進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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34話 全てを捨て去る覚悟

女型の巨人があげた金切り声によって調査兵団の兵士たちは心身共に疲弊した。

女性特有の甲高い断末魔の叫びは、声が途絶えてもなお脳内に響いており気分を害していた。

 

 

「クソ…なんだったんだ」

「断末魔の叫びって奴ですかね…迷惑だ」

「てめぇ…びっくりさせるじゃねぇか」

 

 

第4分隊所属のモブリットとケイジは“彼女”の叫びで頭痛と吐き気を催していた。

リヴァイ兵士長に至っては“彼女”の頭の真上に居たせいで直で声を聴いてしまい苛立っていた。

 

 

「ただの悲鳴?そんなわけがない…何か意図があるのか…?」

 

 

女型の巨人が悲鳴をあげた瞬間、エルヴィン団長は巨大樹の幹に身体を隠すように注視する。

何の意味もなく悲鳴をあげるのはあり得ない事であった。

ただ意図が分からない以上、時間の経過で判断するしかなかった。

 

 

「まずい、まずいわ…!」

 

 

奇しくも団長の隣で同じように身体を幹で隠して、頭だけひょっこり出しているフローラ。

女型の巨人が気になったのもあるが、それ以上にまずい状況になったのは理解している!

ちょうど隣の幹にエルヴィン団長が居るのを発見した彼女は一呼吸置いてから報告した!

 

 

「団長!大変ですわ!!」

「どうした!?」

「巨人の大群が四方八方からこっちに向かって来ています!数は100体以上!」

「なんだと!?」

 

 

フローラの報告を聴いて思わずエルヴィンは周囲に耳を傾ける。

風の音や兵士たちの愚痴以外に何かが来る音が聴こえ始めた。

 

 

「エルヴィン!巨人の匂いがする!」

「方角は?」

「全方位から多数、同時だ!」

「数は?」

「良く分からんが…かなりの数だ」

 

 

巨人の匂いを感知できるミケ・ザカリアスも異変に気付いた。

巨大樹によって匂いが遮られやすいとはいえ、数が多すぎて濃厚な匂いを感じてしまった。

しかし、匂いを感知した頃には巨人が地鳴りと共に巨大樹の間から出現し始めていた。

 

 

「まさか…」

 

 

エルヴィンは、ミケよりも早く正確な数を感知したフローラに疑問に思ったが…。

出現した巨人が女型の巨人の脚に噛みつき始めたのを目視し、最悪の事態を思い浮かべた。

 

 

「全方位から巨人が出現!」

「総員、戦闘開始!女型の巨人を死守せよ!」

 

 

包囲している兵士を無視をして女型の巨人に群がって肉体を喰らい始めた巨人達。

彼らの目的は明確だった。

それを阻止する為、その場に居た兵士は全員、巨人の大群に突っ込んでいった。

 

 

「あの叫び声で巨人共を呼んだってわけか、舐めた真似しやがって…」

 

 

女型の巨人の頭を踏みつけて踏み台にしたリヴァイは目の前に来た巨人2体のうなじを刈り取り、5m級の巨人を回転斬りで首ごと斬り飛ばして、その勢いのまま14m級の両脚を両断した!

 

 

「こうも巨人が多いと俺の鼻も役に立たんな…」

「では、こうやって巨人を討伐して役に立ち…ましょうよ!」

「ゲルガー!今のは危なかったぞ」

「おっとリーネ、口説くのは後にしてくれないか」

 

 

ミケは回転斬りで14m級のうなじを刈り取って、8m級の巨人を捕捉して右脚を両断した!

体勢が崩れた巨人にゲルガーが突っ込んで高所から双剣を叩きつける様にうなじを抉る!

そのまま離脱したが、一歩間違えれば地面に激突しそうのを目撃したリーネは本気で心配した。

彼からすれば、巨人相手に全力で挑むのは当然であり、刃の消耗など考えてなかった。

違う、そうじゃないと言わんばかりに心配事が噛み合っていないが、別に問題は無かった。

 

 

「おーい!おーい!…何でだ!?何で私たちを無視するんだ!?」

「分隊長、巨人の群れの前で両手を振って大声で叫ばないでください!」

「なんで私たちに興味を示さないんだ…」

「考えるのは後にしましょう!」

 

 

覚悟を決めて巨人の前に飛び出して両手を激しく振ってみたが無視をされて衝撃を受けるハンジ。

それを宥める副官のモブリットは、上官を無視した巨人のうなじを刈り取った!

