声をかけていいのか分からず、ただ時間が無情にも過ぎていくだけであった。

 

 

「こいつのせいで、また死人がでるんだろうな、あーやれやれだぜ!」

「ジャン、それは言い過ぎじゃないですか?」

「ああん?サシャ、俺たちはこいつの為に命に代えても守るんだぞ?」

「だからこそ確認しておきたいんだ!こいつが俺たちの命、それぞれ見合うかどうか!」

 

 

全員が理解していた。

4日後にある第57回壁外調査で死人が出ると!

そしてエレン・イェーガーの頑張り次第で調査兵団、いや人類の未来がかかってると!

だからこそジャンは彼に自覚させた。

お前は本当に俺たちが守る価値があるかという事を!

 

 

「だから…エレン…お前…本当に頼むぞ…」

「あ、ああ!」

 

 

珍しくジャンに諭されたエレンは必ず壁外調査を成功させると誓った。

作戦自体は、シガンシナに向けて進軍する為の演習ではあるがそれでも誓った。

皆の心臓が捧げられるほどの価値のある男になると!

 

その様子をフローラは一言一句、調査日誌に記録していた。

ついでに黒鉛で、ジャンとエレンの顔を描いて挿絵にした。

 

 

「フローラ!フローラは居るか!?」

「あらリーネさん、何かありましたか?」

「リーブス商会の人から手紙を預かっている!」

「…確かに受け取りました」

 

 

茶髪のポニーテールが目印のリーネ・ハウスドルフから手紙を受け取ってさっそく拝見した。

 

 

「何を読んでるの?」

「…ミーナ、横から覗き込むなんて乙女がやるべき仕草じゃないわよ」

「何を読んでるの?」

「知り合いから招集されちゃってどうしようかなーって」

 

 

ここ最近、親友の様子がおかしいと感じているミーナ・カロライナは横から手紙を覗き込んだ。

ところが簡潔な文章しか書いておらず、内容が全く分からなかった。

 

『フィージビリティ・スタディの準備が整いましたので手紙をお受け取りされた日に例の試作品を持参し、午後5時にお会いしましょう』

 

たった1文しか書かれておらず差出人すら書かれていなかった。

明らかに暗号文であり、親友を縛り付けているのは間違いないだろう。

 

 

「何を読んでるの?」

「これからの未来を…」

「フローラ、おかしいよ」

「昔からみんなに言われているわね」

 

 

ミーナは許せなかった。

親友のトーマスは戦死して、アニは憲兵団に所属して離れ離れになってしまった。

それは仕方がない事だと理解している。

ところがフローラは自発的に自分の元を離れようとしている。

いつも励まし合った親友が遠い存在になっていくのが、手に届かなくなるのが嫌だった!

 

 

「…何か言いたそうね?」

「いじわる!」

「ミーナだけにこっそり教えるけどこれは新型の立体起動装置の話なの」

「どういう事!?」

「こっそり新型のテストをやってて、その報告会があるのよ」

 

 

泣きそうになっているミーナの頭を撫でながらフローラは優しく語り掛けた。

機密事項であったが、それ以上に親友が病んでいくのを見てられなかったのだ。

 

 

「じゃあ、その立体機動装置も?」

「似てるけど、これは自分専用の装備ね…癖があり過ぎて量産は無理よ」

 

 

事情を知る女は親友の問いに笑って答えてみせた。

 

 

------

 

 

フローラは、カラネス区で巨人を14体討伐して馬を買う資金を調達した。

行政トップの大貴族を筆頭に富豪層を掻き集めてパフォーマンスをやった結果、憲兵に目を付けられた。

それは当然であるが、自身以上に立体機動装置に興味をもたれてしまった。

仕方なく彼女は予備のシュツルムシリーズの一式と設計図を憲兵本部に提出した。

 

 

「通常の装備品と比べて軽い」

「動きやすい」

 

 

