進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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4章 死に物狂いの努力と代償で、絶望的な状況が好転していると錯覚していた時代
44話 翌日を迎えられる喜び


フローラ・エリクシアは、液体の感触で目覚めた。

まだ出血大サービスの日ではないし、だからといってオネショでもない。

敷布団に無意識で垂らしていたと思われる唾液で顔を濡しただけだった。

 

 

「しまったわ…」

 

 

自分の布団ならともかく、親友のミーナ・カロライナの布団で涎を垂らしてしまった。

どう言い訳しようかと、親友の寝顔を見ると普通に口を開けて寝ていた。

思った以上に涎で敷布団を湿らしており、なんとも言えない気持ちになった。

 

 

「まあいいわ…」

 

 

空き時間に謝れば良いと思ったフローラは身体を動かそうとしたが無理だった。

トロスト区奪還作戦の翌日のように、疲労で身体が動かないと思った彼女は二度寝した。

親友も精神的ストレスでああなったのだろうと、特に気にする事はしなかった。

その結果、寝ぼけたミーナに全身を涎塗れにされるとは知らずに。

 

 

------

 

 

調査兵団の団長エルヴィン・スミスは、昨日の損害を把握しようと情報を分析していた。

長距離索敵陣形の右翼を担っていた第二分隊が2名を残して全滅。

第三分隊長のエリック・マンシュタインを筆頭とするベテラン兵の戦死。

一か月前に入団した104期調査兵23名のうち、6名が行方不明となっている。

 

 

「きついな…」

 

 

調査兵団の歴史は、敗北の繰り返しであった。

それでも技術や技能、巨人への知識を発展させてここまで組織を存続してきた。

1日で戦力の3割を損失して、組織として壊滅的打撃を受けたのも過去の事例ではマシの方だ。

幸いにも衛生兵と馬医者は全員無事であり、組織としては辛うじて存続できる状況である。

 

 

「団長!エルヴィン団長!」

 

 

ドアのノック音と共に副官の声が聴こえた。

どうせ自分が一番、頭を悩ましている問題の事であろう。

今のうちにため息を吐きながら、服装と髪を整えた。

そしてドアノブを開くと、悲痛な顔をした副官が直立不動で待機していた。

 

 

「何があった?」

「速やかに巨人を討伐しろと、カラネス区長が取り巻きを率いて抗議しています!」

「…いかがなさいますか?」

「本格的な討伐作戦は後日にと、至急、正門に2名、壁上に3名を増員すると伝えてくれ」

 

 

昨日のカラネス区における巨人襲来事件による民間人の死者はゼロとされている。

問題なのは、カラネス区を守護していた駐屯兵団第三師団が全滅して戦力が激減していた。

その為、壊滅した調査兵団がカラネス区を防衛する責務をむりやり押し付けられた形となった。

 

 

「ですが…」

「嘘でもいいからフローラ・エリクシアが増援の要員に入っているとでも言っておけ!」

「了解しました!」

 

 

今期に入団したフローラ・エリクシアは、調査兵団史上で最悪の問題児である。

入団して1か月ほどなのに、両手で数えきれないほどの問題を引き起こしていた。

特に王政府のアウリール大臣と中央第一憲兵団とレイス家といった有力貴族達を巻き込んだ事件。

それを聴いた時にエルヴィンは、卒倒するかと思うほど、ショックを受けたのは記憶に新しい。

 

 

「何故、こんな馬鹿げた事をやろうとした?」

「自分専用の馬を調達する為の資金調達…そして貴族を見返してやりたいからですわ!」

 

 

部下からその情報を知らされてフローラを緊急招集して問い詰めた!

カラネス区壁外で10体の巨人を単独で討伐する件について、彼女は自信満々で返答してみせた。

エルヴィンは叱責し、調査兵団の装備品の使用を禁止にすれば計画を阻止できると…思っていた。

まさかピクシス司令の支援を受けて独自にガスボンベと刃を調達するとは予想できなかった。

 

 

「色々とやらかしてくれたが…今回は役に立ったな」

 

 

副官が急ぎ足で廊下を渡っていく後ろ姿を見ながらエルヴィンは呟いた。

カラネス区壁外で、14体の巨人を単独で討伐したフローラの雄姿はカラネス区長も目撃していた。

百聞は一見に如かずとは良く言ったものだ。

増員にフローラの名を出すだけで、区長とその取り巻きの苦言を黙らせる威力がある。

もちろん、絶対にやらかすのは確定しているので、彼女を壁の守りにする気は一切なかったが!

