進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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39話 回想3-3 最大の難関は、カラネス区前門の守備隊

「ロボフ隊長!そろそろ休憩なされた方が…」

「壁外調査に向かった調査兵団が気になってな…」

「ご親族が参加なされたのですか?」

「いや、血税と人命を投げ捨てる調査兵団が巨人を連れ帰ってくると思うと…堪えきれない」

「そうですか…」

 

 

ハルトマン・ロボフは、駐屯兵団第三師団に所属するカラネス区の前門の守備隊長である。

彼の脳裏にはトロスト前門の惨劇の話を思い浮かべていた。

門に穴を空けられ、多数の巨人が侵入してきたあの事件を…。

トロスト前門の守備隊は、両手で数えられる砲兵以外戦死した。

そして今度は自分にお鉢が回ってくるのかと、右往左往し壁上を歩き回っていた。

 

 

「ですが今回はあの女兵士が参加されています…取り越し苦労なのでは?」

「あいつかー何か人間らしくなかったんだよな…」

 

 

調査兵団は異常者の集まりだ。

調査兵団結成から勝利した歴史はほとんど無い。

意識高い系や自殺願望者が定期的に入団して戦死する兵団であった。

あの女兵士も実力を過信したバカ女だと思っていた。

ところがカラネス区壁外で14体も単独で巨人を討伐してみせた。

 

 

「隊長、我々も何もせず稼がせてもらったんですから良いじゃないですか」

「そうですよ。2回目もやってもらって、おこぼれをもらいましょうよ!」

「お前ら…」

 

 

王政の行政トップ、ピエール・J・アウリール宰相を筆頭とする貴族達。

遊び感覚で壁上にリフトで登り巨人討伐ショーを見下ろして興奮していた。

よっぽど面白かったのか、気前がいいくらいに鋼貨をばらまいてくれた。

お陰様で部下達は「二度目はいつでしょうか?」と毎日、何度も訊かれる羽目になった。

正直、勘弁して欲しかった。

カラネス区前門の責任者として、カラネス区の住民として本当にやめて欲しかった。

 

 

「隊長!調査兵団の集団を発見しました!」

「予定よりだいぶ早いな…」

「赤色の信煙弾を確認…おそらく巨人の襲撃で壊走したのでしょう」

「チッ!やはり口だけの集団だったか!休憩中の固定砲整備班を全員ここに呼び戻せ!」

「ハッ!」

 

 

壁外調査に帰還する度に面倒事を持ち帰ってくるとトロスト前門の隊長は愚痴っていた。

面倒事というのは、調査兵団を追っている巨人の事だろう。

友軍だから見捨てる事はできないが、だからといって砲撃で援護するほどの技量はない。

 

 

「先頭はエルヴィン団長か、そして規模は…半壊か」

「貴重な馬と命と血税を壁外に投げ捨てやがって…どうかしてる」

 

 

彼は望遠鏡で調査兵団の状況を確認していく。

思ったより壊滅しておらず、また壁外調査に行く余裕がありそうでうんざりした。

 

 

「ん?本隊以外にも居るのか…?」

 

 

更に地平線の彼方から調査兵団が出現した。

規模は1個分隊規模、本隊を死守する殿(しんがり)には見えなかった。

 

 

「隊長!指示を!」

「エルヴィン団長率いる調査兵団が壁内に帰還するまで援護する!砲兵は準備を急げ!」

「先遣班は、居残り組の調査兵団の兵士と共に撤退を援護せよ!」

「本隊を収容したのを確認したら門を閉める!以上!」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

ロボフは、うんざりした。

調査兵団が存続している以上、何度も同じ事を繰り返すのだろう。

精々、頑張って西方のクロルバから出発して足掻いてくれとしか思ってなかった。

とにかく問題事をこれ以上持ち込んで欲しくなかった。

自分にはそれを受け止める器などないのは自覚しているから…。

 

 