憲兵たちは、貴族を警護する傍らフローラの動きを観察し装備品に興味をもったようである。

そして実際に装着すると新兵からベテラン兵士まで高評価となった。

それどころか、何故か試作品にも拘わらず王政府によって生産許可が下りた。

慌てたのは、装備を開発した駐屯兵団第一師団の工兵部技巧科の技術4班とフローラである。

 

 

「1年以内に量産するなんて!」

「設計の品質マネジメントすら整ってないぞ!!」

「あの馬鹿政府!何を考えていやがる!」

「というか初期流動管理をすっ飛ばしている時点で確信犯だろう!」

 

 

半年以内に量産体制を確立し、3年以内に憲兵の装備がシュツルム一式に統一される事となった。

一見すると技術発展を意図的に妨害してきた王政府が珍しく譲歩したように見える。

 

実際は、王政府によって仕組まれた破滅に向かって進撃する計画であった。

 

 

「香水と衣装だけが一流な糞共は、よっぽど俺達を監獄にぶち込みたいらしいな」

 

 

グリズリー班長の愚痴が全てを物語っていた。

要するに絶対に失敗する計画であり、ほくそ笑んでいる貴族たちの姿が容易に想像できるだろう。

調達、輸送、装備の生産コスト、品質、安全性、動作試験など思考する時間すらない。

 

しかもシュツルムシリーズは、正式採用されている装備品と規格が違う。

つまり装備の互換性がないために今までの設計が役に立たないのだ。

 

 

「こうなったらわたくしが持っているコネと人脈を駆使してなんとかするしか…」

「新兵の嬢ちゃんに何ができるって言うんだよ…」

 

 

呆れたグリズリー班長の言葉にもめげずに彼女はピクシス司令に協力要請をした。

事情を知ったピクシスは、参謀のグスタフを派遣すると共に友人のザックレーに連絡をした。

ザックレー総統は、ウォール・ローゼの工業都市の区長及び工場長を緊急招集を発令した。

更に3つの兵団を統べる【総統局】から優秀な人材を派遣した。

 

 

「こういう苦難な状況下だからこそ、商機がある…そう思いませんか?」

「机上の空論だ、最初から破綻している計画に商機はない!」

「やはりお気づきになられましたか」

「…まあよくもこんな巨大なプロジェクトを引っ張ってきたな」

「絶対に破綻するのはご理解いただいたと思います」

「じゃあ、なんでリーブス商会に協力を要請したんだ!?」

 

 

リーブス会長は、エリクシア夫妻の忘れ形見が呑気にお茶を飲んでいるのを見て呆れた。

目隠しをした5万人の国民を壁外に365日徒歩で進軍させるような案件を引っ張ってきたからだ。

調査兵団は、人命と税金をドブに捨てる無能集団と揶揄されるなら、これは死刑執行のサイン待ちの書類だ。

 

 

「商会が持つ人脈と商業ルート、特に各都市にある【商人ギルド】との縁が欲しいからです」

「なるほど、嬢ちゃんは我々にただで働かせようって魂胆か?」

「このプロジェクト自体は、リーブス商会が甘い汁を啜る所はありませんから…」

「つまり、それ以外にあると?」

 

 

たかが調査兵団の新兵と駆け引きをしている会長は、自身でも何をやっているのか分からなくなっていた。

ただ、彼女が持ち込んできた書類を見れば、何を手札にしているのかは想像がついた。

小切手、フリッツ王の側近であり全商会を束ねるメテオール伯爵の直筆サイン入りの計画書、総統局の刻印入り封筒。

そこから導けるのは…。

 

 

「なるほど、リーブス商会には王政府の首脳陣や貴族との縁を作ってくれるのか」

「お察しが早くて助かります…商会が武力をもつなどと憲兵が黙っていませんのでー」

 

 

リーブス会長の懸念の通り、フローラは新立体機動装置の計画が失敗するのは察していた。

そこで計画を隠れ蓑にして別の手を打とうとした。

王政府に嵌められたなら、王政府の支援母体である有力貴族を味方に付けようとしたのだ。

当然、甘い汁がないと寄って来ない害虫なので相応の餌を用意することにした。

 

