進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
ジャン・キルシュタインは必死に指笛を何度も吹いていた。
女型の巨人の戦闘後に戻ってきた馬は一頭だけであった。
必死に指笛で呼び戻そうとしているが帰ってくる気配がない。
馬が居ないと壁外では自殺行為といわれるほど、詰みの状況下である。
「おいいいい!こいつをなんとかしてくれ!」
「ライリー!落ち着いて!どうどう!」
フローラの愛馬のライリーが何か恨みがあるようにライナーを追いかけていた。
別に名前が似ているせいで混乱して追いかけているのではない。
この人見知りの赤い体毛の馬は、フローラですら乗せてやっているんだという気質があった。
その為、良く分からん大男のライナーが自分の許可なく乗馬しようとしたので激怒したのだ。
「悪かったって!うおおっ!?」
自称ご主人気取りのフローラが乗馬して宥めようとするが知るか馬鹿!
こいつ、さっきの女型の巨人と同じ気配がするから蹴っ飛ばしてやる!
と言わんばかりに執拗に追いかけるライリーはライナーを全力で蹴ろうとしていた。
「あの馬鹿共…こっちは必死に指笛で呼び戻している時に何をやってんだ…」
ジャンは段々馬鹿らしくなってさきほどの出来事を回想し始めた。
女型の巨人が居なくなった直後、フローラが何故か立体機動装置を外し始めたのは覚えている。
「お前何やってんだ!?」
「淑女の着替えを見ないでよ!エッチ!」
「馬鹿!壁外で立体機動装置を外すな!」
「だから立体機動装置を変えているんでしょうが!」
何故か予備の立体機動装置や鞘を付け始めたフローラ。
それは赤い色で統一されており、自分たちの鞘や装置と形状が違っていた。
なんで変えたのか分からないが、身軽になって動きやすくなった印象である。
「なんだこいつ!」
「ライナー!なんで勝手にライリーに乗ろうとしたの!?」
今度はライナーがフローラの愛馬に何かをやらかしたらしく追いかけ回されていた!
彼女は慌ててさきほどの立体機動装置と鞘を抱えながら愛馬へと駆け出していった。
「ぎゃああああ!」
「ライリー!ライリー!待ちなさい!!」
「…全く、あいつらには危機感がないな」
それを見てアホらしくなってさっきまで指笛を吹いて馬を呼び戻そうとした!
…したが、帰ってくる気配が無くて諦めて振り返ったらまだ追いかけっこが続いていた。
激怒したライリーが口を突き出し歯を剥き出しにしながらライナーを追いかけている。
気を紛らわせる為、文章にしてみると名前が似ていてややこしくなってきた。
「畜生!これじゃどうすることもできねぇぞ」
唾液で濡れた両手を振ったジャンは、好き勝手にやっているフローラの馬を恨めしく思った。
アルミンの馬は死んで、ライナーと自分の馬が行方不明になっていた。
唯一帰ってきたのがよりによってあの馬であり、事実上3人は徒歩で移動しなくてはならない。
「ねえみんな!信煙弾を撃って味方に知らせよう!まず馬が必要だ!」
「アルミン!近くにクリスタが居るわ!きっと彼女なら予備の馬を持っているはずよ!」
「それはいいから、今はこいつを何とかしてくれ!!」
貴重な信煙弾を撃ち込む事にしたアルミンの提案に全員が賛成した。
フローラの言葉を受けてジャンは緊急事態を知らせる黄色の信煙弾を上空に撃ちこんだ!
