進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
女型の巨人は必死に逃走しているが限界が近かった。
視界が赤く染まって息苦しく身体が自由に動かなかった。
もって3分、それまでにミカサ・アッカーマンを撒いて馬をバレないように呼んで逃走する!
もちろん、気絶したエレンを運んで巨人に狙われない安全な場所まで行く!
『無理無理!絶対に無理!』
“彼女”は絶望した。
口内に【希望】があるのにどうしようもない現実の壁が立ちはだかっていた。
既に巨体の至る所をミカサに斬られてしまい最低限の修復で済ませている。
それでも彼女達は諦めなかった。
「絶対に…生きてる!」
「どこにいても…身体中を掻っ捌いて汚い所から…出してあげる!」
一度、呼吸を整える為に幹にぶらさがったミカサはエレンが生きていると何度も口に出していた。
彼女の脳裏には辛い現実があった。
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「丸呑みされたトーマスなんだけど…ダメだったわ」
「どうして!?巨人は消化しないって聞いた!」
「胃液よ、消化器官がないけど人間の死体を蓄える胃袋みたいなものがあったの」
「サシャも言ってたけど胃袋らしき器官が死体で満杯になると吐き出すみたいね」
思い出話をしている時にフローラは残酷な事実を告げた。
巨人に丸呑みされたらすぐに救出しないと中途半端に溶かされて死んでしまうと…。
「同じく呑み込まれたエレンの話から、少しの間は生きていられるけど…」
「じゃあどうすればいい!?」
「もちろん、呑み込まれたらすぐにうなじを斬って巨人を討伐、迅速に救出しないといけないわ」
彼女はトーマス・ワグナーの名前が書かれた訓練兵団のワッペンを見せてくれた。
少しボロボロになっていて汚れているが彫られた文字はしっかりと読める。
「見ての通り、そこまで強力な酸性はないわ…もっと早く狩ったら救えたかもね」
「早くってどれくらい?」
「エレンの経験談からすると3分くらいじゃない?」
「分かった!次にエレンを巨人が喰ったら胃袋を掻っ捌く!」
「うなじよ?うなじ!巨人の本体を斬らないと助けられる命も助からないわよ」
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アルミンの話から推察して、この巨人はエレンと同じ巨人化能力者!
他の巨人と違って捕食する為とは思えないが身体は巨人!
今は口に含んでいるが胃袋に収容する可能性もないとはいえない!
速やかに奪還する必要があった。
「待て!!」
女型の巨人の突きを回避したミカサは背後にまわった!
「落ち着け、同じだ、一旦離れるぞ」
飛び込もうとした瞬間、リヴァイ兵士長に制止された。
思わず睨もうとしたが、彼の目を見てすぐに信じて指示に従った。
「この距離を保て…ここならどんな行動でも対処できる」
「このままじゃ…ダメです!」
「落ち着け、良く見ろ…奴の疲弊しているのかそこまで速力は出せないようだ」
確かに通常の巨人のようにスタミナが切れてさっきより速度が落ちている。
しかし、追手2人を油断させる策かもしれない。
ミカサはそう思ったが兵長は既に結論づけたからこそ距離を取った。
「うなじごと喰われたようだがエレンは死んだのか?」
「エレンは生きています!わざわざ口に含んだまま戦い!逃げています!」
「エレンを喰うのが目的かもな…そうなればエレンは胃袋の中、そしたら死んでるか」
「生きてます!」
「だと良いのだが…」
ミカサは激怒した!
そもそもエレンを護衛していたのはリヴァイ班だ!
なら、彼がちゃんと護衛していればこんな事にはならなかった!
護衛のトップが護衛対象を放置した結果、こうなったのだから貴方が悪い!
彼女は無言でエレンに暴行したことがある人類最強の男を睨んだ!
「何か言いたそうだな…ああ分かってるさ」
「お前の過去はフローラから少し聞いている…大切な家族なんだろう?」
「だったら!」
「落ち着け、ここでしくじれば取返しが付かんぞ」
リヴァイは自分で発言しておきながら家族という単語に反応した。
だがそれはすぐに消えた。
うなじを斬られたグンタの死体を目撃した時、思い浮かんだ単語は『またか』だった。
大切な物ほど壊れていくのを経験してきた彼は、またしても失ってしまった。
現在、ミカサの大切な家族であるエレンが失われようとしている…。
それを無視するほど彼は冷酷ではなかった!
