進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「くだらねぇな…」
ケニー・アッカーマンは部下と共に王政の行政トップ、アウリール内務大臣の護衛をしていた。
彼らがカラネス区に来たのは初めてではない。
調査兵団の命知らずの馬鹿女がアウリール卿に巨人を単独で10体討伐すると豪語した。
あまりの馬鹿さ加減に興味もった彼らは、惨劇を見る為にここに来たことがあった。
その結果、その女兵士は14体討伐して、取り巻きの貴族から大金を稼いだ。
世渡りが上手なのか、王政府に半分を納税、更に2割を謝礼金としてアウリール卿に納めていた。
自分だったらへつらう前にもっと金を要求して目をつけられていただろう。
「想定した通りで助かったぞ。あんな危険人物を壁内で放置するわけにはいかぬからな」
「やはりレイス家を襲撃したのはあの小僧なのか?」
「いや、レイス卿の証言だと眼鏡をかけた男だ」
「どちらにしても【神の力】を宿しているのは間違いないだろう」
「これで大義名分ができたというもの、有無言わせずに身柄が回収できるというものだ」
見え張りの貴族やその配下と関わりたくないケニーは距離を取って考え事をしていた。
友人…かつてウーリが所有していた【神にも等しい力】。
それは同じレイス家のフリーダという小娘が引き継いだ結果、同じ人格になった。
ならばその力を奪取されて継承されたとされるエレン・イェーガーを喰らえば手に入るのか。
自分の命よりも他者の為に頭を垂れて謝罪するあの男の思考を理解できるようになるのか。
この世界を文字通りひっくり返す事ができるのか。
「いや…ねぇな」
アウリール卿とその取り巻きの会話を遠くから聞いていたケニーは一蹴した。
少なくとも、特別兵法会議の時、エレンはそんな思考をしていたとは思わなかった。
とはいえ、ウーリと同じ巨人化能力者、何か関係があるかもしれない。
もう少しだけへつらって、情報を集めてもらうのもいいだろう。
意気消沈して覇気がなく動く屍のような調査兵団の兵士の行列を見ながらそう思った。
「アッカーマン隊長!」
「どうした?」
「アウリール卿が満足されたようで、王都ミットラスに帰還されるとの事です!」
「そうか、やっとこんな臭くてしょうがないゴミ溜めから開放される」
副官のカーフェンの報告を聴いて空を見上げた。
そこは決して…いや頻繁に天気が変わるがそれでもいつも同じ解放感がある空間だった。
大空を羽ばたける鳥が羨ましい。
糞を垂れ流しにして何も考えずにあの空間で自由に飛び回れるのだから。
そして視線を壁に映していくと違和感を覚えた!
「おいカーフェン、あれは何だと思う?」
「はっ…?あ、え?あれって…」
「クソ!!巨人が50m級の壁を登ってきやがった!!」
ケニーの発言と同時に6m級の変異種が一斉に咆哮をした!
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「はあ?」
カラネス区の前門の守備隊長ハルトマン・ロボフは、正門の固定砲上段から壁を見上げていた。
そこには褐色の肌をした巨人が4体も居た。
正直、現実の光景だと思わなかった。
今まで人類を守ってきた壁を乗り越える巨人が居るなど信じたくなかった。
「総員!交戦せよ!これ以上の侵入を許すな!」
怖気ずに大声で副隊長が指示を飛ばしていた!
そんな様子を他人事のようにロボフは座り込んだまま巨人を眺めていた。
「どっから来やがった!!」
1人の勇敢な兵士が6m級の巨人に突っ込んでいった!
それを見た巨人は口を開いて飛び込んで兵士を丸ごと喰らい付いた!!
何が起こったか分からないまま絶命したが、即死できた分、運が良かった。
その勢いのまま壁上固定砲を、ついでに兵士たちを吹っ飛ばした!!