-----

 

 

「団長!もうすぐカラネス区の門に到着します!」

「速やかに先鋒を派遣し、門付近の巨人を掃討!撤退の援護をせよ!」

「ハッ!」

 

 

エルヴィン・スミスは、衛生兵や馬医者を巨大樹のの森に置いてきたのをさきほど思い出した。

下手すれば育成まで10年は掛かる価値がある人材を切り捨ててしまった。

これでは、ウォール・マリア奪還が10年以上先延ばしになるだろう。

そもそも今回の失敗で調査兵団が存続できるのかも怪しいという有様だ。

 

 

「今回も壁外調査は失敗、これではエレンが…いや、まず王政と交渉するのを考えた方が先か」

「啖呵を切ってこの有様です…なんと説明すればいいのでしょうか…」

「それは私に任せてくれ、先鋒の指揮は任せたぞ」

「ハッ!」

 

 

副官が後方に下がったのを確認して彼は壁を見る。

それは大きかった。

人類を守る壁、それは壮大で素晴らしくウォール教ができるのも納得するほどのスケールだった。

ただ、門の穴を塞ぐことすら苦戦している人類がこんな壁など築けるのだろうか。

まるで巨人が人類を閉じ込めておく鳥籠に見えてしょうがなかった。

 

 

「団長、報告します!」

「どうした?」

「壁上固定砲の援護が期待できません」

「何故、それが分かった?」

「壁内に待機させた兵士がここに来て知らせてくれました」

 

 

第57回壁外調査は、最低限の人員だけを壁内に残して非戦闘員も投入した。

巨人化能力者を釣る餌であったが、得た成果以上に代償がでかすぎた。

そして援護するのは、壁を補強工事と警備をするのが主任務である駐屯兵団の第三師団。

最初から期待していなかったが、ここまで分かり易く無能っぷりを発揮するとは思わなかった。

 

 

「そうか…」

「一応、前門の砲兵部隊は援護してくれるそうですが…」

「期待はできんな」

 

 

トロスト前門で展開していた第一師団の部隊はかなりの精鋭だった。

壁上固定砲が壁上に設置され、壁外調査から帰還する度に援護してくれた砲兵部隊。

自分たちの命を投げ出してでも巨人に立ち向かう先遣班。

そんな彼らでもトロスト区防衛戦では巨人を7体討伐する事しかできなかった。

普通の兵士では30人を犠牲にして巨人を1体討伐できると考えるとキルレシオは良いくらいだ。

第三師団には同じ働きを期待するのは酷であろうし、期待する方がおかしいだろう。

 

 

「第一分隊にも門付近に居る巨人の掃討をしてもらう、それをミケ分隊長に伝えてくれ」

「了解しました!」

 

 

団長の指示に従って一騎が指令班から外れていった。

それを見届けようと振り返ると赤色の信煙弾がいくつも登っていた。

だが、明らかに本隊から離れた場所からも1本登っていたのを確認した。

 

 

「まさか…まだ居るのか」

「どうかされましたか!?」

「いや何でもない、我々は少しでも時間を稼ぐ!」

 

 

エルヴィンは緑色の信煙弾を撃ち出して進むべき方向を示した!

あえて蛇行して巨人を門付近と合流させないように時間稼ぎをする為に!

本隊から脱落した兵士など構っている余裕などなかった。

 

 

-----

 

 

「おかしい…」

「どうしたの?」

「巨人が多すぎるの!いくら何でも集まり過ぎよ!!」

 

 

フローラ・エリクシアは何度も壁外任務をやっていたからこそ違和感に気付けた。

巨人が出現するのは南方と言われており、実際に南のトロスト区の壁外に巨人が襲来してくる。

今、向かっているのは東区のカラネス区である。

つまり部隊から左側から巨人が襲来してくるのを想定していた。

 

 

「確かに…どうすればいい!?」

「信煙弾で視界を妨害するしかないわ!」

 

 

だからこそ敗残部隊は雁行の陣形で展開していた。

左翼側が一番前に位置しており右翼側が最後尾になるように並走していた!