一方、ライナーは未だに馬に追われており、悲鳴をあげていた。
「これで来るといいけど…」
「それよりアルミン、立体機動装置は大丈夫なのか?」
「留め具が正しく外れてくれたおかげで壊れていないよ」
「五体満足で生還できたといい不幸中の幸いだな」
「ありがとうジャン…君は本当に優しいんだね」
その時、彼の脳裏に浮かんだのはマルコの笑顔だった。
それは過去の記憶から作り出された幻影のはずだったが何故か現状に喜んでいるように感じた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
これであいつも安心して安らかに眠ってくれるだろう。
アルミンの質問を受け流したジャンはマルコの冥福を祈った。
「ほーら、ライリー!好物の野菜よー?大人しくしないとあげないわよ!」
フローラは隠し持っていたボロボロになった野菜を持って彼女の気を惹いていた。
何度も好物争奪戦でフローラに負けていたライリーはしぶしぶ歩みを止めた。
フローラは、大人しくなった相棒の口内に野菜を突っ込んで優しく頭を撫でてあげた。
「ふう…酷い目に遭った」
「図体がでかくて体臭が臭い野郎に乗られたら誰だって怒るさ」
「さすが馬面野郎、馬の気持ちを理解しているな!」
「お前…オレのコンプレックスの1つを…」
ライナーとジャンが喧嘩しそうなのを無視してアルミンは望遠鏡で辺りを確認していた。
ちょうどフローラが指を指した地平線からクリスタがこっちに向かって来るのが見えた。
「クリスタが来た!フローラの言った通りだ!」
「アルミン!馬は!?馬は居るのか!?」
「馬を3頭も引き連れてるよ!」
「よっしゃああ!これで全員が本隊に合流できるぞ!」
クリスタが馬が3頭引き連れてきている。
つまり予備の馬と2人の馬を連れて向かってきたと分かった瞬間、フローラは決断した。
喜んで浮かれている3人に両手を強く合わせて音を立てて自分に注目させた。
「わたくしは、リヴァイ班と合流してエレンに危険を知らせるわ!」
「ダメだよ!無謀過ぎるよ!」
「まだ早い!とにかくクリスタが来るまで待った方が良いぞ!」
「落ち着けフローラ!仲間が死にに行くのを黙って見送れというのか!?」
心配して声を荒らげるアルミンや冷静な判断で団体行動を促しているジャン、そしてなにより…。
目の前で手を広げて立ち塞がったライナーの視線は、絶対に無駄死にさせない覚悟が見て取れた。
「もう時間がないわ!」
それでも女型の巨人を無視する事はできなかった。
団長から第57回壁外調査の真の目的を知らされているはずの兵士長に伝達しなければならない。
それが同じく作戦の真意を知る調査兵の役目なのだからー。
「フローラ待って!」
「止めても無駄よ!」
「せめてこれを持って行って!」
「これは…望遠鏡?」
フローラが望遠鏡を手に取って確認すると『アルレルト』と筒部に苗字が彫られていた。
ハンドヘルドの折りたたみ式という…つまり片手で運べる小型の望遠鏡であった。
さきほどアルミンがクリスタを発見したのに役立った物。
それをどうして自分に渡すのか困惑した。
「君にこれをずっと預かって欲しいんだ」
「なんで?」
「これは最後に残った祖父の遺産なんだ…フローラに渡しておけば絶対に紛失しないと思ってね」
まるで、自分が生き残れないみたいに言うアルミンにフローラは不機嫌になっていく。
託されても扱いに困るし、さっきの野菜みたいに立体機動で粉々になりかねないからだ。
「そんな大事な物なんて受け取れないわよ…あなたに返すわ」
「せめてそれを使って女型の巨人を遠く離れた場所で確認して欲しいんだ」
「分かったわ…大事に扱うから安心して」
アルミンが自分を心配してくれている以上、受け取らない方が無礼だった。
丁重に受け取った彼女は、ライリーに備え付けられたポーチにしまって出発をした。
「行きやがった…」
「本当に良いのか?お前の爺さんの遺産だろう?」
「うん、きっと彼女なら最大限に役立ててくれるさ!」
アルミンたちはフローラを見送った。
正直、さきほどの戦闘では援護どころか邪魔になってしまった。
4人で知らせに行くより彼女単独の方が女型の巨人と遭遇しても生き残れると判断した。
フローラの後ろ姿が豆粒より小さく見えた時、代わりに女神がやってきた。
「みんな!無事!?」
「「「クリスタ!」」」
【104期生の女神】ことクリスタが馬を3頭も連れてやってきた。
よく見れば、彼女が連れてきたのはライナーとジャンの馬であった。
おそらく女神パワーの効力に抗え切れずに同行したと思ってしまうほどの奇跡の状況。
彼女の心配そうに見つめる顔の背後からは後光が差しこんでおり女神パワー200%はありそうだ。
