進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
第57回壁外調査は大失敗で終了し、エルヴィン団長率いる本隊はカラネス区に向かっていった。
その遥か背後に敗残兵たちが同じ場所を目指して進撃していた。
ただ、一足早く出発した本隊ですら追いかけてきた巨人と接触し交戦する羽目になった。
その背後に居る部隊が巨人と交戦せずに帰還できるわけなかった。
「ねえ!このままだとあの巨人と戦闘になっちゃうけど…どうするの!?」
「進軍するのに邪魔な奴だけ潰すわ!」
前方の右側に巨人を捕捉したフローラ!
顔馴染みのミーナに軽く返答して交戦の準備をした!
舌鼓を3回打ってから、愛馬のライリーの首の右側を軽く3回叩いた。
この合図は、混乱させないように相棒に情報を伝達する為に行なった。
舌鼓の3回は緊急事態、3回叩いたのは交戦する、右に叩けば右に巨人が居るという意味である。
彼女が訓練や壁外任務などの実戦で予め調教して仕組んでいた物だった。
「おりゃあ!」
ブリッツメッサーを構えていたフローラは、ライリーの鞍上から飛び出して巨人の首に左アンカーを射出した。
巨人の攻撃を身体を捻って辛うじて回避し、右のガスだけ噴出して時計回りに首を斬った!
うなじを抉り取った感触を確認する暇もなく、近くにあった木にアンカーを射出して離脱した。
「ライリー!!…なんで指笛吹く前に帰ってきたの…」
相棒を呼び戻そうと指笛をしようとしたら何故か飛び移った木の下におり、フローラは困惑した。
ライリーは巨大樹の森で爆走していた時に見捨てられて、かなりのショックを受けていた。
なんだかんだで自分に構って欲しい彼女は、早く降りて来いと言わんばかりに木を揺する!
「ただいま…ちょちょっと待って…まだ!」
前足で揺すり始めたのを見て慌ててフローラは着地して彼女を愛撫しながら手綱を握った。
ところが鐙につま先を乗せて鞍と手綱を掴んだ瞬間に走り出してしまい、必死にしがみ付いた。
誤って彼女の腹を強打しないように体勢を立て直した頃には、背後に居た巨人を引き離していた。
彼女は巨人に対して好戦的であるが、今回は相棒を乗せて地平線の彼方へ行きたかったようだ。
「これは、待機の命令も覚えさせないといけないわね…ねえ聞いてる?」
耳を伏せて急加速したのを肌で感じ取ったフローラは即座にこの案を諦めた。
後ろを振り向くと巨人たちが更に引き離されているのが見えた。
ここまでは、巨人の習性と馬の速度を利用した長距離索敵陣形と同じだった。
問題だったのが…。
「何で追い付かれそうなの…?」
他の調査兵団の騎手たちに巨人が距離を詰めていた。
誰もが疑問に思ったが、馬からしてみれば息切れしてるのに『全速力』を保てなかった。
更に10体を越える巨人による跫音と地面の衝撃で、馬が大混乱しているのもあった。
調査兵団の馬は、頻繁に相棒となる騎手が変わるので温厚で順応できるように訓練されている。
逆に言えば、順応できない環境に置かれると使い物にならなくなる性質であった。
「ミーナ!手綱を緩めて!!」
「フローラ!!無理よ!これ以上遅くしたら!追い付かれる!」
「ああもう!」
「待って!?どこに行くの!?フローラあああああ!?」
ミーナの馬が限界だと察したフローラは、3体の巨人を惹きつける為にわざと前に出た。
巨人の群れはミーナから新手の女兵士の方に向かって進撃していく。
舌鼓と扶助によって、別の巨人へとライリーは指示に基づいて向かっていく!
進行方向に居た4体目の巨人は目視でフローラを捕捉し、両手を前に出して走り出した!
その股をタイミングよく潜り抜けていった結果、走っていた巨人達は激突した!
