進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「班長、巨大樹の森に向かっていますが我々はどうすればいいですか?」
サシャ・ブラウスは不安になって班長に尋ねた。
何故か長距離索敵陣形が崩れており想定外の事態に質問せずにはいられなかった。
「…森を回り込むぞ!俺についてこい!」
「「「はい!」」」
彼女は班長の後ろについていくことしかできなかった。
上官の命令は絶対であるし、取り乱して逃走してもウォール・ローゼには生還できないからだ。
ただ生き残りたい一心で大きな班長の背中だけを見て馬を走らせた。
「おいミカサ、中列だけ森に入っていったんだが陣形ってどうなってるんだ?」
「陣形は無い、左右の陣形は森に阻まれて迂回した」
「つまり索敵能力は無いって事か!」
コニー・スプリンガーは、ネス班長に教育された長距離索敵陣形の事を思い出していた。
できるだけ巨人の戦闘を避ける為に索敵に特化した陣形。
ミカサの言う通り、それが機能しなくなるといつ巨人と戦闘になってもおかしくはない。
「なんでエルヴィン団長は進路を変えて森を避けなかったんだ?」
「分からない、右翼の脅威に避けようと森にぶつかったかも」
「マジかよ…このままじゃやられちまうぞ」
「死なない、私は約束した」
コニーはミカサとの会話で1つ思った事がある。
「なあ、ミカサ?」
「何?」
「お前、いつも片言で話すのにフローラと会話する時だけは流暢に話すよな?」
「そうかもしれない、いつもの思い出話で慣れてるかもしれない」
たどたどしく片言で話すミカサであったがフローラの時だけ千言万語を尽くして会話していた。
同じシガンシナ区出身でありながら記憶喪失でほとんど覚えてないフローラ。
そんな彼女にミカサは、子供時代の幼馴染の話やハンネスさん、自分の過去を教えていた。
ただし頭に浮かんだ事を伝えるのが苦手であった。
「ごめん、うまく説明できない」
「良いのよ…忘れない様にこうやって調査手帳に記すだけだから」
「なんか恥ずかしい」
「乙女の手帳を覗く奴なんて居ないからそこまで気にしなくて良いわ」
フローラは一言半句で告げられた思い出話を何とか分かるように書き記した。
ミカサが発言したのは以下の通りである。
父と母を3人組に殺されエレンに助けられた、敵を1人殺した、エレンがマフラーを巻いてくれた。
一度死んだけどエレンの家で生き返ることができた、その家族も5年前にエレン以外失った。
「つまらない話だった…ごめん」
「そんな事ないわよ、エレンとの繋がりが貴女の強さなのよ?」
「彼とのきっかけがつまらない話なワケないでしょう」
「そうね」
・ある日、暴漢3人組にミカサが拉致されようとして彼女の両親は必死に抵抗したが無念にも殺されてしまった
・そして女の尊厳を踏み躙られる寸前にエレンによって助けられるが残りの1人に殺されかけた
・絶体絶命のピンチだったが、彼の雄姿に勇気づけられた彼女は勢いで殺人をして恩人を救った
・殺人と両親を失ったショックで落ち込んでいた彼女だったが、エレンにマフラーを巻かれて温かく感じたようだ
・身寄りがない彼女は、エレンの家族に迎えられていたが、5年前にエレン以外を失ってしまった
・唯一の家族を絶対に失いたくないミカサは強くなると決意して104期訓練生で首席にほど鍛えた
「とりあえず小出しにされた情報をまとめてみたけど、時系列はこれで大丈夫かしら?」
「こんな感じであってる…口下手でごめん」
「別に良いのよ、ほとんど記憶が無い分、実体験したかのように新鮮な気持ちで愉しめたわ」
「次は、もっとうまく話をする」
フローラに調査日誌を見せられて内容があっていると報告したミカサ。
片言のせいで理解しにくい思い出話をしたのを反省して次回はもっとうまく話せるように誓った!
