進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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35話 命懸けの騙し合い

“彼女”は初めて人殺しをした。

 

そもそも何度も過去に殺人してきたし、さきほどまで調査兵団の兵士を殺害してきた。

一緒に3年間訓練してきた同期すら事故に見せかけて結果的に殺した。

それでも明確な意志を持って殺人をしたのは今回が初めてだった。

自分には帰る場所があるし彼にもあっただろう。

 

 

「エレン止まるな!進むんだ!」

「誰がやった!?出て来い!」

「エレンを守れ!」

 

 

だが殺さなければ殺される。

死にたくないから殺してやった。

 

 

「出て来い卑怯者!最低でも差し違えてやるぅ!」

「エルド!どこに向かえば良い!?」

「馬に乗る暇はない!とにかく味方と合流するぞ!」

 

 

“彼女”はそんな事させるつもりは無かった。

ここを逃せばエレンと接触する機会がなくなるどころか二度と襲撃する事も出来なくなる。

この日の為に昨日は酷い目に遭った。

人探しをさせられ、背後から心臓を撃ち抜かれ、タバコの匂いを嫌というほど嗅がされた。

更に今まで向き合わなかった父親の事を思い出させられて故郷に帰りたい想いで胸が一杯だった。

 

とにかく壁内の人殺しはここで終わらせたかった。

 

 

「俺達が時間を稼ぐ!エレンはその隙に味方と合流しろ!」

「フローラはエレンを援護して!」

「時間稼ぎなんてしねぇよ!ここでぶっ殺してやる!!」

「…でも!」

「エレン、3人を信じて本隊に合流しましょう」

 

 

“彼女”はエレンの護衛班の話を聴いて安心した。

まずエレンを巻き添えにして殺害する心配がなくなった。

ここで彼を殺せば同僚の死も同期たちを偽ってきた自分の苦労が無駄になってしまうから。

そして何より!フローラと殺し合いをしたくなかった!!

 

 

「これが最後の殺人…これさえ乗り越えれば…」

 

 

故郷に帰れる。

仲間を見捨てた癖に作戦を続行させられ、泣きじゃくる同期の立体機動装置を取り外させた。

あの他人事でどうしようもない『兵士ごっこ』をしている糞野郎とおさらばできる。

もしエレンが【座標】じゃなくても『もう1つの巨人』を奪取できるだけでも充分だ!

 

あとは女々しい腰巾着野郎と糞野郎に任せて故郷に帰る!

 

少しだけ落ち着いた“彼女”は冷静に指を道具で切って出血をさせた。

一滴の血が滴り地面に落ちる前に“彼女”の身体は発光し、爆発音と共に巨人化した。

 

 

「やはりか!来るぞ!」

「女型の巨人だ!!」

 

 

グンタを失って悲しむ暇もないリヴァイ班は女型の巨人の姿を捕捉した!

女型の巨人も護衛班とエレンとフローラを捕捉した!

 

 

「オレも戦います!今度こそ倒してみせます!」

「ダメだ!俺達に任せてお前は先に行け!」

「これが最善の策だ!お前の力はリスクが大きすぎるんだ!」

「何だ!?俺達の腕を疑ってるのか!?」

「そうなのエレン?信じられないの?」

 

 

エレンは戦いたかった!

グンタさんを殺したあの女型の巨人を倒す…いや巨人化能力者を殺害したかった!

1か月も満たなかったが彼との思い出は大切なものだったからだ!

それでも、彼らの顔を見て踏み止まった。

 

 

「皆さんの勝利を信じています!ご武運を!」

 

 

リヴァイ班を信じた。

彼らを信じたことで女型の巨人をワイヤーで捕縛できた。

今回も信じていれば絶対に間違いない。

不安はあったが、指示に従って逃亡した!

それが自分の役目だとエレンは理解したから!