続いていて、同じ部下であるケイジとアーベルが別の巨人の狩ってニファが煙幕を張った。

 

 

「分隊長!?死ぬ気ですか!?」

「ケイジまでモブリットみたいな事、言い出して…」

「良いから早く巨大樹の枝に乗りますよ!数が多すぎて地上は自殺行為です!」

 

 

既に1名、射出したワイヤーを巨人に脚に引っ掛けて、そのまま巨人の足元に消えていった。

だからこそ、女型の巨人を中心として外円から必死に巨人を減らしていたが減る気配がなかった。

煙幕から逸れた巨人をニファが右ひざ裏に斬り付けて転倒させてモブリットがうなじを斬った!

もう1体が煙幕を突き進んだものの女型の巨人と離れた場所に出てしまい後戻りをしようとした。

 

 

「そこ!」

 

 

フローラはその隙を見逃さずにうなじを斬って急降下して近くに居た巨人の右足の腱を切断した。

その勢いで股を潜り抜けて巨大樹の幹にアンカーを突き刺して急上昇した。

 

 

「くっ…きつい」

 

 

巨大樹の枝に飛び乗った彼女は肩で息をしながら巨人を見据えた。

肉体の負担もそうだが、巨人が多すぎた。

ライナーやベルトルトがここに居れば巨人の群れを【津波】と評しただろう。

全方位から押し寄せた【肉の波】から守りきれず、次々に巨人が女型の巨人を喰らい始めた。

 

 

「させるか!」

 

 

その隙だらけの巨人のうなじを次々に刈っていく1人の兵士。

しかし彼は気付かない。

何故誰もその隙だらけの巨人を狩っていないのか。

リヴァイ兵士長ですら手を出していないのか。

それを身をもって経験する事となる。

 

 

「よし…まだ行ける…ぐっ…あああああああっ!!!」

 

 

巨人討伐数を更に稼ごうとした彼は背後から来る巨人に気付けなかった。

1分間で20体の巨人を討伐しても50体の巨人が群がってきている以上、そこは無法地帯だ。

射出したワイヤーに巨人の胸が引っ掛かって、思わぬ方向に引っ張られた。

そして何度も巨人と激突して地面に激突してもなお、止まらないどころか踏まれ続けた。

 

 

「いやああああ!」

 

 

巨人の背後を追ってうなじを斬り続けた女兵士。

いつの間にか完全に孤立してしまい、巨人の大群に取り残された。

必死に離脱しようとしたが遅かった。

 

 

「ああああ゙っあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っつ!!!」

 

 

巨人捕縛作戦に従事した兵士たちは彼女を見捨てた。

孤立した彼女は必死に脱出しようとしたが巨人の肉壁の波に呑まれていく。

揉みくちゃにされて血しぶきを噴き上げるのを彼らは傍観する事しかできなかった。

もし突撃すれば累が及び無駄死にすると分かっているからこそ黙視した。

 

 

「ここまでか…」

 

 

彼女の壮絶な死に様を見届けたエルヴィンは決断した。

陣形の右翼に展開していた第二分隊と中列の後続班を犠牲にして捕獲した女型の巨人を…。

ここで捨て去る覚悟を!

 

 

「全員、一時退避!」

 

 

団長の号令に全兵士が巨人から離れた。

女型の巨人には既に40体以上が群がっており本体の生存は絶望的であった。

本体が巨体から切り離されて喰われたのか、女型の巨人から蒸気が噴き出していた。

更に30体以上の巨人の骸から放たれる蒸気と共に現場は真っ白な霧に覆われるほどである。

 

 

「おいエルヴィン…なんて面してやがる…」

「やられたよリヴァイ…私の完敗だ」

「情報漏洩を阻止する為に自己犠牲をするという選択肢を考慮してなかった…」

「奴らを掃討して、遺品捜索でもするのか?」

「いや、撤退だ。これ以上の戦果は無意味だ」

 

 

リヴァイが発言した遺品捜索には3つの意味がある。

 

まずは、情報分析をする為に巨人化能力者の遺品だけでも回収する事。

2つ目は、犠牲になった兵士の遺品を回収して遺族に渡す為。

そして、結晶のように覆った硬質化した皮膚の回収である。

()()()、その皮膚だけは本体から切り離されても蒸気が噴き出さずに原型が保っていたからだ。

成分の分析をすれば、その装甲を貫く武器の開発に役立てる事ができる。

 