そして思い出話をし続けたミカサは流暢に話しかけられるようになった。
エレンと顔を見合わせて会話するより話せるようになったが流暢に話せる相手はフローラ限定となってしまった。
「お前にとって、フローラは家族のエレンとは別の意味で大切なんだな」
「うん、とっても大事」
珍しくミカサが微笑んでいるのを見てコニーは絶望的状況なのに他人事に感じた。
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「兵長!リヴァイ兵長!」
「…なんだ」
「ここ森の中ですよ!中列だけ森に侵入したら巨人の接近に気付けません!」
「どうやって巨人の接近を発見したり、中列の馬車を守ればいいんですか!?」
巨大樹の森に突入したリヴァイ班であったが、左右の班とは孤立していた。
索敵が機能していない以上、どこから巨人が来てもおかしくはなかった。
なにより作戦の意図が全く分からないまま前進している状況にエレンは不安になった。
「全員が分かっている事をピーピー喚くな…もうそんな事できるわけないだろう」
「えっ…?なんで!?」
「周りを良く見ろ、立体機動装置を操作するには絶好な環境だろう」
「思考を停止させるな、そのちっぽけな頭で必死に考えろ、死にたくないならな…!」
ここでエレンは気付いた。
リヴァイ兵長の言葉で、自分で考えて行動する事も大事だと!
何でも人に尋ねるのは、子供でもできる。
一人前の兵士になった以上、尋ねる前に作戦の意図を見抜いて行動するのは当然であると!
「分かりました…」
「ならいい」
もちろん、新兵である自分がそんな事に気付けるわけがない。
でもここには、精鋭中の精鋭であるリヴァイ班の方々が居る。
彼らの行動を観察すれば、きっと答えに辿り着けるはずだ!
老け顔のおかげで風格があって何かと心配してくれるオルオさんにエレンは視線を移動させた。
「ふざけるなよ…なんだこれ…聞いてない…」
しかし、予想は外れて彼も想定外の出来事で困惑している様子だった。
慌ててエレンは他のメンバーに視線を映した!
「兵長…信じてますが…これでは守り切れません…」
「平原ではもっとそうだろうな…」
ペトラは索敵班から逸れた事に不安を隠せずに小声で不安を漏らしていた。
グンタはフォローを入れたものの自分も不安でしょうがなかった。
リヴァイ班の班員でサブリーダーポジションのエルドは黙っていたが彼も青ざめた様子である。
「そんな…」
リヴァイ班の誰もが理解していなかった。
下手すればリヴァイ兵長すら何も知らされていないかもしれない。
そこで新たに加入したフローラの存在に気付いた。
いつも何かと頼りになる彼女なら何か知っているかもしれない!
そう思ってエレンはこっそり馬を手綱で操作して後方が見えるようにした。
「!?」
フローラは何故か時折停止して、後方を望遠鏡で覗いて何かを探すようにしていた。
明らかに何かが来ると確信している様子から導き出せるのはー。
「フローラ…何か知ってるのか!?」
「エレン、団長を信じて前進しましょう」
「教えてくれ!一体なんでこうなったんだ!?」
不可思議な行動をするフローラ、それはリヴァイ班も気になっていた。
だからこそ、エレンの問いを妨害したり却下させたりしなかった。
「さっきも言ったでしょ?知性のある巨人がエレンを狙っているって…」
「だから説明してくれ…お願いだから…!」
「フローラ、何か気付いたか?」
「兵士長、巨人が一体だけ森に侵入したようです…後方の班が交戦しているようですが全く歯が立たないようです」
「…そうか、耳が良いな」
余計な事を喋られる前に牽制したリヴァイは、彼女の返答から巨人化能力者が侵入したと察した。
「お前ら、剣を抜け!それが姿を現すとしたら一瞬だ」
兵長の言葉にエレンとリヴァイ班の面々は抜剣しながら馬を走らせた。
たかが一体の巨人が巨大樹の森に侵入してきただけだ。
しかし、彼の声はいつも以上に重苦しくてただ事じゃない存在に警告しているようであった。
「な、何の音だ!?」
「後ろからか!?」
「右翼を壊滅させた何かなのか!?」
悲鳴と衝撃、そして戦闘音で後方で何かが来るのを全員が察した。
エレンも含むリヴァイ班は無意識に手綱を握って馬を加速させてた。
一方、フローラは“声”を聴いて何が来たのか察した。
巨人特有の呻き声ではなく、精神崩壊寸前の女の声。
中列後方に向かっていった女型の巨人がエレンを狙って森に侵入してきた。
「兵長!エレンが狙われているなら外套のフードを被りませんか!?」
「グンタの言う通りです!時間稼ぎができるはずです!」
「兵長!ご指示を!」
「ダメだ、誰もフードを被らずに馬を走らせろ」
しかし、部下からの建設的な提案をリヴァイは許可しなかった。
エレンが狙いならば、彼を餌にして最大限引き寄せる必要があったからだ。
「兵士長!巨人を捕捉しました!知性のある巨人です!後方から来ます!!」
専用装備の刃である短剣型のブリッツメッサーを構えたフローラは報告をした!
