進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
“彼女”は蠅の群れに襲われている。
それも体長が掌サイズもある積極的に殺人をしてくる蠅である。
その癖、人語を解して集団で襲い掛かってくるから質が悪い。
「ぐぎゃああっ!」
まるで伝承上に出てくるマンドレイクみたいな虫である。
地面から引き抜くと凄惨な悲鳴をあげて人を死に至らせるというマンドレイクという植物。
それを彷彿させるかのように潰す度に大声で断末魔の叫びをあげてくる。
「ほげっ!」
踏む、殴る、蹴る、握り潰す、叩きつける、両手で叩く。
何をしてもその悲鳴が頭から離れない。
せめてもの情けで一撃で殺すようにしてもなお、蠅の顔を忘れることができない。
殺人ではなく虫を退治していると割り切っても彼らの悲痛な叫びが身を引き裂きそうになる。
「ば、化け物!早く団長に…ぶほっつおおおっ!?」
でも、もうすぐこの地獄で苦しむ事は無くなる。
今まで捜索してきた探し物らしきものを見つけたからだ。
これでようやくこんな地獄から抜け出せる。
「行きますわよ!」
それなのに!それなのに!
自分の知り合い…それもよりによって自分を勇気づけてくれた虫が挑んできてしまった。
フローラ・エリクシア…来るな!こっちに来るな!!
人間の理性と巨人の本能、希望と絶望、悲しみと怒り、荒くなる呼吸と高まる鼓動。
ようやく大切な知り合いを殺す覚悟ができた“彼女”であったが動きがぎこちなかった。
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「妙ね…襲撃して来た割には感情がすごい事になっているわ…」
フローラは、女型の巨人から“声”を聴いて心境を探るとかなり違和感があった。
巨人の“声”は人間と違って呻き声をあげている。
通常種は悲しい“声”、奇行種は楽しそうな“声”という感じだ。
今回の場合は、巨人化能力者なので人間の“声”が聴こえている。
『来るな来るな!やっぱり戦いたくない!お願いだから来るな!!』
さきまでは、やけに消極的な負の感情だったが自分の顔を見た途端、拒絶反応を起こしていた。
健全なる精神は健全なる身体に宿るというが、完全に精神がボロボロであった。
女型の巨人がフードを外したアルミンを殺害しなかったのも分かる。
「ライリー!GO!」
フローラは舌鼓を3回打ちながら同時に鞍を3回叩いた。
この合図は、『自由に駆け回れ!』という指示だ。
殺人を恐れている以上、狙って来るのは愛馬のライリーだと分かっていたからだ。
緊急事態に対応できる芸を仕込める専用馬の特権をフル活用した。
「予想通りね…」
女型の巨人が真っ先にこっちに向かってきたのを確認して鞍上から飛び出してガスを噴出した。
巨人が伸ばす右手の真下を潜って加速したライリーは回避し、彼女も身体を捻じ曲げて回避した。
そして巨人の右耳の耳たぶに左のアンカーを射出してワイヤーを高速で巻き取った。
人が高速で動く小さな生物を掴む時は、必ず停止してしゃがみ込むのを利用したのだ。
「…うっ」
目の前から右上に飛び込んでくるのを見た巨人は無意識で左手で掴みにかかる。
そんな事など織り込み済みの彼女は左のアンカーを外して地面に向けて右のアンカーを射出した。
更に射出したワイヤーを巻き取ると同時に両方のボンベからガスを噴出して急降下した。
これにより、フローラより立派な女型の巨人の胸と左腕の死角に彼女は隠れることができる。
フローラを視認、左手の位置確認、目標に向かって手を伸ばすな際のタイムラグで回避できた。
「…っ!」
当然、そのままだと3秒足らずで地面に激突するので更に回避行動を取った。
まずは地面に撃った右アンカーを外す動作をした。
立体機動に肉体がついてこれてないフローラは既にブラックアウトで何も感じ取れていない。
記憶と経験と優れた空間把握能力を駆使して左足首に両方のアンカーを射出した。
「…!」
耳たぶや地面に撃って外した2つのアンカーの位置や向きなどフローラが確認する術はなかった。
それどころか、自分がどこに向いているか、目標の左足首の位置はおろか手の感覚すらなかった。