「目的を1つに絞るぞ…まず女型の巨人を仕留めるのは諦める」
「奴は仲間をたくさん殺しました」
「あの硬化する能力がある以上は無理だ、俺の判断に従え、新兵なら尚更な」
自分が選抜した班員たちが間抜けに死ぬわけがない。
つまり、まだ何か隠し玉を隠していると思ったリヴァイは湧き上がる復讐の感情を抑えた。
ミカサ以上に情熱的で感情的な彼は新兵にその顔を見せない様に堪えていた。
上官が感情的になって動くほど情けない物はないからだ。
「エレンが生きている事に全ての望みを賭けて、奴が森を抜ける前にエレンを救い出す」
「俺が奴を削る」
「お前は奴の注意を引け、あと死ぬなエレンの為にな…」
ミカサはその話を聴いて拳を握りしめた!
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『嫌だ…絶対に嫌だ』
“彼女”は必死に逃げた!
危惧していた人類最強の男が出現したからだ!
『嫌だ!嫌だあああああ!!戦いたくないいいい!!』
思えば、襲撃する度に難易度が上がっていた。
掌サイズの喋る蠅、フローラ、リヴァイ班、フローラとリヴァイ班残党、ミカサ、ミカサと兵長!
いくら【車力の巨人】の次に持続性が優れているとはいえ【女型の巨人】で連戦はきつかった。
特にフローラですらGで振り回されていたのに、ミカサはその様子すら見せずに急旋回を繰り返していた。
それより強いリヴァイ兵長など想像したくなかった!
『あれはミカサ…!?』
“彼女”の赤くなった視界に飛び出してきたのはミカサだった。
執拗に身体を刻んできた彼女が理由もなく前方に飛び出してくるはずはなかった。
つまり囮!本命は後ろ!!
『お願い!死ね!!』
振り返って左ストレートで貫いたが無駄の抵抗だった。
リヴァイ兵長は一瞬ガスを噴出させて勢いをつけて貫いた巨人の左腕で何度も蹴って回転斬りを行なった。
そして視界は真っ黒になった。
『また目つぶし!?…えっ?』
女型の巨人が目を潰されたと実感した瞬間、兵長は両脚に回転斬りで無理やり座らせた!
『座った!?…えぇ!?』
またしても巨大樹の幹にぶつかったと感知した頃には螺旋状に斬られた左腕が上がらなくなった。
もはやうなじを守るのは背後の樹だけであった。
密着させるのは不可能なので刈り辛いという事だが彼ら相手には何の役にも立ちそうになかった。
早過ぎて反応できず、肉体の再生を諦めてうなじを何度も硬質化させるしかできなかった。
それも持続しないし、どんどん巨人化の限界が近づいていた。
「殺せる…」
動けなくなった女型の巨人を見てミカサは“彼女”の首にアンカーを突き刺して突っ込んだ!
「よせ!!」
リヴァイは、命令を無視した新兵を見捨てられず女型の巨人に突っ込んでいった!
衝撃で位置を察した“彼女”は無我夢中で飛んできた方向に頭を振った!
間一髪、彼はミカサが女型の巨人の頭に激突させないように軌道変更できた。
だが代償は大きかった…。
左脚を強打し、骨折してしまった。
それでも彼は力を振り絞って双剣を握りしめて回転斬りをして女型の巨人の頬を切り裂いた!
「エレン」
頬の筋肉が削がれた結果、顎を支える事ができずに唾液だらけのエレンが日の光を浴びて光った。
その隙を見逃さず汚れるのも構わずに彼を抱えて潔癖症のリヴァイは戦線離脱を図る!
