進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「この野郎!俺の故郷を!!」
ナナバが取り逃がした変異種を駐屯兵団の1個班が追跡していた。
巨人は自分たちに興味を示さず、民間人が居る街の中央部に突き進んでいた。
少しでも詳しい者が居れば、教本に書かれていた奇行種と呼ばれる存在だとすぐに分かる。
「待ちやがれ!!」
勇敢な兵士は、アンカーを射出して機敏に動く巨人に喰らい付こうとした!
しかし、動きが読めずアンカーを巨人の右肩から逸れてしまった。
目の前にワイヤーが飛び出してきたのを見て巨人は無意識にそれを強く引っ張った!
「ああああああがっ!!」
その反動で引っ張られた兵士が壁へと激突してもなお止まらず、複数の民家に激突していった。
声がするので変異種が振り返ると、4人の兵士の姿が見えた。
持っていたワイヤーを振り回しながらその兵士たちに向かって突撃した!
「くっそ!この化け物め!」
「バルカン!同時にうなじを斬るぞ!」
「了解!」
首にアンカーを撃ちこんでうなじを斬ろうとする2人。
そんな必死の努力を嘲笑うように変異種は民家の屋根から飛び跳ねて身体を高速回転させた。
滞空5秒間に13回転した変異種の動きについていけず、かといってアンカーも外せなかった。
その結果、身体中を民家や地面に激突させて2人の兵士は肉塊になった。
「バルカン!ラルフ!?嘘だああああああっ!?」
同僚が死んだのを見てしまい、地面に着地して思わず叫んでしまった兵士。
そんな号哭の叫びは、巨人の口へと消えていった。
なんの感慨もなく、ただひたすらに咀嚼する変異種。
ただ本能に基づいて人間を喰らうその姿は、人類の捕食者としか言えなかった。
「みんな…」
最後に生き残った女兵士は震えた。
自分の未来の姿を見たような感じがしてスナップブレードが小刻みに揺れている。
呼吸は激しくなり、視界が涙で歪み、鼻水が堤防を決壊したかのように溢れている。
「あああ!よくもおおお!みんなをおおお!!」
それでも大声で自身を奮い立たせてスナップブレードを構えて突撃した!
その声を聴いて笑ったようにみせた変異種は伸ばした爪で引っ掻いた!
恐怖という本能を怒りで上書きした女兵士は、その動きを見切って立体機動で回避した。
目標を外した爪は、近くにあった民家を引っ掻いて瓦礫の山にしてもなお止まらず破壊を続けた。
「死ねえええ!!」
訓練通りうなじを狙いにいった女兵士。
だが、訓練兵団を首席で卒業した彼女の必死な努力は実らなかった。
硬質化した肌にいっさい傷を付けることは無く音を立てて折れたスナップブレード。
常識が通用せず屋根に飛び乗って刃と巨人を交互に見て狼狽えた女兵士。
動きを止めて思考を停止した彼女を容赦なく左手で掴んだ!
「は、離せええええええ!!」
彼女は必死に抵抗するが、腕ごと胴体を掴まれており脱出は困難である。
それでも必死に指を噛み付くなりして拘束から逃れようとした。
そんな動きを受けて握りを強めて獲物の内臓を圧迫させていく。
「があああっ!?あああああああ!!」
音が鳴るおもちゃを手に入れて、この先に居る人間を捕食するのを忘れて変異種は遊んでいた。
少し握るのを強めると大きな悲鳴をあげるが、すぐに小さくなる。
そしたら少し弱めてあげると、少しだけ回復して暴れるようになる。
また、強く握り締めると音がなるのが面白いのか、ひたすら巨人は同じ事を繰り返していた。
「兵士さん!!この子たちを連れて逃げて!!」
さきほど爪で崩壊させた民家だった瓦礫の山から女の悲痛な叫び声が聴こえた。
それを聴いて変異種は、女兵士を握り締めながらそちらの方に見た!