リヴァイ班が後方を振り返ると筋肉質な女型の巨人が全力疾走で駆け抜けているのが見えた!
「速い!?」
「この森の中じゃ回避できんぞ!?」
「追い付かれるぞ!?」
「兵長!立体機動に移りましょう!」
エレンの姿を発見した女型の巨人は更に加速して彼らを追った!
基本的に巨人から逃げられるほどの馬の全力疾走をもってしてもすぐに追いつかれそうであった。
瞬間的ではあるが時速70km以上出せる馬より女型の巨人は速かった!
「背後より増援です!」
フローラの一言により、兵士長を除くリヴァイ班は改めて後方を確認した。
女型の巨人の背後から現れた2名の兵士がアンカーを突き刺してうなじを刈ろうと奮闘していた。
そんな努力を嘲笑う様に1人を巨大樹に叩きつけ、もう1人のワイヤーを掴んで地面に叩きつけた!
一瞬で肉塊どころか、ミンチになった彼らは自分たちが死んだと気付かずにこの世を去った。
援軍が出現して、たった20秒の出来事である。
「兵長!指示を!俺達が討伐するべきです!」
「仕留めてやる!お似合いの末路をあいつに…!」
オルオとペトラが女型の巨人を狩ろうとグリップを強く握ったのを目視したエレン。
この場に居るのは人類最強と、リヴァイ班4名の巨人討伐数を合計すると70体の精鋭中の精鋭。
訓練兵時代で巨人討伐10体以上、カラネス区の壁外で単独で巨人を14体討伐したフローラ!
何も知らずに巨人殺しの達人集団という地獄に向かって来ている巨人に彼は心底、笑った。
「えっ!?」
「兵長!?指示を!」
「討伐しましょうよ!」
「全員、耳を塞げ!」
ところがリヴァイは交戦を許可しないどころか耳を防げと指示され全員が両耳を塞ぐ!
彼は音響弾を真上に撃って任務に支障が出る雑音を一掃する。
「…お前らは感情に身を任せて任務を放棄するのか?違うだろう?」
「この班の使命は、そこのクソガキを傷1つ付けずに尽くすことだ…命の限りな」
尊敬する兵長の一言でリヴァイ班の4名は一時の感情に支配された自分を軽蔑した。
時々の感情に身を任せて行動するのではなく、命令を忠実に遂行する事、それが兵士の本分だ。
訓練兵になったら真っ先に学ぶことを実施できていない彼らは深く反省した。
「え…?」
エレンはてっきり調査兵団特別作戦班は、自分を監視するのが使命だと思っていた。
壁外で身体の一部が巨人化した時に殺意を見せてた4人を見ているから尚更驚いた。
「俺達はこのまま馬を駆ける…いいな?」
「了解です!」
「兵長の指示に従います!」
「えっ…駆けるってどこまで行く気なんですか!?それに…」
「おいガキ、黙って馬をはしっつだあああ!」
「こいつの様に舌を噛みたくなかったら、口を閉じて前だけを専念して!」
オルオが舌を噛んでペトラが呆れながらもエレンに優しく語り掛けた。
エレンはそれでも納得できなかった。
自分以外は巨人戦闘のプロ、勝てない敵ではないはずだからだ!
