進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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45話 クリスタとミーナの根性と執着心

第57回壁外調査から2日目、今回も新兵は任務を課せられず待機しろという命令だった。

入団してから一ヵ月で地獄を見た新兵に対する調査兵団なりの思いやりなのであろう。

…なんてフローラは楽観視できなかった。

 

 

「数日後に【第58回壁外調査】が控えているぞ…気を引き締めていけ」

 

 

食堂で、すれ違ったミケ分隊長の小声の囁きに思わずフローラは“声”を意識した。

しかし彼は、部下達の事を考えて、悲観的になっている感情しか読み取れなかった。

 

フローラの特殊能力は、負の感情を“声”として聴けるだけで、心を読む能力ではない。

だからこそ、読心術の使い手だとかメンタルケアの達人と呼ばれるのは心外である。

 

 

「とりあえず、この様子だと前回みたいな規模じゃなさそうね」

 

 

すかさずフローラは、スケジュール手帳にさきほど聴いた予定を記した。

おそらくではあるが、壁外調査という名の巨人掃討作戦であると大体察した。

前回の壁外調査で、調査兵団の支援母体が失墜している名誉を挽回する為なのだろう。

…というのは建前で、王政が調査兵団の力を削ぐつもりで遠回しのやり方にしたかもしれない。

 

 

「考えても仕方がないか…」

 

 

とりあえず頭エレン娘は、思考を停止するより前に向かって進撃する。

ミケ分隊長が部下達の負傷の可能性について悲観的になっていた。

それで、リヴァイ班が大体エレンのせいで病院に入院しているのを思い出した!

 

 

「まず病院に面会の許可を取りますか!」

 

 

そう決意をしたフローラの行動は早かった!

朝食を取るのを忘れたまま、食堂から飛び出して病院へと向かっていった。

ミーナが自分を待っており、朝食を取るのを我慢していると知らずに…。

 

 

-----

 

 

「ここね…カラネス区第三病院!」

 

 

トロスト区では兵団の関係者専用の診療所があったが、カラネス区はそんなものはない。

そもそも兵士が負傷しないので、そんな診療所など建てる必要は無かった。

民間人からすれば、自分たちを診てくれる可能性が低くなる兵士の入院は嫌がるものである。

人類最前線の街の役割がトロスト区からカラネス区に移行した現在ではそうも言ってられない。

とにかくフローラは表札で病院名を確認して、そのまま進もうとした。

 

 

「クリスタ!こっちに荷物をもってきてくれ!」

「はぁ、はい!すぐに持ってきます!」

 

 

トロスト区で調査兵団が活動していた時は、診療所の手伝いをしていたクリスタ。

どうやらここでも【女神】として振舞っている様である。

すっかり人気者になった彼女の姿を見たフローラは、無言で回れ右をして立ち去ろうとした。

 

 

「あっ!フローラ!」

 

 

残念ながらクリスタに見つかってしまい、フローラは全速力で駆け出した!

別にそういう活動は嫌いではないし、良い事である。

ただ、彼女は過労レベルで他人に尽くす為、自身が倒れるという本末転倒の性格だと知っていた。

医務室送りの常連だからこそ、彼女の狂気を見てられず手伝ってしまい、酷い目に遭うのだ。

 

 

「あっ…鎧の巨人…」

「なんですってえええええ!?」

 

 

クリスタは、全速力で逃走したフローラを見て、蚊の羽音より小さな声で「鎧の巨人」と呟いた。

すると無駄に聴覚に優れる彼女は、踵を返して全力疾走で元凶に向かった!