 

 

「こっちよ!このまま進めば本隊に辿り着けるわ!」

「でも…やっぱり見捨てる事が出来ない!」

「この騒動でリヴァイ兵士長が気付かないわけないでしょ!あと3分あれば合流してくるわ!」

 

 

立体機動を行ない誘導しているフローラについ本心をぶつけてしまった。

自分が狙われているからグンタさんが殺害された。

殺したのは女型の巨人だが、原因は自分のせいだとエレンはずっと悩み続けていた。

それを察した彼女は、すぐに人類最強が合流するから大丈夫だと諭してくれた。

巨人化能力者を抑えつけられる実力がある兵長が居れば何も問題ないと…。

それを信じて前だけを見て進む事しかできなかった。

 

 

『ここで殺す!』

 

 

目の前の敵を殺す!

死にたくないなら殺すしかない!

動きが機敏で今までの敵と違う!

虫と揶揄して潰してきた兵士たちの動きとは別物だった。

 

 

『速い…』

 

 

だがフローラには劣る。

彼女なら一瞬で姿を消してしまうから!

 

 

「うおおおお!!」

『そこ!』

「なんてな…!」

『うっ!?…両目を潰された…!』

 

 

さすが重要人物の護衛を任されている事はある。

掴みかかろうとした右手をギリギリに回避した金髪の男!

そっちに目をとられた隙に2人の兵士が両目を切り裂いていった。

少なくとも視界が真っ黒になった以上、そうとしか考えられなかった。

 

 

『ここで終わるわけにはいかない…』

 

 

幸い倒れ掛かった時に衝突したおかげで巨大樹の存在に気付いた。

両手でうなじを抑えて首を竦めて幹を背中に合わせれば少なくとも急所を狙われることは無い。

自分の弱点に真っ先に気付いたフローラが居たら既に目潰しされた瞬間、死んでいただろう。

彼女はうなじではなく、うなじに居る自分を真っ先に両断するはずだから!

拘束された時に他の兵士と違って、首を掘り進めていたフローラの存在は恐怖でしかなかった。

 

 

『視力を奪った!少なくとも1分間は暗黒の中だ』

 

 

エルドは経験上、女型の巨人の視力が回復するまで最低でも1分以上と読んだ。

 

 

『それまでに仕留める!』

 

 

同じく感覚と経験で知っていたペトラは1分経つ前に終わらせるつもりだった。

 

 

『捕獲なんてクソ喰らえぇ!』

 

 

オルオは団長の意志に反してでも巨人化能力者を殺害するつもりだ!

 

 

『今殺す!!』

『無様に死ね!!』

『グンタの仇を討つ!!』

 

 

3人は手の動きで合図を出し合ってスリーマンセル編成で両肩を狙う事にした。

両手をいくら傷付けても再生して終わるうえにうなじから退かす事は出来ない。

しかし根元の両肩の筋肉を削げば、勝手に両腕が垂れるしかできなくなる。

 

 

「すげぇ…あの女型の巨人が一方的にやられてる…」

「そうね、あの調子ならうなじを狙えるじゃない?」

「ああ、信じて正解だった!」

 

 

エレンは、追い詰められていく女型の巨人を見た。

両肩を何度も切り裂かれて左腕が力なく地面に向かって垂れた。

もう片方もエルドさんとペトラさんの斬撃に耐え切れず右腕も垂れた。

 

 

「いつか、オレも参加させてくれるのかな…」

「壁内に帰ったらグンタさんの後任として訓練をお願いすればきっと喜んでくれるわ」

「そうだな、グンタさんの後任…になれたらいいな」

 

 

一言も告げずに黙々と連携が取れて息の合ったタイミングでの攻撃。

仲間同士で信じあっているからこそ、グンタさんを失った直後でも強かった。

フローラとミカサ、ライナーとベルトルト、アルミンとマルコ、フランツとハンナ。

同期でもお互いを信じた者達は強かった。

エレンは連携して『バディアクション』で巨人を討伐できるようになりたかった。

 