 

「つまり軍需産業という餌に釣られた商会と投資家を締め上げる貴族を狙い撃ちにすると?」

「えぇ所詮、兵団上層部しか知らない機密ですので、これほどの計画が失敗するとは夢にも思わないでしょう」

「そうだな…」

 

 

裏事情を知るリーブス商会は、紹介料と王政幹部との関係構築がメインとなる収益である。

支配層の貴族は、群がった蟲を退けて甘い汁だけ吸って失敗したら即座に切り捨てるだけの事。

失敗するとは思わない商会や個人投資家が出資して経済をまわしていく。

装備品は、ともかく王国の経済が発展するのだから問題ないだろう。

 

 

「しかし悪魔だな…総統やピクシス司令には計画を成功させる為に協力要請したのだろう?」

「もちろん、成功する為には努力しますが…リスクヘッジとしてこのような手を打っておくのも大切です」

「…この情報を我々が漏らすとは思わなかったのか?」

「あら、このような取引で成り上がってトロスト区の裏のボスになったと思いまして、わざわざ密会していますのに…」

「何も知らない小娘が…まあいいだろう」

 

 

こうして悪魔と悪徳商人はグルとなり自分たち以外を欺く事に合意して契約が成立した。

そして各方面の優秀な人材とその部下によってわずか1週間である程度、装備が制式化された。

これにはグリズリー班長を筆頭する技術4班は、フローラの人脈にドン引きしたほどである。

 

 

-----

 

 

「とにかく再設計された立体機動装置の結果を発表する場所に招集されたのよ」

「夜遅くまで訓練所に居たのは、新型のテストをしてたのね」

「そういう事!…貴女だけに話した秘密だから絶対に話さないでね?」

「うん、分かってる」

 

 

リーブス会長に話した裏事情と自分の装備以外の事はミーナに打ち明けた。

口が堅い事で有名な同期のゴードンほどではないが、嫌われるのを避ける彼女。

きっと新立体機動装置が日の目をみるまで口外しないだろう。

逆に言えば、ある日を境に堂々と同期全員に説明する姿も思い浮かべることもできるが。

あえて真面目な顔をしたフローラは、ミーナを連れて兵舎の前まで連れ添った。

 

 

「今度は訓練じゃなくて本番だからね?」

「大丈夫、フローラと一緒なら最後まで戦えるもの!」

「だから!戦うじゃなくて探索だからね!」

「分かってるわ!」

 

 

親友が段々自分の操り人形と化している事にフローラは危惧していた。

トロスト門の肉の誓いと、親友を喰った巨人の恐怖の板挟みになった結果、壊れてしまった。

命の恩人である自分に過度の依存しており、神格化して拝めているようである。

 

 

「またお話にしてね?」

「今度はもっと明るい話を考えておくわ」

「うん、トーマスも喜ぶと思うし私も嬉しいから…」

「…そうね」

 

 

結局、フローラは彼女をどうすることもできなかった。

自身の目的の為に使い潰すこともできず、だからと言って放置することもできない。

“声”を聴けるおかげで負の感情が分かるからこそ親友という距離感に惑わされていた。

ザックレー総統、ドーク師団長、ピクシス司令といった面々を前に会話していても消えなかった。

 

 

「フローラ君は、専用のガスボンベについての意見を訪ねたいのだが良いかね?」

「装備の互換性を踏まえると制式承認済みのボンベを使う方がよろしいと思います」

「うむ、ボンベまで考慮する場合、更にデータをとらなければならないしな…」

「出力を調整する必要があるが、まあ現状はこのままでいくとするか」

 

 

今回は、立体機動装置に装填するガスボンベについての話題であった。

新装備であるシュツルムシャイダーという鞘は、他の鞘と比べて6割ほどの大きさしかない。

これはシュツルムメッサーという刃の全長が通常の刃と比較して6割しかないからだ。

一式刀身の寸法が70cm、つまり新型は約44cmの鞘でしかない

 

