進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「うわっ…部屋が汚い。駄目だよフローラ!兵士としている以上、整理整頓をしなきゃ!」
ミーナはフローラの部屋を訪れて部屋の汚さに驚愕した。
木箱や梱包材が部屋の片隅に転がっており、大量の書類が紐で縛られて放置されている。
作業机の上に黒鉛やパンの欠片が散らかっており、スケジュール表が細かく書き込まれていた。
そしてなにより、床が少し見える程度で色んな物が置かれていた。
「貴女に涎塗れにされるより綺麗だと思うだけどね…」
「話をはぐらかさない!!」
「はい、ごめんなさい…」
上下関係が見事に逆転したフローラ。
昨日の朝までは自分の眷族に見えたミーナが、自分の母親に見えてきた。
両親の記憶が鎧の巨人がウォール・マリアの扉を破った際の破片で潰された時しかない。
顔も姿も声も名前も覚えていない以上、リーブス会長から告げられた情報しか分からなかった。
実際、母親が居たらこんな叱責を受けるのかと、他人事だった。
「うーん、これは…」
駐屯兵団第一師団、工兵部、技巧科の技術4班の速達の書類が届いていた。
内容は暗号化していたが、『ブリッツシリーズ』の故障についての話だと分かった。
相変わらず兵団上層部からの命令はなく、104期調査兵は独自の訓練をしている。
そのおかげで、フローラは自由行動ができていた。
「また暗号文…!」
「ミーナ!だから横から見るのやめてくれないかしら!」
「これのせいでフローラは…私から離れていくのね…!」
ミーナは、フローラが覗いていた書類を見て確信した!
これが親友を惑わして自分の元から去る元凶だと!
「何か勘違いしてない?」
「別に…!」
腕を組んでそっぽを向く親友の姿を見て口で説明しても納得できないとフローラは分かった。
だからといって、グリグリさんの事を放置する事はできず、彼の元に向かうつもりだった。
「どこに行くの?」
「専用装備を開発してくれる親切なおじさん達のところに行くのよ」
「私も行く」
「駄目よ」
「また私を置いていくの…?」
目が虚ろになって光が失われていく親友を見たフローラ。
ここで無視すれば、取返しが付かないと分かり彼女の顔を見て溜息を吐いた。
「分かったわ…他人に口外しないと約束すれば、連れて行ってあげるわ」
「うん、約束する!」
態度を一変して興味津々になった親友の姿を見て嬉しい反面、学習されてしまい困惑した。
意見を通すのに「私を置いていくの?」を連発してくると実感し、対策を早急に練る必要がある。
こうして、馬を並走させてウォール・ローゼの扉まで辿り着いたがそこで問題が発生した!
「お前は通す事ができん!」
「なんで!?」
フローラは、駐屯兵団の見張りから顔パスで通してくれたが、ミーナは無理だった。
何度もトロスト区とカラネス区を出入りしているフローラはともかく、他はそうもいかなかった。
狼狽えたミーナが涙目で親友を見る。
「ここを通行するにはサインだけで充分だったのでは?」
「事情が変わった!許可証か命令書が無ければここを通すわけにはいかない」
「そんなのおかしいよ!じゃあ何でフローラは顔パスで通れるの!?」
「だって、フローラだし…なあ?」
「ああ、フローラだから仕方がない」
見張りの兵士は交互に見合って同じ意見だと確認した。
毎日のようにウォール・ローゼ内の領土に飛び出していくフローラ。
それはこの門の名物であり、来ない日を巡って賭けを成立させるほどである。
ついでに、ここの守備隊と仲が良いおかげで、手続きが簡略されていた。
コミュニケーションの化け物はともかく、一般兵のミーナはこれ以上進む事はできなかった。
「お願い通して!!」
「だからお前は駄目だ!門前払いされた以上、正式な許可を上官からもらって来い!」
「色気や賄賂は俺達には通用しないからな!!しっかり頭を下げて来い!」
腐敗した憲兵団の兵士を文字通りこの世から一掃した者達だ、面構えが違う!