「ぐあああああっ!!」
「うわああああああっ!!」
何名か固定砲が直撃して肉塊になったものの大半の兵士は壁外に飛ばされただけで済んだ。
落ち着いてアンカーを壁に射出すれば、地面に激突するのは避けられる。
この時代の兵士は全員が立体機動ができる以上、問題はない。
トロスト区の前門で超大型巨人の蒸気で吹っ飛ばされたエレン率いる班員も同様だった。
落下物で頭を打ったサムエルを除き全員が壁にアンカーを刺して復帰してみせた。
教官が意図的に命綱を切って落下の対応を訓練しているからこそできたものであった。
「ごふううううっ!」
「がっ!」
ただし、それは訓練修了したての新兵だからこそ対応できたといえる。
座学の数学もそうだが、連立方程式や積分などが日常生活に役立つとは限らない。
せっかく技能を身に着けていても使用しなかったら鈍り使いこなせないものだ。
理不尽で不測な自体に陥りやすい調査兵と比べて遥かに練度が劣っていた兵士は落下死した。
「た、助かった…なあああああっ!?」
カラネス区壁外に放り出された兵士がなんとかアンカーを刺して壁に張り付いた。
壁上に巨人が居る以上、心理的にそこへ向かうのを躊躇ってしまった。
その隙を見逃さなかった15m級の巨人に掴まれて成す術なく喰われた。
「舐めやがって!!し…ほがっ!?」
変異種の右腕の肘にアンカーを突き刺した兵士は双剣を構えて突撃した!
が、巨人に腕を振られて勢いよく壁に叩きつけられた彼は意識を失った。
そして獲物を見つけた変異種は口を開いて彼を含んだ。
「させるか!!」
別の兵士が双剣でうなじを斬ったが刃が折れるだけで終わった。
「な、なんで…」
後に【異形の巨人】と呼ばれる変異種は、白色の器官以外、全身を硬質化ができた。
もちろん、【鎧の巨人】と比べれば厚さも硬さも劣っていたが、解除しない限り皮膚は斬れない。
そうとも知らずに鋭利な爪でワイヤーを切り裂かれた兵士は絶望したまま落下死した!
「ひいいい!!」
正門の固定砲上段にいたロボフ隊長は固定砲の影に隠れて両手で頭を押さえて丸まっていった。
優秀な奴は出世したか、トロスト門の守備に回された。
たまたま残ってしまい年長者だった彼は年功制で隊長にされただけで無能だと自覚していた。
だからこそ、優秀な副隊長と副官に任せて、生じる責任は自分が取るスタイルで回していた。
遥かに優秀だったトロスト前門の守備隊長すら戦死したのだから、どうする事もできなかった。
「ぎゃああああああ!!!」
変異種の1体が前門に備え付けられた三段で構成される固定砲の列を襲撃していた!
副隊長は既に戦死して、副官は悪魔の女に殴られて気絶しており盾状態だった。
咀嚼する音と断末魔の叫び!巨人の雄叫びに衝撃音!