「また増援です!早く!早くしないとやられます!」
「エレン、前だけを見ろ!最高速度を保て!」
女型の巨人を食い止める為に4名の増援が現れた。
“彼女”は鬱陶しい蠅を片っ端から叩き潰した。
一匹は巨大樹に叩きつけてもう1人はワイヤーを蹴っ飛ばして樹にぶつかって気絶した。
その気絶した蠅を拾って握り潰してもう1匹の蠅に投げつけた!
「うっ!」
慌てて回避した調査兵の真上を覆うように巨人の右手があった。
影に気付くこともできず彼は高速で地面に叩きつけられて絶命した!
最後の1人は必死に背後にまわって女型の巨人に攻撃を続行していた!
「リヴァイ班がやらずに誰があいつを止められるんですか!」
「まだ果敢にも1人だけで戦ってます!今なら助けられます!」
エレンはこれ以上、人命が失われるのが我慢できなかった。
助けられる命を見捨てるリヴァイ班が信じられなかった。
「エレンはまだ純粋なのね…」
既にフローラはトロスト区で救える命を見捨てる勇気をもっていた。
アルミン、ダズ、ミーナの3人を守る為に同期と民間人をそれぞれ100人単位で見捨てた。
あの時は、巨人と戦闘できるのが自分しか居なかった上に民間人を救出する余裕がなかった。
せっかく助けても自分たちが身動き取れなくなって死ぬという本末転倒を避ける為に見捨てた。
「でも…今回はー」
全員が巨人と戦闘できる。
エレンを除いて精鋭中の精鋭であり、女型の巨人を討伐して援軍の兵士の命を救う事はできる。
だが、第57回壁外調査の真の目的は、兵団に居る巨人化能力者を捕獲することだ。
殺すのではなく生け捕りにする。
だからこそ、巨人殺しのプロフェッショナルが行ってはいけない。
「そうか…」
エレンは、自分が他人頼りにしていたのに気付いた。
まるで5年前のシガンシナ区が陥落した日。
母親を助けずに逃げ出したハンネスさんを口で責めていた自分と大して変わっていない。
今は違う!
巨人と戦えるように訓練してきた兵士だし、何より自分には巨人化して戦うことができる!
自分で戦うという選択肢を見つけた彼は巨人化になろうと右手を噛もうとした!
「何をしているの!?」
「…ペトラさん」
「それが許されるのはあなたの命が危うくなった時だけって私たちと約束したでしょ!」
ペトラ・ラルは本気でエレンを心配していたからこそ、彼の異変に気付いた。
彼は巨人化してたった1人で女型の巨人と交戦している兵士を助けるつもりだった。
気持ちは良く分かる。
同僚の命が救えるのに見捨てて馬を走らせるのは彼女にとっても苦痛だった。
それでも約束を守らせようとした。
「エレン、お前は間違っていない…やりたきゃやれ!」
「兵長!?」
だがリヴァイはエレンの選択を否定しなかった。
むしろ、考え抜いた彼が決断した事を肯定するつもりだ。
「俺には分かる、こいつは本物の化け物だ」
「どんな武力でも拘束でも抑圧でも、こいつの意識を服従させるのは誰にもできない」
特別兵法会議が行われた審議所の地下牢で拘束されていたエレンを見てすぐに分かった。
例え殺されても服従しない男の目だと…。
自分と同じだからこそ気付けたことだった。
「お前と俺達の判断の相違は経験と信念、環境に基づくものだ」
「ただ、そんなもんアテにしなくていい、選べ。自分を信じるか、俺ら、調査兵団を信じるかだ」
既に女型の巨人相手にたった1人で時間稼ぎをしている第三分隊長は限界だった。
彼もまた、エルヴィン団長から巨人化能力者を生け捕りにする計画を聞かされていた。
交戦している知性のある巨人が巨人化能力者だと気付いていた。
だからこそ、必死に時間稼ぎをしていた。
リヴァイ班が目標地点に到達するまでの時間稼ぎを…。
「俺には分からない」
「ずっとそうだった…自分の力を信じても…信頼している仲間の選択を信じても…」
「結果は誰にも分からなかった…」
「だから…せいぜい、悔いが残らない方を自分で選べ」
リヴァイは今まで悔い無き選択肢を選んできたが、ほぼ全てが失敗した。
先輩も同期も後輩も友人もみんな死んで行って自分だけ生き残った。
選んだ選択肢が正しいのか、現時点で確認する術はない。
だからこそエレンには、悩んだ末に悔いがない選択肢を選んで欲しかった。