 

 

「…ねえ、両親の仇の名を軽々しく発言しないでくださらない?」

「こうでもしないと来ないじゃない…」

 

 

フローラは、両親の仇の名を自分を呼び寄せる餌に使われるのを忌み嫌っている。

同期や手当を受ける負傷者からは、良い子を演じているクリスタを【天使】だと比喩するが…。

フローラからすれば、【良い子の振りをした悪い子】という感覚でしかない。

 

 

「…。」

「分かったわよ…手伝えばいいんでしょう?」

「うん、人手が足りなくてね…」

 

 

カラネス区に巨人が襲撃してきた日、住民が避難しようとして負傷者が続出した。

一通り訓練しているおかげで、ドミノ倒しになったりコケて踏まれた人が居ないのが奇跡だった。

負傷者の発生を防ぐ事態は不可能で、膝を擦り剥いた人から屋根から落下して骨折した人も居る。

それでも、重傷者ではない以上、そこまで大した事ではないはずだった。

 

 

「クリスタ!俺を診てくれ!」

「何を言っていやがる!俺が先だぞ!」

「一番怪我している私が先でしょ!?」

 

 

クリスタの女神っぷりに癒される為に本来来るべきではない人が病院の前に来ていた。

医療崩壊させるつもりか、と思わずツッコミたくなるほど無駄に怪我人が居た。

要するにクリスタは、彼らを診るのが精一杯で荷物の運送ができないって事だ。

誰かの頼みならできる範囲で、対応しようとして、結果的に身動きが取れなくなったようである。

 

 

「すみませんー!通ります!通りますって!!」

 

 

仕方なく集まってきた負傷者を退かしてフローラは人ごみの渦中から荷物を運び出した。

せめて自分みたいに立体機動の失敗で全身を地面に叩きつけられてから来て欲しい。

内心ではそう思っていたが、調査兵団の兵士の印象を悪くしない様に笑顔を固定して歩いていた。

乙女たる者、自然な笑顔で男共を誘惑して…クリスタが人気のせいでフローラはスルーされた。

段々、収容所を建設してクリスタとこいつらをぶち込んだ方が良い気がしながらも荷物を運んだ。

 

 

「ありがとう…助かったよ」

「本当にこんな仕事を続けて大丈夫なの?」

「うん、みんなの笑顔が私にとっての特効薬だから…」

「思いっきり何度もセクハラされたんだけど…貴女、いつか無頼漢に襲われるわよ?」

 

 

堂々とフローラの尻や胸を触ってきたり、下ネタを連発する自称病人に通院が必要な負傷者!

本当に負傷者だったら、そんな余裕があるわけないだろう。

自分ですらセクハラされたのにあんなに可愛いクリスタがセクハラされない理由は無い。

かといって、ライナーやユミルに相談すれば、【クリスタ親衛隊】を結成して暴行を働くだろう。

フローラは、どうにかクリスタにこの仕事を辞めさせる為、高速で頭脳を働かしていた。

 

 

「大丈夫だよ!もしクリスタにそんな事をしたら私が止めて見せるからさ」

「じゃあ、なんでわたくしの時は止めてくれなかったのですか?」

「…仕方のない犠牲だった!」

「やだ、この病院。警備兵が警備兵として機能してないわ…」

 

 

病院の警備を担当している武装した女兵士は、フローラの事を知っていた。

だからこそ、セクハラされている現場を見て、あいつ終わったな…としか思わなかった。

職務怠慢過ぎて呆れたフローラは、気を取り直して患者の面会を取れるか確認に向かおうとした。

 

 

「「こんにちは」」

「あっこんにちは、見舞いご苦労様です。奥の病室にどうぞ」

 

 

女兵士は、負傷兵の妻と娘に挨拶を返して病室へと口頭誘導していった。

浮かない顔をして女性と女の子は病室に向かって歩き出した。

 

 

「あの人たちは?」

「奥に居た兵士が居ただろう。彼の家族だよ…もう長くないかもしれないんだ…」

「そうですか…」

 

 

どうやらクリスタは、重傷者の看護もしていたようである。

何かと気にかけていたのか、兵士の返答で顔を地面に向けていた。

 

 

「君の方が一番詳しいんじゃないかな?」

「えっ?」

「よく壁外からあの重傷者二人を帰還させたと感心するくらいだよ」

 

 

ここでフローラは、自分が指揮をしたカラネス区撤退作戦の事を思い出していた。

その作戦で帰還できたのは自分も含めて21名。重傷者は、エルドさんともう1人、黒髪の男。

 

 

「両腕がある黒髪の兵士さんですか?」

「ああ、そうだ」

「破傷風ですか?」

「察しが良いな…四肢が痺れる症状が出てるぞ」

「あっ…死ぬわね」

 

 