彼女はできるのは、過去の経験と訓練と事前の記憶に基づいて、双剣を構えているつもりだった。
「?」
女型の巨人は、右肩に飛び込んできたフローラを補足した。
左手で叩き落そうとしたが、視界から彼女は消えてしまった。
慌てて両手でうなじを守りながら後ろを振り向くが彼女の姿はなかった。
僅か数秒で跡形もなく蒸発した彼女に疑問に思いつつ他の3人を狙おうと立ち上がろうとした。
大きな衝撃を感じたと共に立ち上がれず、前のめりで転倒して顔面を強打した。
「ようやく跪いたわね!女型の巨人!」
フローラ・エリクシアは今回初めて、急上昇からの急降下で方向転換して攻撃を成功させた。
こういった状況を想定して、訓練兵時代に4回実施したが全て失敗して医務室送りになった。
それでも彼女は諦めなかったし相手側が立体機動を理解しているからこそ無謀な行為に挑戦した。
初めての実戦、そして地面にアンカーを撃ち出して急降下という状況下で成功させたのだ。
コンマ秒と20cmでもズレていたらどこかを強打したにも関わらずフローラは怯まなかった。
「隙あり!」
ようやく視界が回復してきたフローラは自分が左足の腱を削り取ったのを辛うじて確認できた。
まだ視界が狭窄しておりグレイアウトの症状が続いており、ほとんど勘で動いている状態である。
それでも倒れ込んだ女型の巨人のうなじを補足した彼女はスナップブレードを振り下ろした。
「…やはりダメね」
女型の巨人は状況が把握できずにパニックになっていた。
腱が斬られるなんて想定してなかった“彼女”は無様な姿で前のめりでうつ伏せに倒れてしまった。
その際にうなじを守っていた両手を無意識に地面に付けているので弱点が剥き出しであった。
辛うじて【硬質化】が間に合ってフローラの斬撃からうなじを守ってくれた。
「すごい…」
アルミンは頼れる先輩たちを惨殺した圧倒的強さであった女型の巨人。
そんな巨人が無様にも首を垂れて両手を地面について討伐されそうになっていた。
思わず索敵をやめて馬を止めたまま、その状況を眺めていた。
「うなじを守ったのは結晶?この巨人特有の能力かしら?」
結晶の様な物で刃が遮られて双剣をダメにしたフローラは速やかに回避行動を取った。
未知数の能力なので追撃よりも様子見をして情報を収集するのを優先した。
すぐに巨人が彼女を捕まえようと両手を勢いよく伸ばしてきたので先見の明であった。
「さて、どうくるのかしらね…」
左足首の傷を回復させた女型の巨人は、すぐに立ち上がって敵を殺す覚悟をしている。
フローラの実力は知っていたが、まさかここまで強いとは思っていなかった。
訓練兵時代の彼女は立体機動訓練で無茶をやって医務室送りになるイメージしかなかったから。
まさかそれがフローラの強さに生かされているとは知らない“彼女”は恐怖した。
「マジかよ…」
ジャンはフローラと女型の巨人を注視しながら距離をとってライナーと共に索敵をしていた。
自分が突っ込んでも邪魔にしかならないと思っていたが正解だった。
既に腱を斬って女型の巨人相手に時間稼ぎをしている上に運が良ければ討伐できそうなくらいだ。
3人ができるのは、新手の巨人を発見してフローラに危機を知らせるくらいしかできなかった。
「跳んだ…!?」
戦闘を傍観していた3人は女型の巨人が飛び上がったのを目撃した。
「!」
女型の巨人は本気でフローラを殺しにかからないと自分が殺されると自覚していた。
しかし、フローラは他の兵士と違ってワイヤー掴ませるほどの隙を見せてくれなかった。
それは、彼女が肉薄するように白兵戦をするのが得意だったのもあるが別の要因があった。
専用装備として身に着けていたシュツルムハーケンという立体機動装置。
それは他と比べてアンカーの射程範囲が狭かった。
逆に言えばワイヤーを巻き取る速度が速いので、必然的に小回りが利いていたのだ。
“彼女”は目で追いきれない以上、空中を跳ぶ事で移動の妨害と同時に有利に立ち回ろうとした。
「喰らいなさい!」
それすらも先読みしていたフローラは、折れた刃を女型の巨人の左目に向けて投擲した。
