進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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3章 多大な犠牲を払えば、相応の対価が得られるという間違いを結果で教えてくれた時代
27話 旧市街地戦


「進めーっ!!」

 

調査兵団の団長エルヴィン・スミスの号令で壁外調査が開始された。

カラネス区の門から出るとそこは、旧市街地が広がっている。

かつて、4000人以上が暮らしていた旧市街地が巨人の目から守る障害物となっていた。

 

 

「我々本隊は旧市街地を抜けて平原に移動し、長距離索敵陣形の展開の準備をする!」

「後続班は、平原に出てから本隊と合流させる!ミケ、後続班の援護と誘導を頼むぞ!」

「了解した!」

 

 

出撃する門が1つしかない為、一斉に出撃すると長蛇のように進軍せざるを得ない。

更に騎馬隊の為、相互の距離を空ける為にどうしても3列以上で進軍ができない。

側面の攻撃に脆く下手をすれば孤立しかねない為、部隊を本隊と複数の後続班に分けた。

援護班が担当するのは、後続部隊の荷馬車及び伝令係の新兵、支援班の護衛である。

 

 

「援護班は速やかに荷馬車の援護にまわれ!」

「「「ハッ!」」」

 

 

ミケ・ザカリアスが率いる第一分隊を中心に構成された援護班は複数の荷馬車の周りで待機した。

団長の勅令により最優先護衛対象に指定されている荷馬車。

調査兵団の古株以外には何を積んでいるかは知らされていない。

 

 

「最優先護衛対象となると…積み荷は…」

 

 

フローラ・エリクシアは、壁外調査直前に団長直々に本作戦の真実を知らされていた。

この壁外調査自体が囮で、巨人化能力者を捕らえる罠だという事に。

あの積み荷は、超大型巨人や鎧の巨人を捕獲、いや能力者を捕縛するものであろう。

 

 

「なんで本隊から離されたんだ?本隊に護衛してもらえば楽だろうに…」

「分からん、ただやけに遅いな。積み荷が重すぎるのか…」

 

 

ミケ分隊長も作戦の真意を知っている兵士の1人である。

しかし、積み荷の詳細については彼ですら知らされていない。

 

 

「…!複数の巨人の匂いだ!荷馬車の前方3体!」

「私が行きましょうか?」

「いや、俺だけで充分だ!お前たちは荷馬車の護衛任務を続けろ!」

「了解しました」

 

 

だがやる事は変わる事はない!

嗅覚で巨人の匂いを感知したミケはすぐに巨人の出現を知らせて配下の班員たちに伝達した!

 

 

「リーネ、ヘニング、フローラは西を!トーマ、ナナバ、ゲルガーを東に展開し待機せよ!」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

あくまでミケが嗅覚で感知できるのは風上だけである。

風下の巨人の匂いはどうしても分からないうえに市街地のせいで匂いが遮られている。

4m級などは見逃す可能性があった為、信頼できる実力者に守らせる必要があった。

 

 

「あれ?いつもと装備が違うね?」

「特注品ですので、おいそれと補給できないので今は装備していません」

「そうか、慣れない装備に振り回されるなよ」

「はい!」

 

 

リーネ・ハウスドルフとヘニング・ラインマイヤーの2名は何度かフローラと任務を共にした。

故に彼女が専用の装備をしてない事に気付いて指摘ができた。

荷馬車と巨人しか意識できないフローラは些細な変化を見逃さない先輩方に感心した。

 

 

「ところでフローラって金持ちなの?」

「ええっ!?」

「オルオから聞いたんだけどフローラが買った肉で焼肉パーティをやったんだって」

「おいおい、俺らも招待してくれないとダメじゃないか」

 

 

自信家で武勇伝を良く話すオルオは、僅かな友人に焼肉パーティの事を漏らしていた。

それは、口軽ではなくフローラという人柄に好印象を抱かせるためにやった親切心である。

当の本人からすれば余計なお世話だが口止めしてなかった為、文句が言えない歯痒さに苦しんだ。

 

 

「えーっと壁外調査が終わったら生還祝いに何か奢りましょうか?」

「そうだな、激辛の料理がいいな」

「じゃあ私は高級な甘いお菓子がいい」

「…分かりました」

 

 

更に墓穴を掘ってしまったので【調査兵団の財布】はこれ以上、発言しないことにした。

 

 

「ヘニングさん!6メートル級の巨人!荷馬車から見て南西です!」

「くそ!奇行種だ!さっさと討伐して後続部隊の進路を確保するぞ!」

 

 

予想通り風下の建物の影に居た巨人が見落とされていた。

腕を激しく横に振り眼球が激しく動いで視線が定まらない巨人を早急に駆逐しなければならない。

 

 

「女の子走りか!ふざけやがって!!」

「私が止めを刺す!2人は援護をしてくれ!」

「了解しました!」

 

 

リーネの指示によって三位一体となりフローラとヘニングが先行した。

2人は予め決めておいた合図ですぐさま両膝裏を同時に攻撃した!