破傷風で苦しんだことがあるフローラは、すぐにその兵士がヤバいと分かった。

エルドさんには、破傷風にならないように工夫していたが、それ以外は無視した。

衛生兵が居るんだし、最低限の治療を…した気がしないまま出発した。

怪我の詳細は分からないが泥まみれで不衛生だった彼は、おそらく…。

 

 

「フローラ!なんでそんな事を言うの!?」

「実際に発症したからこそ分かるのよ!」

 

 

その一言でクリスタは黙り込んだ。

医務室常連のフローラは、色んな怪我や病気を経験した。

お陰様で、負傷した訓練兵を診る医師や衛生兵の経験値稼ぎが捗った。

トロスト区戦で負傷した兵士たちに的確な医療をできたのは彼らのおかげという噂がある。

今度、本が出版されるが、表題は『三桁も医務室送りされた女から学んだ30個の医療対応』。

つまりフローラのせいで、的確な医療体制や負傷兵の運搬など役立つ事が…経験で得られていた。

 

 

「今の状況じゃ治療がね…」

 

 

女兵士は肩を竦めて諦めた表情で発言した。

クリスタは諦められない表情で喰い付こうとしたがフローラは手で制止するしかできない。

 

 

「あの…お父さんは助からないの?」

 

 

さきほど母親から水をもってくるように指示された少女は、兵士の元に向かっていた。

そこで自分の父親が助からないと知って思わず質問した。

誰も答えてくれないので、それが事実だと分かってしまった。

 

 

「だ、大丈夫だよ…お母さんには内緒にするから…悲しむから…」

 

 

そう告げて水を貰いに走り出した。

 

 

「待って…あっ…!」

 

 

手を伸ばしたクリスタであったが、どうする事もできなかった。

 

 

「フローラ…私、あの子の事が気になるよ。だって今にも泣きそうな顔をしていた…」

「可哀そうだけど仕方がないわ。父親が調査兵団の兵士である以上、覚悟はしてもらわないと…」

「でも…私、あの子に何かしてあげたい」

 

 

それでも彼女は何かをしてあげたかった。

それが無駄になろうとも偽善であっても、少女の支えになってあげたかった。

 

 

「私…しばらくここに通っていいですか?あの子の事、励ましてあげたいんです」

「構わないけど、本来の職務に支障が出ない程度にしておくんだよ」

 

 

これで、兵士が死ぬか峠を越すまでクリスタはこの病院に通い続けるだろう。

幸いにも特に命令を下されていないので、当分はここに通う事ができる。

しかし、ここに来る以上、自称負傷者たちも含めてここの手伝いもするのは分かる。

すぐに破綻すると分かっていながらフローラは無言を貫いた。

 

 

-----

 

 

「よぉフローラ!元気そうだな!」

「それはこっちの台詞では?」

「こまけぇ事を気にするな!」

 

 

オルオは、フローラが見舞いに来たのは驚いたがその表情を見せない様に誤魔化した。

その感情を“声”として聴いたフローラもあえて触れることはしなかった。

 

 

「症状はどんな感じですか?」

「もうすぐ退院できるぞ…さすがに訓練しないと現役時代に戻れんがな…」

「リヴァイ兵士長に次ぐ実力者のオルオさんならすぐ追い付けますよ」

「さすがにミケ分隊長の方がまだ強いと思うがな…」

 

 

気を遣ってお世辞を述べたフローラに感謝しつつもオルオはベッドの上で寝返りをした。

彼は自分よりエルドやペトラ、なによりリヴァイ兵長の事が心配だった。

 

 

「兵長は何か言ってたか?」

「それはご自分で確認された方がよろしいかと…」

 

 

実際、兵士長に遭遇していない以上、フローラは答えようが無かった。

うまくはぐらかしてオルオさんに確認してもらう為に、彼女はあえて受け流した。

 

 

「…ペトラはどうだった?」

「打撲と腕の負傷だったそうですよ。脳震盪の可能性もあるので暫く入院されるそうですが…」

「そうか…」

 

 