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少年は無我夢中で息を切らしながらも走った。
少女は、必死に離れない様に少年のあとを追った。
「エリー!ついてくるな!」
「だって!パウエルが逃げないから!」
「母さんを見捨てて逃げられない!!」
調査兵団の雄姿に目を輝かせていた少年は、さきほどと打って変わって絶望の表情をしていた。
巨人が壁内に出現してパニック状態になったカラネス区の住民たち。
調査兵団の兵士がなんとか避難誘導をしようとするが、パニック状態を抑える事が難しかった。
混乱により負傷者が20人以上出ており、兵士の努力も空しく好き勝手に動きまわっていた。
駐屯兵団の兵士が援軍にきてくれたおかげで辛うじて混乱の収拾ができるようになった頃。
少年と少女、そして1人の兵士の行方が分からなくなっていたのに気付くわけがなかった。
パウエルは走る!
慣れ親しんだ自宅に居るはずの母さんの姿を確認する為に。
妹のエリーはそんな彼を無視できるわけも無く必死に追いかけていた。
そんな2人を追っていた兵士が居た。
エレン・イェーガーである。
「なんで…巨人が…それよりも…」
巨人化して暴れ回ったせいでリヴァイ班の2人と彼女を吹っ飛ばした。
そんな話を平手打ちしてきたフローラに聞かされて落ち込んでいたエレン。
そしたらいつの間にか、住民がパニックになっており、何事かと確認したら巨人が襲撃していた。
まるでシガンシナ区の悲劇を彷彿させる光景に思わず唇を噛み締めた。
「母さんが危ない!」
「だめ!パウエル!戻ってきて!」
少年の声が現実を受け入れたくないエレンを振り向かせた。
第57回壁外調査の前には、自分の雄姿を見て憧れと期待の視線を注いでくれた少年。
無残にも負けて帰って来て荷馬車に寝かされていた自分を否定しなかった少年。
そんな彼らを見捨てることなどできなかった。
「エレン!?どこに行くんだ!?」
「アルミン、すまねえ!大切な用事を思い出した!」
「待ってよ!単独行動は…エレン!!」
5年前の自分にそっくりであり、エレンは彼らを無視する事ができなかった。
少年たちが路地裏に入るのを見て、アルミンの制止を振り切って追いかけた。
「母さん!?」
パウエルは自宅に辿り着いた。
無残な瓦礫の山になっているその場所に。
どんな強風にも!どんな大雨でも家族を守ってきた家。
ずっと続くと思っていた平穏は、砂上の楼閣のように崩れ去っていた。
「パウエル!?パウエルなの!?」
「母さん!?どこ!?」
膝をついていたパウエル少年であったが、母親の声を聴いて必死に瓦礫を見て母親を探し回った。
妹のエリーも泣きながら兄の手伝いをした。
「パウエル!巨人がそこまで迫ってるの!あなたたちだけでも逃げて!」
「母さんを見捨てて逃げられない!!すぐに助けるから!!エリー!手を貸して!」
避難を促す母親の両脚を圧迫している瓦礫を退かそうとするが、びくともしなかった。
「ああああああああああ!!?」
この世の物とは思えない悲鳴が聞こえてきてパウエルは、その声がした方向を見た。
巨人が兵士を握りしめて遊んでおり、悲惨な状態になっていた。
すぐに2人は瓦礫を取り除こうと奮闘するが何も進展がなかった。
「これは…」
少年たちを追いかけてきたエレンは、そこに辿り着いた。
そして言葉を失った。
民家の瓦礫に巻き込まれて動けなくなった母親。
それを泣きながら必死に退かそうとしている少年と少女。
「5年前と同じ…」
5年前のシガンシナ区の門が超大型巨人に破られたあの日。
エレン・イェーガーは大事な母親を壁内に侵入してきた巨人に喰われた。
何もできず、ただ母を握り潰されて喰われるのを見ている事しかできなかった。
あの時は、アルミンが呼んできたハンネスさんのおかげで自分たちは助かった。
「母さんの言う事を聞きなさい!!」
「やだ!3人で暮らすんだ!!」
まるで5年前の出来事を振り返っているようである。
少年と少女が瓦礫で動けなくなった母を助けようとしている。