 

「総員速やかに撤退せよ!」

「巨人共が囮に気を取られている内に馬に乗り巨大樹の森、西方向で集結!」

「陣形を再展開し、カラネス区へ帰還する!荷馬車は全てここに置いていく!良いな?」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

しかし彼はそれをしなかった。

既に今期に調査兵団に迎えた104期の新兵23名より多くの損害を出していた。

荷馬車に見えるように製造された複数の『対特定目標拘束兵器』や囮となり犠牲になった兵士達。

これ以上の損害を極力抑えたいからこそ、全てを切り捨てた。

 

 

「審議所で啖呵切ってこの有様か、大損害に対して実益無し、帰った所で何の意味がある?」

「意味など後でいくらでも考えられる。今はこれ以上の損害を出さずに撤退する事を考えろ」

 

 

巨人の死骸から蒸気が噴き出しており視界が悪くなっていた。

これでは、信煙弾の合図にも支障が出る上にいつ蒸気から巨人が飛び出してくるか分からない。

そこでエルヴィンは気付いてしまった。

 

 

「俺の班を呼んでくる…あいつらの事だ、かなり遠い所に行っているんだろうな」

「待てリヴァイ!ガスと刃を補充していけ」

 

 

うなじを斬られた巨人は死んで蒸気を噴き出して、その肉体を霧散していく。

しかし能力者が生存していても本体から切り離された巨人の肉体は蒸気を出して霧散する。

それはエレンの巨人化の結果であり、調査兵団の兵士には知れ渡っている事実である。

女型の巨人の肉体から蒸気が噴出しているが、彼女自身は生存している可能性があった。

巨人の大群に気を取られて、“彼女”が死んだ場面は誰も目撃していない…。

 

そう、巨人化能力者は、何食わぬ顔でここに居る兵士に紛れている可能性があったのだ。

 

 

「時間が惜しい」

「命令だ、従え」

「…了解だエルヴィン、お前の判断を信じよう」

 

 

リヴァイにはエルヴィンが何を考えているか理解できなかった。

ただ、今までの経験上、彼の意見を聴いた方が生存できる可能性が高いと判断しただけだ。

そんな2人のやり取りに水を差すようにフローラが登ってきた。

 

 

「…お前か、何をもたもたしてる」

「さっきまで補給をしてましたわ!」

「補給ってその装備を?」

 

 

 

彼らからすれば彼女の発言を聞いて疑問に思った。

知る由もなかったがブリッツシリーズという名前が付いた専用装備であり補給品などない。

一式刀身もしくは、強化刀身・1型というスナップブレード、あとはガスボンベくらいか。

ボンベですら専用装備の鞘から20cm以上も飛び出す長さなので何を補給したのか気になった。

 

 

「いえ、予備の立体機動装置に使う強化・1型シリーズの刃とガスボンベを補充しました!」

「ならさっさと撤退しろ…遅れるなよ」

「ハッ!」

 

 

負の感情を聴くことができる彼女は団長の“声”を聴いて指示を受ける前にガスを補給しに行った。

専用装備であるブリッツシャイダーという鞘は、通常のガスボンベの互換があったからだ。

ところが、道中で自由を謳歌していたはずの愛馬と遭遇したので刃もついでに補充した。

結局、女型の巨人との戦闘で消耗した刃とガスを補充するだけで終えた。

これ以上、もっていけば図々しくて補給担当に恨まれそうだったから。

ライリーに括りつけた鞘に刃を収めて満足した彼女は団長たちを発見し、様子を確認しに来た。

 

 

「行くわよライリー!」

「あうち!…って!何をやってんの!?」

 

 

降りてきたフローラを目視したライリーは真っ先に外套のフードに噛みついて強く引っ張った。

後方に引っ張られて踏ん張った結果、野外にも耐えるように編まれていた布は音を立てて破れた。

いつもは反発する癖に非常事態の時に限って構って欲しいと甘える彼女。

足掻いてもしょうがないという事で頭を撫でて落ち着かせたフローラは乗馬して去っていった。

ボロボロになったフード付き外套を買い替えようかと考えながら…。

 

 

-----

 

 

「黄色の信煙弾だ!?」

「総員撤退!馬に乗りなさい!」

「「はい!」」

 

 