 

「だが25cmも後方に飛び出したボンベで飛び回るのは、きついものがあるだろう」

「実際に装備するのは、実戦を行なわない憲兵のみ…そこまで気にする必要はないのでは?」

「しかし、重心のズレはよろしくない」

 

 

ただ、70cmの鞘に納める用のボンベをそのまま装填していたので剥き出しになっていた。

もちろん専用のボンベは製造していたものの量産コストが未知数の上にガスの残量が大幅に減る。

つまり、せっかくの機動性が売りのシュツルムシリーズの利点を潰してしまう懸念があった。

 

 

「フローラ氏の実験データによると通常品のボンベと比較し2割増しほど使い切るのが早くなっております」

「意外と残っているものだな」

「ガスの重量と空気抵抗の減少、そして何よりボンベをぶつける心配がない分、消費量が減っていると?」

「はい閣下の仰る通りです」

「我々もこの身で実験したところー」

 

 

フローラからすれば、データならいくらでも提出したのでどうでもよかった。

この先の分野は、技術班と兵站部署、ボンベを量産する職人と話し合って決めて欲しかった。

そもそもガスの残量など戦い方で変わる物であって、ここで判断できることではない。

せいぜい、同じ状況下で全力で噴出して空になるまでの時間を図るしか比較できないのだ。

 

 

「うむ!ボンベが各都市に備蓄した時期に互換性を取り除いた鞘を生産するべきだな!」

「よし、動作テストは問題ないとし、新型のボンベの生産を許可する!」

「異論がある者は挙手をしたまえ!」

「…ないのであればここまでとする」

「本日はお忙しいところ、貴重な時間を頂いただいた事を心より感謝申し上げます」

 

 

新型のガスボンベの動作テストの話からガスの残量にシフトして呆れ果てたフローラ。

思わずメモを書き記してこっそり隣接していたザックレー総統に手渡した。

同じく呆れ果てていた彼はメモを読んですぐに決断をし、そこから先は独壇場で全員を誘導させて無理やり会議を終了させた。

 

 

「ところでフローラ君」

「はい!なんでしょうか!」

「今度はもう少しうまくやりたまえ」

「ハッ!今回の経験を踏まえて精進します」

 

 

厳格そうな総統からアドアイスを受けてフローラは敬礼をした。

彼はどちらかというと、装備品より説明していた自分の方に興味津々である。

王政や兵団の重臣が集まる会議で唯一の新兵であるという理由だけではなさそうだった。

 

 

彼の“声”は『偉くない奴が偉そうに…あとで見てろ』という声であった。

それは会議を搔き回してマウントを取ろうとする貴族に向けたものである。

ただ、長年蓄積して積もった恨みは凄まじい執念と我慢で濃くなっていた。

下手すれば、巨人と交戦する緊張感の方がマシな部類である。

 

 

「君のような若い者を見ると情熱に燃えていた自分を思い出すよ」

 

 

フローラが総統にメモを渡したのは、彼の感情が高まり過ぎて危機感を覚えたからだ。

立ち去る前に言い残した言葉は、決して過去のものではなく今でも火種が残っている。

だからこそ、爆発する前にメモに集中させて意識を逸らした。

 

するとザックレー総統は、一瞬だけ口元を緩めて負の感情が薄れていった。

それはいいのだが、今度は自分が注目されてしまい複雑の気分になった。

総統の後に続いていく来賓を全員見送るまで笑顔は崩さなかったが。

 

 

「よぉ!ちびらずによく頑張ったな!」

「それが乙女にかける言葉ですか?」

「済まん済まん!」

 

 

グリズリー班長のやり取りも慣れてきた彼女であるがストレートの下ネタは未だに苦手である。

 

 