目の前には巨人がおり、このままでは3人とも喰われるだけだ。
「兵士さん!!この子たちを連れて逃げて!!」
あの時に居た兵士は、ハンネスさんだったが今回は自分である。
まるで追体験している感覚であり、だからこそ彼の心境が痛いほど分かった。
「大丈夫だ!オレがこいつを駆逐してやる!!」
そう思ってエレンは腰に手を伸ばした。
そこで自分が鞘も立体機動装置も身に着けていないのに気付いた。
あの荷馬車で寝かせる為に予め装備を外されていた。
そして装備品は荷馬車に全て置いてきており、取りに戻る暇など無い。
巨人に対する爪と翼を捥がれた鳥は、ただ震える事しかできない。
「そんな…」
ちょうど少年たちの母親の声で反応したのか巨人がこちらに向かってきた。
褐色の肌に白色の刺青を全身に入れた風貌をしている6m級の巨人だった。
初めて見た巨人であるが、その正体は知っていた。
「変異種…」
特別兵法会議が終わり旧調査兵団本部の建物でフローラが自分にプレゼントしてくれた本がある。
その『対巨人戦闘マニュアル』は巨人の情報の他に彼女は交戦した巨人の情報を記していた。
全身の肌が硬く、白色の器官を潰さないと倒せない強敵であると記されていた。
とてもではないが、勝ち目がある巨人ではなかった。
「ああっ…あああああ…」
巨人の左手に握られている女兵士はエレンに向けて助けを求めていた。
4日後に自分の結婚式があり、翌日に寿退職する予定だった。
将来を見据えて計画を立ててきた以上、ここで死ぬわけにはいかなかった。
「ああ…がっあああ!?」
変異種は女兵士の髪を深く噛んで勢いよく毟った!
しっかりと手入れされていた頭髪は、頭皮どころか顔の皮膚さえも巻き込んで引っぺがした!
人体の模型のように顔の筋肉が剥き出しになっており後頭部の一部は頭蓋骨が露出していた。
それでも彼女は生きていた。
「あああ…」
内臓を圧迫され吐血し、筋肉が剥き出しになった顔が大気に刺激され声にならない激痛だった。
それでも残された力を振り絞って、エレンに助けを求めた。
エレンは、少年たちは、母親は、女兵士が巨人に弄ばれるのを黙って傍観するしかできなかった。
「ごふっ!!」
変異種は更に左手を強く握り締め!女兵士は口から内臓の一部を吐血と泡と共に吐き出した。
真っ赤に血で染まった顔は、苦痛で歪み切って全身を激しく痙攣している。
すぐに動きは緩慢となり替わっていき小刻みに揺れるだけになった。
それでも彼女は辛うじて生きていた。
「兵士さん!この子達をお願いします!」
パウエルとエリーの母親は、両足を瓦礫に挟まれて身動きが取れなかった。
5人ほどの成人が瓦礫を除けば、この地獄から脱出できるはずであった。
でも、巨人が人間を捕食しようとする場面を目撃して自分は生き残れないと悟った。
せめて子供たちだけでも生かしたいと思い、兵士に頼んでいた。
その兵士は、かつて自分たちを助けてくれたハンネスさんの気持ちを理解してしまった。
「兵士さん!あの巨人を倒して!」
「お願いします!お母さんを助けてください!」
少年と少女は、最後の希望であるエレンに巨人の討伐を泣きながら懇願した。
だが、立体機動装置も武器も無いのでは、リヴァイ兵長ですら逃亡するしか選択肢が無い。
ハンネスさんの時と違って、巨人と交戦して3人を助ける選択肢すらなかった。
いや、自分には巨人化という最終手段があった。
「できない…」
エレンが巨人化する度に誰かを傷付けた。
トロスト区奪還作戦では、ミカサの右頬に永遠に残る傷を残した。
巨大樹の森では、フローラとペトラさんとオルオさんを無意識に攻撃して負傷させた。
ここで巨人化すれば、また誰かを傷付けるだろう。
「お願い!早く逃げて!」
「お願いだ!巨人をやっつけて!」
「お母さんを助けて…」
「あ…あ…」
4人が無力の自分に助けを求めている。
ここで母親を助けられなかったハンネスさんの言葉を思い出す。
担いでいた彼に暴れ回って抵抗して!いざという時に活躍しなかったのを憎んだ時!