左側から巨人が襲来してくる可能性が高い以上、索敵も兼ねてフローラは一番前に居る。

振り返らなくても巨人の“声”で数はおおよそ把握していたが、数が多すぎた。

さきほどまで大合唱と揶揄したが、今はフリッツ王の誕生祭といわんばかりの騒動だった。

 

 

「それに…何でこっちに来ないの!!」

 

 

左翼が一番前で右翼が後方になっている以上、右翼が狙われるのは必然である。

だが、左翼を狙える巨人もわざわざ前を通過し迂回して右翼を狙っていた。

挟撃というよりまるで右翼に【巨人を惹きつける要素】があるようであった。

 

 

「ミーナ!右翼を援護しに行くわよ!」

「…見捨てればいいのに」

「え?」

「ごめん、早く帰りたくて本音が出ちゃった」

「そうね、これで最後にしましょう」

 

 

ここに居る兵士の大半は、少しでも馬の負担を軽くする為、替えの刃を捨てた。

立体機動を行なうのに必要なガスボンベですら捨てた者もおり交戦できるのは一握りしかいない。

右翼に何か巨人を惹きつける物があるならば、それを知っておかなければならない。

巨人化学の発展に生かせるし、なにより上官のハンジ分隊長を喜ばせたいからだ!

 

 

「ハァハァ…」

 

 

“彼女”は必死に馬を走らせた。

ただ生きて帰りたいからカラネス区に向かって無我夢中で走らせた。

ところが何故か自分を狙って巨人が襲撃してきた。

女型の巨人の能力者である“彼女”は喘ぎ声に紛れた【悲鳴】で巨人を呼び寄せていた。

無意識だったので気付かなかったが、無垢の巨人を呼び寄せていたので自業自得であった。

 

 

「そこの兵士!!何をやらかしたの!!」

「…!」

 

 

フローラの声を聴いて思わず手綱を放してしまった。

もしかして正体がバレた!?

既に立体機動ができる体調ではないのでガスボンベも刃も全部捨ててしまった。

ここで正体が判明したらここで死ぬしかない。

それだけは嫌であった。

 

 

「どうも巨人は何かに釣られて誘導されてるわ!一体何をやらかしたの!?」

 

 

ここで“彼女”は女型の巨人の特有の能力で巨人を呼び寄せていたのに気付いた。

メンタルケアの達人と同期から揶揄されていたフローラの洞察力は凄まじいものである。

それは戦闘にも生かされているのは、二度の交戦で嫌ほど味わった。

 

 

「もしかして巨大樹の森に咲いていた花か果実に触れたりしなかった?」

「…やっぱり何かやったみたいね!ミーナ!援護するわよ!」

「護ってくれるのは私だけでいいのに…」

「夜中で思う存分、布団の中で守ってあげるから手伝って!」

「分かった…」

 

 

自分の【能力】のせいですと素直に告げられない“彼女”はフローラの助け舟に乗った。

無言で頭を下げて肯定の意志を告げた!

彼女の同僚を虐殺した身であり申し訳ない気持ちで一杯だったが、とにかく助けて欲しかった。

糞野郎も腰巾着野郎にも頼れなかった“彼女”に手を差し伸べてくれたフローラとミーナ。

彼女達と会話する時が睡眠に次いで数少ない娯楽であり安らかな気分になれた。

不安で押し潰されそうになった結果、2人の元気そうな顔を見て安心して泣くほどに弱っていた。

 

 

『みんな殺しちゃった…私のせいで!故郷に帰りたい!父に逢いたい!死にたくない!!』

 

 