思わずライナーとジャンは手を合わせて彼女に拝み始めた。
「もう!そんなに感謝しないでよ!」
「いや助かったぜ!一時はどうなるかとー」
「ああ!命の恩人には感謝できる時にやっておくべきだ」
ライナーとジャンは馬に跨って出発の準備をしていた。
クリスタが連れてきた予備の馬はアルミンが乗ることになった。
「アルミン、怪我は大丈夫?」
「うん、なんとか…見かけよりは酷くないよ」
「そう、良かった…」
アルミンが乗馬したのを確認した3人は本隊に合流するべく馬を走らせた。
まるでさきほどまで待機していた時間を取り戻すように大慌てで馬を駆けらせた。
「よくあの煙弾で来る気になったな…」
「ちょうど近くに居たし、2人のネームプレートが付いている馬を発見して無視できなかったの」
「お前には俺と違って馬に好かれるし不思議な人徳があるようだな、命拾いした」
さきほどまでライリーという馬に追い回されていたライナーはクリスタを尊敬していた。
以前からそう思っていたが是非、彼女とお近づきになってもっと仲良くなりたかった。
下心もあるが、それ以上にクリスタは彼にとって女神であり天使であるからだ。
「最悪の事にならなくて本当によかった…」
クリスタの一言によって心を掴まれた男3人衆。
アルミンは彼女を『神様』と感じた。
ジャンは彼女を『女神』と崇めた。
ライナー・ブラウンは『結婚したい』と仲良くなる段階を飛ばして告白したくて緊張していた。
「急いで陣形に戻らないと…」
クリスタはそんな3人衆の気持ちなど露知らず必死に陣形に戻る事を考えていた。
そんな健気で純粋な女の子に3人の視線は彼女の後ろ姿に向けられている。
久しぶりに逢えた純粋な女の子に野郎共の心は鷲掴みされてダメ男と化していた。
フローラ?あれは女じゃなくて【性別フローラ】と3人は割り切っていた。
「緑色の信煙弾!?進軍を続行するっていうのか!?」
「バカな!撤退命令だろう!?」
左翼側の班から次々と緑色の信煙弾が上がった。
指令班を指揮するエルヴィン団長からの進軍の方向転換の指示に基づいて行われた。
右翼の索敵班が壊滅したにも関わらず、陣形の進路だけを変えて進軍を続行するようである。
「作戦続行不可能と判断する選択権は全兵士にあるはずだ」
「ああ、だから作戦不可能を伝える黄色の信煙弾があるんだよな…」
「もしかして指令班に煙弾が届いていないのか!?」
ジャンとの会話でライナーは最悪の事態を思い浮かべた。
それは女型の巨人を過小評価、もしくはただの奇行種と判断して団長は作戦を続行した可能性。
もし、そうだった場合は、早急に真実を伝達しなければならない。
壁外において、長距離索敵陣形から逸れたら死が待っているだけである。
しかし、このままでは指令班が全滅して陣形が完全崩壊、巨人に各個撃破される最悪の未来。
そんな事になったら故郷に帰るどころか、巨人で死ぬか、今死ぬかの選択肢しかなくなる。
「どうすればいい!?」
「どうするって僕たちがやる事は決まっているよ」
「頼もしいなアルミン、じゃあ俺たちは何をすればいいんだ?」
「判断に従うんだよ」
ライナーの質問に対してアルミンは、他の班と同じ方向に向けて緑色の信煙弾を撃って返答した。
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“彼女”は笑った。
やはり、さきほどの光景は悪夢だった。
目覚めれば、きっといつもの天井が視界に広がっておりベッドの上に寝ているのだろう。
時折、地面が高速に落下したり肉親が殺されるなどの悪夢を見ると同じだ。
夢から覚めれば、いつもの日常に戻るだろう。
「こっちを向け!バケモンが!!」
でも夢から覚める前に少しでも愉しんでも良いじゃないか。
自分の眼前に信煙弾のような煙を撃ちこんでくる虫。
掌サイズで飛び回る蠅。
馬の様な形状をしたフナムシ。
嗜虐心を刺激された女型の巨人は笑った。
「今だ!」
「余計な損害を出しやがって!」
「覚悟しろ!」
衝撃から両足首と背中にアンカーが刺さっているのだろう。
少し動きづらいのを実感した。
だからどうした。
フローラと愉快な同期達に比べればただの虫じゃないか。
「な!?」
信煙弾で巨人の視界を遮ってみせたダリウス・べーア=ヴァルブルンは驚いた。
女型の巨人が3人のアンカーを突き刺さったまま空中を飛んだからだ。
三位一体の攻撃を仕掛けたダリウス班も思考が付いてこれず動きに振り回された。
足首を狙った2人は慌ててアンカーを外した。
「ぶふっ!」
「えっ…つっ!!」
“彼女”は、左足首に纏わり付いていた虫を左脚で踏み潰した!