『お前に力が無かったからだ…』
『オレが…巨人に立ち向かえなかったのは…オレに勇気がなかったからだ…すまない』
ハンネスさんの泣き顔を見て振りかざした拳は、地面へと垂れて大泣きした。
実際に同じ状況になったからこそ、彼の即断即決は凄かったのだと実感する。
今、女兵士は喰われた。
上半身を巨人に噛み付かれて、そのまま引き千切られた!
鮮血と共に噴出した排泄物が手を汚すが気にすることもなく巨人は丸呑みをした。
その血は花弁が散るように舞ってエレンの頬を生暖かい温度で濡らす。
すぐにその温もりは冷えて、生命の儚さを実感させるものであった。
『駆逐してやる!この世から一匹残らず!!』
ウォールマリアの門に突貫して、扉どころか壁内の人類の平穏をも破壊した鎧の巨人。
その時に発生した破片がフローラの両親を潰して、1人残された彼女は記憶喪失となった。
この日、エレンは誓った!
弱くて泣き虫の自分から絶望を怒りに変えて巨人を一匹残らず駆逐してみせると!
必死に訓練してきた先が、この巨人を見て傍観している有様だった。
「お願い!逃げて!!」
少年たちの母親は、自分を見捨ててでも兵士に子供たちを安全な場所に運んで欲しかった。
巨人は既にこちらに気付いており時折、自分と子供を交互に見ていた。
だからこそ、兵士さんに子供たちだけでも逃がしてほしかった。
その時、胃袋に居た女兵士は、ようやく死ねた。
灼熱の釜茹で地獄と言わんばかりの高熱の胃液に足掻きながら沈んで溺死した。
次は、エレンか少年か少女か母親か。
「ごめん…」
「なんで、なんでだよおおお!?」
エレンは歯を食いしばって少年を抱き抱えて逃げようとした。
母親を見捨てたハンネスがやった事の二の舞、先人の轍を踏んでいた。
むしろ、すぐに決断して素早く撤退した彼の方が偉大だった。
結局、自分はどうしようもない口だけの男で特別兵法会議で裁かれて解剖された方がよかった。
エレンは自分を責めながら【少年を保護する】という建前で敵前逃亡した。
「ありがとう…」
パウエルと呼ばれた少年、エリーと呼ばれた少女の母親は兵士の決断に泣きながら感謝した。
その意志を絶望に変えるように変異種は瓦礫を退かして彼女を捕食しようとしていた。
瓦礫が動く音を聞いてエレンは足を止めて振り返った。
5年前に口喧嘩して別れた母親が瓦礫から取り出されて、掴まれて喰われる瞬間を思い出した。
「嫌だ…」
エレンは、自分の無力さで誰かが死ぬのは嫌だった。
同期、仲間、戦友、先輩、上官、市民、壁内で逢った人達が目の前で死ぬのは嫌だった。
「おい!!」
エレンは何も考えず本能で変異種に向かって叫んだ!
大声で反応したようで、巨人はエレンの方を見た。
何故か口角をつり上げて笑っていた。
エレンの母、カルラを助けようとしたハンネスの決意を砕いた絶望感を自覚させる笑みであった。
ここで自分が何をしたいのか分からなくなった。
『何をしている…!抗え!最後まで戦え!!これは…お前が始めた物語だろう?』
この時、
まるで鼓舞させるような発言に思わずエレンは少年を放してしまった。
考えてみればすぐ分かる事だ。
ここに居る少年も少女もそんな事をいう訳が無かった。
巨人は、エレンと瓦礫に埋まった女性を交互に見てどちらを選ぶか迷っている様子だった。
「オレは…オレは!エレン・イェーガーだ!!お前を殺す男だ!冥土の土産に覚えておけ!!」
エレンはヤケクソに大声で叫んだ!