「ううっ…」
一方、フローラはたった1人で時間稼ぎをしている兵士の援護に向かうか迷った。
彼から聴こえた負の感情は『ここで行かせたら全ての犠牲が無駄になる!それだけは…』だった。
つまり、自分と同じく第57回壁外調査の本当の目的を知らされている兵士。
そもそも彼は、調査兵団の第三分隊長エリック・マンシュタインであった。
「くっ…!」
いつもなら即決断して彼の元に駆け付けるはずだった。
しかし、フローラの脳裏には、ある人物の顔が浮かんでいた。
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「ネス班長!お呼びでしょうか!」
「とりあえずそこに座ってくれ」
「了解しました!」
バンダナが似合ういぶし銀のディータ・ネス班長。
長距離索敵陣形を筆頭に調査兵団における基礎を叩き込んでくれた教官である。
フローラが間違えた返答をして調査兵団本部の周りを走るように命じたのも彼であった。
「なんで呼んだか理解しているか?」
「心当たりが多すぎて分かりません!」
彼は自由人のフローラに呆れた。
その心当たりを聞いてみれば、おそらく20個以上の要因が口から出てくるだろう。
実力はあるからこそ、ここでしっかりと注意しておきたかった。
「お前は物事を焦り過ぎている」
「はい…」
「もちろん、立体機動における即決断は生死が分かれる重要な要素だ」
「だがな、班から外れて独断行動するのが多すぎるんだ!お前は新兵だ!分かるか!?」
「はい…分かっております」
ネスは、組織で行動せず単独で行動しがちな彼女を注意したかった。
なまじ実力があるせいで壁外調査でも単独で動いて孤立する危険性があったからだ。
本気で心配しているからこそ、彼女をここに招集した。
「いいか、班で行動してるなら班長の指示に従え!」
「班長は班員全員に気を配って計画を立案して行動している!」
「それなのにお前と来たら班長の命令を聞かずに単独行動をしている!分かるか?」
「お前の勝手な判断が班、いや調査兵団全体に迷惑を掛けているのを自覚しているか!?」
「申し訳ありません…」
104期訓練兵時代からフローラは同じ失態を繰り返して指摘されてきた。
カラネス区壁外任務の活躍っぷりから成績上位10位に入れなかったのはそのせいだと言われた。
「いいか!班長の決断に従え!新兵のお前はそれに従っていればいい!」
「分かりました!」
「分かったうえでまた繰り返す気か!?ちゃんと返事をしろ!」
「ネス班長の忠告をしかと胸に刻み、班長の決断に従う事をここで誓いますわ!」
「よし、それでいい!お前は班長の決断に従うだけでいいんだ!」
ディータ・ネスはフローラの返答に満足した。
そんな彼はアルミンを女型の巨人から守ろうとして戦死した。
皮肉にも命令や作戦に忠実だったせいで戦死してしまった。
それでも最後の言葉となった『班長の決断に従う』という単語にフローラは縛られた。
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ここでの班長は、リヴァイ兵士長である。
しかし彼はエレンの選択を尊重した。
つまりエレンの発言次第で、分隊長を援護に行くのか、見捨てるのかが決まるのだ。
フローラは彼の発言を臨戦状態で待った。
「エレン…信じて…」
ペトラ・ラルは彼に告げた。
自分たちを信じて欲しいと。
『わたしたちを信じて』
初回の壁外巨人化計画でエレンの事を理解したリヴァイ班は自分の手を強く噛んだ。
それは勘違いしてエレンを殺そうとしたささやかな代償だった。
1人では大した事が出来ない。
だから組織で活動しているし、自分たちはエレンを信じていると告げた。
だからこそ、エレンも自分たちを信じて欲しいと告げた。
それはハンジ分隊長が勢いよくフローラを投げ飛ばして裏切ったように見えた日である。
「っ!」
エレンは先輩のペトラさんの手にその時の噛み後がまだ残っていたのを発見した。
「ううっ!」
「エレン!早く決めろ!」
「進みます!!」
兵長に急かされたエレンは援軍の兵士を見捨てて進む事を決意した。
みんなが前を進むと決めたから彼も一緒に進む事にした。
仲間外れが嫌だった!