顔を包帯で纏って緑色のフードを深く被った兵士の負の感情をしっかりフローラは聴いた。

一瞬、能力と言っていたがすぐに自分の推測を肯定した以上、特に追及はしなかった。

まるで調査兵を殺害したようにも聞こえる発言もしていたが無視をした。

何故なら巨大樹の森に104期調査兵、つまり同期である104期生を3人置き去りにしたから。

定期的に味方を見殺しにするフローラは彼女の発言の意味には気付くことはできなかった。

 

 

「どうやって足止めをするの!?弾は1発しかないの!」

「どうやって?それはもちろん決まってるわ!」

 

 

さすがに巨人の大群を不完全な状態の装備のまま戦う気力はフローラになかった。

一往直前で巨人に向かって猪突猛進する彼女も左アンカーの故障と固定ベルト破断はきつかった。

両親の仇である鎧の巨人を討伐する!

それはライナーやベルトルト、エレンやミカサに打ち明けた目標であり夢である!

少なくとも鎧の巨人を討伐するまで死ぬ気はない彼女は無謀にも突撃する気は無かった。

 

 

「これ、何だと思う?」

「どう見てもガスボンベじゃないの…」

「正解!専用装備のガスボンベよ!」

 

 

フローラはブリッツシャイダーという鞘に装着する専用に小型化したガスボンベを取り出した!

その鞘は特注品であったが、強化装置・1型に装着したボンベを使用できるように互換がある。

つまりフローラは、馬のライリーに一式の武装を2個と自身の体重で負荷をかけていた。

それ自体は問題ではなく一番不要だったのがその専用のガスボンベだけであった。

どうせ捨てるなら少しでも役立てたかった。

 

 

「これで何をするの!?」

「ミーナがこれを撃ち抜いて爆発させるの!」

「そんなの時間稼ぎもならないよ!」

 

 

ミーナの言う通り、爆発が直撃しない限り1人すら殺せないほどの爆発しかしないだろう。

既に複数の巨人と戦闘してガスの量が少ないなら尚更である。

 

 

「いいから!わたくしが指示したら撃ち抜いて!!」

「分かった…フローラを信じる!!」

 

 

動いていた変異種の右目を乗馬したまま撃ち抜いたミーナの狙撃の腕をフローラは信じた。

いや、信じることしかできなかった。

あの壁のように押し寄せてくる巨人の大群の動きを止めるにはこれしかなかった。

舌鼓と手綱でライリーをコントロールして巨人の大群の先頭にいる巨人を目指して進んで行った。

 

 

「そこ!!」

 

 

フローラはガスボンベを投擲して音響弾を撃ちこんだ!

巨人は痛みなどで怯むことは無いが人体と似たような構造をしている。

眼球を刺激すれば脊髄反射で両手で負傷部分を覆ったり腱が切れたら走れないなど例はある。

人間だけを捕食する為に視覚と聴覚が異常に発達している説に基づけば効果的である!

一瞬、音で怯んだ巨人を足を止めた隙にフローラは合図を出してミーナに狙撃させた!

見事にボンベを撃ち抜いて右足首で爆発し、姿勢を崩して巨人が倒れた!

 

 

「ミーナ!走って!!」

「でも…これじゃあ!」

「充分よ!ほら…!」

 

 

1体の巨人が転倒したところですぐに立ち上がってしまい、意味は無いはずだった。

後続の巨人さえいなければ!

転がった巨人に脚を引っ掻けて後続の巨人が転倒した。

更に連鎖的な転倒が続き、一番下に居た巨人は耐え切れなかったのが蒸気を噴出させていた!

たった1発の爆発が20体以上の巨人を巻き込んだ上に意図せず壁になっていた。

 

 

「すごい…」

「とにかく今のうちに逃げるわよ!」

「うん!」

「これで少しは時間稼ぎはできたわ!…問題なのはそこじゃないんだけどね」

「え?他にも問題があるの!?」

 

 

ミーナの問いにフローラは返答に迷った。

何故なら、一番の敵は巨人ではなく駐屯兵団の兵士と伝えにくかった。

ここからでもカラネス区の前門が見えた。

それは出発の時は調査兵団を見送ってくれた門は、今は施錠され固く閉じられていた!