「目的は達成した!ズラかるぞ」
「…すみません」
「エレンは呼吸しているから生きている、多分無事だろう」
「はい…」
ミカサは自分を助けてくれた兵長に申し訳なかった。
作戦は囮になって気を惹くのであって討伐する事ではなかった。
作戦の目標であるエレン奪還を昂る感情で見失ってしまい、己のミスで彼を負傷させてしまった。
「作戦の本質を見失うな…」
「こいつより自分の欲求の方が大事なのか?お前の大切な家族より優先事項があったのか?」
「ないです…エレンが居れば私は…」
「だったら撤退だ、次破ったらこいつを投げ捨てて帰る、良いな?」
「分かりました」
反省しているミカサの気持ちは良く分かる。
だからこそ、同じ過ちを繰り返さない様にリヴァイなりの優しさで警告した。
実際に痛みを知らないと人間は同じ過ちを繰り返すのだから。
もっとも自分が代償になってしまったが…若い奴らを死なせるのは汚物を触るより嫌だった。
彼は念入りに確認してなかった自分が悪いと判断して、結果を受け入れた。
「さて、あいつは…!?」
リヴァイは次の襲撃に備えて女型の巨人を見ると驚いた。
“彼女”は無言で修復された左目の眼球から涙を垂らしていた。
殺戮兵器と言わんばかりに暴れ回った巨人の末路に何とも言えないままその場を後にした。
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結局、兵士の死体をほとんど回収する事ができなかった。
選抜した【調査兵団特別作戦班】の死体は、うなじを斬られたグンタ・シュルツの1名のみ。
彼らがエレンを放置して敵前逃亡するのはあり得ないので全員、名誉の戦死をしたのだろう。
生存の見込みがない行方不明より、名誉の戦死の方が彼らも少しは救われるだろう。
リヴァイは心の中で『済まない』と呟いた。
「もう死亡を確認しただろう?それで充分だ」
「遺体があろうがなかろうが死亡は死亡だ、変わる事はないだろう」
「ですが!第二分隊の遺体を回収できておりません!!」
辛うじて回収できた荷馬車にありったけの遺体を載せた。
それでも死体が足りなかった。
特に右翼の索敵を担当していた第二分隊の隊員たちの遺体は誰1人回収できなかった。
運よく生き残った隊員が必死に縋って回収を懇願していた。
「死体は放棄、死亡が確認できなかった兵士は行方不明と処理する」
「これは決定事項だ…諦めろ」
すかさずエルヴィン団長が彼らの心を砕いた。
こうでもしないといつまで経っても壁内に帰れないからだ。
無駄な希望などさっさと捨てて現実を認識させるために冷酷に切り捨てた。
その背後を生き残りの兵士だけではなく104期調査兵たちも目撃した。
「お二人には…人間らしい気持ちが…ないのですか!!」
「おいやめろ!団長たちだってそう想っているはずだ!」
背後から聴こえる兵士の悲痛な叫びが彼らの胸を鋭く貫いた。
宥める兵士の声もしっかりと届いていた。
「なあエルヴィン、俺が言うのもなんだが…もっと言葉を選べただろう?」
「壁に帰還するだけ考えさせろ、そうではないとここは生き残れないのだからな」
「我々は決して弱音を吐いてはならない、そうでもしなければ組織は瓦解するからだ」
「ならさっさと乗馬して撤退の合図を出せ」
「ははっ…分かってるさ」
彼らは馬に跨り背後を振り返った。
そこには出発した時より半減しており、悲痛な顔をして命令を待っている兵士達が居た。
そして、遥か遠くには複数の巨人の姿が見えた!
「聞け!!これからカラネス区に帰還する!総員!ウォール・ローゼに進撃せよ!」
「「「「ハッ!」」」」
スナップブレードを構えて調査兵団の団長は前へと馬を進めた!
「進め!!」
それに続いて騎兵たちは馬を走らせていく。
長距離索敵陣形を編成する暇すらなかった為、巨人と遭遇しないのを祈るしかなかった。
既に12体の巨人が背後から押し寄せて来ているのは…無視をした!
「大きな木も見えなければ建物も見えん、思うように戦えんな…」
「壁まで逃げ切る方が早い」
「そうか、分かった…やるんだな?」
「ああ、やってくれ」
エルヴィンの意図を察したリヴァイは後方に居る荷馬車へと向かった。
「おい!もう追ってきたのか!?」
「赤色の信煙弾を撃て!」
「もう向こうが撃った!」
「こっちにも来ているだろうが!早く撃て!!」
死体を載せ過ぎて過剰重量の荷馬車は速度がとても遅かった。
護衛班は団長の命令を無視して交戦する気満々だった!
「ディター!?」
「今、助けるぞ!!」
既に巨人の攻撃を回避しようとして負傷者を投げだしてしまった。
慌てて彼は立体機動で戦闘に挑んだが平原での戦闘は圧倒的に不利だった。
覚悟を決めた彼は1体の巨人を討伐して負傷者を担いだが馬は戻ってこなかった。
何度も必死に指笛をしていたせいで背後の巨人に気付かず喰われてしまった。
援護に向かった兵士2名も返り討ちで終わった。
「俺があいつらの後ろにまわる!その隙に…」
「おいお前ら!」
「「兵長!」」
「早くあいつらを討伐してください!」
「お願いします!」
リヴァイ兵長を見た荷馬車の死体輸送班員たちは喜んだ。
これで遺体を壁内にもっていけると…!