一瞬で地獄に落とされた彼はただ泣きながら声を出さない様に震えていた。
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「団長!巨人が!巨人が…!」
「ああ、分かってる」
エルヴィンは、壁上にいた変異種が雄叫びをしながら周囲の兵士を襲撃しているのを見て…。
調査兵団が置かれている状況を打開する好機だと思った。
50mの壁を乗り越えたのは初めて見たが、実はそうなる可能性を知っていた。
『エルヴィン…あくまで噂話なのだがな…』
エルヴィンは、同期だった憲兵団のドーク師団長の話を思い出していた。
ウォール・マリアが陥落した時、シガンシナ区から北西にあるクィンタ区で扉が封鎖された。
それは取り残された民を守るためのものであった。
しかし本土から孤立し、補給が断たれ極限状態に陥った彼らは恐怖政治を行なってしまった。
最終的に恐怖政治を行なったリタという女兵士率いる守備隊は全滅したとされる。
『何故、そんな事を知っている?』
『辛うじて脱出できたクィンタ区の生き残り達が教えてくれた…ただ信じられない話を聴いた』
なんと巨人が壁を乗り越えてクィンタ区の住民を喰らい始めたという事だった。
信憑性がない話の上、実際にそんな事はあり得ないと思っていた。
クィンタ区の守備隊は、壁を乗り越えてきた巨人から住民を避難させる為に玉砕したという…。
まるでクィンタ区のリタ率いる守備隊の名誉を守る作り話のようであった。
妄言と思われた話が現実になったのを感じてエルヴィンは笑った。
「第一分隊と第四分隊の精鋭は変異種の討伐を!残りは民間人の避難誘導をする!!」
「おいエルヴィン!」
「リヴァイ、君はここに残ってくれ」
「何故だ?」
リヴァイの問いを聴いてエルヴィンは周りを見渡す。
「兵長!助けてください!!」
「兵士さん!守ってください!!」
「善良な市民を守るのが兵士の役目だろう!?早くなんとかしろ!!」
あれほど調査兵団を馬鹿にしていた民間人は巨人を目撃した瞬間、掌を返した。
歯医者を馬鹿にしていたのに虫歯になった瞬間、激痛で医者に泣きつく患者のようである。
そして自分の思い通りにならないと発覚した瞬間、怒り狂い善良な自分に対処しろと叫ぶのだ。
なんとも自分勝手で、浅ましくて不満ばかり口に出して利己的な者たちなのだろう。
だがそれでいい。
「安心してください!ここに人類最強の男!リヴァイ兵長が居ます!!」
「彼がここに居る限り!誰も死なせることはしません!」
だったら、その愚か者共の集団心理を利用してやるまでだ。
彼らはとにかく自分の命が惜しい。
巨人から逃げ出した彼らは、罵倒や馬鹿にしてきた兵士に近寄るのだ。
兵士が居れば巨人に遭遇しても戦ってくれて討伐してくれるものだと!
「今から!我々の避難誘導に従って!落ち着いて!移動を開始してください!」
5年以上前から巨人と交戦してきたエルヴィンは自身が驚くほど落ち着いていた。
「ディルク!クラース!マレーネ!訓練通り民間人をローゼの扉へ誘導せよ!」
「「「ハッ!」」」
調査兵団は壊滅的な打撃を受けており、とにかく人員が足りない状態だった。
実際に変異種4体と交戦できる人材は20名も居ないだろう。
だが、なんとかするしかない。
駐屯兵団第三師団では、決して変異種を止める事はできないのだから。
「リヴァイ」
「なんだ?」
「これから避難する住民を誘導するぞ」
「巨人に攻撃できないのは歯痒いな…」
「そう言うな、これも兵士の立派な仕事だ」
エルヴィンは、彼が負傷して巨人戦で活躍できないのは知っていた。
それがバレたとなれば、せっかく愚かな民衆をまとめたのに瓦解するのは目に見えている。
だからこそ、リヴァイは【英雄】として【対巨人用の最終兵器】として居て欲しかった。
「運が良いな、俺たちを馬鹿にする為に後を追っていたせいで門付近はもぬけの殻だ」
「ああ、少しでも民間人を犠牲にすれば我々の【作戦】は失敗するだろう」
「汚名返上するか、汚名挽回の分かれ目ということか」
「調査兵団は、民衆から支持される善良な兵団でなければならない」
ここが調査兵団の存続の瀬戸際であった。
何事もなければ翌日、王都に招集されてエレンを王政に引き渡さなければならなかった。
下手すれば、調査兵団が解体されるという時に都合よく巨人が襲撃してくれたものだ。
「兵士の指示に従ってください!」
「手ぶらでそのまま向かいます!」
「そこ!家に帰るな!!」
「落ち着け!!我々から離れるな!!」
優秀な兵士たちによって、民間人の避難が開始した。
これで少しは調査兵団を見直してくれるといいのだが。
「さて、どうなる…」
さきほど、王政府の行政トップであるアウリール伯爵を見かけた。
彼もあの巨人を見れば、少しは考えを見直してくれるだろう。
巨人さまさまであり、エルヴィンは好機をもたらした変異種に感謝した!
