進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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33話 反撃の咆哮

「少し進んだ所で馬を繋いだら立体機動に移れ。俺は一旦別行動だ、班の指揮はエルドに任せる」

「適切な距離を取ったらあの巨人からエレンを隠せ、馬は任せたぞ」

 

 

女型の巨人を捕獲したが予断を許さない状況。

固定させたワイヤーを引きちぎるかもしれないし、特有の能力を隠しているかもしれない。

未知数である以上、リヴァイは“彼女”の目的であるエレンを安全地帯に隔離しておきたかった。

兵士長の指示を受けてエルドは彼の馬の手綱を引きながら班員に指示を出した。

 

 

「フローラ!お前も来い!」

「了解しましたわ!」

 

 

女型の巨人を『知性のある巨人』であると最後まで誤魔化していた彼女。

どうも、素振りから交戦経験があるように見えたので彼は聴取をすることにした。

一方、緊張がほぐれたリヴァイ班は、微笑みながら彼らを見送ってその場を後にした。

一時的に自由になった馬のライリーは、見捨てられるのが嫌で主人の後を追いかけていった。

 

 

「あいつと交戦して何か判明した事があるか?」

「急所を結晶の様な物で覆って防御する能力があるみたいです」

「結晶?」

「鋼より硬い結晶体で、うなじを防御してました。おそらく“彼女”特有の能力かと…」

「そうか…」

 

 

とりあえず鋼より硬い結晶体の鎧を生成する能力があるようだ。

防御に使用したが攻撃に転用しないとは言い切れない以上、警戒は必要だ。

責任者のエルヴィンを見つけたリヴァイは真っ先に彼の所に駆け付けた。

 

 

「動きを止めたようだな」

「まだ油断できない…リヴァイ、よくこのポイントまで誘導してくれた」

「後列の班が命を賭して交戦して時間稼ぎをしてくれたおかげで助かった」

「歯痒かっただろう?」

「心臓を捧げた彼らの雄姿がなければここまであっさり捕縛できんだろ。あんたのおかげさ」

「そうか、ならば尚更彼らの犠牲は無駄にできないな」

 

 

爆発音がして振り返った2人は、更に関節を複数の槍で貫かれた女型の巨人を見つめた。

第三分隊長のエリック・マンシュタインを筆頭とする後衛の班員達。

右翼に展開していた索敵班、森に侵入を防ぐために交戦した兵士達。

調査兵団としては痛手だったが、そのおかげで巨人化能力者を捕縛できる。

 

 

「こいつのうなじに居る奴とようやく逢えるな…中で小便を漏らしてなければいいのだが…」

 

 

リヴァイは眉をしかめてグリップを強く握り締めいつでも飛び掛かれるように巨人を睨んだ。

 

 

-----

 

 

「なんだこの爆発音は…」

 

 

ライナー・ブラウンは巨大樹の森から聴こえてくる連続した爆発音に困惑していた。

森林に侵入した中列の荷馬車に巨人を討伐できる大砲など積んではいなかった。

それなのに合計10発以上の爆発音が森に響いていた。

つまり爆発音をさせる【秘密兵器】を荷馬車が積んでいたという事か。

 

 

「本当に大丈夫なんだろうな…」

「そんな事より巨人を見ようぜ…」

「コニー、お前は気にならないのか?」

「気になるけどよーそんな事を考えるより生き残るのを考えないか?」

「そうだな」

 

 

コニーからすれば爆発音より樹の真下に居る巨人の方が重要だった。

長距離索敵陣形を崩して巨大樹の枝で待機せよ…と命じられた時は正気を疑ったものだ。

だが、ここだけで樹の下に7体の巨人が集まったことを見ると適切な判断だと感じた。

 

 

「ミカサ、この音なんだと思いますか?大砲でも撃ってるでしょうか?」

「分からない…大砲なんてなかったはず」

「ですよねー補給物資と兵站拠点を建てる為の資材しかなかったはずですよね」

 

 

サシャは自慢の聴力で森の奥から音がすると分かった。

ただし、何の音かは判断できなかった。

 

 