 

 

「カラネス区の門を開く必要があるわ!」

「到着したら勝手に開けてくれないの?」

「カラネス区に絶対に入れる気はないわ!」

「なんで…」

「カラネス区の住民を巨人から守る為に決まっているじゃない!」

 

 

ライリーという相棒に逢う為にカラネス区壁外で巨人を単独で14体討伐したフローラ。

そこでカラネス区の守備隊の練度はトロスト区と比較して明確に劣っていたのを実感した。

ウォール・マリア陥落から最前線であるトロスト区と比較して巨人の数が少ないカラネス区壁外。

スクランブル出撃も少なく、壁外任務を遂行する調査兵団を援護する機会もない守備隊。

そんな彼らが本隊はともかく、自分たちを救う為に門を開くことは絶対にないと確信できた。

 

 

「フローラ…何をする気なの…」

「ゴメンね、手を汚すのはわたくしだけで充分よ」

「何言ってるの…今夜、一緒に寝るんでしょう?」

「そうね」

「じゃあ血で手を汚せば…一緒に留置所で眠れるね」

「…巻き込んじゃってごめんなさい」

 

 

ミーナの意志を聴いて謝ったフローラは最後になった2本のブリッツメッサーを構えた!

その刃は、巨人に向けているものではない。

カラネス区守備隊に危害を加える為のものであった。

どう足掻いても説得できない以上、武力行使でしか門を開く事はできない。

そもそも説得する時間すら惜しいのでこうするしか手が無かった。

 

 

「目標は下から三段目に居る兵士よ!」

「殺すの?」

「最初は脅すだけよ…ダメだったら喉笛を斬るから…そしたら…」

「殺せばいいんでしょ!フローラと一緒なら怖くない!」

 

 

ミーナの決意を見てフローラは悲しくなった。

共に支え合って磨き合った親友が自分の眷族のような存在になってしまった事に。

トーマスを失った結果、彼の遺志に囚われて本来の彼女は死んでしまった。

純粋にウォール・マリアから巨人を駆逐して昔の様に肉を頬張るように努力する。

ただそれだけだったのに、今の彼女は自分の指示で殺人すら辞さない覚悟をもっている。

それは嬉しい反面、彼女の人生を弄んでおり悪魔として心を喰ってしまった自分に吐き気がした。

 

 

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カラネス区前門の責任者、ハルトマン・ロボフは溜息をついた。

調査兵団の本隊を壁内に収容して門を再び降ろして施錠した。

それなのにまだ1個小隊に満たない部隊がこの門に向かってきているのだ。

大量の巨人を引き連れて…。

 

 

「ロボフ隊長…いかがなさいますか」

「当然、見捨てる」

「…ですが」

「どうせ立体機動で壁を登って来るだろう?門が閉まったからと言って詰むわけじゃない」

 

 

50mの壁の上に登る方法は大きく分けて3つある。

まずは門がある建物に入って階段を利用して辿り着ける。

もう1つ壁上から垂らされたリフトを利用すること。

最後はアンカーを突き刺して立体機動で登ってくることだ。

確かに壁を登るのはきついかもしれないが基本的に全兵士が登れるように訓練されている。

それが訓練兵を修了する条件であるからだ。

 

 

「所詮、馬や荷台など使い捨てだ。特に調査兵団っていうのはそういう連中だぞ」

「そうですか」

「ほら見ろ、もう2人が立体機動で登って来るぞ」

 

 

副官が見下ろすと確かに2人の女兵士が隊長の言う通り壁を登ってきた。

ただ、何かおかしかった。

 

 

「隊長…なんかぐはっ!!」

 

 

フローラは見下ろしてきた兵士を裏拳で吹っ飛ばして強襲した!