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「あの馬鹿共!任務を放棄して逃げやがった!」
ケニーは激怒した!
伯爵を護衛する【中央第一憲兵団】は護衛対象を見捨てて逃走した!
ついでに取り巻きだった憲兵団の兵士も貴族もローゼの扉に向かって逃走している。
残ったのは、【対人立体機動部隊】の自分と部下のカーフェンだけだった。
「おいケニー!これは一体どういう事だ!」
「対人に特化した中央第一憲兵団は、巨人に勝てないようですな!!」
「いいか!なんとしても私を護れ!どんな犠牲を払ってもな!!」
「分かってますよ…貴方に先立たれたら、フリッツ王が嘆き悲しみますからねええ!!」
2人ともライフル銃と短剣を装備しているが、立体機動装置がない時点で無意味だ。
とりあえず巨人は、巨人の専門家である調査兵団の兵士に任せるしかなかった。
「ホント、巨人を相手にするあいつらは、どうかしてるぜ!」
壁上では変異種が大暴れしており、駐屯兵団の兵士では全く歯が立たないようであった。
巨人を目撃したのは初めてではないが、想像以上に機敏で手ごわそうだった。
少なくとも立体機動程度では逃げ切れる相手でないと直感で理解した。
「アッカーマン隊長!」
「カーフェン!大事な大事な、伯爵様を護りながらローゼの扉に逃げるぞ!」
「了解!!」
幸いにもローゼの扉から距離は離れておらず、すぐに辿り着けるはずであった。
ところがすぐにそれを諦めることになった。
「退け!私はアウリール伯爵だぞ!」
「無理言うなって、もう階級や地位など、ここじゃ役に立たねえっつの!」
「この愚民どもが!」
ローゼの扉に避難した住民が殺到していた。
それはケニーも予想していたが、それ以上に糞みたいな理由で渋滞していた。
カラネス区支部の憲兵や駐屯兵団のお偉いさんが扉を封鎖してしまったのだ。
自分たちさえ助かれば、行政トップの大臣すら見捨てる即断即決は評価していいだろう。
「なーるほど、予想以上にカラネス区のお偉いさんは、腐っていたって訳か!」
「おい!どうするんだ!?」
「アウリール卿、今から民家に身を隠します」
「女風情が!私に指図するな!!」
ピエール・J・アウリール伯爵。
こんな奴がフリッツ王の側近であり、王政府の行政のトップである。
正直、ここで巨人の餌にした方が壁内人類の為ではないかとケニーは思い始めた。
だが、それはできなかった。
自分の夢を叶えるまでこんな糞野郎でもおべっかをしなければならない。
友人であるウーリの考えを理解する為にも、ついてきた部下達の為にも!
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「おい!なんでローゼの扉を封鎖した!」
「ウォール・マリア陥落の!再来を防ぐ為でありますぅううう!!」
「ふざけんな!民間人の避難誘導せずに封鎖しやがって!!」
駐屯兵団の兵士であり、この門の守備隊の隊長は激怒した!
避難誘導もせずに真っ先に逃亡して扉を封鎖した憲兵を!
ご丁寧にも壁上で休憩して同僚と酒を飲んで見物している状態だった!
「は?お前らこそ、善良な市民を守るために巨人に突撃しろよ」
「そうだぞ、憲兵は秩序を保つためであって、誘導はお前らの仕事だろう?」
カラネス区とウォール・ローゼを繋ぐ門の守備兵は真っ先に憲兵に問い詰めた!