その衝撃で巨人は顔面を民家に激突させて一時的に動きが止まった!

 

 

「せいや!」

「もう少し女の子らしい動きをして欲しいものだ」

「それは巨人ですか?それともリーネ先輩のことですか?」

「お前に言ってんだよ」

「ええっ!?わたくしですか!?」

 

 

巨人の返り血を浴びて蒸気の中から現れたリーネは鬼神のようであった。

だから彼女の事を言っているかもしれないと思ったフローラはまさかの自分で驚いた。

ヘニングから見れば左膝裏を攻撃して巨人の股を潜り抜けて急旋回して離脱したやばい奴である。

 

 

「こいつ、壁方面から出てきたぞ…壁上固定砲の餌食にならんかったのか?」

「所詮、駐屯兵団第三師団のぬるま湯に浸かっていた奴らだ…そんなもんでしょ」

 

 

駐屯兵団第三師団は、トロスト区を除くウォール・ローゼの突起した都市を防衛する部隊である。

西方のクロルバ区、北方のユトピア区、そしてカラネス区を防衛する彼らの練度と士気は低い。

南方から巨人が出現する関係上、スクランブル出撃が多い南部のトロスト区の兵士と比較して明らかに劣っている。

巨人の戦闘より壁の補強工事や新兵の実践訓練の指揮などが主任務の彼らには酷と言えるが。

 

 

「荷馬車班の元へ帰還するぞ!」

「思ったより巨人が少ない…これで終わるといいけど…」

 

 

再び荷馬車班の護衛に戻る3人。

障害物が多い分、立体機動が生きる一方で死角から巨人が出現する可能性がある。

彼らは、極限まで気を配りどこから巨人が出現してもいいように慎重に帰還した。

ちょうど巨人3体を討伐したミケ分隊長が率いた部隊も合流を果たして荷馬車の護衛を続けた。

 

 

「本隊を警護していた護衛班が3つ、荷馬車の護衛に戻るそうだ」

「…つまり、次は後続班の護衛をすればいいのでしょうか?」

「その通りだ!中央通りは荷馬車が占拠している以上、他の道の安全を確保しなければならない」

 

 

本隊が駆け抜けた中央通りは移動が遅い荷馬車班が占拠している以上、後続班は別ルートを通る。

後続班は4つに分かれており、護衛班の合図で一斉に並行して大通りを進軍し本隊と合流する。

巨人の襲撃による損害を減らせるが防衛する班が増えた為、結果的に襲撃されやすくなっていた。

 

 

「報告!荷馬車班に新たな護衛班が合流しました!」

「索敵班から合図は?」

「ありません!」

「…黄色の信煙弾を撃ちあげろ!」

 

 

ミケ分隊長の号令の元、荷馬車護衛に成功させた合図を撃ち上げた!

3つの黄色の煙が晴れた大空に向かって立ち昇り、兵士達の緊張を更に増加させる。

今は安全でもここは壁外、いつ巨人の大群が出現してもおかしくはないのだ!

何事もなく無事に任務が達成できるように護衛班の全員が祈っていた。

 

 

「黄色の信煙を3つ確認!」

「よし、第一段階は無事に成功させたようだな!」

「お前たち!これから班長に続いて前進せよ!何があっても歩みを止めるな!」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

後続班の4人の班長は、それぞれの班員たちに指示を出し、出撃の準備を行なった。

たとえ護衛班が巨人を掃討しきれずに安全ではないとしても信じて進むしかない。

壁外で歩みを止める事は死に直結するからだ!