更に右足首を狙っていた蠅は、小さな民家のオブジェごと蹴り潰した。
いくら虫とはいえども生命、苦しめずに一撃で殺してあげるのが礼儀というもの。
「なっ!?は、離せ!」
最後に背中にひっつこうとした虫を捕まえた。
厳密に言うと、虫が吐き出した糸を掴んで動きを止めた。
蜘蛛の糸が大きくて頑丈なら、こんな感じに糸をぶら下げたままの蜘蛛を掴めるのだろう。
せっかくの夢だし、悪夢なりに愉しんでもいいかもしれない。
そう思った女型の巨人は再び微笑んだ。
「…やばい」
うなじを守るように左手で抑えている奇行種。
厄介な相手だと思ったが3人に勝てるわけがないだろうと思っていた。
その結果がこれだ。
今さっき、ワイヤーを掴まれた兵士が死んだ。
「やばいやばい!」
奇行種は右手でワイヤーを何度も高速で振り回していた。
体重の20倍以上のGが掛かった人体は耐え切れずに血が噴き出していた。
出血が左手を中心として綺麗な赤い色の円を描いていた。
その様子を唖然として見ていたダリウスだったがすぐに正気を取り戻して馬を走らせた。
「くそ!報告しないと!こいつは…」
“彼女”がうるさい虫を放置するわけもなくフナムシに乗っかっている蠅を蹴り飛ばした。
馬ごと空中に蹴り飛ばされたダリウスは下半身がさよならバイバイしながら60mまで上がった。
「奇行種だ!」
「こんなところに出てきやがって!」
「よし討ち取るぞ!!」
ダリウスが上空に吹っ飛ばされたのを目撃した別の班が女型の巨人を発見した。
何も情報を知らされていない彼らは、ただの奇行種としか思っていなかった。
エレンと同じ巨人化能力者と知らない彼らはダリウス班の二の舞になるだろう。
「突撃!」
「「「了解!」」」
新手の虫が湧いてきた。
潰す度に人間の様な悲鳴をあげてくる虫にうんざりしながらも楽しくもあった。
これを乗り越えれば悪夢は終わる。
ならば、それを妨害する虫なら潰してやる!
“彼女”は無駄に交戦的な掌サイズの体長がある蠅に向かって全力疾走した。
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「妙だ…」
「どうした?」
「俺たちって南部にあるシガンシナ区方面に行くんだよな?」
「そうだが?」
左翼の端を担当している初列十三・索敵班の班員たちは違和感に気付いた。
「進路が東のままだぞ」
「そうだな」
「班長、このままだと陣形があそこにぶつかります!」
「団長を信じろ!我々は指示に従っていればいい」
班員たちは疑問に思いつつも班長に指示に従った。
自分たちは兵士であり上の命令だけに従って行動すればいい。
そうやって教育されて訓練されてきた以上、どうする事もできなかった。
「まだ距離があるな」
「はい、あそこは大きいですからね、豆粒より小さいならまだ距離があります」
ウォール・マリアの住民なら、そこそこ有名な観光スポットだった場所が少しずつ見えてきた。
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「緑色の信煙弾です!」
「オルオ、お前が撃て」
「了解です!」
次々と煙弾が打ちあがるのを見てエレンは順調に進軍していると思った。
長距離索敵陣形でもっとも安全な場所という事もあって他人事のように感じられた。
何事もなく進軍しているように見えて、索敵班に死者が出ているのではないか。
そんな事が頭に思い浮かべてしまって、任務に集中できなかった。
「リヴァイ兵士長!緊急事態です!!」
右翼側からフローラが全力で馬を駆けてやってきた。
ただ、彼女が伝達する範囲ではないし、そもそも索敵班に所属している。
任務を放棄して伝達班に回すべき情報を伝えずに直接伝達に来たという事は…。
リヴァイは最悪の事態を覚悟した。
「報告します!右翼の索敵班が壊滅的な打撃を受けました!」
「既に索敵が機能していない上に右翼側から巨人が多数侵入してきています!」
彼からすれば損害など想定内だった。
毎回、壁外調査で3割くらいの損害を出すし、5年以上前は更に酷かった。
だからこそ、その程度の情報では驚くどころか思ったより損害が少ない印象に聞こえた。
問題はその後である。
「知性のある巨人がエレンを狙っています!速やかに避難してください!」
「はあっ!?何言ってんだフローラ!?俺が…狙われている…のか!?」
エレンは混乱した。
知性のある巨人?自分は狙われている?そもそもなんでフローラが伝達しているのか。
次々に疑問が思い浮かんで混乱してしまった。
「チッ!俺達はこのまま移動を続ける…お前もエレンの護衛に加われ!」
「了解しました!」