「さっきからうるせぇな!おいベルトルさん!クリスタがどの辺に居るか分かるか?」

「ごめん…分からないよ…」

「クソッ!クリスタが居ないんじゃこの爆発音に耐え切れねぇ…」

 

 

思わずベルトルトにクリスタの居場所を問うほどユミルは彼女を心配している。

無理をしてないか、囮になろうとしていないか、自殺願望を抱えていないか。

いくらでも確認したい事があった。

空気扱いされているベルトルトも大切な人が無事なのか心配であった。

 

 

「あのーナナバさん、巨人が登ってきましたけど…」

「うんうん、ここまで登ってきたら退いてあげようね」

「冗談を言われても困ります…」

 

 

まるで他人ごとのように告げる先輩にクリスタとミーナは心配になった。

特に無駄死にだけは絶対にしたくないクリスタは戦慄した表情で集ってきた巨人を見つめていた。

意地でも待機を続行するナナバ班から離れていない場所に事情を察する班が居る。

 

 

「しかし釈然としねぇな」

「人為的に壁を破壊しようとした奴らが兵団内に居るとしてもだ!」

「…もっと教えた方がよかったじゃないか?」

 

 

アルミンから自分たちが女型の巨人をこの巨大樹の森に誘い込む囮になったと聞かされたジャン。

彼の推測には一理あり、納得できることが多かったがその分、団長の冷酷な作戦に寒気がした。

 

 

「そうだけど、もし彼らを捕まえる事ができたら調査兵団の悲願である情報が…」

「この世界の真相の情報を入手できるってか…くだらねぇな」

「せめてスパイがどの兵団に居るか絞って目星をつけて欲しかったんだがな…」

「この壁外調査が期限だからね…しょうがないよ」

 

 

人間が巨人化できると判明したのが超大型巨人によるトロスト区が襲撃された日である。

そこから一ヵ月と少しで第57回壁外調査であり、その結果次第でエレンの処遇が決まる。

たったそれだけの期間でスパイを炙り出すのは不可能だったのだろう。

だからこそ、エルヴィン団長は第57回壁外調査で一か八かの賭けをして見事に勝利した。

 

 

「もし相手が巨人化能力者だって知ってたら、お前の班長は対応できて死なずに済んだだろう?」

「いや、間違ってないよ」

「は?意味分からん!?無駄に兵士がどれだけ死んだと思ってるんだ!?」

 

 

女型の巨人の足止めにある程度成功して生還したフローラはアルミンに感謝していた。

相手が巨人化能力者だと知らせてくれたから初見殺しに対応できたと…。

彼女の言葉は、戦死した調査兵も情報さえあれば、生還できた可能性を示唆している。

だからこそ、ジャンはアルミンの言葉が信じられなかった。

 

 

「ジャン、結果論であれこれ言うのは誰だってできるけど結果を途中で知る事は誰にもできない」

「巨人化能力者は何人か、兵団のスパイは何人か、目的は、何を知っているのか」

「分からない事だらけなのに選択する時間は止まってくれない。限られた時間で選ぶしかない」

「団長は確かに非情で冷酷な人物かもしれない…でも僕はそれで良いと思うんだ」

 

 

アルミンは、トロスト区で逢ったピクシス司令やイアン班長の顔を頭に思い浮かべていた。

彼らは、兵士を大勢犠牲にしてでもトロスト前門に空いた穴を塞ごうとした。

イアン班長は自分の命を賭けて、ピクシス司令は自分が殺戮者と罵倒されても作戦を実行させた。

その結果、囮になった駐屯兵団や訓練兵たちの遺体の山と引き換えに目的は達成された。

今回も同じことだ。

 

 

「団長は選んだんだ、100人の仲間の命と壁内の人類の命を…そして選んだ」

「100人の仲間を切り捨てて目的を達成させたんだ」

「個人的に何かを変える事ができる人間は、【大事な物を捨てられる人間】だと思う…!」

「何も捨てることができない人は、何も変えることはできない!」

「だからといって、知らずに殺される兵士の気持ちを考えて欲しいものだ…全く!」

 

 

ジャンは、トロスト区奪還作戦を聞いて啖呵を切ったダズの言葉を思い出す。

 

 

『ふざけんな!俺たちは、使い捨ての刃になる為に訓練してきたわけじゃねえぞ!!』

 

 

全くその通りだ。

自分だって、死んでいった兵士達だって同じことを思うことだろう。

巨人と交戦して死ぬ覚悟はできていても、殺されていいというワケではない!