 

 

-----

 

 

太陽が壁内全てを照らすように真上に登った頃、無駄に外観だけは豪華な駐屯兵団支部の建物。

その4階の個室でカラネス区正門の守備隊長、ハルトマン・ロボフは執務を行なっていた。

いや元守備隊の隊長であった。

何故なら部下は昨日、全滅したからだ。

 

 

「退役届の封筒は、113通か…多いな」

 

 

50mの壁を登って壁内を襲撃した6m級の巨人は、正門と壁上に展開していた兵士を全滅させた。

壁上や正門は、逃げられる場所もスペースも限られるうえに、兵士は交戦に不慣れだった。

更にうなじを攻撃しても、硬質化しているせいで倒せないという初見殺しで歯が立たなかった。

結果、正門の守備隊や固定砲整備班も含め、死者は97名、行方不明者67名であった。

追い込みをかけるように、113名が巨人の恐怖に負けて退役届を出していた。

 

 

「昨日の事件は、直接交戦していない兵士ほど恐怖が感染し、集団発生したのでしょう」

 

 

ロボフ隊長の副官は、あの地獄の中で生還した。

今思い返していても奇跡としか言いようが無かったー。

 

 

「大丈夫か?」

「なんとかな…部下達は…どうなった?」

「見ての通りだ、ようやく今、生存者を発見したぐらいだ…」

「そうか…」

 

 

ロボフが目覚めた時には、全てが終わっており救護に駆け付けた調査兵に話しかけられた。

意識が朦朧としながらも、起こった出来事を報告しつつも辺りを見渡していた。

そこには、破壊された固定砲やブレード、血痕や内臓の欠片が附着した壁。

そしてなにより、1時間前には生きていた顔馴染みの兵士だった物が散散として転がっていた。

 

 

「おーい!生存者が2名居るぞ!!運ぶのに手をかしてくれ!」

「2名?」

 

 

ロボフ隊長は、その調査兵の一言で足元に副官が無傷で倒れているのを発見した。

フローラに裏拳でぶっ飛ばされて気絶した副官は、皮肉にもそれで巨人から生き延びる事ができた。

優秀な副隊長が戦死しており、配下の部下も全滅し、生き残ったのは自分たちだけである。

 

 

「私は、退役届を出した彼らを責める事はできない」

 

 

ロボフは必死に部下達が交戦している時に固定砲に身を寄せて隠れていた。

勇敢な兵士は戦死して、死んでおくべき臆病者だけが生き残ってしまった。

なんという不条理な世界であり、卑劣な自分のみが心配されているのだろうか。

あの時、どうすればよかったのか、彼は起床してからずっと悩み続けていた。

 

 

「心境をお察しします」

「とにかく、現時点で届けられた退役届は113通で良いのだな?」

「いえ、もう1通あります」

「ん?」

 

 

副官の言葉を聴いて、上官であるロボフは彼の顔を見た。

副官は顔を歪ましており必死に耐えていたが、たった今、感情が崩壊した。

兵服の懐のポケットから折り畳まれた退役届を、作業机の上に置き声をあげて泣き出した。

優秀な彼は、一歩間違っていたら戦死した恐怖と、巨人という具現化した【恐怖】に潰された。

 

 

「隊長…申し訳ありません…小官は、もう戦えません…小官は…私は…」

「生きたい!!もう巨人に逢いたくない!!私は逃げたいんです!もうやだ!!」

「あんなに訓練してきたのに!巨人には勝てなかった!みんな死んだ!このままだと私も死ぬ!」

「嫌だ!生きたい!死にたくない!!ロボフ隊長!!退役届114通を受理してくださいいいい!」

 

 

副官は上官に謝罪した一言で、今まで感情を堪えてきた堤防が決壊し、感情が爆発した。

床に伏せて大声で泣き出した副官を呆然としてロボフは眺める事しかできなかった。

彼は、泣き喚く部下に励ましの一言も告げられなかった。

できるとすればー。

 

 

「分かった…上官と掛け合ってみる。絶対に承諾してもらうさ」

「隊長…ありがとうございます」

「もういいだろう?今日は休め、昨日の疲れを癒してから再びここに来てくれ」

「申し訳ありません…失礼しました」

 

 

副官は頭を下げて、執務室から退室した。

 

 

「クソ!」

 

 

ロボフは、机にあった羽ペンを床に叩きつけた!