カラネス区壁外のパフォーマンスで誰が隊長か知っていた彼女!

何が起こったか分からず混乱していたロボフ隊長を押し倒して首元に刃を当てた!

 

 

「動かないで!動くと隊長の命は無いわよ!」

「ついでにこいつの命もないわ!」

 

 

ミーナ・カロライナは気絶した副官の首に刃を当てつつ片手で狩猟銃を他の兵士に向けた。

もちろん弾は空ではあるがそうとも知らない兵士に牽制にはなるだろう。

 

 

「何の…真似だ?」

「何の真似ですって!?貴方達が門を開けないからこうするしかなかったのよ!」

「しょ、正気かお前ら!?こんな事をして、ただで済むと思うなよ!!」

「そう…なら仕方ないわ」

 

 

フローラは震えながら発言した兵士を睨んだ。

発言をした兵士はそれを見て失禁した。

相手は、巨人を単独で14体も討伐した女兵士だったからだ。

彼女のおかげで貯金が増えたのでここに居る守備兵は全員、彼女の顔を覚えていた。

その顔は、巨人を殲滅する狩人による殺意がこもった悪魔の様な顔であった。

 

 

「一つだけ確認していいか?」

「えぇ…良いわよ」

「今さっき殴られた副官は死んだのか?」

「気絶しただけよ」

 

 

ロボフ隊長はそれを聴いて安心した。

 

 

「約束してくれ…門から巨人を絶対に侵入させないと…」

「えぇ、そのつもりですわ!」

「総員!門を開けろ!私が責任を取る!!」

「「「隊長!?」」」

「いいから早くしろ!巨人より怖い女に殺されたくなかったらな!!」

「「「了解しました!!」」」

 

 

呆然としていた兵士たちは隊長の叱責を受けて門を開ける準備を始めた。

それを見てフローラは刃を鞘に納めて相棒のライリーの元へ急ぐ。

こうして本隊から見捨てられて逃走の為に装備を捨てた兵士たちは馬と共に帰る事ができた。

門が開いた瞬間、翼をもたぬ生存者たちが壁内へと突っ込んでいく!

 

 

「お願いだぁ!!助けてくれ!!嫌だああああっ!!」

 

 

最後に残ったフローラは、落馬してこちらに手を伸ばす兵士を無視して門に突入した。

巨人の大群が迫っている以上、門が施錠される前に見捨てて壁内に帰還するしかなかった。

見捨てられた兵士は絶望の表情を浮かべたまま巨人の大群に踊り食いされた。

 

 

「これで終わりね」

 

 

帰還が成功したのは21名、その内訳は重傷者2名、軽傷者8名、あとは怪我人無しであった。

衛生兵6名と馬医師5名は全員無事であり、2名の兵士と負傷兵1名が犠牲になっただけで済んだ。

希望が目の前にあった分、最後の兵士は気の毒ではあったが、仕方がなかったって奴だ。

 

 

「おっフローラ!ちょうど良い所に来た」

「えっ?」

「ペトラの容態が悪化してな…馬に乗せて病院に送って欲しいんだ」

「はぁ!?足が動けなくなっただけよ!」

 

 

ペトラは抗議したがフローラの背後に紐で結び付けられてしまった。

強がって見せたが実は両腕も動いてないのを2人に見抜かれていた。

そして、オルオの度重なる軽口で気が緩んだフローラは反論するようになった。

意外と相性抜群な2人の会話にペトラは嫉妬しながら無抵抗で口だけ動かして抗議していた!