結局、振り出しに戻っただけだ。
いや、エレンに向かって巨人が手を伸ばしてきた時点で状況は悪化した。
口だけで何も考えてなかったせいで、死を覚悟した!
口を開いて血塗れの牙を見せつけていた巨人の背後に2人の兵士の姿が視界に映るまで…。
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「巨人は調査兵団の精鋭が対応していますわ!その隙に…」
「兵士さん!本当に大丈夫なのか!?」
「俺たちを守ってくれ!!」
「お父さんー!?お父さんはどこー!?」
フローラ・エリクシアは、カラネス区の住民の避難誘導をしていた。
パニックで怪我人が続出しており、混乱に紛れて尻を触ってくる輩までいる。
それでも上官の命令に従い、ひたすら住民をローゼの扉へと誘導していく。
中には、兵士と一緒に居た方が安全と思う輩のせいで更に避難が遅れていた。
「フローラ!エレンを見なかった!?」
「え?荷台に寄り掛かっていたはずじゃ…」
フローラはミカサの問いで慌てて“声”を聴こうとした。
だが、辺りの負の感情が強すぎてエレンの声が聴こえなかった。
ただ、巨人が近くに居るのは分かる。
独特な呻き声が耳にこびり付いて離れないからだ。
「あの状態じゃ遠くに行けないはず!フローラも探すのを手伝って!」
「無理よ!班長に命じられて避難誘導をしてるせいでできないわ!」
「どうして!?貴女らしくない!!」
ミカサの苛立つ声にフローラは何と返せばいいか困った。
自分だって真っ先にエレンを探しに行きたい。
ただ、彼女には以前と違って独断で行動する事ができなかった。
「ディータ・ネス班長に誓ったの!班長の決断に従うって!!」
「ネス班長は死んだ!もう死んだ!!守る必要なんてない!」
「だからこそ守るのよ!彼の遺志を踏み躙る行為は…」
話が平行線で終わり、これからミカサとフローラは激しく口論するはずだった。
「フローラ!ミカサ!大変だ!!」
大勢の住民に突き飛ばされながらもアルミンが彼女たちに向かって叫んだ。
ただ事ではないと見抜いた2人は立体機動で取り巻きの住民を撒いて彼の元に着地した!
「エレンが!少年たちを追って路地裏に行っちゃった!!」
「なんですって!?」
彼の負の感情の声を聴いて、立ち直るまで時間が掛かると思って放置したのが裏目に出た。
やはり先輩のペトラさんの緊縛プレイに使用した紐で結び付けておくべきだった。
今頃になってフローラは、彼を放置して避難誘導をしていたのを後悔した。
「アルミン!その路地裏を教えて!私たちが行くわ!」
「えっ!?わたくしも行くの!?」
「当然でしょ!貴女以外に私の背中は任せられない!!」
ミカサの一言でフローラの決意が揺らいでいた。
自分だって助けに行きたい!
でもこの住民達を放置してエレンを捜索するわけにはいかない。
命令違反は…。
「私が一番偉い班長になる!班長命令!フローラも一緒にエレンを探しに行く!!」
「ああもう!分かったわよ!アルミン!案内して!!」
「わ、分かった!こっちだよ!!」
ミカサは、ネス班長の遺志に縛られているフローラを解放するべく、更に上の班長を名乗った!
ネス班長より偉くなれば、彼の命令より自分の意見を優先してくれると思ったからだ!
その作戦は成功し、104期生でもっとも巨人討伐経験がある戦友を引き抜けた!
さすがにエレンとアルミンを同時に守れないから少しでも戦力が欲しかった。
ただでさえ、リヴァイ兵長が自分のミスのせいで負傷した以上、彼に頼れなかったのもある。
「ここだよ!ここからどっかに行ったんだ!」
「フローラはどう思う?」
「エレンの事だから巨人に向かって…」
ここでフローラは、エレンの“声”が聴こえた。
そして近くに少年と少女、そして身動きが取れない母親が居るのが瞬時に分かった。
そして彼が置かれている状況は過酷どころか大ピンチであると察した。
まだ現場は確認していないが、ミカサの昔話で聴いたシガンシナ区の悲劇にそっくりだった。
『ハンネスさん、あそこでオレは巨人に喰われるべき人間だったんだ…』
なによりエレンは一歩間違えれば自殺しかねない精神状態だった。
特別兵法会議で大半の出席者から否定され、新たな心の拠り所を女型の巨人に破壊された。
速やかに彼の所…巨人が居る場所に行かなければならない!