ミーナとクリスタは、ナナバ先輩の言葉を聴いて安心した。

他の兵士たちも意図が分からない作戦が終わったと知って安堵した。

 

 

()()()は無事なのか…」

「分からない、でも信じるかできないよ」

 

 

相棒と合流できたライナーとベルトルトは、彼女の事を心配していた。

単身で巨大樹の森に飛び込んで行ったからこそ、黄色の信煙弾を見届けて心配した。

あの合図を見たせいで、作戦が失敗して戦死したかと思っていたからだ。

 

 

「やっと帰れる!」

「ふはい!はっは!」

「芋喰って頬張りながら喋るなよ…というか何個目だ」

 

 

帰れると安心したコニーは、芋を頬張りながらガッツポーズで喜んでいるサシャに呆れた。

気分を紛らわせるために思わず何個芋を食べたか訊いてしまった。

 

 

「…7個か」

「ふはひふふ!」

「まさか12個か!?」

「ふぉへふ!」

 

 

彼女が左手の指を広げて、右手は人差し指と中指を立てた事で彼は7個と思った。

ところがなんか否定的な反応を示したので12個と言ってみたら当たってしまった。

どんだけ芋を隠し持っていたんだと呆れるしかない。

12個も芋を隠し持ったまま立体機動で巨大樹の枝に乗った事はある意味凄い事ではあるが…。

ちなみに芋はもう無い。

サシャの腹は壁内に帰る前にもたないだろう

 

-----

 

 

「どうやら終わったようだな!」

「よし馬に戻るぞ!撤退の準備だ!」

 

 

黄色の信煙弾は、遠く離れたリヴァイ班にも確認する事ができた。

真っ先に確認したグンタの話を聴いたエルドは即決断した。

 

 

「だそうだ、さっそくあいつの中身を拝見しようじゃないか」

「残念だが、奴がエレンを狙っている以上、顔を合わせるわけにはいかん」

「チッ!仲間を惨殺したクソ野郎の顔を確認したかったんだがな…」

「それならウォール・ローゼに戻った後でもできるわよ」

「そうだな…兵長の指示に従うまでだ」

 

 

オルオの意見を一蹴したグンタであったが班員の中で一番顔を確認したかったのが彼である。

仲間を心配しているからこそ、時には辛辣の言葉をかけてしまう性格だった。

だからこそ、エリック分隊長も含めて虐殺した女型の巨人の正体を知りたがっていた。

ペトラのフォローでその手があったと思いつつ先陣を切って進んで行く。

馬を待機させている場所までリヴァイ班は立体機動で移動していた。

 

 

「本当に奴の正体が…?」

「エレンのおかげでね…」

「え?オレは何もやっていません!?」

 

 

頼れるお姉さん肌のペトラに感謝されてエレンは驚いた。

自分はみんなに言われるまま馬を走らせてだけと自覚していたせいで余計にそう感じた。

 

 

「私たちを信じてくれたでしょう?」

「あの時、私たちを選んだから今の結果がある…正しい選択をするって結構難しいことだよ」

「おいペトラ、そいつを甘やかすんじゃねぇ…今回は餌以上の働きをしてないからな」

「オルオさん…」

 

 

彼の言う通りだった。

後ろから迫りくる女型の巨人をパニックになって班を乱していた。

それどころか、勝手な行動を取ろうとして班員たちに迷惑をかけていた。

いつもなら飛び出して巨人に突っ込むフローラですら無言で従っていたのだ。

エレンは改めて何もできなかった自分の情けなさに唇を噛み締めた。

 

 

「まあ最初は生還できれば上出来だ、だが作戦が終わって壁内に帰るまで評価できん」

「いいか、ガキンチョ!お家に帰るまでが壁外調査だからな」

「もう…分かってますって…」

「先輩に向かってため口はないだろう?なあ?」

「気にしなくて良いわよ、こんな奴の真似したら舌を噛むだけよ」

 

 

ぶっきらぼうながらも彼なりに自分を心配してくれているオルオさん。

段々お節介な近所のおばさんのイメージがして何か嫌だった。

何かと口に出してくる母親に反抗したくなる気持ちに似ていた。

だが迷惑を掛けたまま、母親と死に別れしたエレンにとって懐かしい感覚が…。

 

 

「お前ら2人とも…初陣でションベン漏らして泣いてた癖に立派になったもんだな」

「えっ?」

 

 