 

「…できるのかな」

「トロスト門で巨人を5体葬った【固定砲整備4班】の班長さんが弱気になってどうするの…」

「実際に巨人を5体、討伐したのはフローラだろう!?」

「連携がなかったらできなかったわよ…最初もエレンが引きつけてくれたから討伐できたしね」

「そうか…そうだったな」

 

 

フローラの返答で、実は自分がリヴァイ班と同じ事をしていたのを思い出した。

あの時は、がむしゃらに突っ込んで、とにかく巨人を街に入れないと奮闘していた。

結果は、巨人を5体討伐して刃とガスを全員が半分以上消費していた。

そう、全員が刃とガスを消費していた!

全員が協力した結果、巨人を討伐できていたのだ。

 

 

「ありがとうフローラ」

「えっ…?どういたしまして…?」

 

 

フローラはいきなりエレンに感謝されて戸惑った。

元気になったのは良い事ではあるが、いきなり感謝されても心の整理が追い付かず反応に困った。

彼女はエレンが考えている以上に深い意味を言ったつもりはなかったからだ。

 

交戦した時と比べてあっさり追い詰められていた女型の巨人に違和感を覚えていた。

硬質化すれば斬撃をガードさせて刃を消耗できたし、地面に仰向けで寝ればもっと無敵になれた。

まるでわざとやられたように見えて要因を思考している片手間でエレンと会話したら感謝された。

彼女目線から見れば、忙しい時に感謝されても困るという状況だった。

 

 

「何かおかしいわ…」

 

 

硬質化と肉体の再生は両立できない。

それは自分が拘束された女型の巨人の首の肉を斬っていた時にニファ先輩が気付いた事である。

逆に言えば、硬質化した様子が見られないのに無駄に斬られているのはおかしかった。

巨人化能力者が操作している巨人が、その辺の巨人と同じように斬られ続けるのはあり得ない。

つまり!あれは罠!

 

 

後方から来たエレンを抜かせてフローラは巨大樹の幹を蹴って踵を返して女型の巨人に向かっていった。

視界に映ったのは、噛み付いたエルド・ジンを吐き捨てる“彼女”の姿だった!

 

 

-----

 

 

“彼女”は無駄に両肩を切り裂かれていたわけではなかった。

肉体の再生に使える力を全て潰された右目の修復に費やしていた。

おかげで反撃どころか身体を動かす事ができない上に無駄に修復で発生する煙が出ていた。

それでも彼らは経験豊富だからこそ、両肩だけを狙っていたおかげで無事に回復した。

両腕が使えない以上、目の前に突っ込んでくる兵士に向かってやれることは1つしかなかった…!

 

 

「「エルド!?」」

 

 

忌まわしき無垢の巨人のように兵士を噛み千切る。

口内に肉塊と一緒についてきたスナップブレードが入っており違和感を覚える前に吐き捨てた!

次は!あの女兵士を仕留める…!

 

 

「まさか…片目だけ優先して直したの!?そんなことが…できるなんて!?」

 

 

気付かれた以上、殺すしかない!

両肩を必死に修復させているが集中して修復させるには時間が掛かる!

体勢を立て直される前に殺さないと今度は隙だらけになった自分のうなじを狙われかねない!

両腕が使えない以上、蹴り殺す!!

 

 

「ペトラ!早く体勢を立て直せ!」

 

 

悲痛な男兵士の声を聴いて女型の巨人は地面を蹴り上げて加速した!

つまり、体勢を立て直せない状況!殺すのはここだけしかないから!

全速力で駆け抜けていけば、踏み抜いて殺すことができる!

完全に腕が使えるまで2分以上掛かると踏んだ“彼女”は全力でペトラを踏みに行った!

 

 

「ペトラ!!早くしろ!!」

 

 

幼馴染のオルオの声はしっかりペトラの耳に届いていた!