さすがに兵士から制止されれば、ミーナは諦めるしかなかった。
「この子の装備調達をしたくて、トロスト区に向かいたいですの」
「オイオイ、勘弁してくれ。これ以上、例外を作ったら俺達の首が危ないぞ…」
フローラの頼みでも兵士達は、ここを通すつもりは無かった。
そんな事を予想済みの彼女は、ある書簡を彼らに渡した。
「これは?」
「第58回壁外調査を知らせる書簡ですわ!」
「…ホント、お前は痛い所を突くよな!」
「こうなる事を対策しないわけないでしょう?」
フローラが渡したのは、【第58回壁外調査】が6日後にある事を知らせる書簡である。
壁外調査が数日に迫ってきている時、調査兵は基本的に長期休暇を取らされる。
それは、他の兵団の兵士にも徹底しており、調査兵の行動を最優先にさせる権限がある。
つまり、壁外調査があるのだから、調査兵を通せよ…とフローラは遠回しに脅していた。
「分かったよ!お前も通って良いぞ!」
「ただし、これ以上、問題を起こすなよ!」
兵団一の問題児であるフローラに釘を刺して牽制した兵士達は、彼女達を見送った。
「ねえ…第58回壁外調査って何?」
一方、ミーナは壁外調査がすぐにある事に驚愕していた。
また、あの地獄の中に投入されると知って震えて手綱がうまく持てなかった。
「大丈夫よ、調査兵団の精鋭しか招集されてないからミーナには関係ない話よ!」
「でもフローラは招集されたんでしょ?」
「そうね」
もはや、調査兵団の古株よりも巨人と交戦してきたフローラ。
第58回壁外調査という名の巨人掃討作戦に駆り出されるのは必然であった。
身体能力自体は、コニー・スプリンガー未満の彼女であるが、誰も納得してくれなかった。
「フローラ…」
「何で悲しむのよ?巨人を駆逐してウォール・マリアを奪還する!そう誓ったじゃないの」
「そうだけど…」
一か月前にトロスト区正門で壁上固定砲を整備していた彼女達。
固定砲整備4班の7名による【肉の誓い】は半ば呪いとなって生者を蝕んでいた。
志半ばで戦死したトーマス・ワグナーが幸せだったと実感できるほどの残酷な世界。
巨人が駆逐されるか戦死するまで戦い続けるしかない兵士になった以上、いつか終わりがある。
「フローラ、私はずっと貴女の傍に居たい…離れたくない!」
「だから、生き残るために装備を更新するのよ」
次々と現れる初見殺しの変異種!
爪を伸ばしてくる巨人が出現した以上、穴を掘る巨人や空飛ぶ巨人が出現してもおかしくない。
今までの常識に囚われていては、必ず対応しきれなくなる。
フローラ自身が、自分の身体能力がこれ以上伸びないと実感している以上!
技術4班の開発してくれる最新の装備だけが頼りであった。
「ミーナの装備も作ってもらうわ」
「えっ?」
「なんで困惑してるのよ!わたくしと生き延びたかったら装備を更新しないと駄目よ!」
トーマスの死を引き摺っているフローラは、エレンに次いでミーナが心配であった。
華奢の肉体の親友に装備している立体機動装置が合っていなのは明白である。
せめて彼女の狙撃能力が生きる装備品にしたい。
例えば、狩猟銃の弾丸をストックできる鞘にするなど…。
「フローラ…いろんな事をしてるのね…」
「生き残る為なら何でもやるわ!全ては鎧の巨人を討伐する…その日の為にね!」
フローラは手綱を強く握り締めて、鎧の巨人を思い浮かべて決意を再確認した。
必ず鎧の巨人を討伐してみせると!
そして自分もミーナもエレンも、全員が笑顔になる世界を見届けてやると!
「見えてきたわ!あそこがトロスト区を繋ぐ門よ!」
雑談している内に門が見えてきた。
そこを通り抜ければ、技術4班が居る建物まで徒歩で辿り着ける!
「はい!退いて退いて!壁外調査に向かう調査兵のお通りよ!」
フローラは権力を象徴させる銀時計や印籠を振りかざすように壁外調査の書簡を掲げて通過した!
平伏まではしなかったが、ミーナの通過について止めるどころか咎める事すらできなかった。
壁外調査に向かう調査兵という権限をフル活用したし、その勢いで技術4班に逢いに行った!