自分だって逃げ出したかった!すぐに隊長の役職から退きたかった!

それでも昨日の羞恥と隊長としての責務によってなんとか耐えていた。

そんな彼も、優秀で黙々と業務をこなす副官だった者が壊れたのを目撃してやけくそになった。

無駄に年を重ねたせいで、若者の様に感情を爆発する事もできず、退役届の山を見つめていた。

 

 

「ん?」

 

 

しばらく眺めていると、再びドアのノック音がした。

 

 

「入室を許可する!」

「失礼します!」

 

 

入室してきた兵士を見てロボフは驚愕した。

カラネス区壁外で巨人討伐のパフォーマンスをし、昨日に自分の喉元に刃を突き付けてきた…。

フローラ・エリクシアが気まずそうな顔をして、大きな肩掛けのバックを持っていた。

 

 

「なんで…ここに?」

「え…だって、昨日、ご迷惑をかけてしまい、その謝罪をしに参りました」

 

 

フローラは、本日の業務が取り消しになったのを良い事に自由行動をしていた。

まず朝食をした後、壊れた新型の装備をトロスト区の技術4班の所に事情を説明して提出した。

その後、店に寄り、自ら出費して製作し試食した『復興饅頭』を代金を支払って受け取った。

そして、迷惑を掛けた駐屯兵団第三師団の方々に謝罪しようとここまで来たのだ。

 

 

「あれ?」

 

 

兵団支部の建物に到着すると彼女は違和感を覚えた。

警備兵どころか、受付嬢すらおらず中は閑散としていた。

駐屯兵団の死者が100人以上居るとは知っていたが、文官すら居ないのは衝撃的だった。

ようやく通路で逢えた人物は、昨日、裏拳でぶっ飛ばした兵士であった。

 

 

「君のおかげで助かった…ありがとう…」

 

 

何故か、彼は怒るどころか泣きながら感謝の一言を呟いて抱擁してきた。

地味にフローラは押し倒されてしまい、第三者から見れば誤解を生む状況ではあった。

とりあえず、彼の“声”を聴いて察した彼女は、深くは踏み込まず饅頭を渡して終わりにした。

ついでに彼からロボフ隊長の居場所を訊いて、その場所にやってきたのだ。

 

 

「何でそんな能天気なんだ…」

 

 

ロボフは、饅頭を差し出してきた女兵士に恐怖した。

昨日、第57回壁外調査で地獄を見てきたはずなのに呑気に差し入れできる元気があった。

それならまだいい、こいつは単独で巨人を二桁討伐できる化け物だった。

巨人の天敵が生き生きとした女兵士の皮を被っている感じがして、気分が悪くなった。

 

 

「よく同期から言われますね」

 

 

一方、頭エレン娘はいつもの事だと思ってスルーした。

彼女には絶望という感情が欠如しており、壁にぶつかっても進撃する性格である。

馬鹿にされようが、失望されようが飯食って寝ればすぐに忘れる女だった。

今回もなんか呆れられているなーと他人事だ。

 

 

「あっ、よろしかったら、この饅頭を兵団の皆さまに差し入れして頂けませんか?」

「饅頭?」

「はい、トロスト区防衛戦で戦死した兵士のご両親が作った饅頭ですわ!」

 

 

作業机に置かれた肩掛けカバンにずっしりと饅頭が梱包された箱が入っていた。

『復興饅頭』という表題、横にはワグナー製菓と書いてある。

この饅頭を差し入れしてきたフローラは、謝罪以外の魂胆があった。

それは、ワグナー製菓の広報である。

 

 

「そうか…」

「そうです!」

 

 