でもこの残酷な世界ではどうしようもできない。

調査兵団に所属し続ける以上、偉くなるまで利用され続ける人生を送るのは間違いない。

できるとしたら…。

 

 

「死なないように実戦豊富なフローラに巨人の対応の仕方でも聞いた方がいいか」

「ジャン!巨人が樹を登ってきたよ!?」

「畜生が!野郎、木登りのコツを掴みやがった!逃げるぞ」

 

 

巨人には学習能力があると判明して改めて脅威と実感した彼らは別の場所に移動した。

 

 

「しかし、新兵はともかく長く調査兵団をやっている先輩たちにも知らされてないなんて…」

「私たちが団長や兵長に信頼されていなかったとでも!?」

「…いえ、そこまでは言っていません」

「うるせー小僧だ、知らされてなかったんじゃなくて、それだけ信頼されていたって事だ!」

 

 

エレンはリヴァイ班のメンバーにも知らされていない事実に驚愕していた。

あの巨人を捕獲する為とはいえ、おそらく大半の兵士が知らされていなかった。

彼らと一緒に行動してきた身とすれば、信頼できるからこそ、団長の非情さに驚くだけだった。

 

 

「だが、それなりの人数が事情を知らなければ、あの罠は成功しなかったはずだ」

「確かに…【荷馬車に扮した巨人拘束兵器】といい、意外と知ってた奴は多いかもな」

「計画を知らされていたのは、5年以上前から生き残っている兵員に限るだろう」

「なるほどな、それなら合点が行く!そういうことだエレン!分かったな!」

「うん、そうに違いないよ!そういう事なら仕方がない!」

 

 

エルドの言葉に頷くリヴァイ班の面々たち。

それを聴いてエレンは1つだけ思った事がある。

 

 

「オルオさん!」

「どうした?」

「…という事は、5年以内に入団したってことですよね?意外にもお若いんですか!?」

「誰が!老け顔でおじいちゃんだコラぁ!!ペトラ!こいつの前歯と奥歯を入れ替えてやれ!!」

「やめなさいオルオ、みっともないわよ!」

 

 

オルオは自分が老け顔なのにコンプレックスを持っていた。

同い年のペトラと比べて貫禄が出てるとか褒められるが全然嬉しくなかった!

まだ19歳、育ち盛りで実力は未だに未知数の期待のルーキーだから!

 

 

「そういえば、フローラって真の目的に気付いていたみたいだな」

「ああ、新兵なのに知ってたっぽいな」

「下手すれば、女型の巨人を森に誘導してきたのもあいつかもしれん」

 

 

話題を変えようとしてエルドは、フローラの行動を思い出していた。

不可思議な行動といい、兵長との会話といい、絶対事情を知っていたはずだ。

決定的だったのが、リヴァイ班を差し置いて兵長と共に拘束した女型の巨人へ向かった事だ。

 

 

「もしかしたら巨人が2体殺された時に団長が質問した返答の次第で作戦に参加できたかもな」

「ああ、被検体2体が殺された時か」

「えっ!?先輩たちも質問されたんですか!?そういえばフローラも答えていたな…」

 

 

エレンの言葉を聞いてリヴァイ班の面々は、答え合わせをする為にエレンの顔を見た。

いきなり視線を集めた彼は、自分が更に失言を重ねたと思い頭が真っ白になった。

 

 

「よーし、エレン、答え合わせだ!フローラは何て返答したんだ?」

「え?ええ?」

「とぼけんなよ!団長が質問した『君には何が見える?敵は何だと思う?』の返答だよ!」

「…確か『巨人の仲間が兵士に化けてソニーとビーンを介錯したとか?』って返答してました」

「「「「それか!」」」」

 

 

ようやく団長の質問の意図が判明して納得したリヴァイ班のメンバーたち。

内心で自分たちは信頼されていなかったのか、もしかして巨人の討伐数だけ評価されていた!?