…がどうしようもなかった。

 

 

「オルオ…」

 

 

彼女は女型の巨人を確認する為に振り返ったせいで仰向け状態になっていた。

真下に逃げようとすれば地面に激突し、横に逃げようとしたら巨大樹の幹に激突する。

体勢を立て直してもアンカーを突き刺した以上、再度装填してから撃たないと意味は無かった。

取り外し直後のアンカーを射出してもヘロヘロとしておりどこにも突き刺さらないからだ…。

要するにどう足掻いても絶望だった。

 

 

「…ごめん」

「ペトラああああああっ!!いやだあああああっ!!」

 

 

悲痛な嘆きの咆哮がペトラの耳を突き抜けていった。

彼女の眼前には自分を踏みつぶそうと企む足の裏がしっかり見えた。

それは意外にも綺麗だった。

自分の足の裏よりもとっても綺麗だった…。

涙で視界が歪んでも…印象的に目に焼き付いた。

 

 

----

 

 

「あああああ!!」

 

エレンは自分の苦しみを吐き出すように叫んだ!

怒り、悲しみ、不安、怨嗟、殺意!

理性でむりやり抑制されていた負の感情を爆発させて自暴自棄の様に号哭した!

 

 

「こいつを!殺す!!」

 

 

自分の大事な居場所を易々と踏みにじった女型の巨人を!

104期生と同じような心の拠り所を潰した巨人化能力者を!

選択を間違えた自分を殺せない以上、その怒りも含めて全力で殺す!!

怒りに任せて右手を噛み千切った!

 

 

『俺には分からない』

『ずっとそうだった…自分の力を信じても…信頼している仲間の選択を信じても…』

『結果は誰にも分からなかった…』

 

 

リヴァイ兵長の言葉が両肩に強く圧し掛かる!

前回は成功したから今回も仲間を信じた結果、仲間が死んだ!

グンタさんもエルドさんもペトラさんもオルオさんもフローラもみんな死んだ!

最初から、こいつをぶっ殺しておけば!囮になった兵士も!誰も死なずに済んだ!

追われていた時は、兵長もフローラもリヴァイ班も居たんだ!

絶対に負けるはずがなかった!

 

 

「グオオオオオオオオッ!!」

 

 

巨人化したエレンは、右腕を失っている女型の巨人に怒りに任せて突っ込んでいった!

一方、女型の巨人は焦っていった!

フローラに右腕を両断されたどころか、短剣の様な刃で右の眼球に突き刺されていた!

巨人化している間は、視界が制限されている上に巨人化の活動が限界だった…!

 

更にエレンが巨人化して()()()()()()()()()()()突っ込んできた!

 

 

『やだ!あとちょっとなのに!!』

 

 

気力を尽くして活動できて10分程度、その間にエレンを撃退して逃走しなければならない。

当然、エレンを抱えて誰にも見つからない様に逃げなければならない!

まだそれだけならいい!

 

少なくともフローラが【あれで死んだ】と絶対に思ってなかった!

106回も医務室送りされても、どんな負傷をしても何食わぬ顔で翌日には活動する女を!

下手すれば1時間もあれば動き出す不死身な彼女を知っているからこそ恐怖した!

 

 

「お前!?俺の犠牲を無駄にする気か!?」

 

 

うなじを斬られて死んだグンタさんの幻聴が聴こえてきた。

 

 

「痛い…よ」

 

 

食い千切られたエルドさんの幻聴が聴こえた

 

 

「どうして!?」

 

 

巨大樹の幹に叩きつけられたペトラさんの幻聴が聴こえた。

 

 

「ペトラああああ!?なんでだあああ!?」

 

 

女型の巨人に一矢報いれなかったオルオさんの幻聴が聴こえた。

 

 

「覚えてなさいいいいい!」

 

 

ワイヤーを巨人に薙ぎ払われて茂みに吹っ飛んでいったフローラの幻聴が聴こえた。

自分が選択を間違えたせいで全員死んだ。

でもやっぱりこいつが悪い!