リヴァイは、フローラの話から巨人化能力者が襲撃してきたと読み取った。
むしろ、わざわざ『知性がある巨人』と誤魔化した時点で彼女も察しているだろう。
だったら、巨人捕獲作戦に協力してもらった方が利点があると判断した。
不安を誤魔化しているエレンが精神的な癒しを求めているのも分かっていた。
顔馴染みが居れば、少しは落ち着くという意味でも彼女は必要だった。
「フローラ、みんなは無事なのか!?一体何が起こっているんだ!?」
「とにかく歩みを止めないで!エレンは巨人に狙われているの!」
「狙われてる!?なんで?」
第57回壁外調査の本当の目的が巨人化能力者を炙り出して捕獲する事である。
そんな事を知らないエレンは、さきまで順調に進軍していたのに事態が急変して混乱していた。
「オイ余計な事を考えなくていい、新兵らしく黙って移動に集中しろ」
「…兵長」
「なんだ?」
「前方に大きな森が見えます!」
「そうだな」
フローラを加えたリヴァイ班は、エレンの指摘を受けてもそのまま進軍した。
緑色の信煙弾で進軍する方向が指定されている為、その通りに進軍するしかなかった。
そして眼前に見えてきたのは大きな森、巨大樹の森と呼ばれている場所であった。
文字通り巨大な樹が多く集まって森になっている地域である。
「おいフローラ!」
「はいなんでしょうか!?」
「その知性のある巨人は、エレンの居場所を知っているのか?」
「右翼を壊滅させた巨人は、次の目標を陣形の中央後方に定めたようです…それ以上は…」
「そうか…お前ら…俺についてこい!」
つまりエレンの居場所が漏洩したとは限らないがこちらに来るのは間違いないようだ。
尚更、巨大樹の森に向かわなければならない。
リヴァイは部下達に指示をしてそのまま進軍する事にした!
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「団長、このままだと陣形が巨大樹の森とぶつかります!迂回行動を取るべきでは?」
「いやそのまま進む」
「は?」
エルヴィン団長の提案に副官が戸惑った。
あの森林では長距離索敵陣形が機能せず、巨人を事前に発見して回避行動ができないからだ。
ただ、団長が命令した以上、副官としてできるのは、部下達に指示を伝える事だけだ。
「団長!先遣班が戻ってきました」
「そうか…こっちに呼んでくれ」
「了解しました」
エルヴィン・スミスは、既に右翼が壊滅していたのも理解していた。
それどころか右翼後方も巨人と戦闘になっており多大な損害を被っているのを理解している。
故に巨大樹の森へと進軍させた。
巨人を捕獲する秘密兵器を隠すには絶好の場所だからだ。
彼は伝令が近づいてくるのを待った。
「団長!報告します!予想通り巨人の往来があったようで路地に草木は生えてませんでした」
「荷馬車は通れそうか?」
「はい、いくつかの路地が充分通れるほどです」
「ご苦労だった、諸君らには後方の班に伝達してもらいたい事がある」
エルヴィンは仕上げにかかった。
自分が作戦を偽ったせいで大勢の調査兵を死なせた。
兵団内のスパイを暴き出すためとはいえ、ただでさえ少ない戦力を損失してしまった。
だからこそ、もう後戻りはできない。
「これより荷馬車護衛班のみ森に侵入しろと伝達してくれ」
「他の部隊はどうすればいいのですか!?」
「臨機応変に対応せよ、左翼だったら森を左に迂回し右翼だったら森を右に迂回する」
「そして森を包囲するように展開したら馬から降りて抜剣し、巨人の侵入を食い止めろと…」
通常種や奇行種などには用が無かった。
必要なのは巨人化能力者を捕縛することだけだ。
その為に捧げられた心臓を巨人の餌にした彼は迷う事が無かった。
「どうした?早く伝達してくれ」
「荷馬車護衛班以外は、『樹の上で抜剣して待機せよ』と命じればいいのでしょうか?」
「ああ、森に侵入しようとした奇行種のみ討伐、残りは全部無視し待機せよ」
「了解しました!お前ら行くぞ!!」
「「「ハッ!」」」
先遣班が伝達班に命令を伝えて、彼らが索敵班などに情報展開していくだろう。
犠牲になった右翼の索敵班を想うなら、結果で示すべきだ。
これまで調査兵団は屍で道を築いてきた。
今後も屍を山の様に築いていくだろう。
「だが今回は曖昧な事ではない」
「団長?」
「いや何でもない…気にしないでくれ」
巨大樹の森に侵入してくるのは、奇行種だけではなく巨人化能力者もいる。
自分は更に犠牲者を増やす命令を下した。
だが後悔はしていない。
巨人の謎を握る巨人化能力者を捕獲すれば、これまでの犠牲に釣り合う対価が得られる。
調査兵団の団長であるエルヴィン・スミスは、副官に気付かれない様に自分を嗤ってみせた。