屁理屈を一丁前に並べて反論していたが、要するに自分だけ助かれば良いという事だった!
「この糞共が!!」
「おっと!貴様、我々憲兵団の公務執行を妨害をしたな?」
「あーあー、憲兵団さん!どうしますかぁ?」
「はっはっはっ!お前も憲兵だろう」
「そうでしたー残念ですねー!名前を覚えましたのでぇー反逆者として…?」
カラネス区後門の守備隊長は、酔っぱらった憲兵の首をスナップブレードで斬り付けた!
それは無言で行なわれており、返り血を浴びても表情は決して崩す事はなかった。
「こいつううう!!反逆者だああああ!?」
「王政に反逆するとは良い度胸だな!?覚えてやがれえええ!!」
まさかの友軍から攻撃されると思っていなかった腐敗した憲兵たちは逃走を図った!
「ぐほっ!?」
「がっ!!」
隊長の勇気ある行動に感化された部下達が逃がすわけなかった。
ここに居るのは、王政でも兵団にも忠誠を誓った兵士でもない。
ただ、カラネス区の住民を守りたい一心で兵士になった者達であった。
「お前達…」
「どうしたのですか隊長、早く開門の指示をください」
「ここの指揮系統は隊長がトップですよ!」
「勇敢な憲兵たちは、巨人に突撃して戦死したんですから…ね?」
「すまない…」
自分の迂闊な行動に部下を巻き込んでしまって何とも言えない気持ちだった。
それでも勇気ある決断を無駄にしない為にもやるべきは1つ!
「開門せよ!速やかにカラネス区の住民を脱出させよ!」
「「「了解しました!!」」」
憲兵殺しの罪は全て被るつもりであった。
部下達は納得してくれるはずもないが、実際に罪自体は侵していた。
兵法会議に断罪されるのは自分だけでいいと守備隊の隊長は思っていた。
「報告します!」
「どうした!?」
「調査兵団が避難誘導を始めました!」
「よし、調査兵団と共同で住民の避難をさせる!」
「指揮系統は、いかがなさいますか?」
「エルヴィン団長の指示に従えと班長に伝達しろ!!」
「了解!」
隊長は、さっきまで調査兵団を馬鹿にしていた。
安全である壁から飛び出して犠牲者を出す無謀な兵団を見下していた。
だが、こうして巨人が攻めてくるのを知った以上、エルヴィン団長の言葉が重く圧し掛かった。
調査兵団は【人類の矛】であると…。
自分たち、駐屯兵団は【人類の盾】である以上、思考が相容れることはない。
だけど、手を取り合って協力する事はできる。
少なくとも巨人のスパイのような【無能な働き者】と比較する事すら烏滸がましい!
「ロボフ…お前は凄いよ…俺なんか腐敗した憲兵を殺すだけで精一杯だった」
望遠鏡で前門の方角を覗けば、未だに交戦しているのだろう。
巨人の事を考えるだけで震えが止まらない彼は、無駄に最前線にいる男を尊敬した!
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「あああああああっ!!」
兵士は必死に逃げた!
交戦した同僚も先輩も食い殺されてガスも全て使い切った。
彼ができるのは、全速力で走って逃げることだった。
「ガアアアアアアアッ!!」
6m級の変異種は、その兵士を見逃すつもりはなかった。
右手で握り潰した肉塊を捕食するのを忘れたまま、追撃した!!
「撃て!!」
左手で掴まれそうになった瞬間、大きな網が変異種に向かって飛んできた!
機敏な動きでそれを回避したが、獲物は逃がしてしまった。
変異種は追いかけようとしたが、新たな獲物が見つかって足を止めた。
「よく時間稼ぎをしてくれたよ…あとは調査兵団に任せて!!」
第四分隊長のハンジ・ゾエは逃げていく兵士に向けて発言した。
彼がその声が聴こえたかどうかは気にしてなかった。
それでも自分たちが到着するまで時間稼ぎをした兵士に感謝したかった!