2人の先輩であるエルド・ジンの一言で全てが変わった。

一瞬、エレンは聞き間違いだと思った。

頼もしい2人がそんな無様な真似をすると思わなかったからだ。

 

 

「ぎゃああああ!言うなよ!威厳とか無くなったらどう責任とってくれるの!?」

「事実だろう?エレン、言っておくが俺は漏らしてないからな」

 

 

ペトラ・ラル、まだまだ元気で初々しさが残る19歳の乙女。

先輩によって隠したい黒歴史をよりによって可愛い後輩の前に暴露されてしまった。

思わず元凶のエルドに怒鳴り散らしたせいで肯定しまい墓穴を掘ったと感じたが後の祭り。

 

 

「討伐数とかの実績は上なんだが!俺が上なんだが!?エルド!覚えてろよ!」

「討伐数だけでは兵士の優劣は語れないぞ、泣き虫だったオルオ君」

「うるせぇ馬鹿!!アホ!!女を泣かせたと彼女にチクってやるぞ!!」

 

 

 

同じくオルオ・ボザド19歳、調査兵団の期待のルーキーと自他が認識している。

老け顔がコンプレックスだった彼は巨人をとにかく討伐して今の地位を獲得した。

その根本を崩されて錯乱した彼は、元凶に向かって唾を飛ばして抵抗していた!

最後の頼みだった実績も無視されたので少年のような語彙力で罵倒しかない惨状だった。

 

 

「すげぇ…空中で撒き散らしたって事ですか!?」

「エルドおおおおおぉ!!」

「お前ら!ここ壁外だぞ!ピクニックじゃないだぞ!ちなみに俺も漏らしてないぞ」

 

 

純粋なエレンによる思い付きの一言は、オルオとペトラの黒歴史を掘り起こすものだった。

巨人から逃げる手段は、馬か立体機動しかない。

乗馬していたら巨人の唾液やらで誤魔化せるので、…つまりそういう事だ。

 

 

「ううっ…見ないで…」

 

 

特に後輩に顔を向けられて発言されたペトラは赤面してエルドを睨みつけて恨んだ!

初めて巨人を目撃した彼らは泣き出して、小便を漏らしながら必死に先輩たちに守ってもらった。

今でこそ精鋭中の精鋭であるが、彼らもまたひよっこの時代があったのだ。

 

 

「はいはい」

「エルド!お前も絶対何かやらかしてるだろう!?」

「うん?おかしいな?なんでムキになるのかなグンタ君」

「チッ!早く馬と合流するぞ!」

 

 

あまりの馬鹿さ加減に呆れたグンタが作戦達成で気が緩んでいるメンバーを叱った。

…が自分のフォローをするのは忘れなかった。

巨人と初遭遇した時は、敵前逃亡して団長の後ろに隠れた黒歴史があったからだ。

彼らと違って逃げ出した過去を知っているエルドを牽制するのに精一杯である。

 

 

「おっと!緑色の信煙弾、きっと兵長の連絡だな」

 

 

気分転換をしたいグンタは、上空に緑色の煙が見えて何かの合図だと思った。

自分たちを探している兵長が居場所を知らせる為に撃ったのだろう。

他の兵士は作戦終了した時点で孤立しておらず、そんな信号を出さないだろうし…。

まさか自分たちを探しているのは兵長以外にも居ると想定しなかった。

 

 

「よし、兵長と合流するぞ!続きは帰ってからやれ!」

 

 

兵長が自分たちを探しているならそれに応えなければならない。

グンタは同じように緑色の信煙弾を上空に向かって撃った。

自分たちの居場所を知らせる為に。

それは罠だと気付かないまま。

 

 

「皆さんの初陣では色々あったんですね」

「エレンほどじゃないがな…」

「初陣の日は散々でしたよ」

「そうね、あの怒涛の出来事なんて常人じゃ信じられないもんね」

 

 

グンタの後ろ姿を見て追跡するように移動するリヴァイ班。

エレンと同様の立場だったら自分たちはここまで信じられなかったと自覚している。

だからこそ、エレンが自分たちを信じてくれた事が嬉しいし、エレンも嬉しかった。

ずっーとこの関係が続けばいいのにと。

 

 

「そういえばフローラの初陣の事は聴いたか?」

「ああ、あいつは頭がおかしい」

「トロスト前門に侵入した巨人5体のうなじを斬った事すら信じられん」

「訓練兵を率いて兵団本部奪還作戦の指揮を執ったとか聴いたよ」

「駐屯兵団の第一師団の精鋭班の合計した数より巨人を討伐したらしいぞ…」

 