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「よお嬢ちゃん!今度は可愛い子ちゃんを連れてきたのか!」
グリズリー班長は、ミーナを見て白い歯を見せつける様に笑った。
ミーナからすれば、野蛮でぶっきらぼうな大男を見て親友の後ろに隠れるしかできなかった。
「男臭い、秘密の研究所にようこそ!」
「男臭いのは大体、班長のせいですけどね!」
「何か言ったか?」
「男臭いのは班長のせいですよ…」
「よーし、あとで潰す!」
軽口を叩き合う技術4班を尻目に自分の専用装備を見ていた。
「嬢ちゃん!どこから説明すればいい?」
「まず左アンカーが破損した件について訊いておきたいですわ」
「説明するが…メモの準備はできたか?」
「もちろんですわ!」
グリズリー班長の説明を一言一句聞き逃さない様にフローラは真剣に聴いた。
ブリッツハーケンという立体機動装置は、アンカーをしっかりと強化してあった。
ただし、訓練兵が使う一式装置のアンカーを基準に強化をしていた。
巻き取る速度や、衝突する衝撃などは考慮していなかった為、変形したという…。
一式装置のアンカー強度が100とするならば
ブリッツハーケンのアンカー強度は、185と…約1.8倍に強化されている
それはあくまで理論上であり、実戦では様々な条件が加わっているので実質1.3倍程度だった
「ついでに嬢ちゃんの固定ベルトが切れたのも、立体機動に耐え切れなかったようだ」
「本当に頑丈ですね!」
「それは誉め言葉ですか?」
「…多分」
「せめて即答してくれませんか…」
全員が半ば呆れられながらも、固定ベルトについても説明してもらった。
固定ベルトは、その兵士専用の装備であり、身長が伸びる度に微調整する必要がある。
ただし、装備品を変えても固定ベルトは変えない為、疲労に耐え切れず破断したという話だった。
「固定ベルトに関して研究は進んでいないのが現状だ!」
「兵士ごとに調整されている上に、そもそも切れる前に引退しちゃうからな」
固定ベルトが切れるまでに兵士が戦死するか退役するか。
それくらい例がないという話なのだから前例などほとんど無いようだ。
固定ベルトを交換するのは、リヴァイ兵士長かミケ分隊長クラスだろう。
改めて残酷な世界である。
とにかく新型にするより交換した方が安上がりなのは間違いないのはフローラも理解できた。
「そこで改良したのがブリッツⅡシリーズだ!!」
ブリッツメッサーⅡという刃
ブリッツシャイダーⅡという鞘
ブリッツハーケンⅡという立体機動装置
「なにこれ…」
ミーナ・カロライナは、一切話についてこれず親友の三つ編みのおさげで遊ぶしかできなかった。
「以前、言ってた専用装備の改良版よ!」
「でも壊れた装備とそんなに変わらないじゃない…」
「君の言う通り外観上には変化はない!だが性能は保証するぞ!」
「御託は良いから説明してくれませんか」
「せっかちだね…」
「戦わなければ生き残れない世界なのでー」
既に新型装備だからといって全てを信頼する事はしないフローラは説明を急がせた。
実戦で使用する以上、性能と変更点を把握したいからだ!
「一番の変更点は、ブリッツハーケンⅡだ!」
「ワイヤーを巻き取る速度は、一般兵が使う機動装置の2倍だ!」
「更にアンカー強度に至っては、2.3倍だ!」
「つまり更にアンカーが壊れやすいのね…」
フローラは、カタログスペックを聴いて辛辣な発言をした。
一般兵が使う立体機動装置の『ワイヤーの巻き取り速度』と『アンカー強度』を100とすると…。
ブリッツハーケンは、巻き取り速度1.4倍、アンカー強度は1.8倍
ブリッツハーケンⅡは、巻き取り速度2.0倍、アンカー強度は2.3倍
並べただけでも、明らかにアンカー強度が釣り合っていないのが分かる。
ブリッツハーケンのアンカー強度が実質1.3倍だと判明して数値化すると…。
1.3/1.8でカタログと比較して、約0.72倍のスペックだと実戦で発覚したことになる。
そこで、2.3に実質の0.72倍を掛ければ、1.65…。
つまり、アンカー強度は大して変わっていないのが分かる。
新型の巻き取り速度が増加しているので、更に脆くなっているのは間違いないだろう。
「中々、アンカーの強度を強化するのはきついんだぞ」
「巻き取り速度は、もう少し落とすべきだったのでは?」
「実際にできたのがそれだからしょうがない」
射出装置にアンカーを収める以上、設計し直しても劇的に改善するのは不可能であった。