「まず4体…これで当分は大丈夫なはず…」
それぞれ巨大な質量が速度をもって激突した衝撃は凄まじく巨体はバラバラに飛び散った。
うなじ自体は損傷していないので、1時間もすれば元通りに復活するだろう。
もっとも、それまで敗残兵は黙って待機するわけなかった。
「よせ!!やめろおおおおおお!」
声がする方を見ると負傷兵を後ろに乗せた兵士に1体の巨人が襲撃してきている所だった。
彼は巧みな操作で辛うじて攻撃を回避させたものの負傷兵を落下させてしまった。
見捨てられなかったのか、落下した負傷兵に群がった巨人の群れに突撃していった。
そして返り討ちに遭うのをフローラを含めて敗残兵たちは見ている事しかできなかった。
これで脱落者2名、生存者22名。
「オル…」
「エルド、気が付いたか!」
「捨て…くれ」
「ああん?もう一度言ってくれ!」
「俺を…囮に…捨てて…」
「バーカ!お前には生きてもらうんだからな!青二才に生かされる気分はどうだ!」
オルオの背後に乗せてもらったエルド・ジンは死にたかった。
全身を強打し両腕を喪失した彼の痛みは想像を絶するものであった。
生物は他人の痛みを味わう事はできない。そう、痛みは本人しか分からない。
だからこそ、瀕死の彼は介錯して欲しかった、苦しみを終わらせて欲しかった。
「痛い…よ…苦…し…い、早…く」
「うるせぇ…黙って乗ってろ」
「もう…痛…死…を」
死は安息だ。
あらゆる生物がこの世に誕生している以上、最終的なゴールである。
つまり【生】は泡の様に【死】を内包している。
どんなに苦しんでも、どんなに激痛だっても、どんなに高熱、低温で苦しんでも。
どんなに失敗しても、どんなに絶望しても、どんなに行きたくても。
最終的に苦しんだ先にたった1人で深淵に沈んでいく。
そこは、痛みも自身の感覚もなく、ただ永遠の安息に得られる場所である。
「オ…落と・・・て…死に…たい」
エルドは頼んだ。
身を引き裂くような激痛で声すらあまり出ず、あまりの苦しみに自身の死を欲していた。
死ねばこれ以上苦しむことは無い。
子孫を残そうとする本能より死という甘い眠りを欲していた。
そしてなによりオルオまで自分のせいで死なせたくなかった。
「絶対に捨てねぇぞ!これをお前の恋人に笑い話として話してやるからな!覚悟しておけ!」
オルオは、なんとか彼の気力を回復させて、生還させたかったが会話する度に弱っていく。
その様子を唇を噛み締めながら必死に馬を走らせる事しかできなかった。
「エルドさん!しっかりしてください!」
「フ……ロ…ラ…殺…して…」
「痛いんですよね!苦しいんですよね!息ができないんですね!分かりますわ!」
「わたくしも立体機動訓練で何度も落下して死にかけてますから!」
「でも激痛は我慢するしかないんです!その痛みに耐えるしかないですわ!」
フローラはエルドの負の感情を聴いて彼の元に向かって話しかけた。
人は痛みを味わうまで何度でも失敗を繰り返すように激痛を何とかする事はできない。
さきほどフローラに服用させられた鎮痛剤は、ペトラやオルオと比べれば誤差レベルだった。
壁内に帰還したら劇薬を服用する可能性から、事実上、薬による鎮痛作用はほとんどなかった。
衛生兵も死にかけた兵士に多量の鎮痛剤を使用するほどの価値はなかったと思われる。
「エルドさん!大丈夫です!貴方なら絶対に耐え切れます!」
「リヴァイ兵士長直々に!選抜した兵士が、激痛で、自殺するなんてありえない!」
「もう壁が見えてます!もうすぐです!着いたら本格的な治療が、受けられますわ!」
「今が一番激痛です!苦しいです!これさえ乗り越えれば、少しは痛くなくなります!」
「エルドさんには!待ってくれている人が!居ます!ここで死んだら!全て無駄になります!」
「激痛を我慢して!もっと!貴方なら耐え抜いて!生還できるはずですわ!」
必死に話しかけているフローラの話にオルオは割り込む勇気はなかった。
自身も激痛で馬で駆け抜けている内に悪化していた。
誰かに文章で伝えても体感は伝わらないが、死にたくなるほどの激痛としか言いようがなかった。
神は生物に激痛を味わって欲しくてこの世に誕生させたのかと思うほどの苦痛だった。
「エレンはエルドさんが噛まれた時、怒りで巨人化しました!」
「ならここで死ねば、彼はストレスから自暴自棄になって人類に反旗を翻して暴走しますわ!」
「激痛も苦しみも!身体がエルドさん本人を生き永らえさせる為の防衛反応です!」
「痛み!苦しみ!もうすぐ鎮痛剤の効果が出ます!それまで我慢してください!」
事実に嘘を交えながらフローラは何度も声をかけた!