「さて、本題に入るがいいか?」

「問題ありません」

「シュツルムシリーズとは一線を画す自信作が完成した」

「量産計画で振り回されているのによくできましたね…」

「嬢ちゃんに死なれたら困るからな」

 

 

第57回壁外調査に行くのを知っていた技術4班は、量産計画と並行して新装備の開発をしていた。

タイムシフトで24時間フル稼働した結果、ボロボロになっていた。

それでも装置を最大限引き出せる彼女の為であれば、頑張って乗り越えられたのだ。

 

 

「じゃじゃん!どうだ!!」

「赤色以外はシュツルムシリーズと変わってなさそうですけど?」

「中身は別物だから安心してくれ」

 

 

寝不足のせいなのか、いつもより動きが怠慢であった。

それでもフローラは彼らの説明をしっかり聞いていた。

 

刃はブリッツメッサー

鞘はブリッツシャイダー

装置はブリッツハーケン

 

シュツルムが【嵐】を意味する単語であるが今回は【急襲】という単語で統一されていた。

今回の改良点は継戦能力の向上である。

 

特に鞘の部位は、外観と鞘を納める部位以外は大幅に設計を変更していた。

今回は、なんと内部に細いガスボンベが12本内臓されている。

さきほどガスの残量が少なくなる欠点を既に解決していたのだ。

コストは高級素材をふんだんに使用している上に最先端の技術を使用したので…。

 

 

「ほれ、これが請求書だ」

「金貨6枚…庶民の生涯年収に匹敵する値段ですわね」

「当然、払ってもらうからな」

「もちろん代価は支払います」

 

 

装備一式で、庶民の生涯年収に匹敵するほどの値段になってしまった。

その分、ガスの容量を大幅に増加させたにも拘わらず以前と重量を保っている。

無駄と言う無駄を省いた技術4班の最高傑作であった。

 

 

「これは調査兵が使用している『強化鞘・1型』のガスの容量と同じように調整しておいた」

「事前に過剰分のガスの補充が必要になるが…まあそこはしょうがないだろう」

「それって専用のボンベでそうなるのですか?」

「おう!だからいつものボンベを装填すると更に継戦能力があるってことだ」

 

 

ガスが逆流しないように強化された弁が内臓されており、装填するボンベを切り替えても予備ボンベのガスが残っている場合、そのままガス量が加算される親切設計である。

ちなみに充填の優先は内部ボンベだが、装填された外部のボンベが空になるまで使用されることはない。

 

「どんな仕組みなんですか?」とツッコミたくなるがブラックボックスなので詳細は不明である。

 

ボンベの互換性も残したので、これ以上の改良は不可能である事は間違いない。

立体機動装置と短剣もそれぞれ改良してあるが、鞘と比べると地味だった。

 

 

「これで一人だけガス切れでリタイアしなくて済むな」

「ありがとうございます!」

「よし、これだけは約束してくれよ!」

「生還して戦闘データを持ち帰ってくれるって!」

「はい!絶対に生還します!」

 

 

フローラは技術4班と約束をして倉庫で別れた。

前と同じように飲み会に誘われたが、同期たちに怒られるので泣く泣く帰路に着いた。

今度やらかせば、壁外調査まで監禁されかねないからだ。

それでもお別れの抱擁をやって兵舎に戻ると、ミーナから「男の匂いがする」と言われた。

 

一番気にしていた馬の匂いにツッコミがなかったのでおそらく彼女の直感であろう。

彼女の“声”は『男たちに抱擁を強制されたの…?許さない!許さない!』であった。

きっと女の勘であり、間違っても嗅覚で判断したのではないだろう。

ミケ分隊長?あれは自分と同じ【特殊能力持ち】だから除外する!

 

 

「良く分かったわね…でもお別れの挨拶をしただけよ」

「お別れの挨拶?」

 

 

無理やり作り笑いをしていた親友を見てフローラは正直に抱擁の理由を話した。

そして本日からミーナと別れる度に抱擁する羽目になる事を現時点では気付けなかった。

 

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