フローラが初めて仲良くなった同期は、トーマスとミーナであった。

そのトーマス・ワグナーは、トロスト区防衛戦で戦死し、両親と歳が離れた弟が残された。

その両親が無力な自分たちがせめて何かできないかと模索していた。

元々、菓子店を経営していた彼らは、ワグナー製菓を設立して食で支援しようとした。

そして頓挫した。

 

 

「三大欲求の1つ!食事で兵士や住民を盛り上げようと計画され、作られた饅頭です」

「そこまで言うなら美味しいのか?」

「はい、これを食べれば、巨人の恐怖に打ち勝ちます!試しに召しあがってください」

 

 

ただでさえ自信満々だった化け物が、ドヤァ顔でいるのに腹が立ったロボフは饅頭を口にした。

 

 

「旨いな…」

 

 

皮はもちもちで、餡子が舌で踊り、程よい甘みとスパイスの塩辛さが癖になりそうだった。

確かにストレスで胃痛と頭痛に悩まされていたが饅頭を口にしている時は幸せであった。

 

 

「隊長のお口に合って安心しました」

「これなら落ち込んだ部下達や同僚の気分転換にはなるだろう」

 

 

ロボフ隊長が饅頭に満足して、部下に配布してくれると知ったフローラは微笑んだ。

もちろん、これが目的であった。

当初の予定では、調査兵団の上官に振舞う予定だったが、こちらを優先しただけであった。

そう、この饅頭を兵団の上官たちの印象に残す為に持参してきていた。

 

 

「もう1個だけ良いか?」

「はい、これで昨日、迷惑をかけた件について少しでも許していただけるなら…いくらでも」

「さすがに…そこまで食べる気はない」

「そうですか…中々注文できない饅頭なので…」

 

 

こんなに美味しい饅頭を作れるワグナー製菓が頓挫した理由。

それは、桁違いな材料の運送費のせいで加算された饅頭の値段である。

 

一時期のトロスト区の住民は、豆のスープにおが屑を加えた物が主食の有様だった。

そんな状況下で、内地に住む4人一家を5日分の食費の値段の饅頭など売れるわけなかった。

そこでフローラは逆転の発想をした。

 

 

「有名な店なのか?」

「いえ、知る人ぞ知る完全予約制の店です!」

 

 

庶民に饅頭が売れないなら、金持ちに大人買いしてもらえばいいと!

手始めに兵団上層部の胃袋を掴んで、100人単位で饅頭を発注させる事で値段を下げる事にした。

1個の饅頭と100個の饅頭の材料の運送費は、同じである。

つまり、まとめて饅頭を注文してくれれば、1回の運送費とその饅頭の材料費+αで済む。

もちろん、露骨に配れば商売敵にバレる可能性があるし、庶民がそんな事できるわけなかった。

 

 

「だろうな…こんな旨い饅頭なんて…待て!なんでそんなに饅頭を購入できたんだ!?」

「戦死した兵士と同期でして、友人だった縁で安く購入できました」

 

 

いろんなトラブルを引き起こして上官に迷惑を掛けている自覚があるフローラ。

謝罪する際の手土産にお菓子を持参して頭を下げる事にした。

そうすれば怪しまれないし、兵団の上層部に接触できるからだ。

需要ができるまでフローラは自腹で饅頭を購入するしかないが、これも亡き親友と両親の為。

この饅頭がトロスト区の復興の代名詞になるまで奮闘するつもりだった。

 

 

「…ところで壁外の巨人討伐について何か聴いているか?」

「後日、調査兵団の精鋭部隊による巨人掃討作戦があると存じております」

「…君達に手を煩わせるのは心苦しいものではあるが…」

「どの道、壁外調査の脅威になる以上、討伐は免れないのでー」

 

 

いつの間にか、ロボフ隊長から愚痴や悩み相談役になってしまったフローラは困惑した。

まあ、これも野望の為…と思っていたら退役届けを提出した兵士のメンタルケアまでさせられた。

話し合った全員に抱擁して、兵団支部の建物から出た頃には夕焼けで大地が染まっていた。

 

 

「ライリー!ライリー!あっダメね…完全に怒ってる…」

 

 