辛うじて50mの壁が地平線に見えてきただけでまだ距離があった。
鎮痛剤もほぼ意味はない、それでも彼の生きる原動力になるなら平気で嘘をついた。
「クソ!左に新手の巨人!」
「オルオさんは右に行ってください!」
「俺様に指図をするのか!?」
「ではエルドさんを紐で縛り付けたまま戦う気ですか?」
「ぐっ…後で倍返しするからここで死ぬんじゃねえぞ!」
「分かってます!」
オルオは最低限の武装、エルドに至っては両腕と装備品はなかった。
それでも過剰重量になっており馬の速度が落ちている以上、迫ってきた巨人を狩るしかない。
フローラは絶好なカモを狙っている巨人に向けて鞍上から立体機動に移った!
「しつこい人は!嫌いですわ!!」
左アンカーを射出して巨人の首に撃ちこんだ!
そしていつも通りワイヤーを巻き取ろうとした。
「えっ…」
ところが刺したはずのアンカーが外れた。
違和感を覚えてすかさず右アンカーを射出したおかげで地面に激突せずに済んだ。
原因を考えている余裕もなく巨人に突撃してただ討ち取る事を専念し双剣を構えた!
なんとかうなじを切り裂いて地面に着地した彼女は左グリップを確認した。
「よし、よし、よし、よし、あれ?」
人差し指で引くアンカー射出のトリガーに問題は無かった。
中指で引く圧縮ガス噴出も通常通り機能した。
2つのトリガーの前にある護拳の様なレバーを引いてワイヤーが巻き取れるのを確認した。
ハンマースイッチを上下に動かしてアンカー射出装置の角度調整も問題なかった。
「まさか補助スイッチが壊れたの!?」
アンカー射出するトリガーの真上にあり、上下に並んでいる2個の補助スイッチだった。
その下にあるアンカー開閉機能のスイッチ、厳密に言うと伝導に異常があったようだ。
感覚では気付かなかったが操作してもアンカーが開かなかったので現物を目視で確認した。
そこで原因に気付いた。
「ライリー!!」
慌てて指笛を鳴らしてライリーを呼び戻した。
すぐに上の補助スイッチを弄りブリッツメッサーの刀身ロックを解除し刃を回収した。
大きく変形したアンカーが開くわけなかった。
「なんで…」
フローラはライリーに跨って遥か遠くに行った敗残兵たちの後を追いながら考えていた。
アンカーはとにかく頑丈に作られていた。
民家のレンガ、樹の幹、50mの壁、巨人の肉体、とにかくあらゆる所で酷使される部位。
だからこそ、下手すれば命綱のワイヤーよりも頑丈だったはずだ。
もちろん、壊れる前に交換するが技術4班の自信作であり新品だからする必要はなかった。
「グリグリさんの説明じゃアンカーは頑丈だったはず…」
調査兵団が使用している立体機動装置は、『一式装置』と『強化装置・1型』
もしくはその改良型である。
装備品である『ブリッツハーケン』はそれらと比べてアンカー強度と巻き取る速度が優れていた。
ヒット&アウェイに特化した急襲の名を冠しているこの装置は伊達じゃない。
特にアンカー強度が優れているのに壊れた以上、何か要因がある。
「エレンにぶつかった時?いえあれは右ワイヤーだったはず…それに」
巨人化したエレンにぶっ飛ばされた時の衝撃で壊れたかと思ったがすぐに案を却下した。
さっきまで機能したので、そこで壊れたわけではないし、金属疲労でもない。
まさかの品質問題による強度不足を浮かべたが試作品のアンカーでやらかすわけないだろう。
「応急措置、ないよりマシね」
左アンカーにさきほど外したブリッツメッサーを外套で生成した紐で結び付けた。
少なくとも緊急事態の時に左アンカーを撃ちこんだ際、少しは張り付いてくれるだろう。
そう思っていた時、大きな雄叫びを聴いて声が聴こえてきた方向を見た!