こいつが全員殺したから!全部こいつが死んでいれば解決できた!

 

 

「オマェ!!ガァッ!!オアエアガアッ!!」

 

 

エレンは右アッパーを回避した女型の巨人を見据えた!

アニ・レオンハートから習った対人格闘術で女型の巨人を葬り気であった!

 

 

『あの構え…まずい!』

 

 

女型の巨人は右目が回復せず視界が潰されているのに加えて右腕がうまく再生しなかった。

ブリッツメッサーという刃は、それぞれの傷口に深く突き刺さっており修復が無意味になった。

よってエレンの巨人に右目と右腕が使えない状態で挑むしかなかった。

幸い、格闘術の動きは読めるものの彼を倒しきれる自信がないが。

 

 

『左フック!次は蹴り!』

 

 

エレンの左フックを辛うじて回避する“彼女”!

しかし次の攻撃が読めても回避しきれずに転倒した無防備な状態を蹴られた!

砲撃とは比べ物にならない衝撃で意識が飛びそうなのを辛うじて耐えて逃げ出した!

…が、彼に圧し掛かられて押し倒されてしまった!

 

 

「ジネエ!!」

『私は…帰るんだ!こんな所で終わってたまるか!!』

 

 

右ストレートパンチを辛うじてして回避した!

地面に激突した彼の右拳は衝撃で粉砕した!

もし直撃すれば“彼女”の頭などトマトの様に粉砕して中身が飛び出しただろう!

 

 

「ヅギイッ!!」

『させるか!!』

 

 

女性が男性に押し倒されて馬乗りにされた。

憲兵団に通報する案件であるが、そもそも自分は憲兵である!

巨人に性器はないので女性の尊厳を踏みにじられないが護身術はそのまま通じる!

 

 

『そこ!!』

「アアアアアアア!!?」

 

 

顔を近づけてきたエレンの右目を左手の親指で突いた!

“彼女”はサミングという格闘術でも反則技に分類される技を繰り出した!

右目だけだとはいえ、初めて視界を失った彼はパニックになった!

 

 

『この変態野郎!!』

 

 

隙を見せて拘束を緩めたエレンの右脚の膝をしっかりと左腕で抱え込みブリッジをする勢いで身体全体で踏ん張って態勢を入れ替えた!

すかさず股間に強烈な蹴りを入れて吹っ飛ばした!!

巨人化したエレンは吹っ飛んで地面に何度も激突しながら巨大樹の幹に激突した!

 

 

『くたばれ!!』

 

 

激突を見届ける事すらせずに飛んでいった方向に駆け出す女型の巨人!

目標は、巨人のうなじの中に居るエレン・イェーガーだけだ!

 

 

-----

 

 

エレンは押し倒したものの形勢が逆転して巨大樹の幹に吹っ飛ばされたのを実感した!

未だに脳内が揺れているのか視界がぼやけて吐き気がして呼吸ができなかった!

それでも“彼女”の姿を捉えた彼は脚を丸めて飛び込んでくるタイミングを待った!

 

 

「グダアアアアアレ!!」

『お前が死ね!!』

 

 

飛び込んできた女型の巨人を右フックで顎を強打して怯ませた!

更に両脚で蹴り飛ばした!!

動きを予想していたものの回避しきれずに地面に叩きつけられる巨人!

それでも立ち上がる2体の巨人!

巨人同士の闘いは苛烈を極めて衝撃音と地鳴りが辺りに響き渡った!

 

 

『やっぱり向こうの方が格上か!』

『くそ!訓練が封じられてなかったら必死に巨人化して格闘術を練習したのに…!』

 

 

エレンは巨人化ですら許可が無い場合、自身の命が危うくなった時しかできなかった。

リヴァイ班と約束した取り決めに基づいて訓練してきたせいで経験不足だったのだ。

壁上固定砲を薙ぎ払った超大型巨人と仲間であるなら5年以上前からの能力者なのは間違いない。

明らかに巨人で格闘戦をやるには不利だった!