だが現実は非情だった。
「遺体を捨てろ、追い付かれる前にさっさとやれ!」
「しかし…」
「遺体を持ち帰れなかったのは過去にいくらでもある…こいつらだけが特別じゃない」
「何故ですか!?兵長ほどの実力なら…」
「俺の刃は生存者を守る為であって、死者を守る為ではない…分かるか?」
兵長から聞かされた残酷な現実。
死体の重量で荷馬車の速度が出ないなら、それを捨てればいい。
考えれば簡単な話だが、現実的には中々できない事だ。
仲間であり同志である戦友を投げ捨てるなんて…覚悟ができる方が頭がおかしいのだ。
「やるんですか!?本当にやるんですか!?」
「俺が全部責任を取る…生き残りたかったら早く決断しろ」
リヴァイは左脚の痛みのせいで交戦できないのが歯痒かった。
負けはしないが、そのまま馬から見放されればどの道、終わりだ。
それに先ほど言った通り、できれば生存者を助けたかったのだ。
「クッ…やるしかない!」
「うわあああ!」
死体輸送班の班員たちが死体を投げ捨てていった。
その様子をアルミン、ジャン、コニーが目撃した。
さきほどまで生きていた兵士だった物がゴミの様に投げ捨てられる光景を…。
リヴァイもその様子を見届けた。
死体の中にはグンタ・シュルツもあった。
言い出しぺの彼は責任をもって最後まで見届けた。
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エレンは大きな音と振動で目覚めた。
「おっ?起きたか」
「えっ…」
さっきまで女型の巨人と交戦していたつもりでいる彼は混乱した。
何故、馬車に乗っているのか、下半身が動かないのかと。
「エレン!」
「ミカサ!?」
「まだ起きないで…安静にして…」
「女型は!?」
「ゴメン…逃がした」
ミカサの返答が信じられなかった。
第57回壁外調査は、結果的にあの巨人をなんとかするものであった。
それを逃した。
「なんで…どうして…なあ作戦は…」
「失敗した…今は休んで」
「これは…まさかまた助けてくれたのか…」
「もう壁に着くから…今度はもっといいベッドで休める」
「えっ?」
緑色の外套を羽織っているのに気付いたエレンであったが更に衝撃的事実を知った。
何の成果も得られずに壁内に帰るというのだ。
耳を澄ませば、5年前にシガンシナ区と同じ鐘の音色が聴こえた。
あの時に帰還してきた調査兵団は負傷者だらけで動く屍の行進のようであった。
今回も同じ失敗を繰り返して、のこのこと恥知らずに帰還している事に衝撃を受けた。
「調査兵団がもう帰ってきたぞ」
「こいつら何しに行ったんだ?」
「さあな?ただ、俺たちの税金を壁の外に投げ捨てたのは成功したみたいだ」
「なんでこいつら未だに存続してるんだ?俺が王様ならすぐに廃止にしてやんよ!」
自分たちの苦労も知らずに安全地帯から罵倒しかできない腰抜け共。
なにより自分よりリヴァイ班を馬鹿にした感じがして許せなかった。
殴りたかった、蹴りたかった、罵倒したかった、謝罪させたかった。
それでもミカサに諭されて必死にエレンは我慢した。
「あ!かっけー!さすが調査兵団だ!」
「あんなボロボロになっても戦い続けるなんて!」
「お兄ちゃん…危ないから脚立を降りようよ…」
「エリー!僕は調査兵団に入って…巨人を倒すんだ!!」
荷馬車に居るエレンの姿を見て興奮する少年とエリーと呼ばれた少女。
皮肉にも壁外調査の開始前に自信満々の姿を見せていた少年たちであった。
5年前のシガンシナ区で、調査兵団に憧れていた幼き自分と、ミカサの姿を重ねていた。
そんな少年たちの目には、同じようにボロボロになった調査兵にしか見えなかったのだろう。
エレンは右手で目を隠して、隠すように泣いた。
「これで最後か…」
「リヴァイ兵長…」
ウォール・ローゼの突起した要塞都市であるカラネス区。
最後に入れたのは、役割を自分から放棄した死体輸送班と荷馬車だった。
「ああ、残酷な命令をして済まなかった」
「リヴァイ兵長…自分は…自分は!」
リヴァイは彼らが戻ってくるまで双剣を構えていた。
まるでしんがりのように、唯一の出口が塞がるまで待機していた。
巨人が入ってくるのを警戒していたのもあるが、どうしても彼らに逢いたかったからだ。
「これが【奴らの生きた証】だ、俺にとってはな…」
「これは…」
「ああ、あいつらのワッペンだ、今度は投げ捨てるなよ」
「「兵長…」」
渡したのは【自由の翼】のワッペンだった。
もちろん、さきほど積み荷のように扱った死体たちのものだ。
死体を確認するついでに回収しておいたのがここで役に立った。
これが亡き戦友たちが残した【生きた証】だった。
思わず泣いてしまった兵士たちは、無言で馬に乗って去っていく兵長に敬礼した!