「この!忙しい時に【変異種】!?」
褐色の肌で身体中に白色の刺青が隅々に入ったような独特な巨人である。
問題なのは、どいつもこいつも通常種や奇行種と違って異様な強さであり相手にしたくなかった。
胃液を吐き出したり、アンカーが刺さった瞬間に転がったりと相手にしたくない化け物。
白色の刺青の大元のような大きな膿のような部位を攻撃しないと、うなじが斬れない強敵である。
今思えば、女型の巨人が使用した硬質化のような物であるのかもしれない。
「こっちに来なさい!」
フローラは赤色の信煙弾を変異種に向かって撃ちこんだ!
ハンマーのような頭部、特に顎が異様に発達した変異種は四足歩行で彼女に向かってきた!
口を縦に大きく開いた口からは、大きな臼状の歯がびっしりと生えていた。
彼女は咆哮をしながら口を開きながら突っ込んでくる巨人を岩場に誘導してみせた。
「ほら!こっちよ!そう、そう!今!!」
馬のライリーごとフローラを捕食して胃袋に収めようとした変異種。
噛みつこうとした瞬間、彼女たちは急加速して代わりに大岩を喰わせた!
「よし!これで…あっダメね…ここで仕留めないと!!」
これで放置して逃げられると思ったフローラの考えは甘かった。
大岩を脅威な顎で噛み千切って咀嚼した岩を彼女に向けて噴出した!
散弾と化した岩の欠片は距離があったおかげで直撃は免れたが、これで放置はできなくなった。
こんな散弾を前方に居る調査兵の編成に撃ちこまれたら全滅しかねないものであったからだ!
調査兵団の馬は疲弊して速度が極端に落ちており追撃されたら振り切る事は困難だったのもある。
「かかってきなさい!!」
最後だった予備のブリッツメッサーを装填して変異種と正面対決をした!
ライリーに指示を出しつつ、変異種の動きを観察し、弱点を探した!
幸いにも、両肩に白い器官が露出しており、うなじ付近で都合が良かった。
もし腹部にあったら一度横転させるなり動きを止めないと攻撃の仕様がないからだ。
「ああもう!!」
フローラは右アンカーを巨人の首に向けて撃ちこんだが硬くて弾かれた!
やむを得ずワイヤーを回収しつつ左アンカーで左肩の白色器官に撃ちこんだ!
「くっ!」
その瞬間、変異種が両手を地面に叩きつけて両脚を閉じて尻を頭より高くした。
それを見たフローラは左のワイヤーを手で捻るように引っ張った!
簡単に抜けてしまった刃付きアンカーであったが些細な問題だった。
変異種は前転して獲物を圧し潰してから喰う算段だったが彼女は見抜いた!