「分隊長!あれは捕獲するんですか?」
「モブリット…何を言ってるの…」
「ハンジさん…?」
豹変した上官に戸惑うモブリットと第四分隊のメンバー。
「捕獲してたまるもんかあっ!!こいつらはここで殺す!絶対に殺す!!」
「私は、こいつらを許さん!!絶対に許さん!!すぐに存在自体を抹消してやるぅ!!!」
ウォール・マリア陥落から5年。
ようやく人類は巨人の恐怖から立ち直れた。
それなのに、こいつらは再び人類を滅ぼそうとしている!
許せるわけなかった!!
全ては人類から巨人という恐怖を無くす為に生きてきた!
ハンジは、既にマッドサイエンティストを捨てて、巨人を憎悪を抱く兵士になっていた!
「手伝います!」
「私も!」
「俺もだ!」
「分隊長!指示をお願いします!」
モブリット、ケイジ、アーベル、ニファは彼女の意外な面を見ても驚かなかった。
ただ、上官の指示に従うまでであった。
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「さすが変異種…手ごわいな」
「ミケ分隊長!!」
ミケ・ザカリアスは、屋根に着地して折れた刃を換装した。
褐色の肌の巨人は、異様に強く弱点である白色の器官を攻撃しなければ皮膚に刃が通らなかった。
女型の巨人の戦闘で、硬質化の一種だというのは分かっていた。
ただ問題なのは、その器官が両手の甲にあるということ!
「すみません、1体を取り逃がしてしまいました…」
「大丈夫だ、あそこにはフローラが居る!」
ナナバが泣きそうな顔をして報告してきたのを見て慰めるように返答した。
巨人を感知する特殊能力持ちのフローラが見逃すとは思えないし、しないだろう。
自分たちがやるべき事はー。
「トーマ!もう1体はどうした!?」
「カラネス区の前門の守備隊と交戦しています!」
「急いで討伐するぞ!合流されたら勝ち目がない!!」
リーネとヘニング、ゲルガーが変異種相手に時間稼ぎしている。
2体の変異種は、それぞれフローラとハンジに任せればいい。
問題なのは、最後の1体!
今は囮のおかげで交戦せずに済んでいるが同時相手は無理だった。
すぐに3人に助太刀して討伐しなくてはならない!
「やばい!【デンジャーゾーン】です!」
「チッ!俺が行く!!」
ナナバの報告を聴いてミケは焦った!
白い器官を赤くして体表から蒸気を出す現象を【デンジャーゾーン】と呼んでいた。
この状態になると巨人の身体能力が向上して、手が付けられなくなるからだ!
もちろん代償があるが、それで待っていられるほど悠長な時間など無い。
「そこだ!!」
ミケは辛うじて攻撃を回避して赤くなった器官を切り裂いた!
その瞬間、元通りになり変異種は落ち着いた。
「くそっ!まだ動けるか!トーマは駐屯兵団の援護にまわれ!」
「了解!!」
これで巨人が討伐しやすい必要最低限の人員になった。
やはり巨人は慣れた人員でないと戦いづらくてしょうがなかった。
少なくともあの変異種は、いつものメンバーではないと狩れる気がしなかった。
「お前ら!まだ生きているか!」
「「「「生きています!」」」」
ゲルガー、ヘニング、ナナバ、リーネは返答した!
彼らは決して臆さなかった。
ただ、変異種を討伐してカラネス区の平穏を取り戻す事だけを考えていた。
「行くぞ!!」
「「「「ハッ!」」」」
ミケ分隊長に追随して4人は変異種へと突撃した!
決して最後まで諦めてはならない。
それは調査兵団に入団した際に先輩から告げられる言葉であった。
例え勝ち目がないと分かっていても最後まで努力する!それだけである!
調査兵団の第一分隊と第四分隊の精鋭たちは、変異種の交戦を開始した!