 

 

「班長!本当に大丈夫なんですか!?」

「サシャ!お前は黙って俺のケツを見て馬を走らせればいいんだ!」

 

 

サシャ・ブラウスは正直、逃げ出したかった。

何故なら黄色の煙が上がっているのにまだ遠くで戦闘が行われているからだ。

つまり、安全ではなく巨人の脅威は目の前に迫っている。

 

 

「お前たちも!死にたくなかったら黙って俺についてこい!!」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

班長も内心では、早合点した護衛班に恨み節をいくつか抱えていた。

だが、黄色の信煙弾が出た以上、彼らを信じて部隊を率いて進軍するしかなかった。

それが彼に課せられた任務であり班長としての役割なのだから。

 

 

「兵長!遠くで赤い信煙弾が複数、打ち上げられています!」

「チッ!展開した索敵班が新手の巨人を発見したか」

「どうするんですか!?これじゃ出撃できませんよ!?」

 

 

リヴァイ班の紅一点が報告した情報にエレンは思わず不安を口に出してしまった。

 

 

「…この一ヵ月、何を学んだ?そのちっぽけな頭で考えろ」

「兵長…」

「お前は上官の命令に従う…ちっぽけな頭でそれだけを覚えてろって言ったよな?」

「…はい、申し訳ありません」

 

 

エレンは許可なく巨人化できない。

それ以外にも上官の指示は絶対であり、いろんな制約を課せられていた。

未知なる存在という事で、人類の切り札というより諸刃の剣の扱いだった。

リヴァイは錯乱した彼を冷静にさせる為に有無言わさずに命令に従うように命じた。

心を乱して勝手な行動を取るほど、規律と編成を崩し危機に招く行為は無いからだ。

 

 

「出撃だ!俺の後ろに続いてついてくるだけで良い!できるか?」

「できます!」

「返事だけはご立派だな…オルオ!黄色の信煙弾を上空に撃ちあげろ!」

「了解しました!…撃ちました!」

「よくやった」

 

 

他の後続班が動こうとしないのに痺れを切らしたリヴァイは信煙弾の打ち上げを命じた。

本来の手順は、始めに動いた後続班の班長が撃ち上げて、進軍を開始する手筈である。

とろくさい奴らに代わって自分が進軍する意思表示をして他の班を勇気づけたのだ。

 

 

「リヴァイ兵長の班から信煙弾が!」

「よし、進軍開始!!」

 

 

その合図を元に4つの後続班は目の前にある大通りを進軍した。

できるだけ迂回したくない彼らは護衛班を信じて馬を走らせていく。

 

 

「索敵班!お前らのせいで安全が確保できないまま進軍が始まったじゃないか!」

「信じてくれ!急に巨人が湧いたんだ!まるで地面から湧いたように!」

「もういい!!」

「「ミケ分隊長…」」

「我々の任務は、後続班を死んでも守る事だ!失態を返上する気で任務に当たれ!」

「「ハッ!」」

 

 

言い争いを収めて一致団結させたミケ分隊長。

彼も黄色の信煙弾を撃ちあげさせた直後に複数の巨人の匂いを感じ取った。

つまり、判断ミスは彼らではなく自分であり、失態を取り返そうとしているのは自分である。

 

 

「各員!定められた後続班の護衛に当たれ!」

「「「「ハッ!」」」」

「フローラは俺と来い!遊撃部隊として後続班を援護するぞ!」

「分かりました!」

 

 

ミケはフローラを抜擢したのは訳があった。

もちろん単独で14体の巨人を討伐する腕を買っていたがそれだけではなかった。

おそらく彼女は、自分と同様に巨人を感知できる【特殊能力持ち】だと理解していた。

確証が持てないのは、彼女が実際に意識してやっているか疑問であるからだ。

 

 

「分隊長!奇行種が護衛班を振り切りました!このままだと第2後続班と接触します!」

「させるか!」

 

 

ミケは、フローラの報告を受けて第2後続班に救援に向かった。

市街地と風の向きによって巨人の匂いが阻害される影響で嗅覚の本領が発揮できなかった。

一方、彼女は風向きや障害物に阻害されずに巨人を感知できているようだ。

嗅覚や視覚ではない事は確かだ。

 

 

「班長!巨人が来ましたあああ!?」

「後ろに居るのはミケ分隊長か…前進せよ!」

「ですが、目の前に居るんですよおおお!?」

「怯むな!援護班に任せて前進しろ!!」

 

 

巨人を前方で目撃したサシャは思わず左折しかねた。

しかし力強い班長の言葉で思い留まり前に向けて馬を走らせた!