 

 

「あんたたち!私を何だと思ってるの!?」

「負傷して足手まといになったメインヒロイン」

「怪我をして少しは素直になった優秀な俺様に相応しい嫁候補オンリーワン!」

「オルオはともかく、フローラまでそんな事言うとは思わなかった!!」

「事実だろう?」

「事実ですわ」

「あーむかつく!」

 

 

ペトラは悔しかったが、それでも兵長、そして父親に逢えると事実。

不機嫌な顔をしつつもそれだけが嬉しかった。

一方、一緒に並走どころか特等席を奪われてミーナは死んだ目をして彼女の後姿を追っていた。

 

 

「おっと!俺様のお義父さんが居るぞ!」

「え?どこどこ!?オルオさんのお父様!?」

「そこだ!兵長と会話しているナイスガイだ!」

「ライリー!止まれええええ!!」

 

 

思わずフローラは大声をあげて手綱を強く引っ張った!

珍しく乱暴なやり方だったのでライリーは異常事態と察して大人しく足を止めた!

 

 

「ペトラ!?」

「お、お父さん」

 

 

さきほどまで泣くのを我慢していたブルーノ・ラルとペトラ・ラルは久しぶりに親子の対面した。

 

 

「ご、ごめんなさい負けちゃった…の」

「良いんだ…ペトラが生きて帰ってきただけでも…」

 

 

情けない姿、そしてなにより壁外調査が失敗したとペトラは泣いて父に謝った。

勝ち負けなど気にしてないペトラの父親は彼女が生還したという現実に泣いた。

ついでになんとか下半身が動くようになったエレンも、もらい泣きをした!

ここでフローラは、ようやく彼がオルオでなくペトラの父親だと理解した。

 

 

「感動的な再会だな」

「そうね」

「お前…なんでそんなに非情なんだ」

「だってわたくしの身体に縛り付けられているせいで親子水入らずを邪魔してるのよ」

 

 

感動的な再会だった。

フローラの背中に紐で結ばれて緊縛プレイされているペトラ。

なんとか降ろそうとしたいが手が届かず、空振りしている父親。

話の流れが分からずイライラして小便をしている馬のライリー。

感動的な再会の雰囲気をぶち壊す展開でなければ喜ばしい事であろう。

 

 

「とりあえずペトラを解放してやってくれ」

「…はい」

 

 

オルオとリヴァイ兵長とミーナを含めて10人以上がなんとかして状況を打開する。

こうして治療が必要なペトラはエレンの乗っていた荷馬車に乗せられて移動を始めた。

兵長と父親が寄り添う姿を見つめていたエレンは、不意打ちでフローラに平手打ちを喰らった!

それに抗議したら衝撃的な事実を告げられて、凹んだ。

 

 

「ごめんなさい」

「またリヴァイ班に訓練してもらうしかないわね」

「もう無理だ、時間切れだ、何の成果もないオレに誰も期待してくれない」

 

 

そんな彼を見ながらフローラは強化・1型シリーズに装備を変更した。

ブリッツシリーズの欠陥が見つかったので技術班に情報提供する為であった。

何故装備を変えたかというと特に理由はない。

あるとすれば、何が起こっても対応できるようにしたかったという事か。

その彼女の判断が運命を分けた。

 

 

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「撃てぇ!!」

 

 

20を超える砲門から榴弾やブドウ弾が壁下へと撃ち込まれていた!

カラネス区前門の守備隊は忙しかった!

フローラ…厳密に言うと女型の巨人の継承者が惹き連れてきた巨人の対応に追われていた。

 

 

「ロボフ隊長!ダメです!数が多すぎます!」

「ということは適当に撃っても当たるって事だ!憲兵団になれる絶好のチャンスじゃないか!」

「お前たち!ここで戦果を稼げば内地勤務できるぞ!」

「やってやる!」

「ここさえ乗り越えれば…巨人の恐怖から開放されるんだ…!」

 

 

ロボフは危機的状況をうまく利用して兵士たちの士気を向上させた。

憲兵団は訓練兵時代の上位成績10位までしか入団できない。

ただし、戦果を稼いで出世して憲兵団に転属することはできる。

それができなくても内地、ウォール・シーナ内で生活できる権利が確実に入手できる。

だからこそ、固定砲整備班も前門固定砲の砲兵たちも必死に砲撃していた。

 