2本の刃の内、1つが眼球に命中し、巨人の視界を狭めるのを確認する前に空中で刃を交換した。
空中で刃を交換する事など教本には記されていないし、落下中にやる馬鹿など居ない。
ただ、リヴァイ兵士長が空中で刃を換装したのを目撃した彼女は見真似してラーニングした。
『空中刃換装』のスキルがある彼女からすれば、大きな隙を作った巨人に感謝するくらいだった。
「その首ごとぶっ飛ばしてあげるわ!」
強化刀身・1型を換装したフローラは、女型の巨人の喉袋より下の部位を大きく切り裂いた。
その双剣の刃は、女型の巨人のうなじまで迫っており、巨人化能力者の眼前で肉を切ってみせた。
嫌な予感がして反射的に“彼女”が仰け反らなかったら額を斬られる錯覚をさせるほどだった。
「さすがに無理だった…残念だわ」
女型の巨人という巨体を操作している“彼女”は恐怖で全身が震えていた。
跳んだ衝撃で振り回されたフローラを殺すつもりが逆に本体に刃が迫る結果になってしまった。
狩られる巨人の立場になった“彼女”は意識がある分、更に動きが鈍った。
「やべぇ…なんか想像したと違う結果になってる…」
ジャンは、巨人の足止めをして時間稼ぎができれば上出来だと思った。
経験皆無の新兵たちが巨人化能力者を少しでも惹き付けられるなら良いと考えていた。
現状は首を大きく斬られて頭が大きく傾いている女型の巨人が成す術なく地面に激突していた。
卓越な戦闘能力で追い詰めて高笑いするフローラを見て彼は現実感の感覚が薄れていた。
「おいおい大丈夫なのか…」
ライナーは
だが、予想以上にフローラが奮闘しており衝撃を受けていた。
さきほど見せた動きといい、まだ隠し玉を持っていそうな彼女に殺されないか心配になっていた。
「さあ、次はどこを削いであげようかしらね!」
精神的な支えになってくれたフローラとは思えない殺意剥き出しの口調。
このままでは本気で殺されると思った“彼女”は別のターゲットを捕捉して駆け出していった。
何故か馬を停止して俯瞰している調査兵が状況を打開できる鍵だと思ったからだ。
必死に左手でうなじごと首を抑えて傷が附着をするのを期待しながら全速力で駆け抜けていく!
「しまった!アルミン!逃げなさい!」
フードを被っている以上、フローラは騎乗しているのが誰かは目視で識別ができなかった。
ただ、“声”を聴く限りアルミンだったからそう発言しただけだ!
「うっ!」
アルミンは慌てて回避行動を取るが遅かった。
女型の巨人の右手の指先が馬の胴体に接触して吹っ飛ばされた。
鞍上から放り出された彼は、空高く舞って地面に激突してもなお動きが止まらなかった。
立体機動装置や鞘、ガスボンベがぶっとんでいっても転がり続けていく。
彼の顔面が血塗れになった時、ようやく停止した。
「この!!」
フローラは怒りに身を任せて双剣を構えて女型の巨人を強襲した。
一方、絶望的な状況から脱出できた“彼女”は落ち着きを取り戻しており余裕ができていた。
冷静に声がした方へ右腕を後方に思いっきり薙ぎ払った!
「くっ!」
目の前に拳が見えたフローラは両方のアンカーを外してワイヤーを回収して回転斬りを行なった!
直撃を免れた同時に攻撃を受け流す事には成功したが強化刀身・1型は音を立てて派手に折れた。
スナップブレードは巨人のうなじを削ぐためにあえてしなるように作られている。
殴打の衝撃で吸収しきれずに刃が折れるのは当然の結果だった。
「ううっ…」
ガス噴出して回転斬りを行なったおかげでさほど肉体にはダメージを受けなかった。
ただし吹っ飛ばされたフローラは適度に身体を回転させながらガス噴出をして着地に備えた。
再び空中で刃を換装した彼女が目にしたのは…。
女型の巨人に向けてアンカーを撃ちこんで突っ込んでいくジャン。
そして着地点になるはずの地面から飛び出している大岩を発見した。
「どうしてこうなるのおおお!!」
フローラは落下速度をガス噴出である程度抑えたもののそこに激突したら肉塊になると察した。
換装したばかりの双剣をやけくそに大岩に叩きつけてそこを乗り越えて更に吹っ飛んでいった。
刃は折れ、両腕に激痛が迸って身体は予想外の方へ飛んで行って地面に衝突した。