そんな感情を抱えたまま死ぬ事になるのは避けられた。

エルヴィン団長は、協力者を募る時に自分と同じ思考の持ち主を探していたのだ。

敵対する勢力なら、そんな事を口から漏らすわけないし、咄嗟の判断力も評価の1つなのだろう。

 

 

「なるほど、これからは団長の行動をしっかり理解する必要があるな」

「あーなんてこった、そんな答えで良かったのか」

「あのー?何が…」

「要するに!重要な作戦に参加したかったら!物事を客観的に身に着ける癖をつっ!?」

「オルオ、舌を噛み過ぎ、もう少し落ち着いてゆっくりと話しなさい」

 

 

後輩に格好いい自分を見せつけようとしてオルオが舌を噛んだのを見て呆れるペトラ。

さきほどまで緊迫した状況下に居たのにすぐに立ち直ってみせたリヴァイ班。

そんな彼らをみてようやく平常心に戻りつつあるエレンは憧れた。

 

 

「…さっきから何の爆発音でしょうか?」

「知るわけねぇだろう!?面倒事は団長たちに任せておけ!」

「とにかくエレンを狙っている以上、俺たちは事が終わるまで安全地帯に居ればいいんだぞ」

「ふひふぁひほへ」

「おじいちゃん、ご飯はさっき食べたでしょう?」

「ふははぁ!!」

 

 

決め台詞を言えないどころかペトラにボケられたオルオは両手を握りしめて彼女を睨んだ!

 

 

「ほら!もう一発!」

 

 

一方その頃、上機嫌なハンジは紐を引っ張って『鉄杭射出装置』を起動させた。

爆発音と共に射出した鉄杭は、巨人の肉体をも貫き動きを鈍らせるものだ。

巨人には脅威的な再生能力があり頭を吹っ飛ばしても5分以内に元通りになる。

ただし、ある程度の大きさの異物を巨体から退ける機能はないので、そのまま残ったままである。

 

 

「どう?これで身体が痒くても搔けないよ!再生するほど杭で固定されて動けなくなるからね!」

「分隊長、わざわざそんな事を周りに告げなくてもよろしいのでは!?」

「何言っているんだい!説明しないと鉄杭射出装置の効果が甘く見られるじゃないか!」

 

 

既に10回以上、複数の装置を稼働させて関節部や顔に杭を射出した。

それでも投降する気がない以上、脅し続けて屈服させるか強制的にうなじから出すしかなかった。

 

 

「ミケもリヴァイも何をやってるんだ…まだ肝心の中身を取り出せないのか」

「うるせぇな、だったら代案を出してみたらどうだ?」

「あの硬化の皮膚を突破しようとしたら本体ごとお陀仏だしね…中々加減が難しいな」

「おいフローラ、その短剣っぽい刃でちょっと試してみろ」

「やってみます」

 

 

スナップブレイドは巨人のうなじを刈り取るのに特化した刃である。

故にしなやかで脆くて折れやすく肉自体を斬るには向いていなかった。

唯一、フローラの装備している刃が短剣型であった為、試してみたくなっただけである。

常識で囚われているリヴァイは未知なる可能性に賭けてみた。

 

 

「おりゃあ!」

 

 

ガスを噴出しながら回転斬りをした彼女の斬撃は硬質化した皮膚を欠けさせただけで終わった。

結局、うなじを守る両手から出現する結晶のような物質を突破できる刃物はなかった。

しかし、その結晶は時間と共に剝がれ落ちているので常時に覆う事ができないようである。

 

 

「なるほど、肉体の一部を硬質化した皮膚で覆う事ができるが時間制限があるという事か」

 

 

エルヴィンは、ウォールマリアの扉を体当たりで破った【鎧の巨人】の事を思い浮かべていた。

無傷で破ったとされるその巨人の皮膚は凄まじく硬く、斬撃も砲撃も効果がなかったとされる。

文字通り鎧の巨人であるが、同じ硬質化で構成された皮膚だったのだろう。

しかし、長時間にも耐えたとされる文章から女型の巨人には時間制限があるようだ。

 