 

「くそ…奴らを殲滅する前にこちらの弾薬が切れるぞ!」

「夜勤の奴らや衛生兵も呼んで来い!とにかく人手が欲しい!!」

「撃て撃て!」

 

 

適当に撃ても、うなじに当たるほど巨人が密集しているせいで既に20体以上仕留めていた。

ただ、数の暴力で攻めて来た巨人は100体以上で壁に群がっている。

あまりの重量で門や壁が破壊しかねない状況は砲兵の休み暇を与えなかった。

 

 

「なんだよまたかよ…しかも律儀に編成までしやがって」

 

 

気分転換にと、ロボフは望遠鏡を手に取って辺りを見渡してみた。

すると褐色の肌をした小さめの巨人を4体発見した。

まるで訓練を受けた兵士の様にフォーマンセルでこちらへと向かって来ていた。

 

 

「いいだろう!かかってこい!」

 

 

どうせあの巨人たちも壁で止まると思い、彼はそう呟いた。

それが聴こえるはずもないし、理解できるはずもなかった巨人たち。

まるで双子の様に顔も身体もそっくりだったのは気が付かなかった。

経験に基づいていつもの通常種だと判断していた。

 

 

「相手に…えっ…」

 

 

その巨人達は、前方で群がっていた巨人を踏み台にして50mの壁を登っていった!

そして壁上固定砲と激突したが、特に気にせずに薙ぎ払って雄叫びをあげた!

 

 

「嘘だろう…」

 

 

ロボフは15年以上の兵歴をもつベテランの駐屯兵団の兵士だったが混乱した。

今まで人類を守ってきた50mの壁を乗り越えてきた巨人を、4体も目撃してしまった。

その雄叫びは、調査兵団に野次を飛ばしていたカラネス区の住民の耳にも届いた。

 

 

「なんだあれは!?」

「きょ、巨人!?」

「なんで壁の上に居るんだ!?」

 

 

住民たちは一瞬、何が起こったか分からなかった。

50mの壁の上に巨人が4体も居る。

今まで壁内で過ごしており巨人と縁がない彼らは、巨人の姿など見たことは無かった。

ただ、巨人だとすぐに分かったが脳がその現実を拒否して咄嗟の判断が鈍るほどに現実逃避した。

 

 

「嘘でしょ…」

 

 

女型の巨人の本体であった“彼女”は巨人を目撃してその場に座り込んだ。

 

 

「マガト隊長…私たちを…戦士隊を見捨てたのですか…」

 

 

“彼女”は壁上に居る4体の巨人を見て絶望した。

その巨人に見覚えがあったからだ。

 

 

「ライナー!あれを見ろ!!」

「どうした!?ベルト…ル…ト…」

 

 

ライナー・ブラウンは相棒が指差した方向を見て言葉を失った。

そして自分がドベでどうしようない糞野郎だという事を思い出した。

その巨人は良く知っていた。

帰れなくなった故郷で目撃した巨人と瓜二つの姿だったからだ。

 

 

「オイ…何で…【(アギト)の巨人】が…4体も居るんだ…」

 

 

ライナーはそう呟いて頭を抱えてしまった。

自分のせいで死んでしまったマルセルの事で頭がパンクしてしまったのだ。

 

 

「グオオオオオオオオッ!!」

 

 

顎の巨人の脊髄液に強い影響を受けて誕生した変異種4体は雄叫びを続けた!

まるで自分たちの獲物がここに居る事を外に居る巨人に伝えているように!

この日、巨人は壁を乗り越えるというのが証明されてしまった。

彼らが何故、捕食以外の行動を取ったのか後世の歴史家や巨人の専門家で答えは出なかった。

ただ1つだけ言えることはある。

 

変異種、もとい【異形の巨人】はカラネス区の住民を恐怖のどん底に突き落とした事だろう。

 

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