せいぜい、破損したアンカーを解析して、不足していた強度を補う程度しかできない。
コストを度外視し、高級な素材をふんだんに使用した以上、このスペックで行くしかなかった。
所詮、試作品ということもある。
「鞘については、どうなりましたか?」
「内蔵されたボンベを試製高圧ボンベに変えてある」
「つまりガスの容量が増えたのですか?」
「それもあるが、高圧のガスを装填できる…つまりガス噴出も良くなったぞ」
グリズリー班長の話を聴いてフローラは、半信半疑であった。
確かにガスの容量が増加すればその分、長期に渡って活動できる。
逆に言えば、ガスの重量で身動きが取れなくなるという意味である。
これもカタログスペックの詐称であり、実戦では本当に出力が出るのか疑問であった。
基本的にこういうスペックは、安全な環境で身に付けもせずにテストするからだ。
「なんだか浮かない顔をしてるな?」
「ガスの重量が気になってまして…」
「そこは、安心してくれ!更に軽量化してフル容量でも以前と変わらない重量になってるぞ!」
「つまり、鞘の強度も怪しいということですわね…」
「嬢ちゃん…なんか悲観的になってないか?」
グリズリー班長は、フローラが悲観主義者になっているのに気になっていた。
確かに新型装備が壊れたからといって、ここまで否定しなくていいと思っている。
「いつも悲劇は唐突に、そして畳みかけてくるので…最悪の想定をしておきたいのですわ」
左アンカーが破損して、すぐに固定ベルトが破断した彼女は、既に装備を過信していない。
新型装備のテスト要員になった以上、不測の事態への対処できるようにあらゆる想定をした。
辛辣の言葉もスペックや努力だけを熱く語る技術4班に対する警鐘を鳴らす為だった。
「だって、死んでしまったらそこで終わりですもの…」
立体機動の訓練を繰り返してアンカーが射出できないほどトリガーを摩耗した時もある。
メンテナンス作業ミスで操作装置を故障させたジャンの例もある。
信頼していた装備品が破損するリスクは低いが、それでも発生する。
そこで生き延びられるのかは、兵士の素質と経験と知識で左右されるものである。
「ああ、分かってるさ!だから日々、切磋琢磨して技術を磨いているんだぞ」
フローラの両肩に手を乗せてグリズリー班長は、安心させるように述べた。
技術班の班長として取捨選択を目指しているがそれでも現実という壁がある。
そもそも立体機動装置の存在自体が無理があり、苦労している。
巨人を討伐するだけなら、もっと効率が良い方法がある!
「大体、王政が新技術を抑圧するのが原因なんだ!!」
「「「「そうだ!そうだ!!」」」」
「我々だって、巨人の頭を吹っ飛ばす銃とか、野砲を作りてぇよお!!」
「「「「そうだ!そうだ!!」」」」
普通に考えて、大砲を強化したり飛び道具を強化するのが普通である。
なのに、巨人を殲滅する気が無い王政府のせいでこんな歪な進化を遂げた装備品。
「そして、いざ自分達が危なくなったら死んでも守れという…ふざけた奴らだ!」
そんな王政もいざ、巨人が壁内に侵入すると発覚すると狼狽して大混乱した。
その結果、第58回壁外調査という、巨人掃討作戦をしなければならなくなった。
もちろん、散々虐めて来たせいで非効率な白兵戦で兵士が巨人と交戦しなければならない!
「あの…グリグリさん?ブリッツメッサーⅡの説明をしてくれませんか?」
「あー、済まん済まん、つい熱くなってしまった」
ミーナはともかく、フローラも置いてきぼりになったので話を元に戻した。
「軽量化と刃の先端を工夫したくらいかな」
「消耗品ですものね…そこまで力を入れる必要はないですわ」
「それでも嬢ちゃんの報告から、良いデータが取れたぞ」
それを聴いてフローラは自分の戦闘データが活かされてるのを実感し、微笑んだ。
「以前、嬢ちゃんが持ち帰ってきた巨人の結晶体があっただろう?」
「えぇ、6m級の変異種が伸ばしてきた爪の一部でしたけど…」
50mの壁を登ってきた6m級の変異種。
その巨人は、鋭い爪を伸ばしてきたせいで、遥かに恐ろしく危険度が高い巨人であった。
なんとか討伐して、巨体は消滅したものの、何故か爪だけ残った。
フローラは、カラネス区の混乱に紛れてこっそり爪の一部を回収して技術班に提供した。
「実は、あの爪の成分分析をしていてな…もうすぐ結果が分かるはずだ」
「つまり爪と同じ物質を生成するのですか?」
「さすがに無理だな…ただ、変異種の硬質化した皮膚を破れるヒントになるはずだ」
変異種が厄介なのは、皮膚を硬質化してうなじを初手で狙わせない事である。