既に右アンカーを地面に射出しており、高速でワイヤーを巻き取った!
地鳴りと砂煙と共に高速で前転する巨人の攻撃を辛うじて彼女は回避したが地面に激突した!
「この…!岩砕きの変異種!!絶対に赦さない!!」
受け身を取ったものの左腕を強打して痺れて動かなくなった。
それでも変異種の攻撃は止まらなかったがフローラも素直にやられる気などなかった!
同じように右肩の白色器官に右アンカーを撃ちこんだ!
変異種もさきほどと同様に前転した!
「そこ!!」
アンカーを撃ちこんだだけで立体機動に移らなかった。
すぐにアンカーを外して前転を落ち着いて回避した彼女はもう一度右肩に撃ちこんだ!
勢いを殺さずに1本のブリッツメッサーで両肩を斬り付けた!
肌の硬質化を保っている器官と予測される部位は膿のような性質のおかげであっさり潰せた!
これでうなじを狙えるようになったフローラだったが更に問題が発生した!
「痛っ!!」
度重なる酷使により固定ベルトが破断した。
固定ベルトは腿に鞘を取り付ける為に重要な役割を果たしているが他にも機能があった。
それは足の裏に全体重支える時に負荷を和らげる役割があった。
今回の場合は、左アンカーが破損している為、必然的に右アンカーを酷使する。
その為、左足の裏に全体重をかける必要がある。
今までは固定ベルトのおかげで負担を減らせていたのにそれが破断してしまった。
「このポンコツっ!!ごふっ!!」
幸いにも鞘を取り付ける部位のベルトは無事だったので、辛うじて立体機動で回避できる。
問題なのは全負担が腰に集中してしまうということか。
例えば物を持ち上げる仕事で腰にコルセットやベルトをすれば負担を減らせて腰痛防止になる。
もちろん無くても支障は無いが、三次元の動きに加えて全体重とGが掛かる立体機動は別だった。
両肩を斬った後に掴み攻撃を立体機動で回避したフローラは負担が大きすぎて吐瀉した。
一日中立体機動できるように訓練してきた彼女。
それでも固定ベルトが機能しない立体機動は意識が飛びそうになるほどの負担だった。
「ハァ…ハァ…この!!」
破断したベルトを左手で掴んで呼吸を整えるフローラであったが時間がなかった。
まず巨人は肉体の再生能力が尋常ではなく、さきほどの傷が完治するのに2分もなかった。
巨人の弱点はうなじを斬る事だけなのに、それを硬質化して守っている部位が修復されている。
つまり、急いでうなじを斬らなければ振り出しに戻る。
それどころか立体機動がうまくできなくなったせいで逃げ切れる自信もない。
ライリーを呼ぶ前に喰われるし巻き込みたくなかった!
「喰われて!たまるもんですか!!」
咆哮をあげて突っ込んでくる変異種にフローラは右手で刃を構えて動きを見据えた!
乾いた音と共に変異種の右目が突然弾けた!
眼球という重要な器官が破損した事により脊髄反射で両手を押さえた隙を彼女は見逃さなかった。
「あああああああ!!!」
両方のアンカーを変異種の首に撃ちこんで高速で巻き取った!
すぐに左アンカーが外れたら気にすることもなく双剣でうなじを切り裂いた!
辛うじて肌の硬質化する前にうなじを斬られた顎が異様に発達した変異種は倒れ込んだ。
褐色の肌が更に黒ずみ蒸気を噴き出して巨体を徐々に霧散して地上から消滅していく。
その姿を見届ける事もなくフローラは指笛でライリーを呼び戻した!
「あれ?」
ライリーの後方に続いて駆け寄ってくる一騎の兵士の姿が見えた。
何故か狩猟銃を持ちながら手綱を握っており、まるで…。
「まさか乗馬したまま、変異種の右目を撃ち抜いたの!?」
そしてスナイパーが誰か判明した!