「見ろよ…リヴァイ兵長だぞ」
「本当に1個旅団の実力があるのか?過剰評価じゃないか?」
「だよなーあんなチビがそんな活躍できるわけないもんな」
「うるせぇ!!」と普段なら返したいリヴァイであったがそれどころではなかった。
選抜した部下たちの死は、いつも以上に影を引き摺っており遺族と面会する勇気すらなかった。
思わず馬を進めて最後尾から逃げ出して先頭に居るエルヴィンを抜かしたくなるほどに…。
「兵長!リヴァイ兵長殿!」
エレンが乗っている荷馬車を見つけて思わず馬から降りてしまったのが運の尽きだった。
「娘がお世話になっております!ペトラの父です!」
「娘に見つかる前に話してぇことが…」
「構わない…続けてくれ」
よりによってペトラの父親に遭遇してしまった。
シングルファザーに育てられた大切な部下を預かった身。
兄貴分にぶっきらぼうながらも育ったリヴァイからすれば、感じる物があった。
「娘から手紙が来ましてね…腕を見込まれてリヴァイ兵士長に仕える事になったとか…」
「あなたに全てを捧げるつもりとか…ホント親の気苦労も知らねぇで惚気てるわけですわ」
「調子に乗った娘が迷惑をかけませんでしたか?」
「そんなことは無い、立派な兵士だった」
兵士長に呼びかけたブルーノ・ラルは気付いていた。
愛する一人娘のペトラが戦死したことをー。
そうでもなければ彼から離れるわけがなかったからだ。
なにより彼の表情から碌な死に方をしてないと分かる。
…分かっているのに事前に考えていた言葉が喉から溢れてきて止まらなかった。
「…まあ、父親として嫁に出すには早ぇかなと思いまして…あいつは19歳だしまだ…」
「そうだな」
「…兵士長、正直に言ってください!娘は!娘は死んだのですね!!」
「済まない…遺体すら確認できなかった」
「分かっていました、覚悟してましたよぉ…気を落とさんでくでせぇ…」
「そんな顔をされたら娘は成仏できませぇんから…!」
ペトラの父親の気遣いが却ってリヴァイ兵士長を傷付けた。
今回も選択肢を間違えて部下を死なせた。
次回も選択肢を間違えて部下を死なせる糞野郎に気遣ってくれる優しい父親を直視できなかった。
荷馬車で話を聴いていたエレンは更に泣いた。
「なんだ?後ろの方が煩いぞ…?」
しかし、近くに居た兵士が後ろの騒動に気付いた。
カラネス区の住民の大半が歓迎ムードではなく、むしろ罵倒や軽蔑をしていた。
それでも口論しながら馬を走らせる複数の兵士が煩すぎたのだ。
「【人類最強の女】という称号をこの俺様が認定してやるぞ!」
「全然!嬉しくありませんわ!!」
「その引き換えに、ペトラを病院に連れて行く権利をやろう」
「エルドさんと比べて軽傷なんだから、調査兵団の衛生兵で充分でしょう!?」
「バカ!野郎にペトラの裸を見せろって言うのか!?天地がひっくり返っても許さん!」
「まだ裸を見れる関係じゃないのね…」
「すぐに見れるようにしてやるとも!」
聴き慣れた声がしてブルーノ・ラルとリヴァイは後ろを見た。
ついでにエレンも荷馬車の縁を掴んで声がした方に覗き込んだ
「あんたたち!私を何だと思ってるの!?」
「負傷して足手まといになったメインヒロイン」
「怪我をして少しは素直になった優秀な俺様に相応しい嫁候補オンリーワン!」
「オルオはともかく、フローラまでそんな事言うとは思わなかった!!」
「事実だろう?」
「事実ですわ」
「あーむかつく!」
彼らが目にしたのは、罵倒し合いながらも馬で爆走するフローラとオルオ。
フローラの後ろには何故か縛り付けられながらも罵倒できる元気がある血塗れのペトラ。
そして後方には黒髪で、おさげが2つある死んだ目をして馬を走らせる女兵士の姿だった。
「生きていたのか…あいつら」
彼女達は女型の巨人の戦闘で生き残る事が出来た。
むしろ、その後が苦難の連続であった。
特にフローラが!
エルヴィン団長が率いる本隊に合流できなかった彼女達が帰還できた理由。
それを説明するには、エルド・ジンが女型の巨人に噛まれた時まで時間を遡る必要がある。