女型の巨人にペトラが踏みつぶされそうになった時、オルオは叫ぶ事しかできなかった。

フローラのおかげで、危機を回避したもののこのままだと彼女を護れない。

同期であり大切な人であるからこそ、彼は必死に今まで努力してきた。

それでもダメだった。

だから更に努力する必要がある。

 

 

「フローラ、俺様が復帰したら訓練に付き合ってくれ」

「それはペトラさんや兵士長に内緒にするんですか?」

「無論だ!俺はまだ成長途中だからな」

 

 

決してオルオは弱いからと告げない。

それを認めれば、自分のアイデンティティを全て否定することになるから。

ペトラを護れる男が弱さを見せるわけにはいかなかった。

 

 

「あと、エルドさんは絶対安静で面会できませんでした」

「危篤か?」

「いえ、むしろもう1人の重傷者の方がまずいみたいですわ」

「喜べんな…」

 

 

オルオは拳を握り締めた。

自分にもっと力があれば、リヴァイ兵長の期待に応えられたはずである。

今まで巨人討伐数だけを狙って競っていたが、エルドの言う通り、それだけは駄目だった。

彼を見返して、初戦の失態を二度と彼の口に出させない様に努力するつもりだった。

 

 

「…そういえばエレンはどうした?」

「意識がはっきり覚醒しないようで、例の場所で安静に…」

「そうか、ありがとう」

 

 

フローラは周りの“声”を聴いて聞き耳を立てている人が居ないのを確認して発言した。

王政府などのスパイが隣室に居る可能性がある以上、軽はずみな発言はできなかった。

オルオも発言した後に後悔してしまい、察して発言したフローラに感謝した。

 

 

「それではまた生きてお会いしましょう」

「ああ、被害者3人組を結集して彼女に心配される加害者に愚痴ってやるさ」

 

 

手を振って退室したフローラを見届けた後、オルオは掛け布団を引っぺがした。

そこにあったのは、彼の家族からの励ましの手紙があった。

両親の綺麗な字から末っ子の汚い字まで様々な物である。

大口叩いて無様な姿で帰ってきた自分を責めずに帰還をよろこんでくれた家族。

 

 

「お兄ちゃん…もっと頑張るからな!」

 

 

その家族をもう1名、いやそれ以上増やす予定のオルオ。

まずは休養が必要と感じたので手紙を近くにあった机の上に置いて再び寝た。

自分に向けた数少ないペトラの笑顔を思い浮かべながら夢を見ていく…。

 

 

-----

 

 

「おっ!フローラじゃねえか!」

「ライナー!ジャンにコニー、アルミンまでどうしたの?」

 

 

フローラは帰り道で、同期達と遭遇した。

 

 

「フローラ!僕も居るよ!」

「ベルトルトまで…」

 

 

ついでになんか民家の壁に擬態するかのように佇んでいたベルトルトも居た。

 

 

「これから訓練に向かうつもりなんだが、フローラも付き合ってくれ」

「別に構いませんけど、ライリーも連れてきたいので待っててくれませんか?」

「ライリーってあの馬か…」

 

 

ライナーは、ライリーと呼ばれたフローラの専用馬に追いかけ回された記憶が蘇った。

 

 

「本当に連れて来るのか…?」

「4時間以上、走らせないと攻撃してくる気性が荒い馬ですので…」

「よく、そんな馬に乗れるな…」

 

 

フローラとライナーのやり取りを聞いたコニーは思わず本音を口にした。

相棒を馬鹿にされたのにフローラが激高しないのはそう感じても仕方無いと自覚していたからだ。

 

 

「『ライリー』か、ライナーを意識して名付けたの?」

「おっ、もしかしてだけど!もしかしてだけど!」

 

 

アルミンの純粋な疑問にそれに乗っかったジャンがフローラを煽った。

 

 

「えぇっ!!?フ、フローラ!ライナーの事が好きなの!?」

 

 

今まで空気だったベルトルトがフローラの双肩を掴み何度も揺さぶった。

いつもとは違う彼の行動に誰もが驚いた。

まるで彼が好意を抱いているアニが異性と仲良くしてきたと知って動揺しているかのように。

 

 

「嫌いか好きかと言われたら好きよ!」

「駄目だよ!ライナーは…戦士候補生から…」

 

 