化け物扱いされるのは嫌だった!
104期の同期みたいに心の拠り所が欲しかった!
「うわああああ!はなせええええっがっつ!?」
女型の巨人は、ようやくしつこい虫を潰せた。
最後の悲鳴は、救援要請でも助けを求めるのではなく最後まで希望を捨てきれなかったものだ。
第三分隊長エリック・マンシュタインは戦死した。
死因は高速で上半身を樹に叩きつけられた際の胴体断裂による出血性ショックだった。
「ごめんなさい…」
仲間外れなのが嫌なエレンは彼を見捨てた。
仲間を信じることが正しいことだと信じたかっただけだった。
その方が都合が良いから。
「目標加速しました!」
「このまま逃げ切るぞ!」
リヴァイの背後に続いた6名は全力で馬を走らせた。
フローラの愛馬のライリーはその指示に従ってリヴァイの馬を抜いて先頭になった。
久しぶりに全速力で疾走したその瞬間、束の間の自由を謳歌した。
汗血馬の彼女からすれば、足の遅い同胞に呆れてイライラしていた鬱憤を晴らすように。
あまりの加速っぷりに何かの作戦と勘違いした女型の巨人は一瞬、走るのを躊躇った。
それが命取りだった。
「撃て!!」
巨大樹の影に居るエルヴィン団長の号令で『対特定目標拘束兵器』から複数の矢じりが放たれた!
四方八方から起爆した勢いで飛んできた矢じりは女型の巨人の肉体を貫いた!
あまりの勢いに“彼女”は両手でうなじを守るのが精一杯であった。
矢じりに繋がっているワイヤーの張力により身体の動きを拘束してしまった。
第57回壁外調査で発生した犠牲は、全てがこの瞬間の為にあった。
「えっ?」
エレンが振り返ると女型の巨人が数えきれないワイヤーで身動きが取れなくなったのを目撃した。
そしてリヴァイ班のメンバーを見渡すと彼らも一瞬何が起こったか判断できなかったようだ。
次第に余裕を取り戻した彼らはエレンに先手を打たれる前に発言した!
「見たかエレン!」
「どうだ!生け捕りにしてやったぞ!」
「これが調査兵団の力だ!舐めてぇんじゃねーぞこの馬鹿!分かったか!」
「はい!」
女型の巨人が拘束されたのを実感して彼らを信じたエレンは久しぶりに笑った。
今後も彼らを信頼して行動していくつもりだ。
リヴァイ班、104期生と同じ心の拠り所にしたかった。
仲間外れが嫌だったエレンはようやく自分が安心できる場所ができて嬉しかった。
「むっ!なんかわたくしが空気扱いされてますわね…」
一方、指示に従わなくなったこの世で一番自由な奴と化したライリーを放棄したフローラ。
空しく1人で巨大樹の枝にぶら下がって彼らの様子を望遠鏡で確認する事しかできなかった。
それでも全員が無事に生存できた嬉しさで微笑んでいた。
だが現実は非情である。
この成功例が取り返しのつかない要素になるとは…。
この時点で全員が気付くことは無かった。