相棒のライリーは放置されて怒り心頭に発しており乗馬できる状況ではなかった。

昨日の壁外調査で思う存分、自由に駆け巡れた分、本日の不自由さにご立腹であった。

仕方なくフローラは後ろ蹴りを何度も回避しながら、落ち着くまで毛の手入れを行なった。

こうしてライリーが落ち着いたころには、夜の帳が降りており晩飯が喰えそうもなかった。

 

 

「しょうがないわ…とことん付き合ってあげるわよ」

 

 

少し落ち着いたが、このまま厩舎に戻せば、明日は制御できないとフローラは理解していた。

そのせいで、とにかく走るのが大好きな彼女に思う存分走らせて満足させるしかなかった。

真夜中で月明りもない曇り空で走らせるのは彼女からしても中々ない機会ではあった。

もし、夜間に巨人との戦闘になっても対応できるようにするという名目で走らせた。

 

 

「ふふふ、…全く見えないわ」

 

 

馬は夜目が利くと習ったがその通りでライリーは平然と真夜中の平原を駆け回っていた。

人間の負の感情を聴くことができるフローラは、その特殊能力を活かしながら…。

活かす以前に人間が居ないせいで役に立つことは無かった。

時折ランタンを照らして、地図で地理を確認し遭難しないようにするだけであった。

 

 

「トーマス…」

 

 

暗闇の中でフローラはトーマスの事を考えていた。

自己紹介と甘ったれな精神を叩き直された“通過儀礼”が行われた日から1週間後。

彼はミーナと揃ってキース教官にボロクソに叱責されて落ち込んでいた。

 

 

「今よりも訓練成績を上げるのは、正直難しい気がするんだよな…」

 

 

兵士を諦めたくないトーマスは愚痴を溢していた。

 

 

「うん、全力で取り組んだ結果が今の成績なわけだし…フローラ、どうすればいい?」

 

 

突然、ミーナという少女に話を振られてフローラは困惑した。

記憶喪失から2年ほどしか経過しておらず、経験がないせいで何とも言えなかった。

 

 

「優秀な仲間を見習ってみればいいじゃないかしら?」

 

 

適当に返答するのが精一杯だった。

 

 

「仲間を見習う?…確かにみんなの長所を学べば、兵士として成長できるかも?」

「長所を学べば…それを意識して皆と交流すれば色々と学べそうだな」

 

 

なんか適当に発言したら、それを元に独自に解釈して次の目標を考えたトーマスとミーナ。

 

 

「よし、後でお互いの結果を話し合おう!フローラが言い出したんだし付き合ってくれよな」

「えぇ、分かったわ!」

 

 

こうして1週間に1回、恒例となる報告会を3人で行なっていた。

訓練兵を卒業した以降、一切やっていない。

それどころじゃなかったし、トーマスは戦死してしまったから。

ただ、その時の内容は、議事録のように調査手帳に記してあった。

 

 

「後で手帳を見直してみようかしらね…」

 

 

ここ最近、ミーナが壊れているのは、彼女と向き合って交流していないせいなのかもしれない。

そう思ったフローラは、ライリーを走らせながら回想をしていた。

その報告会が恒例となっているなーと3人が認識した頃。

 

 

「俺はあれからエレンとアルミンの2人と交流する機会が多くなったんだ」

「エレンの長所は、とにかく根性だな。絶対に諦めない不屈の意志がある奴だ。」

「アルミンの長所は、頭の良さと、負けん気の強さかな」

「身体能力の欠点を補うために陰ですごく努力している奴なんだ」

 

 

最初の報告会と比べて、しっかり自分の意見を述べるようになったトーマス。

 

 

「根性と負けん気か…訓練に対する姿勢とか考え方に長所があるのね」

「うん、そういう長所なら俺達も見習えそうだ…ミーナはどうだった?」

 

 

ミーナも前と比べてしっかりと分析できるようになった。

もはやただ流されるだけしかできない以前の彼女ではなかった。

 

 

 

「私はミカサとクリスタの2人と仲良くなれたかな」

「ミカサは、どんな状況でもエレン関連を除けば、自分の感情を制御できるの」

「クリスタは、いつもまわりの状況をよく見てる。みんなの動きに気を配って…すごいよね」

「なるほど、ミカサの長所はともかく、クリスタなら見習えそうだな」

 

 