 

現在進行形で色んな伝説を作り続けるフローラ。

既にリヴァイ班の班員たちが合計した巨人討伐数を越えている可能性があった。

カラネス区壁外で1人で巨人を14体討伐して貴族たちから大金を荒稼ぎした噂もある。

というか、調査兵団の馬が買えるティーカップを購入してもらった時点で金持ちだ。

 

 

「私たちは時速70kmの馬に乗っているのにフローラは時速120kmで駆け抜けていくみたいね」

「このままじゃ追い付かれるな…」

「はぁ?オレたち5人で頑張ればあいつなんて一捻りなんだが!?」

「オルオの言う通りだ、ワンマンアーミーでは限界があるからな!」

 

 

女型の巨人の本体の捕縛に成功したと思っている彼らは次の目標を決めた。

次の目標は、フローラの記録を打倒する事であった。

あまりにもとんでもない記録のせいで公式に記録されない物ばかりであった。

そんな彼女に対抗するには5人の団結力とチームワークが試される!

104期生とは違った安心できる居場所を見出したエレンはご満悦であり笑みを溢していた。

 

 

「居た!エレンー!!」

「噂をすればなんとやら…やべぇ奴が来たな」

「……妙だな、作戦が成功したような顔に見えんぞ」

「ああ、嫌な予感がする」

 

 

話題になっていた人物が馬を駆けてやってきた。

ただし、彼女の表情からは作戦成功とはかけ離れたものである。

 

 

「報告します!巨人化能力者の捕縛に失敗しました!」

「なんだと!?」

「まさか取り逃がしたとでもいうの!?」

「分かりません、ただ女型の巨人に巨人が群がってしまい手が出せなくなりました」

 

 

フローラの報告を受けて戦慄したリヴァイ班。

なら、さきほどの黄色の信煙弾はなんだったのか、エルドはすぐに問い詰めた。

 

 

「あの黄色の煙は何だったんだ!?」

「撤退命令ですわ!この森の西方で陣形を再編成してカラネス区に帰投する為です!」

「待て待て!!じゃあ、あの緑色の信煙弾は兵長が撃ったんじゃないのか!?」

「兵士長なら補給した装備の点検をしていますので、ここに来るのに時間が掛かるはずですが…」

 

 

そしてさきほどの緑の煙は兵長が撃ったわけではない。

では誰が撃ったのか。

エレンと先行したグンタを除いたリヴァイ班のメンバーはすぐに答えを導き出した。

 

 

「グンタ!!戻れ!!あれは罠だ!!」

「ああ!?すまん聴こえん!もう一度、おっと…!」

 

 

先行したせいで一連のやり取りが聴こえなかったグンタは何事かと思った。

しかし、視界に緑のフードを被った兵士が見えたのでエルドの警告を無視をした。

きっと後方の奴らで問題解決できると思ったし、兵長に報告するのを優先してしまった。

 

 

「兵長!…いや違う!?誰だお前は…!?」

 

 

今までの相手は巨人だった。

殺し合うのは巨人であり敵もそれで固定されていた。

だからこそフードのせいで顔が分からない不審人物が近寄ってきても逃げる事はしなかった。

それが命取りになった。

 

 

「うっ…ごほぉお…」

 

 

その人物が自分を掠めた瞬間、視界が明らかに別の場所に移動しており息ができなかった。

何故か口から吐血してしまい、慌てて両手で塞ごうとするが何故か力が入らない。

それどころか体全体が重く感じて視界が真っ赤に染まった。

そこで自分が不審人物に斬られたと理解した瞬間、激痛が奔ったが声に出せなかった。

 

 

「グンタさん!?」

 

 

グンタが最後に見たのは心配そうに自分を見つめるエレンの姿だった。

「早く逃げろ」という発言も口から血を流すだけで終わり意識はそこで永遠に途絶えた。

女型の巨人の本体である能力者に自身のうなじを斬られたと理解する暇などなかった。

 

 

「つっ…」

 

 

グンタ・シュルツは尊敬していた父親と同じように油断して死んだ。

しかし彼は幸せ者である。

真っ先に脱落したおかげで、これ以上苦しまずに済んだ。

地獄はまだ始まったばかりなのだから…!

 

 

 

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