それでも命があって五体満足であるのは彼女自身の判断力と過去の経験からか。
訓練兵時代でも立体機動訓練に失敗しても、受け身だけはしっかりとこなした彼女である。
唯一の例外は、巨人化したエレンを庇った時にハンジ分隊長に投げ飛ばされた時だけだった。
「クソ!なんでこんなことを…」
一方、アルミンを攻撃されて女型の巨人に突貫してしまったジャンは後悔していた。
「アルミン!」と叫んで魅力的な筋肉質の女の身体にアンカーを撃ちこんだのは良かった。
ただし、直後の巨人の動きを見て運動精度が尋常じゃないのを見抜いてしまった。
フローラに弄ばれる様に追い詰められていた女型の巨人。
異常だったのは巨人ではなくフローラであって、彼では殺された調査兵の実力でしかなかった。
「うっ!」
人が考えて巨体を操っている。
それはアルミンから話を聴いて理解していたはずである。
フローラによって一方的にボコられていたので失念していただけで本来はかなりの脅威だった。
「あぶなっ!」
目の前から左腕による薙ぎ払い攻撃を視認したジャン。
一度アンカーを外して、左脚に撃ちこんで左腕の薙ぎ払い攻撃を辛うじて回避した。
ガス噴出と身体を捻る事でなんとか巨人の後方に回り込んだ。
「ジャン!」
一連の騒動を見ていたライナーは急いで馬を駆けて女型の巨人へと向かっていった。
「くそくそ!」
ジャンは、できるだけ女型の巨人から離れようとしたのが運の尽きだった。
女型の巨人がうなじを左手で抑えて守っているのを見下ろすことしかできなかった。
さっきは運よく攻撃を躱せたものの今度は伸びきったワイヤーを掴まれる危険性があった。
どっかの『頭エレン娘』のように無謀にも巨体に突っ込む事ができない彼は死を覚悟した。
「ひっ!」
女型の巨人の右腕が動いた瞬間、ジャンの時は止まりそうになった…。
「ジャン!仇を取ってくれ!」
痛みも絶望も押しのけてアルミンはただ大声で叫んだ!
「右翼側で本当に死んでしまった『死に急ぎ野郎』の仇だ!そいつに殺されたんだ!」
アルミンは何度も殺す機会がったのに自分を殺さなかった女型の巨人。
それを踏まえてある賭けを行なった。
「いっ!?」
一方でアルミンの意図を察せなかったジャンは焦った。
彼は頭を打って錯乱したとしか思えなかった。
ただ、何故か殺意剥き出しで右腕を伸ばしてきた女型の巨人の動きが止まった。
とにかくこれが好機だと思い、近くにあった木にアンカーを射出して生還できた。
「僕の親友をそいつが踏み潰したんだ!絶対に逃がさないでくれ!」
「早く『死に急ぎ野郎』の仇をとってくれ!!」
アルミンに惹かれた女型の巨人の隙を見てライナーが飛び掛かったのをジャンが目撃した。
何故か策士アルミンの策であるフードで顔を隠すのを放棄していた。
もっとも『エレンが死んだ』とアルミンを断言したのを聞いて邪魔なフードを脱いだのだろう。
そう思ったジャンは死角から飛び込んでいった彼の動きを見守る事しかできなかった。
「早くきてええええ!フローラあああああ!!」
アルミンは女型の巨人のうなじを狙うライナーを目撃した。
だからこそ女型の巨人の注意を惹くべく逃げる事もせずに大声で叫んだ。
しかし、その努力も空しく終わった。
ライナーと女型の巨人が顔を見合わせてしまった。
「あっ…」
「おい…」
ジャンとアルミンは、ライナーが死んだと思った。
一瞬のうちにあの彼の巨体を片手で掴んで締め付けてしまった。
すぐに肉塊になって血の噴水になってしまうだろう。
「くっ…うっ…!ぐっ!」
分かってはいた。
分かっていたが実際に握り締められると相当きつい。
ライナーは本気で死を覚悟するほど女型の巨人は冷たい目線で見つめながら握りしめている。
相当苛ついているのか、彼を苦しめる様にゆっくりと締め付けており呻き声が聞こえてくる。
人体の圧迫に逃れようと無意識に抵抗する彼の涎と汗が巨人の指を濡らしていた。
「ライナーああああああっ!!」
すぐに痛みから復帰したフローラは全速力で女型の巨人に向かっていった。
既にライナーは手遅れに見えたがそれでも最後まで諦めずに双剣を構えて突撃していく!