トーマスもミーナも仲良くなった同期たちの長所を少しでも真似しようとしている。

鎧の巨人を討伐するのを目標にしているフローラも、同期達の長所を取り入れる予定である。

 

 

「次はフローラの番ね」

「そうね、仲良くなったのはジャンとライナーとベルトルトね」

「ジャンは立体機動の動きがうまくて、憲兵団を目指している分、誰よりも動きが良いわ」

「ライナーは頼れる兄貴分ね、お節介に感じるけどそれだけ安心できる…そんな気がするわ」

「ベルトルトは、一見頼りにならない気がするけど、誰よりも強いわ」

「自分の意思は弱いけど、逆に言えば任務に私情を持ち込まずに淡々とこなせるって事だし」

 

 

フローラも仲良くなった同期たちの長所を述べた。

 

 

「なるほど、口が悪く横暴なジャンも良い所があるんだな」

「ちょっと、トーマス。ジャンが聴いたら怒り出すよ」

「大丈夫だミーナ。ここにはジャンが居ないからな」

 

 

2人が楽しそうに雑談していて、フローラは微笑ましく見ていた。

これが仲間であり同期であり戦友になっていくのだと。

 

 

「よし、今回の報告会は終わりだな。話を聴いて参考になったよ」

「私もみんなと仲良くなれて、自分の役に立ちそうな事をたくさん学べたかな」

 

 

初めて本来の目的であった同期の長所を述べる事となった報告会。

本当に些細な会話であったが、ミーナもトーマスも一段と兵士になる覚悟を決めたようである。

 

 

「このまま続ければ、教官を見返してやれそうですわね!」

「もう豚小屋に帰れなんて言わせないから!!」

 

 

ミーナは未だにキース教官に言われた事を引き摺っているようだった。

でも、この報告会を続けていけば教官を見返す日は来るだろう。

 

 

「ねえ、2人ともこれからジャンの所に行かない?」

「え?なんで?」

「3人で頭を下げて、ジャンから立体機動について学ぶのよ!」

「コニーは座学が壊滅的だけど、立体機動の成績が良いから成績上位…」

「つまり、皆が苦手な立体機動の技術を伸ばせば、きっと教官を見返せるわ!」

 

 

この後、フローラはミーナとトーマスを連れてジャンに逢いに行った。

1人なら断られるが3人で頼れば、きっと立体機動のコツを教えてもらえると。

最初は断っていたジャンであったが、最終的に折れて指導してもらえるようになった。

そして、今ではジャンよりも立体機動が旨くなってみんなから頼られるように…。

 

 

「ライリー?どうしたの?満足した?」

 

 

いつの間にかライリーの動きが止まっており、自分の指示を待っている様であった。

 

 

「じゃあ、帰りましょう?明日をより良い形で迎えられるようにね」

 

 

フローラはライリーを誘導して厩舎へと向かっていく。

翌日を最高な環境で迎えられるように。

トーマスは一ヵ月前のトロスト区防衛戦で戦死して、明日を迎える事は絶対に無い。

それだけではなかった。

昨日、戦死した調査兵団や駐屯兵団第三師団の兵士達も迎える事はできない。

 

 

「辛いわね…」

 

 

人生は有限。

兵士を続けていく以上、いつか戦死するだろうし、しなくても翌日を迎えられない日は来る。

だからこそ、フローラは毎日を大事にして、何があっても後悔しないようにしている。

絶対に翌日を迎えられる保障なんて無いのだから。

 

だからフローラは、お別れをする時に抱擁する習慣を身に着けた。

その人を少しでも覚えていられるように…と。

 

 

「ミーナ、また報告会をやりましょうね…」

 

 

トロスト区防衛戦から一切報告会をしなくなり、1人にしてしまったミーナ。

親友の1人は戦死し、もう1人は憲兵団に所属して逢う機会がなくなった。

きっと、彼女は寂しくて自分の眷族のように振舞って、寄り添おうとしたのだろう。

だからこそ、以前のミーナを取り戻すためにも報告会を続けることをフローラは決意した!

 

そうこうしている内にウォール・ローゼとカラネス区を繋ぐ門の明かりが見えてきた。

それは、地平線から登ってきて翌日を実感させる太陽のようであった。

 

 

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