 

「お前!何をやっている!?」

「何って?硬くない皮膚を斬っているんです!」

 

 

フローラは、皮膚が結晶に覆われていない所からブリッツメッサーの刃で切り裂いていた。

うなじから能力者を取り出せないなら、別の場所から取り出せばいいという思考で動いている。

最初は傷を修復するかと思ったが、そんな事はなかったのでどんどん肉を切り取っていった。

少しずつではあったが、傷口を広げており巨人化能力者へと近づいている。

 

 

「おい…なんか肉体が再生してないぞ?」

 

 

ハンジ分隊長の部下であるケイジ・ランドルフが異変に気付いた。

 

 

「そんな馬鹿な!?杭を撃ち込まれた時は傷を修復してたぞ!?」

 

 

同じく部下でありゴーグルが良く似合うアーベル・オッペンハイマーがその意見を一蹴した。

 

 

「もしかして硬質化と肉体の再生って両立できない感じなんですかねー?」

 

 

更に寵臣であるニファ・ヴューラーは、2人の意見を聞いて頭に思い浮かんだ事を述べた。

そしてその一言を最後に女型の巨人も含めて全員が静かになった。

1人の女が肉を切り取る音を除けば。

 

 

「エルヴィン聞いたか?」

「ああ、ばっちりだ」

 

 

女型の巨人は小刻みに全身が震えた。

その様子を見た兵士たちはスナップブレードを構えて嗤い始めた。

誰もが立体機動による白刃攻撃で弱らせるしか本体を巨体から取り出せる方法がない。

そうと思っていたからこその嗤いだった。

 

 

「なあ聞いたか?どうやらお前は、すぐにお天道様と逢えるらしいな」

「良かったじゃないか、窮屈で臭くて汚い肉塊と悪事から開放されるんだ」

「縛り付けて思う存分、日光浴させて心身共に浄化させてやるから感謝しろよ?」

 

 

リヴァイはようやく本体の顔を拝められるという事でご満悦だった。

正常な判断力を失わせるように精神的に追い詰めて気力を低下させようとした。

 

 

「お前は確か、いろんなやり方で俺の部下たちを殺したが…あれは愉しかったか?」

「絶対的な強者の立場で生命を踏み躙るのは愉しかったか?」

「俺は今愉しい、お前も同じ立場だったらそう思うだろう?なあ?」

 

 

リヴァイは愉し気な口調と似合わない殺意を必死に我慢しながら睨めつける表情をしていた。

彼らの犠牲のおかげで今がある以上、こいつには相応の罰を与えなければならない。

人権は人権を守っている者にしか適応されなければならない。

私刑だろうが拷問だろうが尋問だろうがいくらでも壁内に帰ってからやるつもりだった。

 

 

『やだやだ!帰りたい!もう殺したくない!あの場所に帰りたい!フローラ助けて!!』

 

 

“彼女”から発せられた負の感情の中から自分の名が出てきて思わずフローラは手を止めた。

アルミンから何度も呼ばれていたせいで自分の名が割れているのは理解していた。

なのに何故か自分に助けを求めてきた。

すなわち自分と接点があり親しく交流してきた女性が能力者の正体であるには間違いなかった。

 

 

「おい、どうした?」

「いえ、なんか知り合いの気がして…えっ!?」

 

 

生き生きと肉を捌いていたフローラの手が止まったのを確認したリヴァイは異変に気付いた。

突然、彼女は刃を鞘に納めて慌てて女型の巨人の首から離れたからだ!