「フローラあああああ!!」
「ミーナ!?」
冒頭で会話したっきり放置状態だったミーナがまさか助けに来るとは思ってなかった。
ミーナからすれば危なっかしい親友を心配して追いかけていた。
いつ死んでもおかしくないこの残酷な世界。
先陣を切って死地へと進撃する親友の姿を必死に連れ戻そうとしていたのだ。
そして変異種に苦戦しているのを見て両親に託された狩猟銃を構えて右目を狙撃した。
元々獣を狩る物であり巨人には効果がないはずだったが眼球だけは例外だったようである。
「大丈夫!?」
「ええ、ミーナのおかげで助かったわ」
「よかった…」
狩猟銃の銃口から煙が少し出ており、フローラはミーナが右目を狙撃したと瞬時に判断した。
銃の扱いや狙撃も血反吐を吐いた3年間の訓練兵時代に習っていた。
ただ、立体機動訓練に比べれば対人格闘訓練と同様に真面目にやらなくていい科目であった。
狙撃で巨人を倒せない以上、最低限の知識と技量さえあれば良かった。
それでもミーナの数少ない得意な科目でありベルトルトに次ぐ射撃の名手である。
まさか、ここで役立つとは思わなかったフローラはライリーに跨りながら考えていた。
「ねえさっきの動き、フローラらしくなかったけど何かあったの?」
「固定ベルトが破断して左アンカーが壊れた」
「フローラあああああ!!!」
まるで他人事のように衝撃的な真実を述べたフローラにミーナは叫んだ!
なんで親友は自分の身体を酷使して死にかけるのか理解できなかった!
温もりも香りも声も死んだら二度と味わう事はできない。
トロスト区防衛戦の時、覗き込む巨人に喰い殺されそうになった彼女は…。
実は自分は死んでいるのではないかと思っていた。
「フローラああああああ!!」
「ああ分かったわよ、もう無理しないわよ!」
「フローラあああああああああ!!」
でもフローラに助けられて彼女の胸の中で思う存分、泣いた。
汗と体臭、温もり、香水の香りを思う存分味わったミーナは自分が生きていると実感できた。
だからこそ、フローラが死ねば今度こそ自分は死後の世界に取り残されると恐怖した。
トロスト門での誓いを果たせなくなった親友のトーマスの遺志を継いだ。
でも1人では重責で潰されそうな彼女は残った親友と一緒に居たくて調査兵団に入団した。
「ミーナ!一緒に帰るわよ!」
「ほんとに?」
「えぇ、カラネス区に帰ったら…一緒に食事をしましょう」
「一緒に寝てくれないの?」
「今日の晩、一緒に寝るから生き残る事と馬を走らせる事だけ考えましょう!」
「うん!」
前方で赤色の信煙弾がいくつも上空に向けて撃たれた!
巨大樹の森から抜け出した残党から撃たれたものではなかった。
遥か前方に居るはずの本隊が巨人と交戦している証拠だった。
「残念だけど、まだ巨人が立ちはだかっている様ね」
「私が全部、撃ち抜くわ!」
「最低限で良いわよ…」
次弾を装填したミーナの自信満々な笑みを見てフローラは溜息をついた。
前方に居る巨人は14体ほど、背後に居るのは18体ほどである。
問題なのは、巨大樹の森に集結していた巨人の大群がこちらに向かって来ている事だ。
100体どころか300体以上の唸り声の大合唱を聴いたフローラは表情を崩すことはなかった。
「ミーナ、ちょっと良い?」
「どうしたの?」
「これから前方の巨人に狙撃してもらうけど準備は良い?」
「もちろん!私に任せておいて!」
「頼りにしてるわよ」
立場が逆転して頼られている実感があるミーナは手綱を強く握り締めた!
ようやく親友に恩返しができる!絶対に狙撃を外す無様な真似をしないと決意した!
その隙にフローラは、破断した固定ベルトをどうするか考えていた。