ここでベルトルトは、背後からの冷たい視線を感じて彼女の肩から手を離した。

 

 

「戦士候補生?」

「…えーっと、訓練兵時代からライナーはクリスタが大好きで…」

「そのクリスタが馬に名付けたのよ…」

 

 

彼の慌てぶりに何事かと思ったが、クリスタの事かと思った。

ライナーどころか、同期達から女神として人気者の彼女。

ミカサですら彼女の気遣いに素直に関心しているほどである。

 

 

「ライリー…勇敢か、確かに良い名前かもしれないね」

 

 

アルミンは素直にクリスタのネーミングセンスを褒めた。

 

 

「つまりクリスタは、ライナーを馬と思っているんだな」

 

 

ジャンはライナーの顔を見ながら煽るように発言した。

 

 

「馬面野郎は、ついに馬の知能未満になったか…」

 

 

ライナーは呆れたように右腕の肘をジャンに軽く当てて牽制した。

 

 

「マジかよ!成長するどころか知能が退化するってすげぇなジャン!」

 

 

ライナーの発言を聴いてそのままの意味で受け取ったコニーは素直にジャンを褒めていた。

もちろん、ジャンは普通に馬鹿にされるより腹が立って握り拳が震えている。

 

 

「ライリーをライナーって呼んじゃう時がよくあるのよね…」

 

 

これはジャンがコニーを殴るな…と思いながら他人事のように話すフローラ。

一通りの発言をしたら、風以外の音が聴こえなくなった。

 

 

「…ところで何の訓練をするの?」

「巨人との戦闘に関する訓練だ…トロスト区戦や壁外調査で嫌ほど必要だと分かったからな」

 

 

ライナーはフローラの質問に即答した。

ここに居る5人は、巨人との戦闘で自身が力不足だと実感した。

アルミン以外は、立体機動の成績が良かったが実戦では、あまり役に立たなかった。

巨人の動きを想定して立体機動で動く技能は、経験しないと分からない。

だが、実際に巨人の前で対峙すると学ぶ前に戦死する可能性が高い。

 

 

「巨人との戦闘経験があるお前だけが頼りなんだ…初見で攻撃を回避できんからな…」

 

 

かつてフローラに立体機動を教えたジャンは、今では彼女に教えてもらう立場になった。

誰もが巨人に喰われて死にたくなかった。

しかし兵士で居る以上、巨人との戦闘は避けては通れない。

50mの壁を平気で乗り越えてくる巨人が居る以上、憲兵ですら交戦する可能性がある時代。

内地に行けば優雅な生活を送れると思っていた過去の自分を自嘲するほどに。

 

 

「お願いだ!経験した全ての事をオレたちに教えてくれ!」

 

 

ジャンは生まれて初めて両親以外に頭を下げて教えを請いた。

誰もが横暴で偉そうだった彼が成長したと実感できる出来事である。

フローラは、すぐに調査手帳を取り出してこの事を簡潔に記した。

そうとは知らずに、ジャンは返答があるまで頭を下げていた。

 

 

「良いわよ!じゃあライリーを連れだしたら訓練所に向かいましょう」

 

 

フローラは同期たちに巨人との戦闘で得た経験や知識を伝授する事にした。

大切な同期が、巨人の知識がなかったせいで殺されるほど悲しいものは無い。

トーマスもナックもミリウスもハンナもフランツも、巨人を内心で過小評価していたから死んだ。

肉体が大きい分、動きが鈍いとか、巨体では小人など感知できるわけないと。

そんな過ちを繰り返すのを看過できるわけなかった。

 

 

「まさか医務室送り常連だった奴がここまで頼りになるとは思わなかったぜ…」

「コニー、あいつは空間認識能力を鍛える為に、わざと無理な立体機動をしたそうだぞ」

「マジかよ…じゃあ…」

「ああ、おそらく立体機動に詳しいのはあいつだ」

 

 

コニーは訓練兵時代のフローラを思い出していた。

いつも医務室送りされているイメージがあったが、訓練だからこそ無理をしていたというのだ。

ならば…。

 

 

「フローラ先生!いくらでもしごいて良いから、正式な一人前の兵士にしてくれ」

「…それで思い出したんだけど、ライナーが欲しがっていた『兵士心得帳』を入手したわ」

「ありがとうな!お代は…」

「プレゼントよ!だからそんなに気にしなくて良いわ!」

 

 

ライナーはフローラに軽口を叩きながら厩舎に向かっていった。

その後ろ姿を見てベルトルトは溜息を吐いた。

こうして厩舎に着いたフローラ御一行様。

だが、彼らは想像だにしていなかった事件が発生した!