それでも勝機はあった!

 

 

『このまま時間を稼げば兵長が来てくれる!』

『そうすればお前なんかすぐ…』

 

 

エレンはそれ以上続けられなかった。

女型の巨人が見覚えのある構えをしてきたからだ。

それはよく知っていた。

だって同期から教わった格闘術にそっくりだったのだから。

 

 

『ア…!?』

 

 

その隙を女型の巨人は見逃さなかった!

硬質化した回し蹴りでエレンの顎を強打し頭ごと吹っ飛ばした!

高熱の流血も巨人化した“彼女”に効果はなかった。

そして巨人の頭を吹っ飛ばす衝撃を受けた彼は気を失った。

巨人化能力者同士の闘いはエレンの敗北で終わった。

 

 

-----

 

 

『なんとか勝てた…これで帰れる…やっと父に逢えるんだ』

 

 

“彼女”は動きが止まった首なしのエレンの巨人を見て口を開いた!

頬を引き裂くほどに開いた口でうなじの肉を食い千切って吐き捨てた!

傷口には気絶した見覚えのある男が生えていた。

エレン・イェーガー、自分たちの希望になる存在である。

息をしているのをしっかりと確認した後、口に含もうとした!

 

 

「エレン!!」

 

 

聞き覚えがある女の声がした。

あんな逞しい女の声なんて1人しかない。

ミカサ・アッカーマンがエレンを食べようとした女型の巨人を目撃した!

 

 

-----

 

 

「どこ?どこにいるの!?」

 

 

サシャたちから離れたミカサは巨大樹の森で迷っていた。

肝心の勘も聴覚も幸せだった生活で鈍っておりエレンがどこにいるか分からなかった!

ただ緑色の信煙弾を2回発射されたのを目撃してそこに向かって駆けていた。

 

 

「オマェ!!ガァッ!!オアエアガアッ!!」

 

 

しばらくしていつもと違う巨人の咆哮が聴こえてきた方向に突き進んでいった!

進むにつれて衝撃音と咆哮が聴こえており、ただ事じゃないのが理解できた。

そして辿り着いてみると女型の巨人が、巨人化したエレンのうなじを食い千切っていた。

 

 

「エレン!!」

 

 

目を開けたまま気絶したエレンは女型の巨人に噛みつかれ口内に入っていた。

それをただ呆然として見守っていたミカサ。

そして口を腕で拭い、何事もなかったように“彼女”は立ち去っていた。

 

 

「ま、待って…エレン…行かないで…」

 

 

ミカサは呟いて手を伸ばした。

そんな行為でエレンを奪還することなどできないと頭で理解していても手を伸ばした。

 

 

「やだ、…私を…おいて行かないで…」

 

 

グリップを握って『強化鞘・1型』から刃を装填した!

その様子を見た女型の巨人は全速力で逃げ出した!!

何故なら巨人化できる時間は5分もないからだ!

そしてなにより…!

 

 

「このおお!!エレンを返せええええ!!!!」

 

 

鬼神と化したミカサ・アッカーマンが双剣を構えて殺意を剥き出しにて突っ込んできたからだ!

トロスト区防衛戦及びトロスト区奪還作戦での戦果はフローラと互角の女。

むしろ、身体能力ならフローラや自分でさえ凌駕している黒髪の女!

104期訓練兵団の首席で卒業した鬼神が逃亡した誘拐犯を追跡した!

それは地獄から這い出してきた3つ頭の猟犬のようであった!

 

 

『絶対に!逃げきってやる!』

「エレンを返せ!返せえええ!!!」

『これで!終わりにする!!』

「逃がすかああ!!」

 

 

ボロボロになった女型の巨人と鬼神になったミカサの追いかけっこが開幕した!

 

 

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