「ミカサ!エレンの声が聴こえた!」
「声?声なんか住民しか聞こえないけど?」
「いいから早くしないとエレンが喰われるわ!」
「分かった!!すぐに行く!!」
フローラの勘と聴覚を信じたミカサは、彼女の立体機動についていった。
なんか取り残されて呆然としていたアルミンは、立ち直った瞬間、後を追いかけた。
「エレンはどこに居るの!?」
「変異種の近くに居る!」
「じゃあ、それを討伐すればいいのね!」
「今からじゃ間に合わない!」
「じゃあどうすればいいの」と言おうとしたミカサ。
「オレは…オレは!エレン・イェーガーだ!!」という声がして黙り込んだ。
そして大切な家族を見つけた。
「お前を殺す男だ!冥土の土産に覚えておけ!!」
エレンは、自分から囮になって大声を出して巨人を惹き付けていた。
巨人は今すぐにも彼を食べようとした。
その様子を望遠鏡で覗いていたフローラとミカサは顔を向き合って頷いた。
彼女達はスナップブレードを構えて背後から巨人のうなじを強襲した!
「ミカサ!?フローラ!?」
「エレンに手を出す奴はぶっ殺す!!」
「さっさと死になさい!!」
エレンが勇を鼓して作った20秒間の隙。
たったこれしか巨人に時間稼ぎしかできなかった。
それで充分だった。
フローラとミカサがエレンの元に駆け付けて巨人のうなじを刈ろうとする時間は!
変異種のうなじを狙った4本のスナップブレードは音を立てて折れた!
「こっちよ!」
「私たちが全部、ぶった切ってやる!!そしてエレンを助ける!」
巨人に発見されない状態で2人で奇襲攻撃をした。
普通の巨人なら瞬殺できたが、こいつは変異種。
白色の器官を攻撃しなければ、うなじの硬質化を解除できず刃は通らない。
それどころか、器官を赤く染めて変異種は本気モードになった。
調査兵団が【デンジャーゾーン】と呼んでいるとはフローラもミカサも知らない。
ただ言えることは、巨人がフローラとミカサを最優先で狙ったという事だ!
「エレン!無事か!?」
「アルミン!?」
アルミンはエレンの無事を確認して泣いた。
エレンはもう泣いていた。
「最強の援軍を連れてきたよ!2人が勝てなかったら、もう終わりだ!!」
アルミンの言葉を聞いてエレンは、あの時の事を思い出していた。
シガンシナ区に巨人が侵入した時、彼はハンネスさんを呼んでくれた。
そのおかげで、自分とミカサは助かった。
今回も104期生で最強クラスの2人を呼んでくれた。
やばい時ほど、正解を当てる親友に感謝した!
「アルミン!瓦礫に埋まっている人が居る!手を貸してくれ」
「わ、分かった!」
アルミンは民家の瓦礫に巻き込まれた女性を助けようとした。
ふと、巨人を見る。
両手から爪を伸ばして空中を引っ掻いた巨人の攻撃を2人が必死に回避していた。
あの2人が居て、巨人を瞬殺できない時点で相当強いと分かった。
「僕たちも手伝う!」
「よし!そこの柱から退かそう!」
「一斉…のーでー!!」
「「「「よいしょ!」」」」
「…ダメだ。動かねぇ…」
4人は必死に柱を退かそうとしたがびくともしなかった。
やはり人員が足りなかった。
しかし、呼びに行く暇は無いし付近には住民も兵士もいないだろう。
アルミンとエレン、パウエルとエリー、そして母親。
彼らは、2人の女兵士が6m級の巨人に勝利するのを祈るしかできない。
カラネス区の悲劇は、最終局面を迎えていた。