「フローラ!お前なら絶対にできる!」
「ライナーも絶対に故郷に帰れるわよ!お互い頑張りましょうね!」
「ああ!これからも頼むぞ!」
「こちらこそよろしく!」
互いに目標達成を願った仲である。
同志のエレンとはまた違った親友だ。
だからこそ気力を振り絞って息を切らして吐き気を必死に我慢しながら全力で向かっていった。
「お、おいライナー…お前!」
「えっ…」
「あっ!あああああああ!!せめてええええ!討ち取ってやるううう!!」
女型の巨人がライナーを握っている拳に力を込めた瞬間、血が噴き出した。
絶望する2人と噴出した血を見て復讐心で戦闘狂になってしまったフローラ。
哀れなライナーは握り潰されて圧死してしまったと全員が思った。
その瞬間!
「えっ!?」
血塗れになったライナーが巨人の指を全部切断しながら飛び出してきた。
さきほどの血は彼のものではなく女型の巨人のものであった。
回転斬りでなんとか脱出した彼は必死にアンカーを刺して華麗に着地した。
高熱の体液で顔や胴体を痛めながらも必死に逃げ切って見せた。
「もう充分だろう!お前ら急いで逃げるぞ!」
本気で死にかけたライナーは、動けなくなったアルミンを抱えて必死に逃げ出した。
ジャンは元から戦う気はなかったし、フローラもこれ以上の戦闘は危険だと察している。
「人喰いじゃなければ、俺たちを追いかけたりしないはずだ!」
「でもあいつを攻撃した班長達は殺されたんだよ!?」
「逆に言えばこっちから仕掛けなければ、攻撃してこないって事だ!」
「ジャン急いで!わたくしがしんがりをするわ!」
ライナーに続いて2人も女型の巨人から逃げ出した。
といっても、追撃して来たら返り討ちにする気満々のフローラは彼女を注視していた。
「やっぱ、すげぇよライナー…」
「どうしたジャン…」
フローラを筆頭にミカサも凄い奴だったがライナーも充分頼れる男だと再認識した。
成績上位10位のうち、筆頭のミカサが化け物染みた強さの女である。
それに食いつく2位のライナー・ブラウンが凄くないわけがなかった。
フローラは…医務室送りの印象が強くてどうしても凄いというより不死身だと感じた。
とにかく命の恩人である彼にジャンは内心で感謝していた。
「えっ…」
「見ろ!筋肉質のデカ女め!狗みたいに威嚇しているフローラにビビってお帰りになる様子だ!」
「よしフローラ!大声で吠えろ!あのでかい女を更にビビらせてやれ!」
「あなたたち!わたくしを番犬か何かと勘違いしてない!?こんなにか弱い乙女を…」
「深窓の令嬢のように振舞ってもオレたちの目は誤魔化せんぞ!」
フローラからすれば心外でもライナーもジャン視点で見れば、番犬である。
さきほどまであれほど脅威だった女型の巨人が別方向に向かっていくその姿はー。
屈強な長身の女戦士が番犬を恐れて必死に逃げ惑うその姿に見えた。
「ぶっ倒してさしあげますわ!」
「もっと強く叫べ!」
「次!来たら!ぶっ殺す!!」
「よーし、よくやった…これで来ないよな?」
とにかく叫ぶことを要求されたフローラは必死に女型の巨人に向かって罵倒した!
何度もジャンからダメ出しされながら殺意を剥き出しにして叫んだ。
それはもう、たまたま通行人を発見して姿が見えなくなっても吠え続ける番犬みたいに…。
女型の巨人の後ろ姿が見えなくなった時、ようやくライナーとジャンはその場に座り込んだ。
「なんで…」
アルミンだけは女型の巨人が向かっていった方向に危機感があった。
“彼女”は陣形の中央部、つまりエレンが居ると推測される場所に向かっていったからだ。
殺人どころか、誰かを捜索している素振りすら見せていた“彼女”。
もし、探し求めているのがエレンであるならば、早く本人に伝えなければならない。
「フローラ!お座り!お手!」
「ジャン…やりやがった…骨だけは拾ってやるぞ…」
「おいズルいぞ!ライナー!お前がフローラを番犬って評したから乗っただけなのに!」
「やって良い事と、悪い事の見分けくらいつけておけよ…」
「ジャン、後で覚えておきなさい…!」
軽口を叩き合っている3人も自分も馬が居ない。
エレンにどうやって連絡すればいいのか。
それでもアルミンは思考を停止しなかった。
「みんな!ちょっと良い!?」
彼は女型の巨人の目的と、向かっていった方向をライナーたちに説明した。