後続にいる班員たちも班長の言葉を信じて馬を走らせている。

 

 

「ひいい!」

「落ち着け!あいつは、うなじを削がれた!もう動かん!」

 

 

ミケの回転斬りによってうなじを削がれた奇行種は大通りから逸れるように倒れ込んだ。

その転倒した衝撃は馬を走らせてもしっかりと感じ取れるものである。

自分に向けて10m級の巨人が手を伸ばしているように見えたサシャは他人事ではなかった。

ここは、地獄であると身をもって再認識した。

 

 

「次はどこだ!?」

「エレン…じゃなかった!第4後続班の右側面から2体の巨人が迫ってます!」

 

 

回転斬りの反動で索敵どころはなくなったミケはフローラに索敵を任せた。

平衡感覚が狂いながらも正確に立体機動を行なえるのは訓練と経験のおかげである。

しかし、嗅覚まで頭が回らないので彼女の索敵能力を信じて進むしかなかった。

 

 

「兵長!立体機動に…」

「何度も言わせるな!許可するまで馬を走らせろ!」

「…はい」

 

 

エレンはもどかしかった。

せっかく立体機動の訓練をしてきたのに本領を発揮せず見る事しかできないからだ。

その間にも同志でありライバルであるフローラが戦果を稼いでいる。

彼女から、アンカーを刺した巨人が転がった場合の対処法など色々教わってきた。

だからこそ、これ以上差をつけられるのは…悔しくてしょうがなかった!

 

 

「おいガキンちゅっ!!」

「まーたカッコつけようとして舌を噛んだの?いい加減に学習しなさいよ…」

「うふはひふほら!」

 

 

憧れの兵長に迷惑を掛けるガキを叱ろうとして舌を噛むオルオ。

それを見て呆れているペトラ。

エレンが発言しなかったら自分が発言しようとしていてホッとしたエルド。

それを後方から見ていてこの先に不安を感じているグンタ。

平常心を崩さない彼らを見てさすがだなと思うエレン。

 

 

「とはいえ…やるしかないか」

 

 

グリップを握り鞘から刃を取り出そうとするリヴァイ。

しかし彼の予想に反して巨人は方向転換を行なった。

 

 

「援護班か…このまま進むぞ」

「よーしエレン!指示通り真っすぐ進めよ!」

「了解です!…えっ?フローラ?」

 

 

後続班に向かって来ていた2体の巨人は何かに釣られて誘導されたかと思うと転倒した。

それも勢いよく転倒したせいで付近の民家を巻き込んで大惨事になった。

蒸気が噴出しているところを見るとうなじを削がれたのか。

そう思っていたエレンの眼前の上空をフローラが駆け抜けていった。

てっきり後続班に居たかと思ってたのに予想外の遭遇に驚いてしまった。

 

 

「済まない…2体討ち漏らしてしまった…」

「御託は良い、状況を説明しろ」

「索敵班が数体の巨人を見逃してしまいました。只今、残存する巨人を掃討中ですわ」

「なら早く行ってこい!いつまでも編成と士気を保てるとは限らんからな」

 

 

兵士長の発言を終える前にミケとフローラは次の巨人へと向かっていった。

それと入れ替わるように本来の警護担当である護衛班が帰還した。

 

 

「申し訳ありません!」

「俺たちより後続の班員たちを守れ」

「ですが…」

「二度は言わんぞ」

「了解しました!」

 

 

自分の選択が正しいのかは結果が教えてくれる。

だが、結果次第では答えが不明確のこともある。

 

リヴァイは昔から間違った選択肢を選んで続けていた。

自分の選択が間違っていたなどすぐには気付けないのは経験で実証済みだ。

だからこそ、さきほどの選択肢もエレンの方が正しかったかもしれない。

 

 

「兵長…取り乱してすみません」

「いや、お前の考え自体は間違っていない」

「えっ…」

「もしあいつらが来なかったら無言で俺が討伐していた」

「そうですか」

 

 

リヴァイ兵士長は、後ろを決して振り向かなかった。

そのせいで彼がどんな表情で発言しているかエレンは分からない。

それでも、兵長は自分たちの事をしっかり考えていると分かる。

頼もしい背中が自分たちをしっかり導いてくれているからだ。

 

 

「第1、第3の後続班は旧市街地を抜けて平原に出ました!」

「予定より早いな…多少のトラブルはあったが損害皆無!よし!」

「ゲルガー班が護衛する第2後続班も…抜けました!」

「残りは第4後続班のみです!」

 

 

荷馬車班を本隊に合流させた護衛班は、旧市街地と平原の境目で待機していた。

彼らは状況確認及び本隊への情報伝達の任務をこなしていた。

 

 

「なんで第4後続班だけ遅れているんだ!?」

「巨人が右側から出現しているせいです」

()()()()()()()()()()()()()みたいだな…」

「さて、原因は…っと!」

 

 