 

 

「ライリー!ライリー!止まってええええ!!」

 

 

興奮した馬のライリーがライナーを追いかけた!

まるで鞍に乗せてやっている主人の不俱戴天の仇と言わんばかりに殺意剥き出しで追撃する!

たまらずライナーは逃げ出してフローラはライリーの暴走を抑えようと奮闘する。

 

 

「うおおおおおおい!?早くなんとかしろ!」

 

 

何の恨みも買ったつもりはないと自覚している【兵士のライナー】は必死に逃げた。

 

 

「ライナー!ライナー!止まってええええ!!」

「俺が止まってどうするんだフローラああああ!?」

「間違えたああああ!?」

 

 

名前が紛らわしいせいでフローラは何度もライリーとライナーの名前を間違える羽目になった。

 

 

「俺が何をやらかしたっていうんだあああああ!!」

「実感すらないの…か」

 

 

愚痴を溢す同胞にベルトルトは頭を抱える羽目になった。

こうしてライナーは、馬のライリーに更なるトラウマを植え付けられた。

それでも訓練の結果、全員が兵士として更に成長したのを実感して口角をつり上げようとした。

両耳を伏せて睨めつけている馬の視線のせいで、ライナーは笑う事は出来なかった。

それを他人事のように感じていたフローラも、その日の晩、同じ視線を感じる事となった。

 

 

「ミーナ?」

「なーに?」

「怒ってる?」

「怒ってない!!」

 

 

親友のミーナ・カロライナが過去最悪で不機嫌になっておりフローラは対応に悪戦苦闘した。

口頭で説得できず、病院でセクハラされた以上に身体を触れられた。

それで満足できなかったのか、そのままミーナの寝室に連行されてしまった。

 

 

「わたくし、まだ風呂に入ってないんだけど…」

「知ってる」

「訓練帰りで体臭が気になっているんだけど…」

「知ってる」

「せめて香水を…」

「駄目に決まっているでしょ!!」

 

 

ミーナは、親友の困惑する顔を見てほくそ笑んだ!

言葉で理解できないなら身をもって尊厳破壊させて反省させるつもりだった。

兵服のジャケットと膝丈のブーツと固定ベルトを脱がした親友をベッドに押し倒した!

 

 

「次、私を無視したらもっと酷い尊厳破壊をしてやるんだから…!」

「分かったわ…!」

「じゃあ、素直に私の抱き枕になって!!」

「えっ!?」

 

 

ミーナは、フローラの胴体に脚を通して蟹バサミにし両腕で抱き寄せた。

身長143cmのミーナに対して183cmのフローラ。

その頼もしい肉体を非力な肉体で拘束できる優越感と安心感。

そしてなによりー。

 

 

「嘘でしょ…?」

「残念でしたー!これが現実よ!」

 

 

珍しく弱気になる親友を征服するという快楽!

同性だからこそできる仕切りの低さを悪用して尊厳破壊をできる!

異性同士のセクハラは認知されているが、同性同士は理解すらされていない時代。

同性は友人以上の関係に発展しないと常識にされている時代。

その時代を悪用してミーナ・カロライナは、フローラを辱めようとしていた!

 

 

「ま、待って!とりあえず深呼吸をしましょう!」

「いただきますー!」

「いやああああああああっ!?」

 

 

ミーナは、親友の汗臭い匂いと温もりを思う存分に味わった。

負の感情を“声”として聴けるせいでフローラは抵抗を諦めるしかなかった。

逆に考えるんだ!

拘束されて体臭を嗅がれるだけで済んで終わったのは、不幸中の幸いだと!

1時間も待たずに満足し解放されても、ミーナから離れる事は出来ずに寝るしかできなかった。

 

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