 

 

〈きゃあああああああああああああああああ!!!!〉

 

 

その瞬間、女型の巨人から大音量の金切り声が発せられた。

それは森の外側に居た兵士達はおろか、カラネス区の住民の耳にも微かに聴こえるほどだった。

あまりの騒音に耳を傷めたリヴァイを筆頭に全員が両耳を抑えてうずくまった。

負の感情から切り札の存在を掴んで逃げ出したフローラも報告する暇もなく耳を塞いだ。

 

 

-----

 

 

「なんだったんだ今の?」

「女の悲鳴?森の奥からか!?」

「先輩たちは奥で何をやっているんだ…」

 

 

何も知らされていない調査兵はおろか、真の目的を知っている兵士すら動揺を隠せなかった。

連続で爆発音がして、止まったと思ったら女の甲高い断末魔の叫びを聞かせれたのだ。

巨人より質が悪い【巨大樹の森の主】が目覚めたのではないかと…感じられるほどに。

だが、全員が想像よりも早く悲鳴が止んだ。

まるで断末魔の叫びの様に…。

 

 

「嘘だろう!?なんで!?」

「巨人が!?動いた!?」

「報告します!巨人が森へと侵入しました!」

「なんだと!?」

 

 

金切り声を聴いた巨人は1体残らず森の奥へと突き進んでいった。

その数100体以上、更に遥か遠く離れたトロスト区にうろついていた巨人も引き寄せられていた。

彼らの表情は大切な物を守るというより捕食を望んでいた顔であった。

まるで女型の巨人を狙っている様に。

 

 

「なんで俺たちを無視するんだ!?」

「こいつら奇行種だったのか!?」

「そんな…こんな事って…」

「とにかくこいつらを奥に行かせるな!背後から奇襲できる地の利を生かせ!!」

「「「ハッ!」」」

 

 

そうとも知らず、突然巨人が奇行種になったのを見て混乱した待機組の兵士達。

とにかく巨人を森に侵入させるなという命令に基づいて交戦を始めた。

自分たちに目もくれずに、うなじを丁寧にも見せてくれる巨人たち。

それは動くだけの巨人の模型のようであった。

 

 

「私も行く!」

「待ってくださいミカサ!さっきの悲鳴を聴いた事があります!私が居た森の中で!」

「聴いたの?同じ声を?」

 

 

サシャの一言でミカサ・アッカーマンは足を止めた。

尋常じゃない事態が発生している以上、エレンが心配だった。

アルミンから推測であるが真の目的を知った彼女。

敵が大切な家族を狙っているなら速やかに彼の元に駆け付けたかった。

ただ104期生の中で一番森を詳しい彼女の話を聴いた方が良いと判断した。

 

 

「あれですよ!追い詰められた生物が全てを投げうつ時の声なんです!」

「聴いて損した…やけくそって事?」

「違います!狩りの最後ほど返り討ちの可能性が高くなるやつです!」

「生きようとする力が思わぬ力を発揮して飛び道具を持った人類を返り討ちにするんですよ!」

「いつもの100倍注意しないと逆に殺されます!」

 

 

やけくそで叫んだとしか思えなかったが、サシャの意見を尊重した。

彼女の勘はよく当たる事で有名であり、食事の献立と狩りに関しては誰にも引けを取らない。

山で生活していた時期があったミカサであったが、エレンとの新生活で慣れて勘が鈍っていた。

だからこそ、勘と狩人としての能力が損なわれていない彼女の話を素直に受け入れた。

 

 

「ミカサ!?どこに行くんですか!?」

「エレンを守りに行く!」

「無謀です!戻って来てください!」

 

 

アルミンからエレンは中列に居るという情報を得ていたミカサ。

巨大樹の森でも奥深くに彼が居るならばそこに向かう事にした。

一応、フローラがリヴァイ班に情報を伝達しているが護衛は多いほど良いはず。

もし咎められても彼女の巧みな話術で切り抜けられると信じて森へと進んでいった。

 

 

「ミカサ!ああ、駄目です!もうお終いです」

 

 

超人的な身体能力で巨人を蹴散らしてくれる知り合いが居なくなって絶望したサシャ。

こっそり持ち込んだ生の芋を咀嚼(そしゃく)しながら樹の真下を通り抜けていく巨人を眺める。

巨人狩りの経験がない彼女は、それくらいしかできなかった。

 

 

「芋喰ってる場合かあっ!?」

 

 

懐のポケットから4個目の芋を取った時、近くで通り掛かったコニーに突っ込まれた。

 

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