百聞は一見に如かず、何か原因があると判断したディルク班長は望遠鏡で確認した。

確認すると、確かに後続班の右側から巨人の襲来が相次いでいた。

必死に護衛班が食い止めているものの複数体を取り逃がしてしまった。

ミケ分隊長とその配下が何とか取り逃がした巨人を討伐しているが不利に見えた。

 

 

「これじゃキリがないな…」

「クラース!マレーネ!お前達の班も援護に向かえ!」

「「ハッ!」」

 

 

クラース班とマレーネ班を見届けたディルクは原因を分析していた。

本日発生したトラブルと経験は、今後の壁外調査に生かせるからだ。

 

 

「何故第4後続班だけ巨人に狙われているんだ…」

「第4班は右端…つまり一番南側です!巨人が多いのはそのせいでは?」

 

 

基本的に巨人は南からやってくる。

だからこそ南部のトロスト区は、人類の最前線であり最後の希望なのだ。

そのトロスト区から迂回してきた巨人が第4後続班と遭遇している。

言われてみればその通りだが、何かしっくりこない点がある。

 

 

「ディルクさん、悩んでますね…」

「ああ、巨人共の動きがいつもと違うせいでな…」

「さっきから見て気付いたんですが報告してよろしいですか?」

「頼む」

 

 

優秀な副官が何か法則性に気付いたようである。

思わず口角を釣り上げてしまったディルクは平常でいるように心掛けた。

 

 

「さっきから巨人共、後続班の先頭だけ狙っているように見えるんですよ」

「先頭…リヴァイ兵長のところか」

「あそこには…エレン・イェーガーが居るな」

 

 

今回の壁外調査はエレン・イェーガーの有意義を示す為に行なわれている。

その割には、短期間の進軍であり調査というより遠征に近いものであった。

誰もが巨人化できる能力者が最大限発揮できる作戦ではないのは気付いていた。

それでもエルヴィン団長を信じていた為、誰も反論はしなかった。

 

 

「エレンといえばトロスト区防衛戦で巨人化して巨人を20体以上葬ったと聞くぞ」

「ああ、でも能力を使いこなせずに暴走する事もあるようだ」

「ホント、未知数って怖いな…」

 

 

エレン・イェーガーの巨人化能力は人類の希望だ。

少なくともトロスト前門に空いた穴を大岩で塞いだ彼は街の英雄である。

だからこそ、この壁外任務を成功させて彼の存在意義を王政府にアピールする必要があった。

 

 

「何か言いたそうだな?」

「いえ、何も…」

「オイオイオイ!今言わないと後で後悔するぞ」

「こいつの言う通りだ、思った事を口にしてみろ」

 

 

副官の顔が一瞬歪んだのをディルクは見逃さなかった。

こういった細かい点を分析していけば、物事はある程度分析できるのだ。

 

 

「いえ、まるで巨人化できるエレン・イェーガーを巨人たちが狙っている気がして…」

「つまりなにか!エレンは巨人の人気者って言いたいのか?」

「いえいえ、個人的な感想なので…」

「そうかもしれんぞ」

「「えっ?」」

 

 

ディルク班長の思わぬ一言で冗談で流そうとしていた班員たちが思わず彼の方を見た。

彼は本気でその意見について考え込んでいた。

巨人化したエレンは20体以上の巨人を討伐した。

 

しかし暴走気味で巨人化のコントロールがうまくいっていない情報を踏まえると…。

逆に言えば、20体以上の巨人に襲われていたという事になる。

 

 

「もしかして巨人が人間を襲うのは、巨人化できる能力者を狙っているせいかもな…」

「「班長…」」

「なんてな!おそらく音で反応してるんだろう」

「そうですよね!巨人は聴覚と視覚が異常に発達している説がありますもんね」

 

 

彼らは、エレンと巨人が敵対している。

その事実だけで彼を信用した。

ディルクが立てた推測は霧散し消え去った。

 

 

「報告します!第4後続班が旧市街地を抜けました!作戦成功です!」

「トラブルがあったが、終わり良ければ全て良し!」

「まだ壁外調査は始まったばっかしですけど…」

「そこ!余計な事を言うな!」

 

 

後続班が全て旧市街地を通過した事により次の作戦が発動した。

平原で部隊を再編成して、長距離索敵陣形となり進軍していく。

第57回壁外調査は始まったばかりだ!

 

 

「しかし、良いんですか?援護班が旧市街地を抜けてませんよ?」

「しょうがないな!奴らが来るまでここで待機するぞ」

「「了解!」」

 

 

ディルク班は、後続班を護った援護班が旧市街地を抜けるまで動向を見守った。

 

 

 

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