白色の器官を損傷しない限り、スナップブレードもメッサーシリーズも通用しない。
そのせいで、平原で出現した時の絶望感は異常である。
「あの硬質化した皮膚を破れる刃なら…もっと犠牲者を減らせますわね」
「ああ、カラネス区の守備隊員も、うなじを狙っていたそうだからな」
「もし、貫通する刃が完成できれば彼らの犠牲も無駄にはならないだろう」
カラネス区の壁上や正門の守備兵は、隊長と副官の2名を残して全滅した。
だが彼らが時間を稼いでくれたおかげで第一分隊と第四分隊が現場に到着できた。
結果、巨人を全て掃討し、新たな技術発展のきっかけをもたらした。
彼らに犠牲に報いるなら、硬質化した皮膚を貫通できる刃の完成しかない。
「ねえ、フローラ!一体何の話をしているの?」
ミーナ・カロライナは、さきほどから置いてきぼりであり、理解できなかった。
そもそも硬質化や変異種といった単語すら分からなかった。
なのに親友と技術班のメンバーが楽しそうに会話していて疎外感を味わっていた。
「要約すると、装備品の改良型ができたことと、新型の刃が開発されているそうよ!」
「なるほど、つまり装備品が良くなってるって事ね!」
自分も専門的な知識をもっていないので、フローラは簡潔に一言で終わらせた。
ミーナの反応からとりあえず理解してくれたのでそれ以上、言及しなかった。
「ところで嬢ちゃんの親友の装備の事なんだが…難しいな」
「やはりそうですか…」
「とりあえず狩猟銃の型は取ったから、鞘に装着できるように設計してみせるが…」
「弾薬のストックは難しそうですか?」
「そうだ、反乱に使われると王政に目を付けられるからな…」
王政のせいで、立体機動で巨人のうなじを刃で削ぐしか巨人戦闘技能が発展しなかった。
どちらかというと、壁内に閉じこもって人類を存続していく事に舵を取っている現政府。
空を飛ぶ気球など、便利になりそうな技術は全て握り潰されていった。
「ですって…」
「うん、分かってたよ…私じゃ役に立たないって」
親友が落ち込んでしまい、どうしようかと悩むフローラ。
技術4班もなんとかしてあげたい気持ちで一杯だった。
「とりあえず、予備のブリッツシリーズ一式をもっていくと良い」
「え?フローラと同じ装備なの?」
「さっき紹介していたのは、その装備の改良型だ」
「渡すのは、アンカーの強度を補強した旧品だが、軽い分、華奢な身体でも操作しやすいぞ」
新型のブリッツⅡシリーズとブリッツシリーズの外観は大して変わっていない。
まるでお揃いの装備品であり、ミーナ目線で見れば親友と同じ装備にしか見えなかった
「持って行って良いの?」
「ああいいぞ!」
「フローラ!やったよ!ついに私専用の装備が手に入った!」
ミーナは嬉しそうに装備を装着していた。
小型の装備品なので、身長143cmの彼女でも似合っている。
「さっそく訓練所で動作テストしてみましょう」
「うん!」
こうしてミーナとフローラは、技術4班を伴って訓練所に向かった。
「いいぞ!その調子だ!」
グリズリー班長の応援に答える様にミーナは立体機動を行なった。
最初は操作に手古摺ったミーナは、何度も練習しているうちに慣れていった。
訓練兵時代に使用していた装備品より軽いおかげで、気持ちがいいくらいに動きが鋭かった。
フローラは、訓練兵時代を思い出して目尻から涙が零れた。
応援していた技術4班もフローラとは違ったデータを測定できて満足である。
あっという間に日が暮れて、技術班と別れた時には21時であった。
「フローラ、今日はありがとう…」
「今日も…になるように努力するわ」
カラネス区に着く頃には翌日になるだろう。
それでも有意義な時間を過ごせて2人は満足であった。
末永くこの時間が続くのを願っていたが、そうもいかないのがこの世界。
「フローラ、明日も一緒に練習していい?」
「別に構わないわ」
「ありがとう」
暗闇の平原で馬を並走させて走らせる2人。
馬のライリーは正直満足していなかったが、今回は見逃した。
上機嫌のフローラは、ライリーの好物の野菜をたくさん食べさせたのもある。
「ずっと一緒に居ようね!」
「もちろんよ!」
何か良い雰囲気を感じてしまい、ちょっかいを出しづらいのもあった。
とりあえず自身を無視しないようなので、ライリーは指示に従って走らせた。
この時、ライリーは、ミーナを無意識に乗馬を認めており、後に大きな意味を持つ事となる。
2人どころか、当の本人ですら気付かなかったが…。
これが、フローラとミーナの命運を分ける事になった。